実務家弁護士の法解釈のギモン

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ストックオプションの付与と有利発行(2)

2009-08-05 20:18:18 | 会社法
 会社法の教科書レベルでは、新株予約権の項目で、なぜ前回アップしたような事例で新株予約権を発行することが有利発行になりうるかが、必ずしも明確には書いてないような気がする。その理由の一つは、上記のようにオプション価格理論の難しさにあるかもしれない。しかし、それでは会社法を学ぶ学生やビジネスマンに失礼であろう。
 私の理解では、次のとおりである。
 上記の事例において、無償で新株予約権を付与された新株予約権者は、将来株式の市場価格が上昇すれば(たとえば、800円まで上昇したとしよう)、500円を払い込んで新株予約権を行使し、それで得た株式を市場で売却すれば、差し引き一株当たり300円の利益を得ることになる。これに対し、株式の市場価格が上昇しなかった(下落した場合も含めて)場合は、新株予約権を行使しないまま行使期限を向かえて失効させてしまっても一向に構わない。この場合、何らの利益も得られないが何らの損もしない。
 つまり、無償で付与された新株予約権者は、株式の市場価格が上昇すれば利益を得る可能性はあっても、損をする可能性はゼロなのである。これは、どういうことかというと、絶対に損をしない「かけ」をしているのと同じことなのである。しかも、この「かけ」は、株式の市場価格に上限がないことを考えると(ただし、もちろんより高額になる確率はより低くはなる)、理論上は上限は無限であり、いくら儲かるかの将来予想値は、確率統計論であらわすことができる。
 難しいことを書いたが、要するにいくら儲かるかの将来予想は、基本的には直接株式投資したのと同じであり(株式への直接投資だと先に一株当たり500円を支払わなければならないので、先行投資する分の利息相当額の損も問題となるが、細かいことなので、とりあえずこの点は考慮しない。)、ただ、株式への直接投資だと株価が下落すると損をするが、新株予約権だと株価が下落しても損をしないのが特徴だということになる。
 別の言い方をすると、株式投資の場合、現在価格が500円の株式に一株500円で投資することは当然であり、それが公平であるが、そのかわり儲かるかもしれないが損をするかもしれない。ところが、無償付与された新株予約権者の場合、損をする可能性が絶対にないのである。それだけ、新株予約権者に有利に働いているのである。
 このことを考えると、儲かる確率が五分五分の投資が(リスク中立確率という言葉で表現することができる。通常の株式投資は五分五分とみなせるとする)通常公平だとすると、上記のような新株予約権の場合、わざわざお金を払ってでも新株予約権そのものを購入したいという人が、必ずいるし、上記のような新株予約権であれば、一株分の新株予約権を5円や10円なら買ってもいいと思う人はいくらでもいると思う。そして、客観的にもいくらかを支払って上記のような新株予約権を購入することが公平なのである。その購入価格がいくらが適正かを示したのがオプション価格理論なのである。
 ストックオプションとして付与された新株予約権は、付与後ただちに権利行使しても利益を得られないかもしれないが、いくらかの価格で直ちに売ることができる可能性があるのである。
 以上のことから、通常の場合、客観的価値のある新株予約権を無償で付与するのは、有利発行となりうるということが導かれるのだと理解している。

 つづく