森男の活動報告綴

身辺雑記です。ご意見ご感想はmorinomorio1945(アットマーク)gmail.comまで。

ブラート襲撃車について(その2)

2022年02月27日 | 模型の話題
というわけでブラート襲撃車の話の続きです。

前回までのあらすじ
蘭印軍が使用していた装甲車に魅せられた森男は、その絵を描こうとする。んが、その車両の名前「Braat overvalwagen」の意味がよく分からない。幸い、オランダ在住の後輩W氏がいたので、その辺を問い合わせることに。すると、あれこれ興味深い内容があることがわかってきた、、。詳しくは前回のエントリーをご覧下さい。

というわけで続きです。まず「overvalwagen(オーバーファルワーヘン)」の意味からでしたね。W氏によりますと、overvalはやはり英語ではraidやattackの意味だそう。wagenはご存知の通りcar、ですね。要するに、アサルトカーでいいわけです。翻訳としてはブラート突撃車、攻撃車が妥当なところでしょう。

ところが独語や蘭語は単語をつなげると独立した単語になることがあるようで「overval wagen」と「overvalwagen」ではまた違う意味になるとのこと。「?」ですが、でもわからないでもない。どの言語にもあることかもです。

日本語では「新幹線」が分かりやすいかも。「新」と「幹線」は別の単語です。それぞれ「新人」「幹線道路」などといった別の単語と組み合わすことでいろいろな意味を持ちます。しかしこの2つを組み合わせた「新幹線」という単語は、あの列車しか連想しないし、事実上固有名詞です。そういうこと、、じゃないかな、と(すいません今思いついて適当に書きました)。

で、W氏が「overvalwagen」で調べると、3つの意味が出てきたそうです。在蘭歴の長い同氏ですが、この単語を調べるのは初めてだったとか。W氏はミリタリーマニアでもなんでもないカタギですからね。まあ、そうでしょうね、、。

その意味は以下の通り。
1)「警察官のグループが迅速に現場に向かうための車両」
2)「多数の被拘束者の輸送に使用する車両」
3)「強盗で使用される車両」

1)は屋根のないトラックっぽい車両にわさっと警官が乗り込んでる画像が出てきたと。銭形突撃隊のCMPみたいな感じだそうです。
2)はトラックの荷台に拘束者を複数乗せてるようなイメージ。フーリガンや暴動などで大量に出た拘束者を載せるバスっぽい車両も該当するそうな。
3)犯罪者が強盗に向かうに当たって、仲間とギュウギュウになった自分たちの車を揶揄して表現するような単語、いわゆるスラングの類のようです。

というわけで、大枠では「警察が使う人員輸送車」みたいな意味があるようです。意味として近いのは1)っぽいですね。

3)は要するにそういう車両があることが前提としてのスラング、ということでしょう。なので、前回書いた翻訳サイトの「強盗車」というのはある意味で正しかった、ということです。うーん、ディープ●、侮れんな、、(褒めるなら伏字にするなよ)。

それはそれとして、どうも語彙的に軍用車というより警察車両のようなテイストがある気がします。でもoverval単独の意味として攻撃・突撃などの意味があるのならば、その辺も加味したい。そもそも、ですが蘭印軍(KNIL)にはどうも警察軍のような性格を持っていたようです。植民地軍ですから、その任務は外国の侵攻に備えるだけでなく、国内の治安維持もあったでしょう(むしろこっちが重要なのかも)。この辺は資料に乏しくてなんとも、なのですが。

というわけで警察軍、として考えると警察で使う名称を冠してもおかしくはないわけです。逆に、軍用車のような名称だと変になるかな?とも。

そこで「ブラート襲撃車」という呼称を考えてみました。襲撃なら、攻撃よりは穏健な表現ですし、警察車両的なニュアンスがあったとしても妥当な線かな?と。そして私が単純に九九式襲撃機が好きだという(笑)

そこでシッポナさんにこれまでの経緯込みで相談してみました。快く賛同してくれました。

というわけで、2人の談合の末、めでたく「ブラート襲撃車」と決定したのでした。要するに勝手に命名しちゃったわけです(笑)

しかし、こういうのってほんと大事だと思うんですよ。とりあえずでも、まず誰かが日本語表記しないと、ずっと「Braat overvalwagen」のままですし、それではいつまでも日本では浸透しない(いや、浸透しなくても別にいいっちゃいいんですが)。

でも、魅力的な車両なのでもっと知って欲しい!のですね。なので先陣をきってあえて命名しちゃったわけです。後日、どなたか専門家の方が妥当な訳を当てはめてそれが一般化しても全然別にいいわけですからね。先週も書きましたが何よりもまず、自分の中できちんとすっきりする形で心の中に収めたかった、というのが大事なので。

うーん、それにしても「ブラート襲撃車」ってなかなかイイ感じの名称だと思いますけどね。鹵獲した日本軍がいかにもそう呼んでそうでもありますし(笑)

というわけで一件落着、、、、と思いきや、まだ宿題は残っていたのでした。

ブラートの装甲車は、実は何種類かありまして、しかもそれぞれ形が違う上に名前も別です。
こちらが「Braat stadswacht overvalwagen」

装甲の面構成や車体長など、完全に別の車両です。そのためか名前も変わっています。ベースとなったトラックも、キャブオーバー型じゃなくてボンネット型でしょうね。

これはブラート襲撃車の対空型、と呼ばれているものです。

飛行場などの防空用車両のようです。中央の機銃はブローニングM2の水冷型。水冷型は米海軍などが艦艇用に装備していたものです。周囲のはビッカースです。

防空用ならM2のみでいいような気もするので、必ずしも防空専用、というのではなかったのかもしれませんね。車体の装甲板の面構成が似てますが、ホイールベースが少し長いです。また、前面下部に襲撃車には見られないスリット状の装甲グリルのようなものも見えます。なので、そんなこんなで別の車両と捉えていいようです。

しかし固有名称はないようで、ただ「Braat overvalwagen」の対空型、となっているようです。

さて、「Braat stadswacht overvalwagen」です。

「stadswacht」 という新たな単語が出てきました。これまたW氏に問い合わせます。ここまでに何度もW氏とやりとりしてて、ほんと迷惑極まりなく申し訳なかったのですが、いきがかり上仕方がないのでW氏もあきらめてくれたようです。人をタダ働きさせるコツは「いきがかり上という土俵に持ち込んで巻き込む」、という点です(ほんと嫌な先輩だな!!)

これくらいの時点で、W氏は森男機関の在蘭諜報員W、に勝手に任命されました。森男機関とは「誰やお前?的な機関長の超個人的な興味本位の物事を適当にかいつまんで調べ、確たる根拠のないあやふやな情報を、さも真実のように誰も読まないブログにUPし、グーグル検索に引っ掛かりもしないのに世界中に撒き散らした気になって悦に入るのを目的とする」という非常に恐ろしい組織なのです。

さて、それはそれとして「stadswacht」です。英語サイトではcity guard と訳されています。W氏もこの置換は妥当だとのこと。要するに「市内(ないしは都市)警護車」のような意味になります。日本語だと「スタッツワフト」と表記するのが妥当なそうです。

この単語には、市内警備の補助(駐禁取り締まり、パトロールなど警察の下請け的な位置)というニュアンスもあるようです。

さらに、ウィキのstadswachtの項目には1980年代のオランダ、ベルギーでは地方自治体の監督者、執行者という意味で使われ出しているようです。でもこれは比較的新しい例です。

W氏は「じゃあこれ以前はどうだったのか?」と調べると、中世の街の警護っぽい意味合いで使われていた例がベルギーであったとか。

そもそもwachtには英語でいうところのgaurdの意味が含まれている。「場所など何かを守る人」というニュアンスがある。レンブラントのあの名画「夜警」はオランダ語では「De Nachtwacht」だそうです 。なるほど、、。

なので「これらの車両が作られた当時の人には、stads+ wachtと聞けば脳内にはなんとなくレンブラントの夜警的な、ああいう集団がイメージされたのでは」「1914年の刊行された本に兵隊言葉で、警備員的な意味で使われていたらしい」(W氏の報告より)うん、いいぞいいぞ諜報員W!

以上の報告から、改めて写真を見てみると、確かに軍用車というよりは重装甲の警察車両、というのがぴったり来る気がします。固定武装もないし、恐らく天井は開いているでしょう。日本の警察の装甲車がありましたけど(あさま山荘で使われたやつ)、あれに似たオーラがあるようなないような、、。結局、先に書いたように、警察軍のようなイメージがついてまわるんですよね。

で、まあなんであれこれらの調査結果をシッポナさんに報告。また談合タイム(笑)

以上の経緯を鑑み、シッポナさんはこの車両に関しては、overvalの訳を「襲撃」から軍・警察が共に用いる「遊撃」に訳し直し、「遊撃警戒車」という呼称を提案。いやそれはメチャカッチョいい!ということで満場一致で「遊撃警戒車(遊警車)」に決定。

というわけで、こちらもやっと名前が決まったのでした。

言葉というのは、身近で何気なく使っているものですが、よくよく考えると不思議なもので、単語一つとっても改めて見直してみるといろいろな気付きがあります。最初にあげた「新幹線」もそうですが、バラバラにすると普通の単語なんですけど、組み合わせると一つの意味にしかならない。そしてそれは単に言葉という括りだけではなく、その言葉を使う国の歴史の流れの中で意味が付与されていく(こともある)。面白いですよね。

つまり言葉って、勝手に突然ポンと産まれるものではなく、政治や経済、文化、自然などなど人間の関わる、あらゆる環境や状況によって徐々に形作られていくわけです。それは外国でも同じことで、先につらつら書いたように、いろいろな物事を経て「もの」に「名前」が付いていく。そういうのを出来るだけきちんと把握したいなあと思っています。なので、こういう風にこだわっているわけです。

でも、今回実は私は何もやってないんですけどね(笑)お気づきでしたか。ワハハ。

で、諜報員Wの報告はそれ以後も続き、そもそもは装甲車の名称を調べるはずだったの話がさらに膨らんでいきます、、、って、まだ続くのかよ!

でもまあいきがかり上しかたないと思って(笑)よろしければもうちょっとお付き合い下さい。

写真はシッポナさんから頂戴したものです。シッポナさんからは資料提供含め、多々示唆を頂きました。W氏には翻訳作業などいろいろと協力して頂きました。両氏に改めてお礼申し上げます。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ブラート襲撃車について(その1)

2022年02月13日 | 模型の話題
今回はブラート襲撃車について書きたいと思います。
いきなりなんのこっちゃ、ですね。これは第二次大戦の開戦時、インドネシアを植民地にしていたオランダの軍隊、蘭印軍が装備していた装甲車です。

蘭印軍は、本国のオランダ軍とは別の独立した組織だったようです。いわゆる植民地軍ですね。正式な呼称は王立オランダ領東インド陸軍(原語ではKoninklijk Nederlands Indisch Leger・略称KNIL )といいます。

オランダ軍と別組織であり、本国から遠く離れた土地ということもあってか、車両はじめ大砲や銃器など兵器についても独自に調達・装備していたようです(もちろん重複しているのもある、、と思う)。

この装甲車も蘭印軍が独自に装備していたもので現地で設計・製造されたものです。生産数は極少数のようなのですが(25台程度)、その仕様など含めはっきりしたことは分かりません。

ただ、写真などはそれなりに残っており、いくつか目にすることができます。名前は「Braat overvalwagen」といいます。
あ、見たことある、という方もおられるのでは。

見ての通り、とても個性的な姿でカエルみたいです。可愛いかつカッコイイ装甲車です。
※2022年5月5日追記
この擱座した襲撃車の写真の提供者から連絡を頂きました。この写真は静岡連隊(歩兵第230連隊)従軍カメラマン柳田芙美緒氏撮影によるものです。提供者は日向昭了氏です。キャプションをつけることで継続して掲載する許可を頂きました。この場をお借りしてお礼申し上げます。ネット上の写真を無断で使用することは一般的に行われていますが、厳密にはアウトな行為です。過去の写真ということで当方の判断が非常に甘かったと反省しております。日向氏には心からお詫び申し上げます。

エンジンや足回り、シャーシはシボレーの1939年式のCOEトラック(キャブオーバーエンジン式・操縦席がエンジンの上部にあるタイプ。今のトラックと同様の構造)をそのまま流用しており、上部の装甲部を新規に製造したものです。

装甲は最厚部で20ミリ。その他は12ー6ミリ。結構な厚さです。日本の九五式軽戦車の最厚部が12ミリですからね。武装はビッカース7.7ミリ機銃1丁。これは写真を見る限り航空用の空冷型のようです。

乗員は2名(ドライバーとガンナー)で、12人の歩兵を搭載でき、路上で時速90キロで走ることができます。

というわけで、結構な性能の装甲車だったようです。これらのスペックは海外のサイトから引用したものです。どのくらい確度のある情報なのかは判然としないのですが、、。ここを参考にしました。かなり詳しく書かれています。リンクしていいのかよくわかんないので、アドレスだけ貼っときます。
https://tanks-encyclopedia.com/ww2/Netherlands/Braat_Overvalwagen.php

この車両は日本軍との戦闘後も可動状態で鹵獲されたようで、日本軍も鹵獲使用していました。
日の丸がカッチョいいですね。兵士たちの「勝ったぞー!」という喜びが伝わってくるいい写真です。
※2022年5月5日追記
この写真も日向氏が入手されたものです。先の写真同様、静岡連隊(歩兵第230連隊)従軍カメラマン柳田芙美緒氏撮影によるものです。提供者は同じく日向昭了氏です。キャプションをつけることで継続して掲載する許可を頂きました。

この写真を元に描いたのが最初のイラストなんですね。これらの写真はツイッターでシッポナさんがUPしているものをお借りしました。

私は子供の頃からあれこれ戦争関係の本を読んでいました。その中でチラッとこの装甲車を見たことがあります。多分、マレー戦の日本軍戦車部隊の活躍を紹介した本だったような。その写真の中に写ってたんですね。「変な装甲車だなあ」くらいに思ってそのまま忘れてました。

で、前述のシッポナさんは日本の空中挺進部隊(空挺部隊)の研究をされている方で、あれこれとその成果(非常に濃い)をツイッターやブログで発表されています。その流れもあってこの装甲車も研究対象となっており、これらの写真を発掘されてあれこれUPされていました。それを見て「あ、これだったんだ」と思い出したわけです。で、改めて見ると凄く魅力的な車両であることに気付きました。

で、絵を描きたくなって最初の絵ができたわけです。

しかし、絵を描くに当たってまず気になることがありました。
「Braat overvalwagen」
という名称の意味が分からない。なんと読むのかも分からない。
絵に描くなら名前なんて関係ない、と思われるかもですがこういうの気になるんですね私。まず名前がはっきりしないとなんか気持ちが入らないのです(いっちょまえの絵描き気分だな)。

まず当然これはオランダ語であろうと。先のサイトでは「Braat assault vehicles 」と訳されています。Braatは恐らくメーカーなどの固有名詞なんだろうな、と。アサルトビークル、なので直訳で突撃車輌、つまり装甲車、みたいな意味なのでしょう。オランダ語で翻訳サイトで訳してみたのですが「ブラット強奪車」「強盗車」というなんとも剣呑な結果に。強盗車って(笑)

というわけで私の能力的に調査の限界にきてしまいました(早いな!)

そこで、オランダ在住のW氏に聞いてみることにしました。W氏は学生時代の後輩で、いろいろ経て経てオランダに住んでます。在蘭歴は10年以上(20年近い?)で当然オランダ語ができます。

W氏は多忙なので、こういう特に急ぎでもないどーでもいー用件(しかも無償)を依頼するのは大変非常に心苦しかったのですが、すぐ先輩風を吹かしまくる私のような嫌な先輩を持ったのが運の尽き。私は涼しい顔で当然のように問い合わせます。W氏は嫌な顔ひとつせず(メールだから顔見えんしな)すぐ調べてくれました。

Braatはやはりメーカーの名前でした。日本語ではブラートという表記が適当なようです。正式名はMachinefabriek Braat N.V. (ブラート機械工場)。当時ジャワ島のスラバヤにあり、オランダ人ブラート氏が1901年に設立した企業でした。鉄橋建設、石油産業や海運向けの機械を製造。第二次世界大戦中は防衛関係のインフラに貢献したとのこと。オランダ語のウィキに項目があるようですが、読めない、、。

 で、overvalwagenは「オーバーファルワーヘン」と表記するのが適当なようです。ワーゲン、じゃなくてワーヘンなのが面白いですね。

で、その意味なのですが、、、とここまでで結構長くなってしまいました。その後の経緯を考えると1回で済まそうとするとメチャ長くなりそうな予感が、、。なので今回はここまでにしたいと思います。

気を持たせんじゃねーよ、って感じですけど、ご了承ください。その後の展開もいろいろ面白く興味深い感じになりまして、1回じゃもったいないんですよ(笑)



というわけでまた。

この件に関して、シッポナ氏とW氏には多々情報を頂きました。この場をお借りしてお礼申し上げます。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする