森男の活動報告綴

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写真でスケッチ(その1)

2020年05月04日 | イラスト集
今回は、昔の日本の写真集などで見かけて「おお!」と思った写真を、イラストにして紹介してみます。題して「写真でスケッチ」。

●厚木のおっちゃん
「アメリカ人の見た日本50年前」(毎日新聞社)p10の写真から。厚木中心街の風景に写ってるおっちゃん。なんでこのおっちゃんに惹かれたかというと、九六式軽機の弾倉嚢を鞄代わりに使ってるんです(1)




これ、気付く人は絶対気付く、というくらいはっきり写ってます。これは進駐軍が撮影したカラー写真です。この本は、ほかにも同様なカラー写真が多く、当時の日本を知るにはほんと素晴らしい資料です。弾倉嚢についても、カラーなので各部位の色調の違いなどかなり参考になるんじゃないかと。これ、案外大きいっぽい(レプリカ持ってない、、)ので鞄としても使えるんでしょうね。でも縦長なんで使いにくいだろうなあ、、。

このおっちゃんの服は上下そろいで、青っぽい見慣れない色です(3)ひょっとしたらこれも軍用かもしれません。当時は服から靴から鞄から、日本軍のものが民間に出回って普通に使われていました。このおっちゃんも、服も弾倉嚢も同じところから手に入れたのかもですね。

手袋も指の部分は革で、甲は布っぽくて(2)軍用だとしたら見慣れないものですが、こういう軍用手袋があったとしたら興味深いです。で、絵を描く際によく見たら自転車に子供さんと(4)奥さん(5)らしき人を乗せてて、それぞれちらっと写ってます。フレームに座布団的なものをクッションとして固定してるようです。一家で出かけてるわけですね。おっちゃん偉い!

●天津の猟銃のおっちゃん
「一億人の昭和史 ①満州事変前後」のp67の写真から。天津暴動で日本租界を警備する猟友会員。持ってるのがブローニングオート5(1)っぽい(元の写真はかなりぼんやりしてます)です。この銃は、自動式5連発の散弾銃です。ブローニングなのか、コピー品なのかは分かりませんが、自動式であることは間違いないようです。
奥の帽子の人も同様の自動銃を持ってるようです(2)このおっちゃんはジャンパー(3)にニッカポッカにゲートル、といういかにもなスタイル。弾薬ベルト(4)込みで決まってますね。海外ではありますが、当時のハンターってこんなんだったんかなーと。

で、自動式の猟銃って案外普及してたのかなあ、、、と思って調べるとウィキの元ネタのページ(「ブローニングオート5」の引用28)にて「戦争末期、海軍が日本国内の民間の自動式散弾銃を5万丁徴発、サイパン島の飛行場設営隊などが装備」とありますので、ブローニングかどうかはともかく、自動式は結構な数が使われてたようですね。

「小銃 拳銃 機関銃入門」(佐山二郎・光人社NF文庫)にも、民間から供出された5万丁(単装、連装、連発の各種)を、近接戦闘用に装備したとあります。目的、数量などウィキの記述とちょっと違いますが、なんとなく情報が被ってるような。ソースが同じような気も、、。この辺はもうちょっと知りたいところです。

ちなみに、藤田嗣治氏の有名な絵画「 サイパン島同胞臣節を全うす」内で、立射姿勢で銃を構えている男性(兵士かどうかは分かりません)が描かれています。彼が持っている銃は、このブローニングのように見えます。藤田氏はサイパンにブローニングが配備されていた(らしい)というのをご存知だったんでしょうか。絵の元になる何らかの資料があったんでしょうか。絵の右下で、銃口に口をつけて自決しようとする男性の銃は小銃なので、藤田氏は明らかに描き分けています。偶然、なんでしょうかね、、、。

●グァムの戦闘を生き残った少女
「一億人の昭和史 日本の戦史10」p126の写真から。グァムの戦闘終了後の米軍撮影のもの。解説は「米兵から衣服をもらう娘たち」とあります。かなり綺麗な少女です。最初見たとき、正直ドキッとしましたね(笑)






写真の周囲には胸をはだけた数名の海兵隊員がいますが、おどおどした感じが全くなくて、キリッとした様子が凄くいいなあ、と。グァムの戦闘は、藤田氏が描いたサイパンの戦闘同様、「地獄」といってもいいくらいひどいものだったようです。解説によると、戦闘開始時、邦人150人(うち女性50人)が残留、総攻撃には剣術のできる男子も参加、とのこと。地獄を潜り抜け生き抜ぬいて、かつこういうキリッとした感じを保てているというのは凄いなあ、と、、。

で、この少女の絵は写真からは結構アレンジしてます。本と見比べた人は「全然違うじゃん!」ってなるかもですが、まあそういうものだと思って下さい(笑)。写真では手前に弟さんと思われる子供も写ってます。年齢的に現在、ご両名ともご存命かもしれませんね。戦後、幸せな生活をおくられたことを願っています、、。

●浅草の姉弟
「桑原甲子雄 ライカと東京」(朝日ソノラマ)p38の写真から。昭和13年の撮影。お姉さんがとても綺麗で可愛いくて、とても印象に残る写真。
彼女は綺麗とか可愛いとかそういう言葉だけじゃ表現しきれない、なんとも独特な雰囲気です。絵にするのが難しい、、。

おかっぱにセーラー服、しかも下駄、という、いかにも昭和なスタイル。弟の服ともども、パッと見貧乏臭いんですけど、身なりは整っててそれなりに裕福な家庭であることが伺えます。どうも彼女は弟に食べ物的なもの(パンなのか麩菓子なのか、はたまた大根なのか判別がつかない、、)を与えているところのようです。

昭和20年、東京大空襲で浅草は焼け野原になってしまいましたが、この子たちは無事だったのかなあ、と写真を見るたびに思ってしまいます、、、。

それはそれとして、桑原氏の東京の写真はとても好きです。戦前のは特に。キ写真集はいろいろありますので、機会があればぜひご覧になってみて下さい。氏の温かい視線が、当時の人々の生活を、きちんと丁寧に切り取っていているように感じます。また、「戦前という日本」がどういう感じだったのかを、直感的に理解できるような気がします。

●東京宝塚劇場と装甲車
最後は人じゃなくて建物です。「幻景の東京 大正・昭和の街と住い」(柏書房)p49の東京宝塚劇場。この劇場は、戦後進駐軍に接収され「アーニー・パイル劇場」となったこともあり、結構有名です。
で、なんでこれ?かといいますと、海軍陸戦隊が使っていたビッカース・クロスレイ装甲車が写ってるんですね。1階正面のがそれ。この装甲車はイギリスから輸入され、上海や漢口の海軍陸戦隊のほか陸軍でも使用されました。教科書とかの「上海事変の写真」には必ずといっていいほど写ってまして、変に有名(?)な車両です。

この元写真はウィキの「東京宝塚劇場」にも載ってます。興味のある方はぜひご覧になってみて下さい。そのつもりで見ると、この車両はかなり浮いてるので面白いですよ(笑)。有名な建築に海軍の兵器がこっそり絡んでる、稀有な写真ではないかと。 自転車に乗った人や通行人も、全員が建物じゃなくて装甲車をガン見してる(ように見える)ところもいいです(笑)

この装甲車はレプリカの可能性もあるのですが、とある方のブログ(https://narasige.hatenablog.com/entries/2009/02/04#20090204fn1)に、より鮮明な別カットがあり、それを見る限り多分実車です。本では「昭和初期」とありますが、ブログでは「昭和19年ごろ」とあります。建物のあちこちに日章旗や旭日旗が掲げられていて、確かに戦時中のように感じます。

恐らく、ですがこの時期なんらかの戦意高揚的なプログラムが上演されていて、そのPR用として装甲車が展示されていたのかもしれません。上海事変後の昭和7年に、この装甲車は何両かが凱旋帰国しています。その際に残留した可能性もあるかもしれません。

しかし、いくつか不可解な点もあります。写真では砲塔に明らかに「1」とあるのですが、上海陸戦隊の1号車の前部フェンダーは角ばっています。写真では丸いです。さらに、砲塔正面に「1」とありますが、上海陸戦隊のは砲塔側面に描かれています。ただ、写真を見ると機銃の間隔が広く、砲塔が90度回転しているようにも見えます。フェンダーが修正されたのか、マーキングが描き直されたのか、そしてさらに戦後この車両はどこに行ったのか、などなど謎は深まるばかりです。

とはいえ、建物方面の人からすると「なんじゃそら」な話題であることは間違いなく、でも日本軍マニアとしてはメチャクチャ気になります(笑)。ほんと面白い写真だと思います。

※上海陸戦隊の写真集など、貴重な資料を次々と発表されている、この世界のオーソリティの一人であるY氏に、この件について以前SNSを通じて質問する機会がありました。多々示唆をいただきまして、それを以上の文章に反映しております。Y氏にはこの場をお借りしてお礼申し上げます。

というわけでお終いです。写真をイラストにする際は、それなりにしっかりと見るので、ただ眺めていただけでは気付かないことが多々出てきます。今回の写真もどれもそうでした。とても面白いです。当然、絵の勉強にもなります。また「おっ!」というのがありましたら、ちょこちょこ描いて、溜まったらまたいつかUPしたいと思います。

最後に著作権についてお断りしておきます。著作権に関しては一通り調べてみましたが、今回のエントリーのような「写真を元にアレンジして描いたイラスト(トレースではありません)を、出典を明記したうえで、商用目的ではないブログ(拙ブログはアフィリエイト等の営利行為は一切やっておりません)にUPする行為」が違法かどうかは判断できませんでした。なので見切り発車的なUPなのですが、あらかじめご了承下さい。権利者の方々が「これは問題だ」と思われた場合は、ご一報下さい。速やかに削除致します。

それでは。

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