Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

Stan Moeller

2007-02-24 | SSW
■Stan Moeller / Thin Ties■

 ヘチマやナスみたいな形をしたミシガン湖。 その南岸にはアメリカ第2位の大都市、シカゴがありますが、そのシカゴの反対側のミシガン湖畔に South Haven という街があります。 ミシガン湖に沈む夕日が美しく、マリンスポーツや別荘などの観光地でもあるようです。 今日、ご紹介するのはそんな街から 1980 年に届けられたプライベート感あふれるアルバムです。 
 ややセピア色がかったモノクロ写真に映る Stan Moeller と一匹のダルメシアン。 こんなジャケットからはきっと素敵な音楽が聴こえてくるに違いないとジャケット買いしてしまった 1枚なのですが、その予想はいい意味で裏切られました。 繊細なギターのアルペジオ、つぶやくような優しいボーカル、センスあふれるアレンジなど、ある意味完璧に近い内容だったからです。 ドラムレスで、ベースとリードギター(といってもアコギですが)がサポートする曲が半分程度、その他はStan Moeller 一人の弾き語りで、アップテンポの曲が 3曲くらいあるものの、他の曲はマイルドで時折ビターなアコースティック・サウンドが展開されています。

 アルバムは、A 面の冒頭から Stan Moeller の世界に引き込まれます。 ♪君を失ってから何も考えられない♪という切ない気持ちが綴られた「Changes」、耳元でささやかれているみたいな「Down With Your Ship」、冷え切ってしまった恋人や夫婦のことを歌った「Cold War」までの 3 曲まではまさに至福の空間。 アップテンポになりジャジーなアレンジの「Alone In L.A.」を挟んで、「What Ever Happened To Love」もまたしんみり系。 アルバムの中でこの曲のみ Stan Moeller のピアノが挿入されています。 ピアノといっても人差し指でなぞれるような単音が効果的に配置されるといった感じですが。 つづく「City Lights」は、ハーモニカの金属的な音が今までの和みの空間を切り裂くような印象です。 この曲もアップで、ほとんど Kenny Rankin かと聴き間違えてしまうような軽やかなボーカルが縦横無尽に舞います。

 B 面に入ると、このアルバムで 1 曲選べと云われたらこの曲かもしれない名曲「Love Is A Child」でスタート。 ♪Love is a child , Let it grow♪というフレーズがさりげないメロディと重なる一瞬は、まさに完璧な出来栄えです。 Stan Moeller のギターの腕が光る「If It’s Love」につづく「Margarita」シンプルな歌詞が何度も繰り返されるラブソング。 この曲だけがフェードアウト処理で終わるのですが、それが個人的にはかなりのマイナス要素だと感じています。 ラストの 2曲「Ledges」と「When You Say Goodbye To Me」は、マイナー調で内省的な私小説のようです。 ここにはA面に見られた温かみではなく、翳りの予感を漂わしているようです。 

 Stan Moeller は 1990 年代に入ってから、Stan Moeller and T.S. Baker というフォークデュオを結成し、3 枚のアルバムを発表しています。 数曲を試聴してみたのですが、メインのボーカルは女性の T.S. Baker となっており、ちょっと残念でした。 また Stan Moeller は油絵の画家としても活躍しているようで、彼個人のサイトでは、見事な作品を見ることができました。 ギャラリーに展示された作品には海辺など自然の風景も多く、彼の音楽に通ずるものを感じ取ることができます。

 ジャケットの隅には、stan & harry という小さな文字が。 彼の愛犬だったのでしょう。 さすがにもうこの世にはいないはずの Harry の名前は、Stan Moeller and T.S. Baker のコピーライト表記に、Harry Melody Music Co. として生き続けていました。

 

■Stan Moeller / Thin Ties■

Side-1
Changes
Down With Your Ship
Cold War
Alone In L.A.
What Ever Happened To Love
City Lights

Side-2
Love Is A Child
If It’s Love
Margarita
Ledges
When You Say Goodbye To Me

Produced by Stan Moeller with help from Branden and Lois
All Songs written by Stan Moeller

Stan Moeller : guitar and vocals
Phil Lucafo : lead guitar
Tony Griff : bass
Lois Mummaw : finger snaps

Goldfish Records GFR-001

Lydell

2007-02-20 | Christian Music
■Lydell / Wake Up Suddenly■

 前回に続いて、クリスチャン・ミュージックのアルバムを取り上げます。 今日の主人公の Lydell は作詞・作曲をいっさい行わないので、SSW とはいえません。 そこで、今日から Christian Music というジャンルを追加することにしました。 CCM (Contemporary Christian Music) にすると、1980 年代以降の AOR 風のサウンドをイメージしてしまうので、逢えてこのような表記にします。 それに伴って、過去に取り上げたアルバムもいくつか、このジャンルに登録変更を行っておきました。 

 さて、今日ご紹介するアルバムは、Lydell (本名は Lydell Feist )の 1976 年の作品。 おそらくはデビュー作だと思われます。 針葉樹の森の中に、映し出された Lydell の表情から推測するに、年齢はすでに 40 歳を超えているのではないかと思いますが、そんな Lydell の心温まるボーカルが全編にあふれるアルバムとなっています。 一部のアップテンポやカントリータッチの曲を除けば、ミディアムスロウで洗練され、品のいいサウンドが展開されています。
 なかでも、珠玉の名曲「On The Bank Of Lake Superior」がオープニングに控えており、そのことだけで名盤と躊躇なく呼びたくなります。 五大湖で最も大きな湖、スペリオル湖の湖畔にて、というタイトルも素敵ですが、この曲は素晴らしい音楽が時折垣間見せる奇跡ともいえる完成度です。 ジェントルで上品なメロディー、セルフコーラスのユニゾンとなる美しいサビ、シルクのようなストリングス、「Superior」を「♪すぺらいおーる♪」と優雅に発音するラスト…ついつい何度も繰り返して聴いてしまうこのような曲と出会った時こそ、レコード蒐集冥利につきる瞬間だと思います。
 
 他にも名曲が目白押しです。 今どきのカフェでかかっていそうなボサノバタッチの「Michelangero」や、美しいバラード「Just Believe」、「Small Girl」などが A 面では光ります。
 B 面も充実しており、とくに「God , A Woman & A Man」、「Cross Out No」、「Wake Up Suddenly」がお薦めです。 「God , A Woman & A Man」はピアノやストリングスを背景に、Lydell の繊細なボーカルが堪能でき、アルバムタイトルでもある「Wake Up Suddenly」はラストにふさわしい余韻を残してくれます。

 このように、このアルバムの魅力は Lydell の美声、美しいアレンジ、そしてクオリティの高い楽曲のトライアングルが高い打点で結びついているところなのですが、肝心のソングライターについて触れてきたいと思います。 名曲「On The Bank Of Lake Superior」、「Jesus Took My Troubles Away」、「Just Believe」、「There’s More To Jesus」の 4 曲が Steve Keck なる人物のペンによるもの。 残念ながら、この人物については情報を得ることができませんでした。 「Michelangero」と「Wake Up Suddenly」が、John Cowan によるもの。 彼もどのような人物なのか不明です。 これ以外の作曲者も、聞いたことのない人物ばかりなのですが、このような優れたソングライターが埋もれているというのもクリスチャン・ミュージックというジャンルの底の深さなのでしょう。

 気がつけば 2月も下旬。 日差しは伸び、春の足音が次第に聞こえてくる季節。 そんな静かな夜に、Lydell のレコードを聴くひとときは僕にとって最高の癒しなのです。

 

■Lydell / Wake Up Suddenly■

Side-1
On The Bank Of Lake Superior
Michelangero
Jesus Took My Troubles Away
Just Believe
Small Girl

Side-2
Count On Me
God , A Woman & A Man
There’s More To Jesus
Cross Out No
Wake Up Suddenly

Produced by Lydell Feist
Orchestration arranged and conducted by Billy Barber
Engineered by Paul Martinson and Scott Rivard
Recorded at Sound 80 Studio , Minneapolis , Minnesota

Lydell : all vocals
Steve Keck : acoustic guitars , background vocals
Larry Larson : acoustic guitars
Jimmy Johnson : bass guitar
Paul Nye : electric guitar
Billy Barber : fender Rhodes , background vocals
Gary Gauger : percussion
Bill Berg : precussion
Dave Carr : clavinetta , recorder
Cal Hand : pedal steel
Lonnie Knight : electric guitars

Golden Streets Music

David Malmberg

2007-02-18 | Christian Music
■David Malmberg / It Is Written■

 David Malmberg が 1980 年に発表したファーストアルバム。 自分の持っているクリスチャン系のアルバムのなかでも、とりわけその色が濃いアルバムです。 収録曲の半分以上が「Psalm」(聖歌)の何番というタイトルになっていることからもそのキリスト教色の強さが分かります。 以前、このブログで、Don Ferencz というミュージシャンのクリスチャン系アルバムを取り上げたことがありますが、そのアルバムも聖典に曲をつけて歌うというスタイルでした。 このようなスタイルのアルバムは意外に多いのかもしれませんね。

 そんなアルバムなのですが、David Malmberg のこの作品は、Michael Johnson の Sanskrit 盤にも通ずるような趣を持っています。 もちろん、Michael Johnson の方が上ですが、全編を通じてマイルドでメロウなボーカルと、クラシカルギターを中心としたなごみ系のサウンドが楽しめます。 それは、この作品がミネアポリスの Creation Audio や Sound 80 で制作されたことと無縁ではないでしょう。

 特にお薦めなのが、A 面の冒頭の 2曲、「Psalm 121」と「Psalm 23」で、ともに聖典からの詩に曲をつけたもの。 前者の方は、David Malmberg の曲のセンスが光る AOR テイストすら感じる曲。 後者は、Peter , Paul & Mary の Noel Stookey のペン及びアレンジによるものですが、クラシカルギターと清楚なフルートが心を浄化するような曲です。 この 2曲とも、「アーメン」で終わるのが共通点。 

 B 面は地味ながらも佳作が並んでいます。 幽玄なイメージの「Psalm 117」につづく、「Righteous Man」が特に秀逸です。 J.Fischer という人物の作曲によるしんみりしたバラードですが、この曲は暖炉のある部屋で薪の燃える音がパチパチしているような雰囲気にぴったりすると思います。 そんな妄想を抱かせてしまうような曲ということは、いい曲の証拠かもしれません。 

 さて、この David Malmberg の公式ページを見たら、意外な事実を知りました。 彼はなんと腹話術師として活躍していたのです。 Ventriloquist という単語を初めて見たのですが、その和訳が腹話術師だったのにはかなり驚きました。 しかも公式サイトには、実際に腹話術を演じる David Malmberg の動画も掲載されています。 興味のある方は覗いてみてください。
 その公式ページには、彼の音楽経歴があまり詳しく触れられていないのですが、彼はこのデビュー作を含めて 7 枚のアルバムを発表しているようです。 僕が持っているのはこのアルバムだけなのですが、徐々に宗教色が薄れていったのではないかと想像しています。 その過程の音を聴いてみたくなってきました。

 

■David Malmberg / It Is Written■

Side-1
Psalm 121
Psalm 23
Come Back O’Israel
Rejoice , Give Thanks
Sing Unto The Lord
Sel’ah (Amazing Grace)

Side-2
Psalm 93
Psalm 117
Righteous Man
Psalm 98
Psalm 100

This album is based upon the HOLY SCRIPUTURE and the other writings
Produced by David Malmberg
Engineered by Paul Martinson
Arranged and conducted by Henry Wiens

Recorded at Creation Audio
Strings recorded and mixed at Sound 80 Studio

David Malmberg : classic guitar and vocals
Perry Kallevig : electric bass
Henry Wiens : keyboards
Trudi Anderson : flute
Dan HAsen : electric guitar and banjo
Gary Gauger : percussion

Testament Music

Mirth

2007-02-13 | SSW
■Mirth / First Borne■

 1977 年にカナダからほぼ自主制作に近いマイナーレーベルから届けられたアルバムをご紹介します。 グループ名は、Mirth なのか First Borne なのかしばらく判らなかったのですが、CANOE のサイトを見て Mirth だということが判明しました。 この言葉は「歓喜」とか「陽気」、「浮かれ騒ぎ」といった意味のようですが、それにしては地味なジャケットですね。 メンバーは、男性 1人 David James Bowen に、女性 2人 Alison Reynolds に Pat Watson という構成です。

 アルバムは名曲と言えるナンバーや印象的な傑作がある一方、かなり凡庸だったり、興醒めしてしまう曲もあり、それがどちらかというと後半に寄っているので、このアルバムはどうしても曲を選んで聴きたくなってしまいます。
 印象的な曲を 4曲ピックアップしてみました。 この 4曲がいずれも全く異なる趣きである点がこのアルバムをひと言では表現しにくいものにしています。

 まずは、1 曲目の「Sometimes I Wonder」。 このアルバムから1曲と言われれば、迷わずにこの曲でしょう。 David James Bowen の手によるこの曲は、軽快なライトグルーヴ感が全面に漂う 今風の DJ 好みのサウンド。 シンセの音が安っぽいのが玉に瑕ですが、そんなところも包含して名曲と言えます。
 3 曲目の「Going Away」は一歩間違えれば凡庸なカントリーなのですが、メロディーが親しみやすく、曲を書いた Pat Watson の優しいボーカルも楽しめます。
 続いては、5 曲目の「Renaissance Man」です。 この曲は全編に渡って、プログレ調のシンセが主張し続ける曲。 1977 年にしては古めかしい音色なのですが、仰々しい展開や曲調は、別のアーティストの作品を聴いているのだという暗示をかけるとすんなり入ってきます。 曲調はまさに「Renaissance」を連想させます。 そう、あの英国プログレ界に君臨した Annie Haslam の「ルネッサンス」をモチーフにしているのかもしれません。 ちなみに、この曲は Pat Watson によるもの。

 B 面は凡庸な曲や意味のないインスト「Wanger」などでかなり辛いのですが、そのなかに 1曲光るのが、「Star Bound」です。 7 分を超える大作ですが、淡々とした曲調のなかにも 3部構成くらいの展開があり、前半はJames のボーカル、後半は女性陣へとメロディーやリズムも変化しながら進行していきます。 しかし、一貫したテーマは宇宙の神秘みたいなもので、ややスピリチャルな楽曲となっています。

 こうして、4 曲だけ振り返っても、そのサウンドはまったく整合性や統一感はありません。 彼らのデビュー作品にして、このようになってしまった理由は、3 人とも作曲能力があって、出来上がった曲をメンバーの間で平等にセレクトしてしまったからだと思います。
 3 人のなかで、Alison Reynolds の曲が僕には最も響きませんでした。 「Childhoods End」、「All The Hearts」、「Look To Your Soul」の 3曲ですが、ラストの「Look To Your Soul」は何とか標準的なのですが、他の 2曲はきついですね。 

 Mirth は結局のところ、このアルバムのみを残して消滅。 せめて James David Bowen だけでもソロ作品を残してもらいたかったと思いますが、ネットで検索したら今もなお、アマチュアらしき音楽活動を続けていることがわかりました。 そのページにはステージ上で二人の女性を従えた James の若き勇姿も載っています。 そしてその女性 2人は、間違いなく Alison Reynolds と Pat Watson でした。 Mirth の裏ジャケットと見比べればすぐに判ります。 
 こんな形で、Mirth の貴重なステージ写真を思いがけなく目の当たりにすることができるなんて、ネット世界の威力を痛切に感じました。 
 いったい、James David Bowen はどのような想いで、この写真を掲載したのでしょうか。 きっと、彼のなかでは、Mirth は今でも昨日のことのように息づいているのでしょう。

 

■Mirth / First Borne■

Side-1
Sometimes I Wonder
Childhoods End
Going Away
Pangong Lake
Renaissance Man

Side-2
All The Hearts
Star Bound
Wanger
Truckers Lament
Look To Your Soul

Mirth are Pat Watson , Alison Reynolds and David James Bowen ,

Produced by David James Watson and Gary J. Hayes
Engineered by Bob Lanois

David James Bowen : synthesizer , guitars , lead vocal
Alison Reynolds : cello , guitar , background vocal
Pat Watson: synthesizers , piano , lead and background vocal

Drums : Brent Dolson ,Jerome Jarvis , Bill Cymbala
Bass : John Blume , Bob Doydge , David Woodhead
Violin : Ed Stevens ,Garnet Rogers
Pedal Steel : Frank Barth
Percussions : Matt Zimbell
Background Vocals : Jude Johnson , Leslie Tench , Alison Asshole , El Paso Reynolds

Dapah Records MFB1

Jimmy Allen

2007-02-12 | SSW
■Jimmy Allen / The Ticket■

 昨年のブログで取り上げた Jeff Harrington が全面的に参加していることでもその筋には知られている Jimmy Allen のレコードを棚から引っ張ってきました。 そういえば、昨年は Jeff Harrington のアルバム 2 枚が紙ジャケット仕様で初 CD 化されたのですが、同じレーベルのこの作品は残念ながら CD 化されませんでした。 権利上の問題があったのか、最初からその予定が無かったのかはわかりませんが、そうした機会を逸すると、このアルバムがピックアップされるタイミングがなくなるような気がします。
 というのもこのアルバムは Jeff Harrington が主催するレーベル、Centerpiece Records からのリリースなのですが、僕はこのレーベルの作品を、Jeff Harrington とこの Jimmy Allen 以外では見たことがありません。 もしかして、このレーベルにアルバムは 3 枚しかないのでしょうか。 

 アルバムは暑苦しいヒゲ面ながらも優しい眼差しをした Jimmy Allen の表情が印象的です。 久し振りに聴いてみましたが、良質な曲が散りばめられており、しかも演奏面でのセンスや安定感もあり、納得できる内容の 1 枚だと思いました。
 なかには、「All Of The Ladies」や「Long Way To Heaven」のように個性の薄いカントリー・タッチの曲もあるのですが、ミディアムやスローな曲には Jimmy Allen のビターな渋みを感じ取ることができます。 特にお薦めなのが、「Remember When We Headed West」です。 個人的にはこの曲が一番の好みなのですが、Jeff Harrington のピアノの透明感、心の琴線に触れるコーラス、センス良くからみつくギターなどが、美しいメロディーをバックアップしています。 似たようなテイストとしては、「Asking Man」や「Take That Step」などもお薦めです。
 ピアノの弾き語りによるシンプルな「Move On」と「Best Friend」も同じカテゴリー。 特に後者は、エレピで参加している Jeff Harrington に対しての友情のメッセージを感じ取ることができます。 「I Don’t Want To Talk About It」は、Crazy Horse の Danny Whitten のペンによるあの名曲と同タイトルですが別の曲。 タイトルからしてしんみり調にならざるを得ないとは思いますが、この曲も2本のアコギによる繊細な曲です。 ラストの「Mist Of The Morning」はちょっと異色で、インスト指向が強いサウンドのなかにボーカルパートが漂いつつも同化しているようなイメージです。

 そんなこのアルバムは、1978 年の発表。 盟友 Jeff Harrington のセカンドアルバムは 1977 年のリリースですから、Jimmy Allen の方が 1 年遅いことになります。 このアルバムの裏ジャケットには、Jeff Harrington 本人のアルバムには無かった普段着の姿が映っていますが、その写真を見たときにはそのセンスの無さにがっかりしたことを覚えています。 Tシャツの裾をベルトなしのジーンズにしまいこむなんて。

 さて、主人公の Jimmy Allen ですが、どうやらこのアルバムだけが彼の作品となってしまったようです。 そう断言できる証拠を見つけることはできなかったのですが、このアルバム以降の活動の足跡を見つけることもできませんでした。

 

■Jimmy Allen / The Ticket■

Side-1
Move On
Bring Me Up
Remember When We Headed West
Take That Step
All Of The Ladies

Side-2
Long Way To Heaven
Asking Man
I Don’t Want To Talk About It
Best Friend
Mist Of The Morning

Produced by Jeff Harrington and Jimmy Allen
Recorded at Mixed Creation Audio Recording , Bloomington , MN
Mastered at Sound 80 Minneapolis , MN

Jimmy Allen : piano , vocals , acoustic guitars
Michael McElarth : acoustic guitars , electric guitar , vocals
Jeff Harrington : piano , synthesizer , electric piano , vocals
Dan Lund : electric guitar , pedal steel
Terry Grant : bass
Ernie Lavoiolette : drums
Kenny Horst : gong
Kristin Erickson : vocals

Centerpiece Records C-2525

Joey Gregorash

2007-02-05 | SSW
■Joey Gregorash / Tell The People■

 Joey Gregorash のセカンドアルバムは、ライブアルバムなのかと思わせるようなジャケット。 1973 年の作品なので、Joey はまだ 24 歳前後。 にしては貫禄があるというか老けているという風貌です。 このセカンド「Tell The People」はこの安易なデザインもあって、あまり知られていないし評価されていないようなのですが、実は「North Country Funk」よりも内容は上ではないかと思います。

 その理由はいくつかあるのですが、まず第一にボーカルが上手くなっている点があります。 前作では奮闘しているもののまだどこか足りないものを感じましたが、このセカンドでは伸びる声質や柔らかい表現力を身につけているという印象を持ちます。 第二に、楽曲の傾向にバラつきが少なく、統一感が出ていることがあります。 なかでもミディアムやスローな楽曲には聴かせる曲が多いですね。

 ヒット狙いのポップソング「My Love Sings」は、トップ 10 ヒットの夢よ再び、という気持ちが込められています。 日本の GS、あるいは 70 年代中盤の UKニッチポップみたいな「The Time Is Right」も捨てがたい。 Paul Cannon のギター・ソロが泣ける「Won’t Be Home Anymore」、Joey Gregorash の表現力が見事な「For The Last Time」などA面はかなりの粒ぞろいです。 4 曲目に収録された「Down By The River」は、「North Country Funk」にも収録された Neil Young のカバーですが、こちらは 4分に満たないバージョンが収録されています。 おそらく、シングルバージョンなのだと思いますが、全くの別テイクでこのアルバムのために再録したというものではなさそうです。

 B 面は、A 面に比べてやや劣るという印象ですが、「You’ve Got Company」で見せるリラックスした Joey Gregorash の伸びやかなボーカルは魅力的。 ラストの「Tell The People」を聴いていると全盛期の「アリス」を思い出してしまいます。 イントロのギターソロが「遠くで汽笛を聞きながら」に酷似していることや独特のアレンジに共通したものを感じてしまうからでしょう。 個人的には「I Don’t Believe (My Mind Can Stand Much More)」が B 面では最もお気に入り。 静かなギターのアルペジオから次第にコーラスなどで音が厚くなり、サビへと流れていく予定調和なバラードなのですが、後半のコーラスのリピートからフェードアウトのあたりは、アメリカというよりは UK ロックの王道的な展開に近いものを感じます。

 アルバムは「Down By The River」だけが、前作と同じ時期のレコーディングで 1971 年の録音、他の曲は 1972 年ですが、「Won’t Be Home Anymore」、「You’ve Got Company」と「I Don’t Believe (My Mind Can Stand Much More)」の 3曲が 1973 年の録音となっています。 こうしてアルバムを通して聴くと、無理して「Down By The River」を入れなければ良かったと思いますね。 商業的な意図はあったのでしょうが、この「Tell The People」の空気感を印象付けているのは、Paul Cannon のギターだと思いますし、それは Bobby Manuel のギターとは全く趣を異にしているので、むしろ違和感を覚えてしまいます。

 Joey Gregorash は CANOE のページによると、この作品以降、数枚のシングルを出したもののアルバムが出ることはありませんでした。 1987 年にアルバムが出ていますが、どうやら企画物のようです。

 夢を持って、メンフィスへと何度も足を運び、夢が叶い 20 代前半で2 枚のアルバムを発表したわりに、彼はあまりにもあっけなくシーンから消えてしまいました。 そこには様々な要因があったのだろうと思いますが、個人的にはデビューが早すぎたが故の結果だったのではないかと考えています。 もう少し音楽的に熟成し、25 歳くらいでデビューしていれば、違った展開になったのではないでしょうか。

<追記>
 Joey Gregorash は、このアルバムでは、Joey Gregrash と o が抜けた表記となっています。 これは印刷ミスではなく、表記の変更だと思われるのですが、現在の彼の公式ページなどでも、Joey Gregorash と o が入ったスペルになっていますので、このブログにおいても人物の同一性を鑑み、Joey Gregorash と表記しています。

 
 
■Joey Gregorash / Tell The People■

Side-1
My Love Sings
The Time Is Right
Won’t Be Home Anymore
Down By The River
Take The Blindness
For The Last Time

Side-2
You’ve Got Company
Another Part Of Life
I Don’t Believe (My Mind Can Stand Much More)
Bye Bye Love
Tell The People

Produced by Ron Capone
Recorded at STAX Recording Studios , Memphis , Tennessee


David Beaver : vocals on ‘time Is Right’, moog on ‘My Love Sings’
Dick Bortolussi : drums
Paul Cannon : guitar on ‘Tell The People’ , ‘For The Last Time’ , ‘Take The Blindness’ , ‘My Love Sings’
Ron Capone : crackers
Steve Cropper : for the ‘chicks’
Sarah Fulcher : bacnground vocals on‘Take The Blindness’
Joey Gregorash : Rhythm , lead vocals , piano , harmony
Dick Hedlund : bass guitar
Bobby Manuel : guitar on ‘Down By The River’
David Bossa Nova Baby Mayo : vocals on ‘Time Is Right’ , guitar on ‘Won’t Be home Anymore’
Ron Risko : harmony arrangements , rhythm , lead guitar , six-strings sitar
Bobby Sabbellico : guitar on ‘Time Is Right’ , ‘Another Part Of Life’, steel guitar on ‘I Don’t Believe’
Marvel Thomas : keyboards on ‘Won’t Be home Anymore’

Polydor 2424 066

Joey Gregorash

2007-02-04 | SSW
■Joey Gregorash / North Country Funk■

 暖冬とは言え、2 月初旬は、1 年で最も寒い季節。 今日はそんな真冬にちなんで、1971 年に届けられた Joey Gregorash のデビューアルバム、その名も「North Country Funk」を取り上げます。 雪原に立つコート姿の男、冷たい風にゆがむ表情、暖かそうなコートの質感、そんなジャケットがお気に入りのアルバムです。
 Joey Gregorash はウィニペグ州出身で、20 歳のときにポリドールと契約し、このアルバムを制作しているときは弱冠 21 歳だったということで、この渋いアルバムジャケットに写る Joey Gregorash がそんなに若かったとは驚きです。

 このアルバムは血気盛んな Joey Gregorash が、単身でメンフィスに乗り込み、ソウルの名門 STAX で現地のミュージシャンと 14 週間でレコーディングした作品です。 そんなこともあってカナダ的な繊細な SSW 作品というよりも、スワンプ系によった内容になっています。 とはいえ、Joey Gregorash のボーカルも若々しく深みのある表現力は身についていませんし、バックの演奏もゴツゴツした骨太感を出しているわけでもありません。 ということもあって、耳に残るのは意外にもキャッチーでシンプルなポップソングです。 なかでもカナダではトップ 10 ヒットとなった「Jodie」と「Don’t Let Your Pride Get You Girl」は、売れ線のポップチューン。 特に「Don’t Let Your Pride Get You Girl」は個人的にかなりお気に入りです。 この 2作はともに、Gregorash と Lampe の共作としてクレジットされていますが、この Lampe なる人物は、Norman Lampe という彼の友人のようです。 以前、ブログで取り上げた Nicholas Lampe なのかも、と思っていましたが違いました。 他にもポップな「Sugar Ride」や「Dollar Bill」は聴きやすさ満点です。 

 R&B テイストなミディアム「Bye Bye Baby」、キーボードソロが唸りをあげ、まさに南部らしいスワンピーな「Night Ride To Memphis」、初期のイギリスのパブロックに近いテイストの「Make A Better Place」などがこのアルバムらしさを表している曲なのですが、やはりアルバムのハイライトは Neil Young のカバー「Down By The River」でしょう。 この曲がアルバム中唯一のカバー曲ですが、5分を超える力作になっています。 中盤から後半にかけての Bob Sabellico と Bobby Manuel のギターの掛け合いはかなりの名演でしょう。 ちなみに、Bob Sabellico は公式ページにもあるように現在も活発に活動しているギタリスト兼作曲家。 いっぽうの Bobby Manuel は 1973 年に Booker T. & The M.G’sに在籍したことがあるようです。

 Joey Gregorash の近況を調べようとネットで検索したところ、 プロデューサー的な仕事をしている様子でした。 さすがに「North Country Funk」から 35 年以上の月日が流れており、精悍な顔立ちだった若者もすっかり熟年になっていましたが、ドットCA というアドレスからも感じられるように、生粋のウィニペグ人としての誇りを持ちながら音楽業界に身をおきつづけている様子です。

 


■Joey Gregorash / North Country Funk■

Side-1
Jodie
Down By The River
Night Ride To Memphis
Make A Better Place
The Key

Side-2
Don’t Let Your Pride Get You Girl
Freedom Means Love
Bye Bye Baby
Sugar Ride
Dollar Bill

Produced by Ron Capone
Recorded January and May 1971 at STAX Recording Studios , Memphis , Tennessee

Joey Gregorash : vocal , harmony
Ron Risko : rhythm , harmony
Dick Bortolucci : drums , congas
Dick Hedlund : bass , harmony
Bob Sabellico : lead guitar
Bobby Manuel : lead guitar
Marvelle Thomas : keyboards

Polydor 2424 025