Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

Willy Claflin

2010-03-28 | SSW
■Willy Claflin / Stones Along The Shore■

  近年は音楽家というよりも作家としての活動が中心となっている様子の Willy Claflin が 1984 年に発表したデビュー作を取り上げてみました。 公式サイトでのバイオグラフィーによると、彼は 1961 年から 196 6年にかけてハーバード大学で学んでいたとのことですので、このアルバムを制作した頃すでに 40 歳を超えていたことになります。 裏ジャケットでリンゴでお手玉をしている彼の表情をみると、たしかに中年の領域に入っていることは明らかでした。
  さて、その Willy Claflin のデビュー作がこのアルバム。 全編がシンプルなギター系の SSW 作品なのですが、これらの曲はほぼ Willy Claflin と共同プロデューサーである Tom Carr によって作られています。 本人には失礼ですが、個々の楽曲の出来がやや地味で、存在感のある名曲が少ないことが弱点となっている気がします。 気分としては、今日の天気のように冬に逆戻りしたか寒い曇天によく似合うことから、英国的な雰囲気が好きな SSW ファンにお勧めの作品でしょう。

  僕の表現力ではどうしようもない地味な楽曲がいくつかあるので、それらは割愛しながら楽曲を紹介してみたいと思います。 オープニングの「Down East Café」は、Tom Carr が参加したミディアム。 アルバムの雰囲気を伝える役割は十分果たしています。 つづく「I Dare You」は孤独感あふれるバラードで、アルバムの代表曲の1つ。 Tom Carr のベースのサポートが実は効いています。 「New Best Western」もしっとりした曲調で少しウェストコーストの匂いを感じます。 ジェシ・ジェイムスのことを題材にした「Dream On, Jesse」は一転してカントリーの残り香です。
  個人的に最も好きな曲は B-1 の「Moon On The Water」です。 ギターのアルペジオがトラディショナルのような雰囲気なのに、自然と和める曲作りと演奏力はまさにアルバムのハイライトでした。 ラストの「Laeve The Past Behind」はこれまでにないブルーズ調のアレンジにやや驚かされます。 ポケットにしのばせたウィスキーをくいっと飲んだ後のような気分にさせられるビターな味わいで、アルバムは幕を閉じました。 

  こうしてアルバムを聴きとおしてみると、これがファースト・アルバムとはとても思えません。 デビュー数年たった円熟味を感じさせるのは、やはり彼の年齢からくる人生経験の豊かさが故のものでしょう。 大学を卒業してから 18 年も何をしていたのだろうかと思いますが、こうした人生の回り道が作品の世界観や完成度に影響を与えるということは小説家の世界ではよくあることですので、Willy Claflin も同じようなことだったのでしょう。 
  遅咲きなだけに長くマイペースで創作活動ができている…  Willy Claflin のデビュー作を聴いてそんなことを感じたのです。

■Willy Claflin / Stones Along The Shore■

Side 1
Down East Café
I Dare You
New Best Western
Dream On, Jesse
American Son

Side 2
Moon On The Water
Well I Thought You Might Like To Know
Lemme Tell You
In The Beginning
Stones Along The Shore
Laeve The Past Behind

Produced by Tom Carr and Willy Claflin
All songs by Willy Claflin
Engineered by Tom Carr
Recorded and mixed at Roseland Studio, Newton, MA, march-april 1984

Willy Claflin : acoustic guitar and vocals
Tom Carr : bass, fretless bass, additional vocals
Brian Claflin : backup vocals
Rosy Rosenblatt : harmonica
Rob McCall : fiddle

Old Coyote records OCR 9678

Mary Anne Rivers

2010-03-20 | SSW
■Mary Anne Rivers / Mary Anne Rivers■

  名前は明らかに女性なのに、ジャケットの写真から男性だと思い込んでしまっていたMary Anne Rivers のアルバム。 その先入観から、初めて聴いた時にはボーカルが女性の声だったので一瞬とまどってしまいましたが、すぐ冷静に事態を飲みこんだものです
  クレジットには 1979 年に制作されたことは記されているのですが、肝心の録音場所が書かれていません。 不親切なクレジットですが、表現者として自分たちのことをもっと知ってもらいたいという欲求はなかったのでしょうか。 もっとも、レコードを聴けばそのサウンドやダルシマーの音色からアパラチア山脈周辺あるいはニューイングランドだと想像していますが。
  それはさておき、Mary Anne Rivers のアルバムを一言で表現するならば、清涼感と透明感に包まれたナチュラルテイストの女性 SSW アルバムの傑作、といえるでしょう。 A面ではバラエティに富んだサウンドを展開しつつも、B 面では対照的にスロウな曲ばかりを集め、水墨画のような世界観を見せているのです。

  オープニングの「Mystic Magical Morning」はテケテケするバンジョーをバックにした女声合唱団のような曲。 アルプスの少女みたいな透明感は新鮮に響くのですが、後半の輪唱を聴くと、正直先行きに不安を覚えてしまいます。 しかし続く「Maybe I Won’t Love You」は、Mary Anne Rivers の声も包容力が感じられ、明らかに傾向に変化が見られはじめます。 「Closed My Heart For Repairs」に至っては、ブルースの雰囲気も感じられ、バラエティに富んだアルバムの全体像を感じることができます。 ドブロが活躍する「Cabin #7」、スイング感あふれる「Beautiful Morning」とリラックスした演奏が続き、リスナーもついつい緩みがちに。 バンジョーが再登場の「You Light Up The Whole Damn Place」もオーソドックスな楽曲ですが、このままの流れでは Mary Anne Rivers ならではの個性や存在感は伝わってきません。

  ところが、4 曲しか収録されていない B 面は、前線が通過して冷たい空気が覆ってきたかのようにサウンドが変化します。 最初に話してしまうと、圧倒的に B 面が好みなのです。 まずは、「Clock Strikes Two」から。 この曲は静かなアコースティック・ギターによる弾き語りで、大河のように大らかなサウンドは、このアルバムの最大のハイライトです。 つづく「I Gotta Fly」は 12 弦ギターで参加している Kathy Jo Misner による楽曲。 2 本のギターが絡んで清涼な声が響き渡ります。 「One More Going Down」も切なさあふれるバラード。 「また落ち込んじゃった」とでも訳すのでしょうか。 寂しげな歌声に聴いているこちらも悲しくなってしまう情感豊かな楽曲です。 この曲もまたハイライトでしょう。 ラストは Rosalie Sorrels の 197 5年の作品「Apple Of My Eye」です。 サビの部分でのコーラス、2 本のギターのアンサンブルなど見事な仕上がりです。

  こうして Mary Anne Rivers のアルバムを振り返ってみましたが、最大の特徴は彼女の清涼感あふれるボーカルでした。 セピア色のジャケットからはその内容を全く想像できないことが残念ですし、存在感の希薄さの一因となっていると思います。 いつものように彼女の名前で検索してみましたが、関連しそうなサイトは一つもありませんでした。

■Mary Anne Rivers / Mary Anne Rivers■

Side 1
Mystic Magical Morning
Maybe I Won’t Love You
Closed My Heart For Repairs
Cabin #7
Beautiful Morning
You Light Up The Whole Damn Place

Side 2
Clock Strikes Two
I Gotta Fly
One More Going Down
Apple Of My Eye

All songs were written by Mary Anne Rivers
Except ‘Maybe I Won’t Love You’ by M.Dorsey, ’ I Gotta Fly’ by Kathy Jo Misner, ‘Apple Of My Eye’ by Rosalie Sorrels
Engineer : John Frite

Mary Anne Rivers : vocals, guitar, auto harp
Eric Clark : guitar, lead, bass, banjo
Lary Shoemaker : dobro
Kathy Jo Misner : 12 string guitar, vocals
Donna Lea Wilson : dulcimer, vocals
Elozabeth Sexton Rivers : vocals

River City Studio 1979


Garnet Rogers

2010-03-10 | Folk
■Garnet Rogers / Garnet Rogers■

  カナダ出身のフォークシンガー、Garnet Rogers が 1984 年にリリースしたデビューアルバム。 この作品は、北米では CD 化されていますが、なかなか日本でみかけることはありません。
   ジャケットに映る Garnet Rogers は広い額に長髪、そしてあご髭という出で立ちとは対照的な優しい眼差しが印象的です。 こんな優しい目をする人が作り出す音楽が悪いはずがありません。 アルバムは、その予想通りのアコースティックなサウンドが展開されるのですが、特徴的なのが Garnet Rogers の低音ボーカルです。 バリトン・ボイスと明言しても差し支えない彼のボーカルからは、マイルドでジェントルな人間性が伝わり、アンビエントなインストも含まれたこの作品は、デビュー作品とは思えない完成度を備えた秀作だったのです。

  このアルバムでは、Garnet Rogers はボーカルやギターのみならず、バイオリンも奏でるなどの多彩さを発揮。 一方、バック陣はドラムスとベースという 2 人だけのシンプルな演奏ですが、Garnet Rogers のストリングスがオーバーダビングされる場面が多く、思ったよりも奥行きのあるサウンドに仕上がっています。 収録曲はほとんどがカバーとトラッドのアレンジとなっており、純粋なオリジナルは1曲もありませんでした。 しかし、それが落胆につながるかというとそういうことはありません。 むしろ、このアルバムと出会ったことによって、見知らぬカナダの SSW のことを知るきっかけになりました。
  たとえば、「Bird On A Wing」でカナダの女性 SSW である Connie Kaldor の存在を知り、「Thanksgiving Eve」では男性 SSW である Bob Franke のことを知るといった具合です。 知っているけど聴いたことがなかった Doug McArthur からは「Break The Law」、「Black Eyed Susan」が、Willie P.Bennett のデビュー作からは「Music In Your Eyes」がセレクトされています。 カナダ以外では、スコットランドの Archie Fisher による 「Final Trawl」が収録されていました。  これらのカバー曲のなかで特に印象に残ったのは躍動感と存在感あふれる「Break the Law」、ゆったりしたワルツの「Bird On A Wing」、そしてトラッド的な演奏が秀逸な「Final Trawl」の 3 曲です。

  このようにカバー曲の出来は問題ないのですが、個人的には 2 曲のインスト「Carrickfergus」、「Farewell To Music」に強く惹かれました。 とくに環境音楽のような「Carrickfergus」は、Dave Woodhead のフレットレス・ベースがずしりと響きわたり、Mark Knopler のサントラ名盤「Local Hero」のようなサウンドに仕上がっていました。 この素晴らしい音づくりは、まさにプロの成せる技だと感服です。

  Garner Rogers はカナダの SSW 界の奥深さを体現するミュージシャンとして今もなお現役で活動しています。 最新作は 2007 年発売のライブアルバムでした。

■Garnet Rogers / Garnet Rogers■

Side 1
Who Me
Break The Law
Music In Your Eyes
Carrickfergus
Final Trawl

Side 2
Westlin Winds
Black Eyed Susan
Bird On A Wing
Farewell To Music
Thanksgiving Eve

Produced and arranged by Garnet Rogers
Engineerd by Greg Roberts
Exective Producer : Varelie Rogers

Garnet Rogers : all vocals, acoustic and electric six and twelve string guitars, violins, viola, flute
Dave Woodhead : electric basses, piano, gut string guitar
Al cross : drums

Snow Goose Songs
Varelie Enterprises