実務家弁護士の法解釈のギモン

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新株発行の不成立?(1)

2011-10-07 11:13:45 | 会社法
 とある会社法の判例解説の本を読んでいると、会社法の平成17年全面改正法により、思わぬ事態が起きているらしいことがうかがえた。論点的にいえば、新株発行の際の株式の引き受けが錯誤等により無効とされた場合の新株発行の効力如何、という論点と言える。

 まずは、条文を確認する。
 募集株式の発行に際し、引受人からその引き受けの錯誤無効、詐欺脅迫取消の主張は、株主となった日から1年を経過した後(あるいは株式について権利行使した後)はその主張をすることができない(会社法211条2項)。これは民法の規定に対する特則である。しかし、裏を返せば株主となった日から1年経過するまでは、錯誤無効、詐欺脅迫取消の主張が可能である。
 それでは、錯誤無効、詐欺脅迫取消の主張が認められた場合に、発行した新株の取り扱いはどうなるか。
 もし、無効原因に過ぎないとなると、新株発行無効の訴えによってしか無効の主張ができない。しかし、新株発行無効の訴えは、公開会社の場合、新株発行の効力が生じた日から6か月内に提訴しなければならない(会社法828条1項2号)。そうなってくると、例えば錯誤無効の主張が新株発行後6か月経過してから1年以内になされると、株式の引き受けは錯誤無効となるにもかかわらず、新株発行の無効は争えないという事態が生じてくる。

 もっとも、このあたりの規定は旧法時代と変わらない。それでも旧法時代は特段の問題は生じなかった。なぜなら、旧法では引受担保責任があったからである(旧商法280条ノ13)。つまり、株式引受行為が錯誤無効とされても、その部分に関し、取締役が引き受けたものと見なされるのである。そのため、新株発行の無効原因とする必要すらなかった(あるいは、仮に無効原因であったとしても、提訴期限等の理由で無効の主張ができなくなったところで問題が生じなかった)のである。
 ところが、新法になって、この取締役の担保責任の規定が消滅してしまった。そのため、株式引受行為が無効となった場合の事後処理が、不明確になってしまったらしいのである。

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