Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

Paul MacNeil

2006-08-31 | SSW
■Paul MacNeil / If It Rains■

 名門レーベル Just Sunshine のなかでも、特に美しいジャケットで有名なのが、この Paul MacNeil の残した作品です。 今日は、1974 年に発表された彼の唯一のレコードを取り上げることにしましょう。 このブログで、Just Sunshine Records のアルバムを取り上げるのは、意外にも初めて。 以前から、Nick Holmes か Paul MacNeil のどちらかから紹介しようと思っていましたが、夏休みの最終日になんとなくこちらを選んでみました。

 このアルバムはいろいろと謎の多い作品です。 そもそも彼の経歴がまったく不明で、他のアルバムでクレジットをみた記憶がありません。 というのも、あまり演奏には熱心でなかったようで、全 10 曲のうち 4 曲は演奏していません。 ギターで参加している曲も、Doobie Brothers の Jeff Baxter のような個性的なギタリストの影に隠れてしまっています。 ということもあって、他のアーティストの作品にゲスト参加しようにも、する理由が見当たらないのです。 
 曲は 1 曲を除き、Paul 本人の作品なのですが、ここにも不思議な現象が見られます。 アルバムの発表は 1974 年なのですが、曲はいずれも 1967 年から 1971 年に作られたものなのです。 アルバム発表までに丸 2 年もの空白が存在しているのはどうしてでしょうか? 個人的には、レコーディングは 1971 年か 1972 年に行われており、発売だけが遅れたのではないかと推測しています。 もし、そうだとしてもその理由は分かりませんが。

 さて、内容のほうですが、かなり偏屈でユニーク、かつバラエティに富んだ SSW アルバムとなっています。 曲によっては、アシッド感を持つものもあり、なかなか掴みどころに困るアルバムといえるでしょう。 個人的に好きなのは、「Love was Easy」や「Silver Love Line」といったピアノ系 SSW 作品ですね。 一方ではギターの弾き語り中心の「Rocky's Tune」や「The Letter」も味わい深いものがあります。 「The Letter」は、Robin Batteaux のヴァイオリン・ソロがかなりの怪演なのですが、ボーカルパートの途中で、中途半端にフェードアウトしてしまうところが残念。 全体的には Jeff Baxter のギターも目立つのですが、なかでも「Stuck On You」でのジャジーなプレイや、「The Devil」での攻撃的なプレイ、「The Stairway」でのカントリー系スティールギターなど、サウンド面ではかなり多彩な貢献だと言えるでしょう。 ラストの「Broken Pieces」は、Lesley Moore という女性のバックコーラスのせいか、マイナー調のソフトロックみたいな仕上がりです。 こうして久しぶりに聴くと、散漫で統一感が希薄なうえに、圧倒的な存在感を持つ出色の曲がないことを再認識してしまうのですが、そうだと分かっていても何か不思議な引力を持っているのは、この Just Sunshine に共通の魔力なのかも知れませんね。

 最後に、Just Sunshine の謎についても語っておきましょう。 品番は JSS-1 からはじめる連番と、JSS-3000 から始まる連番との 2 種類が存在します。 おそらく 3000 番の White Elephant が最初のリリースだと思いますが、この 2 種類が存在した意味合いについては明確な理由は分かりません。 またJ ust Sunshine がレーベルとして独立していた時期にも不思議な現象が見られます。 あの Karen Dalton の名盤「In My Own Time」も Just Sunshine なのですが、品番は Paramount のものになっています。 また、Rhinestones の 20th century 盤にも Just Sunshine のクレジットとロゴを見つけることができます。 さらには、あの Eric Gale や Richard Tee 、Steve Gadd などによるスーパー・バンド Stuff の「More Stuff」の国内盤 CD にも Just Sunshine のロゴがありました。 これはどういうことなのでしょうか? 
 Just Sunshine のロゴは、そのデザインから古代のオウム貝の化石みたいに見えます。 そうしたことから、Just Sunshine Records という湖が生まれる前には Paramount に寄生し、湖が干上がってからは、20th Century や Warner へと生息地を変えてやがて絶滅した謎の魚介類という学説を唱えたいのですが。 



■Paul MacNeil / If It Rains■

Side-1
Love was Easy
Sunshine Lady
If It Rains
Rocky's Tune
Silver Love Line

Side-2
The Letter
Stuck On You
The Devil
The Stairway
Broken Pieces

R. Willy North : drums
Abraham Laboriel : bass
Stephen Merriman : piano
Adam Taylor : acoustic guitar , background vocal
Robin Batteaux : violins
Jim Wilkins : drums
Tom Caulfield : bass
Jeffrey Lass : piano
Jeffrey ‘Skunk’ Baxter : electric guitar , steel guitar
David woodford : saxophones
Paul MacNeil : acoustic guitar , background vocal
Ken Girard : acoustic guitar
Ed Cooper : saxophones
Bob Keys : electric guitar
Michael Walsh : bass
David Humphreys :drums
Bill Plante : piano
‘Rocky’ Rockwood : harmonica
Lesley Moore : background vocal

Produced by Adam Taylor
Engineerd by Adam Taylor
Recorded at Intermedia Sound , Boston , Massachusetts

Words and Music by Paul Macneil
Except 'Broken Pieces' by Christopher Tsiorbas

Just Sunshine Records JSS-10

Noah Zacharin

2006-08-28 | Folk
■Noah Zacharin / Noah Zacharin■

 夜になると虫の音が涼しげに聴こえてくるようになりました。 もうすぐ、SSWやフォークを聴くには絶好の季節とも言える秋がやってきますね。 今日、スーパーに行ったらビールのコーナーが「秋味」だらけだったのには驚きましたが。
 さて、そんな晩夏に取り出したのは、カナダのモントリオールを拠点に現在も活動しているフォークシンガー、Noah Zacharin のデビュー作となる名盤です。 1982 年に発表されたこのアルバムは、彼の公式ページのなかでは、「The Green Album」とも呼ばれているようです。 ほぼ、自主制作レベルで発表されたことから、1982 年当時には、このアルバムを輸入盤店で見かけたことはありませんでしたが、この緑の枠取りとモノクロで想いに耽る Noah の表情は、いつ見てもインパクトがあります。
 
 アルバムの内容も、予想を裏切らないカナディアン・フォークのメインストリームとも言えるものになっています。 2 曲のカバーを除いて、すべてオリジナル。 ミュージシャンも、曲によってベースに Pat Donaldson を配するだけで、ほとんどが引き語りとなっています。 この Pat Donaldsonは、元 Fotheringay でRichard Thompson のソロなどでも見かけるベーシスト。 このアルバムのために、イギリスからモントリオールまで海を渡って参加したことになります。

 アルバムは個人的な好みでは A 面が好きですね。 「Dawn Song」、「Clear As The Air」はクールな中に真摯な姿勢を感じることのできる名曲。 Leonard Cohen のスタンダード的な名曲「Chelsea Hotel」のカバーも、オリジナルの持つ独特の渋みや重たさがない分だけ、素朴さが前面に出た仕上がりになっています。 春の空気というタイトルそのままの「Air Of Spring」、心地よいカッティングと伸びやかなボーカルが自由な気分にさせてくれる「Take Me Away」と並ぶ後半は素晴らしい出来です。
 B 面に移ると、一度聴いたら忘れられないサビがユニークな「Feel Like A Jukebox」以降は、やや憂いを帯びた曲が続きます。 Patrick Sky のカバー「She」はオリジナルを含むアルバムを持っていないので比較して語ることはできません。 「Seasons Of Glass」と「Widow Of Raven Cliff」はともに哀愁を帯びたマイナー調の曲。 こう流れてくると、ラストの「Europe」には何かひと工夫あると思いたいものですが、それがあるのです。 このラストはギターのみのインストなのですが、この曲がなんとも言えずに素晴らしいのです。 特に大げさな展開や斬新なアレンジやメロディーなど無いのですが、ラストに相応しい内容だと思います。 この曲の余韻があるからこそ、僕はこのアルバムを名盤と呼ぶことを躊躇しないのです。 (大げさですな)

 Noah Zacharin は公式ページによると、このアルバムを含む、全ての作品が CD で入手することができるようです。 僕はこの「The Green Album」しか聴いたことがないのですが、2000 年以降のアルバムは何だか聴いてみたい気分になりません。 ジャケットやタイトルから受ける直感だけが、その理由なのですが。



■Noah Zacharin / Noah Zacharin■

Side-1
Dawn Song
Clear As The Air
Chelsea Hotel
Air Of Spring
Take Me Away

Side-2
Feel Like A Jukebox
She
Seasons Of Glass
Widow Of Raven Cliff
Europe

All Songs by Noah Zacharin
Except ‘Chelsea Hotel’ by Leonard Cohen , ‘She’ by Patrick Sky

Noah Zacharin : vocals , guitars , harmonica
Pat Donaldson : bass

Recorded at Studio Production , Montreal
Engineer : Gordon Gibson

Soffwin SW-33-101

Duncan Tuck

2006-08-25 | SSW
■Duncan Tuck / It’s All Done With Mirrors■

 今日は、強引にコロラドつながりということで、デンバー郊外のモリソンを拠点として活動していた Duncan Tuck の 3 枚目のアルバムをご紹介します。
 Duncan Tuck は公式ページもあるように、現役で活動するミュージシャンです。 サブタイトルに「Music and Comedy」とあるように、音楽と巧妙な語りで人々を楽しませるエンターテイナーと言ったほうが良さそうです。 そんな彼は、1973 年に「Malaguena」を、1976 年に「Same Song Second Verse」を発表。 そして 1978 年にこのアルバムを残しています。 いずれも未 CD 化作品と思っていましたが、本人のページからリマスタリングされた CD を通販で買うことができるようです。

 さて、このアルバムは、カリフォルニア州のパサデナのライブハウス「The Ice House」で録音されたライブアルバムです。 ファーストやセカンドに収録された曲も各 1 曲づつ収録されていますが、Duncan Tuck 自身の作品は「Crawdads」と「Herbie With」しかありません。
 ライブも Duncan 1 人で行われたもので、彼のバカテク・ギターが全編に堪能できる作品となっています。 特にインストとなっている「Manuel Labor」と「Malaguena」ではスパニッシュ・テイストのあるアコギの高速カッティングが聴かれます。 そう思うとボーカルのみで人を笑わす「Crawdads」、うまく観客を乗せて盛り上げる「(Ghosts) Riders In The Sky」、言葉遊びみたいな曲「Them Dog Kickers , Them Moose Goosers , Them Toad Suckers」などもあり、コメディアンとしての一面をすでにのぞかせてくれます。 ジャック・ブレルの「Amsterdam」は、シリアスな雰囲気で笑いはなし。 パサデナの観客を意識した「California Dreamin’」は、勿論あのママス&パパスの「夢のカリフォルニア」です。 この曲はコード進行やボーカルパートは原曲に忠実ですが、途中のギター・ソロなどは、インスト曲と同じようなバカテクが展開されます。
 全編ライブ、しかもかなりこじんまりした会場での演奏ということで、観客の反応や笑いも良く聞こえますが、レコーディングもかなり状態がよく、一瞬ライブであることを忘れてしまうほどの音質です。

 さて、このアルバムは自主制作盤なのですが、レーベル名や品番がありません。 品番が無いというレコードは、自主制作盤のなかでも珍しいと思います。 おそらくこのレコードは、Duncan Tuck のライブ会場などでの即売がメインで販売されていたのでしょう。 そうでもしない限り、流通させることは困難ではないかと思います。 そんなことを考えていると、まだ持っていないファーストとセカンドを見てみたいですね。 Duncan Tuck のホームページから CD で買うのもいいですが、せっかくなのでレコードで聴いてみたいものです。



■Duncan Tuck / It’s All Done With Mirrors■

Side-1
Manuel Labor
Crawdads
(Ghosts) Riders In The Sky
Them Dog Kickers , Them Moose Goosers , Them Toad Suckers
Malaguena

Side-2
Amsterdam
Herbie With
Codine
California Dreamin’

Recorded by Stebe Barker at The Ice house , Pasadena , California

No Label

Robb Kunkel

2006-08-22 | SSW
■Robb Kunkel / Abyss■

 1970 年代の初頭に、コロラド州デンバーを拠点として活動した Tumbleweed Records を集中的に取り上げていますが、それも今日が最終回。 今日取り上げるこの Robb Kunkel について、ネットで検索したらいろいろなことが分かりました。 
 まず、この Tumbleweed は数十枚程度の作品を残していると思いましたが、実はアルバムは 9 枚しか残していないことが判明しました。 しかも、この Rob Kunkel が最後の 1 枚となっています。 また、Robb Kunkel は、Tumbleweed のA&R の代表者だったとのこと。 会社の経営状況もある程度はわかっていたであろう Robb Kunkel がどんな思いでこのアルバムを制作していたのでしょうか? 摩訶不思議なサウンドと不気味なジャケットからは、起死回生のヒットを狙っていたとは思えません。 
 アメリカでは若い DJ を中心に、このアルバムの再評価が進んでおり、Robb Kunkel に関する掲示板への書き込みなども多く見られました。 時折、Robb 本人が書き込んでいたりするのには、戸惑いを覚えましたが。 

 さて、このアルバム。 サイケな SSW アルバムと評されることが多いですが、改めて聴きなおすと、予想できない曲展開の連続には改めて驚かされました。 波が岩に砕ける音から始まる「You Were The Morning」はギターのカッティング時点で聞き手のイマジネーションを刺激し、癒し系のボーカルが入るころには、Robb Kunkel の術中にはまってしまったことに気付きます。 波の SE をはさんで、浮遊感に包まれバイオリン・ソロが幻影を誘うかのような「Whispermuse」へと続きます。 サビが意外と雄々しい声なのも不思議で dadada で終わるエンディングも予想外。 曲の存在そのものが意外なカントリーチューン「Country Blues」をはさんで、ピアノの音色が空気を一転させる「O Light」へ。 この曲は厳かな印象のあるクラシカルな作品。 音が途切れないままアルバムタイトル曲の「Abyss」へと。 この曲は同時代のフォークロックでとくに斬新な切り口はありません。
 B 面に移ると、Robb Kunkel ワールドはまさに全開モードです。 ソフトロック的な「Monterrey」は、急にエキセントリックな展開になったり戻ったりとメリハリが強い曲。 そんななか、後半に聴こえるバカテクのギターは、おそらく Robb 自身によるものでしょう。 ラストはグルーヴ感満載に展開し、次の曲が始まったのかと錯覚してしまいます。そんななかにも聴こえる Robb のギター、その音色は、David T.Walker に通じる甘いものです。 ピアノの弾き語りとしっとりしたアレンジで景色を変える「Ten Summers」も、そのまま進むかと思うと、テンポアップしてサックス・ソロへ。 B 面はここまで、先の読めない展開ばかりで、さすがに困惑してしまいます。 そんなところに、ハードなギターのリフで始まる「Airhammer Eddie」が続くので、すでに白旗。 そんな曲も工事現場のドリル音で一気に終了してしまいます。 ピアノ、女性ボーカル、フルートと叙情構成三要素から始まる「Playa De Bagdad」もたまらない名曲。 クラシカルなテイストは、イタリアンプログレの世界観に通じるものがあると思います。 ラストの「Turn Of The Century」は、ゆったりしたピアノやジャジーな展開などが繰り返される曲です。 こうした展開の B 面は、A 面以上に Robb Kunkel の真骨頂で、彼がレーベルの A&R の代表者だったとなると、そこからリリースするミュージシャンもクセモノにならざるを得なかったのだと納得します。 そんなことを考えると、Danny Holien は無個性な SSW で、Pete MaCabe ですらノーマルに聴こえてしまいます。 レーベルの破綻もあって、全くプロモーションされなかったと推測されるこのアルバムは、1973 年に産み落とされた稀有な名盤ということに異論を挟む人はいないでしょう。

 冒頭のほうで、Robb Kunkel や Tumbleweed Records に関する情報をご紹介しましたが、その情報源となったのが、このサイトです。 2004 年に、Robb Kunkel 自身のインタビューも交えて、9 枚の作品解説も掲載されており、かなり興奮してしまいました。 自身のアルバムに対してのコメントの最後には、こんな言葉がありました。 『このアルバムは 500 枚プレスされたが、もしかするとそれ以上だったかもしれない。 会社は、そのリリースと同時につぶれてしまった...』

 最後になりますが、僕の持っているレコードはご覧のとおり FM 局のシールがべったり貼られてしまったものです。 だいぶ前にネット通販で買ったレコードなのですが、その元となる「WRMC」についても調べてみました。 すると出てきたのがバーモント州にある Middlebury College というカレッジ局だったことが判明。 ここのレコード棚にしばらくは保管されていたものを、いつの日か誰かが持ち出し、中古盤に売りさばいたものが、きっと何人かの手を渡って、深海(Abyss)を越えて自分のところにたどり着いたのでしょう。 



■Robb Kunkel / Abyss■

Side-1
You Were The Morning
Whispermuse
Country Blues
O Light
Abyss

Side-2
Monterrey
Ten Summers
Airhammer Eddie
Playa De Bagdad
Turn Of The Century

All Words and Music by Robb Kunkel
Except ‘You Were The Morning’ by T.Stockwell

Robb Kunkel : vocals , electric and acoustic guitars , piano , tamboura
Danny Hilien : electric guitar , backup vocals
Gregory Hammel : drums , percussion
Willy Seltzer : vocals
Stephen Swenson : fender bass
Howard Roberts : guitar and piano
Ray Brown : strings bass
Victor Feldman : percussion , congas
Diana Lee : vocals
Ed Michel : airhammer
Jimmie Bond : string bass

Produced by Ed Michel
Engineered by Baker Bigsby

Srings , woodwinds and all arrangements by Robb Kunkel , Gregory Hammel
Conducted by Jimmie Bond

Tumbleweed Records TWS 111

Pete McCabe

2006-08-19 | SSW
■Pete McCabe / The Man Who Ate The Plant■

 ちょっと迷いましたが、やはり自分の持っている Tumbleweed 作品を紹介することにします。 品番順ということで、今日は Pete McCabe が 1973 年に発表したアルバムを紹介します。
 自身の手による不思議なジャケット、そしてタイトルからして、独特の存在感のあるアルバムですが、唯一の作品ということもあってか、SSW ファンのなかでは一定の評価を得ているアルバムだと思います。

 まず、アルバムのクレジットで注目されるのが、Jim Keltner、Larry Knechtel、Chuck Rainey、Louis Shelton というLAの大物スタジオ・ミュージシャンの参加です。 このメンバーなので、標準以上のサウンドを期待してしまいますが、それは見事に空振り。 特にリズムセクションの 2 人はほとんど活躍の場が無かっただけに、1980 年前後の AOR シーンに見られた無駄な名前貸しのような気さえしてしまいます。 これも、プロデューサーの Bill Szymczyk の人脈なのでしょうか。 ちなみに、Bill Szymczyk (シムジクと読むらしいです)は、後に Eagles の Hotel California で一躍名をあげたプロデューサーです。

 さて、内容の方ですが、一貫していえるのが、Pete McCabe によるテナー・バンジョーの音が妙に目立つという点です。 このテケテケ感が随所に表れるのは同時代の SSW としては珍しいと思います。 アルバムは代表的な楽曲と言ってもよい「Magic Box」から始まります。 浮遊感のあるアコースティックサウンドにナイーブなボーカルが乗り、次第にストリングスが厚みを加えていくというオーソドックスな展開ではありますが、個人的にはかなり好きです。 つづいて、初期の Tom Waits に少し曲調と指向が似ている「Suicide」、Pedal Steel が入ることで癒し系のカントリーとなった「I’ll Be Your Sweetheart」、ギターとストリングスが桃源郷のような世界をかもし出す「Lullaby」と続きます。 三味線かと間違えてしまう Tenor Banjo をメインにしたアップチューン「Feelin’ Lonely」は、変拍子を交えた緩急自在の展開から、かなりサイケな曲に仕上がっています。
 B面に移ると、ニルソン風の小曲「Bijou」、Tenor Banjo に乗せた「Late Letter」は、小心者のラブレターという私小説的な世界。 ハープシコードと思しきサウンドがベースとなる「The Experiment」も、淡々としながらも少し不安定な気分にさせられます。 つづく、「I Put The Smiles Back On Their Faces」はニルソン風のニッチポップという感じ。 タイトル曲「The Man Who Ate The Plant」も、Pete McCabe の変人ぶりを想像させるほんわかした曲です。 ラストの「Music Box」は、ストリングスとホーンによるドラマティックな展開と抑制されたボーカルの対比が印象に残る名曲。 オープニングの「Magic Box」と対を成しているのかのようです。 

 久しぶりにこのアルバムを通して聴きましたが、繰り返しになりますがテケテケした Tenor banjo と感情移入しないボーカル、不思議なアレンジメントなどが融合しあって、かなり個性的な作品になっていると思います。 数年に一度は、忘れないように針を落として行きたいアルバムです。



■Pete McCabe / The Man Who Ate The Plant■

Side-1
Magic Box
Suicide
I’ll Be Your Sweetheart
Lullaby
Feelin’ Lonely

Side-2
Bijou
Late Letter
The Experiment
I Put The Smiles Back On Their Faces
The Man Who Ate The Plant
Music Box

All Words and Music by Pete McCabe
Arranged and Conducted by Jimmie Haskell
Produced and Engineered by Bill Szymczyk

Jim Keltner : drums and percussions
Larry Knechtel : keyboards
Chuck Rainey : electric bass
Louis Shelton : electric guitar , acoustic guitar on B⑤,B⑥
Pete McCabe vocals , acoustic guitar, tenor banjo , piano on A②,B⑥
Plas Johnson : sax on A②
Buddy Emmons : pedal steel on A③,B⑥
Sid Sharp : strings section leader
Ollie Mitchell : horn section leader

Tumbleweed Records TWS 105

Danny Holien

2006-08-15 | SSW
■Danny Holien / Danny Holien■

 異色の SSW 作品を多く生み出している Tumbleweed は、コロラド州デンバーを拠点とするレーベル。 おそらく品番は TWS-100 か 101 から始まっていると思われ、アルバムの総作品数は数十枚程度ではないかと推測しています。 Tumbleweed に関しては、Peter McCabe や Robb Kunkel といった異彩を放つ SSW を輩出したこともあり、以前から注目しており、自分にとって「レーベル買い」のできる数少ないレーベルです。

 今日から Tumbleweed 特集をするかどうか(とはいえ、これを含めて3枚しか持っていませんが)は別として、今日は Tumbleweed の最初期にリリースされた Danny Holien のアルバムを取り上げてみました。 1971 年に発売されたこの作品は、Danny を含めて 4人で演奏されているものの、サウンドはいい意味でヴァラエティに富んだ内容になっています。

 レーベルの拠点であるコロラドを連呼する「Colorado」からアルバムはスタート。 この曲だけでは何とも想像できないという始まりですが、すでにサウンド面での大きな特徴である Peter Jukoff のフルートは自由に舞い始めています。 続く、「Wella Wella Isabella」は、曲調やコーラスもほとんどビーチ・ボーイズという意外な展開に。 一転して、シンプルなギターとフルートが美しい「Red Wing」でようやく SSW 的には本領を発揮。 カントリーロックの「Hick」につづいて、Jimmie Haskell の荘厳なオーケストレーションが際立つ「The Strange One」です。 この曲は、特に中盤でのストリングスの展開が聴き所ですね。

 B 面に入ると、何の意味か分からない祈りの言葉みたいな「Satsanga」で幕開け。 この曲もギターとフルートが素晴らしい素朴な名曲。 シンプルなロックンロール「Labor Man」につづいて、サンクスギビングを題材にしているだけに大げさなコーラスが聴ける「A Song of Thanksgiving」と続きます。 ここでもフルート・ソロが利いています。 かなり内省的なフォーク調の「Home」は、つぶやくようなボーカルにストリングスが入り、晩秋の別荘にいるかのような趣きです。 開放的なギターのカッティングで始まる「Lino The Wino」は、グランジ以降のコンテンポラリーなロックに近いテイスト。 ラストはライブ録音かと思うほどリラックスした「Joshua Brown」で幕を閉じます。
 いや、閉じないのです。 というのも、「Joshua Brown」の後にまた「Lino The Wino」がフェードインしてリピート。 その後は、ギターやドラムスによるインプロヴィゼーションが繰り広げられて、かなりサイケデリックなエンディングを迎えるのです。 このあたりは、さすがは Tumbleweed という気がしますね。
 
 ちなみに、このアルバムのジャケットには、Danny Holien の枠ところが窓のように切り取られている仕様のものと、通常のジャケットの二種類が存在しています。 ジャケットに写る Danny Holien はかなりのイケ面ですが、ネットで調べても、このアルバム以降の足取りをつかむことはできませんでした。



■Danny Holien / Danny Holien■

Side-1
Colorado
Wella Wella Isabella
Red Wing
Hick
The Strange One

Side-2
Satsanga
Labor Man
A Song of Thanksgiving
Home
Lino The Wino
Joshua Brown

Danny Holien : guitar and vocals
Gaga : drums , percussion , piano , backup vocals
Peter Jukoff : flute and sax
Stephen Swenson : bass and backup vocals

Produced and Engineered by Bill Szymczyk

All songs composed by Danny Holien
Strimgs arranged by Jimmie Haskell

Tumbleweed Records TWS 102

Nancy Nevins

2006-08-14 | Female Singer
■Nancy Nevins / Nancy Nevins■

 1969 年の Woodstock に出演し、数十万人とも言われている聴衆を前に演奏したこともある幻のグループ「Sweetwater」のリード・ボーカルだった Nancy Nevins の唯一のソロアルバム。 Sweetwater がすでに解散した 1975 年に、Tom Cat からリリースされました。 Sweetwater に関してはあまり興味も無く、Woodstock の映像も見たことが無いのですが、このアルバムを聴くための予備知識として、Nancy Nevins がそれまで歩んできた経緯を調べてみました。 すると、かなり切ないストーリーがあったことがわかりました。
 Sweetwater は、名門 Reprise から 3枚のアルバムを発表していますが、Nancy Nevins がフルで参加しているのは 1968 年のファーストのみのようです。 というのも Woodstock の後に Nancy Nevins は重大な自動車事故に遭い、瀕死の重傷となってしまったのです。 かなり重たい後遺症を抱えてしまった Nancy を失ったバンドは空中分解するように 1972 年に解散したということです。 
 そんな Nancy Nevins が再起をかけて 1975 年に発表した唯一のアルバムが、今日ご紹介するアルバムです。 このアルバムを入手したときは彼女のそんなエピソードなどは全く知らず、単にジャケット買いだったのですが。

 アルバムの内容の方はお世辞にも傑作とはいえないもので、おそらくはもっとハスキーでパワフルだったであろう Nancy のボーカルも表現力に乏しく、何か中途半端な作品となってしまいました。 結果的に、全く売れなかったことも十分納得できます。
 アルバムのなかでは、シングルカットされた「We Could Always Say It Was Rainin’」が同時代の女性シンガーを意識したような作品となっています。 この曲のように、SSW 指向の強い作品は、「Lately」や「Joie」、「Just Like A Little Boy」などがあります。 一方、かつての(あくまでも想像ですけど)Sweetwater を髣髴とさせようとするファンキーな曲もあり、全体のバランスを崩してしまっています。 しかも、ソングライティングに秀でたものがないため、魅力的な音楽が醸し出すある種のミラクルのようなエッセンスが全く感じられません。 このアルバムの不調のせいか、Nancy Nevins はその後しばらくの間、音楽シーンから身を引いてしまうことになります。

 しかし、1999 年にアメリカで Sweetwater を題材としたテレビ映画が放映されたのを機に、Sweetwater も再結成し、Nancy Nevins もそのメンバーに加わっているようです。 Nancy 本人の公式ページも発見しました。 けっして順風満帆な人生ではなかったと思いますが、こうして元気そうな姿を見ると、彼女のファンではない自分でも応援したくなります。



■Nancy Nevins / Nancy Nevins■

Side-1
Sunny Face
We Could Always Say It Was Rainin’
Lately
Feel So Good
Don’t Hold Back

Side-2
Barquen Heart
Let Me
Joie
Just Like A Little Boy
Ten Cents A Dance

Produced by Tom Catalano
Arranged and Conducted by Artie Butler

All Compositions by Nancy Nevins
Except ‘Ten Cents A Dance’ by Rogers & Hart

Musicians
Dennis Budimir / Al Casey / Victor Feldman / John Guerin / Dean Parks /
Reinie Press / Sid Sharp (Concert Master) その他省略

Tom Cat Records BYL 1-1063

Tom Sullivan

2006-08-12 | SSW
■Tom Sullivan / If You Could See What I Hear■

 盲目の歌手 Tom Sullivan は 1975 年に東京歌謡祭に来日し、最優秀歌唱賞を受賞した SSW です。 といっても、当時 11 歳だった僕が、そのことを知ったのはつい先日のこと。インターネットで検索して知ったのですが、今日ご紹介する彼のファースト・アルバムが発売されたのは 1972 年ですので、3 年も経てから東京歌謡祭に呼ばれたというのはちょっと腑に落ちません。 しかも、この「If You Could See What I Hear」を歌っての受賞ということですので。 しかしネットは便利なもので、その理由もすぐに分かりました。 このアルバムをリリースしたレーベル Perception が倒産してしまったにもかかわらず、地道なラジオ・リクエストから、じわじわとこの曲が人気を集め、全米でヒット。 そして、ついに 1975 年に来日という運びとなったようです。 そんなこと全く知りませんでした。

 さて、そんなエピソードのあるこのアルバム。 全体的に、Tom Sullivan の魂の叫びに近いボーカルが全編を貫いているという印象で、けして軽い気分で聴く音楽ではありません。 ましてや、昼下がりの BGM には、まったく成り得ません。
 「If You Could See What I Hear」は、Tom 自身のピアノをバックに彼のエモーショナルなハイトーン・ボイスが繰り広げられます。 スロウで密室のなかで叫んでいるかのようなエコー感があり、心に刺さってくる印象です。 つづく、「What Is A Woman?」も同類の曲ですが、「Idyle Hands」は一転して、トーキング調のイントロから始まるアップ・チューン。 ギターの響きが心地よいメロウナンバー「Fair Play」、映画のサントラみたいな仰々しいアレンジの「Today’s Children Tomorrow’s Earth」はタイトルからして現在の少子化や環境問題を連想します。 
 本人の作詞・作曲でない「Touching You」は、今風にいうとチルアウト的なナンバー。 後半のネチッこいギターソロが印象的です。 最初期の Randy Newman みたいな「Turtles」につづき、内省的な「Naked Truth」ではストに限界までハイトーンで歌い上げるのですが、ちょっとリスナーは引いてしまいますね。 ゴスペル調のピアノに導かれた「Jesus Walked That Lonesome Valley」は、アップテンポのソウルフルな曲。 明日への希望を感じさせるナンバーなのには安心させられます。

 現在も俳優やミュージシャン、著述業などで精力的に活動している Tom Sullivan ですが、レーベルの倒産のせいでしょうか、このアルバムは CD 化されていないようです。 Perception といえば、以前 John Simson の唯一のアルバムをご紹介していますが、こちらも同様に未 CD 化です。
 1947 年に生まれ、未熟児網膜症で失明してしまったという Tom Sullivan 。 彼の人生がフジテレビの人気番組「奇跡体験!アンビリーバボー」で紹介されたことがあるようです。 興味のあるかたは、ココを覗いてみてください。



■Tom Sullivan / If You Could See What I Hear■

Side-1
If You Could See What I Hear
What Is A Woman?
Idyle Hands
Fair Play
Today’s Children Tomorrow’s Earth

Side-2
Touching You
Turtles
Naked Truth
Jesus Walked That Lonesome Valley

All songs Written by Tom Sullivan
Except ‘Touching You’ by Patrick Adams & David Jordan
‘Jesus Walked That Lonesome Valley’ traditional

Produced and Arranged by Tom Sullivan
Associate producer : David Jordan

Recorded at Blue Rock Studio , New York & Deminsion Sound , Boston

Perception PLP 25

Scritti Politti

2006-08-10 | Live Report
■Shibuya Club Quattro / Scritti Politti ■

 思えば、1984 年から 1985 年にかけての Scritti Politti の勢いは凄まじかったですね。 12inch シングルを出すたびに、アルバムへの期待は高まるばかり。 ついに登場したアルバム「Cupid & Psyche 85」は、この年を代表する作品として評論家たちからは大絶賛され、それほど音楽にこだわらないリスナー層にまで広まっていったものです。
 その中心人物である Green Gartside の存在感も崇高なまでの輝きを放っていたように思います。 このサウンドをクリエイトする稀有な才能に加え、甘いボーカルそしてルックス、そしてまったく汗をかかないのではないかと思ってしまう生活臭の無さ。 当時単に Green と名乗っていたこの人は実は宇宙人なのではないかとさえ思ってしまうほどでした。 
 そんな Scritti Politti が Summer Sonic 06 で来日するのを機に、単独公演を行うということで、速攻でチケットを入手し行ってきました。 来日情報を知るまで知らなかったのですが、Scritti Politti は今年 4 月に 5 枚目のオリジナルアルバム「White Bread Black Beer」を発表していたのです。 そのアルバムは、一昨日に購入し 3 回くらい聴いて予習してライブに臨みました。

 そもそも生身で動いている Green が見られれば十分という気持ちでいたのですが、実際に会場に近づくと、Tシャツを買おうとか、Fred Maher と David Gamsonがメンバーだったりしないかな、などと淡い期待も膨らんできました。 しかし、会場ではTシャツ販売もなし、即売の CD も「White Bread Black Beer」の国内盤が出ていないこともあってか、「Cupid & Psyche 85」だけが陳列されていました。 なんだか、気の毒な気分です。
 さて、ライブの方は 6 人編成。 ギターとボーカルの Green Gartside の他には、紅一点のベース(アレッサと呼ばれていました)、ギター、ふたりのキーボード、そしてドラムスという編成です。 ドラムス以外は全員コーラスもできて、なかなかキャッチーでポップな演奏を繰り広げていました。 ヒゲを生やして生活臭の出てきた Green は歌詞を覚えていないのか、譜面台を置いていました。 そして曲が終わる度に下手の若い方のキーボード奏者が、歌詞か譜面らしきものを持ってきます。 まるで丁稚のような関係なのには笑ってしまいます。 奥のほうにもう 1 人いるキーボードも人相が中年太りのメガネという珍キャラ。 とてもミュージシャンには見えない感じですが、サウンド的には重要なパーツを担当しているように聴こえました。
 肝心のラインアップですが、新作を中心にアンコール含めて全 18 曲だったと思います。 僕は 3 枚目と 4 枚目はまともに聴いていないので、そこからの曲があったかどうかは判断できませんでしたが、7 曲目に「Wood Beez」、9 曲目にファーストから「The Sweetest Girl」を演奏したものの、古い曲はこれだけでした。 だからといって落胆したわけではなく、新作のなかにも含まれているダンサブルな曲やポップな曲などのオンパレードでかなり楽しめる内容だったと思います。 全 16 曲をほぼ 60 分で終え、アンコール 2 曲でおそらく 70 分くらいというかなりコンパクトなライブでしたが、トータルの時間が短いのは 1曲 1曲が短いためなので、別に気にはなりませんでした。
 ヒゲを生やして、ジーンズに紺色の長袖のシャツ、そしてネクタイといういでたちの Green Gartside でしたが、その独特のボーカルは健在。 まだ新作を未聴の方は、一聴をお勧めします。 自宅での録音、Rough Trade からのリリースということで、ファーストアルバム「Songs To Remember」に雰囲気が似ているかもしれません。

 帰り際に、友人と談笑するピーター・バラカン氏を目撃。 彼の「The Popper’s MTV」では、Scritti Politti を精力的に紹介していたので、日本での人気に一役買っていたのは間違いないでしょう。 なんてことを書いていると、やっぱり生で「Hypnotize」、「The Perfect Way」「Absolute」なんかを聴いてみたかったなあ、と思ってしまいます。
 Summer Sonic 06 に温存なんてことはないですよね。

■Shibuya Club Quattro / Scritti Politti ■

2006年8月10日
渋谷 Club Quattro

19:08頃開演 20:18頃閉演

Bruce Anderson

2006-08-05 | Christian Music
■Bruce Anderson / Dialogue■

 ミネソタ州の州都セント・ポールを拠点とする Artronics は、クリスチャン・ミュージック専門のレーベルだったようですが、そのレーベルから 1970 年代初頭から中盤前後に発表されたのが、この Bruce Anderson の唯一のレコードです。 残念ながらレコードには発売年度が表記されていません。 同姓のミュージシャンは、1980 年初期の Ralph Records (目玉おやじのレジデンツで有名)から数枚のアルバムを発表した MX-80 Sound のメンバーにいますが、さすがに別人でしょう。 Mx-80 Sound は当時、ごく一部の音楽雑誌で評価されたりしたこともあって、僕も 1枚「Crowd Control」というアルバムを買いましたが、国内盤はとうとう出ませんでしたね。

 さて、話を今日の主人公 Bruce Anderson に戻しましょう。 このアルバムは、通して数回程度聴いたことがありますが、その起伏の無さと無表情なボーカルにアドレナリンが放出されないのか、毎回のように記憶の彼方に追いやられてしまっています。
 今回も久しぶりに通して聴きましたが、毎回このブログで恒例としている全曲へのコメントはとてもできそうにありません。 ほぼ全編がギターの弾き語りとなっており、数曲でわずかながらにベースの音が聴こえる程度です。 曲名を見ていただくと分かるように、このアルバムも、クリスチャン・フォークといっていい内容です。 曲名に Jesus という表記が含まれているのが4曲もあり、他の曲もキリスト教色が強く感じられます。
 全 12 曲のうち、Bruce Anderson によるオリジナルは、「Dialogue」 1 曲のみで、他の曲は、Gordon Lightfoot 、Larry Norman といった作家の手によるものです。 トラディショナルに Bruce Anderson がアレンジした曲などもあります。 唯一、B-② の「Oh Lord My God」は、聴き覚えのあるメロディーなのですが、この曲は「The Water Is Wide」の歌詞を Bruce Anderson が書き換えたもの。 その結果が、Lord に God となってしまうところがスゴイです。
 一部では、Acid Folk というような紹介もされているらしいこのアルバム。 くどいようですが、これはCCM Folk とでもいうべき、Christian Folk のど真ん中に位置付けられる作品です。 必要以上の感情移入をしないかのようなボーカルと控えめなギターにささえられたスピリチャルなサウンドは、自分も含めて言葉の通じない日本のリスナーには伝わりづらいでしょう。 
 カナダのバンクーバーで生まれ、このアルバムを制作した頃は Seattle Pacific College の心理学部で学んでいたという Bruce Anderson 。 彼の活動拠点はあくまでもシアトルだったようです。 そんな彼の唯一と思えるこのアルバムがミネソタのセント・ポールから発表されるようになった経緯などは知る由もないのですが、そんなことを考えながら向き合うのもレコード鑑賞の醍醐味ですね。



■Bruce Anderson / Dialogue■

Side-1
Pride of Man
Dialogue
I Wish We’d All Been Ready
Here Is the Way
I Have Decided to Follow Jesus
Sweet Sweet Song of Salvation

Side-2
Hidden Worlds
I Amn the Resurrestion
Oh Lord My God
Bridges of Love
Oh, Deep Deep Love of Jesus
Walking With Jesus
Sweet Little Jesus Boy

Bruce Anderson : guitar
Tom Tjornhom : bass

Produced by Artronics , Incorporated

Artronics Records ART-271

Michael Cassidy

2006-08-04 | SSW
■Michael Cassidy / Nature’s Secret■

 前回ご紹介した Eric Relph 同様、カリフォルニアが生んだ珍盤としてコレクターの間ではよく知られていると思われる Michael Cassidy のアルバムを取り上げます。
 このサイケなジャケットで有名なアルバム。 ウサギを膝に抱えた Michael Cassidy が森の中に佇んでいるのですが、よく見ると近くには鳥や小鹿が寄ってきているという構図です。 まるで Close To You の歌詞みたいな光景ですが、そこには何か宗教的なものを感じてしまいます。
 そしてその思いは、裏ジャケットを見ると明らかになります。 いきなり仏像はないですよね。 宗教的な色彩の濃い音楽はけっして珍しいものではありませんが、この Michael Cassidy の場合は、ヒンドゥー教というところが異色です。 Special Thanks というクレジットに George Harrison の名前があることからも、東洋世界への傾倒ということが分かるのですが、サウンド面での影響はほとんど感じられないところがまた不思議なのです。 シタールなどは一切使われていません。
 サウンドはベーシックにはギターをベースにした曲がほとんどで、時折フルートが彩りを添えるというスタイルです。 オープニングは宗教への勧誘みたいな「Come Along」で始まりますが、いきなり「500年前のインドでは…」という歌い出しに腰が抜けそうになる「Golden Avatar」で本領発揮。 コンガとアコギによるグルーブ感が心地よい空間を生み出します。 淡々と教理が述べられているかのような「Sign of Surrender」に続き、サビの歌詞で「ハレ・クリシュナ」と繰り返される「Simple Living」は、ほとんど My Sweet Lord の世界観です。 アップテンポでボーカルがシャウト気味の「Spirit of Reason」は後半のキーボードがプログレみたいで失笑してしまいます。
 B面では、メロウなバラード「Hidden Worlds」は癒し系。 「I’ll Never Be Younger Than Today」も子供じみたタイトルですが、なかなかの佳作。 アルバムタイトル曲「Nature’s Secret」はパーカッシブなところばかりが目立ってしまいます。 一転して淡々とした「Embodiment of Bliss」で瞑想してから、ラストへ突入します。 邦題をつけるならば、「叡智の人」となるのでしょうか、「Oh Thoughtful Men」は R&B 的な曲調でまたまた意外。 バンジョーやクラリネットが加わるサビは一転して陽気なメジャー調になるところが上手くできています。 とはいえ、ものすごいキラーチューンがあるわけでもなく、全体のクオリティもお世辞には高いとはいえません。 しかしながら、1977 年のカリフォルニアで、どうしてこのようなアルバムが世に出されたのかということを考えると、捨てがたい気分にさせられるのも事実です。

 Michael Cassidy について、このアルバムがファーストでセカンドアルバム「Beyond Illsuion」が同じ Golden Lotus よりリリースされています。 と、ここまで書いてきて、ネットで調べたところ、Michael Cassidy のベスト盤なるものが CD になっていることは判明しました。 このベスト盤にはの2枚以外にも、「Change of Heart」(Eric Carmenみたい!)、と「Take Me Back」というアルバムの4枚からの選曲となっています。 さらには最新作と思われる「Trying To Connect With You」というアルバムも存在していました。 ベスト盤の収録曲順からして、「Nature’s Secret」はセカンドアルバムかもしれません。 
 Michael Cassidy は改名して、Mangalananda Dasa と名乗ってるとのことで、彼の信仰の強さを感じます。




■Michael Cassidy / Nature’s Secret■

Side-1
Come Along
Golden Avatar
Sign of Surrender
Simple Living
Spirit of Reason

Side-2
Hidden Worlds
I’ll Never Be Younger Than Today
Nature’s Secret
Embodiment of Bliss
Oh Thoughtful Men

Produced by Michael Cassidy
Words and Music by Michael Cassidy and Indra Armstrong

Michael Cassidy : lead vocal and guitar
Gerry Peterson : flute
Steve Bartek : lead guitar
Robertleigh H. Barnhart : cello
Bill Breland : bass
Peter Peronger : tablas
Lyn Harper : background vocals
Lea Harper : background vocals
Drew Lawrence : drums
Wayne Cook : keyboards
Tarry McNelly : banjo
Bob Conti : congas
Glen Garret : flute & clarinet

Recorded at Hit City West

Golden Lotus Records GL-1