Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

Jon Ten Broek

2008-04-27 | SSW
■Jon Ten Broek / Sweet Dreams And Visions■

 Jon Ten Broek は昨年 10 月に取り上げた Ten Broek & Theresa の片割れです。 Ten Broek & Theresa のアルバムでは劣勢の評価だった Jon Ten Broek の汚名返上なるかということで、同じ Riverbend Records からリリースされたソロアルバムを紹介しましょう。 おそらく、彼のソロ名義としては最初のアルバムと思われるこのアルバムは 1980 年の作品です。

 ジャケットの景色やタイトルからは安定感のある良質な SSW 作品を想像したくなるのですが、残念ながらその期待に十分に応える内容ではありません。 とくに A 面は曲調にムラがあり印象が悪くなるのは残念です。 しかし、B 面はラストを除いてはレベルの高い曲が並んでいるため、「片面名盤」と呼ぶことは出来そうです。 
 ということで、B 面にスポットを当ててみましょう。 B 面はミディアムな楽曲で占められているのですが、「Song For Lovers」はもっとも雄大なバラード。  Martin Wilson のライトなギターソロが浮遊感を与えるのに成功しています。 つづく「Just A Breath Away」はアルバムを代表する名曲。 Jon Ten Broek と女性シンガーの Pamela Rose Rutledge のデュエットによる壮大なバラードなのですが、Jon Ten Broek のようなシンガーには女性のパートナーがついたほうがいいことを再認識します。  ちなみに、Pamela Rose Rutledge で検索してみたのですが、Pamela Rose という現役の女性シンガーがヒットしてきました。 もしかすると、彼女の初期のキャリアなのかもしれません。 その後 B 面は、スタンダードのような普遍性を感じる「Theme Song」、和み系のワルツ「Nothing Better To Do」と進み、ラストの「Affluence」を迎えます。 この曲は珍しくマイナー調の曲で、下り坂の天候のような気分のワルツです。 きっと歌詞に重たいものがあるのでしょう。

  クオリティの低い A 面のなかでは、「Lonely」と「Lovers And Covers」がお気に入りです。 ともにオレゴンの自然とそこに暮らす人々の情景を感じさせる曲に仕上がっています。 
  さて、ここまで触れていませんでしたが、実はコメントを寄せた曲は「Affluence」を除いて、すべてキーボードで参加している Stephen W.Rutledge の楽曲なのです。 逆に、コメントしなかった曲はすべて Jon Ten Broek のものなのです。 これはさすがに問題でしょう。 自分の作詞作曲した楽曲で、自分の持ち味が出せていません。 厳しい表現ですが、Jon Ten Broek は作曲家としての才能には恵まれなかったと言わざるを得ません。 以前紹介した、Ten Broek & Theresa でも存在感が薄かったことが妙に納得できてしまうのです。
  
  しかし意外にも、彼はこのアルバムを発表した 1980 年以降に音楽活動を活発化させたようです。 公式ページには、制作年度は明記されていないものの、5 枚のオリジナル・アルバムが紹介され、通販で買うこともできるようになっています。 バイオグラフィーを見ても SSW というよりは、ギタリスト・ウクレレ・オートハープといった楽器の演奏家としての評価がなされているようでした。 残念ながら彼は、長年の癌との闘病生活の末に昨年 9 月 20 日に亡くなったそうです。 地元オレゴンで楽器を教えたり、自ら演奏することで生計を立ててきた彼のささやかな人生のほんの一部分が、このレコードの溝に刻まれています。



■Jon Ten Broek / Sweet Dreams And Visions■

Side-1
Sweet Dreams And Visions
Lonely
Honey Bee
Hit And Run
Lovers And Covers

Side-2
Song For Lovers
Just A Breath Away
Theme Song
Nothing Better To Do
Affluence

Producer : Theresa Demarest
Background Vocals Arrangements : Stephen W.Rutledge
Engineer : Bob Stoutenburg

Drums : Mike LaRue
Bass : Jim Soleberg
Piano : Stephen W.Rutledge
Lead Guitar : Martin Wilson on ‘Lonely’ and ‘Song For Lovers’
Lead Guitar : Daniel Markoya on ‘Sweet Dreams And Visions’
Lead Guitar : Stephen W.Rutledge on ‘Just A Breath Away’
Rhythm Guitar : Jon Ten Broek , Stephen W.Rutledge
Supporting Vocals : Stephen W.Rutledge , Pamela Rose Rutledge
Flute : Martina Spehar
Strings Arrangements : Stephen W.Rutledge
Fiddler : Billy Oskay

Riverbend Records  RBR JTB-1

Bob Tryforos

2008-04-21 | Folk
■Bob Tryforos / Scott Joplin , Composer - Bob Tryforos , Guitarist■

  全曲インストゥルメンタルのアルバムを取り上げるのは、今回が初めてだと思います。 1972 年に Bob Tryforos という若き青年が「ラグタイムの王様」と称される Scott Joplin の作品のみを演奏し収録したのがこのアルバムです。
  タイトルの「Scott Joplin , Composer - Bob Tryforos , Guitarist」で、このアルバムがインストであることを想像できるのですが、このセピア色のジャケットとちょっと生真面目でアカデミックな雰囲気の Bob Tryforosを見て、迷わずに買った作品です。
  
  さて、このアルバムを語るには、Scott Joplin が何者なのかを知る必要があります。 実は僕もよく知りませんでした。 そこで、ネットで検索。 いい時代になったものです。 すると、Wikipedia の日本版にかなり詳しい解説が載っていました。 できれば、ここをクリックして一読していただきたいのですが、彼はアフリカ系のアメリカ人で 1868 年に生まれ、1917 年に没した作曲家です。 先にも書きましたが、「ラグタイムの王様」と評される作曲家ですが、彼の音楽が広く評価されることになったのは、1970 年代になってからのようです。 そのようなことは、このアルバムの裏ジャケットにも書かれており、Bob Tryforos の音楽への姿勢が伝わってきます。 彼は 20 世紀初頭のアメリカ音楽を伝承しつつ、ピアノではなくギターで表現を極めたかったのでしょう。

  たしかに楽曲のタイトルを見ると、Rag で終わる曲名が 4 曲もあります。 インストですので、個々の楽曲のコメントは控えますが、どの曲も心地よくリラックスできるムードを持っています。 
  実はこのアルバムのなかで誰でも聴いたことがある曲が1曲あります。 それは、B 面 3 曲目の「The Entertainer」です。 曲名だけではピンと来ない人もいると思いますが、この曲はあの映画「スティング」で使用されたあの曲なのです。 僕は今日まで、あの曲は映画のための書き下ろしかと思っていましたので、自分の教養の浅さが恥ずかしくなりました。 しかも、映画は 1973 年に公開されたものですので、このアルバムより 1 年遅いことになります。 映画のヒットが Scott Joplin の再評価のきっかけであることは間違いないので、Bob Tryforos の先見性は高く評価すべきでしょう。

  しかし、残念ながら Bob Tryforos の作品はこれ以外には確認できません。 何か不慮の出来事でもあったかのように、どこを探しても彼の名前は出てこないのです。 彼の消息を知ることができた唯一の手がかりは、とあるサイトです。 それはこのアルバムを紹介するブログなのですが、『1972 年にシカゴのコーヒーハウスで彼を見たことがある』という書き込みに対して、Bob Tryforos の奥さんと思える女性が『Bob もあなたのことを覚えていますよ』と回答しているのです。 ここを読んでほっとすると同時に、彼が今もどこか小さなコーヒーハウスでギターを爪弾く姿を想像してしまいました。

  最後に、このレコードの謎についても触れておきます。 それは、Puritan Records というレーベルにあります。 Puritan というレーベルは 1920 年から 1927 年に存在したレーベルのようなのですが、このアルバムもその時代と同じロゴを使っているのです。 詳しく調べたわけではありませんが、Puritan Records はこの時期に一時復活し、5000 番台の品番でリリースされていたようです。 そのあたりのいきさつや、ラグタイム音楽とのつながりに詳しい方がいらしたら教えていただきたいものです。
  しかし、このアルバムの奥深さはどのように表現すればいいのでしょう。 けして CD で聴きたいとは思わないアナログの温もりを全面に感じることができます。 類稀な才能から生まれた珠玉の楽曲と、真摯な意志を持ったギタリストとの邂逅というと大げさかもしれませんが、そう表現したくなる作品です。





■Bob Tryforos / Scott Joplin , Composer - Bob Tryforos , Guitarist■

Side-1
Weeping Willow
Euphonic Sounds
Paragon Rag
Sunflower Slow Drag
Maple Leaf Rag
The Cascades

Side-2
Magnet Rag
Gladiolus Rag
The Entertainer
The Nonpareil
Pleasant Moments
The Ragtime Dance

Producer : Dave Samuelson
Recorded by Freddy Flick , Chicago , Ill , February-March 1972

Puritan Records 5002

Alex Atterson

2008-04-19 | Folk
■Alex Atterson / Roundabout■

  今日まで Alex Atterson のことをアメリカのミュージシャンだと思い込んでいましたが、そうではないことが判明し、やや動揺しながら書き始めています。 このレコードには Birmingham でレコーディングされたというクレジットがあるのですが、イギリス第 2 の都市のことではなく、アラバマ州の Birmingham だと思い込んでいました。 その思い込みは、Randy Newman の「Birmingham」が頭に残っていたせいなのですが、それはさておき、この素朴で懐かしい味わいのある作品について語っていきましょう。

  1974 年にイギリスのバーミンガムで録音されたこのアルバムは Alex Atterson のファーストアルバム。 彼は 1977 年に「Pushing The Business On」というセカンドを発表していますが、そちらは未聴です。
  このアルバムで聴けるサウンドは、彼のマルチ・ミュージシャンとしての技能に拠るところが大きいのですが、それはけしてテクニック重視ということではなく、バラエティー豊かな楽曲による懐の深さや、オールドタイミーな風景の創出に強く貢献しています。
  
  アルバムは淡々とした牧歌的なミディアム「Kishmul’s Galley」でスタート。 低い山並みとちぎれる流れ雲を眺めているような気分にさせられる名曲です。 ラグタイム風のピアノで歌われる「Down And Out Blues」はまるでニルソンのよう。 つづく「A Ballad For Katharine Of Aragon」は正統派フォーク路線ともいえる楽曲。 軽快なアコーディオンの弾き語り「Obby Oss」で思い出すのはJohn Kirkpatrick だったり。 「Roundabout Rag」はピアノソロ。 古き良きジャズエイジを懐かしむかのような風情が素晴らしく、Alex Atterson の多才ぶりにあらためて感心してしまいます。

  レコードを裏返すと語りだけの「The Pudden」で幕開けし、その意外性に驚きます。 そしてまたお得意のラグタイム調の「Doctor Jazz」へ。 このような曲が多いので、アメリカ産のレコードだと思い込んでしまうのです。  つづく「Fertility Dance」はアコギのインスト。 「Farewell To Sicily / The Dark Island」は、アコーディオンが主伴奏をつとめるワルツ。 この曲は Alex Atterson の故郷のスコットランド風です。  ラグタイムピアノによる小曲「「South Park Parade」を挟んで、アルバムラストの「Sweet Slavery」へ。 この曲は、C.O.B. の楽曲との解説がありますが、聴いたことがありませんでした。 ネットで調べてみると、C.O.B. とは Incredible Strings Band の Clive Palmer が結成したグループのようで、オリジナルはかなりのレア盤のようですが、現在では CD で復刻されているので聴いてみたいと思います。 Alex Atterson はこの曲に関して、「I think it is a really beautiful song – nothing could follow it (except , maybe , my SECOND record!)」とコメントしています。 それほど絶賛している曲を、おそらくカバーしたのは自分だけだと自画自賛しているのでしょう。

  さて、このような Alex Atterson ですが、公式サイトはみつかりませんでした。 しかし、いくつかのサイトの記事を読むと、いまから 10 年以上前に亡くなっていたようです。 1970 年代にマイナープレスでひっそりと 2 枚のレコードを残したことだけが彼の足跡ではないはずですが、誰かが注目し、光をあてない限りは、時間とともに彼の人生と音楽は風化していってしまうのかもしれません。 そう考えると、デジタルではなくモノとしてのレコードの存在意義は増すばかりだと思うのです。




■Alex Atterson / Roundabout■

Side-1
Kishmul’s Galley
Down And Out Blues
A Ballad For Katharine Of Aragon
Obby Oss
Roundabout Rag

Side-2
The Pudden
Doctor Jazz
Fertility Dance
Farewell To Sicily / The Dark Island
South Park Parade
Sweet Slavery

Produced by Alex Atterson and Dik Cadbury
Recorded at Nest Studios , Birmingham during October 1974

Alex Atterson sang and played acoustic guitar , piano , accordion , pianomate , kazoo, piano , hammond organ with Leslie cabinet , and drum
Dik Cadbury sang and played 6 and 12 string acoustic guitars , electric guitar and electric bass
Diz Dizley played guitar but naturally!

Parade PAR 001

Wendy Vickers

2008-04-11 | Christian Music
■Wendy Vickers / Sow A Seed■

  女性の髪のおしゃれ「つけ毛」のことを「エクステンション」ということすら認知していなかったのですが、さらに略して「エクステ」と呼ばれていることには驚きました。 自分がそのことを知って会社で驚いている光景を傍から見ると、まさに典型的な中年なんでしょうね。 ちょっと悲しい気分です。

  その「エクステ」の豪快さでは、レコード・ジャケット至上3本指に入るのではないかと思われるのが今日ご紹介する Wendy Vickers の「Sow A Seed」です。 このアルバムは 1974 年にオハイオ州のシンシナティで制作されました。  曲のタイトルからわかるように、このアルバムはクリスチャン・フォークなのですが、あまりそうした意識をせずに楽しむことができます。
  彼女の声は、容姿から想像したとおりの張りと腰のあるもので、存在感が強く感じられるものです。 楽器はアコースティックなものばかりなので、アルバム全体が彼女のボーカルに支えられているといっていいでしょう。 そのうえ楽曲のクオリティーが高いことから女性クリスチャン・フォークの名盤のひとつに数えられる作品です。
 
  アルバムのなかでも聴き応えのある名曲から触れていきましょう。 A 面では「Glory To God」と「Sow A Seed」をピックアップしました。 前者はタイトルどおり宗教色の強い曲ですが、うっとりするようなメロディーと華麗な歌唱が見事です。 アルバムタイトル曲の後者はギターやフルートの優しい演奏と Ed O’Donnell とのハーモニーが心に触れる名曲です。 B 面では、よりフォークロック調の名曲が目立ってきます。 ラストの 1 曲がやや違和感のある残念な出来なのですが、それ以外はほぼ完璧な流れです。 「High Time」は 1974 年にしかできないのではと思えるフォークロック。 出来の良さに言葉が出ません。 「The Lord Gave Me A Song」はフィドルのソロが美しい、落ち着きのあるワルツ。 1 分ほどのインタリュード的小曲「Holy , Holy」を挟んだ「Keep The Faith On Movin’」は伸びやかなWendy のボーカルが堪能できるミディアム。 彼女のボーカルの魅力はこの曲とつづく「Come To My Table」で最大に発揮されているように思います。 典型的なワルツをベースに予定調和な展開を見せるのですが飽きることはありません。
  ここに取り上げなかった楽曲もけして見劣りすることはありませんが、さきほど少し触れたようにラストの「Go In Peace」だけが、個人的には減点ポイントとなってしまいます。 この曲がせめてラストでなければ聴き終えた後の余韻がより深いものになったはず、と思うと残念です。 とはいえ、これだけのクオリティを保っているアルバムもそれほど多くはないと思います。 Epoch VII Records という聞いた事もないレーベルからリリースされた作品ですが、これからも大切にしていきたいアルバムのひとつです。

  いつものように Wendy Vickers で検索してみたのですが、同姓の女性 SSW がナッシュビルに存在することが分かりました。 しかし、彼女の写真や年齢(52歳)からして、同姓の別人の可能性が高いと思っています。 このアルバムを発表した Wendy Vickers はその後どのような人生を歩んだのでしょうか。 この「エクステ」はもしかすると、実毛なのではないかさえ思うようになってきて、僕の心はもやもやするばかりです。



■Wendy Vickers / Sow A Seed■

Side-1
Get On A Board
Were You There?
Glory To God
Let Me Do It With Love
Sow A Seed

Side-2
High Time
The Lord Gave Me A Song
Holy , Holy
Keep The Faith On Movin’
Come To My Table
Go In Peace

Recorded and mixed by Roger Byrd at Counterpart Creative Studios, Cincinnati, Ohio
Production coordinated by Erich Sylvester

All selections written by Wendy Vickers except for the traditional ‘Were You there?’

Wendy Vickers : lead vocals , rhythm guitar , dulicimer , background vocals
Ed O’Donnell : lead guitar , tambourine, background vocals
Lou Anderson : electric bass, background vocals
Kevin Weiler : piano
Susan Felton : flute
Jeanne Neyer : cello
Jr. Bennett : strings
Chico McNeal : organ
Billy Hinds : percussion
Chuck Rich : pedal steel guitar

Epoch VII Records  WV01

Michael Gillotti

2008-04-05 | SSW
■Michael Gillotti / California■

  僕が出会った「California」というタイトルのアルバムには駄作はありません。 Harvey Williams の 1999 年のアルバム、Perry Blake の 2002 年のアルバムはリピート率の高い愛聴盤といなっています。 カリフォルニアという言葉の響きには、陽気さと切なさがいりまじった独特の情感を覚えてしまうのですが、イーグルスの「ホテル・カリフォルニア」をリアルタイムで聴いた世代に共通のものではないかと密かに思っています。

  さて、今日は最も最近出会った「California」を取り上げてみました。 イタリア系と思われる SSW の Michael Gillotti が 1981 年に発表した作品です。 彼は 2005 年と 2007 年に自主制作の CD-R を発表している現役のミュージシャン。 残念ながら公式サイトは発見できませんでしたが、それどころかこのアルバムについて言及しているサイトすら見つけられませんでした。 近年のサウンドは、「Folk Rock in the spirit of Bob Dylan, Joan Baez, Donovan」と評されている Michael Gillotti ですが、27 年前の音はどんなものだったのでしょうか。

 海辺で笑顔を見せるジャケットからメロウなプリ AOR 的なサウンドを予想したのですが、少しだけ当たっていました。 メロディや曲自体の特徴を活かしたアレンジと演奏は手堅いものがあります。 新鮮に響くのは、Irene Goodnight のバイオリンの音色です。 半分くらいの曲に参加していますが、カントリーのような味わいにはならないリード楽器として存在感を見せています。 Irene Goodnight でお気づきになった方もいるかと思いますが、彼女の名前は、Ry Cooder の十八番でもある「Goodnight, Irene」をひっくり返したものですね。 きっと Irene だけが本名なのでしょう。

  このアルバムのハイライトは「Pisces」と「Bad Times With The Good」の2曲です。 「うお座」という意味の「Pisces」は 7 分を超える大作。 その間、特に仰々しい展開をみせることもせずに、ひたすら抑制気味に歌われるバラードなのですが、スケール感あふれる作風に思わず引き込まれてしまいます。 「Bad Times With The Good」は、最もメロウな楽曲。 サビの繰り返しのコーラス隊がエモーショナルで素晴らしく、静かな高揚感が味わえます。 このアルバムの最高傑作でしょう。
  アルバムはいかにも 80 年代という古さを感じる「Robber Baron Blues」でスタートするので途惑いますが、「Song To My Sister」や「You Got Love」といったリズミカルな佳作が続き、一安心したところで「Pisces」を迎えます。 B 面は「Bad Times With The Good」が良すぎて他の曲はかすみがちですが、アコギの響きが美しい「Shirley’s Song」や淡々としたミディアム「Life After」はなかなかの楽曲です。 全 9 曲のアルバムですが、バラエティに富みながらも著しい違和感を感じる曲はありません。 カリフォルニアからは、Jon Tabakin や Joseph Nicoletti のようなユニークな作品が生み出されますが、この Michael Gillotti のアルバムはそれらのような個性はあまり感じませんが、良質なサウンド作りは高く評価することができるでしょう。
  
  さて、Michael Gillotti の近年の作品は、反戦フォークといった趣のようですが、この「California」にはそのようなメッセージ色は全く感じさせません。 当時のアメリカの政治経済が安定していた時期だったかは覚えていませんが、若き日の Michael Gillotti にとってアメリカは夢と希望に満ちていたのでしょう。 このアルバムの 3 年後に、ロスアンジェルス・オリンピックを迎えることになります。




■Michael Gillotti / California■

Side-1
Robber Baron Blues
Song To My Sister
You Got Love
Pisces

Side-2
Bad Times With The Good
California
I’m Always Here
Shirley’s Song
Life After

Produced by Michael Gillotti
All songs written by Michael Gillotti
Arrangements by Michael Gillotti with participating musicians

Michael Gillotti : vocals , acoustic & electric guitar , harmonica
Tom Donlinger : drums , tablas
Ray Scott : electric & acoustic guitar
Steve Evans : bass (side one)
Dallas Smith : tenor , alto & soprano saxophone , flute
Irene Goodnight : violin
Fran Carbonaro : background vocals
Stu Feldman : bass (side two)
Esther Clyman : background vocals on ‘Bad Times With The Good’

Metanoia Music PP133