Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

The Hilts

2009-04-29 | Christian Music
■The Hilts / All Is Well■

  前回に続いて、爽やかな新緑の風を運ぶようなアルバムを選んでみました。
  The Hilts は Bob Hilts と Susan Hilts からなる夫婦グループ。 カリフォルニア出身らしいのですが、それ以外の詳しいキャリアは不明です。 アルバムの発表年度もわかりませんが、このアルバムが彼らのセカンド・アルバムだそうです。 
  サウンドは予想していたよりもソフトロック的なアレンジが多く、フォーク色は強くありません。 Bob Hilts の得意とするトランペットによるインストも各面にインタリュード的に挿入されており、イージーリスニングのような味わいすら感じます。

  アルバムには、The Hilts のオリジナル曲は収録されていません。 従って、ほとんどの曲がカバーなのですが、それらは CCM 界でオリジナル作品を残しているソングライターの作品ばかりです。 そのライターを軸に話を進めていきましょう。
  まずは、Linda Rich から。 アルバム 1 曲目の「Meditation」と「Medley : Come Unto Me」が彼女のカバーです。 Linda Rich は 1969 年と 1970 年にソロアルバムを発表した女性クリスチャン・シンガー。 彼女のレコードは聴いたことがないのですが、とくに「Meditation」の出来栄えが素晴らしいので、オリジナルも聴きたいところです。 どうやら、近年になって彼女の作品が CD 化されたようなので、機会があれば手にしようと思っています。

  つづいて、Andrew Culverwell です。 彼はイギリス出身の CCM ミュージシャンですが、このアルバムで「You’ve Got To Walk」、「Trust In Me」、「Planning Long Ago」の 3 曲もカバーされています。 Andrew は、クリスチャン版の Cliff Richard みたいなミュージシャンで、サウンド的には予定調和の MOR 路線が多かったようです。 彼は 1971 年のデビュー以来 10 枚近い作品を残していますが、残念ながら 1 枚も聴いたことがありません。 しかし、ここでカバーされている「Trust In Me」の突き抜けるような爽快感や、スロウなワルツ「Planning Long Ago」のマイルドさなど、楽曲の水準が高いことが一度聴いただけでわかります。 Heidi, Kristi, Michael という Hilts ファミリーの 3 人の子どもが参加した「You’ve Got To Walk」もソフトな仕上がりです。

  他にもカバー曲が 3 曲ほどありますが、なかでもアルバムタイトル曲の「All Is Well」は前向きな意志を感じる素晴らしい楽曲です。 この曲は、1970 年代にソロアルバムを発表している Dan Whittemore によるものでした。 
  こうしてアルバムをレビューして見ましたが、「Meditation」、「Trust In Me」、「All Is Well」といった群を抜いた名曲の配置が素晴らしく、そこに Bob Hilts のトランペット曲を的確に挿入することで、作品を飽きさせずバラエティ豊かなものに仕上げているという印象を持ちました。 これは、アレンジとプロデュースを務める Joseph Linn の手腕によるものでしょう。 それだけでなく、Joseph Linn の貢献は選曲にも反映されているのではないかと思っています。  クリスチャン・ミュージックというある意味特殊なジャンルとはいえ、ほとんど無名の Linda Rich やイギリスで活動していた Andrew Culverwell の楽曲を Hilts 夫妻だけの判断でピックアップしたとは想像しにくいのです。 
  そのあたりは当事者しかわからないことですが、結果的にこの素晴らしい楽曲の選択と、The Hilts の素晴らしいコーラスワークが合体することで、この春風のような心地よさが実現したのです。 大げさに言うなれば、それこそが音楽の奇跡なのでしょう。

 

■The Hilts / All Is Well■

Side-1
Meditation
You’ve Got To Walk
There’s Something About That Name ~ O How I Love Jesus
Trust In Me
Planning Long Ago
Shepherd Of Love

Side-2
No Power Shortage
All Is Well
Sweet Bye And Bye
Medley : Come Unto Me
Ol’ Time Religion

Arranged and Produced by Joseph Linn
Recorded at Mastertrack, Hayward, Ca.

No.5881

Dave And Barb Anderson

2009-04-26 | Christian Music
■Dave And Barb Anderson / Sing Praises■

  自宅でゆっくりと音楽を聴きながら、ついつい眠りに落ちてしまうような経験は誰にも一度や二度ならずあるはずです。 僕の場合は、ふと目が覚めたときは後悔の念よりも、心地よさの余韻が上回ることが多いため、その音楽の印象や評価などが二の次になってしまうことが多いです。 それはさておき、音楽には眠たくなるほど退屈なものもあれば、眠たくなるほど気持ちのいいものも存在します。 今日、取り上げた Dave And Barb Anderson のアルバムは、まさに後者の部類に入る至福の作品なのです。

  1981 年にミネソタのクリスチャン・レーベル Fellowship Records から発表されたこのアルバムは、数多い CCM (Contemporary Christian Music) 作品のなかでも、甘さと癒しという観点だけで評すると最高級のものです。 マイルドな Dave Anderson の男声ボーカル、清楚で気品あふれる Barb Anderson の女声ボーカルを、流麗でエモーショナルなストリングスが包み込むサウンドに接する気分は、ベランダに干していた羽毛布団をベッドに戻したまま転寝してしまったときに近いものを感じます。 大げさな表現かもしれませんが、僕はこのレコードを何もしないで最後まで聴き続けることができないような気がしています。 いまも、パソコンに向かってこの原稿を書きながら聴いていますが、ソファに座ったまま、じっと聴いていたら必ず心地よい睡魔に襲われていたでしょう。 実際に、初めてこのレコードを聴いたときは、A 面ラストあたりで闇に落ちてしまいました。

  このアルバムを何度か聴くにつれて、その心地良さを決定付けている要素が次第に判ってきました。 まず感じるのはギターそしてドラムス&パーカッションの排除です。 エレキ・ギターは完全に封印され、アコギも「I Am Covered Over (Medley)」と「Holy, Holy」でわずかに存在がわかる程度 なので、一般的なクリスチャン・フォークのもつような繊細な味わいは一切感じられません。 ドラムスの代わりにリズムを刻むのは、曲によって参加しているベースだけですがそれも数曲ですので、このアルバムのサウンド作りには、優秀なアレンジャーとコンダクターの存在が不可欠だったと思われます。 
  そのアレンジャーは、Gary Nyquist なる人物。 クレジットでは単に Arranger としか明記されていませんが、このアルバムのサウンドの要でもあるストリングス・アレンジは彼の手によるものと思われます。 ストリングス・アレンジが好きな人は、クレジットに Nick DeCaro や Jimmy Haskell の名前があるだけで、そのアルバムに触手が伸びてしまう人も少なくないと思います。 Gary Nyquist に、彼らに匹敵する才能やセンスがあると断言はできませんが、少なくともここで聴くことのできるアレンジは、僕の心を洗浄する効果を兼ね備えていました。 それは、ストリングスならず、クラリネットやフルート、ピアノといった情緒豊かな楽器が挿入される場面でも同様です。
  個人的にお気に入りなのは「Sing A New Song Of Praise」や「Our God Reigns」、「Holy, Holy」といった曲ですが、どの曲も粒ぞろいですので、ミュージカルのサントラ盤のバラードだけを切り取ったかのような作品集に仕上がっているとも言えます。 作曲者のクレジットを見ても、誰一人として知った名前はありませんが、そのあたりがアメリカの CCM の奥深いところでもあり、嗜好者にとっては宝探しの的になってしまうのでしょう。 

  Dave And Barb Anderson の「Sing Praises」は、聴き手によっては陳腐な MOR や凡庸なボーカル・アルバムに聴こえてしまう可能性が高いのですが、僕にとっては至福のリラクゼーション・アルバムなのです。

 

■Dave And Barb Anderson / Sing Praises■

Side-1
Sing A New Song Of Praise
There’s No Greater Name
Behold What Manner Of Love
Soon The Day Will Come~He Is Lord
In Thy Presence Lord
Our God Reigns
I Am Covered Over (Medley)
~Jesus, Name Above All Names
~Jesus, Thou Art Holy
~Beautiful Savior

Side-2
Praise Him (Medley)
~I Just Want To Offer You Praise
~I Love You Lord
Holy, Holy
Wind, Wind
(Joy Medley)
~Break Forth Into Joy,
~Oh, My Soul,
~This Is The Day
~Therefore The Redeemed
Oh, How He Loves You And Me
Come Bless The Lord
Open Our Eyes~Glorify Thy Name

Produced by Steve Gamble, Edfy Productions
Arranged by Gary Nyquist
Recorded at Sound 80, Mpls.,Mn

Followership Records F-238

Matthew And Sharron

2009-04-19 | Folk
■Matthew And Sharron / Millennial Day Songs■

  春の陽気が続き、一気に季節は新緑の輝きのなかに包まれています。 そんな心地よい休日に安らぎを運んでくれるようなフォーク・アルバムを取り出してみました。 1976 年に Los Angeles 郊外の Altadena にあるローカル・レーベルからリリースされた Matthew And Sharron のアルバムです。
  「至福千年の日の歌」とでも訳すのでしょうか。 人生の素晴らしさや満ち足りた幸福感がモチーフとなったタイトルからは、クリスチャン・ミュージックの匂いを感じますが、Jesus や Lord が連呼される曲は存在しません。 むしろ、光・大地・空・山・水といった言葉が目立ちます。 歌詞カードは封入されていないので詳細は不明ですが、このアルバムは、The Seekers の持つお行儀の良いフォークソングの世界観に近いものを感じます。 夫婦のデュエットということから、Ian & Sylvia と対比することもできるかもしれません。

  レコードは、A 面に『Seven Millennial Day Songs』、B 面に『More To Sing About』というサブタイトルが付けられていますが、特に趣向が異なっているわけではありません。 若干ですが『More To Sing About』の方が緩いイメージはありますが、さっそく『Seven Millennial Day Songs』からフィードバックしてみましょう。 
  「Light」は二人の息のあったハーモニーが爽やかな曲で、リスナーは早くもアルバムの全体像を予測することとなります。 そして「Waters」や「Land And Seed」といった自然の恵みを讃えた優しい楽曲が続きます。 つづく「Lesson In The Sky」は、癒しの色がやや薄くなりますが、「Life Everywhere」で至福の頂点を迎えます。 この曲は奥さんの Sharron がリード・ボーカルをつとめた清楚な出来なのですが、鳥のさえずりがさりげなくエフェクト処理されており、リラクゼーション効果満点。 アルバムを代表する曲と言えるでしょう。 再び、夫婦のハーモニーに戻った「Wedding Coming Soon」をはさみ、Sharron のリードが美しい「The Great Rest (The Mountain Song)」で組曲のような『Seven Millennial Day Songs』は幕を閉じます。 この 7 曲は自然界の輪廻をテーマにしており、時代を先取りしたエコロジー音楽といった印象を受けました。
  B 面の『More To Sing About』は A 面のように統一したテーマはありません。 「Medley- Who Will Be The Greatest, Weeds」は、どこがメドレーか曖昧なまま、「Go Tell It On The Mountain」に突入してしまいます。 ともにオーソドックスなフォーク・ソングですが、終始ユニゾンしていくスタイルが好きな人にはたまらないかもしれません。 つづく「Medley- The Second Coming, Gathered From The Nations」は、中盤から鼓笛隊のようなドラムスとベースが入ってきます。 リズムセクションが入る曲は、ここだけなのですが、それほど違和感はありません。 「The Long Way Home」は落ち着きのあるバラードで B 面を代表する名曲。 ラストの「You, You, You」は語呂合わせを含んだ、遊び心あふれる陽気な楽曲でした。

  このようにレビューしてみましたが、このアルバムは純粋で素朴なフォーク風味が全編を貫いており、1976 年に生み出されたとは思えない作品でした。 時代に左右されない普遍性を兼ね備えた良心的な作品として、十分評価できる内容だと思います。 ただ、分かり易い音作りに徹しているせいもあって、強烈な個性を感じないのも事実です。 とはいえ、時代に抗うかのように平和と自然を愛した夫婦から届けられたアルバムと向き合うのには、そんな論評は無用なのでしょう。 人生で大事なことは、新緑の美しさや鳥のさえずりに心が動くかどうかなのですから。

 

■Matthew And Sharron / Millennial Day Songs■

Side-1 “Seven Millennial Day Songs”
Light
Waters
Land And Seed
Lesson In The Sky
Life Everywhere
Wedding Coming Soon
The Great Rest (The Mountain Song)

Side-2 “More To Sing About”
Medley- Who Will Be The Greatest, Weeds
Go Tell It On The Mountain
Medley- The Second Coming, Gathered From The Nations
The Long Way Home
You, You, You

Mark Graham : bass, third voice on ‘Lesson In The Sky’ and ‘You, You, You’
Paul Shaeffer : drum on ‘Gathered From The Nations’
Marc Stahl : third guitar on ‘Gathered From The Nations’

All other vocalization and instrumentation by Matthew and Sharron Kalliman

Triumph Records TR 7601

Joe Taylor

2009-04-12 | Christian Music
■Joe Taylor / Spirit Light■

  Joe Taylor が 1972 年に発表したアルバムは、ヒッピー系の色濃いクリスチャン・ミュージックです。 音的には、ギター・ベースそしてコーラス中心のシンプルなフォーク・ロックで、ドラムが不在なところをベースが上手く補完しています。 その弾けるようなベースラインが、ルーラルでB級な印象を強めているのは間違いありませんが、逆に言うとそこがアルバムの個性となっています。

  Joe Taylor 本人によるカバーアートからは、宗教色の強さが強烈に伝わってきます。 思索にふける賢人達に割り込むように写り込んでいるのが、Joe Taylor 本人。 その横顔だけが写真というのもダサいのですが、左下のほうにも聖書を覗き込むような姿を発見し、思わず失笑してしまいました。 彼の真っ黒な長髪とあご髭は、当時の西海岸の音楽シーンのなかでは、かなりの異彩を放っていたことでしょう。 

  曲は一部の共作を除いて、Joe Taylor の自作曲なのですが、興味深いのはクリスチャン・フォークとは思えないようなグルーヴ感にあふれる曲が多い点です。 オープニングの「I'm In Love With My Lord」などは、曲のタイトルからは想像しにくいファンキーな曲。 神への感謝をテーマにしているのでしょうが、サウンドからはそんな真剣さが伝わってきません。 つづく「You Can Feel Real」は緩やかなバラード、妙なタイトルの「Plastic Jesus」はアシッド感あふれるフォーキーです。 Bob Friedman との共作「Spirit Light」は、落ち着きのある仕上がりで、コーラスにも味わい深いものがあります。 A 面ラストの「Open Arms For You」は、The Four Tops の名曲「I Can’t Help Myself」に酷似した歌い出しで、少々びっくり。 コード進行が同じだとベースラインも似てくるのですが、これは無意識にそうなってしまったのでしょう。

  B 面は、より能天気な気分の楽曲が続きます。 「Build Upon That Rock」、「Back To Galilee」、「Yours, Body And Soul」などは 1950 年台のロックンロールに通じるものを感じます。 あるいは、Jonathan Richman がソロでパフォーマンスする時の「いなたさ」に近いかもしれません。 パーカッションとギターのみの「In The Dark Of The Night」はスタンダードのような普遍性を感じさせる名曲。 ラストの「Bear Ye One Another's Burdens」はクリスチャン・ミュージックらしさが最もサウンドに現れたバラード。 ピアノが使用された唯一の曲で、Joe Taylor のボーカルも低音からファルセットに近い高音まで丁寧に歌われています。 この曲も Bob Friedman との共作ですが、彼が絡んだ 2 曲にはアルバムのなかでも出来がいいものとなっていました。

  こうして Joe Taylor のアルバムをレビューしてみましたが、ここに収録されていたのは、こてこての宗教音楽ではなく、むしろ西海岸のビーチで昼寝しながら聴きたくなるような、リラックスしたフォーク・ロックでした。 このジャケットからは想像できないサウンドとのギャップには、どうしても払拭できない違和感が残るのですが、1972 年という時代性、カリフォルニアという土地柄、そして本人のキャラクターがこうしたアルバムを生み出したのでしょう。  
  その後の Joe Taylor は音楽シーンから離れたようで、現在はなんとテキサス州で Mt. Blanco Fossil Museum という化石博物館の館長さんになっていました。 この「Spirit Light」も2007年には彼によって CD 化されており、ここから試聴することもできます。 しかし、まさか化石の研究家になっているとは...。


 

■Joe Taylor / Spirit Light■

Side-1
I'm In Love With My Lord
You Can Feel Real
Plastic Jesus
Spirit Light
Open Arms For You

Side-2
Build Upon That Rock
Back To Galilee
Yours, Body And Soul
In The Dark Of The Night
Bear Ye One Another's Burdens

Cover design and art : Joe Taylor
Rhythm guitar : Don Lee, Dave,John&Mark Smith, Joe Taylor
Piano : Kathy & Joel Peck
Bass guitar : Mark Smith, Don Lee
Lead & Steel guitar : Don Lee, Mark&John Smith, Joe Taylor
Back-up vocals : Teri Ketchum, Kathy Peck, Candy Perkins, Joe Taylor

ARK records ARK 607

John Max Jacobs

2009-04-04 | SSW
■John Max Jacobs / A Prairie Dream■

  John Max Jacobs の唯一と思われるアルバムは、良質なアルバムを多く生み出すミネアポリスで 1984 年にレコーディングされました。 品番もなく、ディストリビューターも聞いたことのない Apricot Hill Records ということでほぼプライベート・プレスと思われます。 モノクロの水彩画のようなジャケットからは、サウンドはある程度想像できるのですが、1984 年という時代には不安を感じたのも事実です。 しかし、いわゆる 80 年代的なサウンドの特徴は、このアルバムには微塵も混入していませんでした。 ミネアポリス近辺のフォーキーなアコースティック・サウンドは、見事に継承されていたということなのでしょう。

  このアルバムに接して最初に感じたのは、全 15 曲という曲数の多さです。 分数も明記されているのですが、4 分超の曲が1曲だけ存在する以外は、ほぼ 3 分前後の曲は多く、2 分に満たない曲も 4 曲収録されています。 個々の楽曲は、かなりの粒ぞろいなので、シンプルでライト・タッチなアコースティック・サウンドが十分に堪能できる作品に仕上がっています。
  アルバムを聴き始めてすぐに感じるのは、プライベート盤とは思えない音の良さとボーカルの瑞々しさです。 John Max Jacobs の声質は、極めて繊細かつ上品で、この手のサウンドには最もフィットするもの。 それを支える演奏は、アコギ中心の素朴な編成で、半分くらいは弾き語り、それ以外の曲もほとんどの曲はギターとベース、そして薄く入るドラムスという編成で生み出されています。

  アルバムは先に進めば進むほど、深く染み入ってくるような流れとなっていて、A 面よりも B 面のほうが味わい深く感じます。 A 面が悪いというのではないのですが、時計の効果音がしっくりこない「Clock A-Tickin'」やエレキ・ギターが参加する唯一の「Railroad Man」が、足を引っ張る形になってしまっています。 一方、B 面にはこうしたマイナス点がありません。 とくに珠玉の名曲「Frankie Lee McKinney」は、出会えて良かったと感謝したくなるような出来栄えです。 ♪Frankie Lee McKinney, Are you sleeping well tonight?♪ という温もりのあるメッセージが、いつも以上のハイトーンで歌われるこの曲は、もし僕がコンピレーション盤を作るとしたら、必ず入れるであろう 1 曲です。 
   ラストの前の「The Open Gate」は、ピアノによるインスト。 わずか 41 秒しかないのですが、こうした間奏曲を入れるタイミングと、それをピアノにするという変化の持たせ方は、秀逸だと思います。  ブログを書きながら、アルバムを 2 回通して聴きましたが、カントリー色がまったく無いところもアルバムの特徴だと気付きました。  そして、シンガーソングライターのサウンドとしては、どことなく英国的な匂いも感じます。  歌詞は、反戦・反核のメッセージ色の強い曲が数曲ありますが、それ以外は身近な人々のことを歌ったものが多いようでした。

   John Max Jacobs が、プレイリー(大草原)の向こうに見た夢は、こうしてレコードという形あるものとなって残りました。  それから 25 年の年月を超えても、その内容は時代に左右されない名盤と呼ぶに相応しい魅力を有しています。  彼の名前をネットで検索しても、ひとつとして引っかからなかったことが気になりますが、John Max Jacobs は、いまもどこかで歌い続けていているのでしょうか。

 

■John Max Jacobs / A Prairie Dream■

Side-1
No Artist’s Hand
Clock A-Tickin’
Railroad Man
Lazy Willow
Roll On Santa Fe
Dear Father
Queen Anne’s Lace

Side-2
Learn To Forgive
I Need You Here
Frankie Lee McKinney
Waiting For The Harvest
Iron Butterfly
A Place Between
The Open Gate
Leavin’ In The Mornin’ Light

All songs written and arranged by John Max Jacobs
Recorded at Custom Studios, Minneapolis, Minnesota

John Max Jacobs : rhythm and lead guitar, piano, vocals, effects
Terry Gardner : bass, lead guitar
Dave Jacobs : lead guitar
Kent Howes : drums
Bob Wilson : harmonica, back-up vocal
Roger Bates : piano

Distributed by Apricot Hill Records