実務家弁護士の法解釈のギモン

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債権法改正-無効・取消と原状回復(3)

2014-12-12 09:56:01 | 民法総則
 無効・取消の際の契約関係の巻き戻しの法律関係は、従来は不当利得返還請求の問題として扱われていたことは既に述べたとおりであるが、今後は不当利得の規定が直接は適用されないということになる。が、その実質は、不当利得類型論をほぼ明示的に採用したといってもいい改正内容といえるのである。

 不当利得類型論は、主に給付利得の場合と侵害利得の場合とで分けて考えるものである。なぜこのような考え方が生まれてくるかというと、不当利得の規定を文字通りそのまま適用してうまくいく場面は、侵害利得の返還の場面であって、給付利得の返還の場面ではうまくいかないという認識があったと思われる。まさに既に述べた売買ような事例である。
 そのため、私の拙い雑ぱくな理解では、給付利得の場合は契約関係の巻き戻しの場面なのだから、契約法の法理を巻き戻しにも応用しようというのが給付利得の場面での考え方かと思われる。

 無効・取消の場合に原状回復義務を規定する趣旨は、解除の際の原状回復義務と合わせて、侵害利得の法理とは別の法理として、給付利得の法理を侵害利得とは異なる法理としてこの二つの規定で賄おうという趣旨が明確に見て取れるのである。

 このように考えた場合、無効・取消の場面だけではなく、契約関係の不存在の場合(例えば、死亡した被相続人との契約の存在を主張されて相続人がその契約を履行したが、実は契約書は偽造されたものだったというような場合。意思表示の無効といってもいいが、正確には不存在であろう。)も、給付利得の一場面のはずなので、無効・取消の場合の原状回復義務を類推すべきことになろう。