Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

Phil & Gaye Johnson

2010-05-31 | Folk
■Phil & Gaye Johnson / Cornbread & Sweetmilk■

  調子に乗ってまた夫婦デュオを取り上げることにしました。 これで 4 回連続となります。
  Phil & Gaye Johnson はノース・キャロライナ州をベースに活動するカントリーデュオ。 彼らは、1970 年代から、古き良きアメリカン・ミュージック、ブルーグラス、そしてフォークといったアコースティックな音楽を演奏し続けています。 このアルバムはお隣のテネシー州のレコーディングですが、ざっくり言うとアパラチア山脈の南側というのが活動エリアなのでしょう。

  このアルバムが彼らのデビュー作となる 1980 年の作品。 公式サイトによるバイオグラフィーによると、タイトルの「Cornbread & Sweetmilk」というのは、ノース・キャロライナとサウス・キャロライナをカバーしていたラジオ局のライブ番組の名前だったようです。 その番組を彼らがプロデュースし、人気を博した結果としてこのアルバムが生み出されたとのこと。 番組は 1980 年から 1983 年まで放送され、地元以外のいくつかのローカル局にネットされたりしたようです。 そうしたことを踏まえて聴くと、たしかに曲の頭の部分がラジオ局のジングルのように聴こえる時があり、このアルバムへの理解が進みました。 

  アルバムの楽曲は、フィドルやバンジョーが活躍するアップナンバーとしっとりしたスロウワルツとが半々くらいで収録されています。 個人的な好みはどうしても後者のほうになってしまいますので、それらの楽曲を紹介しておきます。
  A 面では、ふたりのハーモニーが繊細にからみあうワルツ「North Carolina Woman」とシンプルでルーラルな和み系の「Kinfolk In Carolina / Dinah」がそうした素朴なフォーキーです。 しかしテンションの高いアップナンバーに挟まれて居心地はあまり宜しくありません。
  B 面はスロウの比率が高まります。 なかでも「The Old Man’s Melody」は素朴さと温もりをかんじさせるバラードで、個人的には間違いなくこのアルバムのベストトラックです。 他にも「Give Me The Roses」と「The Old Homeplace」がお薦めです。 前者は二人のハーモニーが美しいワルツで、この気だるさは勤務中に訪れる午後の睡魔のようです。  後者も Gaye Johnson のリードによるノスタルジックなスロウ・ナンバー。 アパラチアに落ちる夕焼けを目の当たりにしているような気分です。 両面を比較するとしたら、これら 3 曲を擁する B 面に分があると言えるでしょう。

  冒頭にも書きましたが、Phil & Gaye Johnson は現在もライブ活動を行っており、Acoustic Americana Music を奏で続けています。 YouTube にも 2006 年のライブ映像が掲載されており、元気そうな姿を確認することができました。 こうした映像を見ると、アメリカのカントリー・ミュージックは日本における演歌だということを、素直に同意してしまいます。

■Phil & Gaye Johnson / Cornbread & Sweetmilk■

Side 1
It’s Cornbread & Sweetmilk Time
Everybody Get Light
North Carolina Woman
The Hobo’s Meditation
Kinfolk In Carolina / Dinah
Life In The Back Of The Bar Part1
Life In The Back Of The Bar Part2

Side 2
The Hicka Polka
Give Me The Roses
The Old Man’s Melody
He’s A Hillbilly Goucho (With A Rhumba Beat)
The Old Homeplace

Produced by Phil &Gaye Johnson
Recorded October and November, 1980 at Green & Brown Studiosm Cosby, Tennessee
Engineered and mixed by Doug Dorschug

Gaye Johnson : acoustic guitars, vocals
Phil Johnson : mandolin, dobro, acousticand electric guitar, percussion, vocals
Leese Lanham : bess, electric bass, back-up vocals
Gerald Lanham : banjo, guitar, back-up vocals
Clay Bucker : fiddle, back-up vocals
Danny eller : drums
Chuck Lindsey : percussion

Park Street Records 43632


Aileen & Elkin Thomas

2010-05-27 | Folk
■Aileen & Elkin Thomas / Aileen & Elkin Thomas■

  前々回、前回に続き夫婦デュオをピックアップしてみました。 テキサス州出身の Aileen & Elkin Thomas が 1981 年に発表したデビューアルバムです。 彼らは 1970 年代後半から近年まで活動を続けてきたグループで、100 を超える大学でパフォーマンスをしてきた実績があり、アルバムも 6 枚前後の作品を発表しています。 検索して発見した公式サイトでは 2000 年の最新アルバムと 2003 年の写真以降のアップデートがないのが心配ですが、元気に活動していることを願っています。

  彼らのサウンドは変化しようのないアコースティック・サウンド。 ギターとテケテケバンジョー、そして情緒的なヴァイオリンという編成で、ローカルでノスタルジックな田園風景を描き出しています。 1 曲を除いて Elkin Thomas の作曲ですが、オーバーオールのジーンズとアメリカンコットンで出来た長袖のシャツが良く似合う曲調が続き、米軍基地の移設問題、ユーロ不安による株価の低迷といったタイムリーな時事問題をすっかり脳みそから消去してしまう力を持っています。 ディズニーランドの奥のほうに、こんな音楽が似合うロケーションがあったなという気さえします。

  どの曲もシンプルな 3 人編成なので、個々の楽曲にメリハリがあるわけがありません。 ただ、特筆すべきは 3 人の息のあった演奏が耳に心地よく、シンプル且つストレートに胸に響いてくるのです。 これは、数多くのライブパフォーマンスの積み重ねから生まれたものでしょう。 週末の井の頭公園あたりで彼らに偶然出会ったら、こんな幸せなことはありません。 そんな妄想を抱いてしまいました。

  個人的なお薦めの楽曲をあげておきましょう。 騒がしいバンジョーと饒舌なヴァイオリンが共演するアップな「Bethesda’s Pool」、その流れを汲んだ陽気な「Come Alive, Country Lady」、メロウで心のひだのようなヴァイオリンが魅力的な「Soft Pipes, Play On」、最も SSW っぽいサウンドの「Halls Of Time」が A 面でのお薦め。 B 面では、ミディアムな 2 拍子の「Phone Calls」、彼らのライブ定番となっている「Gee Jake」、そしてメランコリックなバラードでラストを締めくくる「Lady, That’s How Long I’ll Be In Love With You」を挙げておきます。 もちろん、その他の楽曲も悪いわけではありません。 オールドタイミーなフォーキーという肌触りのある音作りはどこを切っても貫かれているのです。

  なお、このアルバムは 1979 年に亡くなったギター職人の J.W. Gallagher に捧げられています。 彼は生涯で 2,000 本程度のギターを手作りで製作した職人中の職人で、Doc Watson が愛用していたことで有名なようです。 Elkin Thomas はこのアルバムでその Gallagher Guitar を大事そうにつま弾いていました。

■Aileen & Elkin Thomas / Aileen & Elkin Thomas■

Side 1
Bethesda’s Pool
Come Alive, Country Lady
Soft Pipes, Play On
Halls Of Time
Livin’ Country Style

Side 2
Back To The Hills
Phone Calls
Gee Jake
Palominos
Lady, That’s How Long I’ll Be In Love With You

Produced and engineered by Elkin Thomas
Recorded at Gideon Sound, Krum, Texas

All Songs written by Elkin Thomas except ‘Back To The Hills’ by Dee Moeller

Aileen Thomas : bass, vocals
Elkin Thomas : six-string and twelve string Gallagher guitar, Ode banjo, vocals
David McKnight : violin

Shantih Records ST-518

Krisendale

2010-05-15 | SSW
■Krisendale / Collector’s Item■

  自らのレコードに「コレクターズ・アイテム」と名をつけた奇妙なアルバムです。 悲観的というか自虐的というか、広く知れ渡ることを当初から拒絶しているみたいです。
  Krisendale というイギリス的な名前は、夫婦である Kris Obrien と Dale O’Brien の名前をつなぎ合わせたものと思われます。 ジャケットに映る表情からは自らに厳しそうな二人の視線が痛いほどに伝わってきます。 ですからサウンドも生真面目なフォークかと想像しましたが、意外にもバラエティに富んだ良質の SSW 作品でした。 

  クレジットを転記していて驚くのがメロトロンの存在です。 このアルバムがレコーディングされた 1977 年にはすでに流行りは過ぎていたと思われるこの厄介な楽器が 2 曲で使用されているのです。 Dan Bury による mellotron arrangements という表記もされているその曲は、A-3 の「Sinking Ships」と B-5 の「Take Her Home」です。 前者はギターでゲスト参加しているAnn Reed の作曲。 彼女の書き下ろしかどうかは未確認ですが、雄大で余裕すら感じるスケール感のあるバラードでした。 メロトロンは、ホーンセクションとともに厚みを演出するために使用されており、フェードアウトの際にその独特の音色が際立ちます。 後者はアルバムのラストの楽曲ですが、この曲はアルバムのなかでも最も素晴らしい作品でした。 可憐なピアノのイントロ、情緒豊かに盛り上げるギターソロ、それを包み込むようにメロトロンがたたみかけるように押し寄せてくるバラード。そのドラマティクな展開にはぞくぞくしてしまいました。 

  そのほかの楽曲も出来が素晴らしく、アルバムオープニングを飾る「The Music In Us All」は薫風かおる草原のような楽曲。 イントロがユーミンの「時をかける少女」に似ていました。  ボーカルで聴かせるのは「Pictures Of Life」が一番。 ふたりのユニゾンで聴かせるミディアムですが、ラストのリリカルなピアノも印象的。 フィドルが全面的にフィーチャーされたブリティッシュ・トラッド風味の「There Are Times」、緩急自在でソフトロック調の「Without You」、The Beatles の「Getting Better」みたいなイントロからポップに展開する「There’ll Never Be Another For Me」など、その音楽性の幅広さを感じさせますが、Krinendale の二人と優秀なセッションメンバーによって、ブレや違和感を感じさせないところが素晴らしいと感じました。 さすがミネアポリスの底力といったところでしょう。

  一年で最も過ごしやすい 5 月にぴったりなサウンドを届けてくれた Krisendale ですが、このアルバム以外の作品を見かけたことがありません。 個々の名前で検索しても同名異人でした。 彼らが何の意図をもって「Collector’s Item」と名付けたかは知る由もありませんが、それが現実となった今、それは定めだったとしか言いようがありません。

■Krisendale / Collector’s Item■

Side 1
The Music In Us All
Pictures Of Life
Sinking Ships
Come Tomorrow
Take My Hand

Side 2
There’ll Never Be Another For Me
There Are Times
Without You
When I’m Gone
Take Her Home

Produced by John Struthers, Kris O’Brien, Dale O’Brien
Engineer : John Struthers, ASI Studios, Mpls, MN recorded May-Aug 1977

Krisendale
Kris O’Brien : 6-string acoustic guitar, vocals
Dale O’Brien : 12-string acoustic guitar, vocals

Stephen Faison : drums, other percussion
Jay epstein : drums on ‘ Without You’
Hearn Gadbois : congas on ‘ Without You’
Brad Smith : bass
Tom Lewis : Bass on ‘ Without You’, ‘There Are Times’, ‘Music In Us All’
Howard Arther : lead guitar
Ann Reed : slide guitar on ‘ Without You’
Kathy Hesse : plantenburg flute
Dan Bury : piano, mellotron
John Pinckaers : piano, on ‘Pictures Of Life’
Jim Price : violins
Gene white : trombone
Mark Prather : flugel horn, trumpet

Jim Price : strings arrangement on ‘Come Tomorrow’
Dan Bury : mellotron arrangements on ‘Sinking Ships’ , ‘Take Her Home’
John Pinckaers : keyboard arrangements on ‘Pictures Of Life’

ASI Records ASI 217

Sharon and Tom Mindock & His Own

2010-05-08 | Christian Music
■Sharon and Tom Mindock & His Own / Working Together■

  前回とりあげた Dave Lafaryと同じレーベル Pinebrook Recording から発売されたレコードをご紹介します。 Sharon and Tom Mindock & His Own という長い名前のグループですが、 Sharon とTom Mindock 夫妻を中心に鍵盤とリズムセクションの 3 人を加えた 5 人編成のグループです。 彼らが何枚のレコードを残したかなどの詳細は不明ですが、この「Working Together」は 1982 年の作品。 AOR 全盛に近い時代ならではの良質な音楽が繰り広げられれています。 何度となく触れていますが、この時代のクリスチャン・ミュージックの最大の魅力は、ストリングスやコーラスのまろやかなアレンジに支えられた完全に近い予定調和です。 そして、それはこのアルバムでもほぼ完ぺきな形で収められています。 さっそく各曲をレビューしてみましょう。

  オープニングを飾る「Working Together」 はアコースティックでメロウな逸品。 彼らのサウンドのエッセンスが凝縮されており、そよ風のようなフルートも絡んできてソフトロック的な風味も加味された名曲に仕上がっています。  「His Own」と「Jesus Is The One」も同じ流れのスムースで流れるようなメロディの楽曲。  クリスチャンミュージックならではの淡い世界が堪能できます。 つづく「Make A Joyful Noise」はここまでの3曲とはやや異なりマイルド感が薄い仕上がりです。

  B 面の「What A Difference」は、Sharon が主導権を握るフォークロック調の曲。 覚えやすいメロディの繰り返しはシングルカット向きですが、このレーベルにはシングル盤は存在しないと思われます。  つづく「Heavenly Blues」はタイトル通りの R&B ナンバーですが、彼らのボーカルには R&B は似合わないというのが率直な印象です。  私はお寺、というタイトルに驚く「I Am A Temple」は本来の彼らの世界観に戻ってきたメロウなバラード。  透き通るような Sharon のボーカルと美しいコーラスに包まれ、心が洗われる気がします。  「Children」 はさらにテンポをスロウダウンしたバラードで、よりアコースティックなアレンジが耳に残ります。 ラストの「Be Thankful」はタイトルからして激しい曲であろうはずがありません。  数あるバラードやミディアムのなかから、この曲がラストに選ばれたのは、祈り、感謝そして希望といったメッセージがより強く込められているからではないかと思います。 清楚なコーラスのなかに、エモーショナルなギターソロが挿入されるあたりも聴きどころとなっており、アルバムの余韻を深めることに成功しています。

  こうしてアルバムを振り返ると、そのサウンド・クオリティーの高さ、安心して聴き通すことのできる演奏とアレンジのセンス、そして何よりもボーカルの魅力を強く感じました。 クリスチャン・ミュージックのアルバムを何枚か紹介してきましたが、このアルバムは SSW 好きの方には今ひとつかもしれませんが、ソフトロックやハーモニーが好みの方にはたまらない作品でしょう。 たやすく名盤という言葉は使いたくありませんが、このジャンルのなかではまちがいなく名盤と言える作品だと思います。

  連休から続いている青空を背景にした新緑の美しさに心奪われるのと同じ効用をもたらしてくれる、まさにそんなレコードです。

■Sharon and Tom Mindock & His Own / Working Together■

Side 1
Working Together
His Own
Jesus Is The One
Make A Joyful Noise

Side 2
Oh What A Difference
Heavenly Blues
I Am A Temple
Children
Be Thankful

Produced and Arranged by Steve Millikan
All songs by Sharon and Tom Mindock

Sharon Mindock : lead vocal, percussion, synthesizer
Tom Mindock : lead vocal, vocal, 12 string guitar, electric bass
Kathy Hardy : flute, rhodes piano, background vocal
Jim VanWinkle : electric bass, lead guitar

Pinebrook Recording Studio PB-1763