実務家弁護士の法解釈のギモン

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会社法改正案-差止請求(3)

2014-02-17 14:30:26 | 会社法
 募集株式発行差止請求の仮処分がなされた場面を考えると、これを無視する募集株式発行は無効原因だというのが判例なので、差止請求権の任意行使ではなく、仮処分等の裁判手続で行使すれば、それなりの意味はあることになる。
 要するに、募集株式発行無効原因と結びつけて考えられるのである。

 では、例えば今回の改正案で新たに認められるようになる全部取得条項付種類株式の取得の差止請求はどうか。
 まず、改正案における差止請求の要件をみると、全部取得条項付種類株式の取得が法令または定款に違反する場合で、株主が不利益を受ける恐れがある場合となっている。
 一見すると分かったような規定ぶりではあるが、しかし、よく考えてみると、全部取得条項付種類株式の取得が法令や定款に違反する場合の効果を考えると、そもそも全部取得条項付種類株式の取得そのものが当然に無効なのではないのだろうか。
 どういうことかというと、募集株式発行差止請求の場合は、たとえ違法な募集株式の発行であっても、差止の仮処分をしておかないと募集株式の発行が有効とされてしまう場合があるため、差止仮処分をしておく意味がある。しかし、違法な全部取得条項付種類株式の取得の場合、私の理解では当然に無効なはずで、何か無効訴訟を提起しなければ無効を主張し得ないとか、無効原因が制限されて解釈されているなどといった類のものではないはずである。

 なので、現行法でも、違法な全部取得条項付種類株式の取得が行われようとしているのであれば、株主は会社に対し事実上それを指摘し、それでも実行してしまった場合は後からその有効性を争うという形で処理すればよいはずである。それ以上に、上記のような要件の下で差止請求を認めることの意味は、一体どこにあるのだろう。それとも、現行法の私の理解が根本的に間違っているのだろうか。
 同じことは、改正案で認められるようになる株式併合差止請求でもいえることである。差し止めの要件は全部取得条項付種類株式の取得の差止請求とほぼ同じである。だとしたら、違法な株式併合ははじめから無効なのであり、差止請求権などなくても、事実上違法であることを指摘すれば足りるようにも思える。

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