Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

Bill LaBounty

2011-08-07 | AOR
■Bill LaBounty / Promised Love■

  夏らしいジャケットの代表格といえば、このアルバム。 AOR のなかでも、通に人気の高い Bill LaBounty が 21 世紀レコードから 1975 年に発表したファースト・ソロ・アルバムを取り出してみました。 Bill LaBounty といえば、Curb Record s時代の 3 作「This Night Won’t Last Forever」(1978)、「Rain In My Life」(1979)、「Bill LaBounty」(1982) が有名ですが、このファーストのみ未だに CD 化されていません。 

  あまり知られていませんが、Bill LaBounty はソロ・デビュー以前に Steve Eaton と Fat Chance というバンドを結成していました。 今から思うと、スーパー・グループのように思いますが、さほどの内容ではありません。 しかし、ここから巣立った2人がともに名盤を世に残すことになったことを考えると意義深いものを感じます。
  1974 年に Steve Eaton が「Hey Mr. Dreamer」をリリースした翌年に発表された本作は、すでに Bill LaBounty の魅力であるセンチメンタルな男の哀愁が十分に感じられる作品となっています。 

  このアルバムには後に「This Night Won’t Last Forever」で再収録される曲が4曲収録されています。 全 9 曲ですから、その比率はかなり高いですね。 その中でも彼の代表曲のひとつ「Lie To Me」を「This Night」バージョンと聴き比べをしてみたところ、ほぼ同じだということが判明しました。 サックス・ソロの有無とかボーカルの微妙な違いはあるので、おそらくは「This Night」バージョンはオリジナルに手を加えたものか、別テイクだったのではないかと推測します。 憂いを帯びたバラード「Crazy」、「I Hope You’ll Be Very Unhappy With Me」に至ってはほぼ完全一致なのですが、このアルバムで聴くことのできるソウルフルなシルキー・コーラスが「This Night」バージョンでは切り落とされ、その代わりにストリングスなどで厚みを補充していることがわかりました。 これは、今回はじめて聴き比べて初めて発見できたことです。 残る 1 曲、「Open Your Eyes」はコーラスも含めて全く同じバージョンではないかと思います。 

  こうして耳慣れた 4 曲を聴き比べましたが、さすがに再録されるだけの楽曲のクオリティだという印象でした。 残る 5 曲については、まず「Take A Step (Yesterday Waltz)」が筆頭格でしょう。 ストリングスが緩やかに包み込む憂いを帯びたワルツですが、徐々に高揚するエモーションを抑える Bill LaBounty のボーカルが素晴らしく、個人的にはアルバムのハイライトです。 「Together」はディープなソウルのようなテイスト。 「Always Be Near」ノリのいいサザン・ロック風。 巷ではフリーソウル系として人気のナンバーだとか。 ふうん、という感じです。 「Pretty Little Angel」は軽快なサビだけが印象に残るがその他は凡庸な出来。 ラストの「Another Drunk」も、サウンドは悪くないのですが楽曲の出来はいまひとつ。 フェード・アウトしたかと思ったら、ゆっくりフェード・インしてくる感じは悪くないのですが、ほろ酔いセッションみたいな、緩さのほうが前面に出てしまっています。

  Bill LaBounty の習作ともいえる本作から3年して、名盤「This Night Won’t Last Forever」が誕生することになるのですが、その際に Bill LaBounty がこのアルバムから 4 曲を選んだ経緯は判りません。 シングルがスマッシュ・ヒットしたので、アルバムの完成を急いだというのが、最も考えられるストーリーではないかと思います。 あまり夢がない話ですけど。

素敵な裏ジャケはこちらから。

■Bill LaBounty / Promised Love■

Side 1
Lie To Me
Together
Crazy
I Hope You’ll Be Very Unhappy With Me
Always Be Near

Side 2
Take A Step (Yesterday Waltz)
Pretty Little Angel
Open Your Eyes
Another Drunk

Produced by Jay Senter

20th century records T-492


Bat McGrath

2011-07-23 | AOR
■Bat McGrath / The Spy■

  前回とりあげた Robert John のジャケットに雰囲気が良く似ていることから、今日は Bat McGrath が 1978 年に発表したアルバムを取り上げてみました。
  Bat McGrath は、1969 年に Bat McGrath and Don Potter でレコード・デビューした SSW 。 その後 1970 年にファースト・ソロ「Friends And Love」を発売し、この「The Spy」が 4 枚目のソロとなります。 彼のソロは本作しか聴いたことがありませんが、初期のフォーキーなサウンドから徐々に AOR 寄りに変化していったようです。
  クレジットを見ると、プロデューサーには Jimmy Webb や Randy Edelman などを手がけた Matthew McCauley と Fred Mollin の強力タッグに加え、盟友 Don Potter も全面的に協力しており、盤石な態勢でこのアルバムが作られたことが想像できます。

  オープニングを飾る「The Spy」の流麗な始まり方は、贅沢な味わいの AOR アルバムの始まりを予感させる素晴らしいもの。 シルクのようなストリングスや甘いギターの音色も相まって、欠点の見出せない名曲に仕上がっています。 ホーンセクションが入って賑やかな「Grow Light」に続くメロウなバラード「You Should’a Asked」は適度にエモーションが抑制された佳作。 「How Would You Like A Punch?」はカントリー・テイストが感じられるワルツ。 スケール感のあるバラード「You Never Fooled Me」で A 面はゆるやかに幕を閉じます。

  テンション高めのロックンロール「Naples」で B 面がスタート。 つづく「Perfect Fool」はアルバムを代表する秀逸なバラード。 堂々とした佇まいと哀愁が重なり合った曲調は後世に残るべき出来栄えだと思います。 つづく「I Think It Stars With ‘M’」はさりげないタッチだけが印象に残る2分20秒の小曲。 つづく「Angel」はアコギのソロやフェンダーの音色が切なく響くメロウなナンバー。 サビのメロディーなどは AOR のコンピレーション・アルバムに選曲してもけして劣ることのない味わいです。 ラストの「Mornin’ Harv」も流れを組みながら、よりリラックスしたムード。 過ぎ去っていく夏を惜しむかのようにアルバムはエンディングを迎えます。

  こうしてアルバムを聴き通してみると、AOR のアルバム・ガイドに入れても差し支えのない作品だということを再認識しました。 あいにく CD 化されていないことから、あまり認知されていないことはもったいないと思います。 前回の Robert John もそうですが、良質な大人向けのロックを奏でながら、もてない片思いの男を想起させるジャケットなのは、その時代の流行りだったのでしょうか。 それとも、一人でもてまくっていた Boz Scaggs を意識してしまったからなのでしょうか。
  Bat McGrath のサイトを見るとすっかり白髪になった初老の男性が写っています。 きっと、彼は気ままにマイペースで音楽をやっているのでしょう。 そして今はより身近な形での音楽を楽しんでいるようで「House Concert」という宅配ライブを行っていました。 

■Bat McGrath / The Spy■

Side 1
The Spy
Grow Light
You Should’a Asked
How Would You Like A Punch?
You Never Fooled Me

Side 2
Naples
Perfect Fool
I Think It Stars With ‘M’
Angel
Mornin’ Harv

Produced by Matthew McCauley and Fred Mollin
Strings Arranged by Matthew McCauley
Horn Arranged by Matthew McCauley
All Lyrics and music ny Bat McGrath except ‘ I Think It Stars With ‘M’’ by Bat McGrath and Don Potter
Recorded at Manta Studio Company, Tronto

Fred Mollin : acoustic guitar, percussion, background vocals, saxophone
Matthew McCauley : percussion, background vocals, synthesizer
Don Potter : acoustic guitar
Tony Levin : bass
Tom Szczesniak : bass
Terry Clark : percussion
Etha Potter : electric guitar
Bob Mann : electric guitar, slide guitar
Bobby Ogdin : fender rhodes, piano, organ
John Capek : fender rhodes
Larrie Londin : drums
Debbie Fleming : backgrounda vocals
Colina Phillips: backgrounda vocals
Sharon Lee Williams: backgrounda vocals
Liam McGrath : background vocals
Bert Hermiston : saxophone
Russ Little : horns
Pat LaBarbera : horns
Don Englert : horns
Gary Morgan : horns
Ron Dann : steel guitar
Andrew Hermant : banjo

Amherst AMH-1011

Robert John

2011-07-18 | AOR
■Robert John / Back On The Street■

  節電の夏が始まりました。 連日のような猛暑日、そして熱帯夜。 まだ 7 月下旬なのであと 1 ヵ月以上もこんな毎日が続くかと思うと体じゅうから力が抜けていく感じです。

  そんななか、1980 年の AOR 名盤がようやく CD 化されるというニュースを知りました。 数ある AOR の名盤のなかでも、納涼効果は指折りの存在ともいえるこのアルバムが夏の盛りにCD化されるとは節電対策の一環ではないかと思えるほど、ぴったりなタイミングです。 

  本作「Back On The Street」は Robert John の 4 枚目のアルバムにして彼の現時点での最終作です。 1 枚目「If You Don’t Want My Love」(1968)と 2 枚目「On The Way Up」(1972)はレコード会社の事情による再発というニュアンスが強く、ほとんどの曲がだぶっているので、このアルバムが実質的には3枚目と考えたほうがいいかもしれません。 
   12 年間で 4 枚とは、かなり寡作な人ではありますが、そのキャリアは侮れません。 彼は 1979 年に発表した「Robert John」から、シングル「Sad Eyes」をわずか 1 週ではありますが、全米ナンバー 1 に送り込んでいるのです。 The Knack と Michael Jackson の間にうまくハマった幸運もありますが、全米チャート 1 位を記録したミュージシャンにしてはその存在感はあまりにも希薄です。 しかも彼は 1972 年に The Tokensの「ライオンは寝ている」をカバーして、全米 3 位に送り込んだ前歴もあるのです。 それなのに、彼の存在はウスバカゲロウのように、弱々しくはかなく思えます。 それは、1980 年以降の消息不明とウスバカゲロウの短命がオーバーラップすることもありますが、Robert John の最大の魅力である独特のファルセット・ボーカルに通じるものを感じ取ってしまうからでしょう。

  アルバムは完ぺきな入り方をします。 イントロのエレピ、やや遅れて入ってくるリズムセクション。 この数秒間だけで至福の空間へ誘われる感じです。 その「(So Long) Since I Felt This Way」は素晴らしいメロディとノスタルジックな歌詞が融合した傑作で、しかもエレクトリックシタールまで挿入され、すでにメロメロになってしまいます。 つづく「Hey There Lonely Girl」は 1970 年の Eddie Holman の名曲のカバー。 ほんのり甘く香る彼女の匂いを感じながら、海辺の夜にこんな曲を聴けたら最高に幸せでしょう。 ちなみに、この曲は山下達郎もカバーしています。 つづく「Just One More Try」も流れを汲んだメロウなバラード。 「On My Own」は、キャッチーなサビが日本人受けしそうなミディアム。 恋の甘さと切なさがまじりあった「Give Up Your Love」はメロウなさざ波のように完ぺきな A 面を締めくくっていきます。
  B 面は誰でも知っている The Four Seasons の「Sherry」のカバーで幕開け。 Robert John のボーカルと選曲センスのマッチングの正しさを実感する出来栄えです。  つづく「Winner Take All」はやや憂いのある感触からさりげないサビへの移行が素晴らしく、地味ながらこのアルバムを引き立てる名曲です。 サックスソロもクールな後味を残します。 ギターのイントロは日本のニューミュージックのような「Hurtin’ Doesn’t Go Away」は Robert John の自作曲。 曲が少し弱いかなあという印象です。 タイトル曲の「Back On The Street」は Jackson Browne が歌ったほうがいいのでは、と思うような爽快なナンバー。 サビのリピートで転調することもリスナーに読まれてしまうような予定調和な展開に好感するのですが、3回もするとは侮れませんね。 ラストの「You Could Have Told Me」は、お決まりのスムース&メロウな楽曲。 夜の海辺でモヒートでも飲みながら、アルバムを聴き終えた後のことを考えるカップルのために与えられた 3 分 22 秒です。
 
  しかし、34 度くらいある昼間に窓を開けて自然の風だけでこのアルバムを 2 回聴きましたが、不思議と熱さを感じませんでした。 冗談のように聞こえるかもしれませんが、このアルバムは体感気温を 2 度くらい下げて感じさせる効能を持っていると思います。 嘘だと思ったら、Amazon で CD を買ってみてください。
  
  いまは 2011 年、ほとんどの名盤が CD 化されているのに、今日まで忘れられてしまったこのアルバムが今年再発されるのは、何かの奇遇としか思えません。 今年の夏はクルマのなかではこのアルバムばかり聴くことになるのでしょう。 映画「波の数だけ抱きしめて」のような世界感に浸りたい方にもお薦めの名盤です。

■Robert John / Back On The Street■

Side 1
(So Long) Since I Felt This Way
Hey There Lonely Girl
Just One More Try
On My Own
Give Up Your Love

Side 2
Sherry
Winner Take All
Hurtin’ Doesn’t Go Away
Back On The Street
You Could Have Told Me

Produced by George Tobin
Arranged by George Tobin and Mike Piccirillo
Recorded and mixed at Studio Sound Recorders, North Hollywood, California

Drums : Craig Krampf, Ed Greene on ‘Hey There Lonely Girl’
Bass : Scott Edwards, Wade Short on ‘Hey There Lonely Girl’
Guitars : Mike Piccirillo, Bill Neale played solo on ‘Just One More Try’
Keyboards : Stewart Levin, Bill Cuomo on ‘Just One More Try’ and ‘Back On The Street Again’
Synthesizers : Mike Piccirillo
Sax : Joel Peskin
Harp : Katie Kirkpatrick
Bells : Mark Zimosky
Electric Sitar : Mike Piccirillo
Background Vocals : Robert John and Mike Piccirillo, Edna Wright and Darlene Love on‘Hey There Lonely Girl’

Horn arrangements : Gary Scott on ‘(So Long) Since I Felt This Way’ and ‘winner Take All’

EMI America SW-17027


Henry Gaffney

2011-03-27 | AOR
■Henry Gaffney / On Again Off Again■

  今回の大震災で被災された方、いまだに避難を余儀なくされている方へは、深くお見舞いを申し上げます。 僕自身もこの震災を受けて、今までの価値観に捉われず、行き方そのものの見直しを迫られているような気がします。 具体的に何から始めればいいのか、少しづつ考えて行きたいと思っています。 

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  男前にさらに磨きがかかった Henry Gaffney のセカンドアルバムは、レコード会社を移籍して 1978 年に発表されました。 キザすぎるジャケットに田中康夫も嫉妬したであろう本作は、前作よりもさらにアダルトに深化したサウンドが堪能できます。 自身のプロデュースとなったことが影響しているのかは判りませんが、前作同様のジャジーな感覚は維持しながらも、より洗練されクールで老獪になっているように感じます。 Steely Dan が Royal Scam (1976) から Aja (1977) へと1年半足らずで急激に熟成したことに比べれば大した変容ではありませんが、そうした時代考証をしながら聴き比べてみるのも楽しみの一つだと思います。

  オープニングは Kurt Weill によるスタンダード「Mack The Knife」で幕開け。 口笛で始まるメランコリックな雰囲気のなかで、Eric Weissberg のバンジョーが気分を和らげてくれます。 そういえばこの曲は Franklin Micare も 1978 年のアルバムでカバーしていました。おそらく偶然だと思いますが、時代も参加ミュージシャンも近いこの 2 人に共通したセンスを感じとることができます。 「City Lights」や「Breakout」はともにサビを繰り返すところが印象的で耳に残る楽曲なのですが、特にこの 2 曲には Franklin Micare のサウンドと近いものを感じました。 これは、改めてレコードを聴き直して初めて気がついた発見でした。 

  この曲に続くのが個人的なベストの 1 曲「There’s A Train」です。 巨匠 Ron Carter のウッドベースとともに Henry Gaffney のボーカルが心に染み入る大人のバラードは、艶やかなストリングスにも包まれて、完ぺきに近い仕上がりとなりました。 前述の「City Lights」はシングル・カットできそうな曲。 少しトロピカルなムードの「Mannequin」、映画のサントラのような「Happy End」と A 面は続いていきます。

   B 面はフェンダーの音色でしっとりと始まる「This Is It」から始まります。メロウな中盤までの展開から、急にテンポアップしてMichael Brecker の炸裂するようなソロで突然終わるというアイディアは斬新です。 Frankilin Micare 調の「Breakout」でも Michael Brecker は活躍していました。 その後は、重たいピアノ・バラードの「There’s No Sound」、ライトタッチな「Lady」と続いてラストの「On Again Off Again」へとスムースに続くものの、あっけなく終わってしまう感じです。 「On Again Off Again」はビターな味わいのなかで大人の心象が綴られているのですが、エンディングがクールすぎて物足りなく感じてしまいました。

  こうして 2 回にわたって Henry Gaffney のレコードを取り上げてきましたが、2 枚とも時代の最先端を行くハイセンスなサウンドに満たされていることを再認識しました。 にも関わらず、ともに CD 化されていないとは何とも皮肉なものです。 Henry Gafffney は 1995 年からバークレー音楽学校で作曲の講師を務めてましたが、せめて彼が生きている間に CD 化され再評価の対象となって欲しかった思うのです。 意外と、本人が照れ屋さんで、それを拒んできたのかもしれませんが。

■Henry Gaffney / On Again Off Again■

Side-1
Mack The Knife
There’s A Train
City Lights
Mannequin
Happy End

Side-2
This Is It
Breakout
There’s No Sound
Lady
On Again Off Again

Produced by Henry Gaffney
All Songs written by Henry Gaffney except ‘ Mack The Knife’ by Kurt Weill
Strings and woodwinds arranged and conducted by Jack Perry Cone
Concert Master : David Nadien
Woodwinds : Phil Bodnerm George Marge

Henry Gaffney : vocals, acoustic guitar
Joe Caro : acoustic guitar
John Tropea : guitar
Leon Pendarvis : fender rhodes
Pat Rebillot : fender rhodes
Michael Mandel : fender rhodes, synthesizer
Neil Jason : bass
Ron Carter : bass
Danny Trifan : bass
Will Lee : bass
Frank Gravis : bass
Dave Friedman : vibes
David Carey : marimba
Alan Schwartzberg : drums
Bernard Pershey : drums
Chris Parker : drums
Steve Jordan : drums
Eric Weissberg : banjo, steel
Jim Maelen : percussion
Michael Chimes : harmonica
Michael Brecker : tenor solo

Manhattan Records / United Artists Records MR-LA-861 H-0798

Henry Gaffney

2011-03-06 | AOR
■Henry Gaffney / Waiting For A Wind■

  昔でいう伊達男、今ならイケメン。 1970 年代の音楽シーンにおいて、その風貌のカッコよさとサウンドのお洒落さでは他の追随を許さない、と個人的には思っている存在が Henry Gaffney です。 これで売れていたらセレブの仲間入りだったのですが、そう上手く事は運ばず、レコードが売れなかったどころか、彼が残した 2 枚のアルバムがともに CD 化されていないという残念な事態となっています。
  そんな Henry Gaffney のことをふいに思い出し、ネットで調べてみたところ、昨年の 5 月にがんで亡くなっていたことを知りました。 がんとの長い闘病の果てだったそうです。 そこで、今回と次回で 1 年遅れの Henry Gaffney 追悼投稿を行うことにします。

  Henry Gaffney は生粋のニューヨーク育ちなのでしょうか。 彼の音楽のどこを切り取ってもマンハッタンの匂いがします。 世界恐慌が起こる前の 1920 年代のニューヨークはこんなに楽しかったのではないか、と思わせるような古き良き時代の残り香を漂わせるようなサウンドが、当時の名うてのセッション・ミュージシャンを従えて優雅に展開されるのです。 Kenny Rankin をよりジャズ寄りにした雰囲気というとイメージしやすいかもしれません。 いずれにしてもこのテイストは他の SSW/AOR のミュージシャンとは一線を画すところであり、Henry Gaffney の最大の個性となっています。 
  
  アルバムはどの曲も充実した仕上がりとなっているのですが、個人的には A-2 のバラード「Over My Shoulder」に尽きます。 静かでスロウな入りから、徐々に Henry Gaffney のエモーションが解き放たれていく様はあまりにも素晴らしく、形容のしようがありません。 残念なのは、フェードアウトが早く、もう少し長く味わっていたかったと思わせる点です。 それを除けば、完ぺきな楽曲となったことでしょう。 次点となる曲は、悩んだ末に「Nightmare」。 曲調は全く異なり、Anthony Jackson のベースが弾ける疾走感が心地よい楽曲ですが、当時の Steely Dan に通じるものを感じます。 Don Grolnick のエレピが夜に映えるバラード「Can I Rely On You」もビター・スウィートな味です。

  しかしながら、アルバムの大勢を締めるのは「I’m Waiting For A Wind」や「Manhattan」といったアコースティック・スウィング系の楽曲です。 同じ傾向としては「If Only The Weather Would Change」、「For Pete’s Sake (Julian Street)」そして「Happy Birthday To Ya」なども入ります。 いずれもセンスあふれる仕上がりなのですが、これらの楽曲が醸し出す絶妙に洒落たセンスを売り物に世に打って出るには、時代が 10 年早かったと思います。 西海岸を中心に音楽産業が肥大化し始める 1976 年には Henry Gaffney のサウンドは敷居が高すぎたとしか言いようがありません。 

  彼の音楽を聴くたびに、Francis Scott Fitzgerald の「The Great Gatzby」を思い出します。 彼の肖像写真が Henry Gaffney と重なって見えてしまうのです。

■Henry Gaffney / Waiting For A Wind■

Side-1
I’m Waiting For A Wind
Over My Shoulder
Manhattan
Nightmare
Can I Rely On You

Side-2
If Only The Weather Would Change
Superstar
For Pete’s Sake (Julian Street)
Seems I’m Falling
Happy Birthday To Ya

Producer : Dan Collins
Arrangements : Clark Gassman
Engineer : Jerry Barnes

Produced by Gary Klein
All songs written by Henry Gaffney
Strings and horns arranged and conducted by Charlie Calello

Henry Gaffney : acoustic guitar, piano
Anthony Jackson : bass
Elliott Randall : electric guitar
Allan Schwartzberg : drums, percussion
Gary Klein : glass harmonica
Lance Quinn : guitar
Pat Rebillot : piano, electric piano
Richard Davis : acoustic bass
John Tropea : guitar
Don Grolnick : electric piano
Dave Friedman : vibes
Joe Jorgensen : clicks
Lewis Soloff: trumpet solo
Al Dana : background voices
Lenny Roberts: background voices
Dave Buskin : background voices

RCA APL1-1548

Peter Lemongello

2010-08-08 | AOR
■Peter Lemongello / Do I Love You■

  Steve Eaton の名盤「Hey Mr. Dreamer」を最初に聴いたときの衝撃は忘れられません。 ラストにカーペンターズのスマッシュ・ヒット「ふたりのラブソング」のオリジナル・バージョンが収められていたからです。 そもそもオリジナルが Steve Eaton ということすら知らなかったうえに、この曲の原題が「All You Get From Love Is A Love Song」という認識もなかったので、メロディーを聴いて思わず声が出てしまうほど驚きました。 カーペンターズのバージョンとはかなり趣を異にしたミディアムなオリジナルはそれ以来、僕の愛聴曲となっています。 その後、興味はカバー曲の収集にも及び、この Peter Lemongello のアルバムに購入へと繋がっていったのです。

  そんな理由でもなければ手にしなかったかもしれない、Peter Lemongello のアルバムですが、これは 1976 年に発表されたセカンド。 好きになれないジャケットを裏返すと、意外にもプロデューサーとして Jay Senter の名を発見。 彼は Steve Eaton や Bill LaBounty を手掛けたプロデューサー、そして 1976 年という同時代性もあって、期待は急激に膨らみました。  結論から言うと、Lee Ritenour や Mike Baird などの腕利きのミュージシャンのサポートも効いて、かなり聴きごたえのある AOR 作品となっていました。 もちろん、「All You Get From Love Is A Love Song」の存在も大きいのですが、それ以外にも「That’s A Melody」をはじめとするマイルドで艶やかなサウンドが展開されています。 そもそも Peter Lemongello は自作自演系のミュージシャンではないようで、このアルバムも Neil Sedaka などの作家の曲で占められています。 そのことはレーベル面を見ないと判らないのですが、そのなかに David Pomeranz の「If You Walk Away」と Randy Edelman の「Where Did We Go Wrong」が含まれていたのです。 これには興奮しました。なにしろ、二人とも僕の敬愛するピアノ系 SSW なのですから。
  前者は David Pomeranz のサードアルバム「It’s In Everyone Of Us」を代表するバラード、そして後者は Randy Edelman が最も脂の乗りはじめた時期の「Prime Cuts」に含まれた壮大なバラード。 ともに、ボーカリストとしての Peter Lemongello の魅力を引き出そうとした Jay Senter の選曲だと睨んでいますが、これが大正解。 結果的に「All You Get From Love Is A Love Song」のカバーよりもはるかに出来が上でした。 プロデューサーとしては通好みの存在ですが、Jey Senter もなかなか渋い仕事をしますね。 彼の名前だけを頼りに見知らぬレコードに出会ってみたくなりました。
  
  さて、肝心の「All You Get From Love Is A Love Song」の出来ですが、Steve Eaton のスロウな仕上がりと、カーペンターズのライトタッチなものと、どちらに似ているかと言えば、断然カーペンターズのほうでした。 これにはいささか落胆したのですが、ひとつ史実的な観点からひとつ気がつきました。 オリジナルは 1974 年で、カーペンターズのほうは人気が落ち目になってきた 1977 年のヒット。 そして、このアルバムが 1976 年なのですが、イントロのでパーカッションがポコポコするところが両カバーとも同じなのです。 ということは、このアルバムでの Mike Melvoin のアイディアを、Richard Carpenter が拝借したという可能性も出てきたのです。 そんなことに注目する人はいないかもしれませんが、あまりの似方なので気になってしまいました。
  それはさておき、名曲がいろいろな人によって再生されることは大事なことで、この曲もカーペンターズがシングルカットしなければ世の中に広まることもなかったでしょう。
 「愛が残したのは愛の歌だけ...」、この原題を「ふたりのラブソング」とした人のセンスもかなり突き抜けていますね。

■Peter Lemongello / Do I Love You■

Side 1
That’s A Melody
Miss You Nights
When I Think Of You
The Hungry Years
All You Get From Love Is A Love Song

Side 2
Do I Love You
If You Walk Away
Where Did We Go Wrong
From Red To Blue
You’ll Never Know

Produced by Jay Senter
Arranged by Mike Melvoin

Drums : Mike Baird
Bass : Jim Hughart
Guitar : Lee Ritenour
Keyboards : Mike Melvoin
Background vocals : Nigel Olsson, Dee Murray, Tom Behler, Jim Haas, Linda Carey Dillard and Laura Creamer

Recorder at Sunset Recording Studios, Los Angeles

Private Stock Records PS 2018

Sunshine

2010-08-01 | AOR
■Sunshine / Sunshine■

   ついに 8 月に入りました。 今年の猛暑は日本記録を生み出しそうな勢いです。 そこで、夏にしか聴く気分になれないアルバムを取り出してみました。 その名も Sunshine の『Sunshine』です。 グループ名がサンシャインで、このジャケットということで中身を知らない限りは手にする可能性が低いアルバムだと思います。 また、ソウル系の名門レーベル、ルーレットから発売されているので ソウル色が強いように予想しますが、それを期待して買うと裏切られることになるのです。 実は僕もこのアルバムの存在は昨年まで知りませんでした。 このアルバムを知ったのは、浜田山にあるロックバー「Back Beat」でのこと。 マスターが何気なくこのアルバムをターンテーブルに乗せたのがきっかけでした。 当時は酔っていたとはいえ、メロウでマイルドなハーモニーを軸とした AOR 風のサウンドにいたく感銘を受けたのです。 その後、あちこちでレコードを探してつつも、なかなか出会うことがないままだったのですが、先日、幸運にも渋谷のディスクユニオンで 1,000 円という安価で発見することができました。

  さて、このグループは同じ時代、同じブルックリン出身の 3 人組ということで、Brooklyn Dreams と良く似た境遇にいます。 ともにラテン系、イタリア系の移民の血筋を引いているところも共通しています。 Brooklyn Dreams のほうは、Donna Summer の旦那であるBruce Sudano の影響も強いせいで、AOR といってもより R&B やディスコに近い感覚がありますが、こちらの Sunshine はよりミディアムでスロウで、Cecilio & Kapono に代表されるハワイ産の AOR、もしくはウェストコーストの SSW に近いサウンドだと思います。

  このアルバムの個人的ハイライトは、さきほどの「Back Beat」でマスターがかけてくれた「When You’re Not Around」です。 粘っこいギターが紡ぎ出すイントロ、♪If I could hold you♪から始まるサビのメロディーでのエモーショナルなコーラスワークは心の琴線に触れまくりです。 ありとあらゆるプレイリストに加えたい一撃必殺のナンバーだと思います。 この 1 曲だけのためにも買って損はないのですが、この曲だけに留まらないのが名盤たりうる所以でしょう。 A 面では、清涼感あふれるライトでスムースなミディアム「Reach Out」、ストリングスとピアノのイントロから名曲の予兆に満ちたスケール感あふれるバラード「The Woman’s Natural」などがお薦めです。 B 面では、爽快に駆けあがるようなアップの「Dance Romance」の出来も素晴らしく、続くラストの「Love Can Bring Bad Times」は、リゾートにいるかのような気分にさせられる美しいコーラスが聴きどころです。 ちなみに、アルバムの楽曲はすべてメンバーいずれかによるオリジナル。 「Love Can Bring Bad Times」のみが 3 人の共作となっています。

  冒頭に夏にしか聴く気分になれない、と表現しましたが、それは真っ赤なウソです。 このような名盤は季節に関係なく楽しむべきでしょう。 もし、シチュエーションが選択できるのであれば夏の海辺が最高だとは思います。 夏はあっという間に過ぎ去ってしまうものですが、Sunshine の音楽活動もそれと同じくらい短かったのかもしれません。 唯一残されたこのアルバム以外に、彼らの痕跡を見つけることはできませんでした。 裏ジャケには肩を組んだ笑顔の 3 人の若者が映っています。 彼らは今頃どこで何をしているのでしょう。 幸せな人生を歩むことができたのでしょうか...
  Sunshine の短かった夏を思いながら、彼らのためにもこのアルバムが CD 化されることを強く望んでいます。

■Sunshine / Sunshine■

Side 1
Reach Out
The Woman’s Natural
Just Let It Rain
I Don’t Want To Spend Another Day Like Today
The Gaffers’s Dream ( A Day In One’s Life)

Side 2
Ann
When You’re Not Around
Dance Romance
Love Can Bring Bad Times

Produced by Aram Achefrin
Recorded by Geoff daking at Sounc Ideas, Stucio C, New York City

Walter Gil de Rubio : vocals, guitars
Ralph Persico : vocals m guitars
Joe tavormina : vocals, guitars, piano

Frank Vento : bass, guitar, recorder
Michael Micara : drums

Chris Parker : drums on ‘Reach Out’ and ‘ The Gaffers’s Dream ( A Day In One’s Life)’
Van Katz : drums on ‘Love Can Bring Bad Times’
Steve Robbins : keyboards, moog synthesizer
Eric Weissberg : pedal steel guitar
Billy King : percussion
Rahim Taalob : congas

Horns : John Gatchell, Bob Millikan, Burt Collins, Michael Brecker, Joel Kaye, Lou Marini, Tony Price, Gerry Chamberlain
Strings conducted by Al Brown

Roulette Records SR 3018

Mickey Carroll

2010-07-25 | AOR
■Mickey Carroll / Love Life■

  暑すぎる毎日で、気力も体力も減退気味。 週間天気予報を見ると、いっこうに改善の兆しがないので、さらにダウンします。 夏ならではのリゾートに行きたい気分もおきません。 
  そこで取り出したのが 1977 年フロリダ産のアルバム。 レーベル名も「ココナツ・グルーヴ・レコード」というトロピカルな一枚です。 ジャケットはモノクロでわかりにくいかもしれませんが、リゾート風のビーチレストランで祝杯をあげるカップルの姿と、いい子にしている犬が映りこんでいます。 これはカラー写真で夕暮れの景色であれば、AOR 風味も増したことでしょう。

  そんな Mickey Carroll のアルバムは、多くの人が事前に予想するであろうメロウでアコースティックなサウンドで満たされています。 派手なギターソロや、ラテン風のパーカッションはここでは排除され、あくまでもミディアムな曲調を軸にしたスムースでマイルドなサウンドが展開されています。 アレンジはジャズのエッセンスも取り入れており、あまり語られたことがない隠れた AOR の名盤と呼べるアルバムです。 Stephen Bishop とMichael Franks を足して 2 で割ったというと褒めすぎかもしれませんが。 収録曲はすべて Mickey Carroll のオリジナルということで、彼のセンスの良さをにも感服します。

  アルバムは全 9 曲ですが、どれも統一感のあるアレンジでまとめられており、目立とうとする存在はありません。 どれもラブソングということも影響しているのでしょうが、海辺の黄昏時にお似合いなバラードで占められており、最近ようやく DVD 化された映画『波の数だけ抱きしめて』で使われていてもおかしくありません。 映画を知っている人しかわからないと思いますが、あの映画での「I’d Chase A Rainbow / Kalapana」のシーンをこのアルバムの「Riding On The Wings Of Love」や「Never In All My Life」に差し替えてもいいと思うほどです。 もちろん、カラパナの名曲を否定する意味ではないのですが、あの映画のシーン、海辺のイメージにぴったりはまる楽曲が数多く含まれているのです。
  こうしてブログを書きながら、アルバムを 2 回聴き通しましたが、散りばめられたフェンダー・ローズの音色、さりげないコーラスワーク、大人びた演奏を聴くにつれて、体感温度が下がっていくような気になりました。 おそらくまだ外は 26 度はあると思いますが、エアコンは止めて部屋の窓を開けたほうがお似合いです。

  さて、この Mickey Carroll ですが、彼の消息をたずねようとネット検索してみました。 すると、『オズの魔法使い』で有名な俳優に同姓同名の人物がいましたが、彼は 1919 年生まれで 2009 年没ということですので、このアルバムの Mickey Carroll とは無関係でしょう。  それよりも大発見がありました。 この「Love Life」は未 CD 化なのですが、iTunes で配信されていたのです!  しかも配信開始が今年の 7 月 1 日ということですので、始まったばかり。 これは奇遇でしたが、さっそくダウンロード。 アルバム全部で 1,350 円。 ジャケットが加工されていてダサいのが残念でしたが、いったい全世界で何人がダウンロードしたのか気になるところです。

■Mickey Carroll / Love Life■

Side 1
Home Cooked Love
Que Se Da
The Time Is Right
Riding On The Wings Of Love

Side 2
People Love Life
Nothing Matters But Love
Never In All My Life
Sweet Pie
Let Your young Heart Fly Away

Produced by Robert Earl Smith
Recording at Bayshore Recording Studio, Coconut Grove, Florida
All songs written by Mickey Carroll

Mickey Carroll : electric guitar, acoustic guitar and vocals
Eddie Oleck : bass
Paul Lee : drums, timbales
Bob smith : acoustic guitar
Doug Bryn : acoustic piano, Rhodes piano, clavinet
Mike Gerner : Rhodes piano
Rufus Mapp : conga drums, afuche
Jeff Kirk : flute, alto and soprano sax
Keith Morrison : trumpet, flugel horn
Barbara Russell : background vocals

Horn arrangement by Jeff Kirk
String arrangement by Burt Dovo

Coconuts Grove Records AW-14033

Wild Blue Yonder

2009-07-12 | AOR
■Wild Blue Yonder / Blue Print■

  カリフォルニア出身のローカル AOR グループ、Wild Blue Yonder が 1978 年に発表したファースト・アルバム。 にじんだ水彩画のようなイラストからは、アコースティック寄りのサウンドを想像しがちですが、そうではありません。 西海岸出身ながらも、サウンドは Steely Dan の影響が強く感じられ、アダルトでアーバンな指向性が強いサウンドが楽しめるアルバムとなっています。

  Wild Blue Yonder は、Jim と Bill の Bixler 兄弟そして Jim の奥さんのJudy を中心に結成された 7 人編成。 個々の操る楽器を見てもわかるように、ありとあらゆる楽器を駆使して、当時の流行であった AOR サウンドを奏でています。 個人的には派手なシンセの音がしないところが気に入っており、洗練されたサウンドを指向していながら、自分たちのローカルなサウンド・プロデュースの枠を突き抜けられていないもどかしさも伝わってきます。 メジャーレーベルから声がかかり、優秀なプロデューサーが擁立されていたならば、もしかすると大きく化けていたかもしれません。

  彼らのサウンドは、4 人で交代するリードボーカルがひとつの特徴です。 女性の Judy Bixler はメロウで爽快、Jim Bixler は乾いた感じでスムース、Bill Bixler は Jim に比べてやや粘っこい印象。 Phil Wimber(メインはギタリスト)はエモーショナルでソウルフル、といった具合です。 歌の上手さと個性は、Bixler 兄弟よりも Phil Wimber に軍配が上がります。 とくに、彼がリードボーカルを務めた唯一の曲「Last Thing In The World」はアレンジが Steely Dan そっくりなこともあり、アルバムを代表する 1 曲に仕上がっています。 Phil Wimber にもっと歌わせたかったところですが、Wild Blue Yonder は Bixler 兄弟に主導権があるので、仕方ないところでしょう。
  Judy とJim のボーカルは単独での存在感は薄いのですが、ほとんどの場合、2 人がハーモニーで絡んでくるので、そのあたりが聴き所となっています。 「This Is For You」や「Begonia Snow」がそういった類の曲に該当するのですが、どちらも水準以上の出来栄えとなっています。 Bill Bixler の本業はサックスなので、彼は「Spoon Charisma」と「Tragic Emblem」の2曲しかボーカルをとっていません。 前者はスティールドラムが起用されていますが、その必然性が伝わってこないところが残念。 「Tragic Emblem」のほうが後半のいい流れのなかにうまく納まっている印象です。

  ここまで断片的に曲に触れてきましたが、個人的に好みな曲は何かと言えば、B 面の「Paradise」です。 この曲はクラブの DJ あたりが探していそうなライト&スムース感があり、奥行きや味わい深さはないのですがクセのない心地よい楽曲です。 前奏曲まで用意していることから、この曲は彼らにとっても重視していた曲なのでしょう。 

  さて、この Wild Blue Yonder ですが、もう 1 枚「Enthusiasm」というアルバムを発表していますが、こちらは未聴です。 彼らのサイトによると、現在もほぼ同じメンバーで活動を続けている様子が伺えました。 しかし、残念なことに Judy Bixler は自転車事故ですでに亡くなっていました。

■Wild Blue Yonder / Blue Print■

Side-1
Ridin’ Next To You
Instant Gratification
This Is For You
Spoon Charisma
Under The Weather

Side-2
Prelude To Paradise
Paradise
Last Thing In The World
Tragic Emblem
Begonia Snow

Produced by Wild Blue Yonder in association with John Schnell

Wild Blue Yonder
Judy Bixler : vocals, electric piano
Jim Bixler : vocals, acoustic & electric guitar, alto & soprano saxophone, cowbell
Phil Wimber : vocals, acoustic & electric guitar, piano
Bill Bixler : vocals, electric piano, clavinet, piano, soprano tenor & alto saxophone
Tad Wadhams : vocals, electric fretless bass
Jeff Bowman : vibes, steel drum, congas, bongos, misc, percussion, vocals
Alan Carlson : drums, piano, vocals

Strings arrangements by Bill Bixler
Strings : Jerald Keith Barnett, Irene Ikeda Bowman, Jasmine June Murphy

Totallyoutofcontrol Records K-2504

Rob Galbraith

2008-10-30 | AOR
■Rob Galbraith / Throw Me A Bone■

  このアルバムは 10 年くらい前に、Yahoo! オークションで売ったことがあります。 状態のいいレコードが運よく手に入ったので、もともと持っていたほうを出品したのですが、 その際『このレコードは渋谷の某○○BAR のコンピ・カセットに入っている「Just Be You」の Rob Galbraith と同じ人のものですか?』という質問が入りました。 何のことかさっぱり理解できなかったので、『ご指摘の「Just Be You」という曲は入っていますよ』と回答したのを覚えています。 結果、その質問者はけっこうな高値で落札してくれたのですが、この出来事が Rob Galbraith のクラブシーンでの人気ぶりを僕が知るきっかけとなったのです。

  結局、僕はその某○○BAR という店には一度も行くことはなかったのですが、このアルバムのプリ AOR 感覚が、若者に受けるのはなんとなく分かるような気がしています。
  例えば前述の「Just Be You」はグルーヴ感のあるアップ・ナンバー。 途中でトランペット・ソロが格好いいのですが、この曲だけがアルバムのなかで突出しているという評価は正しくないと思います。 個人的には、つづく「I Majored In Jive」や「300 Pounds Of Hongry」の方が好きだったりします。 ともに肩の力の抜けたミディアムな楽曲で、Rob Galbraith の余裕綽々のボーカルが堪能できるからです。 スワンプの残り香を感じさせる「White Boy In The Woodpile」を挟んで Rob Galbraith の十八番的なバラード「The Way He Looks At You」は見事です。 Rob はギターというよりはエレピの人なのですが、そのエレピと彼のボーカルが織り成す至極の哀愁感に浸ることができます。 

 B 面は、シングルカットされたらしい「Damn It All」でスタート。 メロディー、ボーカル、コーラスともに申し分のない曲は、♪I Still Love You Baby, Damn It All ♪と決めるラストにしびれます。 スワンプ色の強いブギー「They Smile Holler Boogie」に続いては、必殺の名バラード「Just Leave Me Alone」です。 エレピをバックにしたシンプルなバラードは Rob Galbraith の真骨頂。 ストリングスやサックス、ギターの控えめな演奏も見逃せません。 弾むようなベースの音色が耳に残る「Throw Me A Bone」、ラストの相応しいさりげなさを見せるバラード「Inspire Me」でアルバムは幕を閉じます。 このアルバムを通して貫いているのは、不器用で孤独な男の悲哀といったイメージです。 歌詞もよく読んでいないので勝手な妄想に過ぎないのかもしれませんが、このダサくて無骨なジャケットを見ると、どうしてもそんなことを考えてしまいます。

  さて、この「Throw Me A Bone」はメジャーレーベルである RCA から 1976 年に発表されたものの、長い間 CD 化もされずに風化しつつあったのですが、ついに年内に初 CD 化されることになったようです。 しかも、紙ジャケット仕様での発売とのことです。 これによってこの名盤が多くのリスナーから再評価されることはうれしいことですが、肝心の Rob Galbraith のアルバムがこの作品以降、発表されていないことが何よりも残念でなりません。



■Rob Galbraith / Throw Me A Bone■

Side-1
Just Be You
I Majored In Jive
300 Pounds Of Hongry
White Boy In The Woodpile
The Way He Looks At You

Side-2
Damn It All
They Smile Holler Boogie
Just Leave Me Alone
Throw Me A Bone
Inspire Me

Produced by Rob Galbraith for Kondo Productions

Keyboards : Bobby Ogdin, Ron Galbraith
Acoustic guitar : Don Potter, Rob Galbraith
Bass : Roy Goin, Steve ‘Sweet Tea’ Brantley
Drums & Percussion : Larrie Londin, Hayward Bishop
Electric guitar : Reggie Young, Tim Krekel

Cello : Michael Bacon
Percussion : Farrell Morris
Clavinet : Bobby Wood
Trumpet : Tommy Smith, David DeArmond
Saxophone : Gayle Whitfield

Backing vocals : the Colby Twins, The Holladays, Bruce Dees, and The Fidgettes
Strings Arranged by Archie Jordan and Bergen White
Horn Arranged by Tommy Smith

RCA APL1-1747

Mendelson Joe

2008-08-19 | AOR
■Mendelson Joe / Jack Frost■

  画家としても活躍している Mendelson Joe が最も盛んに音楽活動をしていたのが 1980 年前後のようです。 僕は 1980 年の本作しか聴いたことがありませんが、CANOE には、「Not Homogenized」(1979年)、「Let’s Party」(1981年)、「Fragile Man」(1986年)というディスコグラフィーが掲載されていますが、何故かこの「Jack Frost」は漏れていました。 そのくらいマイナーなミュージシャンだということでしょうか。
  
  しかし、このアルバムの全編に漂うビター・スウィートな香りは、けしてマイナーなものではなく、大人向けのアダルト・ロックの名盤として語り継ぐことのできる作品と言えるでしょう。 全ての曲を Mendelson Joe が書き下ろしており、まだ無名の Daniel Lanois がエンジニアとして参加しているこのレコードは、ジャック・フロスト(イングランドに伝わる霜の妖精)というタイトルどおり、秋の夜長や冬に似合うテイストですが、前回 Joe Hall のレコードを取り上げた流れで、コオロギの鳴く夜に取り上げることにしました。

  このアルバムのセンスの良さは、クールなコーラス・アレンジ、音の隙間を意識した音数の少ない演奏の 2 点に集約されます。 とくに曲調にブレのない A 面がお薦めですが、曲順にコメントしてみましょう。
  オープニングの「Jack Frost」は、チャイムやベルの音色が可愛らしい名曲。 後にソロとしてデビューする Hazel Walker とのデュエットで囁くように♪Happy New Year♪と歌っているところが最高です。 この曲でいきなり先制点を奪われた監督のような気分になります。 つづく「Tweet Tweet」もエレピの音色や鳥のさえずりのようなエフェクトがまろやかなバラード。 この曲も暖かさがひしひしと伝わってきます。 「The Kiss Tells All」もスムース&メロウ。 ホノルル・ハートブレーカーズなるコーラス隊が入ってくるのですが、ここまでは欠点の見出せない流れです。 つづく「Write Me」は静かなフォービートですが、ここでは Mendelson Joe のクールなジャズ・ボーカルが見事で、ピアノ・ソロやジャジーなギターソロが気品のある空間を演出しています。 そして A 面ラストには秀逸なバラード「I Want To Be With You」が控えています。 ここでのメリハリの効いたアレンジとサウンドはまさにプロのなせる巧みの技です。 ほれぼれするほど出来のいい A 面は完璧といえるでしょう。

  B 面は R&B 風のビートをバックにしたレイジーなナンバー「Huggle And Snuggle」でスタート。 スワンピーなスライドギターのソロなど、このアルバムでは異色な仕上がりで、やや戸惑いを覚えます。 地味ながらもメロウなバラード「Correspondent Love 」を挟んで始まる「Advertise」は 2 拍子のアップナンバー。 エキセントリックで滑稽な楽曲ですが、コーラス・アレンジのセンスが素晴らしく、ジャジーな後半は見事です。つづく「I’ve Got Love」と「Strugglesville」はともに Steely Dan の影響を強く感じるクールな楽曲。 打ち込みのデジタルサウンドが始まる以前、ある意味最も音楽にセンスが問われた時代の演奏のエッセンスが凝縮されているように思えます。

  こうしてこのアルバムのクオリティの高さを目の当たりにすると、前後のアルバムにも当然ですが興味が湧いてきました。 タイトルがやや心配なのですが、入手できたらまたここで取り上げたいと思います。 また、いつも読ませていただいている「S.O.N.G.S」によると、Joe Mendelson 名義で 1972 年にもアルバムを発表しているようです。 こちらも気になりますね。 それにしても Mendelson Joe とはユニークな名前です。



■Mendelson Joe / Jack Frost■

Side-1
Jack Frost
Tweet Tweet
The Kiss Tells All
Write Me
I Want To Be With You

Side-2
Huggle And Snuggle
Correspondent Love
Advertise
I’ve Got Love
Strugglesville

Produced and engineered by Edward William Purdy and Mendelson Joe
All songs composed and written by Mendelson Joe
Cover painting and back cover photograph and designed by Mendelson Joe
Engineered by Dan Lanois

Mendelson Joe : vocals, guitars , foot and various arrangements
Edward William Purdy : bass, guitars, synthesizers, keyboards and various arrangements
Colin Linden : guitar and guitar arrangements
Buck Berger : drums
Gord Neave : drums
Bob De Angelis : saxophones
Hazel Walker : vocals
The Honolulu Heartbreakers : vocals and vocal arrangements

Boot Records BRP2109

Mike Williamson

2008-02-24 | AOR
■Mike Williamson / Friends Forever■

  このアルバムのクレジットを転記しながら思ったのは、曲のタイトルの長さです。 よく見るとワンワードのタイトルは 1 曲もありません。 それどころか、主語述語から目的語までしっかり揃っている曲ばかりです。 この様子から、かなり甘くメロウなアルバムではないかと想像できますが、まさにその通りの内容なのです。
  たとえば、Dennis Yost の人気盤「Going Through The Motions」のようにマイルドでミディアムな曲ばかりを集めた作品に極めて近いものを感じます。 Dennis Yost のようにハスキーではない分、クセが無いとも言えますし、逆に個性が薄いと感じる人も多いかもしれません。 最近取り上げたアルバムでは、Dan Williams の「Midnight Symphony」に似たテイストですね。

 このアルバムは 1979 年、ウィスコンシン州でレコーディングされたもの。 プライベート・レーベルからのリリースですが、演奏やアレンジに稚拙さを感じることはなく、むしろストリングスやホーンの展開にセンスを感じる場面があったりします。

  アルバムは Barry Manilow が歌っていそうな「You’re My Friend」で始まります。 この MOR 的なマイルドさは、もちろん冒険や刺激とは縁遠い世界です。 つづく「Take A Little Time To Love」はミディアムにテンポアップ。 CCM 系の AOR によく見られるクールさといなたさが同居するナンバー。 「I Can Fell The Music」は流行のディスコ色が前面に出すぎて失敗。 CD ならばスキップです。 一転してバラードの「I Guess It’s Love I’m Feelin’」を迎えますが、メロディーがいまひとつ盛り上がりません。 A 面ラストの「Love Just Doesn’t Go Away」もバラードですが、情緒豊なバイオリン・ソロなども入り、ノスタルジックな佳作となっています。
  B 面に移ります。 「I Can’t Forget About You」はグルーヴ感のあるアップ・ナンバー。 サビの繰り返しからギターソロに入るあたりが個人的にはお気に入り。 今どきのクラブ DJ が掘り出しそうなサウンドです。 メロウなミディアム「You’ll Be There Tomorrow」、軽いボサノバ調で艶っぽいアレンジの「It’s The Night For Love」 と進み、「The Long, Long Road」へ。 この曲はドライブ・ミュージックに最適なナンバー。 パーカッションとホーンが疾走感に涼風を送ってきます。 この曲など 4 曲に参加しているドラマーは Steve Smith という名前なのですが、この大物 Steve Smith (元ジャーニー)かもしれません。 というのも、この曲のドラムはかなりのテクニシャンなのです。 一転してバラードの「They’ll Never Take Away The Good Times」、ミディアムから一気にアップに展開する「Friends Forever」は終わり方がやや拍子抜けでした。

  いつものように Mike Williamson について検索してみました。 すると、彼はウィスコンシン州からイリノイ州に拠点を移し、今も現役で音楽活動をしていました。 公式ページの表情とレコードを見比べればすぐに分かります。 数枚あるオリジナル CD には、「Weekend In England」や「Take My Hand」などの Randy Edelman の名曲が収録されており、にんまりしてしまいました。 また、この「Friends Forever」から 4 曲が MP3 ファイルでアップロードされています。 興味がある方はこちらをクリックしてください。 本人のセレクトなのでしょうが、選曲はいまひとつです。



■Mike Williamson / Friends Forever■

Side-1
You’re My Friend
Take A Little Time To Love
I Can Fell The Music
I Guess It’s Love I’m Feelin’
Love Just Doesn’t Go Away

Side-2
I Can’t Forget About You
You’ll Be There Tomorrow
It’s The Night For Love
The Long, Long Road
They’ll Never Take Away The Good Times
Friends Forever

Produced by Mike Williamson & Bob & Joy Dummer
Engineered & Mixed by Andy Watermann , Shade Tree Studios, Lake Geneva , Wisc.

Tom Stein : acoustic & electric guitar
John Burns : guitar,percussion
Dennis Carroll : bass
Jum Conley : drums
Steve Smith : drums,percussion
Julian De Luna : tenor sax ,alto sax, electric piano , flute , flugel horn, ,melodica, percussion
Dorothy Turner : background vocals

Background vocal arrangement by Dorothy Turner
Brass Arrangement by Caty Sheley
Strings Arrangement, brass & Strings conducted by Julian De Luna

BAF-9997

Dan Williams

2007-12-26 | AOR
■Dan Williams / Midnight Symphony■

 このアルバムを AOR とするのは異論もありそうですが、そもそもネットで全く論じられていないことから、勝手に決めてしまいました。 ジャケットから来るイメージが、B 級の AOR の匂いですよね。 
 このアルバムは、Dan Williams が 1976 年に発表したソロアルバム。 Dan Williams に関しては詳しい経歴がわからないのですが、おそらく彼のファースト・アルバムではないかと想像しています。 レコーディングは音楽の都 Nashville ということもあって、多くのミュージシャンが参加していますが、気になっていたカントリー色は全くありません。むしろ、メロウでマイルドな SSW 指向の AOR としては完成度の高いアルバムなのです。 クリスマスは終わってしまいましたが、聴いているだけで誰もが心優しくなれるような気分にさせてくれる魔法のような音楽とも言えます。 

 アルバムは A 面に名曲が並んでおり、ついつい片面を繰り返して聴きたくなるほどです。 オープニングの「I’ll Get To You」は、Dan Williams の良い面がすべて出た楽曲。 やや線が細い Dan のボーカルに、メリハリのあるメロディーが交錯し、軽快なアレンジがシロップのような甘さを引き立てるといった感じです。 「Good Ole Rock And Roll」は、ポップさではアルバム随一の楽曲。 スタンダードになってもおかしくない名曲中の名曲。 これに似たテイストの楽曲があったと思うのですが、すぐに思いつかずに無念です。 つづく「Are You Afraid Of Loving Me」は、一転してアコギをバックにした落ち着いたバラード。 ここまでの3曲の流れは完璧です。 「I’d Rather Be」も流れを踏襲したバラード。 エンディングなどで聴けるアコギの流麗なソロが最高です。 ピアノのイントロで始まる「Kneel Down」は、ややソウルフルなミディアム・ナンバー。  Dan Williams の裏声、表現豊なピアノ、ゴスペル的なコーラス、ホーンセクションが織り成す贅沢な楽曲に仕上がっています。 こうして書いてみると、ハズレ曲の一切ない完璧な A 面ですね。 こうしたソフト&メロウな音楽はまさに 1970 年代ならでは、です。

 B 面に入ると言葉が少なくなってしまいそうな予感です。 冒頭の「It Ain’t the Time」は、最もファンキーなナンバー。 正直言って、かなり残念です。 アルバムの減点ポイントになってしまいますが、1976 年という時代背景を考えると仕方ないとも思います。 アコースティックなミディアム「Midnight」、親しみやすいメロディーが光る「Memories To Lean On」、サビが明確で盛り上がりを見せるバラード「Don’t Want To Dream Alone」など、楽曲の出来はさほど悪くないのですが、黄金のA面に比べると小粒な印象は拭えません。 ラストの「Midnight Symphony」は期待通り繊細でロマンティックなバラード。 彼女と過ごしたある年の夏のことを歌った曲のようで、歌詞の一部が裏ジャケットに刻まれています。 アルバムは夏をイメージしたものと思いますが、僕はこのアルバムは夏よりも冬の方が断然似合うと思います。 それは、各々の楽曲が持っている温かみや親しみは、手編みのセーターのような温もりに似ているからです。

  無名の Dan Williams ですが、同名のミュージシャンが 2003 年に「Dan Williams」というタイトルのアルバムを出していることが判明しましたが、試聴サイトで音を聴いたところ、ボーカルが全く違いました。 残念ながら別人ですね。

 今日の主役である Dan Williams はこんなに素敵なアルバムを残してどこに消えていったのでしょうか。  ジャケットに描かれた浜辺のシェビーバンの後姿を見つめると、センチメンタルな気分が増すばかりです。



■Dan Williams / Midnight Symphony■

Side-1
I’ll Get To You
Good Ole Rock And Roll
Are You Afraid Of Loving Me
I’d Rather Be
Kneel Down

Side-2
It Ain’t the Time
Midnight
Memories To Lean On
Don’t Want To Dream Alone
Midnight Symphony

Producer : Ronnie Reynolds
Co-producer : Peggy Beard

Guitar : Steve Gibson , Michael Spriggs
Bass : Mike Leach , Jack Williams
Piano : Tony Migliore , Jerry Whitehurst , Shane Keister
Percussion : Farrel Morris , Kenny Malone
Drums : Larrie London
Violin : Carl Gorodetxky , Lennie Haight , Sheldon Kurland , Steve Smith , Sthephen Woolf
Viola : Marvin Chantry , Gary Vanosdale
Cello : Byron T. Bach , Roy Christensen
Trumpet : David Converse , George Cunningham
Tenor Saxophone : Billy Puett
Baritone Saxophone : Denis Solee
Trombone : Dennis Good
Voices : 21st Century Singers , Nashville Sounds , diane Tidwell , Polly Cutter , Julia Tillman , Maxine Willard Waters
Strings Arrangements : Bill Walker , Jack Williams
Horn Arrangements : George Cunningham
Vocal Arrangements : Janie Brannon

Zodiac Records ZLP-5008


Joseph Nicoletti

2007-07-27 | AOR
■Joseph Nicoletti / Joseph■

 カリフォルニアというと陽気で明るい雰囲気から、能天気なハードロックとか爽やかな AOR をイメージしがちですが、人知れずマニアックな SSW が出没しているようです。 このブログでも以前に Jon TabakinEric Relph といった奇才のアルバムを紹介してきましたが、今日取り上げる Joseph Nicoletti も同じカテゴリーに位置付けられるミュージシャンです。 とはいえ、彼ら 2 人に比類するほどのレベルかというとそれも微妙ということで、このアルバムを紹介しているサイトは Google で検索しても全く見つかりませんでした。
 
 このアルバムが不幸なのは、1 曲目「Streetwise」の駄目さ加減が際立っていることです。 どうすればここまで格好悪くアレンジできるのかと思うほどの、いなたいロックナンバーですが、それを助長しているのが古臭い ARP っぽいシンセの音です。 つづく「Lifetime Fantasy Dancer」もタイトルからしてセンスが感じられないバラード。 いまひとつしっくりこないのは、Joseph Nicoletti のボーカルに粘り気があり、さらっとしたテイストが全くないからです。 最も近い声質とか歌い方は、つのだ☆ひろ、といってもいいくらいですから。 これが、Ned Doheny のようなボーカルだったら、全く違った風景が広がって見えることでしょう。 さて、こんな酷評を続けていたらアルバムはどんなひどいものになってしまうのかと心配になってしまいますね。 しかし、徐々に慣れてくると曲の出来も良く感じられてくるのが不思議なところです。 「Part-Time Believer」は、Bill Champlin あたりに歌わせたいアダルトなアップ。 ピアノの音に導かれて始まる「Lullaby」はA面を代表するバラード。 Joseph のボーカルも力みが抜けて、おおらかさを感じることができます。 子どもたちは未来だという「Children Are The Future」は、一気にメロウな AOR というムード。 おそらく、クラブ DJ がこのアルバムを聴いたら、この曲をチョイスするだろうなというクオリティです。 最初の 2 曲は何だったんだ!というA面ですね。

 B 面に入ると、尻上がりに調子が上がってくるこのアルバムの特徴が如実に表れてきます。 「Night-Time Stars」は、サンバのリズムをベースにしたグルーヴ感あふれるミディアム。 サックスのソロや二人のパーカッション、弾けるベースなどインスト・パートの充実も光ります。 つづく「On The Wings Of Love」も、メロウなミディアム。 どこに出しても恥ずかしくないクオリティの爽やかなナンバーです。  「Music Man’s Lady」も同じ流れを汲んだミディアム。 この B 面の流れのスムースなところが、このアルバムのハイライトでもあり、最大の魅力となっています。 しかし、「音楽家の彼女」と言われても、どんな歌詞なのでしょうか。 ラストの「Gypsy」は、リズムがちょっとラテンな感じでリゾート感覚あふれるサウンドとなっています。 B 面は 4 曲しかなく、トータルで 15 分に満たないのですが、この B 面のサウンドが Joseph Nicoletti の真の姿なのです。 それだけに、1 曲目の「Streetwise」は残念です。 このアルバムを聴くには、A 面の 4 曲目「Lullaby」あたりから針を落とせば十分という気すらします。 それでは、20 分ちょっとで終わってしまいますけど。

 最後にこのアルバムのクレジットをおさらいしておきましょう。 Joseph Nicoletti は、Eric Relph で有名というよりは MTV のセレブ・ドラマで有名なラグーナ・ビーチ出身とのことです。 この作品以外にレコードをみたことのない Starborne Records の創業者は Ed Taub という人物ですが、彼のこともよくわかりません。ただ、クレジットには、この両名がタッグを組んで Joseph Nicoletti という稀有な才能を世に送り出すと誇らしげに書かれています。 どれだけの人がこのレコードを手にしたかは知る由もありませんが、1977 年に発表されたこのアルバムは、ごく微量ながらも不思議なオーラを放っているように感じてなりません。


 
■Joseph Nicoletti / Joseph■

Side-1
Streetwise
Lifetime Fantasy Dancer
Part-Time Believer
Lullaby
Children Are The Future

Side-2
Night-Time Stars
On The Wings Of Love
Music Man’s Lady
Gypsy

Songwriter – Singer : Joseph Nicoletti
Arranger : Joseph Nicoletti
Producer : Joseph Nicoletti

Keyboards : Charles Otwell , Robert Cammack , Dev Donnelly
Lead Guitar : Greg Arregiuin Jawxillion
Bass Guitar : Ken Walters , Charles Ewing , Don Velazquez
Rhythm Guitar : Joseph Nicoletti
Drums : Tony Morales , Greg Edalatpour , John Ferro

Percussion : Alex Gutierrez , Paul Kriebick
Horns : Michael Morera
Lead Vocals : Joseph Nicoletti
Back-up Vocals : Colleen Harvey , Jiseph Nicoletti

Starborne Records S-2001

David Pomeranz

2006-12-14 | AOR
■David Pomeranz / It’s In Everyone Of Us■

 David Pomeranz のアルバムを遡っていくことにします。 今日は 1975 年にアリスタからリリースされた 3枚目のアルバムをご紹介します。
 このアルバムを一言で言えば、青々しい青年がたたずむジャケットのとおり、爽やかで汚れのない David Pomeranz の現在に至るまでのサウンドが確立された作品ということになります。 前回もご紹介した 1999 年発表のベスト盤「Born For You」に、このアルバムから 2曲が再録されていることが、アーティストとしての方向性の定まったことを表していると思います。 プロデュースは、Anders & Poncia で有名な Vini Poncia。 アリスタで Vini Poncia といえば、このブログで以前取り上げた The Movies のアルバムと同じ組み合わせです。

 さて、アルバムは David Pomarenz を代表するバラード「It’s In Everyone Of Us」でスタート。 この曲は、このブログで取り上げた Barbara Meislin をはじめ、多くのミュージシャンにカバーされています。 David 本人のバージョンは、ゆったりと大らかな広がりを感じさせるアレンジとなっています。 そのうえに、Gary Wright、Alan O’day 、Patti Dahlstrom などの豪華な面々によるバックコーラスが厚みを加えているので、出来が悪いわけがありません。奥さんである Althea Pomeranz のことを歌った「Thea」に続いて、Barry Manillow のトップ 10入りのヒットでも有名な「Tryin’ To Get the Feeling Again」は前述の「Born For You」でも再録された David Pomeranz ファンにはお馴染みの代表曲。 空を駆け抜けるかのようなメロディーが Pomeranz 節とも言える「The Hit Song Of All Time」もファンには人気のありそうな名曲です。 つづく「Flying」はバルーンでもっと高いところに飛んでいってしまったかのような浮遊感が David のハイトーンボイスで綴られていきます。
 B面では、「Born For You」で再録されたバラード「If You Walked Away」が出色です。 この曲も David Pomeranz ファンには人気だと思いますが、このアルバム制作時、彼は 24 歳だっということで早熟な才能を感じざるを得ません。 Barry Fasman のアレンジ力が光る「High Together」、ピアノをベースとしたリズムレスのバラード「Clarence」が B面では聴きどころでしょう。 「Clarence」はちょっともったいぶりすぎて冗長な感も否めませんが。 

 久しぶりにこのアルバムを聴きましたが、1975 年という良き時代のサウンド・プロダクションが安定しており、Melissa Manchester や The Faragher Brothers などの渋いバックコーラスも楽しむことができる充実した作品だということを再認識しました。 できれば、「The Truth Of Us」に続いて世界初 CD 化を期待したいところです。 アリスタは、David Forman のような隠れた名盤が CD 化された実績もあるので、ぜひともお願いしたいところです。
 
 さて、このアルバムにも輸入盤と国内盤が存在します。 輸入盤は、二つ折り見開きジャケットなのですが、国内盤はコスト削減が狙いなのかシングル仕様となっています。 輸入盤の方が多く出回っているので、そちらをお薦めしますが、David Pomeranz の濃い胸毛は見たくなかったですね。 問題の国内盤ですが、僕の持っているものには帯はないものの解説が入っており、そこに表記された邦題には腰を抜かしてしまいます。 そのタイトルは、『賢人に捧げるバラード』。 当時のアリスタは東芝 EMI から発売されていたのですが、誰が名づけたのでしょうか。 『原子心母』や『狂気』という邦題を生んだレコード会社ですが、この邦題はいただけません。

 解説を書いている音楽評論家は 1971 年の前作「Time To Fly」の印象が強すぎたせいか、このアルバムを「前作に比べて鮮度が落ちることは否めない」とか「右の耳から左の耳ですんなりと抜けてしまった」と評しています。 このようにネガティブな評論をレコードの解説に堂々と掲載するところは潔しと思いますが、先に書いたように David Pomeranz のサウンドが確立されたアルバムとしての重要性と楽曲のクオリティをもっと評価すべきだと思います。 もっとも評論家に先を見通せというのも無理がありますが。
 
 

■David Pomeranz / It’s In Everyone Of Us■

Side-1
It’s In Everyone Of Us
Thea
Tryin’ To Get the Feeling Again
The Hit Song Of All Time
Flying

Side-2
Greyhound Mary
If You Walked Away
High Together
Home To Alaska
Clarence

Produced by Vini Poncia for Richard Pery Productions
All songs written by David Pomeranz

David Pomeranz : piano , organ , acoustic guitars ,clavinet , percussion
Emory Gordy : bass
John ‘Cooker’ LoPresti : bass
David Hungate : bass
David Wolfert : acoustic guitar , electric guitar
Jim Calvert : electric guitar
John Vastano : electric guitar
Jim Keltner : drums
Kirk Bluner :drums
Dennis St. John : drums
Lenny Castro : conga , percussion
Harold Huff : percussion
James Newton Howard : Arp Synthesizer
Jim Horn : tenor asx
Tom Saviano : sax
Rich Felts :trumpet

Backing Vocals : David and Althea Pomeranz , Gary Wright , Lorna Ellis , Alan O’day , Brie Howard , Patti Dahlstrom , Bob Strauss , Dennis Brooks , Peter Spelman , Vini Poncia , Melissa Manchester , The Faragher Brothers , John Vestano

Strings and Woodwinds Arranged and Conducted by Barry Fasman

Arista Records AL 4053