Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

Sour Mash

2008-06-03 | US Rock
■Sour Mash / Sour Mash■

  20 代の頃はバーボンにはまっていました。 スコッチのような中年臭さがなく、アメリカンな宣伝もあって、Early Times や Jim Beam などをよく飲んだものです。 いろいろな銘柄を飲んでいるうちに、Four Roses と Ezra Brooks の味が確実に違うことが分かってきて、当時 2,000円くらいした「世界の銘酒辞典」を購入し、産地にまでこだわったりしたものです。 そんなバーボンのラベルに必ずといっていいほど書かれている言葉が Sour Mash です。 これはサワーマッシュ製法というバーボンの製造方法を示したもので、複雑な風味と香りを増すといわれているものです。
 
 今日は、そんな Sour Mash を名前にしたネブラスカ出身のローカルバンドを取り上げてみました。 ジャケットからはバーボンを意識したものは感じられませんが、アルバムの個々の楽曲はまさに至福の味わいと贅沢な時間を感じさせる内容です。 このようなアルバムにめぐり合うとアメリカのローカルバンドのクオリティの高さを痛感します。 個々のメンバーの腕はもちろん、全曲カバーとなっている楽曲を上手に調理するアレンジとセンスには驚かざるを得ません。 
 このバンドをひと言でいうなれば、Gram Parsons フォロワーのカントリー・ロックです。 1978 年の作品なので、70 年代前半に比べてかなり洗練されているため、2008 年のアルバムといっても通じてしまうでしょう。 もちろん、そこにはジャンルの特性があるわけですが。
 Sour Mash の特徴のひとつにリードボーカルの Reynold Peterson と女性の Pan Harris のツインボーカルが上げられます。 Gram Parsons と Emmylou Harris の関係と一致するのですが、そのうえに名盤「Grievous Angel」にも収録されている「Love Hurts」を収録しているのです。 Gram Parsons ファンはこれだけで触手が伸びることでしょう。 Sour Mash のもうひとつの特徴にパブロック的なエッセンスを感じることです。 Brinsley Schwarz ほど「いなたさ」にあふれているわけではありませんが、スタンダード「Mack The Knife」を選曲しているあたり、Nick Lowe のファンなのかもしれません。アルバムを聴きながら意外に感じてしまったのが「I Always Love You」です。 Whitney Houston で有名なラブ・バラードですが、そもそもオリジナルは Dolly Parton なんですね。 彼女はスタイルとルックスで日本では誤解されがちですが、これは Dolly Parton が作詞作曲しているれっきとしたオリジナルです。 

 このようにアルバムを代表する 3 曲をピックアップしてみましたが、これらの曲だけでも Sour Mash の魅力が伝わってくるのではないでしょうか。 残念なことに彼らのアルバムはこの 1 枚だけだったようです。 メンバーの消息で判明したのが、Reynold Peterson だけで、彼は地元ネブラスカでアルバムにゲストボーカルで参加している Jim Pipher とともに Lightning Bugs というバンドを組んでいました。 2 人とも元気そうです。

 このレコードを聴きながらバーボンを飲むのは心地よいひと時に違いありません。 そんなことを考えながら、Sour Mash の楽曲のひとつひとつにふさわしいバーボンの銘柄を当てはめてみたら面白いかも!と一瞬思いましたが、すぐに止めました。 危ないところでした。



■Sour Mash / Sour Mash■

Side-1
Come A Little Bit Closer
That’s All It Took
I’ll Be Your San Antone Rose
I Will Always Love You
Chattanoogie Shoeshine Boy

Side-2
Mack The Knife
Love Hurts
Chattanooga Choo Choo
Barnyard Boogie
Blue Jade

Produced by James A.Ludwig
Engineered by Jim Wheeler

Recorded , mixed and mastered at Sound Recorders , Omaha , Nebr.

Pam Harris : vocals
Reynold Peterson : vocals
Randy Barger : guitars , vocals
Dell Darling : drums
Dick Carlson : bass
Steve Turbot : piano
Charles Lettes : steel guitar
Jim Pipher : harmony vocals on ‘Chattanooga Choo Choo’

Candy Apple Records  SM2


Buckwheat

2008-02-09 | US Rock
■Buckwheat / Pure Buckwheat Honey■

  Buckwheat という名のグループは 1970 年代に London Records から 4 枚のアルバムを残したグループがいるようですが、今日取り上げたのはおそらく同名の別グループです。
  1969 年に Buddah 傘下のマイナーレーベル「Super K」からリリースされたこのアルバムが The Beatles フォロワーのニッチでサイケなポップなのに対し、London Records のほうはスワンプ系のようなのです。 後者は未聴なので断定できませんが。

  興味深いのがこの「Super K」レーベルです。このレーベルはバブルガムやソフトロックの名門 Buddah のプロデューサー、Jeffrey Katz と Jerry Kasenetz の 2 人が設立した子会社レーベル。 ふたりの名前の頭文字 K をとって、「Super K」とネーミングしたのでしょう。 1969 年のみの活動ということで成功を収めたとは言えないレーベルで、アルバムもわずか 5 枚しか残されていません。 その中の 4 枚目がこの「Pure Buckwheat Honey」です。

  アルバムを代表するポップ・ソング「Yes」でアルバムは始まりますが、この曲のメロディーやアレンジにはどの時代に投入してもヒットしそうな普遍性を感じます。 つづく「Radio」はボードヴィル調。 Nilsson あたりに通じるサウンドです。 凝ったコーラスやアレンジが絶品な「Mr. Simms Collector Man」もオールドタイミーな絶品。 「The Albert Hotel」はバンジョーの香りのするカントリーロック。 しかしそれはThe Byrdsとは異なりあくまでもイギリス的な匂いのするところが気になるところ。 「Sunshine Holiday」はミデイァムからサイケなコーラスに入るあたりが摩訶不思議なサウンド。 このグループの底力と奥深さを感じざるを得ません。 A 面ラストはたまにはシンプルに行こうよ、というメンバーの気分が伝わってきそうな「Goodbye Mr. Applegate」です。 この Applegate は Apple Records のこと? と飛躍した詮索をしたりしています。

  B 面に入ると初期 Sparks のような「The Poor Widow & Her Gypsy Band」です。 ボーカルが Ron Mael に似ているのです。  ニッチな小曲「Don’t You Think It Would Be Better」につづく「Purple Ribbons」は美しい正統派バラード。 John Corigliano のアレンジが素晴らしく言葉になりません。 John Corigliano のことを調べてみたら、彼の父親は New York Philharmonic のコンサートマスターを 23 年も務めたほどの優れた音楽家で、彼自身もクラシック界では名の通ったミュージシャンのようです。 しかし、このようなニッチなレコードに参加するとはどういう人脈なのでしょうか。  再度 Sparks に似た「Wonderful Day」、ほのぼのした陽だまりサウンド「Howlin’ At the Moon」とアルバムは続き、ラストの「Pure Buckwheat Honey」へ。  この曲も後期のThe Beatles のような豊なアイディアとコーラスが堪能でき、アルバムが徐々に幕を落としていく予感をにじませることに成功しています。

  このアルバムは買ってからしばらく放置していて聴かなかったのですが、まさかここまで素晴らしい名盤だとは思いもしませんでした。 何と言っても楽曲の良さと、John Corigliano の抜群のアレンジには参りました。  Super K の他のレコードは聴いたことがありませんが、このアルバムを超える作品はないでしょう。 早く再評価され、CD 化されることを願うばかりです。
  さて、最後にアルバムを読みほどくヒントをいくつか。 John Corigliano のことは述べましたが、プロデューサーの Robert Margouleff についても触れておきましょう。 彼は、Stevie Wonder の「Innervisions」といった 1970 年代前半の名作に Malcom Cesil とともにプロデュースで参加しています。 この 2 人は Moog Synthesizer の名手としてユニットとしてのアルバムも残しています。 次に「Super K」に関してですが、ドイツのレーベルからベスト的な CD が発売されています。 しかし、この CD には、残念ながら Buckwheat の音源は含まれていません。

  メンバーのフルネームすら分からない謎のグループですが、Buckwheat の残した唯一のアルバムは 1969 年に産み落とされた数多くの名盤にけして見劣りしない傑作です。



■Buckwheat / Pure Buckwheat Honey■

Side-1
Yes
Radio
Mr. Simms Collector Man
The Albert Hotel
Sunshine Holiday
Goodbye Mr. Applegate

Side-2
The Poor Widow & Her Gypsy Band
Don’t You Think It Would Be Better
Purple Ribbons
Wonderful Day
Howlin’ At the Moon
Pure Buckwheat Honey

Produced by Robert Margouleff
Orchestra Arranged and Conducted by John Corigliano
Recorded at Broadway Recordings Studios , New York

Buckwheat : Tim , John , Charlie , Dan

Super K Records SKS 6004

Fresh Air

2007-05-20 | US Rock
■Fresh Air / Fresh Air■

 前回に続いて Columbia の未 CD 化アルバムを取り上げました。 1973 年に発表された Fresh Air の唯一の作品です。 そもそも Fresh Air については詳細を語るサイトが全くといって存在しておらず、メンバーの名前すら正確なところはわかりません。 というのも、クレジットには楽器主体の記載はあるものの、メンバーとゲスト・ミュージシャンの区別がなされていないのです。 そこで、まずはジャケットに載っているメンバー 5 人を推測してみました。 ベースの Wolfgang Muser とギターの Colyn Kyffin は当確として、作曲者としてのクレジットもある Doug Rommerien そして Pat Flynn もほぼ確実です。 最後の 1 名はおそらく、ドラムスとキーボードでクレジットされている Don Randi でしょう。 
 さて、そんな Fresh Air ですが、ひと言で言うと典型的なウェストコースト風ロックです。 若干、カントリー色が入る場面もありますが、どちらかというと東海岸に強い Columbia が Warner / Reprise もしくは Asylum あたりを意識して送り出した新人はないかと推測しています。 サウンド的にも前回ご紹介した Overland Stage よりは明らかに商業的な成功を狙っていたと思えるし、優れた名曲もあることから、個人的にはかなり好きなアルバムです。

 冒頭を飾るのは Lovin’ Spoonful がオリジナルの「Henry Thomas」です。 2 分にも満たないこの曲は食前酒のような位置付けでしょうか。 つづく「Continental Highway」はハートウォーミングで和みのミディアム。 コーラスもCSN&Yを意識しているかのようです。 カントリー系の「Sometimes In The Evening」につづく「Love Her Madly」は、ボーカルがよりソフトなメンバーに交代。 残念ながら誰が歌っているかはわかりませんが、Brownsmith にも通じる木漏れ日サウンドです。 そして、アルバムのハイライトともいえる名曲「Too Many Mornings」です。 このアルバムを初めて聴いたときから、この曲には心震えます。 小細工のないメロディーとアレンジなのですが、日本のニューミュージックのようにも聴こえて、僕ははまってしまったのです。 A 面は、軽いアッパーな「Life Goes On」で終了。 このパタパタしたドラムスは、名人 Hal Braine のもの。

 美しいコーラスで聴く者を魅了する「Anna Bella Cinderella」でB 面はスタート。 朴訥とした「Old Ladies」でひとやすみした後は、「Where’s Gone Our Love」でさらにリラックス。 Fresh Air の最大の特長である清涼剤的なコーラスと夢心地なペダルスティールが聴き手にマイナスイオンを運んでくれるかのようなこの曲は、まさに彼らの真骨頂です。 「Neon Cross」もマイルドなミディアムナンバーですが、聴き取れる歌詞からクリスチャン系の楽曲のようです。 つづく「Ain’t Nobody Over ‘Till Their Done」はラストにふさわしいメロウな曲。 アルバムは一貫して、今日の天気のようにジェントルで乾いた風に包まれているので、ハンモックで読書しているうちに昼寝してしまう時と同じような気分を感じ取ることが出来ます。 
 このような曲を誰が書いているのか、当然のように興味があるのですが、半分くらいの曲を、G.Prace という人物が書いています。 名曲「Too Many Mornings」、「Anna Bella Cinderella」、「Where’s Gone Our Love」もすべて彼のペンです。 職業ライターなのでしょうか、とても気になります。 他には、Pat Flynn が「Sometimes In The Evening」や「Neon Cross」を書いています。 メンバーと思われる 5 人のなかで、彼だけ公式パージを発見したのですが、残念ながら Bio には Fresh Air のことは書かれていませんでした。 メンバーではなかったのかもしれませんね。

 巨匠 Norman Seeff による写真に写るのは、優しげなウェストコースト風の男たち。 こんなに素敵なアルバムを残したにもかかわらず、爽やかな空気だけを残して、メンバーはそれぞれの道へと別れていったのでしょう。

 

■Fresh Air / Fresh Air■

Side-1
Henry Thomas
Continental Highway
Sometimes In The Evening
Love Her Madly
Too Many Mornings
Life Goes On

Side-2
Anna Bella Cinderella
Old Ladies
Where’s Gone Our Love
Neon Cross
Ain’t Nobody Over ‘Till Their Done

Produced by Sonny Knight
Arranged by Fresh Air
String Arrangements by Al Capps

Drums : Don Heffington , Hal Braine , Don Randi
Keyboards : Glen D.Hardin , Don Randi
Steel Guitar : Colin Kyffin , Red Rohdes
Electric Guitar : Pat Flynn , Colin Kyffin
Acoustic Guitar : Doug Rommerien ,Colin Kyffin , Pat Flynn
Percussion : Don Heffington , Johnny Raines , Vic Feldman , Gene Estes , Gary Coleman
Dobro : Colin Kyffin
Bass : Wolfgang Muser

Columbia KC 32282

Sleepy Hollow

2006-12-10 | US Rock
■Sleepy Hollow / Sleepy Hollow■

 今年も John Lennon の命日がやってきました。 といっても 2日ほど過ぎてしまいましたが。 そして、The Beatles の新作(なのかなあ?)「LOVE」も発売され、世の中は少しビートルズ色になっているのでしょうか? 僕は年末ということもありけっこう忙しく、すっかりレコードショップに足を運ぶ機会がないのでそのあたりよく分りませんが。

 さて、今日ご紹介するアルバムは、1972 年に Family Productions から発売された Sleepy Hollow の唯一のアルバムです。 このアルバムはコアな音楽話のネタ的に使われることが多いのですが、そのネタはアルバムの 1曲目にあります。 その曲「Sincerely Yours」を初めて聴いた人は、おそらくほとんどの人が、「これ、ジョン・レノン?」と思い込んでしまうほど、声や歌い方がそっくりなのです。 僕も友人に聴かせたら、絶句していました。 ちょっと大げさかな。 とはいえ、「ジョン・レノンそっくり大賞」の歌唱部門があったら、間違いなく優勝すると思われるその人物は Richard Billay によるもの。 そう、Sleepy Hollow は、すべての作曲も手がけている彼の実質的なソロ・プロジェクトなのです。

 アルバムはシングルカットもされた「Sincerely Yours」でスタート。 この曲は前述のとおりですが、続く曲にも 後期の The Beatles のテイストが感じられるものがあります。 王道のポップな「One Time」や泣かせるバラードの「Take Me Back」などはまさに The Beatles の影響をモロに受けています。 時代から言っても不思議ではないのですが、このようなサウンドがイギリスではなくアメリカのフィラデルフィアから産みだされたのは、意外な感じがします。
 B面では、ストリングスとメロディーがまろやかな「Lady」、アルバム中最もロックンロールしている「Roller Coaster Man」といった起伏のあとに、唯一の大作とも言える「Hades」で幕を閉じます。 この曲はゆったりしたバラードですが、歌詞にクリスマスが出てきたり、その背景でベルがなったりと、今の季節感にぴったりな曲です。 やや大げさなアレンジも AB 面合わせて 30 分に満たないアルバムのラストなので、違和感がありません。 
アルバムを久しぶりに聴きましたが、やはり主人公の Richard Billay の才能ばかりが目立ち、他のメンバーの存在感はまったくありません。 特に Joe Zucca のドラムスは、パタパタしていて耳障りにさえ感じてしまいます。 Richard Billay はその後どのような活動をしたのか、ネットで検索してみましたが、1973 年に映画音楽を手がけている記録があった以外、誰かのアルバムに参加したとか、自らソロを出したというような記録は残っていませんでした。 彼のソングライティングの資質はかなり優れたものだっただけに、このアルバムしか残さなかったとは残念なことです。

 その理由はアルバムが売れなかったこと、Family Productions が後に閉鎖(倒産)してしまったことなどもあるでしょう。 しかし、個人的にひっかかるのが、プロデューサーとしてクレジットされている John Madara の存在です。 初期の Hall & Oates を手かげていたプロデューサーとして有名な人物ですが、その有名な理由が敏腕とかセンスとかによるものではなく、ダーティーな話が多いからなのですね。 特に有名なのは、マスターテープを自分のものにして、Hall & Oates がブレイクし始めのころに、Daryl Hall がかつて在籍していたグループ「Gulliver」のアルバム(これは当時、お蔵入りで未発売でした)を勝手に発売して、Hall & Oates の活動を妨害したというエピソードです。 ちなみに Gulliver には Daryl Hall のほかに、名曲「Rock’n Roll Love Letter」の作者として有名な Tim Moore やこのアルバムにストリングスなどで参加している Tom Sellers が在籍しています。  Sleepy Hollow としては、アルバムが売れたり後にブレイクしたりしていないので、Hall& Oates のような問題はなかったのでしょうね。 むしろ、このアルバムが録音されたシグマ・サウンドは、フィラデルフィア・ソウルのメッカで、こういったポップ作品のレコーディングに使用されたのは、珍しいことだと思います。 そのあたりは、 John Madara のホームグラウンドという理由だとは思いますが。

 さて、Sleepy Hollow といえば、Johnny Depp 主演の映画で同名の作品がありました。 僕はこのアルバムと同名だということで、劇場公開してすぐにその映画を見たのですが、ちょっと怖かったですね。 「あの程度で!」と言われてしまうかもしれないのですが、ホラーやスリラーはまったく駄目なのです。 映画はダーク・グレイの色彩的印象ですが、このアルバムは映画とは異なったポップな作品となっています。 いまだに CD になっていないようですが、若き日の Richard Billay の才能が封印された作品として、高い評価と認知を得るべきアルバムだと思います。

 

■Sleepy Hollow / Sleepy Hollow■

Side-1
Sincerely Yours
One Time
Take Me Back
Talking Out Of Turn
Lay It On The Line

Side-2
Love Minus Zero
Lady
Roller Coaster Man
Hades

Produced by John Madara and Tom Sellers
Directed by Richard Billay
Recorded at Sigma Sound Studios , Philadelphia , Pennsylvania
Strings and Horn Arrangements by Tom Sellers
All Songs composed by Richard Billay

Richard Billay : lead vocals , guitar , piano
Joe Zucca : drums
Richie Bremen : bass

Family Productions
FPS 2708

Sparky Grinstead

2006-09-02 | US Rock
■Sparky Grinstead / Won Out■

 1978 年、カリフォルニアのオークランドの自主制作レーベルから届けられた愛しいアルバム。 Sparky Grinstead の「Won Out」を取り上げてみました。

 このアルバムは、昼下がりによく似合うリラックスしたハッピー・サウンドです。 逆にいうと、秋の夜長にじっくり聴くタイプのものではありません。 ということで、久しぶりに聴いたのも土曜日の午後 2 時、昼食を済ませた時間でした。 ジャケットのデザインからもある程度イメージできるのですが、このアルバムはひと言で言うと、シンプルでメロディックなフォーキーです。 若い人向けに言うならば、1990 年代のイギリスのネオアコ的なサウンドとも言えるでしょう。 ちょっとマイナーですが、John Cunningham や Harvey Williams のソロ作品の持つ味わいに似たものを感じます。

 アルバムの内容を簡単にご紹介しますと、全曲が Sparky Grinstead の多重録音で出きており、曲によって恋人と思われる Arlene Lee のピアノが彩りを添えるという構成となっています。 A 面に針を落とすと、唐突にサウンドコラージュ的な SE が入り、すぐに「Fall On Me」が始まります。 この曲は陽だまりのなかでビールを飲んでいるときのような心地良さで、アルバムを象徴する名曲です。 落ち着いてメロウな「Love Is All Right」、弾き語りの雰囲気がピクニック気分の「Trucks In The Sky」では、はじめてArlene Lee のピアノが聴けます。 続く「No Magic」はアルバム随一のバラードです。 「珠玉の」と形容するほど、精巧なアレンジや切れのある場面はないのですが、逆にこの二人のシンプルな編成だからこそ、胸がキュンとしてしまう気がします。 ちなみに、この曲のエンディングには曲と関係のないセッションが数秒収録されています。
 B 面では、「Everything They Say」が出色の出来です。 セルフユニゾンするハーモニーの清涼感、美しいメロディ、サビでのバックコーラスなど、内容的には突出して完成度の高いものになっています。 タイトル通りブルースっぽい「You Know Me Blues」や二拍子のポップソング「Breaking Point」も悪くありません。この曲だけはライブの一発録りらしき「Ten Years (Abortive)」では、他人の息使いや気配を感じ取ることができます。 陽気なロックチューンの「Big Ass」が終わると、オープニングに似た細切れのコラージュとなり、クレジットの通り「Fall On Me」が20 秒程度ですが細かく裁断されてエンディングを迎えます。 このようなユニークなオープニングとエンディングも、このアルバムをより個性的なものにしているような印象です。 

 さて、僕は以前からこのアルバムが彼の唯一の作品だと思っていましたが、ネットで調べたところ、Sparky Grinstead Project という準公式サイトのようなものがあり、それによると通算 3 枚あるうちの、2 枚目だということが判明しました。 1 枚目も3 枚目も見かけたことはありませんが、今はそのサイトから CD でも買えるようです。
 本名は、Earl J. Grinstead Jr. とクレジットされている Sparky Grinstead と唯一のゲストメンバーでもある恋人の Arlene Lee の名前からネーミングしたと思われる Sparlene の1001 番となっているこのアルバム。 両面合わせて、25 分しかないアルバムですが、ポップな味わいの私的な SSW アルバムとして、毎年 5 月頃から 9 月頃の間に聴きたい作品ですね。 梅雨時期と盛夏には似合いませんが。



■Sparky Grinstead / Won Out■

Side-1
Fall On Me
Love Is All Right
Trucks In The Sky
No Magic

Side-2
You Know Me Blues
Everything They Say
Breaking Point
Ten Years (Abortive)
Big Ass
Fall On Me

Piano and Electric Piano : Arlene Lee
Vocals , Guitars , Bass and Drums : Sparky Grinstead

Produced by Sparky Grinstead
Remix Engineer : Jim Weyeneth
Photography : Steve Hanamura

Sparlene SP-1001