Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

Mark Moore

2009-05-31 | Christian Music
■Mark Moore / Livin’ In The Love■

  Mark Moore は、カナダ出身のクリスチャン系ミュージシャン。 発表年度は不明ですが、このアルバムについて記述した海外サイトの情報では 1984 年という説があります。後に触れるとおり、1970 年代後半のカバー曲が数曲含まれていることから、信憑性は高いと言っていいでしょう。

  このアルバムは、ほぼ Mark Moore 単独の弾き語りアルバムとなっています。 わずかにコーラスでゲスト参加があるものの、全曲でリズムセクションが排除され、一貫したサウンド作りが行われています。 そうした場合のクリスチャン系のシンガーソングライターは、概して繊細で内向的になったり宗教色が強まったりすることが多いのですが、Mark Moore の場合はその逆となっているところが意外に感じます。 ギターのサウンドも開放的で、ボーカルも MOR 的なゆとりのあり、全体としてドリーミーながらもポジティブな印象を受ける作品です。 彼のボーカルスタイルは SSW のミュージシャンと言うよりは、売れ線のハードロック・バンドがアコースティック・バージョンを披露したときに近いものを感じました。

  アルバムは半数が自身の作品ですが、4 曲ほどカバーが収録されています。 最も有名な曲は、Loggins and Messina の「House At Pooh Corner(プー横丁の家)」です。この曲は Loggins and Messina が 1971 年に発表したデビューアルバムからのスマッシュ・ヒットとして有名な曲。 ここでは Mark Moore がミディアムに優しく歌い上げていますが、曲を知っているうえに原曲に忠実なアレンジのせいか、Mark Moore の個性よりも原曲の良さのほうが勝っているという印象です。 
  他の 3 曲は、AOR よりの CCM シンガーのカバーです。 「A Broken Heart」は、Dallas Holm、「Do You Know Him」はBob Ayala、そして「Praise Song」は Pete Carlson です。 いずれも 70 年代後半にオリジナルが発表されているナンバーですが、Mark Moore 厳選の楽曲ということなのでしょう。 たしかに、オリジナル「Praise Song」は女性コーラスも加わり、ラストに相応しい仕上がりです。 「Do You Know Him」はコテコテの CCM であまり特筆すべき点はないものの、「A Broken Heart」も素晴らしい楽曲。 Dallas Holm に関しては全く未聴なのですが、この曲のようにメロウなテイストなミュージシャンだとしたら聴いてみたくなります。

  ここまでカバー曲だけに言及してきましたが、オリジナルはどうかというと、冒頭の「Livin’ In The Love」に尽きるでしょう。 サビの爽快さと軽やかさが売り物の楽曲ですが、軽くカッティングしつづけるギターの演奏がライト&スムースで曲の良さを引き立てています。 この後に「プー横丁」と続くので、和み度は一気に高まります。 つづく「Timothy」もオリジナルの中では捨てがたいバラードでした。 他にも有名な賛美歌「いくつしみ深き」(What A Friend)が収録されているなど、リラックスした時間を過ごすには持って来いのアルバムと言えるでしょう。 ただ、難点は同じようなテンポと予定調和な展開が続くために、気を許すと睡魔に襲われてしまうという点でしょう。 
  Mark Moore には、もう 1 枚アルバムが存在するようですが、その後の活動などはまったく不明です。 柔和な笑顔が印象的な Mark Moore は消息不明のまま、誰にも探されないのかもしれません。



■Mark Moore / Livin’ In The Love■

Side-1
Livin’ In The Love
House At Pooh Corner
Timothy
A Broken Heart
Jesus Love Me / What A Friend

Side-2
Ready Or Not
For You
Do You Know Him
Windows
Praise Song

Produced by Howard J.Baer
Recorded at Masters Workshop, Reydale , Ontario

Guitar and vocals : Mark Moore
Extra vocals : John Dell, Mark Moore, Howard Baer

Pilgrim Records PMC 7032


Billy Hallquist

2009-05-25 | SSW
■Billy Hallquist / Travellin’■

  前回取り上げた Kevin Odegard の「Silver Lining」に参加していた Billy Hallquist のセカンド・ソロ・アルバムです。 流れで取り出した、このアルバムはクレジットを見ると「Silver Lining」と密接な関連があることがわかりました。 その密接さは、時・場所・人で表すことができます。 「天地人」みたいですが、まずはそこを確認していきたいと思います。
  このアルバムが制作されたのは 1975 年、まさに「Silver Lining」と同年です。 レコーディング・スタジオも同じミネアポリスの ASI Studio 、プロデューサーは異なるものの David Rivkin がエンジニアでクレジットされています。 おそらく彼がこの ASI Studio のオーナーなのでしょう。  参加ミュージシャンも、Larry Ankrum や Joe Stanger、Bruce Kurnow などが重なっており、「Silver Lining」に収録されていた Kevin 作の「Roseport 5:05」もカバーされているなど、この2枚のアルバムの関係性の深さがうかがえます。 後ほど触れますが、メロトロンが使われている楽曲が 1 曲あることも共通点となっており、興味深いところです。
 
  クレジットには、Kevin Odegard から、『ビリー、僕らは今夜どこにいるのだろうね? サウスダコタ、それともミネソタかな?』というコメントが寄せられており、2 人がスタジオでのセッションのみならず、ライブハウスをツアーしていたと思われることも発見でした。 では、アルバムを振り返ってみましょう。

  結論から言うと、ここまでくどいくらい比較した Kevin Odegard の「Silver Lining」をはるかに凌駕する作品だと思います。 Billy Hallquist の曲作りのほうが奥深く余裕もあり、曲の構成力や緩急の使い方に長けていると感じるのです。 特にラストを飾る「Ballad Of A Poor Man」と「Glaciers」の流れはかなり上手に練られています。 8 分 28 秒もの長尺の前者では、プログレのように曲調を変化させつつも、組み立てとつなぎが上手に考えられていますし、「Glaciers」へとつなぐ曲間の短さもナイスです。 その「Glaciers」も緩急が変化し、フルートやサックスのソロが主役かのように活躍します。 このインスト重視の指向性は同時代のイギリス的 SSW の匂いを感じます。  イギリス的といえば、Keith Gause によるメロトロンが活躍する「Pass Me By」の佇まいも同様です。 余計な検索ですが、1975 年の ASI スタジオには、メロトロンが 1 台常置されていたのでしょう。 こんな楽器を 1 曲のために移動させたりはしないはずです。
  アルバムのなかで親しみやすい名曲と言えば、「Travellin’」や「Pay The Penalty」があげられます。 とくに「Travellin’」はクレジットにはないものの、A 面ラストで Reprise され、繰り返されるサビをもう一度楽しむことができます。 この曲でバックコーラスをつけているのは Kevin Odegard なのですが、♪Travelin’ makes me high. Watch the world go by the window♪ というフレーズが耳を離れません。 自分の保有しているレコードの盤質があまりよくないため、音がかすれてしまうのが残念でなりません。 

  最後の Billy Hallquist について触れておきましょう。 彼の関連作品としては、1972 年発表のファースト・ソロアルバム、そして 1960 年代に参加していたグループ Thundertree での 1 枚がありますが、ともに CD で復刻されています。 まだ入手していないので、ともに未聴です。
  また、まさかと思いましたが、Mill City Records で検索してみたところ、公式サイトが存在しました。 レーベルというよりは機材屋さんのようなページでしたが、この「Travellin’」も年内には CD 化を予定しているとのことです。 自分の盤質が良くないだけに気になります。



■Billy Hallquist / Travellin’■

Side-1
Travellin’
Pay The Penalty
Pass Me By
City Life
Roseport 5:05
Travellin’

Side-2
Peaches
Bonnie & Odie
Ballad Of A Poor Man
Glaciers

Produced by Al Heigl
Recorded at ASI Studios, Mpls., Minn.
Engineered by David Rivkin
Mixed at Sound 80, Mpls

All songs, words and music by Billy Hallquist
Except ‘Roseport 5:05’ by Kevin Odegard

Billy Hallquist : 6-string, vocals, electric 12-string
Al Heigl : 12-string, 12-string slide, 6-strig, harp
Rick LiaBraaten : drums
Rick Miller : bass
Kevin Odegard : backing vocals, 6-string
Joe Stanger : backing vocals
Jim Hauck : backing vocals
Carrie Caldwell : backing vocals
Keith Gause : mellotron
Larry Ankrum : piano, flute, sax
Bruce Kurnow : harp
Ron Wydell : jaws-harp
Bill Hinckley : fiddles, mandolin, foot
Blueberry Bill : banjo

Mill City Records MCR-7501

Kevin Odegard

2009-05-23 | SSW
■Kevin Odegard / Silver Lining■

  「なんだ、男前じゃないか!」
  Kevin Odegard のセカンド・アルバムを見かけた時の第一印象です。 この余裕の表情を見せる男が、あのアシッド感あふれるイラストと同一人物であるとは信じがたい気がしました。 そればかりか、アルバムの内容に不安がよぎりました。 どこにでもありそうな平凡なジャケットからは、強烈な個性が全く伝わってこなかったからです。 しかし、よく見ると髭の部分だけ赤毛に染まっており、そこに彼のこだわりを見出すことも出来たのですが。

  アルバムは 1975 年に発売されました。 ネットで調べたところでは、Bob Dylan の「血の轍」のミネソタ・セッションが Sound 80 で行われたのが、1974 年 12 月 27 日と 30 日ですので、この「Silver Lining」は、ミネソタ・セッション後にレコーディングされた可能性が高いと思われます。 そのセッションには、Kevin Odegard 以外では Peter Ostroushko (mandolin)、Billy Peterson (bass)、 Gregg Inhofer (keyboards)、Bill Berg (drums) といった面々が参加しているのですが、この「Silver Lining」には誰一人として参加していません。 唯一、ベースでクレジットされている Willard O. Peterson が Billy Peterson と同一人物の可能性があるとは思っています。

  さて、アルバムは意外にもファーストと同様にサンドイッチ型のインスト小曲で構成されており、その 2 曲(「Introduction」、「Vinnie’s Tune」)にフルートで参加している Larry Ankrum が両方のアルバムに参加した唯一の人物というのも興味深い点です。 これだけ多くのミュージシャンが必要だったのかと思えるほどの人数が参加しているのですが、その中で目を引くのは、自身でもソロ作品を発表している Billy Hallquist です。 彼のソロ作品も近いうちにこのブログで取り上げたいと思っています。

  A 面は「Introduction」の美しい余韻から一転して、B 級なアメリカン・ロック「Wine, Women And Song」が鳴り始めいきなり興醒めします。 しかし、カントリー風味の「New York To North Dakota」で持ち直し、大人びた余裕が魅力のミディアム「Rock’n Roll Man」、和みのワルツ「Mary-Go-Round」と続くなかで徐々に味わいが深まります。 ラスト「Visions Of You」はボーカルにエフェクト処理を行い、ファーストに似た雰囲気の佳作に仕上がっています。
  B 面は、変拍子を駆使しながらもキャッチーなサビが耳に残る「The Middle」でスタート。 やや異色なこの曲の後には、「.44」、「Roseport 5:05」、「It Ain’t You」とメロウでリラックスした気分の曲が並びます。 これらの曲が、このアルバムのコアな部分を構成しており、Kevin Odegard の音楽的な指向性が率直に表れたものだと思います。 しかし、アルバムの代表曲はタイトル曲「Silver Lining」でしょう。 ピアノを基調としたバラードなのですが、Bruce Kurnow によるメロトロンが効果的に使用されており、憂いを帯びたメロディーと重なって、他の曲とは次元の異なる世界へと導いてくれます。 ストリングスではなく、メロトロンを敢えて選択した意図は不明ですが、この楽器に弱い自分にとっては、その儚い響きが加味されるだけで、えこひいきの対象となるのです。
  
  Kevin Odegard は結局、この「Silver Lining」以降はアルバムを残すことができませんでしたが、現在も Kevin Odegard Band として音楽活動を行っているようです。 また、Bob Dylan 通には知られていることですが、彼は 2004 年にイギリス人ジャーナリストの Andy Gill と共著で「血の轍」に関する本「A Simple Twist Of Fate」を発表しています。 今のところ、日本語訳は出ていないようですが、出しても売れないでしょう。



■Kevin Odegard / Silver Lining■

Side-1
Introduction
Wine, Women And Song
New York To North Dakota *
Rock’n Roll Man
Mary-Go-Round
Visions Of You

Side-2
The Middle
.44
Roseport 5:05
It Ain’t You
Silver Lining
Vinnie’s Tune

Produced by David Rivkin
* produced by David Zimmerman and David Rivkin
Rcorded at ASI Studios, Mpls., Minn.

Kevin Odegard : vocal, acoustic guitar, electric guitar, organ, harmonica, bells
Mark Lee : pedal steel guitar
Larry Ankrum : flute
Dan Lund : guitar
Robbie Paster : bass
Dan Bernie : drums
Bruce McCabe : piano
David Rivkin : sitar, electric guitar, 6 strings bass, 12 strings guitar, harmony vocal
Rick O’Dell : saxophone
Chico Perez : congas
Willard O.Peterson : bass
Steven Delapp : acoustic guitar
Nick Raths : acoustic guitar
Bob Rivkin : percussion
Joe Stanger : harmony vocals
Billy Hallquist : harmony vocals, guitar
Phil Berdahl drums
Jeff Brodnick : flute, fiddle
Bob Strength : drums
Chris Moon Esq. : percussion, vibra harp
Bruce Kurnow : harmonica, mellotron
Dan Lund : electric guitar
Tony Glover : harmonica
Russ Paul : dobro
James Plattes : flute
Rich Dworsky : piano, organ

ASI records ASI 209

Kevin Odegard

2009-05-13 | SSW
■Kevin Odegard / Kevin Odegard■

  まさかこのアルバムが CD 化されていたとは、知りませんでした。

  そういった初 CD 化のニュースはたいてい、雑誌や web で知ることが多いので、このアルバムが CD となって Tower Records 新宿店に並んでいるのを見たときは、声が出てしまいました。 それは、先週日曜日の夕方のこと。 大学時代の友人たちと久しぶりに飲むこととなり、待ち合わせの場所に選んだのが、Tower Records 新宿店でした。 誰かが遅れても退屈しないように、以前から待ち合わせの場所はレコード店と決めているのですが、そんな時間にこのアルバムを発見したのです。
  そんな時はたいていの場合、迷わず購入となるのですが、すでに買おうと思っていた新譜を 2 枚抱えていたので実はまだ買っていません。 それどころか、買うこと自体をためらっています。 それは、Kevin Odegard の音楽を iPOD やカーステレオで聴く気分にはなれないし、このままアナログ盤のプチプチ音のほうが似合いのではないかと思っているからです。

   このアルバムとの出会いは、1990 年代前半、高田馬場の中古レコード店 Disc Fun です。 狭い店ながらも充実した品揃えと値ごろ感でいつも店内が賑わっていたのを思い出します。 大学が高田馬場にあったわけでもないのに、どうしてDisc Fun に通い始めたかは記憶にないのですが、この店は掘り出し物が多いこともあって、当時は定期的に回遊していました。 Randy Edelman や David Pomeranz などを 1,000 円以下で買ったことを覚えていますし、この Kevin Odegard と Stephen Whynott をジャケ買いしたこともしっかりと記憶しています。 その時に購入した Kevin Odegard はカットアウト盤だったせいもあってか、500 円でした。 
  そんな高田馬場の Disc Fun の在庫は、メインはジャズやクラシックだったので、SSW のコーナーは奥行き 30cm くらいしかありませんでした。 しかし、そこが充実していたのです。 今から思えば、買っておけば良かったというレコードが山のように眠っていたはずです。 その Disc Fun も 2007 年に閉店してしまったようで、それを惜しむブログをいくつか発見することができました。 

  さて、そんな懐かしいアルバムですが、このブログを始めた時から、取り上げようと思っていながら、ずっと後回しになっていました。 今晩、久しぶりに聴いていますが、一般的に評価されている 10 分超の「When I Get Home」よりも、小曲のほうが自分は好きです。 特にフルートが入っている曲がお気に入りなのですが、そうなると「Krak’s Song」となるでしょう。 アルバムをサンドイッチ状態で挟んでいるこのインストが有るのと無いのとでは、この作品の奥行きは相当違ったものになったと思います。 
  ポップなフォークロック調の「Trees」、エレピの音色が心地よい「If Your Heart’s Not In It」など A 面は佳作が並んでいますが、個人的には「Fathers And Sons」がベストだと思います。 B 面では「Me And The Blind Man」でしょうか。

  さて、Kevin Odegard と言えば、Bob Dylan の「血の轍」のミネソタ・セッションに参加したことが有名です。 そのことを知ったのは、レコードを買ってから数年後のことですが、今日のブログではそのあたりの事については、一切触れませんでした。 
   僕の知らない事実が、例の CD のライナーには書かれているのでしょうか。 何しろ本人のコメントが寄せられているそうなので、やはり買いたい衝動に駆られてきました。 知りたいのは、Bob Dylan との関係ではなく、ミネアポリスの Sound 80 でレコーディングされたものが、どうしてニュージャージーの Wooff Records から発売されたのか。 そして、Wooff Records の実体とは何だったかなのですが。

 

■Kevin Odegard / Kevin Odegard■

Side-1
Krak’s Song
Forget The Waste
Trees
If Your Heart’s Not In It
A Man’s Work
Fathers And Sons
I Am

Side-2
Me And The Blind Man
Advice From A Stranger
When I Get Home
Krak’s Song

Produced by Don Kingsley and David Zimmerman
All songs written by Kevin Odegard
Except ‘Me And The Blind Man’ written by Kevin Odegard and Greg Anderson
Recorded at Sound 80 Mpls.

Kevin Odegard : vocal, acoustic guitar, electric guitar, on ‘When I Get Home’
Greg Anderson : piano, organ, electric piano, celeste, backup vocals
Steve Delapp : acoustic guitar
Andy Howe : lead electric guitar, electric piano, slide guitar on ‘Advice From A Stranger’
James Hauck : backup vocals, percussion, funnybone
Dick Hiebler : bass
Stan Kipper : drums
Larry Ankrum : flute on ‘Fathers And Sons’
Max Swenson : flute on ‘Krak’s Song’ and ‘Forget The Waste’
Tony Glover : harmonica

Wooff Records W4ST


Paul Ott

2009-05-09 | SSW
■Paul Ott / A Message To Mankind■

   厳格な自然主義者である Paul Ott が 1972 年に発表したファースト・アルバムです。 奇妙なジャケットは風景写真かと思いきや、よく見ると風景画でした。 この絵はミシシッピの自然博物館所有のものとの記載がありますが、この絵に隠されたメッセージについては、後ほど触れることにしましょう。
  Paul Ott Carruth というのが彼の本名。 プロフィールを見ると、保守派・ナチュラリスト・スポーツマン・教育家そして音楽家という形容がちりばめられています。 彼の助言が当時のニクソン大統領の所見にも反映されたとの記載がありますが、その真偽はどうなのでしょう。 いずれにしても、Paul Ott はエコ・ブームの今日よりも 37 年も昔に、エコロジカルな活動を行っていたことは確かです。
  
  では、彼の奏でる音楽はどのようなものだったのしょうか。 その音楽は想像がつく範囲のなかに収まっていました。 アルバムの全曲がぼやけた輪郭に包まれたアシッド感の強い弾き語りとなっていたのです。 コーラスも自身のオーバー・ダビングによるもので、うすくギターの音色が聴こえるものの、ほぼ囁きに似たボーカルで貫かれています。
  「Danny Boy」、「Ole Blue」そして「Shenandoh」といったトラディショナルのアレンジも Paul Ott 自身が手がけており、その他のナンバーも SSW ジャーナリストの Paul Robertson なる人物による「Leaves Turn Brown」以外の作曲は Paul Ott と共作者によるものとなっています。 「Trees Are Gone」や「Once There Was A River」といった曲名からもさきほど述べたとおりのエコロジカルなメッセージが伝わってきますが、何と言っても最大の特長は全編にわたって散りばめられている鳥のさえずりでしょう。 曲と曲の間ばかりでなく、どの曲の背景にも鳥や家畜の鳴き声が挿入されており、それが絶妙に自然に入っていることに感心させられるのです。 こうしたサウンド・エフェクトは大抵の場合、不自然で過剰に感じられるのですが、Paul Ott のアルバムに関しては、演出的に成功と言えるでしょう。

  この鳥のさえずりで思い出したのが、1975 年に高石ともやとザ・ナターシャセブンが発表した「わが大地のうた」(作詞・作曲は笠木透)です。 この曲は草原でレコーディングするという大胆な手法が採られ、風のざわめきや鳥のさえずりも同時に録音されているのです。 この曲は、高石ともやが 1970 年代から自然保護や環境に対する意識の高いミュージシャンだったことを証明する名曲と言えるでしょう。 

  30 分程度で聴き終えてしまうこのアルバムを聴きながら、このジャケットに描かれている鳥を見て、あることを思い出しました。 それは、動物の絶滅史上最大の出来事とも言われている「リョコウバト」の絶滅です。 「リョコウバト」は絶滅してしまった動物のなかで、最も個体数が多かったことで知られています。 ネットで調べたところ、その数は 50 億羽もいたとのことで、地球上の鳥類で最も多い個体数だったようです。 そのリョコウバトは北米にしか分布してなかったのですが、ライフルによる過剰な乱獲と想像以上に弱い繁殖力が重なって、1914 年に最後の個体(名前はマーサ)が動物園で亡くなっています。 僕はこの絶滅のことを 20 年くらい前にテレビのドキュメンタリーで初めて知ったのですが、そのときに鉛のような重たい気分が数日間拭えなかったことを思い出しました。

  最後に、ウィキペディアに載っていた「リョコウバト」のイラストと、このジャケットで空を飛んでいる鳥を見比べてみました。 そんな気はしていたのですが、ここで自由に羽ばたいている鳥は、やはり「リョコウバト」でした...

 

■Paul Ott / A Message To Mankind■

Side-1
Danny Boy
Keeps Me Coming Round
Trees Are Gone
Once There Was A River
Hunting And Fishing Song

Side-2
Ole Blue
Shenandoh
Leaves Turn Brown
A Message To Mankind

Spectator Records UMC 2722

James Ward

2009-05-03 | Christian Music
■James Ward / Himself■

   知られざるピアノ・マン James Ward が 1974 年に発表したデビュー・アルバム。 公式ページによると現在まで 11 枚ものアルバムを残しているようですが、彼がビジネスとしての音楽シーンの表舞台に立ったことは一度もありません。 このアルバムが公式ページのディスコグラフィーから除外されてしまっているのは、入手する手段が無いからだと思われますが、彼の音楽の原点はこのレコードにしっかりと刻み込まれています。
  表舞台という表現を使いましたが、James Ward は一貫してクリスチャン・ミュージックのフィールドで活動をしてきた人物。 従って、1974 年から 35 年もの間、ヒットとは無縁の世界を淡々と歩んできたに違いありません。

  しかし、このファースト・アルバムは、全編に渡って James Ward のピアノの弾き語りで占められており、Randy Newman に代表されるピアノ系 SSW が好きな方には、興味を惹かれるような作品に仕上がっています。曲名を見れば、クリスチャン系だということは一目瞭然ですが、サウンドはゴスペルのバック演奏みたいな気分なので特に身構えることなく James Ward の演奏と息使いに対峙することができるのです。 ここで聴けるピアノの音は、時には Tom Waits の初期の頃のような錆びれたアップライト感のする音色だったり、時には Dr. John 風のざらっとした肌触りだったりして、様々な表情を見せます。 そのバラエティさがこのアルバムの魅力と言えるでしょう。 しかし、欲を言えば、ハードなタッチの曲調が多く、メランコリックなミディアムやマイルドなバラードが少ないことがこのアルバムの最大の難点です。

  そんななか、ピアノ弾き語りの良さが顕著に現れているのは、A 面では一人ゴスペルといった趣の「Morning Sun」、アルバム唯一の名バラード「O Father」、リリカルなピアノの響きとキャッチーなメロディーの「Consider The Lilies」、Tom Waits 風の「I Will Follow You」でしょう。 偶然にも冒頭の 4 曲なのですが、アルバム全てがこの調子で順調に進んでくれれば良かったのに、という印象です。

  B 面は、個々の曲の出来があまり芳しくなく、ラストの「Psalm 90」が渋い余韻を残す程度となっています。 こうしてアルバムを振り返ってみると、勢いにまかせて一気に制作してしまった感は否めません。 James Ward は演奏のテクニックがあるだけに、一発録音で OK みたいなノリで進めていたような気がします。 そこが繊細さに欠ける雰囲気に繋がっているのでしょう。

  1970 年代のピアノ系 SSW にありがちな話ですが、James Ward は幼い頃からピアノの英才教育を受けていたのでしょう。 冒頭にも書きましたが、彼は現在も現役で活動しており、最も新しいアルバム「Life And Health And Peace」は 2000 年にリリースされていました。 商業的な成功を収めたとは思えない James Ward が 35 年にわたって活動し続けることができたのには、ピアノの演奏家としての腕に拠るところが大きかったのではないかと思っています。

 

■James Ward / Himself■

Side-1
Morning Sun
O Father
Consider The Lilies
I Will Follow You
Creation
Isaiah 53
He Shall Be Satisfied

Side-2
Speak To Me
I Wish That I Could Ask
Love Trilogy
Star In The East
Psalm 90

Produced by Bob MacKenzie
Cover Photo : Bill Grine
Studio : Lee Hazen Recording Studio, Nashville, Tennessee
Engineer : Lee Hazel

All Songs written by James Ward

Dharma Music DAR 1005-LP