Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

Luke Gibson

2007-01-28 | SSW
■Luke Gibson / Another Perfect Day■

 カナダを代表する吟遊詩人 Bruce Cockburn のレーベルとしてその名を知られているTrue North のなかでも特に人気の高い 1枚を取り上げます。 その主人公 Luke Gibson は、その後目立った活動がなかったせいもあってか、思い入れの強い熱心なファンが、特に 50歳以上のリアル世代の方に多いようです。 アルバムは 1971 年の作品ですので、僕自身はリアル派ではありませんが、このアルバムを熱く語る仕事関係の諸先輩や知り合いが多く、そんな方々から紹介されたのが、僕が Luke Gibson と出会うきっかけでした。 そして初めて手にしたときに、そのジャケットの魅力にも心を打たれた記憶があります。 さきほど、幼稚園に通う娘にも「素敵ね」と言われたのですが、よく見るとやや少女趣味な刺しゅうですね。

 アルバムをおさらいしてみます。 A面のオープニングを飾る「Virginia」は、控えめな演奏から次第に盛り上がっていく様の心地よさはフィドルのソロで頂点となります。 「Did You Ever」は、帰るところの無い男が独り言をつぶやくかのような小曲。 田舎くさいワルツ「Flow」を挟んで「All Day Rain」は、浮遊感の漂うナンバー。 地味なギターソロと女性コーラスが交差するあたりが聴き所です。

 B 面はとくに 4曲目までがお勧めです。 「Full Moon Rider」は、タイトルどおりのクールな疾走感のあるナンバー。 ポッピンなベースをはじめとするバック陣、Luke Gibson の抑制の効いたボーカルもあわせ、アルバムのハイライト的な存在です。 一転してゆったりしたワルツ「Lobo」は、やや冗長ですが、次第に盛り上げていきます。 つづく「Another Perfect Day」は単独の弾き語りですが、凛とした外の空気の冷たさと部屋の木の温もりが感じ取れるような名曲です。 さすが、アルバム・タイトル曲ですね。 「Angel」も、アコギとストリングスが主体となったこじんまりした楽曲ですが、頼りなげなボーカルとあいまって独特の感動を与えてくれます。 ラストの「See You Again」はオルガンの音色がスワンプテイストを与えており、Luke Gibson もいつになくシャウト気味の熱唱。 それほど違和感はないものの、フェードアウトが早すぎかなと聴くたびに思ってしまいます。 

 Luke Gibson はこのアルバムを発売する前に、Kensington Market というグループに所属しており、1960 年代に 2枚のアルバムを残しています。 この「Another Perfect Day」はソロに転向して唯一のアルバムかと思っていましたが、1972 年に「Killaloe」というアルバムが存在するらしいです。 長い間探していますが、未だに見かけたことすらありません。

 冒頭で書いた先輩 2名から Luke Gibson のことを教わったときに知ったのが、渋谷にあった伝説のロック喫茶「ブラックホーク」のことです。 ここでかかる良質の音楽の数々は、当時輸入盤店が少なかった当時は、「ブラックホーク」でしか聴くことのできないものも多く存在したとのこと。 そんなレコードを聴きに来る熱心な SSW ファンからのリクエストにフェアに対応するために、「ブラックホーク」ではカナダ・北米からスワンプ、そしてイギリス南部からトラッド系までというアルバムの分類による循環プレイルールが確立されていました。 これ以上詳しいことは、店自体に行ったことのない自分が書くのもおこがましいので、遠慮しますが、この店のことを知らない方がいたら、こちらのページを是非のぞいてみてください。
 デジタル化、インターネットの時代になって、何でも検索できる便利な時代になりました。 これは間違いなくいいことで、誰も止めることはできません。 自分も、こうしてネットを利用してブログを楽しんでいますし、インターネット経由で海外から購入したレコードもかなりの数になります。 
 ですが、今のように便利で何でも選択できる時代とは異なり、数少ない情報を得るために、多くの熱心な若者が「ブラックホーク」に通った時代があったのです。 携帯も PC も持っていない大学生が、音楽に聴き入り各自の感想を語り会う・・・ そんな光景は二度と戻ってはこないのですが、そんな時代の SSW ファンの熱心さや夢中さとかは今とは比較にならないほどだったのだろうと思います。 
 今から 10 年若返りたいと思うことはありませんが、あと 10 年いや 5年でも早く生まれていたかったと時々思ってしまうのは、もしそれが叶ったのなら、僕も「ブラックホーク」に漂着していたのかな、と夢想してしまうからなのです。 

 現実の僕は高校時代に、渋谷ではなく、吉祥寺の「赤毛とソバカス」にたどり着いていたのですが。

 

■Luke Gibson / Another Perfect Day■

Side-1
Virginia
Hotel
Windy Mountain
Did You Ever
Flow
All Day Rain

Side-2
Full Moon Rider
Lobo
Another Perfect Day
Angel
See You Again

All Songs Written by Luke Gibson
Recorded at Thunder Sound , Toronto
Produced by Eugene Martynec

True North TN6

Randy Holland

2007-01-25 | SSW
■Randy Holland / Cat Mind■

 このアルバムと出会ってからもう 10 年以上経ちますが、このモノクロのジャケットからくる印象と、中世ゴシック調のフォントにかなりの先入観を持ったことを今でもよく覚えています。 半分ギャンブルという気持ちで買ったのも、500円くらいの安価だったからです。

 このアルバムは 1972年のリリース。 彼の唯一の作品と思われます。 久しぶりに針を落としたので、全曲コメントしてみましょう。 「Bless The Naked Days」は、B 級感あふれるアップテンポナンバー。 Randy Holland の声は以外にも甲高く、ハスキーだと思い込んでいると肩透かしをくらいます。 サビの女性コーラスはさらに意外な展開ですが、不思議な心地良さも感じます。 「Colours Of Sad」は、一転してギターとベースを中心としたシンプルなバラード。 郷愁あふれるストリグスのセンスも悪くないのですが、ラストの女性コーラスには卒倒しそうになります。 「Song For A Rainy Tuesday」は、Stan Ridgeway を思い出させます。 かつてピーターバラカンのThe Popper’s MTVで紹介された「カモフラージュ」のビデオクリップが目に浮かんできます。 もちろん、Randy Holland のほうが 10年以上古いのですけど。 「Make Me Flowers」は流麗で素朴なバラード。 なごみのひと時が終わると、スワンピーなジャンプナンバー「Muddy Water」です。 これは、多くのソウル・ミュージシャンのカバーで有名な曲。 Randy Holland のバージョンは、ボーカルに太さがないので迫力に欠けてしまいます。

 「I’ll Remember The Good」はストリングスやコーラスの盛り上げ方が、ソフトロックのような佇まいを見せる曲。「Cat Mind」は同時代のハードロックで、シャウトしまくるRandy Holland のボーカルにドン引きですが、負けじと頑張るバック陣、とくにホーンセクションにも痛々しさを感じます。 アルバム・タイトル曲なのに、この曲はアルバムから外したくなります。 つづく「Indian Blues」もC級のヘビーロックで、スキップ対象曲。 ここまで来ると Randy Holland はどのような音楽を目指していたのか、まったく理解不能になります。 そもそも自主制作なので、誰も助言とかしないのでしょうけど。 「Ladybug」は、元のなごみの世界に戻ってきた Randy Holland という感じで、ほのぼのしたワルツに仕上がっています。 ラストの「Take My Hand」も美しいストリングスやセンスあふれるアレンジで、初期の A&M テイストといったら言い過ぎですが、そのような MOR 路線です。

 聴き終えて思うのですが、とにかく支離滅裂でアルバムの統一感がまったく無いのには改めて驚きました。 メロウな曲だけを集めれば 5曲くらいにはなると思いますが、それ以外の曲との分離感は尋常ではありません。 こういったディレクションは、メジャーでは起こりにくいことから、このアルバムは、アメリカの自主制作盤のいいところと悪いところを両方兼ね備えているという点で好サンプルになるのではないでしょうか?
 いまだに、中古市場にも流通していますし、高値にもなっていないようですので、熱心なファンや崇拝者もいないということなのでしょう。 

 さて、そんな Randy Holland はいま、何をしているのかと検索してみたら、出てきました。 いろいろなビジネスでタフに生き抜いて、いまはラスベガスに住んでいるようです。 彼のサイトを見ると、このアルバムは Billboard で星が 4つだったそうですが、星の数よりも、Billboard にピックアップされていたことのほうが驚きです。

 

■Randy Holland / Cat Mind■

Side-1
Bless The Naked Days
Colours Of Sad
Song For A Rainy Tuesday
Make Me Flowers
Muddy Water

Side-2
I’ll Remember The Good
Cat Mind
Indian Blues
Ladybug
Take My Hand

All Songs written by Randy Holland
Except ‘Song For A Rainy Tuesday’ and ‘Ladybug’ by Lew Alpaugh
‘’I’ll Remember The Good’ by M. Newberry
Lyrics to ‘Make Me Flowers’ from a poem by Barbara Bishop

Produced by The Mother Record Corp.
Arrangement by Lew Alpaugh
Recorded at Media Ⅳ Sound Studios , Bound Brook , N.J. March , April 1972

Mother 1050


Sean Seman

2007-01-20 | Folk
■Sean Seman / Delicate Balance■

 San Francisco から南に 80kmくらい離れたところに Santa Cruz という小さな街あります。 今日はそんな街から 1979 年に発表された Sean Seman のアルバムをピックアップしてみました。 ジャケットの印象はイギリスの SSW みたいですが、華やかな AOR 全盛時代の西海岸から生み出されたのが不思議に感じてしまうフォーキーなアルバムです。

 作曲者のクレジットはレーベル面にしかないのですが、そこを見ると、共同プロデューサーである Fred Koller と Shel Silverstein の手による楽曲が 3曲、Tom Dundee の曲が 2曲、他はトラディショナルなどです。 意外にも Sean Seman 自身の楽曲は 1曲もありません。 

 このアルバムの不思議な点は、Tom Dundee と Sean Seman の見えざる接点です。 シカゴを中心に活動してきたフォークシンガーである Tom Dundee のアルバムに「A Delicate Balance」というタイトルの作品があるのです。 僕はこのアルバムを持っていないし聴いたこともないのですが、発売の時期は 1980 年前後のようです。 どうして同名のアルバムが似た時期に発売されたのでしょうか。 「A Delicate Balance」という楽曲があって、双方に収録されているのなら理解できるのですが、そうではありません。 彼の作曲である「Plaster And Wood」と「Back On The Street Again」の歌詞にもそのような表現は含まれていませんでした。 そんなことはどうでもいいのですが、ネットを調べているうちに気になってしまったのです。 Tom Dundee の「A Delicate Balance」を入手しなくてはいけませんね。 残念ながら彼は昨年 4月にバイクの事故で亡くなったそうです。

 さて、そんな Tom Dundee の曲についてふれておきましょう。 「Plaster And Wood」は、しっとりとしたワルツ系バラード。 広大なプレイリーや雄大なロッキー山脈がイメージできるような楽曲です。 「Back On The Street Again」は、ほのぼのしたメロディーに女性コーラスが絡んでくるキャッチーな曲です。 もともと Tom Dundee が Jim Post に書いた楽曲のようで、Jim Post の Mountain Railroad 盤に同名のアルバムが存在します。 他の曲では、「The Dutchman」が個人的にはベストトラック。 この曲は、Michael Smith のペンによるもの。 素朴なフォーキーサウンドの佳作です。 どうやら多くのシンガーにカバーされているフォークのマスターピースのようですね。

 Sean Seman の発表したアルバムを他には知りませんが、彼は 1985年に、「Young At Heart Project」という青春めいた名前の NPO を設立して、地元カリフォルニアで音楽と地域の人々のために活動しているようです。 

 
 
■Sean Seman / Delicate Balance■

Side-1
Don’t Knock The Music
Mandy Lynn
Hazel’s Hips
Black Mountain Rag
Plaster And Wood
Lovely Margarita / Jerusalem Ridge

Side-2
Strong Young Breeze
June Apple / Salt Creek
Back On The Street Again
The Dutchman
Don’ Look For Love / Planxty George Brabazon

Produced by Sean Seman and Fred Koller
Recorded October and November 1978 Magic devices , Santa Cruz , California

Sean Seman :guitar and vocal
Darol anger : violin and mandolin
Tom Groves : bass and background vocals
Richie Begin : drums
Ken Johnson : cello
Ray Keller : saxophone , clarinet and piano
Annie Hughes and Kevin McCracken : background vocals
Fred Koller : piano on ‘Lovely Matgarita’
Tony Gilkyson : electric guitar
R.D. : fingers on ‘Hazel’s Hips’

Back Porch Records

Harry Lipson

2007-01-10 | SSW
■Harry Lipson / Fridays & Saturdays■

 11 月に取り上げた Daring and Stahl の Mason Daring のプロデュース作品ということで手を出したレコード。 肝心の本人 Harry Lipson の経歴は、ネットで調べてみたものの全くわかりませんでした。 ジャケットはかなりの B級感があふれており、裏面のクレジットがなかったら手を出さなかったアルバムですが、Mason Daring のボストン人脈だと思われる参加ミュージシャンに魅かれて買ってしまった経緯があります。 渋めの名前ですが、Bill Staines、Jonathan Edwards、Guy Van Duser といった面々が参加しており、SSW 系のファンなら触手が伸びてしまうでしょう。

 そんなアルバムですが、内容は A面とB面では趣を異にしています。 A 面のほうがバンド色が強く、B 面はメロウで味わい深い曲が並んでいます。

 その A面 1曲目「Goochie Goochie Goo」は、英国のパブロック的な趣のあるナンバー。 Bobby Keyes の粘っこいギターソロがいい味を出しています。 「Gimme A Game Of Baseball」は、ボードヴィル調のスイングナンバー。 Billy Novick のクラリネットが和みテイストを演出しています。 「Summerglow」は、Mason Daring のアコギにハーモニカ、バイオリンという編成のほのぼのした楽曲。 「Weenie Weenie Ru」はサブタイトルに The College Football Song とあります。 それがどう関係しているのかはわかりませんが、鼓笛隊に通じる二拍子の能天気な曲です。 「Edward Villaret」は、最もフォーキーなテイストですが、鋭角なソプラノ・サックスのソロが入るあたりは、80 年代のサウンドだということを思い出させます。

 レコードを裏返しましょう。 いきなり清楚なコーラスから始まる「Old Quadrangle (Tuscaloosa)」はアルバムを代表する名曲。 穏やかな気持ちにさせられるミディアムな曲ですが、Nancy Roche と Jeannie French の女性コーラスが効いています。 「Song To Bob」は、マイナーコードのフォーク。 ちょっと古臭いのでトラッドかと思ってしまうほどですが、このアルバムは全曲 Harry Lipson の書き下ろしです。 「Dance With Me Dancer」も同じくトラッドのような曲。 Harry Lipson の音楽的なルーツはカントリーやブルースではなく、イギリス系の音楽にあると思います。 「Christopher」も和み系の弾き語り。 朴訥とした歌いっぷりにピアノとコーラスが色をつけてくれます。 ラストの「Sailor」はアルバム中最も秀逸な楽曲だと思います。 どことなく淋しさあふれるボーカルに、Stuart Shulman のバイオリンと Billy Novick のリコーダーが交差する場面は、まさに至福の時間といえるでしょう。 ちなみに、この曲には、Jeanie Stahl も参加しており、Daring and Stahl の両方が参加していることになるのですが、そのこと自体がこの曲のクオリティに貢献しているとは言えません。

 この地味なレコードが、ひっそりとボストンから生み出されたのは 1982年のこと。 どのくらいのリスナーがこのレコードに接したのかは、知る由もありませんが、このまま跡形もなく忘れ去られようとしていることだけは確かのようです。

 

■Harry Lipson / Fridays & Saturdays■

Side-1
Goochie Goochie Goo
Gimme A Game Of Baseball
Summerglow
Weenie Weenie Ru
Edward Villaret

Side-2
Old Quadrangle (Tuscaloosa)
Song To Bob
Dance With Me Dancer
Christopher
Sailor

Produced by Mason Daring
Recorded & Mixed at Music Designers , Inc. , Boston , MA
All Songs written by Harry Lipson

Harry Lipson : lead vocal
Stuart shulman : bass , violin
Billy Novick : horns , soprano saxophone , clarinet , recorder
Bobby Keyes : lead electric guitar
John Curtis : rhythm guitar , mandolin , back up vocals
Gene Melenderas : drums
Larry Luddecke : piano
Beverly Ketchen : triangle , bicycle horn
Guy Van Duser : nylon string acoustic lead guitar
Richard ‘Rosy’ Rosenblatt : harmonica
Mason Daring : acoustic guitar , glockenspiel , organ , piano , back up vocals
Jonathan Edwards : harmonica
Jeanie Stahl : acoustic guitar
Jeanie French : back up vocals
Nancy Roche : back up vocals
Bill Staines : back up vocals
Suzanne Boucher : back up vocals

Pandemonium Records PA 531

Bill Puka

2007-01-08 | SSW
■Bill Puka / Bill Puka■

 ピアノ系シンガーソングライターの Bill Puka がメジャーの Columbia Records から 1970 年に発表した唯一のアルバム。 どうしたわけか、今まで国内盤のレコードも CD も発売されたことがありません。 海外においても未だ CD 化されていませんが、ニューヨーク系の SSW ファンには比較的有名で評価も高いアルバムだと思います。 以前中古レコード店で「男性版ローラ・ニーロ」という紹介文をみつけましたが、なかなか上手な表現だなあと感心したことを思い出しました。 同時代、同じレーベルということもあっての表現だとは思いますが、サウンド的にも通ずるものを感じます。
 
 さて、アルバム 1曲目の「Dry Spell」はいきなり仰々しいホーンセクションから入るので身構えてしまいますが、それもほんのさわりだけで、クールなピアノの音がしてからは安心して聴くことができます。 Bill Puka の繊細で澄んだボーカルとサウンド指向のエッセンスは、この1曲に凝縮されています。 インタリュード的な小曲「Movin’ Away」をはさんで、「Sunshine Days」はちょっと可愛らしいアレンジがふと射した陽だまりにいるような気持ちにさせてくれます。 「Barbara Knows」は、Mike Mainieri の手によると思われるビブラフォンをバックにした感傷的なナンバー。 いかにもニューヨークの SSW と感じる「Hudson Day Like」は、ピアノ系 SSW ならではの繊細さと陰影が微妙に交差するような作品です。

 B面の「City Nights」はジャジーな弾き語りですが、途中から仰々しく展開していくあたりは、難解なイメージを与えます。 この曲からは、先月にこのブログで取り上げた David Pomeranz の「Time To Fly」に近い世界を感じとることができます。 時代的にもほぼ同時期ですし、同じニューヨークということもあるからでしょう。 「She’s Just That Way」は Bill の音数の少ないピアノをバックに Joe Farrell らしきフルートを交えた小曲。 つづく「Nothing At All」はアルバムのなかでは最も親しみやすい楽曲です。 シンプルなメロディーとさりげないサビが印象に残ります。 「Selling Yourself Out」はでルーズなブルージーなエッセンスを感じる曲ですが、この曲は歌詞カードに描かれたイラストや曲のタイトルから夜の商売をする女性のことを題材にしています。 この曲も珍しく覚えやすい曲です。 ラストの「Beautiful Bird」は出来上がった詩に、即興でメロディーをつけたかのような小曲。 1970 年代前半のアルバムには、よくありがちなエンディングです。

 アルバムは 3分に満たない楽曲が半数を占めるなど、全体的にこじんまりとした印象を与えます。 何か遠慮がちでいて思慮深い、そんなイメージのアルバムに仕上がっていると思います。 1970 年のニューヨーク、もう 37 年も前の時代の息づかいを封じ込めたようなアルバムは、それほどありふれたものではないはず。 そうしたことを考えると、この Bill Puka がこの 1枚でシーンから消えていった理由を詮索したくなってしまいます。 アルバムのセールスが芳しくなかったということは容易に想像できますが、それだけが理由とは思えないのです。 

 もし、Bill Puka が次のアルバムを残したとしたら、どんなアルバムになったのでしょうか。 聴くたびにそんな夢想をしてしまう、そんなアルバムです。

 と、ここまで書き終えて、Bill Puka で検索をかけてみました。 すると出てきました。なんと彼は、哲学と心理学の教授になっていたのです。 そこには家族といっしょに写った初老の本人写真も掲載されており、アルバムの裏面に載っている若き日の Bill Puka と同日人物であること容易に確認することができました。
 
 音楽から学問の道へ、彼は自分自身の人生の舵を、早めに切っていたのでしょう。


 

■Bill Puka / Bill Puka■

Side-1
Dry Spell
Movin’ Away
Sunshine Days
Barbara Knows
Hudson Day Like

Side-2
City Nights
She’s Just That Way
Nothing At All
Selling Yourself Out
Beautiful Bird

Arranged and Produced by Ed Freeman
Songs by Bill Puka

Vocals and Piano by Bill Puka

Our thanks for the help of :
Neil Anderson , Gene Bianco , Sam Brown , Bob Bushnell , Gary Chester , Ray Colcord , Bob Devere , Norman Dolph , Joe Farrell , Jerry Jemmott , Jack Jenninngs , Jimmy Johnson , Artie Kaplan , Kim King , Mike Kropp , Joe Mack , Mike Mainieri , George Marge , Lou Mauro , Ruth Negri , T.T. (Doug) Pomeroy , Romeo Penquay , Sth Romain , Christopher Rhodes , Buddy Salzman , Jerry Smith , John Trotta , Paul Weiss , Philip Weiss and numerous friends

Columbia Records C30357

Bill Wilson

2007-01-07 | SSW
■Bill Wilson / Talking To Stars■

 アメリカ中部のインディアナ州の州都インディアナポリスから南へ約 100km 離れた所に、このアルバムが生まれた Bloomington という小さな町があります。 たったいま、世界地図帳をめくって探し当てました。 今日、ご紹介するアルバムはそんな小さなローカルタウンから届けられたアルバム。 Bill Wilson という無名の SSW による 1976 年の作品です。

 アルバムは、凡庸なカントリー調の「Skid Row Rodeo」でスタート。  ローカル・レコーディングですが、演奏や録音に自主制作っぽい安っぽさはあまり感じません。 つづく「Let’s Be Friends」はピアノ系のバラードですが、♪友達になろうよ♪というサビには、気恥ずかしさを感じてしまいます。 控えめな演奏やコーラスの入り方など、しみじみして味わい深い佳作と言えるでしょう。 「Stardust Train」も憂いを帯びたバラードですが、ちょっと地味すぎる印象。 軽快なポップチューン「We Got Love」をはさんで、「Melody Man」へと続きますが、この曲も郷愁あふれるワルツ。 ハーモニウムやフルートといった楽器が彩りを添える間奏部分はローカル産ならではです。 いい曲です。

 「You Got To Love」は Steve Harlos が弾く Fender Rhodes のみをバックにしたバラード。 ヘッドフォンで聴くと、よりじわっと来るのだろうなと思わせます。 「Dragonfly」もミディアムな曲。 こういう曲を聴くと、Bill Wilson はカントリー色がほとんどなく、むしろ MOR 的なサウンド指向が強いということを感じます。 といっても、仰々しく熱唱したり、過度に歌い上げたりもしないので、逆に淡白すぎるという気もします。 つづく「Time Gets Along」は、軽いボサノバ調のミディアムでアレンジのセンスも悪くありません。 夕暮れ系のコンピレーションアルバムにぴったりです。 ラストの「Lighthouse」は、いつになく歌い上げている感じの曲。 ピアノ系のバラードですが、カモメの鳴き声みたいな SE も入ってきて、この曲だけイギリス産の SSW みたいな冷たく凛とした空気感が漂います。 雲は低くたれこみ、風は冷たく、灯台にたたずむ…といった私小説的な風景が見えてきます。 どのような理由でこのようなシリアスな曲で終わるのか、Bill Wilson の意図は分りませんが、結果的にこのアルバムを一言で片付けにくくしているような気がします。

 Bill Wilson という忘れてしまいそうなほど平凡な名前、そしてアルバムタイトル、そして真面目な感じがしないこのジャケット。 聴く前からして、名盤の予感はかけらも感じないアルバムですが、こんな得体の知れないアルバムと接することは僕にとっては楽しみのひとつなのです。 もう一歩、あと一息、という領域にすら至っていないのですが、1976 年というアメリカの音楽シーンの潮目が変わる時期に、こんなアルバムが小さな田舎町から生み出された理由や背景をあれこれと考えながら時々聴いてみたいアルバムです。

 

■Bill Wilson / Talking To Stars■

Side-1
Skid Row Rodeo
Let’s Be Friends
Stardust Train
We Got Love
Melody Man

Side-2
You Got To Love
Dragonfly
Time Gets Along
Lighthouse

Produced by Mark Bingham and Mark Hood
All Songs written by Bill Wilson
Recorded at Gilfoy Sound , Bllomington , Ind.

Ken Aranoff : drums
Blair Ferenandez : drums
Art Nash : drums , percussions
John Stith : electric bass
Acoustic bass : Rob Link
TJ : electric guitar
Mike Wanchic : electric guitar
Jeff Foster : classical guitar , mandola
Craig Palmer : tenor and soprano sax , clarinet ,flute
Mark Bingham : acoustic 12-strings guitar ,percussions , backing vocals
Randy Handley : piano
Ken Ypparila : pedal steel
Bill Schwarz : harmonium , backing vocals
Steve Harlos : fender Rhodes piano , piano
Bill Wilson : acoustic guitars , acoustic 12-strings guitar , backing vocals , autoharp
Cariline Peyton : backing vocals
Mac MacNally : backing vocals

Bar-B-Q Records BRBQ 7

Tony Kosinec

2007-01-03 | SSW
■Tony Kosinec / Consider The Heart■

 あけましておめでとうございます。
 今年初めて聴いたレコードは、Tony Kosinec の Consider The Heart です。 前回取り上げた Ron Baumber の流れを考えてという以外の特段の理由はありません。
 とはいえ、久しぶりに聴いたので、個々の楽曲の記憶がかなり曖昧だった(というよりは、むしろすっかり忘れてしまっていたに近いです)僕には、ちょうどいい塩梅でした。 お正月のゆったりした時間をもてあましそうになった夜にはぴったりだったのです。

 さて、このアルバムはリアルタイムではカナダのスマイル原盤をライセンスした国内盤レコードが発売されていたのですが、その後すぐに廃盤。 近年、Tony Kosinec のアルバムが相次いで CD 化されたにも関わらず、このアルバムだけは未 CD 化となっています。 そのせいもあってか、過大評価されている節があるような気がします。 今回、そこを冷静に見極めてみたいと針を落としてみました。

 A 面はアルバムのオープニングを飾る序曲のような位置づけの小曲「Your Constant View」からスタート。 曲間もなく続く 2曲目の「Heart Of A Small Business」は、個人的にはアルバムで最も好きな曲。 「好きな」というよりは「しっかり覚えている」と言った方が正しいですが、♪Why Do People Die♪と歌うサビの部分が耳に残ります。 このサビに来るまでのメロディと多彩なアレンジはこのアルバムの特徴のいい部分を凝縮していると言えるでしょう。 しかし、この重たいテーマをサビに持ってくるあたりは、メジャーレーベルを離れて自由な創作活動に没頭していた Tony Kosinec の心境が強く表現されているのではないでしょうか。 「These Fine Lovers」は、Tony Kosinec の荒々しい側面が現れた曲です。 強と弱、激しさと繊細さ、エモーションとクールといった感情の起伏をストレートに表すのは彼の特徴的なスタイルなのですが、この曲もそういった曲です。 つづく「New York Itself」はさらにエモーショナルな側面が強調され、声量さえあればロックボーカリストになれたのに、という感想を抱いてしまうようなロック寄りの楽曲となっています。 A 面ラストの「Youngblood Alan」は、淡々とした曲ですが、Alan や Kessler といった彼の身近な人物が歌詞に登場してきます。 Kessler はプロデューサの Syd Kessler のことですが、「Youngblood Alan」のAlan はクレジットがありません。 ブックレットに「Youngblood Alan as himself」と書かれた男の写真が載っているのですが、この男がどういう人物なのかを知る術はありません。 ちなみに、この曲は Tim Curry のアルバム「Read my Lips」で単に「Alan」としてカバーされています。

 B 面は難解な曲の連続です。 そして、このわかりにくさがこのアルバムのイメージを作り上げているように感じます。 クリスマスのラブソング「December 24th」の仰々しく展開していく様はミュージカルのよう。 このような展開は好き嫌いの分かれるポイントの一つでしょう。 つづく「Banging On A Nail」は更にわかりにくい曲です。 めまぐるしく変化する曲調に覚えにくいメロディの組み合わせで、組み手の無い相手という印象です。 このような SSW として他に思いつくのは Andy Pratt くらいです。 「Lilly」には、♪So It’s Time To Consider The Heart♪ という風にアルバムタイトルになった言葉が含まれている曲ですが起伏のないメロディが続くこれまた難解な曲です。 ラストの「All Things Come From God」はタイトルからしてクリスチャン・ミュージックのよう。 アルバム唯一のシンプルで繰り返しの多い曲なのですが、さりげないエレピのセンスが重要なファクターとなっています。

 さて、そんな風にアルバムを聴き終えて感じることは、このアルバムは若き Tony Kosinec が通過しなくてはならなかったプロセスなのだろうということです。 具体的には、Columbia Records の 2枚では Peter Asher などの大物プロデューサーやメジャー・レーベルという環境では思い通りにならなかったものが彼のなかで「シコリ」となっていて、そこから自身を解き放つために、このような自由奔放なアルバムを作らざるを得なかったのではないでしょうか。 そのためにはレーベルを移籍する必要もあったのでしょう。 ところが、このアンチ商業主義的なアルバムは批評家連中には評価されたものの、一般的にはまったく受けずにセールスも伸びなかったのです。 Tony Kosinec はこのアルバムの不振からしばらくアルバムを発売できなかったのですが、4 枚目以降の「Almost Pretty」や「The Passer By」に収録されているシンプルで覚えやすい楽曲(「Any Other Way」が好きなのです)は、単に時代の投影ではなく、Tony Kosinec 自身の「振れ幅」の反動によるものだと僕は思っています。 

 ということで、個人的には 1970 年代の Tony Kosinec の最高傑作は、この「Consider The Heart」ではなく、前作の「Bad Girl Songs」だと思います。 「Bad Girl Songs」は CD になったおかげで聴いた回数が多いということもありますが、短めでポップな曲が多く、何よりも親しみやすいという点を評価したいと思います。
 いっぽう、この「Consider The Heart」は哲学的な色彩もあいまった前衛的な SSW アルバムといったところでしょうか。 こんな安っぽい表現しか思い浮かばない自分が情けないなあ。

 

■Tony Kosinec / Consider The Heart■

Side-1
Your Constant View
Heart Of A Small Business
These Fine Lovers
New York Itself
Youngblood Alan

Side-2
December 24th
Banging On A Nail
Lilly
All Things Come From God

Produced by Syd Kessler and Tony Kosinec for April Second Productions
All Songs Written by Tony Kosinec

Tony Kosinec : guitar , harmonica , moog ,vocals
Peter Alves : drums , guitar , vocals
Fred Mollin : bass , guitar , vocals
Howard Wiseman : cello , organ , moog
With help from
Rick Capreol : electric guitar
Richard Green : violin
Ian Guenther : violin
Ben Mink : violin , electric guitar
William Moore : pedal steel
Kim Palmer : piano , moog , vocals
Sy Potma : vocals
Paul Shaffer : vocals
Jack Zaza : bass

Smile Records SMS-1