実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

一般社団,一般財団法人法(4)

2009-08-17 10:39:24 | 一般法人
 2法の制定

 一般社団、一般財団法人法に関する前回のアップでも指摘したように、この法律の制定は、形式面では民法の法人の改正という側面を持つが、より広くは、公益法人制度改革として位置づけられる。そのような視点での改正の特徴を見ると、社団法人・財団法人を規律する法律として、一般社団・財団法人法のみならず、この法律に準拠して設立された法人に対して行政庁が公益法人となるための公益認定を行うという行政法規、すなわち「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」(以下、「公益法人認定法」という)が制定され、前者が私法規定、後者が行政法規として完全に分かれたことである。そして、一般社団・財団法人法に準拠して設立された社団法人・財団法人のことを「一般社団法人」「一般財団法人」と呼び(一般社団・財団法人法5条参照)、その中から公益認定を受けた一般社団法人・一般財団法人のことを、「公益社団法人」「公益財団法人」と呼び、両者をあわせて「公益法人」と呼ぶことになった(公益法人認定法2条)。
 そもそも、伝統的な考え方では、法人は営利法人と公益法人に2分類され、民法上の法人は公益法人であって、営利法人は商法(現会社法)に規定されるという棲み分けが行われてきた。ところが、営利法人でもなく、純粋に公益を目的としているわけでもない中間的な目的を有する法人の設立に障害があることは、つとに指摘されていたところであった。そこで、平成10年には特定非営利活動促進法(いわゆる、NPO法)が制定され、平成13年には中間法人法が制定されることとなった。特に、中間法人法は、非営利事業を行う社団に準則主義に基づいて法人格を与える立法であったため、公益性の薄い非営利団体に自由に法人格を付与する根拠を与えた法律であったといえる。
 しかし、特定非営利活動促進法も中間法人法も、社団法人の設立を認めたのみで、非営利の財団法人を設立する方法は存在しなかった。また、調べてみると、特定非営利活動促進法の制定においても、中間法人法の制定においても、国会審議において公益法人を含めた非営利法人の総合的な見直しについての付帯決議がなされ(付帯決議の内容は、行政改革推進事務局のホームページから見ることができる)、公益法人を含めた、非営利法人制度の抜本的改革の必要性が示されていた。
 平成14年8月の行政改革推進事務局における論点整理では、改革の方向性としては2つのパターンが示されているが、この時点では、民法上の公益法人制度は廃止する方向性が示され、非営利(非公益)法人(これは、行政庁の監督を受けない)と、行政庁の監督を受ける非営利公益法人とを認める制度設計が示された(詳細は、上記行政改革推進事務局ホームページ参照)。さらに「報告告」により、法人格の取得と公益性の判断を分離し、準則主義による一般的な非営利法人制度の創設することとし、この一般的な非営利法人の中から、一定の要件を満たすものを公益法人として新たな主体が判断する仕組みを創設することが示された。この報告を受けて、一般的な非営利法人として、一般社団・財団法人法が、この一般社団・財団法人の中から公益性のある公益社団、財団法人を認定する制度として、公益法人認定法が制定されることとなった。そして、中間法人法は、一般社団・財団法人法に吸収されるようにして廃止されることとなった(特定非営利活動促進法は、独自の存在意義があるということで、残されることとなっている)。
 このため、一般社団・財団法人法は、会社法のように、監督官庁の存在しない、法人関係者の利害の調整のための条文のみとなり、もっぱら私法法規としてのみ存在することとなり、公益法人認定法は、公益認定の方法、公益法人の事業に対する一定の規制、公益法人に対する行政的監督、公益認定等委員会及び都道府県に置かれる合議制の機関に関する規定など、基本的には行政法規が中心の法律となっている。以上のため、今後実質的な意味での民法法規の一部として法人の解釈論を検討するにおいては、一般社団・財団法人法が中心となり、公益法人認定法は、どちらかというと行政法の分野に移行するのではないかと思われる。ただし、公益法人認定法にも、一般社団・財団法人に対する特則規定が存在するため、まったく無視するわけにはいかないであろう。

ストックオプションの付与と有利発行(4)

2009-08-12 11:11:50 | 会社法
 そもそも、オプション価格理論は、日本の制度でいう新株予約権のための理論そのものではなく、市場取引として成立しているオプション取引(しかも、株式のオプションだけではない)に関する理論であって、買う権利、売る権利の売買の際の客観的な適正売買価格算出のための理論だと理解している。そうすると、売買されることが想定されないストックオプションとしての新株予約権について、オプション価格理論は当てはまらないのではないかと思うのである。現に、前回の記事で述べたとおり新株予約権を譲渡することによって現金化することは想定されない。ストックオプションとしての譲渡制限新株予約権そのものには、客観的価値はないとしか言いようがないと思うのである。したがって、私は、ストックオプションとして譲渡制限新株予約権を無償で付与するのは、有利発行に当たらないと解すべきではないかと思うのである。
 私は、経済理論を法解釈に応用していく必要を強く感じている方であり、オプション価格理論の新株予約権への応用も当然必要なことだと思われる。しかし、どのような方法での新株予約権の発行であっても、すべてオプション価格理論を適用するような、経済理論の無批判な取り込みに対しては、また警戒を感じるのである。何のためのオプション価格理論なのかを考えれば、ストックオプションとしての(譲渡制限)新株予約権の発行の場合は、オプション価格理論は適用できないという結論が導き出せると思うのだが、違うだろうか。

ストックオプションの付与と有利発行(3)

2009-08-09 18:44:29 | 会社法
 さて、ストックオプションとして新株予約権を発行する場合に問題なのは、通常、譲渡制限をかけて発行する場合が多いということである。私の手元に送られてきた株主総会招集通知に議案として記載されていたストックオプション無償付与に関する議案でも、譲渡制限のかかった新株予約権(いわゆる、譲渡制限新株予約権)の発行に関する議案であった。この議案も、無償付与であるために念のため有利発行となる疑念を避けるために、株主総会の特別決議にかけたのであろう。
 たしかに、オプション価格理論の存在を考えると、通常の場合新株予約権の無償付与は、有利発行になる場合が多いであろう。しかし、それはオプションそのものに客観的な価値があるためであるが、その価値を現金化する方法は、他人に譲渡することによって実現するのみである。つまり、新株予約権は、権利行使をして一定の払込価格を払い込んで株式を取得し、直後その株式を売却して現金化するよりも、他人に譲渡する方が高く売れるのである。上記の事例でいえば、500円を払い込んで500円の価値のある株式一株を取得してその株式を500円で市場で売却するよりも(儲けはゼロである)、新株予約権そのものを市場で売れば、ゼロ円以上で売れる。仮に、新株予約権発行後、株価が800円まで値上がった場合、その段階で新株予約権を行使すれば、儲けは一株当たり300円が見込まれるが、新株予約権そのものを売れば、300円以上で売れるのである。その理由は、まだ株価が値上がりするかもしれず、その分のリターンの可能性を上乗せして売れるからであり、別の言い方をすれば、新株予約権そのものに客観的的価値があり、その分のプレミアムを上乗せして売れるからである。
 ところが、譲渡制限新株予約権の場合、自由に売ることができない。もちろん、会社の承諾があれば売ることは可能であるが、こと、ストックオプションとしての新株予約権の場合、役員や従業員自らが権利行使をして利益を上げることのみを想定してると思われるので、おそらくストックオプションとして発行した新株予約権の譲渡を、会社が認めることはないものと思われる。そうだとすると、いくらオプション価格理論だと言い、新株予約権そのものに客観的価値があると言ってみても、新株予約権そのものの客観的価値を現金化することができないことになる。

 さらにつづく。

ストックオプションの付与と有利発行(2)

2009-08-05 20:18:18 | 会社法
 会社法の教科書レベルでは、新株予約権の項目で、なぜ前回アップしたような事例で新株予約権を発行することが有利発行になりうるかが、必ずしも明確には書いてないような気がする。その理由の一つは、上記のようにオプション価格理論の難しさにあるかもしれない。しかし、それでは会社法を学ぶ学生やビジネスマンに失礼であろう。
 私の理解では、次のとおりである。
 上記の事例において、無償で新株予約権を付与された新株予約権者は、将来株式の市場価格が上昇すれば(たとえば、800円まで上昇したとしよう)、500円を払い込んで新株予約権を行使し、それで得た株式を市場で売却すれば、差し引き一株当たり300円の利益を得ることになる。これに対し、株式の市場価格が上昇しなかった(下落した場合も含めて)場合は、新株予約権を行使しないまま行使期限を向かえて失効させてしまっても一向に構わない。この場合、何らの利益も得られないが何らの損もしない。
 つまり、無償で付与された新株予約権者は、株式の市場価格が上昇すれば利益を得る可能性はあっても、損をする可能性はゼロなのである。これは、どういうことかというと、絶対に損をしない「かけ」をしているのと同じことなのである。しかも、この「かけ」は、株式の市場価格に上限がないことを考えると(ただし、もちろんより高額になる確率はより低くはなる)、理論上は上限は無限であり、いくら儲かるかの将来予想値は、確率統計論であらわすことができる。
 難しいことを書いたが、要するにいくら儲かるかの将来予想は、基本的には直接株式投資したのと同じであり(株式への直接投資だと先に一株当たり500円を支払わなければならないので、先行投資する分の利息相当額の損も問題となるが、細かいことなので、とりあえずこの点は考慮しない。)、ただ、株式への直接投資だと株価が下落すると損をするが、新株予約権だと株価が下落しても損をしないのが特徴だということになる。
 別の言い方をすると、株式投資の場合、現在価格が500円の株式に一株500円で投資することは当然であり、それが公平であるが、そのかわり儲かるかもしれないが損をするかもしれない。ところが、無償付与された新株予約権者の場合、損をする可能性が絶対にないのである。それだけ、新株予約権者に有利に働いているのである。
 このことを考えると、儲かる確率が五分五分の投資が(リスク中立確率という言葉で表現することができる。通常の株式投資は五分五分とみなせるとする)通常公平だとすると、上記のような新株予約権の場合、わざわざお金を払ってでも新株予約権そのものを購入したいという人が、必ずいるし、上記のような新株予約権であれば、一株分の新株予約権を5円や10円なら買ってもいいと思う人はいくらでもいると思う。そして、客観的にもいくらかを支払って上記のような新株予約権を購入することが公平なのである。その購入価格がいくらが適正かを示したのがオプション価格理論なのである。
 ストックオプションとして付与された新株予約権は、付与後ただちに権利行使しても利益を得られないかもしれないが、いくらかの価格で直ちに売ることができる可能性があるのである。
 以上のことから、通常の場合、客観的価値のある新株予約権を無償で付与するのは、有利発行となりうるということが導かれるのだと理解している。

 つづく