Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

David Habeck

2010-12-30 | SSW
■David Habeck / The Circle Meets Itself Each Time Around■

  早いもので今年最後の投稿となります。 毎年、最後に紹介するアルバムは、その年の最大の収穫、もしくは自分のコレクションを代表する名盤なのですが、今年の David Habeck は前者にあたります。 彼の存在と音楽については、レコードをオーダーするまで知らなかったので、長年追い続けてきた作品というわけではありません。 何か惹かれる臭いを感じたものの、こうして年末の作品として取り上げるとは思ってもみませんでした。

  David Habeck の唯一の作品は 1981 年に発表されたもの。 ウィスコンシン州を拠点にしていたマイナー・レーベル「Makin’ Jam」からのリリースです。 一部のネットでは、Dreamy rural folk psyche と表現されているようですが、このアルバムには不思議な浮遊感、生気の希薄さ、破綻しそうな繊細さ、といったものが危ういバランスで同居していました。 美しいアコースティック・ギターとパーカッションがサウンドの中心となっていますが、誰もいない森の中で独り言をつぶやいているような危険で私的な世界が封じ込められているのです。

  アルバムはパーカッションがギターに先行して引っ張る印象の「I’m Gonna Sail」で幕開け。 David Habeck の頼りなげなボーカルは、すでに掴みどころのない魅力を発揮しており、コーラスの Toni Rades との息もぴったり合った名演となっています。 Ben Watt の持つ陰鬱な雰囲気に近い「Steady She Goes My Friend」はイギリス的な佇まい。 つづく「Dancing In A Sun Stream」は究極のドリーミー・サイケ。 ギターとパーカッション、儚いコーラスが紡ぎ出す奇跡的な瞬間がここには刻印されており、個人的なアルバムのハイライトとなっています。 内向性の強いフォーク「Twenty Years Now」を挟んで、「Dudley Doo-Right」へ。 この曲はバンジョーの音色からして、カントリー色の表れたルーラル・ナンバー。 A面ラストにして、ようやく深い落葉樹林から草原に抜け出たような気分になります。

  B 面はタイトル曲の「The Circle Meets Itself Each Time Around」から。 何か哲学的なメッセージのようにも感じられる曲名ですが、アルバムのなかでは明るめのシンプルなもの。 Toni Rades とのハーモニーが聴きどころです。 続いては、ジャズ&ボサノヴァ風の雰囲気でカフェ・ミュージックの様な「Leisure Time」、Toni Rades とのそよ風コーラスが美しい「The Aftermath」と淡い景色が続きますが、「Daisy Lady」が唯一残念なバンジョー系カントリー。 けして悪い出来ではないのですが、アルバム全体の統一感と完成度を考えると、マイナスに作用してしまうことは否めません。 ラストの「What The Morning Brings」では、いつもの David Habeck の世界に戻り、何事もなかったかのように静かにアルバムは閉じていきます。

 この素晴らしいアルバムの秘密を探る唯一の手掛かりは、プロデューサーの Skip Jones でしょう。 ウィスコンシン州を代表する SSW でもある彼のソロ作品は未聴ですが、彼が David Habeck の才能を見出し、レコーディングの力添えをした可能性は高いと思われるのです。 Skip Jones の公式サイトには問い合わせ先も出ているので、David Habeck が今どこで何をしているのか、尋ねてみることも可能ですが、その行為が正しいことなのか判りません。 おそらくウィスコンシンでも、彼は幻のような存在で、謎めいた消息不明だけを残しているような気がするからです。

  今年もおつきあいくださいまして、有難うございます。 良いお年をお迎えください。

■David Habeck / The Circle Meets Itself Each Time Around■

Side 1
I’m Gonna Sail
Steady She Goes My Friend
Dancing In A Sun Stream
Twenty Years Now
Dudley Doo-Right

Side 2
The Circle Meets Itself Each Time Around
Leisure Time
The Aftermath
Daisy Lady
What The Morning Brings

All songs by David Habeck
Produced by Skip Jones
Arranged by David Habeck

David Habeck : vocals, acoustic guitar
Eric Blite : acoustic guitar on ‘Steady She Goes My Friend’ and ‘I’m Gonna Sail’
Kurby Hoffman : banjo
Michael Duebleil : bass
Jeff Schneider : drums , congas and cabasa
Toni Rades : vocals
Greg Habeck : voice on ‘Dudley Doo-Right’

Maikin’ Jam M.J. 1001

Wayne Rostad

2010-12-25 | SSW
■Wayne Rostad / Writer Of Songs■

  クリスマス寒波が到来して、日本海側は大雪のようです。 これでスキー場も何とか営業開始できるようになるのでしょう。 もう 1 週間早ければお客さんも余裕を持ってスケジュール組めたでしょうけど、こればかりは仕方ありません。
  
  毎年、冬になると雪景色のジャケットのレコードを紹介しますが、Wayne Rostad のデビュー・アルバムもその仲間入りです。 1979 年に発表されたこのアルバムは、ナッシュビルやトロントでレコーディングされたもの。 1947 年生まれという Wayne Rostad が 32 歳で作り出した作品です。 

  アルバムはシングル・カットされた「Willie Boy」で幕を開けます。 この曲はカナダのカントリー・チャートで最高 9 位を記録したスマッシュ・ヒット曲ですが、それほどキャッチーな曲ではありません。 つづく「Good Time Lady」、「The Year McLaren’s Store Burned Down」とスロウな楽曲が続くに従って、Wayne Rostad の男臭さが前面に出てきます。 とくに後者は扇情的なストリングスと哀愁あふれるコーラスが音に厚みを加えて、奥行きと深みのあるバラードに仕上がっています。 ギターのアルペジオが心地よい「Dollard Marlowe」、典型的なカントリーワルツ「Highway Eleven」と弛みなく流れていきます。

  B 面に入っても安定した楽曲が続きます。 アルバム・タイトルにも引用された「Baby, Lady, Poet And Writer Of Songs」は懐深い優しさと余裕にあふれた傑作ミディアム。 アルバムを代表する 1 曲を選ぶとしたらこの曲でしょう。  標準的なカントリー「Ryan’s BP Station」をはさんで、広がりのあるバラード「We Should Have Been Friends」へ。 ストリングスとペダル・スティールの音色が郷愁を誘う様は、まぶたの中の夕焼けのようです。 ここからのラストまではレベルの高いバラードが続きます。 セカンドシングルとなった「Ridean Street Queen」は流れを汲んだ素晴らしいワルツ。 ラストの「Take Me As I Am」はピアノの音色が印象的なバラード。 もう 1 曲あったらおなか一杯になりすぎるという程よい曲数で、アルバムはゆるやかにエンディングを迎えていきます。

  このように、このアルバムは数多くのカントリー系の SSW 作品のなかでも、バラードを中心としたマイルドな味わいの濃い傑作だと言えるでしょう。 テケテケしたバンジョーが煩わしかったりという場面はいっさいありません。 そうした点からも、カントリーであることを意識せずに聴くことができるアルバムです。
  故郷の家に向かい新雪を踏みしめる男。 男のダンディズムを表したジャケットも壁に飾りたくなるような出来映えですが、この伊達男 Wayne Rostad は地元 CBC テレビ場組のホストを 20 年以上勤めたりして、カナダではかなり有名な存在のようです。 公式ページも充実しており、このアルバムも CD 化されて販売されていました。

■Wayne Rostad / Writer Of Songs■

Side 1
Willie Boy
Good Time Lady
The Year McLaren’s Store Burned Down
Dollard Marlowe
Highway Eleven

Side 2
Baby, Lady, Poet And Writer Of Songs
Ryan’s BP Station
We Should Have Been Friends
Ridean Street Queen
Take Me As I Am

Produced by Dallas Harns, Gary Buck
Recorded at MBS Elmira, RCA Nashville, Manta Tronto

Mike Francis : electric guitar, acoustic guitar, fretted dobro
Pete Wade : electric guitar, slid dobro
Bobby Thompson : acoustic guitar
Keith McKay : acoustic guitar
Al Brisco : pedal steel, slide dobro
Lloyd Green : pedal steel
Dave Lewis : drums, percussion
Buddy Harmen : drums
Greg Smith : electric bass
Joe Allen : electric bass
Rob Asrelatine : acoustic piano, electric piano, synthesizer
Pig Robbins : acoustic piano, electric piano
Randall Prescott : monte harp, 5-string banjo
Al Cherney : violin
Brian Barron : violin
Maria Riedstra : violin
Nuala : Freund : violin
Pat McCormick : violin
Larry Toman : violin
Tom Wermuth : violin
Patricia Mullen : violin

Background vocals : Judy Donnerlley, Miffy Kirkham, Carla Jensen, Dave Hifcrift, Randall Prescott, The Jordanaires, Gary Buck and a friend

Stag Creek Records TWA1111

Steven Estill

2010-12-19 | SSW
■Steven Estill / One Day, After The Music Died…■

  手抜きかと思うようなジャケット・デザインに触手が伸びないアルバムですが、このアルバムを今日取り上げたのには理由があります。 それはこの作品が、前回も取り上げた Sounds Fantastic のものだからです。 そのことは外見からは判らないのですが、レコードのレーベル面には Sounds Fantastic のロゴがしっかりと刻まれていました。 アルバムがレコーディングされたのが 1976 年ですので、僕の持っている Sounds Fantastic 作品のなかでは最も古いものとなります。 おそらく、この頃はスタジオとしての Sounds Fantastic は存在したものの、レーベル名として打ち出すには至っていなかった黎明期のように思えます。

  まったく正体不明の Steven Estill がこのアルバムをきっかけは、Buddy Holly の存在でした。 タイトルである「One Day, After The Music Died…」はまさに彼の不慮の飛行機事故死からリファレンスされたもの。 Steven Estill は作曲も作詞もしない歌手として、彼の好みの楽曲をセレクトし、伸びやかに歌いこなしています。 当時の SSW で Elvis Presley や Andy Williams に楽曲を提供していた Mickey Newberry の音楽に深い恩恵を受けたという Steven Estill の歌唱はマイルドで大らかなもの。 逆に言うと繊細さや私小説的な佇まいとは無縁の世界でした。 「Sweet Memories」といった甘い楽曲は、すでにイージーリスニングの領域といっても差し支えないほどです。
  従って、今日は個々の楽曲のコメントはありません。 サウンドは、カラオケ好きの金持ちが思いつきで発表したアルバムのようなプライベート感にあふれており、積極的に聴く必要性は見当たりません。 所有する必要すら感じないこのアルバムと僕を繋ぎとめているのは、「Sounds Fantastic」の二文字だけなのです。 このレーベル研究の素材として棚にしまっておくことにしましょう。

  ただ、ひとつ興味があるのは、このレーベルは 1980 年前後は、クリスチャンミュージックに特化したレーベルだと思い込んでいたのですが、この Steven Estill のアルバムはその趣はありません。 このあたりの推移や変容が今後の探求テーマでしょう(笑)。 と言っても次の作品に偶然めぐり合うまで、そんなことすら忘れてしまうでしょう。
  「音楽が死んだ後のある日…」そんな意味深なタイトルから、素朴で祈りに似た温もりを感じさせる CCM を想像していた自分が甘かったのですが、こういうことも含めてレコード蒐集の醍醐味だと思っています。
  
■Steven Estill / One Day, After The Music Died…■

Side-1
Last Night
You’re A Heart Breaker
Sweet Memories
I’m Counting On You
Storm Clouds

Side-2
I Let You Take Advantage Of Me
Oh Boy / Just A Dream
I’ll Remember The God
Stay Close To Me
My River

Steve Estill : producer
Steve Beck : engineer
Jesse Beck : coordinator
Recorded March-May 1976

Steve Estill : vocals
Bob Shaw : drums
John Medley : acoustic guitar
Mike Robbine : bass
Steve Walters : piano, strings

Sounds Fantastic Studio
NR-7571

Dan Perry

2010-12-13 | Christian Music
■Dan Perry / With Every Breath I Take■

  ポリスの大ヒット曲「見つめていたい」のオリジナルタイトルは「Every Breath You Take」でしたが、こちらは「With Every Breath I Take」です。 そんなことはどうでもいいのですが、今日取り上げた作品は CCM アーティストである Dan Perry が 1980 年前後に発表したアルバムです。 彼に関する詳しいプロフィールは全くもって不明ですが、このレコードを手にするに至ったきっかけについて触れておきましょう。
  以前、ここで Dave Lafary という CCM アーティストをご紹介したことがありますが、彼のセカンド・アルバムと Dan Perry のこのアルバムは同じ Sounds Fantastic Records という超マイナー・レーベルから発売されていたのです。 このレーベルが複数のミュージシャンの作品をリリースしているとは予想していなかったので、発見した時には驚きました。 その独特のレーベル名、そしてデザインからすぐにピンときたのです。
  その Sounds Fantastic はイリノイ州の Decatur という町を拠点とするレーベル。 ネットで調べても誰も言及していないので、豆粒ほどのローカルな存在だったのでしょう。 しかし、そこにはクリスチャン・ミュージックというひとつの芯は通っていました。

  アルバムのサウンドは MOR に近いマイルドなテイストで、ホーンセクションも頻繁に登場し、かなりポピュラーな音づくりが施されています。 A-1 の「With Every Breath I Take」を聴くだけで、Dave Lafary のセカンドとの傾向の違いは明らかになりました。 この曲は軽やかで A&M のソフトロックのようなアレンジです。 それはそれで悪くない出来なのですが、個人的には CCM の醍醐味は、仰々しく盛り上がるバラードにあると思っています。そうした観点から好みの楽曲を挙げていくことにしましょう。
まず A 面では、ピアノを基調とした「He’s The Hand On My Shoulder」の素晴らしさが秀でています。 本当は生のストリングスを起用したかったと思われるシンセの音も繊細で、落ち着きのある曲調に彩りを加えていました。 つづく「If My People」は、もっと歌の力を前面に出した厳かな曲調。 オペラのテノールに歌わせたほうが良さそうな感じです。 ♪That’s why I love Jesus♪という決まり文句が誰にでも聞き取れる「You Gave Me Love」は音数の少ないシンプルなバラード。 素直な気持ちを忘れていないすべての人の心にも染み入ってくるメロディーが魅力です。 
  B 面に入りましょう。 典型的な CCM バラード「I’m Gonna See Jesus」はタイトルから想像できる仰々しさが癖になりそうです。 つづく「Praise The Lord」も同様の曲調。これもドラマティックに盛り上がるバラードで CCM ファンには堪えられない仕上がりです。 しかし、この世界で同名異曲はどのくらい存在しているのか、余計な心配をしたくなりますね。 ラストの「Comfort Ye My People」もピアノ系のバラードですが、やや冗長な感じなので、もっと短くまとめたほうがラストに相応しかったと思います。

  どうしてこんな甘ったるい音楽が好きなのか理解できない、という人も多いと思います。 しかし、1980 年前後の CCM の多くが普遍的なメロディーと純粋な歌詞によって構成されるハイレベルな予定調和を目指しているところに僕は惹かれるのです。 そして、そこに含まれる純度の高い癒しの瞬間を発見することが、リスナーの喜びでありこの世界から離れられない理由なのでしょう。 Dan Perry の音楽にも 100% ではありませんが、その欠片がいくつか散りばめられていました。

■Dan Perry / With Every Breath I Take■

Side-1
With Every Breath I Take
He’s The Hand On My Shoulder
If My People
Fresh Surrender
You Gave Me Love

Side-2
I Need You
I’m Gonna See Jesus
Praise The Lord
Disappointment
Comfort Ye My People

Produced by Stephen Beck
Recorded and mixed ay Sounds Fantastic Studio, Decatur, Illinois
Engineer : Stephen Beck

Vocals : Susan Boroian-Moringer, Tom Christensen, Tom Laney, Lynn Mahin, Dan Perry
Guitars : dan Perry, Mark Scardello, Bob wilcott
Keyboards : Mark Gungor, Judy Laney, Steve McClarey, Dan Perry
Bass : Bob Wilcott, Lora Suter
Drums : Dennis Edwards, Tom Laney
Flute: wally Barnett
Recorder : Tom Laney
Trumpets : Brian Germano, Dave Hill, Bill Jean
Trombone : Cary Sheley, Jon Vanhala
Saxophones : Ralph Ball, Ron Clayton, Tim Hall, Tom Rundquist
Arrangers : Stephen Beck, Dan Perry

Sounds Fantastic Records NR11946