Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

桐ヶ谷俊博

2011-10-23 | Japan
■桐ヶ谷俊博 / 秋・あなたに■

  秋・・・いくつかのハーフトーンの中に すんだハイトーンが映える。

  これはレコードの帯に書かれたキャッチコピー。 紅葉が徐々に始まりだしたこの季節にぴったりなアルバムを取り出してみました。 桐ヶ谷俊博が 1979 年、22 歳のときに発表した唯一のアルバムです。 桐ヶ谷俊博は、当時すでにデビューしていた桐ヶ谷仁の弟。同時代の松任谷由実のアルバムに Buzz の二人とともにコーラスでクレジットされていることでも知られています。 
  そんな桐ヶ谷俊博の最大の魅力はキャッチコピーにもあるとおりのハイトーンボイスです。 その声は小田和正でもなく細坪基佳でもない繊細さと気品高さを兼ね備えており、国立音大で学んだというプロフィールからか、クラシカルな佇まいも感じさせます。 その彼の声が唯一味わえるのこの「秋・あなたに」なのです。

   アルバムは何と言ってもシングルとなった「ひとりで海に」の素晴らしさに圧倒されます。 ♪ひとみをとじてしまえば~♪で始まるサビのスケール感とセンチメンタリズムは弱冠22歳の男子が作り出したものとは思えません。もちろん全編にわたってアレンジを行った後藤次利のサポートがあってのサウンドだとは思いますが、この曲だけでもこのアルバムを持っている意味があります。 動画サイトで検索すると出てきますので、興味あるかたはチェックしてみてください。 A 面の次点は純粋さが前面に出たワルツ「手紙」でしょう。 「立ち話」はアップな曲調が彼の声に合わない気がしますし、「夢」のような和風な作品は「ふきのとう」に軍配があがります。 「大人になると」はスタジオ・ミュージシャンがちょっと出しゃばりすぎでしょう。
  B 面は、リラックスした気分の「パリアッチョ(道化師)」でスタート。 爽やかなポップ感が個人的には気に入っています。 以降もクオリティーの高い曲が並び、流れとしてはA面よりもスムースです。 当時のシティ・ポップス感あふれる「改札口」、ピアノをバックにしたシンプルなバラード「夢多き旅人よ」、一転してギターのみの「おやすみ」もゆったりしたワルツ。 兄の桐ヶ谷仁的なワールドです。 そしてラストの「秋・あなたに」へ。 この曲が「ひとりで海に」に優るとも劣らない素晴らしさです。 アルバムのラストに相応しいメランコリックなイントロ&アウトロ、そして秋のうろこ雲を見上げているかのような壮大なメロディーは、完ぺきに近い楽曲となりました。 欲を言えば、サビをもう一度リピートしてほしかったところですが、それはリスナーの勝手なわがままでしょう。 「ひとりで海に」とともに、この曲は布施明などの歌唱力のあるシンガーにカバーしてもおかしくありません。 

   桐ヶ谷仁のオリジナルアルバムは、4枚目の「バーミリオン」以外は CD 化されましたが、このアルバムは未だに CD 化されていません。 「ひとりで海に」や「秋・あなたに」を秋の海辺で聴いて、その世界にどっぷり浸かっみたいので、早く CD になって欲しいものです。

  ♪うなずくだけのやさしさと秋をあなたに返して閉じる♪  ~ 「秋・あなたに」

■桐ヶ谷俊博 / 秋・あなたに■

Side 1
ひとりで海に
立ち話
手紙

大人になると

Side 2
パリアッチョ(道化師)
改札口
夢多き旅人よ
おやすみ
秋・あなたに

Produced by 末弘厳彦
Directed by 木崎純久
Arranger by 後藤次利

Electric guitar : 松原正樹、土方隆行
Acoustic guitar : 笛吹利明
Bass : 後藤次利
Keyboard : 佐藤準、田代真紀子、桐ヶ谷俊博
Drums : 林立夫、田中清司
Latin : 斉藤伸、穴井忠臣
Harmonica : 八木伸郎
Horns : Jake H. Concepcion、斉藤清、衛藤幸雄、数原晋、新井淑之
Percussion : 渋井博
Strings : 加藤グループ
Chorus : 岡崎広志、尾形道子、伊集加代子、門司肇、桐ヶ谷俊博

SMS Records SM-25-5039

Stone House

2011-10-02 | SSW
■Stone House / New Again■

  いよいよ 10 月ということで秋らしいジャケットの作品を取り上げました。 シアトル出身の男女デュオ Stone House が 1978 年に発表したアルバムです。 Stone House はすべての作曲、多彩な楽器とボーカルを手掛ける Mark Brown と Kathy Hundley によるグループ。 アコースティックなサウンドをベースに、二人の伸びやかなボーカルと息の合ったコーラスが堪能できる等身大のナチュラルさが最大の特徴です。 ちょうどジャケットのような草原に佇んでいるかのような清々しさと、心の翳りを投影するような物憂げな感覚とが絶妙に交錯しながら、アルバム全体の色彩感が保たれているという印象です。

  美しいピアノのイントロに導かれた「Those Days」は、KathyとMark が交互にボーカルを務め、次第に重なっていくという展開が見事なバラード。 Tom Sparks による天に駆け昇るようなギターも魅力です。 つづく「Tangled」はギターを軸としたカントリー・タッチの曲。 「Michigans」はピアノとヴァイオリン、そして透明感あるギターの音色が絡み合って、夕暮れのうろこ雲をみているような気分にさせられます。 Mark がひとりで歌いきることで、雄々しくも淋しげな情景を描き切っていました。 アレンジがジャズっぽい「Blue Day」につづく「But Love Me」は、Kathy の独壇場というバラード。 彼女のアルト・ボイスが全編に広がり、ちょうど「Michigans」と対の存在のように感じられました。

  B 面に移りましょう。 「Bless My Soul」は Kathy と Mark のハーモニーが緩急自在に展開される表情豊かな楽曲。 アレンジも素晴らしく、Stone House の典型的なサウンドとして紹介できる仕上がりです。 つづく「Make It New Again」は、リリカルなピアノに Kathy のアルトが重なり、美しいメロディーが奏でられる気品あふれる佇まい。 クリスチャン・ミュージックのような「Father」は Muriel Saunders のヴァイオリンとピアノの間奏部分が聴きどころ。 静寂が打ち破られギターが激しく刻まれ「Denver」へ。 この曲は個人的には今一つですが、つづく「Fallin’ Star」はラストに相応しいスケール感と美しいハーモニーに満たされた楽曲です。 これぞStone House という楽曲でしょう。 彼らが表層的な情緒指向に陥らないのは、ふたりの低音の魅力だということをここで再認識することができました。 
  このようなアコースティックなサウンドを奏でた Mark Brown と Kathy Hundley ですが、どうして Stone House というハードロック・バンドみたいな名前にしたのでしょうか。 その理由は判りませんが、ちょっと勿体ないという印象は否めません。

  さて、このアルバムには 1980 年に AOR の名盤といわれる「Rain Or Shine」を発表した Dave Raynor が参加しています。 当時のシアトル人脈だと思いますが、彼のファンであれば要チェックですね。 もちろん彼のソロ作品を期待してはいけませんが。

■Stone House / New Again■

Side-1
Those Days
Tangled
Michigans
Blue Day
But Love Me

Side-2
Bless My Soul
Make It New Again
Father
Denver
Fallin’ Star

Produced by Mark Brown and Kathy Hundley
Engineered by Jim Wolfe and Cal Wood
All Songs by Mark Brown

Kathy Hundley : vocals
Mark Brown : piano, acoustic guitar, organ, vocals
Garrett Smith : bass
Martin Lund : sax, flute, clarinet
Dave Raynor : electric guitar
Tom Sparks : electric guitar on ‘Those Days’
Muriel Saunders : violin on ‘Father’
Rob Shaw : violin on ‘Michigan’

Windmill Records WM 8447