Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

Steve Weichert

2008-11-29 | SSW
■Steve Weichert / Steve Weichert and The Five Dollar Band■

  マイナーレーベルの作品には品番 1001 を与えられたアルバムが多く存在しますが、今日取り上げた Steve Weichert のデビュー作もその一つです。 1974 年にテキサス州とオクラホマ州でレコーディングされ、翌 1975 年に無名のレーベル Barky Records からリリースされました。 
  Steve Weichert は地元テキサスを離れずに今も現役で活動しているシンガーソングライター。 公式サイトに載っているすっかり白髪になってしまった彼の風貌と、このアルバムのジャケットに描かれているイラストの表情を見比べると、顔の輪郭や目の周りなどに共通点を感じることができました。

  そんな Steve Weichert はオクラホマ大学に在学していた 1960 年代後半からバンド活動をしていました。 CSN&Y のフォロワー的な音楽を演奏していたようですが、たしかにこのアルバムからはその影響を感じます。 ギターを中心としたメロウなアレンジ、美しいハーモニー、繊細で温かみにあるボーカルが交じり合ったサウンドはローカル産のレコードとは思えない完成度の高さを見せています。 ライトタッチでメロウなアコースティック・ギターが印象的な「Stranded」、淡々とした弾き語りの「Lady Luck」、手触り感覚のバラード「High Plains Drifter」など、アルバムは聴き手の部屋の空気を優しく包み込んでいきます。 他の曲も含めて、クオリティの高い A 面のなかでもとくに秀逸なのが「Spinnin’ Round」です。 音楽による究極の和みもしくは魂の救済といった領域が見え隠れする、そんな楽曲です。

  ほぼ完璧な A 面に対して、B 面は少し表情が変わってきます。 6 曲中 4 曲が A 面には無かったオクラホマ録音ということも影響していると思いますが、全体的にスワンプ色が出てきているのです。 唯一サックスやエレピが入った「My Sweet Germane」は二日酔いのような気だるさを感じる異色な曲。 Steve Weichert 単独の弾き語り「Blonde Over Blue」につづく「I Keep Wonderin’」はついに R&B 色が表れてきます。 明らかに A 面とは異なる展開にとまどうのですが、ここからの 3 曲で持ち直してきます。 「Lovely Lady」で Steve Weichert 本来のメロウ感を取り戻し、AOR 前夜のサウンドに近いコーラスを聴かせる「Storm」で再びアルバムは本来の世界に舞い戻ります。 ラストの「Wind It Up」はメランコリックなハープと、CSN&Y ばりのコーラスが切ない心象風景を見事に描ききっています。 全 12 曲の中でこの曲をラストに添えたセンスはさすがです。

  こうしてアルバムを聴いてみると、そのクオリティの高さを再認識しました。 アメリカ南部の SSW 作品とは思えない透明感と繊細さが同居しており、B 面の前半を除いては、スワンプの匂いが全くしないところも特徴と言えるでしょう。 ギターとボーカルとコーラスという最低限の要素をみごとに昇華させたサウンドは、Steve Weichert の才能がデビュー作から開花したことを示しています。 
  Steve Weichert は公式ページによると、「Oklahoma Bossa Nova」(1979年)、「If You’re Ever Been In Love」(1984年)、「Abide By The Light」(1994年)、そして 2003 年の最新作「between the Lines」まで計 5 枚のオリジナル・アルバムを発表しています。 最近では 10 年に 1 枚という寡作ぶりですが、soulful folk ballads with a jazz twistと評される彼のサウンドは、きっとこの 5 枚の作品に渡って貫かれているのでしょう。



■Steve Weichert / Steve Weichert and The Five Dollar Band■

Side-1
Stranded
Lady Luck
High Plains Drifter
Blue Bandanna
Wellin’ Time
Spinnin’ Round

Side-2
My Sweet Germane *
Blonde Over Blue
I Keep Wonderin’ *
Lovely Lady
Storm *
Wind It Up *

Produced by Steve Weichert for Barky Productions
Recorded and Mixed at Odyssey Sound LTD, Austin Texas
* Recorded at Nightfire, Inc. Norman, Oklahoma

Steve Weichert and The Five Dollar Band: Jay Gabbard, Lambert Phillips and David Teaff

Steve Weichert : all lead vocals, acoustic guitar,
Jay Gabbard : electric guitar, classical guitar, sax, cello, mandolin
Lambert Phillips : bass, backup vocals
David Teaff : backup vocals , harp, harmonica

Steve Grunder : electric piano
Tomas Ramirez : soprano sax

Arrangements by Steve and Jay

Barky Records SW 1001

Ruth Bebermeyer

2008-11-23 | SSW
■Ruth Bebermeyer / The First Steps And The Last Steps■

  目眩がしそうなほどチープで意味不明なジャケットに戸惑いを覚えるアルバムを取り出しました。 女性フォークシンガーの Ruth Bebermeyer が 1971 年に発表した私的な作品です。 ミズーリ州のセント・ルイスでレコーディングされたこの作品に大きく関与しているのが Community Psychological Consultants という組織。 文字通りに解釈すれば、心理学コンサルタントの団体ということなのですが、この組織が何の目的で設立され活動しているのかはわかりません。 たとえ、それを知ったとしても音楽の評価とは無関係なのですが、彼女もこの組織の一員でもあり、この組織を背景に数枚のレコードを発表していることから、気になってしまうのです。 特にこの漠然とした名称には、宗教団体の気配すら感じます。

  前置きはさておいて、レコードの中身について触れていきましょう。 アルバムは全曲が Ruth Bebermeyer によるギターの弾き語りとなっています。 数曲で Steve Mote がサポートしているようですが、モノラル・レコーディングということもあって、どの曲でどのくらいサポートしているかは判別できません。 A 面は 6 曲と曲数が多いのですが、30 秒くらいで終わる「In Self-Defense」のような曲もあるので、トータルが長く感じることはありません。 しかし他の曲もテンポが近く、アレンジやメロディーも差別化が難しいのでどれも同じように聴こえてしまいます。 ただ明確に違いを感じるのはボーカルの歌い方とミックスの差です。 冒頭の「The First Steps And The Last Steps」では陰鬱な感じで奥まって聴こえるボーカルも、続く「If I Feel I Ought To Promise」では前面に出てポジティブな印象に変わってくるという具合です。 つづく「The Length Of Love」、「I Caught A Glimpse Of Truth Today」も陰と陽となっており、コミュニティの活動を音楽で表現しているかのようです。 そんななか「Helpless」は珍しく癒しを感じさせてくれます。

  B 面に移るとアルバムは独特の暗さが薄れ始め、徐々に快方に向かっているような展開となります。 「Third-Person World」、「Dark, Dark Room」と淡々としつつ芯のはっきりした曲が並び、 60 年代のフォークのような「When I Feel I Have To Prove My Love」ではサポートの Steve Mote の存在を確認することができます。 リラックスした雰囲気の「The Label Game」や「I Give You Need」では、クリスチャン・ミュージックのような和みすら感じるようになるから不思議です。 それは、アルバムに耳が慣れたことに加え、モノラル録音の持つ魔力なのかもしれません。 そしてラストの「It’s A Long Road To Love」では力強いメッセージ性すら伝わってきて、手ごたえのある作品であるかのように感じてしまいます。 たしかに、ラストの楽曲がアルバムの中で最もポップで覚えやすいメロディーとなっており、曲順で得をしているとは思います。

  この無名のフォークシンガー Ruth Bebermeyer の音楽は万人にお薦めできるようなものではありません。 しかし、1960 年代の女性フォークシンガーが好きな方で、清楚なソプラノではなく、太めのアルト・ボイスが好みの方には気に入ってもらえるかもしれません。 曲のクオリティにムラがあり、インパクトも弱いのですが、全体の佇まいの危うさ自体が好きになれる方には格好の作品でしょう。 僕自身も、機会があったら他の作品も手にしてみたいと思うようになってきました。 



■Ruth Bebermeyer / The First Steps And The Last Steps■

Side-1
The First Steps And The Last Steps
If I Feel I Ought To Promise
The Length Of Love
I Caught A Glimpse Of Truth Today
Helpless
In Self-Defense

Side-2
Third-Person World
Dark, Dark Room
When I Feel I Have To Prove My Love
The Label Game
I Give You Need
It’s A Long Road To Love

Produced by Community Psychological Consultants, Inc.
Front Cover Design by Dot Schneider
Photography by Bob Schneider
Recorded at Technisonic Studios, Inc. St.Louis, Mo.
Words and Music for songs on this and other album by Ruth Bebermeyer

Ruth Bebermeyer : voices and guitar
Assisted by Steve Mote , guitar

MK-47-234

Charles Browning

2008-11-15 | SSW
■Charles Browning / A Choirboy’s Lament■

  「翼ジャケット特集」の最終回は、Emmylou Harris がコーラスで参加していることで知られている Charles Browning のアルバム。 彼が 1976年に発表した作品です。 翼は翼でも、ここで描かれているのは鳥ではなく天使の翼。 ひとつひとつの羽根が丁寧に描かれており、前回、前々回に引けをとらないものだと思っています。 ちなみに、この絵を描いたのは Charles Browning の奥さんではないかと思われる Lani Browningです。

  さて、このアルバムはワシントン DC でレコーディングされたもので、確かに東海岸というよりはアパラチア周辺の香りのするアルバムになっています。 1 曲ですがダルシマーが使われていることもあり、そのようなイメージに聴こえるのかもしれません。 全 9 曲のうち 3 曲がインストゥルメンタルということもあって、内容はかなり地味なものになっています。

  では、まず Emmylou Harris が参加した 2 曲、A-2の「Take A Train」とラストの「Go Tell Aunt Rhody」から触れていきましょう。 「Take A Train」はフィドルとハーモニウムが陰鬱なトーンを演出しながらも後半の Emmylou Harris のコーラスが、色彩を取り戻すかのように響くミディアム。 アルバムのなかでも存在感の大きな楽曲です。このアルバムでの Emmylou Harris は、ジャケットの天使が抱えている真紅のバラのよう存在なのでしょう。 セピア色のなかに、彼女だけに色彩が許可されているかのようです。 
  ラストの「Go Tell Aunt Rhody」は Charles Browning、Julianne Wae とEmmylou の 3 人によるアカペラ・コーラス。 3 人のナチュラルな声が微妙な震えとなって心に届いてきます。 活発に活動していた 1970 年代の Emmylou Harris がどのような人脈で無名の Charles Browning と知り合ったのかは分かりませんが、この 2 曲はたしかにアルバムの核となる楽曲だと思います。
  しかし、個人的なベストトラックは、アルバムタイトルの「A Choirboy’s Lament」です。 歌詞の内容はわかりませんが、郷愁感漂う演奏と切ないボーカルが溶け合った見事な楽曲に仕上がっています。 ボーカルの入っている曲としては、前向きな姿勢が伝わってくる「The School At Laughing Waters」、ハワイアンのような雰囲気の温かな「Blue-eyed And Foolish」が標準的な出来でしょう。  トラディショナルみたいな雰囲気の渋いナンバー「Cod’ine」は重々しさに加え、エフェクティブなシンセが駆け巡るのですが、正直この曲は僕につらいです。
  残る「Dopico」、「Walkin’ To Glasgow」、「Yer Grandfather’s Guestroom」はインストですが、お勧めはダルシマーも加わった穏やかな「Yer Grandfather’s Guestroom」です。

  Sounds Reasonable Inc. という無名のレーベルからリリースされたこのアルバムは、セピア色のジャケットとざらっとした手触りもあって、大切に聴き続けたい作品ではあります。 しかし、この時代に生まれた多くの名作に匹敵する内容ではなく、名盤や傑作と呼ぶことは出来ません。  三ツ星評価で言えば、「星ひとつ半」というのが正直なところですが、「天使の翼」がもたらす魔力が多くの人を惑わしてしまう…そんなアルバムなのでしょう。



■Charles Browning / A Choirboy’s Lament■

Side-1
Dopico
Take A Train
Walkin’ To Glasgow
Cod’ine

Side-2
A Choirboy’s Lament
Blue-eyed And Foolish
Yer Grandfather’s Guestroom
The School At Laughing Waters
Go Tell Aunt Rhody

Initial recording sessions produced and arranged by Gary Burke

Recorded at Sounds Reasonable, Inc. Washington D.C.
Cover concept and art by Lani Browning

Charles Browning : 12 string guitar, 6 string guitar, dulcimer, del vecchio guitar
Mac Cridlin : fretless bass
Brian Silber : fiddle
Mike Auldridge : dobro
Scott Moyer : drums, congas, tablas
Gary Burke : piano, harmonium, synthesizer, tubular bells, sandpaper blocks, washtub bass
Johnny Rosen : cymbals
Jimmy Hopps : additional percussion
Emmylou Harris : harmony vocals
Julianne Wae : harmony vocals

A Sounds Reasonable, Inc. Production
SRI-83319-76

Ed Kilbourne

2008-11-10 | SSW
■Ed Kilbourne / Wave To The Eagle■

  「翼ジャケット特集」の第 2 回は、クリスチャン系シンガーソングライターの Ed Kilbourne のアルバムです。 Ed Kilbourne に関しては、ブックマークさせていただいているサイト「S.O.N.G.S」にて、「Children Of My Mind(’77)」「Missionary(’74)」という 2 枚のアルバムが紹介されていますので、是非ともご参照ください。 この「Wave To The Eagle」はその 2 枚と同じ Airborn Records からのリリースですので、1970 年代中期の作品だと思われますが、レコードのどこを見ても年度表記がないために、正確なことはわかりません。 いずれにしても Ed Kilbourne の長いキャリアの中ではかなり初期のレコーディングであることは間違い無さそうです。

  このレコードのクレジットを見て、まず目を引くのが「You’ve Got A Friend」のカバーです。 James Taylor のカバーで全米を席巻したこの曲を、わざわざ選曲するのはそれなりの理由があったとは思いますが、メジャーすぎて違和感を覚えてしまいます。 実際のカバーは歌い出しに独自の歌詞とメロディーが挿入されているので、最初は違う曲かと耳を疑いました。 それはまさに、森進一の「おふくろさん」問題と同じ現象なのです。 作曲者表記も、Carole King ではなく Carol King とありがちな誤記をしているので、問題にならなかったのかと余計な心配をしてしまうほどです。

  アルバムのサウンドは、ほとんどがギターもしくはピアノの弾き語りに若干の味つけをした程度のシンプルなもの。 個人的にはミディアムやスロウな曲に良さを見出していますし、さらに言えば数少ないピアノ系の楽曲のほうが魅力的に響いています。 とくにアルバムで最も好きなタイトル・トラック「Wave To The Eagle」には、この曲だけを聴きたくなるような魔力を感じます。 あまり上手ではないピアノの弾き語りなのですが、音色も曇りのあるエコーを効かせており、それをバックに妙に弱々しく歌うボーカルがマッチして独特の味わいを見せる様は「素晴らしい」のひと言です。 つづく「Why Am I Afraid」も落ち着きのあるバラード。 ボーカルは柔和な表情を見せ、ギターの音色はあくまでも控えめに押さえているあたりの意図が奏功しています。 ちなみに、この 2 曲はアルバムのオープニングを飾っていますが、3 曲しかない Ed Kilbourne のオリジナルの 2 曲であることも注目です。
  この他では、「I Don’t Know How To Love Him」、「People」そして「Poem For My Little Lady」といったバラードが個人的にはお気に入りです。 
  アップなナンバーは比較的カントリーよりのサウンドで、John Hartford の「Stream Powered Aeroplane」や Tom Paxton の「Forest Lawn」といったカバーが主体となっています。 唯一の自作「Walden’s Pond」は、最も力強くポジティブな印象です。

  こうしてアルバムは緩急を絡ませながら、淡々としたテンポで進んでいくのですが、曲によって異なる表情を見せすぎているようにも思えます。 また、クリスチャン系のミュージシャンでありながらも、まだその色は濃く出ていないために、Jesus とか Lord という言葉が繰り返されることもありません。 ですから、このアルバムは SSW アルバムとしてカテゴライズすることにしました。 
  僕はこのアルバムのオープニング「Wave To The Eagle」を初めて聴いたときに過剰に期待してしまい、その反動で B 面の印象などは覚えてもいなかったのですが、こうして改めてアルバムを聴くと、やはり A 面にいい曲が偏っていることは否めませんでした。 Ed Kilbourne の他の作品は聴いたことがありませんが、このアルバムに対する個人的な評価があと一歩で惜しいだけに、他のアルバムにも早く出会いたいと思っています。



■Ed Kilbourne / Wave To The Eagle■

Side-1
Wave To The Eagle
Why Am I Afraid
Walden’s Pond
I Don’t Know How To Love Him
You’ve Got A Friend

Side-2
Stream Powered Aeroplane
People
Forest Lawn
Poem For My Little Lady
Rubber Ducky
Last Lonely Eagle

Produced by Ron Moore and Ed Kilbourne

Ed Kilbourne : vocals, guitar and piano
Ron Moore : guitar, side vocals and knees

Album Design , concept and sketch : Ed Kilbourne
Photography : Ron Moore

Airborn Records

James Berthrong

2008-11-06 | SSW
■James Berthrong / Carrying A Friend■

  今日からは 3 回に渡って「翼ジャケット特集」です。 ジャケットに翼が描かれているアルバムを 3 枚続けて取り上げるだけなのですが、自分的にはかなりいい企画だと盛り上がっていますのでお付き合いください。
  さて、その第 1 回目は 1978 年にモンタナ州から届けられた James Berthrong のアルバムです。 モンタナ州というと大都市もなく荒涼としたイメージを思い浮かべてしまいます。 早めの冬支度をした暖炉のような心温まる SSW を多く輩出しそうな印象もありますが、いま思いつくのは彼だけです。 他にどんなアーティストがいたか、思い出せません。
  そんな James Berthrong のアルバムは、ロッキーに囲まれた大自然の空気感を閉じ込めたシンプルで心やすまる名盤となっています。 アルバムは全 7 曲と少ないのですが、ひとつひとつの曲が丹念に制作されたことが、真っ直ぐに伝わってきます。 とくに、切なさの募るハーモニカの音色がこの種の音楽の最良のシーンを演出する場面には、心が揺さぶられるのです。 

  と言いつつ、そのハーモニカは、1 曲目から 3 曲目でしか聴くことができません。 「Porchlight Blues」と「Exchange The Sight For The Sound」はともにミディアムでフォークロック調の曲。 James の優しいボーカルがすべてを許してしまいそうです。 後者では、Phil Hamilton と James Berthrong のふたりのハーモニカの聴き比べも楽しむことができます。 2 曲目の「Play In D」はスロウな展開。 ここでのハーモニカの郷愁さは、生半可な味わいではありません。 優しさと渋みがブレンドされたボーカルとハーモニカが対話するかのような様は、A 面のハイライトとも言える名演です。 つづく「Raggedy Like Lullaby」Jamesによるピアノの弾き語り。 どことなく曇った音色がするピアノは狙い通りなのでしょう。 古い映画音楽のような雰囲気を描き出すことに成功しています。

  レコードを裏返すと、長尺のタイトル曲「Carrying A Friend」です。  毛布に包まれたような James の優しい歌声の背景で、Tim Martin の跳ねるようなベースラインが曲に奥行きを与えています。 つづく「Joyful Tears」は足元を確かめながら進んでいくような店舗のスロウなバラード。 ピアノとベース、ドラムスの息のあった演奏も含め、個人的には琴線に触れまくりの名曲です。 ラストの「Key To The Garden」は力強く前向きな姿勢を感じるミディアム。 徐々に盛り上がっていく演奏、情緒的なギターソロなど、このままアルバムが終わってしまうことが勿体なく思えるほど、見事なフェードアウトです。

  こうしてアルバムを何度も繰り返して聴くにつれ、このアルバムの奥深さと魅力は高まっていくように思えます。 すべての曲の出来が素晴らしく、且つ作品の目指すコンセプトとも一致しているこのアルバムは、ローカル産の SSW アルバムとしては極めてレベルの高い名盤だという認識を新たにしました。

  残念ながら、James Berthrong は 2007 年に他界しています。 1960 年代から親交のあった SSW、John Swayne の公式サイトで、その事実がひっそりと語られているのを発見しました。 そのサイトでは James Berthrong と John Swayne による 2005 年のセッションが 2 曲公開されているのですが、2 人の息のあった演奏はとても素晴らしいものでした。 James Berthrong の音楽に永遠の翼を与えてあげたい…そんな気持ちで John Swayne がアップロードしたのでしょうか。 是非、聴いてみてください。



■James Berthrong / Carrying A Friend■

Side-1
Porchlight Blues
Play In D
Exchange The Sight For The Sound
Raggedy Like Lullaby

Side-2
Carrying A Friend
Joyful Tears
Key To The Garden

Produced by Karen Walker
Recorded at Bitterroot Studios, Missoula, Montana

James Berthrong : acoustic guitar, vocal, piano,harmonica
Paul Kelley : bass
Chuck Hamilton : drums
Phil Hamilton : harmonica, tambourine
Tim Martin : electric guitar, bass
Tim Larum : drums
Dave Vaughan : acoustic guitar
Lewis Lee Winn : electric guitar

Red Tail Records K5626




Taffy McElroy

2008-11-04 | Female Singer
■Taffy McElroy / The Heartbreak Kid■

  1982 年に開催されたヤマハ主催の世界歌謡祭に来日した記録が残っているTaffy McElroy の唯一のアルバムをピックアップしてみました。 当時は「タフィー」名義で「さよならにキッス」という邦題の国内盤も出ましたが、さっぱり話題になりませんでした。 内容とは裏腹にアイドル路線の売り方をされてしまったのも要因のひとつかも知れません。 
  たしかにジャケットからは洗練された AOR サウンドを想像するのは難しいかもしれませんが、カントリー風味を極力抑えたアレンジと Taffy McElroy の清楚なボーカルの組み合わせは今聴いても新鮮に響きます。 
  このアルバムを取り上げた理由は Rob Galbraith つながりです。 この作品には彼がプロデューサーとして深く関わっており、先に取り上げた名盤「Throw Me A Bone」とも多くのミュージシャンが重なっています。 それだけでも触手が伸びそうですが、作曲陣には、Robert Byrne, Randy Goodrum, Kerry Chater といった渋めの名前が連っています。 この選曲も Rob Galbraith によるものなのでしょう。

 さて、アルバムは総じてミディアムなバラードで締められており、1981 年という時代を反映して、セッション・マンの安定した演奏もあって、安心して聴くことのできる流れとなっています。 ややもすると予定調和で退屈とも言えますが、業界のベテラン達が Taffy McElroyのイメージを確立させようとした気配が十分に伝わってくるのです。

  主な曲についてコメントしていましょう。 まずは Tom Brasfield / Robert Byrne によるバラード「Who’s That Look In Your Eye」と「That Didn’t Hurt Too Bad」です。 前者は Michael Johnson や Rick Bowles による歌唱でも知られていますが、ここで聴かれる気品あるまろやかさも格別です。 後者も引けを取らない名バラード。 Dr.Hook のバージョンが有名のようですが、未聴です。 「最初の彼女になりたいの」とささやく「I Want You To Be The First」は Rob Galbraith が作曲に関わった唯一の曲。 この曲や失った恋の切なさを歌い上げる「When It’s Gone」、Randy Goodrum の「If I Hadn’t Me You」などA面は切ないバラードが並びます。 唯一のアップナンバーがタイトル曲の「The Heartbreak Kid」というのも意外。

  B 面では、「You Can Always Count Me」や「Out Of My Mind」といったバラードも悪くないのですが、さすがにここまでバラードだと消化不良気味になります。 そういった意味では、アップナンバーの「What’s On Your Mind」で聴ける後半のギターソロはかなり新鮮ですし、ノスタルジックな「Then You Can Tell Me Good-bye」で終わるラストも並びとしては最高です。 ちなみにこの曲が邦題の「さよならにキッス」の元となったのでしょう。 

  さて、冒頭で彼女が世界歌謡祭で来日したと書きましたが、公式な記録を残しているサイトによると、そこで歌われた曲「Just One Chance To Be Free」という曲です。 このアルバムには未収録で、作詞・作曲もアメリカ音楽界の裏重鎮とも言える Fred Mollin となっていることから、このアルバム制作後に用意されたシングル候補曲なのでしょう。 しかし、ネットで検索してもこの曲がシングルとなった痕跡は見当たりません。 この曲は世界歌謡祭で入賞すらできなかったことから、もしかすると彼女の音楽活動にピリオドを打つきっかけとなってしまった曲なのかもしれません。




■Taffy McElroy / The Heartbreak Kid■

Side-1
Who’s That Look In Your Eye
The Heartbreak Kid
When It’s Gone
I Want You To Be The First
If I Hadn’t Me You

Side-2
You Can Always Count Me
That Didn’t Hurt Too Bad
What’s On Your Mind
Out Of My Mind
Then You Can Tell Me Good-bye

Produced by Rob Galbraith

Acoustic piano : Bobby Ogdin
Electric piano : Ron Galbraith, Bobby Ogdin
Electric guitar : Bruce Dees, Reggie Young, Larry Byrom
Acoustic guitar : Don Roth, Bruce Dees
Bass : Warren Gowers, Steve Brantley
Drums : David Accorso, Kenny Malone, Larrie Londin, Steve Brantley
Trombone : Wayne Harrison
Trumpet : George Tidwell
Saxophone : Denis Solee
Percussion : Farrell Morris
Recorder : Billy Puett
Steel : Sonny Garrish
Background Vocals : Bruce Dees, Steve Brantley, Lea Jane Berinati, Donna McElroy, Marcia Routh, Rob Galbraith
Strings : Shelly Kurland, Concertmaster
Harmony : Taffy

Strings Arrangements : Bergen White
Horn Arrangements : Wayne Harrison
Rhythm Arrangements : Rob Galbraith
Background Vocal Arrangements : Bruce Dees

MCA -5191