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実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

裁判上の自白と不利益陳述(4)

2016-10-05 10:42:01 | 民事訴訟法
 そもそも、占有者であるBが使用貸借を認めるのは不利益陳述だと考える根拠が、私にはしっくりこない。なぜなら、使用貸借の成立はBによる土地の占有権限を肯定する、Bにとって一つの有効な抗弁として作用するはずだからである。何も抗弁を主張しないよりは被告であるBにとっては有利なはずである。

 つまり、有力説が使用貸借を認める被告の陳述が不利益だと考えるのは、賃貸借との比較の問題として考えているからである。特に借地借家法の適用がある賃貸借だと、契約終了はなかなか認められないが、使用貸借は契約終了原因が認められやすい。
 おそらくこの比較こそが、有力説の重視する点のはずなのである。

 これに対し、立証責任の分配で考える判例の立場は明確で、使用貸借の成立は、被告側の自白ではなく、原告側でも使用貸借の成立事実を主張していれば、原告の自白として捉える。なぜなら、原告の自白により使用貸借という被告の抗弁事実が認められることになり、被告の立証の負担がなくなるからであり、原告による再抗弁の主張立証の必要性が生じ、その分だけ自白した原告に直接の不利益が発生するからである。
 この原告側の自白の不利益の問題は、相手方の立証の必要性の軽減から無条件に発生する自白者の不利益である。決して比較の問題ではない。その意味において、判例の立場は非常に明快だと思うのである。

裁判上の自白と不利益陳述(3)

2016-09-28 09:57:19 | 民事訴訟法
 先週のブログで、やや不正確な表現があった。
 典型的な事例として、土地の所有権に基づく明け渡し請求の事案で、原告が使用貸借の成立(及びその契約終了)を先行主張し、これを被告が認める場合をあげたが、被告が認める内容は、もちろん、使用貸借の成立の部分だけであり、その契約の終了は争っていることが前提である。契約終了まで認めたのでは、争ったことにならない。
 この、被告による使用貸借の成立の主張が自白に当たるか否かである。

 教室事例的ではあるが、例えば次のような事案を考えてみる。
 Aの所有名義となっている土地上にBが建物を建てて土地を占有している。そして、BはAに対して定期的に金銭の支払いをしているような様子が過去にはあったのだが、途中でその様子も覗えなくなっている。これに対し、AはBからの金銭の支払いの事実を全面否定しており、過去の定期的な金銭の支払いの事実そのものに争いがある。
 このような事案で、AがBを相手に、使用貸借が目的達成を理由に終了したとして、所有権に基づく土地明渡請求訴訟を提起してきたとしよう。これに対し、Bは、定期的な金銭の支払いはしてきたつもりで、証拠もあるが、途中からは支払ったことを示す証拠がない。そこで、賃貸借契約を主張したのでは不払いによる解除を主張され、これが認められてしまうことを恐れ、訴訟においては、賃貸借契約の主張をせず、使用貸借の成立のみを主張し、まだその目的を達成していないとして争った。

 このような事案でBが使用貸借の成立を主張するのは、自白が成立する不利益陳述だろうか。もしそうだとすると、あとから使用貸借の主張を撤回して賃貸借契約の成立を主張することはできないということになりそうである。このことは、あとから賃料全額の支払いを示す証拠が出てきた場合などにシビアな問題となってくる。
 しかし、状況からすると、当初は賃貸借だと賃料不払いを理由とする債務不履行解除が認められやすいと思ったからこそ、それよりも有利だと思われる使用貸借の主張をしたのではないだろうか。

裁判上の自白と不利益陳述(2)

2016-09-21 11:14:58 | 民事訴訟法
 判例と有力説とでは、どういうところで違いが生じてくるかについて、典型的な事例として、よく、土地の所有権に基づく明け渡し請求の事案で、原告が使用貸借の成立(及びその契約終了)を先行主張し、これを被告が認める場合が上げられている。

 立証責任の分配でいうと、原告に立証責任がある事実は、原告の土地所有と被告の土地占有であり、使用貸借の成立は被告側に立証責任が認められる。そして、使用貸借の成立が認められると、さらにその契約終了に関する原因事実について原告が立証責任を負うという構造になる。
 したがって、自白の成立を立証責任の分配にしたがって考える判例の立場では、使用貸借の成立に関しては、原告側の(先行)自白の問題と捉え、被告側の自白の問題ではないと考えることになる。実務を行っている立場からすると、この考えがわかりやすい。

 しかし、有力な学説からすると、使用貸借であることを被告側が認めた以上、被告の敗訴可能性が生じる(使用貸借の終了が認められやすい)ことから、被告の土地占有権限が使用貸借であることについて被告側に自白が成立し、これを撤回して賃貸借の成立を主張することが原則許されないというのである。

 有力説のいうことも全く分からないわけではないのだが、しかし、よく考えてみると、何をもって敗訴可能性と考えるのかは、事案に応じて難しいのではないかと思うのである。

裁判上の自白と不利益陳述(1)

2016-09-14 10:10:16 | 民事訴訟法
 民事訴訟上、自白が成立すると裁判所はその自白に拘束され、自白と異なる事実認定ができないとされる。また、自白した当事者も、原則として自白を撤回することができないとされる。自白の裁判所拘束力と当事者拘束力である。

 ここで、そもそも自白とは何かという定義との関係で、自白が成立する範囲について争いがあるといわれる。
 つまり、定義的には、自白とは相手方が主張する自己に不利益な事実を認める陳述だとされる。そこで不利益陳述とは何かが問題となるのであるが、判例は、相手方当事者に立証責任がある事実についてこれを認める旨の陳述だと捉えている。したがって、自白が成立するか否かは、立証責任の分配に従って判断されることになる。これに対して、学説上は、敗訴可能性があれば自白を成立させて不可撤回効を認めるべきという学説が多いようである。

判例は形式的表示説?(7)

2016-07-25 13:13:32 | 民事訴訟法
 古い判例は、当事者確定の問題について、意思説または行動説だといわれているようであるが、最初に紹介した昭和48年判例は、実は表示説、それも訴え提起時は形式的表示に従って処理しており、そこでの一応の被告は新会社である。そして、問題が発覚した後も新会社をそのまま被告として判決しても、紛争解決の上からも問題ないから、最高裁は最後まで新会社を被告として扱ったのである。これが私の見方である。
 そうだとすると、現在の判例は(形式的か実質的かはともかく)表示説を採っていると言えないだろうか。

 また、古い判例を私はちゃんと分析したわけではないのだが、意思説や行動説を採ったといわれる古い判例も、もしかしたら私のように考える実質的表示説で説明ができるということはないのだろうか。