森男の活動報告綴

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「なかった戦争」の話

2019年03月10日 | 模型の話題
ジャガーバックスの「第三次大戦 戦う自衛隊」を買いました。「ソ連軍が日本に侵攻した場合、自衛隊はどう戦うのか」をシミュレーションした本です。1980年初版。子供向けの本です。いやー、なんというか実にカゲキな本です(笑)。あまりに凄い内容だったのと、私的に思うところのある題材でもありますので、紹介させてもらおうと思います。

それにしても、ハンパナイスな表紙です。上田信氏によるイラストです。先日紹介した「戦車大図鑑」の表紙も上田氏によるもの。この2冊、内容・構成的にもなんかよく似てます。奥付を見ると、構成がどちらも十川俊一郎・田中義夫の両氏でした。なるほど、、、。姉妹編、みたいな感じです。

「戦う自衛隊」は、子供の頃に買ったことも読んだこともありません。その存在は知っていましたが、書店で見た記憶はないですね。でも、9ヶ月で重版になってます(私のは2刷)ので結構売れたのかも。大人になってから「欲しいなあ」と思ってたのですが、当然新刊書店で売ってるわけもなくあきらめていました。古本屋さんでも、こういう児童書ってまあ見かけないですからね。

ネット環境が充実してから、オークションなどでちらほら見かけるようになりましたが、高価だったりして見送り続けていました。しかし、最近「こういうのって、ちょっと高価でも今のうちにさっさと買っておかないと、今後はもっと入手が難しくなるだろうな」という気がしています。というわけで購入作戦に本腰を入れたわけです。

本腰を入れた、といっても要するにそれなりのお金を出せばいいだけの話です(笑)。ある古書店で、比較的手ごろな値段のがあったので買いました。ちょっと躊躇する価格でしたが、思い切りました。その値段とは、、、7000円!高いか安いか、でいうと高い、ですね、、(ああ、、)。でも、他の古書店では2万とか4万(!)とかの値段がついてたので、まあ安い方なんじゃないかあなあ、と。買ってみると、状態もかなりよく、読まれた形跡もないような。デッドストックっぽくて、美品の部類かな、と。かなりのお買い得です(と自分に言い聞かせる)。

目次はこんな感じです。まず当時(1980年ごろ)の主要国の最新兵器を解説し、主要国間で起こりうる戦争(まあ要するにソ連VS西側諸国、なんですが。でも中ソ戦もあります)を簡単にシミュレーション、そしてその中からソ連軍の北海道侵攻に焦点をあてて詳しく紹介する、という感じです。


「戦車大図鑑」では上田氏がメインのイラストレーターだったのですが、この本は小林源文氏です。もうこの見開きからして鼻血ブーです。


で、この本の凄いところは、微に入り細に渡る軍事的な情報を元に、きちんとシミュレーションしている点です。はっきりいって、児童書の守備範囲を逸脱しております。例えばこのページでは「赤軍の上陸地点はどこか」を、赤軍の戦力や上陸用艦船の規模などから想定しようとしています。子供にそんなことを教えて、どうしようというのか、、。

自衛隊のタコツボが、それを構築するのに必要とされる時間に応じて「1日陣地」「3日陣地」などに分類されるなんて、わたしゃ恥ずかしながら知らんかったですよ。しかも、それが源文イラストで解説されてるので、たまらんです。その後もずっと小林氏の初期のタッチのイラストが続くので、源文ファンにとってもたまらん内容となってます。時期的には「壮烈!ドイツ機甲軍団」とほぼ同じなんですが、タッチ的にはちょっと違ってて、ちょっとこなれている(失礼ですいません)ような。最初期の劇画「パンツァーフォー」くらいの印象です。でもまあ、なんであれ、このころの小林氏の絵をたくさん見られて、感無量であります。

閑話休題。で、この本はとにかく「ソ連の脅威」で固められてます。でた!ソ連機の行動範囲!コワイヨー!!

ちなみに、この本ではソ連軍を基本的にずっと「赤軍」と表記しています。この辺は、なんらかの配慮があったのかな?という気がします。とはいえ、ソ連軍であろうが、赤軍であろうが、狸穴方面からクレームが付いてもおかしくないような内容なんですけどね、、、。ほんと、よく出版できたよなあ、と。現在なら、アウトでしょうね。一般書ならともかく、児童書ではありえんでしょう。

さて、この本の特長としては、陸海空の戦闘全てを紹介している点です。起こりうる戦闘全てをフォローして解説しないとダメなのはわかるんですけど、彼我の兵器を全部調べないといけないので大変です。80年代のソ連の兵器の資料がどれだけあったのか、と考えるとほんと凄いと思います。自衛隊に関しても同様です。当時の状況を考えると、調べにくいものも多かったんじゃなかろうか、と。そんなこんなで、80年代の彼我の戦力がどんなだったのか、ということが伺える点でもかなりの資料じゃないかと思います。

潜水艦の戦法とか、初めて知りました。ホーミング魚雷にはパッシブ型とアクティブ型があるんだそうです。なるほど、、、。

とはいえ、AFVモデラーとしてはやっぱり戦車戦が萌えますな。「根釧原野で大戦車戦 赤軍戦車との死闘!」って、たまらんです。


こういうイラストもたまらんですね。って、さっきからたまらんを連発してますが、ほんとたまらんとしかいいようがなかとです。「戦車師団には甲師団と乙師団があって、戦車の定数は乙師団は48両で、甲師団は60両」とあります。なるほど、、、っって、いや、だから、子供にそんなこと教えてどうするの!


当然(というかなんというか、、、)「核攻撃」についての解説もあります。この辺のページは実に生々しいのですが、この当時の戦争を語る場合には外せないところですね。

そういえば「風が吹くとき」を学校の体育館で観たよなあ、、と思い出してしまいました。屋内に戸板を立ててシェルターを作って、爆風を避けて、とか、、。

最後にはゲリラ戦の方法まで!水中の手榴弾とか罠のボーガンとか、ベトナムかよ!という。62式を構えてるのが女の人なんだもんなあ、、、。

というわけで、とても児童書とは思えない内容にびっくらこいたのでした。とはいえ、この本には当時よくあった「ノストラダムス」的な本にありがちな「ただただ恐怖をあおるだけ」みたいな感じは全然ありません。「もし戦争が起これば」という想定を、綿密な調査と的確な資料を元にして積み上げて、具体的に子供たちに伝えよう、というとても真摯な編集姿勢があったことが伺えます。

著者の山下純二氏はカバー裏の著者の言葉で「戦争は、決してかっこいいものではありません(中略)戦争は、決しておこしてはいけないのです」と書かれています。自分なりに解釈しますと「戦争が嫌で避けたいなら、例えばこういう風に、戦争がどう展開されるのかを理解することも必要だ」ということなんだろうな、と。「敵を知り、己を知る」というのはそういうことなんだろうな、と、、、。

おっと、なんかマジメになってしまいました。すいません。というわけで、私のジャガーバックスコレクションもなかなか充実してきました。

あと何冊か入手したい本はありますので、財布の中身と相談しながらおいおい頑張ってみたいと思います。

さて、ソ連邦が崩壊し東西冷戦が終了するまでは「ソ連が日本に侵攻するかも」という意識は当時普通にあったように思います。同時に「第三次世界大戦」というのもリアルな言葉としてありました。まあ、もちろん「ありえない」ことなんですけど、一方で「いつどうなってもおかしくない」という緊張感は確実にあったわけで。平和な日常の中にふと影をさす、ちょっと怖い存在だったような。あの少しザワザワした不安な感じは今でもよく覚えています。今となっては幻のような感じなんですけどね。今はちょっと違うザワザワした感じもありますけど、なんかその質が違うように思います。

で、「戦う自衛隊」を読んで、即座に本棚から引っ張り出して再読したのが小林源文氏の「バトルオーバー北海道」と「第三次世界大戦」。これは傑作ですね。「戦う自衛隊」を読んで思ったのは、この本がまずあって、この2作品につながったのかもなあ、と。勝手な想像なんですけど。この2作はシンクロしてまして、ソ連軍のヨーロッパ侵攻のサブ的な作戦として、北海道侵攻があった、という想定です。要するに太平洋方面の米軍をヨーロッパに向けさせないための日本侵攻、という位置付けです。なるほど。

この2作も、綿密なシミュレーションを元に、時系列で戦闘が描かれてて、実にリアルです。

両作品とも源文節炸裂!という感じでたまらんです(ほんと「たまらん」ばっかですいません)。

斉藤中尉(戦時のドサクサで階級呼称を旧軍に戻しちゃったのです。当時の自衛隊の置かれた感じを考えるとこれもなんかリアル)の活躍ぶりはシビれます。放棄されたガソリンスタンドで、中村士長が89式で自販機を3点射で撃ってジュースを手に入れたら、「民間資産だぞ」と斉藤中尉が注意(シャレ)。で、中村士長が「一度やってみたかったんです」って、たまらん、、、。

この2冊は絶版なのですが、小林源文氏の個人レーベルで新装版を入手することができますので、興味のある方はぜひ。この2冊を合わせて、前編後編にしてます。アマゾンでも取り扱ってますね。

さて、なんで私がこの辺の「なかった戦争」にこだわっているかというと、自分のジオラマ作品のテーマのひとつだからなんですね。「戦う自衛隊」も資料として買ったわけです。

私は「ソ連がもし日本に侵攻していたら」という設定でジオラマを作っていきたいと考えてまして、これまで2つ作りました。

一つ目がこれ。設定は1950年代です。主役はアスカのイージーエイト。

「陸自戦車を作る!」(イカロス出版)に掲載されたものです。

次がこれ。これは80年代を想定。主役はファインモールドの60式自走無反動砲。

ホビージャパンの作例(2017年11月号)です。

たまたま、陸自車両の製作依頼があったので、「待ってました」とこういう風にジオラマにしたわけです。こういうのを送りつけられた方からすると迷惑千万なんでしょうけど(ほんとすいません)、どちらも自分的には非常に手応えのあるものにできたと思ってます。太平洋戦争での日本本土決戦のジオラマもいくつか作っていますが、自分の中では基本的に同じようなものだと考えてます。

単に「日本を戦場にしたものを作りたい」「日本を破壊したい」と思ってるわけじゃないですよ(笑)。何十年も「戦争というのはなんなんだろうか」ということをいろいろ考えてたら、日本のいちミリタリーモデラーとして「こういうものも作らんとあかんのじゃないか」「こういうものを作ったからこそ、いろいろ見えてくるものもあるんじゃなかろうか」と思うようになった、ということなんですね。なんかうまく説明できないのですが。

なので、今後もこういう感じのジオラマはどんどん作っていきたいと考えてます。「戦う自衛隊」はとてもいい資料となってくれそうです。ほんと買ってよかったです。とはいえ、今はちょっとあれこれあって、次はいつ着手できるかなあ、というのが正直なところなんですが。登場車両とかレイアウトまで考えてるのはあるんですけどね、、。

というわけでまた。

※今回紹介した各書籍とも、内容を紹介する写真については極力画質を落として掲載しています。しかし、権利者の方々がご覧になった場合、これらの写真が書評の枠を逸脱しており、問題があるということでしたら、即刻削除します。その際はご一報いただければ幸いです。




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