Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

Ross Ryan

2007-09-13 | Australia
■Ross Ryan / A Poem You Can Keep■

  前回に続いて、セピア色のジャケット。 今日、取り上げてみたのはオーストラリアのシンガーソングライター、Ross Ryan のアルバムです。 Ross Ryan はアメリカ生まれですが、このアルバムを発表した 1972 年には、オーストラリアの西海岸、Perth に住んでいました。 彼曰く、『これは、僕の 6 枚目のレコードだ。 でも不幸なことにあなたが買うことのできる唯一のものだ。』とのこと。 もしかして、カンサス州からオーストラリアにたどり着く前に、自主制作でアルバムを 5 枚も発表していたのかもしれません。 その謎については最後に触れることにします。

 さて、このアルバム、1970 年代前半にありがちな乾いたロックよりの SSW アルバムを予想する方も多いかと思いますが、声質も含めて近いのは、イギリスの Al Stewart じゃないかと個人的には思っています。 あるいは、Cat Stevens とか。もちろん全部が全部似ているわけではありませんが、アルバムの後半に並ぶしっとりとしたメロディとアレンジには、アメリカではなくイギリスの匂いを感じるのです。

  たしかにオーストラリアのイメージを感じる「I Don’t Want To Know About It」や「Goodbye Mitchy」のような曲もあるのですが、半数くらいが音数の少ないバラード、もしくはミディアムなのです。 A 面では、アルバムを代表する名曲「Country Christine Waltz」やまさに Al Stewart にそっくりな「Worth My While」の 2 曲が光ります。 B 面は、アルバムタイトル曲の「A Poem You Can Keep」からエンディングまでの 3 曲が英国的です。 「A Poem You Can Keep」はクラシカルな趣のある上品な曲ですが、メドレー風に途切れずに次の「So Say Goodbye」へと続いていきます。 この曲も翳りのあるしんみりした曲ですが、そのムードはラストの「Last Song」へと受けつがれていきます。 この 3 曲から思い浮かべるのは、どんよりしたイギリスの空模様であって、けっして Perth に広がる青空のイメージではありません。 

  とりあげなかった曲のなかにも変わった曲があります。 たとえば、「Can’t Say It Hurts Me」は、ピアノがリードする二拍子。 軽快なタッチですが、B 面へのつなぎという感じですね。 クレジットはないものの、スィングするクラリネットのソロが印象的です。 陽気な曲なのですが後半は演奏がフェードアウトし、コーラスだけが浮かび上がってきます。 さらにサウンド・コラージュ的な要素も盛り込んで終わったかと思うと、静かなエピローグが待っているという凝ったアレンジになっているのですが、そこはかなり斬新に響きます。
  他には、Todd Rundgren の曲名みたいな「Hello , Remember Me」 は Tony Easterman によるピアノがメランコリックに響く佳作。 Peter Martin のギターのみをバックにした繊細な小曲 「Making The Same Mistakes」も忘れてはいけません。 このように、各曲のさりげないクオリティの高さには、感心させられます。

  後にオーストラリアで最も成功したシンガー・ソングライターの一人となったRoss Ryan ですが、彼のメジャー・デビューとなるこの作品を聴いていると、後の成功が納得できる内容となっています。 とはいえ、代表的な作品である次作「My Name Means Horse」をはじめ、彼のほかの作品を未聴なので、これ以上なんとも言えませんが、おそらく 1970 年代の彼の作品は買って損のないレベルなのだろうと思います。

 最後に、彼の公式ページを発見しました。 すると、たしかにこのアルバムの前に 5 枚もの自主制作アルバムを発表していることが判明。 しかしジャケットが掲載されているのは「Homemovies」1 枚だけという状態。 このアルバムなんとプレス枚数がたった 90 枚だったそうです。 さらには、ファースト・シングル「Christine」にいたっては、Only 3 acetates were made. だそうです。 これには絶句ですね。 3 枚しかないレコードなど、この世に存在するのでしょうか?



■Ross Ryan / A Poem You Can Keep■

Side-1
I Don’t Want To Know About It
Empire Lady
Country Christine Waltz
Worth My Wile
Can’t Say It Hurts Me

Side-2
Hello , Remember Me
Making The Same Mistakes
Goodbye Mitchy
A Poem You Can Keep
So Say Goodbye
Last Song

Arranged by Peter Martin
Produced by Peter Dawkins

All Songs composed by Ross Ryan

Ross Ryan : vocal , acoustic guitar
Tony Easterman : piano , organ , electric piano , clavinet
Dave Ellis : bass
Doug Gallacher : drums, wind chimes
Peter Martin : acoustic and electric guitar
John Sangster : tambourine
Kenny Kitchen : Pedal Steel
Lal Kuring : cello

Terry Walker : background vocals
Mike Leyton : background vocals
Betty Lys: background vocals
Bobbi Marchini : background vocals

EMI(Australia) ST-11221


The Go-Betweens

2006-05-14 | Australia
■The Go-Betweens / Very Quick On The Eye = Brisbane , 1981■

 オーストラリアが生んだ偉大なロックバンド The Go-Betweens の Grant McLennan が去る 5 月 6 日に亡くなりました。 ブリズベンの自宅で睡眠中に亡くなったとのことですが、詳しい死因などは公式 HP でも触れられていません。 享年 48 歳でした。

 このニュースを教えてくれたのは、来日コンサートにも一緒にいった友人 H 。 携帯メールで教えくれましたが、The Go-Betweens の Grant McLennan のことを、「G ビトのグラント」と省略しまくっていたので、最初は何のことやら分かりませんでした。
 実は彼からメールを受け取ったのは、5 月 10 日の 15 時過ぎのこと。 ちょっと気持ちを落ち着かせてからブログにしようと思って、今日になってしまいました。
 
 The Go-Betweens は、Robert Forster とGrant McLennan という二人の才能豊かなシンガーソングライターを中心としたロックバンド。 デビュー当初は、イギリスの Postcard や Rough Trade からレコードを出したりしたこともあり、「ネオアコ」のカテゴリーで語られることが多かったバンドです。 しかし、彼らのサウンドはむしろ、楽曲指向の強い大人のロックだったと思います。 時代や世代・言葉を超えて聴き継がれていってほしい音楽です。

 そんな彼らのデビュー作「Send Me A Lullaby」のデモ制作段階での音源をまとめたのが、いま聴いている「Very Quick On The Eye = Brisbane , 1981」です。 買ったのはこのアルバムがリリースされた直後の 1986 年。 もう 20 年も前なのですね。 その当時は、新作かと思いましたが、裏ジャケを見て、音を聴いてすぐにデモだとわかりました。
 このアルバムは、Missing Link からライセンスを受けて制作されており、また公式サイトのディスコグラフィーの Rarities and promotional releases にも掲載されていることから準公式のアルバムと考えていいでしょう。 
 ここで聴くことのできるサウンドは、鋭角なアコギやオブスキュアなボーカルなど、The Go-Betweens の照れくさいような瑞々しさにあふれています。 演奏もかなり危なっかしいですし。 アルバムには後に「Send Me A Lullaby」に収録される曲も数曲ありますが、ここでしか聴けない音源もあることも魅力ですね。

 今も鮮明に思い出すのは、2003 年 6 月 9 日の The Go-Betweens の初来日のこと。 あかり客の入りも良くなかったのか、ちょっと余裕のあるスタンディング状態で、友人の H と K と 3 人で渋谷のクラブクアトロの最前列近くを陣取りました。 クアトロであんなに前のほうに行ったのは、他には The Beautiful South のときくらいですね。 普段着よりもラフな感じでシャツの袖まくりをした Robert と温厚そうな表情の Grant の姿を思い出します。 あのライブが最初で最後のものになってしまうとは、残念でなりません。

 さきほど訪れてみた公式サイトには、Grant McLennan Tribute という追悼の書き込みコーナーが設けられていました。 そこの書き込みのなかには、Norman Blake の名前が。 内容を見るに、間違いなく Teenage Fanclub の Norman でした。 愛すべきミュージシャン仲間からも Grant が慕われていたことがよくわかり、胸がキュンとなってしまいました。

 The Go-Betweens の名をシーンにとどろかせた超名曲「Bachelor Kisses」や哀愁極まりない「Apology Accepted」といったかけがえのない名曲を僕らに残してくれた Grant McLennan。 彼の若すぎる死に言葉もありませんが、Grant McLennan の音楽のすばらしさは永遠。 僕は一生聴き続けいていくことを誓いますよ。
Thank you, legendary Australian singer songwriter , Grant W McLennan!



■The Go-Betweens / Very Quick On The Eye = Brisbane , 1981■

Side-1
Sunday Night
One World
If One Thing Can Hold Us
Hope
It Took You A Week

Side-2
Ride
Arrow In A Boy
The Clowns Are In Town
Serenade Sound
Careless

Robert Forster
Grant McLennan
Lindy Morrison

All Compositions ; R.Forster / G.McLennan / The Go Betweens

Recorded in Brisbane at Queensland Recording Studio early 1981 as demos for the ‘Send Me A Lullaby Album’

Under License From Missing Link Records

Man Made Records MM008