消された伝統の復権

京都大学 名誉教授 本山美彦のブログ

野崎日記(138) 新しい金融秩序への期待(138) 大きな国家(7)

2009-04-20 07:09:23 | 野崎日記(新しい金融秩序への期待)

  おわりに

 世界が戦後最大の不況に苦しんでいる。金融危機が世界経済の危機に拡大している。米サプライ管理協会(the Institute for Supply Management=ISM)が二〇〇八年一〇月一日に発表した九月の製造業景況調査では、製造業の活動が二〇〇一年以来の低水準に落ち込んだことが示された。

 FRBが発表した〇八年一〇月一日までの一週間におけるCP市場の残高は、前週比九四九億ドル減少し一兆六〇七〇億ドルとなった。二〇〇一年にFRBが統計を開始して以降では、最大の落ち込みだった。

 一方、上院を通過した修正金融安定化法案(Emergency Economic Stabilization Act of 2008)は、〇八年一〇月三日に下院で再採決された。しかし、この救済策を講じても、米政府が金融機関から不良資産を買い取るまでには時間がかかる。すでに、七〇〇〇億ドルの不良資産処理計画が、特効薬にはならないことがはっきりしてきたのである。恐慌がくるのが先か、システム改革が間に合うのか。間に合わないだろう思われる(http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/media/djCKK4824.htmlを参照した)。

 

(1) ハミルトン(1755~1804)は、一七八七年のフィラデルフィア憲法起草会議の発案者で、米国憲法の起草者(同年九月)。米国初代財務長官(1789~1795)、バンク・オブ・ニューヨーク(Bank of New York)の創業者。米一〇ドル紙幣の肖像画。一八〇四年、決闘により、四九歳で死去。米国建国の父たちが入植者で成功した名門の出自であったのに対して、ハミルトンは誇るべき家柄の出自でなかった。このハンディもあって、彼は政治家としては、恵まれた環境にはなかった(Wikipediaより)。

 このハミルトンの名を冠したプロジェクトが、二〇〇九年一月二〇日に発足した米オバマ(Barack Obama)政権の基本形を提供している。

 ワシントンのブルッキングス研究所(the Brookings Institution)が、二〇〇六年四月にブッシュ政権の経済政策に挑戦する「ハミルトン・プロジェクト」(Hamilton Project)を発表した。このプロジェクトは、ハーバード大学(Harvard University)やプリンストン大学(Princeton University)を主席で卒業した実務者を始め産官学の約三〇人のメンバーからなり、実践向きに政策を設計するものである。発足式には、当時ブルッキングス研究所に在籍し、オバマ新政権の行政管理予算局(OMB=Office of Management and Budget)長官 (Director)に就任することになったピーター・オーザック(Peter Orszag)の司会により、ロバート・ルービン(Robert Rubin)元財務長官(United States Secretary of the Treasury)とオバマが基調講演をおこなった。この時点で、米国の民主党系エリートたちは、次期大統領にオバマを担ぎ出していたのである。

 ブッシュ政権の経済戦略と違う、中間層や弱者への教育や勤労の機会の増大を通じた米国の経済成長戦略が訴えられた。同時に、無益な世界への干渉をできるかぎり排除し、国内に投資することにより米国を活性化させる政策が主張された。ハミルトンの名を冠したのは、伝統的な米国の価値観を代弁する人物になぞらえたからであろう。

 プロジェクトは、三つの柱からなる。①大多数の国民が経済成長の恩恵を受けることができる経済政策の遂行。一九四七~七三年の中間層の年間平均の所得上昇は、二・八%であったのに、七三年以降、生産成長率が二・七%あったにもかかわらず中間層の年間平均所得の上昇は一%であった。高額所得層に不均衡に分配されるシステムを是正することが必要。②経済保障と経済成長の両立。経済成長は経済保障を増大させると同時に、経済保障は、経済成長を実現させために必要である。教育、健康保険、トレーニング等への適度な財政支援。③効率的な政府。市場経済は経済成長の礎であるが、民間セクターの投資が拡充されない分野への政府の効率的な投資をおこなう。

 以上の三つの基軸に加えて、さらに、四つの具体的な基軸を打ち出していた。①教育分野への投資と仕事の機会の提供。米国経済の成長は、人的資源に依存している。米政府の試算によると、米国の民間の建物等の資産は一三兆ドルであるが、人的資源は四八兆ドルとなる。幅広い層へ教育の機会が提供されることにより競争力のある分野への潜在的な労働力を生み出す。②イノベーションとインフラ整備。科学技術の発展を目指すインフラ整備は、経済発展の機軸である。スイスの研究機関(IMD International)の発表によると、世界のトップ五〇の科学技術研究機関のうち、三八が米国の研究機関が占めている。しかし、米国の科学技術の影響力が低下傾向にある。四年以内に、中国人のエンジニアの博士の人数が米国を追い抜くと予測されている。科学技術の分野への本格的な投資・社会資本整備が必要である。③貯蓄と社会保険。米国の貯蓄率は急激に低下している。その一因は、健康保険のコストが影響している。④効率的な政府。民間経済と効率的な政府の相互補完的な統合的な協調が経済成長を維持させる。米国はグローバル経済の指導者として様々な挑戦を受けている。次世代に向けた幅広い層が経済成長の恩恵を享受できる先行投資が期待されている(中野有、http://www.yorozubp.com/0604/060423.htm)。

(2) 一九三一年、オーストラリア(Commonwealth of Australia)のメルボルン(メルバン、Melbourne)に生まれる。一九六四年オーストラリア初の全国紙『ジ・オ-ストラリア』(the Austrarian)創刊。六九年ロンドンの『ザ・サン』(the Sun)買収。一九七五年、それまでの労働党(the Australian Labor Party)支持から自由党(the Liberal Party of Australia)、英国の保守党(the Conservative Party)支持に転向。七六年、『ニューヨーク・ポスト』(the New York Post)、八一年、英国の『ザ・タイムズ』(the Times)、八四年二〇世紀フォックス(20th Century Fox)、八五年、メトロメディア(Metromedia)買収。八五年九月四日米国に帰化。八六年フォックス(FOX)設立。九六年日本でJスカイB設立。九八年、スカイパーフェクト(Sky Perfect)TV設立。二〇〇七年、『ウォール・ストリート・ジャーナル』(the Wall Street Jornal)買収。その他の主要傘下企業は以下の通り。ハーパー・コリンズ(Harper Collins)(出版)、BスカイB(B sky B、英国衛星放送)、フォックステル(Foxtel、オーストラリア衛星放送)、スカイ・イタリア(Sky Italia、イタリア衛星放送)、スター(Satellite Television for Asia Region、アジア全域衛星放送)、タータ・スカイ(Tata Sky、インド衛星放送)(Wikipediaより)。