消された伝統の復権

京都大学 名誉教授 本山美彦のブログ

野崎日記(134) 新しい金融秩序への期待(134) 大きな国家(3)

2009-04-16 07:08:22 | 野崎日記(新しい金融秩序への期待)


  二 萎んだサムライ債ブーム


 日米欧の中央銀行は、金融不安を和らげるために大量資金供給を実施したが、市場では、ドル資金の出し(供給)が極端に細った状態が続いた。ロイター・ニュースによれば(二〇〇八年九月一六日)、「ドルの短期市場は機能不全に陥っている。長期市場では社債発行もまともにできない状態だ」とバークレイズ銀行(Barclays Bank)の梅本徹が述べたという。

 ドルの短期市場では、期間三か月を超える資金の調達が不可能になっていた。優良行でも一か月物の資金は一度に五億ドル程度しか調達できない。ドルの流動性枯渇は、ドルが既に基軸通貨としての体をなしていない証拠である。

 ニューヨーク連銀によると、銀行間で短期資金を融通するフェデラルファンド(FF)市場では、リーマン破綻を受けた九月一五日の取引で、FFレート(Federal Funds rate)(15)が七%まで急騰し、FRBの誘導目標の三倍を超える水準に達した。

 全米の地区連銀による金融機関向けの窓口貸出(公定歩合を基準とする貸付)は、二〇〇八年九月一〇日時点で過去最高の二三六億ドルに達した。金融機関の間では、同貸し出しに頼ることが、財務の弱さの表れと見なされるから、二〇〇八年の初めには窓口借入を控える傾向があったが、九月になると、背に腹は変えられない状況になってきた。

 一部の欧米投資銀行は、短期資金に頼る部分を減らし、安定的な長期資金調達を増やす動きを見せた。それは、日本でのサムライ債(16)発行増となって現れた。サムライ債は一時、発行ラッシュとなった。

 二〇〇八年九月までに発行されたサムライ債の金額は二兆五〇〇〇億円で、過去最高だった二〇〇〇年の二兆八五六七億円に迫る。

 サムライ債の発行体である欧米金融機関は、ベーシス・スワップ(17)を使って円資金をドルに転換するが、二〇〇八年七月半ばからドルの資金調達コストが急拡大したため、一時的にサムライ債の発行が抑制された。これは、邦銀のドル需要の高まりのせいであった。欧米金融機関のサムライ債を通じたドル資金調達の拡大に加えて、海外業務拡大に伴い、ドル資金調達ニーズが高まった邦銀がドル需要を高めたのである。邦銀は、欧米銀が融資に慎重になるなか、外国企業向けの協調融資を大幅に伸ばしていた。日銀によると、邦銀海外支店の貸出残高は二〇〇八年七月末に三五兆七二二七億円となった。二〇〇七年七月末の二六兆三六四二億円から急拡大した(ロイター日本語ニュースhttp://business.nikkeibp.co.jp/article/reuters/20080917/170801/?ST=print)。

 しかし、リーマンの破綻によって、日本の金融機関も大きい損失を出した。サムライ債市場そのものが機能を停止した(Hall[2008])。大手邦銀は、リーマンに対する融資で推計二七億ドル(約二九〇〇億円)の債権を持っていたが、リーマンの破綻によって、その一部しか回収の見込みはなかった。大手以外の日本の金融機関もリーマンが発行した一九五〇億円のサムライ債の大部分を保有していた。中堅地方銀行、生命保険会社、年金基金がそれであった。

 リーマンのサムライ債は、アルゼンチン政府がサムライ債の償還不能に陥った二〇〇一年一二月以来、初めてのデフォルト(債務不履行)となった。投資家たちは、ほかの米証券会社が発行したサムライ債を売却して現金化し、これ以上の損失拡大の阻止に努めるようになった。全国一六四の信用組合を傘下に持つ、全国信用協同組合連合会(全信組連)は、リーマンのサムライ債に五五〇〇万ドル(約五八億円)を投資していた(BusinessWeek, September 19)。