消された伝統の復権

京都大学 名誉教授 本山美彦のブログ

まる見えの手 10 政治力を梃子とした米大手保険会社(3)

2006-10-06 00:26:43 | 時事
  AIGの礎を築いた創業者は、コーネリアス・バンダー・スターである。カリフォルニア出身のスターが、1919年、東京経由で上海に降り立ったときにもっていたのは、ポケットの中の330円だけであったという。当時、東洋のパリと呼ばれ繁栄を極めたこの上海で、27才のスターは小さな損害保険の代理店を開いた。「アメリカ・アジア保険」(AAU)である。

 まもなくスターは生命保険事業にも着手。当時上海に進出していた西欧の保険会社がだれも手をつけなかった、現地の中国人向けに生命保険を売るビジネスとして、「アジア生命保険」(ALI)を設立した。

 その後、東南アジア各地だけでなく、母国米国やラテンアメリカ諸国にもネットワークを広げ、1967年、グループ全体の持株会社の「AIG」を設立、社長にはグリーンバーグが就任した。

 グリーンバーグはもともと、米国内の他の損害保険会社で、33才の若さで副社長を務めていた。1960年スターに誘われてAIGへ入社、当時、AIG傘下に入って間もない「アメリカン・ホーム保険会社」(AHA)の経営危機を立て直し、その後のグループの経営方針の基礎を築き上げた。

 1984年にAIGの株式をニューヨーク証券取引所に上場し、本業以外にも航空機リースやデリバティブ、さらに年金や資産運用といった新事業に進出した。2000年代に入ると、米国では個人向け資産形成分野の大手「サンアメリカ」および生命保険大手の「アメリカン・ゼネラル」を傘下に加え、とくに生命保険と退職後サービスの分野で規模を拡大した。

 そして2005年3月、AIGの3代目のCEOに、マーティン・J・サリバンが就任した。サリバンは1971年の入社以来生粋のAIG育ちである。 現在、AIGは、日本で損害保険の分野において、「AIU保険会社」を筆頭に、損害保険通販の「アメリカンホーム・ダイレクト」、JTBとの合弁会社「ジェイアイ傷害火災保険株式会社」の3つをもっている。生命保険では、「アリコジャパン」と「AIGスター生命保険株式会社」(旧千代田生命)、「AIGエジソン生命保険株式会社」(旧東邦生命)と、生保・損保それぞれ3つずつある。さらに、日本法人の「AIG株式会社」があり、日本におけるグループ各社のビジネスを統括している。 上海で産声をあげた創業者、スターのビジネスが日本に上陸したのは1946年。この年、「連合軍総司令部」(GHQ)の要請を受けて日本駐留米軍の資産の保険を開始したのが、スターの損害保険会社の1つ「AIU保険会社」である。AIUは、1950年には日本人向けの営業も開始した。現在では、外資系の損害保険会社としては日本最大であるとともに、米国を本拠とするAIU全体にとっても、日本は米国外単一市場としては最大の市場となっている。

 日本のAIUでまずヒットしたのが、示談代行付の自動車保険であった。1960年代の自動車ブームの中で、保険料が高かったにも関わらず、高所得者層を中心に非常に多くの契約を獲得した。「示談代行」は、他には無いサービスだったからである。

 そして、直後に、海外旅行保険に進出し、成功させた。1971年には、大同生命と共同で、経営者保険という商品も作った。生命保険で病気をカバー、AIUで怪我をカバーするという、生保・損保タイアップ商品を日本で初めて作ったのである。

 そして、「アメリカンホーム保険会社」が、1960年に日本で損害保険の事業免許を取得した。1982年には日本初の傷害保険の通信販売の認可を得て、日本の損害保険市場にダイレクトマーケティングという手法を最初に導入した。現在では、「アメリカンホーム・ダイレクト」という社名になっている。

 AIGの生命保険事業が日本に上陸したのは1973年である。スターの最初の生命保険事業「アジア生命保険」(ALI)が、1951年に「アメリカン・ライフ・インシュアランス・カンパニー」(ALICO=アリコ)と改名され、まず、カリブ海と中近東、そして、アフリカ諸国に進出し、70年代にはヨーロッパと日本に進出した。現在アリコは、世界50以上の国や地域で活動している。アリコにとっても、日本は最大市場である。

 日本では、新たなメンバーとして2001年4月に「AIGスター生命保険株式会社」が、2003年8月に「AIGエジソン生命保険株式会社」が加わった。 日本のAIGは、2万人の社員を抱えている。さらに1万5000の代理店があるので、すべてを入れると、5万とか6万人になる。

AIGの沿革を年表にしておこう。 規制緩和がAIGの道を掃き清めたことがここからも分かるであろう。

   以上、ざっとみただけでも、米国の「民主化」外交の拡大と軌を一にして地域展開をAIGがしてきたことが分かるであろう。アジア通貨危機、さらにIMFによるアジアへの介入、こうした米国によるアジア社会への介入とアジア地域での保険業務の拡大とはけっして無関係ではないだろう。同社の渉外担当副理事長が、米国の軍事作戦の担当者であるのも、むべなることである。