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実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

訴え取り下げ合意の法的性質(2)

2016-11-16 10:02:57 | 民事訴訟法
 私法行為説に対しては、訴えの取り下げという訴訟法上の効果を目的としているのに、取り下げ合意は私法行為と考え、訴えの利益を介在させなければならず、しかも却下という結論しか導けない(すなわち訴え取り下げによる訴訟終了を導けない)点に問題があるとされるのであろう。

 伝統的な訴訟行為説に対しては、訴えの取り下げ合意が争われたことのみを念頭に置いた議論であると言う批判があるらしい。現実は、訴訟外で訴え取下げ合意がされれば、原告は訴え取り下げの手続を取って終了することが普通なのであって、このことを念頭に置いていないと批判されているようなのである。

 確かに、実務では訴え取り下げ合意が争われることの方が珍しく、訴え取り下げ合意がなされれば、その合意に従って原告は訴え取り下げを行い、被告はこれに同意して訴訟が終了するというのが「普通」である。このことは、取り下げ合意の法的性質とは無関係である。
 この「普通」の状態を念頭に置けば、例え訴訟外で訴え取下げ合意がなされても、実際に原告が裁判所に対して訴えの取り下げの手続(及び被告の同意)を取った時に初めて取り下げの効果が生じると考えるのは当然であって、このことは、私法行為説でも訴訟行為説でも当然の前提として考えざるを得ないのは確かであろう。
 そうだとすれば、仮に訴訟行為説と言っても、この「普通」の状態を無視して合意時点で訴訟が当然に終了していると考えるのは問題なのかもしれない。

 そこで、訴訟行為説を前提としても、訴え取下げ合意の効果として、原告に対する何らかの義務の発生を前提とする説があるらしい。ただ、物の本によれば、そこにはいろいろなバリエーションがあるようで、私にはなかなか理解しにくい。

訴え取り下げ合意の法的性質(1)

2016-11-09 14:02:41 | 民事訴訟法
 訴えの取り下げは、原告の裁判所に対する訴訟行為であり、これに対して被告が同意すれば訴え取下げの効果が生じる。
 ところで、実務では、裁判外で当事者間に何らかの交渉があり、その結果、訴えの取下げが合意されることがある。取り下げ合意がなされれば、通常は原告は訴えの取り下げの手続を取り、被告はこれに同意し、訴訟は予定通り終了する。
 しかし、訴えの取り下げ合意がなされたにもかかわらず、原告が何らかの理由で訴えを取り下げない場合に、果たしてどうなるか。

 ここでは、訴訟外での訴え取下げの合意の法的性質が問題となり、その性質によって処理の仕方が異なってくると説明される。
 つまり、法的性質として私法行為説と訴訟行為説が対立し、私法行為説は、訴訟外の訴え取下げ合意は、あくまでも訴訟行為とは無関係の実体私法上の合意に過ぎないと理解するものの、原告が訴え取下げの手続を行わなかった場合でも、原告には訴えの利益がなくなるから、訴えは却下されるという。訴えの利益という訴訟要件を介在させることにより訴え却下を導くのである。判例の立場でもある。
 これに対し、典型的な訴訟行為説は、訴え取下げ合意により、当然に訴訟終了効が発生するという。そのため、原告が裁判所に対する訴え取り下げの手続を取らなくても、訴訟は終了していることになるので、原告が訴え取り下げの手続を取らなくても、被告が訴え取り下げ合意の効力を主張、立証すれば、訴え取り下げによる訴訟終了宣言の判決をすることになるという。

 以上は教科書レベルの伝統的な議論である。

裁判上の自白と不利益陳述(7)

2016-10-26 10:02:07 | 民事訴訟法
 不利益陳述の考え方次第ということかもしれないのだが、立証責任を負っている側の陳述に不可撤回効としての自白を認める有力説は、常に他の主張との比較の問題として不利益か否かを考えなければならないはずであるが、以上検討してきたようなことを考えると、私には、それが必ずしもうまく説明できていないような気がしてならない。

 使用貸借を撤回して賃貸借を主張する被告側の態度は、時期に遅れたか否かを問題とすればそれでいいのであって、それは使用貸借の主張が原告と被告とで一致しているか否かにかかわらない。そして、もし使用貸借に争いがなかった場合は、せいぜい時期に遅れたか否かの一事情として考慮すれば足りるような気がする。そのような解釈ではダメなのだろうか。

裁判上の自白と不利益陳述(6)

2016-10-19 15:29:37 | 民事訴訟法
 また、もし以上のとおりだとした場合、例えば賃料支払いの事実が不明瞭な事案において、主たる抗弁として賃貸借の主張をし、従たる抗弁として使用貸借の主張をすることは、論理的にはいくらでもあり得る。ところが、もし使用貸借の主張だけ先行して認めた場合、有力説では後になって賃貸借の抗弁を付加することは出来ないという理屈になってしまうはずである。つまり、有力説では主張の時間的順序が前後しただけで、主張できたりできなかったりしてしまうことになってしまうはずなのである。
 もしそうだとすれば、それはそれでおかしくはないだろうか。賃貸借の成立も使用貸借の成立も、仮に実体法的には両立し得ない主張だとしても、それぞれ裁判上の主張としては本来は並列的に主張しうる抗弁の一つに過ぎないのであるから、口頭弁論の一体性からしても、複数の抗弁を主張する場合に、その主張の時間的前後は問題にはしないはずである。

 さらに当初の事例において、場合によってはもっと別の抗弁も考えられるかもしれない。
 それは、定期的な金銭の支払いが途中からは認められないという理由が、実はBがAから土地を買ったのであり、代金を分割払いとして支払っていたという事案だったらどうか。その分割払いが全額終わったからその後の支払の事実がないのだとすれば、実はもっと有力な抗弁として、Bこそが土地の所有権者になっておりAは現所有者ではないとして、原告の所有権喪失の抗弁が成り立つ可能性もある。この抗弁の方が、賃貸借よりも有利である可能性が高い。
 もっとも、この場合は、Aの現在の所有権の存在について権利自白が成立し、その不可撤回効が問題となってしまう恐れもないではないが、別の理由でAの現在の所有権の存在を争っている事案でば、権利自白は問題とならないから、この場合は、あとからBが自分で買ったと主張することは、本来何も問題を生じないはずである。
 しかし、被告であるBが、うっかり賃貸借成立の抗弁を主張した場合で、これを原告が認めると、有力説によれば被告に自白が成立し、賃貸借の主張を撤回して所有権喪失の抗弁を主張することは、自白の撤回に当たりもはや主張し得ないという理屈になりそうであるが、本当にそれでいいのだろうか。

裁判上の自白と不利益陳述(5)

2016-10-12 10:03:35 | 民事訴訟法
 以上に対し、有力説が考えるような敗訴可能性ということで、うまく説明しきれるのだろうか。このことは、当初の事例ではっきりすると思う。賃貸借契約で賃料支払いの事実が立証できないならば、原告であるAからの債務不履行解除の再抗弁が認められやすいが、使用貸借であれば、この再抗弁はあり得ない。そのため、使用貸借を主張した方が被告にとって有利である可能性もないわけではないのである。

 別の角度で検討する。有力説のように考えて、被告側において自白が成立した使用貸借の主張の撤回が出来ないということは、後から賃貸借の主張をすることを許さないということと表裏の関係にあるはずである。というよりも、実はむしろ使用貸借の主張の撤回の問題よりも、後から賃貸借の主張をすることを許さないという点に主眼があるといっていいはずである。なぜなら、使用貸借の主張を撤回しないまま賃貸借の主張を追加することも考えられるが、これを認めたのでは、使用貸借の主張の撤回を許さないという有力説がいう自白の効果としての意味がなくなってしまうからである。したがって、自己に立証責任のある事実について自白の不可撤回効を認める有力説は、実は不可撤回効を論じているのではなく、他のより有利かもしれない立証責任ある事実についての不可主張効を論じているのではないだろうか。