Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

Adina Alpert

2009-10-27 | SSW
■Adina Alpert / Feel A Change■

  日に日に秋は深まり、そろそろ羽毛布団が欲しいところ。 おとといは 11 月中旬の気温ということで、秋よりも冬を感じるような 1 日でした。 今日は台風一過の青空です。
  さて、今年の世界的なキーワードともいえる「Change」をテーマにしたアルバムを取り出してみました。 ちょうど 30 年前の 1979 年にカリフォルニアの女性SSW、Adina Alpert がリリースした自主制作の作品です。 彼女の唯一の作品と思われるこのアルバムには、メガヒットの追及こそが音楽産業の是として広がっていた時代とはまったく無縁のシンプルでアコースティックなサウンドが展開されています。

  このアルバムは基本的には、Adina Alpert とプロデューサー Glen Frendel の二人で作り上げたものと考えていいでしょう。 ほとんどの曲がこの二人によってレコーディングされており、Adina Alpert のセルフ・コーラスやアレンジメントなどを Glen Frendel の才能とアイディアで練り上げていった様子が伝わってきます。 アルバムにも、Adina から Glen に対する最大の感謝と賛辞が寄せられており、Glen Frendel の存在なしにはこのアルバムは成り立たなかったとすら思えます。

  アルバムは基本構成の二人以外には、Mayne Smith のドブロが時折入る程度のシンプルな楽曲が続きます。 リズムセクションが参加してくる曲が 3 曲だけあるのですが、この 3 曲がそれぞれ全く違った色合いを見せていました。 3 曲それぞれメンバーが異なるのもその理由でしょうが、それは曲調にあった人選をしていることなのでしょう。 では、その 3 曲について触れてみましょう。
  まずは A 面 3 曲目の「Fisherman」。 2 曲続いた素朴な風景からバンドスタイルに変化していくのですが、これが一気にトロピカルな雰囲気なので、少し驚かされます。 アルバムのなかでは、納まりが悪いという印象はあるものの、全体性を逸脱するとまでは言いきれません。
  ラストの「It’s Been Easy」もリズムセクションがどのような持ち味を発揮するかが聴きどころ。 前半はアコースティックな展開で出番がないものの、オーソドックスにバンド編成へと移行していく流れからは特に強い自己主張は感じません。 典型的な女性 SSW のような楽曲にはメロディーやアレンジに個性が感じられないため、アルバムラストにふさわしい見事な締めくくりとは言い難い出来となっています。

  わざと後回しに紹介した B 面 2 曲目の「Jane Jane」はアルバムのハイライト。 空を舞うようなソプラノサックスのオーバーダビングと、ウッドベースのずっしりした重量感が絡み合って、幽玄で奥行きのある空間を描き出しています。 ドラムスが参加していないので、厳密にはリズム隊ではありませんが、他の曲とはまったく差別化された知的で高貴なサウンドがここには収められています。

  さて、毎度のことですが、アルバムを取り巻く主要人物を調査してみましたが、身元の判明したのはドブロで参加した Mayne Smith だけでした。 彼の公式サイトバイオグラフィーには、「Feel A Change」に参加したことが明記されているのですが、この一行だけがオフィシャルな存在証明というのは寂しい限りです。

■Adina Alpert / Feel A Change■

Side 1
I Feel A Change
Lately
Fisherman
Kind Face
Ode To Time

Side 2
The Garden
Jane Jane
To Be Free
It’s Been Easy

Music & Lyrics : Adina Alpert
Producer : Glen Frendel
Engineer : Phil Crescenzo
Recorded at John Altmann Studios, San Francisco, CA

Adina Alpert : vocals and acoustic rhythm guitar
Glen Frendel : acoustic lead guitar, electric & 12 strings guitar, mando guitar
Mayne Smith : dobro
Aaron Snyder : harmonica
Joe Goldmark : pedal steel guitar
David LeFebvre : soprano sax
Curt Olsson : bass on ‘Jane Jane’
Jeff Neighbors : bass on ‘It’s Been Easy’
Steve Mitchell : drums on ‘It’s Been Easy’
Don Fulton : bass on ‘Fisherman’
Ron Rhoades : drums, organ, glockenspiel, vocals on ‘Fisheman’

Josemy Records JR1001

Dave Anderson

2009-10-22 | Christian Music
■Dave Anderson / Sings Through It All■

  1971 年に発表されたクリスチャン・ミュージック作品。 Dave Anderson がこのジャンルの優れたソングライターの作品を選んで作り上げたボーカル・アルバムです。 クリスチャン・ミュージックの多くは 1975 年を過ぎた頃から、流行の先端であった AOR 風のサウンドを積極的に取り入れ、1977 年から 1982 年頃にはメジャーな AOR 作品と比肩するような名盤も存在します。 しかし、この作品はまだ 1971 年ということで、サウンドも予定調和なアレンジでまったりとしており、優等生の絵日記を読むような内容となっています。 そこにコーヒーとクリームが上手く混ざり合うように、マイルドな Dave Anderson のボーカルが注がれているという印象を受けます。

  この作品では、Dave Anderson の手による曲は1曲もありません。 その代わりに、Andrae Crouch やChuck Girard、Tommy Coomes といった CCM 界の名手による楽曲が並び、当時の CCM ベストカバー的な内容となっています。 残念なことに作曲者の名前がフルネームで表示されていないので、作曲者名を正確に把握できるのは半分くらいですが。

  アルバムの聴きどころは、タイトル曲でもあり Andrae Crouch の手による「Through It All」でしょう。 人生賛歌のように歌い上げる様はある意味このジャンルの王道とも言えます。 ミディアムな曲が続くなか、A 面ラストの「How Great Thou Art」はさらにスロウなバラード。 Paul Potts のようなオペラ歌手に歌ってもらいたいような楽曲です。 B 面では、Meir という人物の曲「His Name Is Wonderful」が流麗でメロウな出来。 つづく作曲者不詳の「Father And I Adore You」では淡々と神への感謝と畏敬の念が歌われます。 どの曲にも共通して言えるのは、ストリングス・アレンジの美しさですが、とくに「Sweet, Sweet Sprit」では、Nick DeCaro かのような繊細な弦の震えが胸を打ちます。 ラストの「Welcome Back」は Chuck Girard が所属していた伝説的な CCM グループ「Love Song」のレパートリーでした。

  さて、再三話題となったアレンジの主は Tom Keene という人物。 AOR ファンの間では、Keane というグループのメンバーだった Tom Keane を連想する人もいるかもしれません。 かく言う僕も、もしかして同一人物かも…と思いましたが、時代考証的には違うのではないかと思います。 仮にそうだとしたら、全編のアレンジと指揮を担当するという早熟なミュージシャンだったということになるのですが。

  最後に主人公の Dave Anderson について触れてきましょう。 彼はこのブログで、Dave and Barb Anderson として紹介したことのあるミュージシャンです。 そのアルバムもこのレコードと同じ Fellowship Records からのリリースでした。 この2つのアルバムの間には丁度 10 年の年月が流れていますが、品番は 223 と 238 ということで 15 しか離れていません。 かなりの寡作なレーベルですが、他にどんなアルバムが残されているのかはまだ調べきれていないのです。

■Dave Anderson / Sings Through It All■

Side 1
Through It All
Alleluja
The Way, The Truth, And The Life
No One Ever Cared For Me Like Jesus
How Great Thou Art

Side 2
Two Hands
His Name Is Wonderful
Father And I Adore You
Sweet, Sweet Sprit
Welcome Back

Arranged and conducted by Tom Keene

Tom Keene : keyboard , guitar
Fred Petry : drums, percussion
Paul Stilwell : bass
Darryl Gardner : trumpet, French horn
Val Johnson : trombone

Violin : Bobby Brace, Murray Korda, Walt Wiemeyer, Becky Sabin
Viola : Mark Kabak
Cello : Nat Gershman

Fellowship Records H-223

Dennis Doyle

2009-10-12 | SSW
■Dennis Doyle / Chanticleer■

  オレゴン州ポートランド産の音楽となれば、爽やかで引き締まった空気感とそこで暮らす人々の素朴で人間味のある佇まいが見事に調和した良質なサウンドをイメージしてしまいます。 妄想癖が強すぎると失笑されそうですが、そんな先入観を持ちながら、アルバムと向き合うのもレコード鑑賞の醍醐味だと思います。
  今日取り上げた Dennis Doyle のアルバムはそんな予想がほぼ的中した魅力的な作品。 乾いたギターの音色、頼りなげなボーカル、彩色するようなハーモニーを随所に堪能することができる傑作と言えるでしょう。

  個々の楽曲は大きく 3 つの傾向に分けることができます。 一つ目はウェストコースト風のプリ AOR 系サウンド、二つ目はシンプルで実直なアコースティック系サウンド、そして最後はカントリー・フレイバーを感じさせるサウンドです。 逆の順序で紹介してみましょう。 カントリー系にカテゴライズされるのは、「(There Ain’t No More Whiskey On) Whiskey Hill」、「The Test Of Love」、「It’s Not Me Up Here」の 3 曲。 いずれもバンジョーやペダル・スティールが名わき役を演じていますが、カントリー色が過度に強くないところがアルバムの全体性を保っており、重要なポイントだと思います。
 
  シンプルなアコースティック系としては、ギターと風情のあるハーモニーがセピア色の風景を描き出すようなバラード「Jiffy Janie JigⅡ」、政治的なメッセージが含まれていると思われ、いつになくボーカルが強く感じるミディアム「If Ethiopia Only Knew」が挙げられます。 ギターが参加していないピアノとボーカルだけのバラード「Help Me Talk To My Woman」は悲哀あふれる出来。 「Angels On Horseback / Wooden Heart」は Dennis Doyle のギターソロで唯一のインストナンバーです。

  最後のカテゴリーは、アルバムのなかで最も好みの楽曲が並んでいます。 オープニングを飾る「Home In Love」はイントロのギターから爽やかなプリ AOR サウンドを聴かせる名曲。 この乾いた感じは深まる秋にぴったりで、アルバムの顔とも言えるナンバーです。 B 面の「The Dawntreader」はウェストコースト風味の強い名曲。 いつもの編成に加え、ピアノやサックスがメジャー感あふれる演奏を繰り広げ、洗練されたアレンジもあり、この曲もアルバムを代表する曲に仕上がっています。 「Sometimes You’ve Got Be Hard」は Eagles の影響を強く受けていると思われるナンバー。 ゆったりしたリズムを背景にした漣のようなサウンドは、その繊細さもあって、Timothy Schmit に歌わせたくなります。 後半で聴けるさりげないツインギターも Eagles へのオマージュでしょうか。 ラストの「The Razor Edge」は軽やかなタッチに叙情的なバイオリン、そして絶妙なハーモニーが融合した名曲となっています。

  このようにアルバムはアルバムの全体感を損なうことなく、個々の楽曲が個性を発揮しています。 全ての曲は、Dennis Doyle のオリジナルですので、彼の音楽的なセンスは侮れないものと言えるでしょう。 しかし、禁断の品番 1001 を与えられた運命でしょうか。 彼のアルバムはこの作品以外、見当たらないのです。 

■Dennis Doyle / Chanticleer■

Side 1
Home In Love
(There Ain’t No More Whiskey On) Whiskey Hill
Jiffy Janie JigⅡ
The Test Of Love
Angels On Horseback / Wooden Heart

Side 2
The Dawntreader
Help Me Talk To My Woman
Sometimes You’ve Got Be Hard
It’s Not Me Up Here
If Ethiopia Only Knew
The Razor Edge

Produced by Dennis Doyle
Al Songs written by Dennis Dolye
Recorded in Portland, Oregon at Recording Associates

Dennis Doyle : guitars, vocals, recorder
Jim Britton : guitar
John Antle : vocals, harmony and background vocals
Ken Swanson : bass, vocals, banjos
Dave Hood : drums
Dean Rankin : dobro, pedal steel guitar
Edd English : piano, organ, saxophone
Gary Keiske : violin
Charles Schroeder : bass, vocals

Reynard Records RS 1001