Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

Linda Waterfall & Scott Nygaard

2007-10-31 | SSW
■Linda Waterfall & Scott Nygaard / Everything Looks Different■

 現在はソロとして別々の道を歩んでいる Linda Waterfall と Scott Nygaard が共同名義で発表した唯一のアルバム。 Linda Waterfall の公式サイトによると、この時期の 2 年間は、Scott Nygaard とともにライブ活動を行っていたようで、そうしたことから共同名義でのアルバムとなったようです。 しかしながら、1 曲を除いて Linda Waterfall が書いていることもあり、ほぼ Linda Waterfall のソロアルバムとみなしても良さそうです。 一方の Scott Nygaard も公式サイトがあり、ディスコグラフィーが掲載されていましたが、彼にとってはこのアルバムが最初のレコーディングのようです。 

 この二人が恋仲だったかどうかは余計なお世話かもしれませんが、「すべてが違って見える」というアルバム・タイトルからして、恋に落ちていたのではないかと勝手に考えています。 アルバムの内容も Linda Waterfall が主導しながらも、二人のギターとキーボードそしてパーカッションのみで構成された質素で素朴なものに仕上がっています。 アルバムの雰囲気を知るには、オープニングの「Everything Looks Different」を聴けば十分。 最近のバンドで Ida というグループがいるのですが、サウンドの透明感には通じるものを感じます。 私小説的な内容の「April 22nd」はインストとボーカルが対峙した癒し系。ちょっと長すぎかなという印象はあります。 Linda のボーカルが Joni Mitchell 風に聴こえる「I Can’t Talk About It」や「The Light」あたりまで行くとやや退屈になってきます。

 B 面では、そんな退屈を払拭するかのようにファンシーな「Raspberries」でスタート。 朝食をとりながら聴くカフェミュージックのようです。  静寂の海というイメージの「The Whale Song」につづく「A Squirrel’s Ear」は、Linda のエレピと Scott のギターによるインストかと思うほど、大半が演奏で占められており、抽象的な詩がわずかながらに添えられている程度です。 アルバム後半のアクセントと言えるでしょう。  つづく「Love Song」は可憐な Linda のボーカルに寄り添うかのように Scott がハーモニーをつけています。 やはり恋に落ちていたな、と確信できる曲です。 ラストの「Song Like A Roar」は、アルバムのハイライト。 Linda のエレピと Scott のギターがミニマル・ミュージックのように複雑に関係しあい、リスナーはまるで北欧のインテリアに囲まれた部屋の一室へと瞬間移動してしまったかのように感じることでしょう。 感情は抑制され、淡々と進行していくさまには気高さを感じますが、それはラストのハーモニーへと昇華していきます。 アルバムを締めくくるにふさわしい名曲と言えるでしょう。

 さて、最後にそれぞれの音楽キャリアについてもう少し触れておきましょう。 Linda Waterfall は、1977 年になんとあの Windham Hill Records からファーストアルバム「Mary’s Garden」を発表しています。 このアルバムはすぐに彼女自身のレーベル、Trout Records から再発された関係で、Windham Hill のカタログのなかでも最もレアな 1 枚となっているようです。 Windham Hill の全カタログのなかで 2 枚目のリリースということも驚きです。 そして、セカンド「My Heart Sings」、サード「Bananaland」を同じ Trout Records から残し、今日取り上げたアルバム以降の 1980 年代後半は、Flying Fish からアルバムを発表しています。 Scott Nygaard のほうは、1990 年代に Rounder からソロを 2 枚リリース。 アメリカを代表するフィドラーの Darol Anger のアルバムなどにゲスト参加しているようです。

 こうして調べてみると、二人はともに別々の道を歩みながらも音楽的には近い世界にいるようです。 忘れていた友達に再会するかのように、この二人がともに音楽活動をする時が来ても不思議ではありません。 



■Linda Waterfall & Scott Nygaard / Everything Looks Different■

Side-1
Everything Looks Different
April 22nd
I Can’t Talk About It
The Light

Side-2
Raspberries
The Whale Song
A Squirrel’s Ear
Love Song
Song Like A Roar

Produced by Linda Waterfall , Chip Hayward and Scott Nygaard
All Songs by Linda Waterfall except ‘A Squirrel’s Ear’ by Scott Nygaard and Linda Waterfall

Linda Waterfall : guitar , keyboards , vocals , arranging
Scott Nygaard : guitar , vocals , arranging
Donnie Teesdale: percussion

Trout TR-1983

Ten Broek & Theresa

2007-10-27 | SSW
■Ten Broek & Theresa / Reasons■

 前回に続いてオレゴン州からのレコードを取り出してみました。 オレゴン州のマイナーレーベル、Riverbend Records から 1978 年に発表された Ten Broek & Theresa の素敵なアルバムです。

 このアルバムを語るにはまずは素晴らしいジャケットから。 葉の落ちたポプラ並木の手前に佇む小さな家。 そして後方にはうっすらと虹がかかっています。 その光景を割れてガラスのない廃屋の窓から眺めているという描写のセンスだけで名盤の気配を感じてしまいます。 昨年 8 月に取り上げた Paul MacNeil の「If It Rains」を思い出しますが、共通してるのは虹の存在とその向きでした。

 さて、アルバムの本題に移りましょう。 Ten Broek & Theresa は男女の 2 人コンビ。 それぞれ Jon Ten Broek と Theresa Demarest が本名です。 そうなると、Ten Broek & Demarest となるのが普通だと思いますが、そのあたりの事情は察する術もありません。 サウンドは、お互いがリードボーカルをとるために、変化に富み、飽きの来ない良質の SSW 作品となっています。 

 女性の Theresa Demarest がリードを務める曲は名曲ぞろいです。 オープニングの「Nobody Else」は、Daniel Moore の曲ですが、ミディアムな流れに Jon Ten Broek のコーラス、そしてベースソロが絡むあたりは聴き応えがあり、オープニングにふさわしい佳作となっています。  自身のピアノの弾き語り風の曲としては「I Love You」と「My Song Has No Words」がありますが、どちらもシンプルな構成。 前者は純粋なラブソングでフルートが震える心を描写しているかのよう。 後者はもしかして失恋や落胆を表現しているのか、アルバム中では最も陰鬱なイメージです。  アルバムタイトル曲の「Reasons」も、お得意のミディアム・バラード。 Jon Ten Broek のコーラスや美しいフルートソロが曲を引き立てています。 
 と、ここまで書きましたが、アルバムの最大のハイライトは「Haven’t Got The Time」でしょう。 Theresa のペンによるスロー・バラードなのですが、軽くジャジーなアレンジに美しく昇華するメロディー、それに呼応するかのようなセンスあふれるギターソロ、ピアノソロなど、サウンド全体が奇跡的に一体化している名曲となっています。 この時代のスタンダードになってもおかしくないと思うほどです。

 続いて、相棒の Jon Ten Broek のボーカル曲をピックアップします。 A 面 2 曲目の「Last Phone Call」は、心暖まるミディアムなバラードで、Theresa のバックコーラスもあり、充実度満点の出来となっています。 ところが、他の曲はどうかというと「Ramblin’」は 2 拍子の明るいアップチューン、「Funeral Song」も典型的なカントリー・ワルツの凡庸な仕上がり。 B 面に移っても、オールドタイムなジャグ「Oh, Sweet Darlin’」、平凡な 2 拍子「Sea Maid」といったように個性に欠ける楽曲となっています。 ラスト 2 曲の「Move On」も、平均点のミディアム、「Crimson Rose」は、Jon Ten Broek とのデュエットがあってこその楽曲という印象です。

 このようにコメントすればお分かりのように、このアルバムは Jon Ten Broek が主人公ではなく Theresa Demarest こそがメインだと感じます。 残念ながら、美しい楽曲の合間の息抜きとして、Jon Ten Broek の曲が存在していると言っても過言ではありません。 そう考えると、むしろ Theresa Demarest のソロ・アルバムが聴きたかったとさえ思います。 それは言い過ぎかもしれませんし、今さらどうこう言ってもどうにもならないことかもしれません。 しかし、Theresa Demarest の楽曲のクオリティには、音楽が奇跡を起こす寸前の輝きを感じざるを得ないのです。


 
■Ten Broek & Theresa / Reasons■

Side-1
Nobody Else
Last Phone Call
Ramblin’
I Love You
Funeral Song
Reasons

Side-2
Oh, Sweet Darlin’
Haven’t Got The Time
Sea Maid
My Song Has No Words
Move On
Crimson Rose

Producers : Theresa Demarest , Jim ‘Spook’ Flanagan , Kriss Smith

Theresa Demarest : vocals , acoustic guitar , piano
Jon Ten Broek : vocals , acoustic guitar ,rhythm guitar
Mike Reed : clavinet , synthesizer , organ , fender rhodes
Martin Wilson : solo guitar
Mike LaRue : drums , congas
Jim ‘Spook' Flanagan : bass , solo bass
Kriss Smith : violin , viola
Kathy Smith : violin
Janie Smith : flute
Tom Shelden : clarinet , alto saxophone
Maryl Cannon : alto saxophone

Background vocals on ‘Reasons’ : Kathy ,Kriss and Janie Smith
Snakers in ‘Move On’ : Kriss Smith

Riverbend Records  RBR97701-1

Nancy Ravens

2007-10-21 | SSW
■Nancy Ravens / Wee Songs For Wee People■

 かわいらしいジャケットを頼りに入手したレコードは、意外にも子ども向けの教育的な色合いの濃いものでした。 Nancy Ravens のことも、このレコードのことも全く知らないままに買ってみると、こういうことだったのです。
 ネットで調べてみると、Nancy Ravens は現在も活動している子供向け音楽専門のミュージシャン。 その活動歴は 40 年以上にもなるそうです。 その長い活動のなかで数多くのアルバムを残しているようですが、今日とりあげた「Wee Songs For Err People」もその 1 枚。 ディスコグラフィーによると 1969 年の作品とのことですが、ジャケットの質感やサウンド、そしてジャケットに写った彼女の表情からすると 1970 年代中盤の作品ではないかと思います。 というのも、このディスコグラフィーがかなり怪しく、1969 年に 6 枚ものアルバムを残したことになっているのです。 さすがに数日でレコーディングできるような内容ではありますが、1 年で 6 枚はムリでしょう。

 さて、そんなこのレコードは、A 面に 16 曲、B 面に 15 曲もの曲が収録されており、そのすべてが Nancy Ravens によるギターの弾き語りです。 曲はいくつかのトラッド以外はすべて彼女のオリジナルなので、英語のわからない僕にとっては、良質な SSW に聴こえてしまいます。 さすがに、全曲にわたって曲のコメントするのは困難なので、各面ごとにおさらにしてみます。

 A 面は、Nursery Rhymes と名付けられたサイド。 すなわち子守唄なのですが、特に組曲のように構成されたものではなく、個々の楽曲が単独で存在している様子です。 1 分に満たない曲ばかりなので、ダブルジャケットの内側に表記された歌詞だけが、曲を確定できる要素となっています。 同じように B 面は Baby Songs とい名付けられています。 こちらも楽曲のテイストとしては大きな変化は無いのですが、子供向け音楽というジャンルにしては、アップテンポの曲が少なく、笑い声や効果音、擬声や擬態といった変化もまったくありません。 まるで何かのデモテープか、完成したアルバムの断片のみを聴かされているかのような気にさせられます。 そこがこのアルバムの最大の特長であり、大人が静かな夜に聴くに耐えられる要因となっているのです。

 Pacific Cascade Records というオレゴン州のローカル・レーベルから発表されたこのアルバムは、全米に流通されなかったと思われます。 きっと、ロッキーの山並みが見える小さな街の教育施設や保育所でごくわずかな人たちに聴かれていたレコードなのでしょう。 現代のようにパソコンも iPOD もない時代、録音物といえばレコードかカセットテープだったわけです。 もちろん、テレビを録画する VTR など存在しません。 そんな時代にレコードという媒体がいかに重宝されたかは、自分自身の体験からもよく理解できます。
 このレコードを聴いて育った子どもたちもすっかり大人になったことでしょう。 彼らは、自分たちの子どもにどんな音楽を聴かせているのでしょうか。



■Nancy Ravens / Wee Songs For Wee People■

Side-1
One Misty, Moisty Morning
It's Raining, It's Pouring *
Little Jack Horner, Miss Muffet *
Wee Willie Winkie
Humpty Dumpty
Bobby Shafto *
Doctor Foster
Two Cats of Kilkenny
See Saw, Margery Daw
Hannah Bantry
There Was A Little Girl
The Noble Duke Of York *
There Was An Old Woman
Hark, Hark
Lady Bug, Lady Bug

Side-2
Dance To Your Daddy *
Hush Thee, My Baby
Dance , Little Baby
Hush-A-Bye , Baby *
Bye, Baby Bunting
One, Two, Buckle My Shoe
To Market, To Market
Brow , Brow , Brinkie
Pat-A-Cake Pat-A Cake *
Great A, Little a
Ride A Cock Horse
Here Is The Church *
This Little Pig
Pease Porridge Hot *
Sulky Sue And I See The Moon

All melodies and arrangement are originals by Nancy Ravens except * marked traditional melodies

Produced by Joan Lowe Recording Enterprises

Pacific Cascade Records LPL7012


Cheryl Ernst

2007-10-17 | SSW
■Cheryl Ernst / Always Beginning■

 名門 Bell から 1973 年に産み落とされた Cheryl Ernst の唯一のアルバムは、女性 SSW ファンの間では比較的知られている作品です。 安定したバック陣、クオリティの高い楽曲、そして清楚な Cheryl Ernst の声が上手い具合にブレンドされており、Tom Waits などを世に送り出した Bones Howe のプロダクションという安心マーク(笑)もあることから、人気盤となる要素は揃っているわけです。

 サウンド面では、すべてのアレンジを手がけている Bob Alcivar の手腕が光ります。 彼は 5th Dimension のアレンジで有名ですが、変わったところではアルファ黎明期の赤い鳥(「翼をください」の英語版など)も手がけており、いわばソフトロック会の裏番長みたいな存在です。 そして、リズムセクションが、Joe Osborne に Hal Blaine となれば鬼に金棒というわけですね。 さっそくレコードを聴いてみましょう。

 まずは A 面から。 「Fantasia Suite / Long And Sleepless Night」は、軽快なリズムとホーンセクションのサポートを得た名曲。 ソフトロック的なアプローチながらも、Cheryl Ernst のボーカルはあくまでもフォーク指向という組み合わせが新鮮に響きます。 「Love Moan」は、若干ながらもジャジーなアレンジで、エレピのソロにセンスを感じます。 つづく「In A Quiet Way」はタイトルから想像できるとおりのバラード。 ピアノとベースそしてギターという質素な編成で切々と歌いかける様はピュアなエモーションの結晶といえるでしょう。 この曲は 3 枚のソロ作品を発表している Jeffrey Comanor によるものです。 余韻をかみしめているうちに「Come To The Harvest」へ。 この曲はシンプルなワルツから途中で変化を見せながら展開していくところが特徴でしょう。 つづく「Only Today」はストリングスのカルテットのみで歌われる小曲。 2 分に満たない曲ですが、Bob Alcivar の思うがままという感じです。

 レコードを裏返します。 「He Moves Me」は、名手 Joe Osborne の骨太ベースがずっしりと響くファンキーなポップなチューン。 「Time And The City」はゆったりした流れに包まれた幻想的な曲。 「Shadows, Memories And Lost Moments」は、「In A Quiet Way」と同様にJeffrey Comanor のペンによるバラード。 ここでは Jeff がアコースティックギターでも参加しています。 ちなみに、彼のソロは 3 枚目しか持っていないので、この 2 曲が自身のアルバムに収録されてるものなのかは判りません。 「No One's Going To Change You」はライトにスイングする洒落た楽曲。 そしてラストの「Always Beginning」は優雅なワルツ。しっとりと上品にアルバムが締めくくられていきます。

 こうしてアルバムをとおして聴くと、さすが Bell Records というクオリティーを感じます。 同時代にアルバムを聴いたリスナーの満足感はかなり高かったことでしょう。 では、何故売れなかったのかと考えてみると、やはりこの時代は Carole King の一人勝ちだったわけで、それは仕方のないことかもしれません。 ギターを弾いている裏ジャケットもサウンドを想像するにはマイナスだったかもしれません。 しかし、この世に残された Cheryl Ernst の唯一のアルバムは 1970 年代前半の空気を瞬間凍結したかのような鮮度を保っており、個々の楽曲が放つ輝きはいまだに色あせていないのです。 なぜ CD 化されないのかが不思議です。



■Cheryl Ernst / Always Beginning■

Side-1
Fantasia Suite / Long And Sleepless Night
Love Moan
In A Quiet Way
Come To The Harvest
Only Today

Side-2
He Moves Me
Time And The City
Shadows, Memories And Lost Moments
No One's Going To Change You
Always Beginning

Production and Sound by Bones Howe

Orchestra arranged and conducted by Bob Alcivar
Rhythm guitar : Dennis Budimur , Cheryl Ernst
Electric guitar : Dennis Budimur , Louie Shelton
Acoustic guitar : Jeffrey Comanor , Cheryl Ernst
Piano: Art Lande
Vibraphone : Larry Bunker
Bass : Joe Osborn , John Yu ,Ray Brown
Drums : Hal Blaine
Congas : Larry Bunker

Bell Records 1126

Randy Edelman

2007-10-14 | SSW
■Randy Edelman / The Laughter And The Tears■

 Randy Edelman のセカンドアルバムは、LA でのレコーディング。 前作と同年のリリースにも関わらず、NY から一気に場所を移し、「本拠地」ともいえる場所でのレコーディングとなりました。 レーベルは LION というマイナーレーベルですが、ここは前作と同様の MGM 傘下ということで、レーベルの変更は MGM の都合によるものと推測できます。
 一気に LA へ移ったことで、さぞかし豪華なミュージシャンが参加しているかと思うと、そうではありません。 アルバムにクレジットされているのは、ベースとドラムスの 3 人だけで制作されたようです。 実際に聴いてみると、ギターのカッティングやソロは皆無で、時折ストリングスやコーラスが聴こえる以外は、たしかに 3 人で演奏しているようです。 

では、アルバム曲を紹介しましょう。 「I Can’t Make Music」は、Carpenters にカバーされたことで有名な曲。 カバーは 1973 年の「Now & Then」に収録されています。 ドラマティックなメロディーのこの曲は初期のEdelman の代表曲でしょう。 つづく「Mexico」は、お得意の技巧的なピアノをバックにしたクラシカルな曲調。 中盤やラストのインスト部分は、クラシカルなプログレ好きにはたまらない展開になっています。  1972 年ということで時代的にもそうしたアレンジが好まれていたはずですね。 「Waterfall」は、一転してミディアムなバラード。 微量のメロウさを散りばめながら盛り上げていく展開はまさに「エデルマン節」です。  「On Sunday Afternoon」は、しっとりとした情念を感じる小曲。 ラスト前に配置することが意識されていると思います。 そして、A 面ラストはアルバムタイトル曲の「The Laughter And The Tears」。 「笑いと涙」の繰り返しが人生であるかのごとく淡々としたアレンジのなかに、温もりあふれるコーラスがオーバーラップしていく感じも初期の Randy Edelman の特徴でしょう。 このテイストは次のアルバム「Prime Cuts」へと受けつがれていきます。

  B 面です。 「Lost」は歌謡曲的でメランコリックなメロディーが印象的な曲。 布施明あたりがカバーしてもおかしくないと思うほどです。 つづく「Paris」はジャジーでオールドタイミーな曲ですが、Randy Edelman としてはかなりハイトーンのボーカルを聴くことができます。 パリからケンタッキーへ題材が瞬間移動した「Kentucky Blue」は、珠玉のバラードという表現があてはまる名曲です。 メロディーとアレンジのメリハリの強さがこの曲の特徴といえるでしょう。 「End Of December」はワルツにのったクリスマスソング。 クリスマスシーズンならではの温かみを感じるサウンドです。  ラストの「It’s Nice To Have Something To Believe In」は、ピアノの弾き語りによるバラード。 短い曲ですがアルバムを締めくくりにふさわしい名曲です。

  前回とつづけて初期の Randy Edelman の未 CD 化作品を紹介してきましたが、当時の SSW としては珍しいほどのテクニックと才能がすでに開花していうことを再認識しました。 しかし、才能や技巧だけでは世のリスナーに受け入れられることはなく、その後目立ったヒットも無いまま、SSW としての活動は 1985 年にイギリスのみで発売された「Switch Of The Seasons」を最後に終了してしまいます。 が、その後は映画音楽の世界に入り、「6 days 7 nights」や「Daylight」といったヒット映画音楽を担当し、SSW 時代以上の成功を収めています。 
  Randy Edelman が映画音楽の世界で成功したことはうれしい限りなのですが、できれば一度でかまわないので、彼の生ピアノによるライブを聴いてみたいものですね。 「Uptown Uptempo Woman」、「Blue Street」、Barry Manilow の十八番となった「Weekend In New England」あたりを是非とも。



■Randy Edelman / The Laughter And The Tears■

Side-1
I Can’t Make Music
Mexico
Waterfall
On Sunday Afternoon
The Laughter And The Tears

Side-2
Lost
Paris
Kentucky Blue
End Of December
It’s Nice To Have Something To Believe In

Produced by Michael Stewart
Words and Music by Randy Edelman

Sound by Ron Malo
Devonshire Sound Studio , North Hollywood , California

Randy Edelman : vocals , keyboards and arrangements
John Guerin : drums
Lyle Ritz : bass

Lion records LN-1013

Randy Edelman

2007-10-09 | SSW
■Randy Edelman / Randy Edelman■

 今日は趣向を変えて、Randy Edelman のファーストを取り上げてみました。 彼は、1970 年代から 80 年代に活躍したがヒットに恵まれなかったピアノ系 SSW です。  20th Century からリリースした 3枚目、4 枚目と、その後移籍した Arista からの 5枚目、6 枚目が国内では CD 化されましたが、今日ご紹介するファーストとセカンドは、彼の 1970 年代の作品では未だに CD 化されていません。 この 4 枚があれば十分という意見もあろうかとは思いますが、やはり初期の Randy Edelman の瑞々しい萌芽の息吹も捨てがたいものがありますので、このファーストをピックアップすることにしたのです。 このアルバムは 1972 年、映画会社の MGM 傘下のマイナーレーベル Sunflower からリリースされました。

  アルバムを曲順におさらいしてみます。 A 面の「The Farmer」はピアノをバックにシリアスな曲調が展開されます。 後の曲にもありますが、アメリカというよりはイギリスの匂いのするサウンドです。 つづく「My Cabin」は、すでに顕在していたかという「エデルマン節」ともいえる楽曲。 うねるようなメロディーとまとわりつくピアノによる Randy Edelman の世界がすでに確立しています。 もうひとつの持ち味ともいえるメロウさを堪能したければ「Make A Time For Lovin’」でしょう。 中期の Randy Edelman の最大の魅力でもあるメランコリックな味わいがすでに表れていることに驚きを覚えます。 クラシカルな展開が繰り広げられる「Seventh Avenue」は、エンディングがちょっとうるさいです。 つづく「Just Somebody」も次第に盛り上がっていくお得意の手法によるミディアムです。

 B 面です。 「Give A Little Laughter」は、奥さんの Jackie De Shannon がコーラスで参加。 Randy Edelman の得意とする手法のひとつである、早口系リピートによるサビ(って書いても伝わらないですね)は一度聴けば、忘れないという感じです。  つづく「Sunny Days」はタイトルどおりのマイルドな楽曲。 アレンジからは英国的な要素を感じます。 「Piano Picker」は、英才教育を受けたであろう Randy Edelman の流麗でクラシカルなピアノが堪能できます。 彼は、各アルバムで必ずピアノのテクニックをさりげなく披露する楽曲を用意しています。 そこが鼻につくかどうかで彼に対する評価が左右されるといってもいいでしょう。  つづく「Wouldn’t It Be Nice」は、もちろんあの The Beach Boys のカバーです。 というのは全くのウソで、Randy Edelman のオリジナルです。 しかし紛らわしいタイトルをつけるものですね。 こちらの楽曲はピアノを中心としたミディアム・バラードで、なかなかの名曲です。 そしてアルバムのラスト「Please Don’t Send Them Anymore」が始まりますが、この曲は Randy Edelman の卓越したアイディアが盛り込まれています。 というのも、アメリカ民謡の父フォスターの名曲「故郷の人々(スワニー河)」をモチーフにしており、この曲のメロディーをこっそりと間奏に忍ばせているのです。 もちろん「故郷の人々」は誰が聴いてもすぐわかるメロディーですので、すぐに気がつくのですが、こういった遊び心の背景に、Randy Edelman の秀才ぶりを感じることができるのです。

 こうして Randy Edelman のファーストを聴いてきましたが、以降の彼のアルバムと、趣を異に感じる部分があるのは、このアルバムがニューヨーク録音だからではないかと思います。 Randy Edelman と同じピアノ系 SSW ですが、まったく異なるタイプの Billy Joel を連想することなど普通はありえないのですが、同時代ということで Billy Joel の「Cold Spring Harbor」を思い出してしまいました。 もちろん、内容はまったく異なるので誤解の無いようにお願いします。

 さて、次回は彼のセカンドをご紹介します。 できれば次の週末くらいにアップしたいと思っていますので、お楽しみに。




■Randy Edelman / Randy Edelman■

Side-1
The Farmer
My Cabin
Make A Time For Lovin’
Seventh Avenue
Just Somebody

Side-2
Give A Little Laughter
Sunny Days
Piano Picker
Wouldn’t It Be Nice
Please Don’t Send Them Anymore

Orchestrated and Produced by Randy Edelman
Engineer : Brooks Arthur and Jay Tropp

Randy Edelman : piano , vocals and clarietta
Dennis Seiwell : drums
Russell George : bass
Albert Gorgoni : guitar
Phil Bordner : woodwinds
David Nadien : concert master

Special Thanks to
Michael Leonard and Stephen Foster and Jackie De Shannon

Sunflower SNF-5005

Ron Fraser

2007-10-07 | SSW
■Ron Fraser / I’m Gonna Sing My Song■

  『僕の歌を歌おう…』
なんて、1970年 代ならではのアルバムタイトルですね。 とはいえ、この時代にはこのようなアルバムタイトルは、どこの世界にも存在したことでしょう。 ファーストアルバムにしか使えない気がしますけど。
 ということで、今日取り上げたアルバムは 1974 年に Ron Fraser がマイナーレーベル Granite Records からリリースしたファーストアルバム。 このアルバムが彼の唯一のアルバムと思っていましたが、どうやらもう一枚アルバムがあるようです。

 アルバムは全体的にのどかなカントリー風 SSW という印象で、顕著な個性が感じられたり、音楽的に先進性があるということはありません。 むしろ 1974 年にしては古臭いサウンドとも言えるでしょう。 たとえば、Gram Parsons がソロアルバムで到達した新境地や、Borderline のような味わい深さに比べてしまうと、見劣りがしてしまうのです。 

 とはいえ、B 級感覚ならではの味わいがあることも確かで、そこに古き良きアメリカらしさを見出すことができるともいえます。至るところにキャッチーな曲が並んでいることから、マイナーレーベルがまさかの一攫千金を狙っていたかもしれません。 そんなアルバムの曲をなぞってみましょう。

  A 面「Leavin’ Carolina」は、大らかなイメージのライトなカントリー。 もしかして、Glen Campbell のように売れようとしたのかと思ってしまいます。 つづく「San Susanna Lullabye」は、スロウなバラード。 女性コーラスとのハモリや重めのストリングスアレンジが聴きどころです。 ライトタッチなシングル向きの楽曲「Jessie」につづく「Chasin’ Rainbows」も陽気で軽快なトラック。 ペダルソロが心地よく響き、A 面のベストトラックと言えます。 タイトル曲の「I’m Gonna Sing My Song」は能天気な二拍子。 落ち込んでいるときに聴いたりすると逆に腹が立つような気分の曲が時々存在しますが、この曲もまさにそんな感じです。

  レコードを裏返すと、シングルヒットしてもおかしくないほどポップな「It’s Not Home」です。 ペダル・スティールのソロも素晴らしく、アルバムのハイライトといえる曲です。 つづく「To All My Friends」はシンプルでリピートの目立つトラック。  「Summer Shady Home」は、アルバム屈指のバラード。 昼下がりの木漏れ日サウンドです。 ほのぼのした合唱風コーラスが愉快な「Ramblin’ Rose」が終わると、ラストのワルツ「Sing For The Good Times」が始まります。 ノスタルジックなアレンジは、まるでカントリー・ウェスタンの映画のワンシーンを見ているかのようで、胸に染み入ります。 

 最後にこのアルバムがリリースされたレーベルGranite について調べてみました。 レーベルの成り立ちなどはわかりませんでしたが、カタログについて品番の若い順に調査することができました。 僕が遺跡調査できたのは GS-1006 までですが、1004 まではカントリーに特化しているように想像できます。 しかしその後 Edwin Starr のようなソウル系までリリースされていることから、あまりポリシーやカラーのあるレーベルではなかったのかもしれません。 そういったレーベルはコレクターからも注目されることがないので、時の流れとともに風化していってしまう運命にあるのでしょう。 それは、きっと Ron Fraser にも当てはまるのです。

GS-1001 Tex Williams / Those Lazy Hazy Days
GS-1002 Molly Bee / Good Golly Ms. Molly
GS-1003 Ron Fraser / I’m Gonna Sing My Song
GS-1004 Stu Stevens / Returning Your Call 
GS-1005 Edwin Starr / Free To Be Myself
GS-1006 Lowell Fulson / Ol' Blues Singer



■Ron Fraser / I’m Gonna Sing My Song■

Side-1
Leavin’ Carolina
San Susanna Lullabye
Jessie
Chasin’ Rainbows
I’m Gonna Sing My Song

Side-2
It’s Not Home
To All My Friends
Summer Shady Home
Ramblin’ Rose
Sing For The Good Times

Produced by Cliffie Stone
Arranged and Conducted by Billy Liebert
Recorded at Devonshire Sound Studios , North Hollywood, Remote Recording Facilities , Hollywood , Air Studios , London

Vocals : Ron Fraser , Christie Oliver , Janice Oliver , Curtis Stone and the Friends of Fraser Choir
Drums : Stan House , Jack Sargent
Guitars : Ron Fraser , Don Lee , Al Vescovo , Curtis Stone
Pedal Steel Guitar : J.B. Crabtree
Dobro : J.B. Crabtree
Electric Bass : Curtis Stone
String Bass : John Flower
Piano : Billy Liebert

Granite Records GS-1003