Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

Cathy Winter and Betsy Rose

2007-08-31 | SSW
■Cathy Winter and Betsy Rose / Sweet Sorcery■

  「オリガミ・レコード」という素敵な名前のレーベルからリリースされた女性フォークデュオのレコードを紹介します。 それぞれ、ソロでの活動が今はメインとなっている Cathy Winter と Betsy Rose が組んだデュオ名義では唯一のアルバムは、1979 年にニューヨーク州のアルバニーから届けられました。
 このアルバムを聴くたびに思い浮かべるのは The Roches の存在です。 Roches は 3 人姉妹でしたので、コーラスの厚みとかでは敵いませんが、Cathy Winter and Betsy Rose の見事なハモリ具合はリスナーの心を洗浄してくれます。 女性 SSW のアルバムとしてはかなりのお気に入りの一枚ですね。

  「Lovers And Friends」は、オープニングに相応しい清涼感のある曲。 初めて聴く人は、この曲で安心感と期待感が交錯することでしょう。 つづく「Degas Dancer」はマイナー調のメランコリックなバラード。 「甘い罠」とでも訳すのか「Sweet Sorcery」は、タイトル曲にして、唯一他人の作曲。 Terry Dash というライターによる楽曲ですが、この曲はまさに The Roches かと思うようなアカペラ・コーラス。 というのも、Marcia Taylor と Roma Baran というサポート・コーラスが入り、総勢 4 人でのコーラスとなっているのです。 かといって過剰にならないところに好感が持てます。 「Would You Believe」は、Cherry Wolfarth の奏でるヴィブラフォンが心地よいジャジーな楽曲。 クオリティは高いですね。 「Amazon Dixie Goes West」は、フォーキーな香り漂う素朴な楽曲。 くどいですが、これまた The Roches 度が高いです。  つづく「Amazon Dixie’s Boarding House」は先ほどの流れをもつ姉妹曲でしょうか。 こじゃれたスィング感はクラリネットの音色によって増幅されています。

 B 面に移ります。 ピアノ系でしっとりしたワルツの「Glad To Be A Woman」は名バラード。 タイトルからも想像できるように、Cathy Winter と Betsy Rose はおそらくレズビアンなのでしょう。 アルバムに参加したすべてのミュージシャンが女性ということ、「オリガミ」という女性らしいネーミングからも、察することができます。 Olivia というレズビアン専門レーベルも存在したことから、このOrigami もそうなのかもしれません。 ジャジーな香りの「Love’ll Have To Do」につづいて、「Climbing The Rainbow」はクラシカルな響きのピアノが優しい名曲。 後半のインストパートのセンスなど、陽だまりカフェにお似合いですね。 「Don’t Shut My Sister Out」は、「Sweet Sorcery」と並ぶアカペラの曲。 こちらは、完全に 2 人きりとなっており、デモナンバーを聴いているかのような気分になります。 ラストは、陽気なカントリー「Long Time Friends」で締め。 ずっと親友でいるよ、というメッセージは女性同士の愛情の強さを表しています。

 歌詞カードを読みながらレコードを聴いても、自分には同性愛らしい独特の表現や言い回しだなあという箇所は分かりませんでした。 ただ、普遍性を持った絆、深い慈悲のような愛といったものを感じ取ることはできました。 それは、余計な装飾を排除したシンプルなアレンジ・演奏からも伝わってくるのでしょう。
 
 秋の気配が急に訪れて、何か忘れ物をしてしまったかのような気になる 8 月の終わりですが、このようなアルバムを聴くと感傷的な気分が増してしまうかもしれません。 それは、レコードを聴き終わった後に訪れる静寂が、余計に身に染みるからなのです。



■Cathy Winter and Betsy Rose / Sweet Sorcery■

Side-1
Lovers And Friends
Degas Dancer
Sweet Sorcery
Would You Believe
Amazon Dixie Goes West
Amazon Dixie’s Boarding House

Side-2
Glad To Be A Woman
Love’ll Have To Do
Climbing The Rainbow
Don’t Shut My Sister Out
Long Time Friends

Roma Baran : Producer
Marilyn Ries : Recording Engineer

Recorded and mixed at Cathedral Sound Studios , Rensselaer , N.Y.

Cathy Winter : lead vocals , supporting vocals , guitar , bass
Betsy Rose : lead vocals , supporting vocals , piano, guitar
Cherry Wolfarth : percussion , vibes
Martha Siegel : cello
Roma Baran : harmonium
Marcia Taylor : supporting vocals
Carolyn Odell : supporting vocals
Nancy Wade : supporting vocals
Susanne Shanbaum : bass , harmonica
Berry McDonald : violin
Gwen Delbaugh : clarinet
Cirle Miller : saxophone
Lorraine Carpenter : trumpet
Losa Shnurr : banjo
Marcia Diehl : mandolin
Liz Hood : spoons

Origami Records ORI 230

David Mallett

2007-08-24 | SSW
■David Mallett / David Mallett■

  1978 年、メイン州から届けられた素朴な一枚。 David Mallett は現在も活動する SSW のようですが、彼のファーストアルバムを取り上げてみました。
  このアルバムは残念なことに、彼の公式ページのディスコグラフィーには、見事に無視されてしまっていますが、それはこのアルバムが CD 化されていないことが要因かもしれません。 しかし、Neworld からリリースされた初期の 3 枚は、「Inches and Miles 1977-1980」とまとめられて CD となっていました。 Neworld からの残りの 2 枚は持っていませんが、このファーストはシンプルでフォーキーな SSW サウンドが楽しめるアルバムだと思います。

  典型的なフォーク・ワルツの「Fire」でアルバムは幕開け。 ショート・フレーズの繰り返しから徐々に音数が増えてくる流れもありがちなものですが、David Mallett の人柄がボーカルを通じて伝わってきます。  かつての友を偲ぶ歌「We Were One」は、ひそやかな哀愁が漂う佳作。 つづく「Inches And Miles」は、先に述べた初期のコンピレーションのタイトルにも使われていることから、彼の自信作なのでしょう。 ギターとベースにうっすらとフィドルが重なりながらも、淡々とした楽曲ではありますが…。  「Circle Of Friends」はピアノとフィドルによる控えめなアレンジが冴える名曲。 この曲が A 面ではお気に入りです。 つづく「Arowsic」もトラッド風のワルツ。 ホイッスルが可愛らしく響きます。 A 面ラストの「Garden Song」は、ネットで調べたところ PPM など多くの人にカバーされている曲でした。 

 B面に移ります。 楽器のダルシマーのことを歌った「Dulcimer」ですが、ダルシマーは使われていません。 しかし、Doreen Conboy をはじめとする 3 人のバックコーラス(Voicesと表現されてます)が、霧のようにかぶさってきて涼しげです。  「It’s Cold Tonite」は、アップな二拍子。 ほとんどベースのみの伴奏です。  平凡な出来の「I Knew This Place」につづく「I Wish I Were A House」は、ギブソンの 12 弦ギターによるインストゥルメンタルです。 このような流麗なアルペジオは、このアルバムでほとんど聴けなかったことから、この曲の存在はアルバムにとって非常に重要です。 個人的には、このアルバムの代表曲だと思っています。 セカンド以降は、まだ未聴なのですが、このような指向が強まっていてほしいです。 さて、ラストの「Arthur」は、ストーリー・テリングという感じの曲。 大きく展開することもなく、淡々と進行しますが、時折挿入されるホイッスルの寂しげな音だけが余韻として残ります。

  David Mallett を語るときに思い出すのは、同じニューイングランドの SSW である Bob Stromberg です。 彼の作品は、このブログで紹介済みですが、Bob Stromberg のほうが曲作りに表情があるというか起伏を感じます。 いっぽう、David Mallett は詞に比重を置いているせいかもしれませんが、フレーズの繰り返しや典型的なワルツが目立ちます。 アルバムのなかに、明確な「サビ」がわかる曲が散りばめられれば、もっと懐の深い作品になったのではないかと思います。 とはいえ、アレンジやサウンドの一貫性と安心感は、なかなか出せるものではなく、こんなに落ち着いたアルバムが、本当にファースト・アルバムなのだろうかと感心してしまうことも確かです。 

 ニューイングランドの雄大な自然と繰り返す四季は、そこに生まれ育つ人々の心を豊かにします。 それゆえに、その人々から生み出されるサウンドには、凛とした清涼感や毛布のような暖かみが感じられるのでしょう。



■David Mallett / David Mallett■

Side-1
Fire
We Were One
Inches And Miles
Circle Of Friends
Arowsic
Garden Song

Side-2
Dulcimer
It’s Cold Tonite
I Knew This Place
I Wish I Were A House
Arthur

Produced by Noel Paul Stookey and David Mallett
All Songs by David Mallett

David Mallett : vocals , six , twelve and classical guitar
Michael Hughes : lead six and classical guitars , auto harp , mandolin , tin whistle and recorder
Mike Cressey : bass
Glen Neuman : drums and percussion
Doreen Conboy : harmony vocals
Neil Mallett : harmony vocals
Noel Paul Stookey : bass on ‘Garden Song’ bass harp , bass recorder
Joe England : drums on ‘Inches And Miles’
Denny Bouchard : piano and Australian bush organ
Don Hinkley : classical lead on ‘It’s Cold Tonite’ and ‘Arthur’
Bob Varney : fiddle
Jane Heald : cello
David Mallett , Noel Paul Stookey and Stu Davis : vocals on ‘Arhur’
Doreen Conboy , Allison Dibbie and Elaine Sutherland : vocals on ‘Dulcimer’

Neworld Media NWS 042977

George Casey

2007-08-20 | Folk
■George Casey / Any Dream Will Do■

  このアルバムはアイルランドでレコーディングされながらも、本人が何らかの理由でシカゴにやってきたことが原因で、シカゴのレーベルからリリースされました。 裏ジャケットには、Bill Carson という人物による短めのライナーがあり、そのようなことが書かれているものの、それ以上のことには言及されていません。 そうそう、このアルバムが Geroge Casey のファースト・アルバムだとは書かれていましたが。

 そんなこともあって、このアルバムの発表された年度はおろか、収録曲の作詞・作曲者、レコーディング・メンバーといった情報すら明記されていないのです。 もし、それが分かったとしても物事が大きく展開するわけでもないですが。 というのも、おそらくほとんどの曲がトラッドなのです。

 さて、このアルバムの最大の注目は、A 面ラストに収録された名曲「Teddy O’Neill」の存在です。 この曲は、De Danann の名盤「Ballroom」で初めて知った名バラード。 De Danann では、Dolores Keane の清楚なボーカルに心が洗われますが、George Casey によるバージョンは、手触り感のある朴訥としたものになっています。 曲がいいだけに、どんなバージョンも許容できるのですが、このようなフォーキーなバージョンは初めて聴きました。

 アルバム曲をいくつかピックアップしてみましょう。 アルバムタイトル曲「Any Dream Will Do」は、霧のような女性コーラスに導かれ、寄り添いながら展開する素朴な曲。 ネットで調べたところ、いまもアイルランドで現役で活動するシンガーTony Kelly による楽曲でした。  「Town I Love So Well」は、The Dubliners のバージョンで有名な曲のようです。
 B 面の「Mountains Of Mourne」は、Teddy O’Neill とほぼ同じコード展開のワルツ。 この曲も多くの人に愛されているスタンドダードのようです。 淡々としながらも聴き応え十分です。 アルバムラストの「Where My Eileen Is Waiting For Me」と「Irish Colleen」も同じようなワルツです。 

  こうしたこれといって特筆すべき点のないアルバムが、どのようにしてシカゴからリリースされることになったのでしょう。 レコード会社の戦略として、故郷を懐かしむアイルランド系の移民をターゲットとしたマーケティングがあったとはとても思えません。  むしろ、Geoger Casey 自身が、故郷アイルランドでのリリースを止めて、意図的に大西洋を渡ってリリース元を探し、その結果、Crescent という超マイナーレーベルが契約したというほうが真実に近いのでしょう。 ジャケットがイリノイ州で撮影されていることからも、そんな気がします。
 アルバムを手にしたときには、シンプルな SSW にありがちな「小道系ジャケット」の 1 枚として考えていたのですが…

「Any Dream Will Do」とは「どんな夢もかなう」……きっとそういう意味なのでしょう。 はたして George Casey の夢はかなったのでしょうか。



■George Casey / Any Dream Will Do■

Side-1
Any Dream Will Do
Peace On Erins Green Shore
Bunclody
Town I Love So Well
Teddy O’Neill

Side-2
All Kinds Of Everything
Many Young Men Of Twenty
Mountains Of Mourne
Where My Eileen Is Waiting For Me
Irish Colleen

Recorded at Crescent recording Studio , Limerick , Ireland
Photos by Ebert Studios , Oak Park , Illinois

Crescent Records CRES-7501

Patti Dahlstrom

2007-08-15 | SSW
■Patti Dahlstrom / Livin’ It Thru■

  Patti Dahlstrom の夏季特別講座も今日が最終回。 というのも彼女の音楽活動は 1976 年のこのアルバム以降、ぱったりと消息が途絶えてしまうからです。
 
 20th Century からの 3 枚目となるこのアルバムのプロデューサーは、なんと Larry Knechtel です。 キーボードの Michael Omartian からベーシストのJ ack Conrad 、そしてまたキーボードの Larry Knechtel へと、めまぐるしく交代していますね。 いったいこの交代の背景には何があったのでしょう。 レーベルの意向なのか、Patti Dahlstrom のわがままなのか、そのあたりを知る術はありません。しかし、彼女は浮気性だったのではないかとひそかに思ってしまいます。

 そんなこのアルバムのジャケットは、レコードコレクターズでもおなじみの巨匠 Norman Seeff によるもの。 ですが、個人的にはあまりいい写真だとは思いませんね。 デザインを含めても、すでに力が入っていないなあという印象を覚えてしまいます。

 さっそく各曲を紹介しましょう。 Simon & Garfunkel の「明日に架ける橋」のピアノで有名な Larry Knechtel のピアノで始まる「He Was A Writer」は、憂いのあるミディアム。 サビの繰り返しが切々と訴えてくるような名曲です。
「One Afternoon」は、ボーカルに纏わりつくフルートがのどかな雰囲気をかもし出しています。
「Lullaby」は、Steve Eaton の書き下ろし。 彼によるレコーディングはありませんので、ここでしか聴くことのできない曲です。 Patti Dahlstrom には申し訳ないのですが、Steve Eaton が歌っていたら最高なのに、と思ってしまいます。 彼のファーストアルバムに収録されていてもおかしくないミディアムなバラードです。  「Magician Of Love」は、懐の深いミディアム。 アレンジもちょっと凝っています。 ここまでは、ミディアム・テンポで和んできたのですが、「I Remember You」は、凡庸なアップ・ナンバー。 こういう曲をやってはいけないのに、と叫びたくなります。

 B 面は、A 面に比べると出来がよくありません。 それは個々の曲のクオリティに起因するものです。 アダルトな雰囲気のあるゴージャスなナンバー「Without Love」で始まるのですが、つづく「Wild Things」や「Lookin’ For Love」は地味な出来でコメントする言葉はありません。  「Fool’s Gold」は、抑揚の効いた展開を見せるのですが、バックのコーラスワーク以外に引き立てる要素がなく、もう一歩という曲です。  ラストも Larry Knechtel の流麗なピアノに導かれて始まります。 作曲も Larry Knechtel という「Changing Minds」は、ラストにふさわしいドラマティックな曲です。 曲調も複雑で仰々しさが鼻につくところもありますが、彼女の音楽はここで終止符を打ったのかと思うと、じーんと胸に来るものがあります。

  どうして彼女が売れなかったのか、それはアルバムを聴けばすぐにわかることです。 それよりも、なぜ彼女が 4 枚ものアルバムを残すことができたのかということのほうが気になります。 当時の代表的なミュージシャンを従えて、プロデューサーは交代しつつも一流のスタッフに恵まれながらも全くといって開花することのなかった彼女のレコードを聴く行為は、単なる時代に埋もれた価値のない遺跡の発掘調査なのかもしれません。

  でも、それはそれでいいと納得することにしましょう。 これだけ多くのスタッフが、1971 年から 1976 年にかけて、Patti Dahlstrom とともに夢を描いていたことは事実なのです。 夢はかなわないものかもしれません。 彼女が元気にどこかで暮らしていたら、どんな余生を過ごしているのでしょうか。 そんなことを熱帯夜に思いながら、特集を終えたいと思います。



■Patti Dahlstrom / Livin’ It Thru■

Side-1
He Was A Writer
One Afternoon
Lullaby
Magician Of Love
I Remember You

Side-2
Without Love
Wild Things
Lookin’ For Love
Fool’s Gold
Changing Minds

Produced by Larry Knechtel

The Cast
Mike Baird , Ben Benay , Gary Coleman , Jack Conrad , Jay Cooper , Michael Deasy , Daryl Dragon , Don Dunn , Chuck Findley , Bernie Grundman , Jimmie Haskell , Duitch Halmer , Jim Horn , Jackie Kelso , Larry Knechtel , Shelly Knechtel , Jeff Porcaro , Russ Regan , Jerry Scheff , Norman Seeff , Sid Sharp , Bob Siller , Melissa Tennille , Toni Tennille , Garry Ulmer

20th Century Records T-521

Patti Dahlstrom

2007-08-11 | SSW
■Patti Dahlstrom / Your Place Or Mine■

  このジャケットにびっくりという感じの Patti Dahlstrom の 3 枚目です。 セカンドで見せたやつれたイメージから一転して、いいとこのお嬢様みたいなジャケット写真を見たときには、本当に驚きました。 同時に何か不安な気持ちが心を過ぎったことも事実です。
  クレジットを見ても前作と大きな変化があります。 プロデューサーが、Michael Omartian から Jack Conrad と Bill Schnee に交代しています。 それもあって、キーボードから Michael Omartian の名前が消え、名手 Larry Knechtel などに変わっています。 デビュー作から 3 作連続でプロデューサーが交代するというのもあまりないことだと思いますが、本来ベーシストである Jack Conrad がプロデュースに関わった作品としては、ブログでも取り上げた、Chris Ducey くらいしか思い出せません。
  また、作曲面でも重要な変化があります。 Severin Browne の作曲は 2 曲に激減し、その代わりに Al Staehely 、Artie Wayne といった職業作家がそれぞれ 3 曲、2 曲を書き下ろしています。 アルバム制作の段階で、Severin Browne との関係は解消してしまったのでしょうか。

 さて、そんなこのアルバムを聴きなおしてみました。 冒頭の「Used To Be In Love With Love」は、ホーンセクションが活躍するファンク・チューン。 いきなりR&B路線に転向なのかという感じです。 「If You Want It Easy」は、Patti のお得意とするミディアムなバラード。 ピアノ系のステディな演奏をバックにしっとり決めてくれます。 地味なミディアム。「Break Of Day」を挟んでは、Severin Browne の作曲「Painter」です。 この曲はまったりしたアップナンバーですが、もっとグルーヴ感を出せるのではないかと感じてしまいます。 つづく「Louisiana」は Randy Newman ではありませんが名曲です。 メロディーのうねりと淡々としたアレンジが Patti Dahlstrom のボーカルと重なって、いかにも 1970 年代の女性 SSW という雰囲気をかもし出しています。

 B 面は、アダルトでアーバンな「He Did Me Wrong , But He Did It Right」でスタート。 作曲は、Al Staehely ですが、もしHe = Severin Browne だったら露骨すぎですね。 平凡なミデイァム「Runnin’ Out Of World」を挟んで、バラード「When It Comes To You」が始まります。 この曲は彼女の良さが全面に出た佳作で、仮に Patti Dahlstrom のベストを編成するとしたら間違いなくピックアップします。 淋しげなホーンのソロや、落ち着いたリズムセクション、大人びたPatti のボーカルなどが溶け合っています。  つづく「Good To Be Alive」は、Maria Muldaur のようなオールドタイミーな雰囲気。 いい曲だと思ったら Severin Browne の作曲です。 アルバムラストの「Sending My Good Thoughts」は、しっとりとしたバラード。 ほぼ全編が Larry Knechtel のピアノとストリングスのみの演奏となっており、悪くはないのですが、Artie Wayne の書くメロディーにもう少し華やかさが欲しいところです。 とはいえ、この B 面のラスト 3 曲は、このアルバムの最も充実した部分だと思います。

  こうして聴いてみると、豪華なミュージシャンがこれだけ集まっても、際立った名曲やメロディーが無いだけに、強い印象の残らないアルバムになってしまったことも事実です。 そして、1976 年に 4 枚目にしてラストアルバムを発表するときには、またプロデューサーが交代します。 そのプロデューサーは、このアルバムにも参加していますので、予想してみてください。 David Foster ではありませんよ。



■Patti Dahlstrom / Your Place Or Mine■

Side-1
Used To Be In Love With Love
If You Want It Easy
Break Of Day
Painter
Louisiana

Side-2
He Did Me Wrong , But He Did It Right
Runnin’ Out Of World
When It Comes To You
Good To Be Alive
Sending My Good Thoughts

Produced by Jack Conrad and Bill Schnee

Keyboards : Larry Knechtel , Michael Utley , Andy Cahan , George Clinton
Bass : Jack Conrad , David Hungate , Klaus Voorman
Drums : David Kemper , Gary Mallaber , Jim Keltner
Guitars : Dean Parks , Al Staehely , Art Munson , Freddy Tackett , Steve Cropper , Jay Graydon , Al Casey
Banjo , Fiddle and Slide : David Lindley
Accordion : Nick Decaro
Horns : Jim Horn , Chck Findley , Jackie Kelso , Lon Van Eaton
Flute : Jim Horn
Percussion : Steve Foreman , Milt Holland
Background Vocals : Patti Dahlstrom , Don Dunn , Ray Kennedy , Chuck Higgens

Horn arranged by Jim Horn except ‘Break Of Day’ by Chuck Findley
Strings Arranged by David Foster except ‘He Did Me Wrong’ by Jimmie Haskell
Concert Master : Sid Sharp

20th Century Records T-461

Patti Dahlstrom

2007-08-08 | SSW
■Patti Dahlstrom / The Way I Am■

  Patti Dahlstrom のセカンド・アルバムは、彼女の最高傑作だと思います。 それは、僕が初めて聴いた彼女のアルバムだということを差し引いても、です。
  前回の流れを受けながらも、プロデューサーは、Michael Omartinan に交代となっており、彼の人脈により、前作以上に LA の豪華ミュージシャンが参加しています。 Larry Carlton に Dean Parks という黄金コンビ、Jim Gordon、Leland Sklar の鉄壁リズムセクションなど、20th Century がこのアルバムに賭ける意気込みの表れともいえる面々が勢ぞろいしています。
  楽曲の方も、当時の彼氏でもあった Severin Browne の作曲した曲が過半数の 6 曲を占めるなど、Patti Dahlstrom が公私ともに充実していたことがうかがえます。

  前作では Patti Dahlstrom のボーカルがどうも力んでいて気になったのですが、アルバムの 1 曲目 「I’ll Come Home」を聴けば歌い方がいい方向に変わってきたことがわかります。 それは、この曲のメロウさにも拠るとは思いますが、つづく「I Promised」のようなバラードもしっとりと歌いこなしています。 Michael Omartinan によるエレピのイントロがジェントルなそよ風を運んでくるようなアルバムタイトル曲「The Way I Am」は、A 面のハイライト。 プリ AOR に近いサウンドなのですが、1973 年という時代を考えると、時代を先んじたセンスはさすがといえるでしょう。 これは、Severin Browne の作曲センスなのか、Michael Omartinan のアレンジの手腕によるものかはわかりませんが、最高のグルーヴ感が味わえる名曲です。 クラブ系 DJ にはお勧めですね。 つづく「High Noon Alibis」は、二拍子のファンキーな楽曲。 Larry Carlton のスライド・ギターが唸る曲というのも珍しいのではないでしょうか。 A 面ラストの「Cleveland Snow」は、切なさと喪失感がモチーフとなっているように聴こえる美しい佳作です。 

  B 面 1 曲目は、彼女の曲で最も好きな「Emotion」です。 カナダの SSW である Veronique Sanson の作曲によるこの曲は、ドラマティックでいて仰々しすぎず、感情を抑制しながらもエモーションを発散する彼女のボーカルの魅力が最大限に発揮された名曲です。 「Emotion」とはまさにタイトル通りです。 つづく「Give Him Time」は、Craig Doerge のピアノ、Tom Scott の各種ホーン、David Spinoza のアコギによるアンサンブルを背景に、伸びやかなボーカルが繰り広げられます。 Larry Carlton の神経質そうなギターソロが聴こえると、「Then I Lose You」です。 彼の泣き系のギターが全編に渡って聴くことができるのは貴重かも。 Ned Doheny がギターで参加した「Innate」は、物静かなバラード。 贅沢なバックに支えられた奥行きのあるサウンドが楽しめます。 アルバムを締めくくる「For Everybody’s Sake」はラストにふさわしく、徐々に盛り上がりを見せるミディアム。 デビュー作から1年で、よくこれだけ成長したなあと感慨深い気持ちで聴いてしまいます。 ちなみに、この曲には David Lindley が参加しています。 Severin と Jackson の Browne 兄弟の人脈でしょうかね。

  こうして久しぶりにこのアルバムを聴きましたが、懐かしさもあってやはりいいアルバムだということを再確認できました。 懐の深いバック・ミュージシャンの貢献も大きいとは思いますが、前作の課題であったボーカルが見事に成長したこと、ひとつひとつの楽曲のクオリティが向上したことが、このアルバムの魅力に結びついています。
 この勢いのままでいけば、次のアルバムはきっと大名盤になるに違いないと思うのですが、それは次回までのお楽しみということで。



■Patti Dahlstrom / The Way I Am■

Side-1
I’ll Come Home
I Promised
The Way I Am
High Noon Alibis
Cleveland Snow

Side-2
Emotion
Give Him Time
Then I Lose You
Innate
For Everybody’s Sake

Produced by Michael J. Jackson and Michael Omartian

Michael Omartian : piano , electric piano
Craig Doerge : piano
Dean Parks : acoustic guitar
Larry Carlton : acoustic guitar , electric guitar , slide guitar
David Spinozza : electric guitar
David Lindley : slide guitar
Ned Doheny : acoustic guitar
Jim Gordon : drums
Jack Conrad : bass
Leland Sklar : bass
Bryan Garofalo :bass
Ed Black : pedal steel
Gary mallaber : bass drum
Clarlence McDonald : fluegel horn
Michael Utley : organ
Tom Scott : all flutes , bass clarinet , clarinet
Don Dunn : background vocal

20th Century Records T-421

Patti Dahlstrom

2007-08-04 | SSW
■Patti Dahlstrom / Patti Dahlstrom■

  久しぶりにアーティスト特集を行おうかと思っています。 そのミュージシャンは、Patti Dahlstrom です。 何故、彼女を選んだかというと、その主な理由は 3 つです。 まず第 1 に、アルバム 4 枚を残しながらもその後いっさいの音楽活動がないこと。 第 2 に、マイナーな SSW にしては多くのアルバムを残した割には、語られる機会がほとんど無いこと。 そして最後に全てのアルバム・楽曲が未だに CD 化されていないこと、です。
  そんな Patti Dahlstrom は、1972 年に UNI から今日ご紹介するデビュー作を発表。 翌年 1973 年から 1976 年にかけては、20th Century から 3 枚のアルバムを残しています。 彼女のことを初めて知ったのは 20 年ほど前ですが、そのときには 20th Century からの 3 枚だけだと思っていたので、このアルバムを入手したときには、幻のファーストを手にしたかのような気持ちになったのを覚えています。 同じような現象は、Andy Pratt の「Records Are Like Life」でもありましたが。

  さて、Patti Dahlstrom の作品を語る上で欠かせないのが、Severin Browne との関係と LA の豪華なバック・ミュージシャンによるセンスあふれる演奏です。 そんなことも 4 回に分けて触れていければと思います。

 まずは、このデビュー作を聴きなおしてみましょう。 Michael Omartian のピアノが目立つ「Wait Like A Lady」は、どうしても Carole King を意識せざるを得なかった 1972 年という時代を感じさせる曲。 女性 SSW としてはかなりキーが低いのも特徴です。 つづく「And I Never Did」は、ストリングスのみをバックにしたスロー・バラード。 静寂を切り裂くかのようにピアノの強いタッチが響くと Severin Brown 作曲の「Get Along , Handsome」の始まりです。 アルバムのなかでも特に印象的な出来栄えになっているこの曲は、初期の Patti Dahlstrom の代表曲です。 ボーカルも力強く粗野な感じです。 つづく「Comfortable」は、Robbie Leff という人物の作曲。 この曲もメロウでメランコリックなバラード。 中盤から後半にかけての Jim Horn のサックス・ソロが印象的です。 A 面ラストの「This Isn’t An Ordinary Love Song」も彼女のパッションが深く込められたミディアムです。 まだ若いというかラフな彼女のボーカル・スタイルが合わないという人はここでリタイヤという感じでしょうか。

  レコードを裏返します。 「Weddin’」は、ラグタイム風のアレンジによるテンション高めな曲。 この曲も Robbie Leff の作曲です。 つづく「I’m Letting Go」は、しっとり決めているつもりですが、どことなく野暮ったさが残るバラード。 Severin Browne の曲です。  「What If」は、日本のニューミュージック風のメロディとアレンジが妙になじむ曲で、B 面ではベストかもしれません。 力みのないボーカルは、セカンド・アルバムに通じるとも言えるでしょう。 「Ollabelle And Slim」は、元の Patti Dahlstrom のアルトが饒舌に歌いかける感じですが、それが聴き手にとっては重たすぎるのだよ、と言ってあげたくなります。 ラストの「Rider」は、さすがにラストに置かれているだけあって、淡々と渋みのあるサウンドが広がります。 大草原を駆け抜けるライダーのように、自身もアメリカの音楽シーンを席巻する夢をみていたことでしょう。 

  こうして久しぶりに通して聴いてみると、Patti Dahlstrom のボーカルがまだ未完成というか固いなあという印象です。 もっとマイルドに、もっとビターに表現力を増し、ソングライティングに磨きがかかればヒットの可能性も無くはないという気がします。 おそらく、20th Century のスタッフはそう考えたのでしょう。 
  逆に言うと、このアルバムが全く売れなかったことが理由で、UNI はこの 1 枚で契約を終了することになったのです。



■Patti Dahlstrom / Patti Dahlstrom■

Side-1
Wait Like A Lady
And I Never Did
Get Along , Handsome
Comfortable
This Isn’t An Ordinary Love Song

Side-2
Weddin’
I’m Letting Go
What If
Ollabelle And Slim
Rider

Produced and Arranged by Toxey French
String Quartet and Background voices arranged by Michael Omartian

Guitar / leader : Ben Benay
Piano : Michael Omartian , Jerry Peters
Drums ; Joel O’brien , Gene Pello , Toxey French
Bass : Jerry Scheff , Jack Conrad
Congas : King Errison
Tenor Sax : Jim Horn
Strings : concert master – Sid Sharp
Background Vocals : Tibor Zelig , Harry Hyams , Jesse Ehrlich

UNI 73127

Ron Nigrini

2007-08-03 | SSW
■Ron Nigrini / Ron Nigrini■

  8 月に入ってようやく梅雨明けです。 昨日はそんな梅雨明けにふさわしい爽快な青空が広がりました。 そんな青空と梅雨明けを記念して、今日のレコードをピックアップしてみました。 ジャケットの写る空の青さはなかなかお目にかかれるものではありませんね。 この青空が風の強い冬の日のものか、高気圧の下降気流に圧倒されている真夏のものなのかを議論した人たちが、かつて存在したかどうかはわかりませんが、Ron Nigrini の軽装具合から、冬のものではないと思います。 その確信もあって、今日のセレクトとなった次第です。 かなり強引ですが。
 
 さて、そんなアルバムは、Ron Nigrini の人当たりの良さ、誠実さ、音楽への情熱といったエッセンスがうまく溶け合った内容になっています。 カナダの Jackson Browne と言ったら、誰かに怒られてしまいそうですが、そんな表現がぴったりではないでしょうか。

 さっそく各々の楽曲をレビューして見ましょう。 オープニングを飾る「Lost In Colorado」は、軽やかなフォークロックで、ペダルスティールがジャケットのような爽やかに響く曲。 つづく 「For Someone On The Road」はほんわかした二拍子です。 アップテンポのオールドタイム・ジャグといった趣。の「Signs」は、ラストにちょっとしたアイディアを忍ばせています。 「Simply Flowers」はRon Nigrini のギター弾き語りによるシンプルな曲。 彼の素朴で親しみやすいボーカルが堪能できます。 シンプルな二拍子「Letters」を挟んでA面ラスト「Horses」へ。 この曲は以前ブログで紹介した、Michal Hasek がカバーした曲のオリジナルにあたります。 A 面ラストを締めくくるにふさわしい雄大なスケール感と人なつっこい温もりを併せ持った名曲といえるでしょう。

 B 面に移りましょう。 冒頭の「Think Of All The Good Things」は、54 秒しかない短い曲。 弾き語りのみの朴訥とした曲がすぐにフェードアウトしてしまうという大胆な展開です。 重なるようにアコギのシンプルな導入から「Red Clouds」が始まります。 アルバムのなかでは珍しく翳りとか孤独感を感じる落ち着いた楽曲ですが、センスのあるバックの演奏も含めて、アルバムの代表曲のひとつでしょう。 Dennis Linde 作の「Kitty Starr」もそよ風のような優しい楽曲。 フェードアウト間際のピアノの音色が新鮮に響きます。 つづく「Song Of The Sprit」は 1 分 12 秒という小曲。インタリュードのような扱いです。 そして、同郷の The Band の代表的な名曲「The Night They Drove Old Dixie Down」でアルバムは幕を閉じます。 Ron Nigrini がデビューアルバムにして、この曲をカバーし、ラストに持ってきた意味合いは決して軽いものでないはずです。 リスナーとして、それは判っているつもりですが、それを凌駕して、このカバーの出来は素晴らしいものがあります。 オリジナルの持つ埃っぽさや男臭さを完全に払拭せずに、Ron Nigrini の声質にあったアレンジが施されているといったところでしょうか。 このラストの充実さもあり、このアルバムはカナダの SSW を語るには外せないものになっています。
 いつものように、Ron Nigrini の近況を調べてみました。 すると、公式ページがすぐにみつかり、すっかり白髪になった彼の近影を見ることもできました。 彼は 1975 年のこのデビュー作以降、2002 年の最新作「Songs From Turtle Island」まで、わずか 5 枚のオリジナル・アルバムしか発表していないようです。 かなりの寡作ということから、ビジネスとしての成功とはほど遠い音楽人生だったことが想像できますが、ヒットや成功・知名度といった要素が、音楽そのものにとってはたいしたことでないことを彼自身が良く知っているように思えてなりません。




■Ron Nigrini / Ron Nigrini■

Side-1
Lost In Colorado
For Someone On The Road
Signs
Simply Flowers
Letters
Horses

Side-2
Think Of All The Good Things
Red Clouds
Kitty Starr
Song Of The Sprit
The Night They Drove Old Dixie Down

Production : Dennis Murphy
Arrangement : Dennis Murphy and Ron Nigrini
Recording : Phil Sheridan at Thunder Sound , Toronto

All Songs written by Ron Nigrini except ‘Kitty Starr’ by Denis Linde , ‘The Night They Drove Old Dixie Down’ by J. Robbie Robertson

Ron Nigrini : lead vocals , acoustic guitars , dulcimers , background vocals
Paul Fortier : bass , background vocals
Ken Harris : harmonica , background vocals
Don Heard : electric guitar , acoustic guitar
Bob Moore : drums , percussion
Larry Good : banjo on ‘Horses’
Pat Godfrey : piano on ‘Kitty Starr’ and ‘For Someone On The Road’
Bob Lucier : pedal steel on ‘Lost In corolado’
Brent Orenstein : kalimba on ‘Red Clouds’
Kim Perry : feet on ‘Signs’
Live Bat and Tackle : Sarah Ellen Dunlop and Cheryl Roth) background vocals on ‘For Someone On The Road’ , ‘Signs’ and ‘The Night They Drove Old Dixie Down’

Attic Records LAT-1000