安室奈美恵さんが引退し、樹木希林さんが亡くなった。ふたりが私の人生に何かの影響を与えたことはないが、安室さんはまだまだこれから先があるから興味深いし、樹木さんは過去の映像で特集が組まれるくらいだから、多くの人の心に届くものがあったことは確かだ。ふたりのように、多くの人の心を揺さぶる人生を送ることのできる人は滅多にいない。
樹木さんは「周りのみんなが進学や就職で輝いていたので、自分も何かしたいと思って劇団に入った」と話していたから、何が何でも女優になりたいということではなかったのだろう。それでも演技をしてみると、いろいろアイディアが生まれてくるようで、脚本家や監督が思いもつかないセリフや仕草で個性派俳優になっていった。中日新聞には遅筆の向田邦子さんに、「筋だけ書いてよ、後はこっちでなんとかする」と言ってケンカになったエピソードが載っていた。
筋が分かっていれば、俳優仲間のやり取りで、その場その場の会話や雰囲気の肉付けくらいできるから任せておいてという訳だが、凄い自信だと思う。小説を読んでいると、どういう展開になるのか気になる。登場人物のセリフや情景描写がなるほどと納得させる小説もあるが、ここのセリフはちょっと違うとか、この描写ではよく分からないと思うものもある。当然、前者は引き込まれるように読めるし、後者は飛ばし読みしても大丈夫になる。
樹木さんは75歳、全身ガンだった。「ガンは着実に死ねるからいいよ」と言った人がいたが、そうであってもやっぱり壮絶な戦いであろう。樹木さんのようにガンであることを公表し、しかもそうであるがための役柄に挑戦する、いわば自分の死に際をみんなに見せる勇気は並大抵ではない。74歳の私としては、樹木さんほどの勇気もないし、生前の罪の重さもあり、苦しんで逝くことになるのだろうと想像してしまう。
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