実務家弁護士の法解釈のギモン

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全部取得条項付種類株式と反対株主(3)

2012-04-16 14:14:13 | 会社法
 全部取得条項付種類株式の反対株主の株式買取請求や価格決定の際の個別株主通知の要否について、判例の解釈は形式的にはそのとおりなのかもしれないが、疑問もないわけではない。

 第一の疑問点は、株式買取請求や価格決定の裁判の行使が、本当に社債、株式等の振替に関する法律(社債株式振替方)にいう「少数株主権等の行使」と言えるかどうかである。
 同法上、「少数株主権等」の定義は、同法147条4項に規定されており、そこには「株主の権利(会社法第百二十四条第一項に規定する権利を除く。次条第四項及び第百五十四条において「少数株主権等」という。)」とある。要は、基準日時点で権利行使するもの以外の株主の権利をすべて包含するかのような規定ぶりとなっており、会社法上の解釈として言われる、いわゆる「少数株主権」とは範囲を異にし、より広いと言えよう。この少数株主権等の行使の場合には個別株主通知が必要であることが同法154条に規定されているという関係にある。
 それでは、「少数株主権等」を定義する社債株式振替法147条はいったい何が規定されているというと、振替株式に善意取得が生じ、振替機関において振替株式の超過記載が生じている場合の処理について規定されている。超過記載とは会社が発行する株式の総数より多くの株式が振替株式として振替口座簿に記載されてしまっている状態である。振替株式の場合、振替機関や口座管理機関が誤って口座に増加の記載がされても善意取得が起こりうることになっており、その場合に超過記載が起こりうるのである。
 このような超過記載の現象が生じている状態においては、各株主は、超過記載分に相当する割合だけ、自らが株主であることを会社に対して対抗できなくなってしまうのである。これが147条1項に規定されていることである。このようにして、超過記載が生じている状態における、会社側の不都合を回避しているのである。これによって、株主に損害が生じる場合、誤って超過記載をしてしまった振替機関に対して損害賠償を請求することになる(社債株式振替147条2項)。
 ただし、振替機関が超過起債分の振替株式を自ら取得しその権利を放棄すれば(特殊な株式の消却といえよう)、超過記載が解消されるので、その場合は少数株主権等の行使について、上記のような会社に対する対抗不能状態が解消されるという関係になる。それが少数株主権等を定義する社債株式振替法147条4項なのである。
 そうだとすると、全部取得条項付種類株式の反対株主の買取請求や価格決定申立権が、同法147条1項の対抗できない権利となるのか否かが、まずもって問題とされなければならないはずである。

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