Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

Broken Bow

2009-03-29 | SSW
■Broken Bow / Arrival■

  かなりインパクトの強いジャケットです。 イタリアの B 級プログレとかにありそうなイラストですが、Broken Bow はウィスコンシン州のローカルバンド。  1980 年の作品です。 内容は、ほぼカントリー色の強いフォーク・ロックと言えるものですが、ほんの数曲に光るものがあり、その魅力が全体を支えているといった構造を呈しているアルバムです。
  このセンスの悪いカバー・アートを描いたのは、コンサート・サウンド・エンジニアとしてクレジットされている Adrian Weidmann です。 彼はレコーディング費用を握っていたのでしょうか、それとも何らかの理由でメンバーを精神的に支配していたのでしょうか。 アルバムを聴く時にそんな余計なことを考えたくなる作品です。

  数曲に光るものがあると書きましたが、ナンバー・ワンは、オープニングの「Arrival」です。 この曲は、カントリー色がまったく無く、ハワイ産のメロウな AOR のような軽やかなグルーヴ感に包まれています。 このサウンドは、ハワイ産の名盤「Tender Leaf」に極めて近いものを感じますが、人によってはウェスト・コースト風と捉えるかもしれません。 アルバムはこうしていきなり期待が高まるのですが、続く「Fae Do Do」からは、テンポの緩急はあるものの、カントリーの基本設計に忠実な音作りが行われます。 ペダル、フィドル、バンジョーといった部材で一気に組み立て終わった注文住宅のような感じです。 但し、粗雑な仕上がりがあるわけではないので、聴いて後悔するようなものではありません。 出来のいい曲としては、浮遊感のあるバラード「Song To You In The Morning」、リズムの変化が個性的な「Thought Of Leavin’ You」、ノスタルジックなバラード「Nooksac River」などが挙げられます。
  ラストの「Broken Bow」は、レコーディング・スタジオでのライブ録音で、手拍子や歓声、そしてラストの拍手がアットホームな気分を伝えています。

  この Broken Bow の中心メンバーは、Chip Duncan と Helt Oncale です。 Chip Duncan が 4 曲、Helt Oncale が 3 曲を書いているのですが、個人的には「Arrival」を書いていることから Chip Duncan のほうに軍配を上げたいところです。
  しかし、ネットで調べたところ、二人のうちその後活躍したのは、Helt Oncale でした。 しかも意外なことに、彼は 1988 年にドイツに渡って以来、ずっとドイツ国内で活動しているようで、ファンクラブも組織されるほどの人気があるようです。 
  一方の、Chip Duncan は音楽の世界から転進し、独立系のドキュメンタリー映像作家となったようです。 The Duncan Group という彼の会社のサイトに、Chip Duncan のバイオグラフィーが載っていましたが、この Broken Bow については触れられていませんでした。 

  なかなか好きになれないジャケットで、手放したくなる衝動すら感じるアルバムですが、「Arrival」の存在がこのアルバムと僕を繋ぎ止めているのです。

 

■Broken Bow / Arrival■

Side-1
Arrival
Fae Do Do
Nothin’ Like Abilene
Song To You In The Morning
Runnin’

Side-2
No Better Feelin’
Thought Of Leavin’ You
000 The Feelings
Nooksac River
Broken Bow

Produced by Broken Bow Ltd.

Recorded at Full Compass Sound, Madison, Wisconsin
Engineer : Rick Murphy
Cover Art : Adrian Weidmann

All songs written by Broken Bow except ‘No Better Feelin’’ courtesy of Ron & Sandy Sowell

Chip Duncan : guitar, vocals
Helt Oncale : guitar, banjo, fiddle, vocals
Dan Showalter : pedal steel guitar
Rick Tacey : drums, vocals
Steve Barr : bass, vocals
Adrian Weidmann : concert sound engineer

Josh Blacker : tenor sax
Bill ‘Blind Willie’ Erchul : bass
Bob Trumpe : bass
Chip Donohue : congas, percussion

Couderay Records CR 123178

Pat Troiani

2009-03-23 | SSW
■Pat Troiani / Somewhere In Paradise■

  おととい平年よりも 7 日早く、桜の開花が宣言されました。 三連休の天気は、激しい嵐から晴天そしてまた雨と日替わりメニュー状態でしたが、久しぶりにゆっくり過ごすことができました。

  そんな気分にまかせて、取り出したアルバムは季節を先取りしたようなタイトルです。 「楽園のどこか」には誰もが行ってみたいと思いますが、Pat Troiani が腕を組んでいる浜辺がどこなのかは、わかりません。 一見、南国のようですが、背景の山々は急峻でフィヨルド地形のようにも見えます。 山の頂にはうっすらと雪も残っているので、南海の楽園ではないでしょう。 ジャケットにも表記が無いので、想像の域を出ませんが、おそらくはニュージーランドあたりではないか思っています。

  さて、このアルバムは正体不明の Pat Troiani がペンシルバニア州アレンタウンでレコーディングしたもの。 制作年の表記はありませんが、サウンドから 1980 年前後と推定しています。 自主制作のアルバムにしては、メジャーでポップな路線なのには、意外な印象を持ちますが、ストレートでシンプルな音作りには好感が持てる内容となっています。 トロピカルなアレンジや、レゲエ調のリズムが多発しそうな気がしますが、それは思い過ごしでした。

  アルバムはキャッチーなフォーク・ロック「Tomorrow」でスタート。 粘っこいメロディーとフィドルのせいで、英国のいなたいパブロックの匂いを感じる曲です。 雄大でエモーショナルなワルツ「Someone」、B 級ながらも余裕のある演奏が小気味良いロックンロール「So Much Better」、オーソドックスなミディアム「Every Minute Of The Day」と聴くにしたがって、どことなく Jackson Browne に近い「空気の抜け方」を感じてきます。 そして、「Somewhere In Paradise」を迎えるのですが、この曲こそ、爽快感と乾いた音・アレンジなどがまさに Jackson Browne フォロワーという出来となっています。

  B 面に移ってもその指向性に大きな変化はありません。 メロディーセンスの光る「A Good Feeling」は、どこに出しても恥ずかしくないクオリティ。  昼間にFMラジオでかかっても違和感は感じないでしょう。  疾走間あふれるアップな「Right In The Face」につづく「Can’t Seem To Get You To Love Me」は異色のデュエット。 インタリュード的なアクセントとしての位置づけが伝わってくる短めのナンバーです。 再び、活力を取り戻した感じの「Outside Prison Blues」につづき、ラストのバラード「Yuma」と流れていきます。  「Yuma」は唯一の癒し系サウンドで、ジャケットの雰囲気に最も近いものとなっています。  心地よいマリンバの音色がパラダイスへと誘うイメージで、このアルバムの好感度をアップする締めくくりと言えるでしょう。 冒頭にも書きましたが、このアルバムはマイナーレーベルから発売されたとは、信じがたいポップ指向を持っています。 それだけに、逆にどういった背景でこのアルバムが生まれてきたのかが気になるのですが、ネットで調べてもそのあたりは判りませんでした。  

  アルバムが録音されたペンシルバニアのアレンタウンは、Billy Joel の曲名にもある小さな都市。 ありがちな地名かもしれないと、気になって調べたらやはり間違いありませんでした。 1982 年の「The Nylon Curtain」に収録されたこの楽曲は、不況に苦しむ町と失業に直面した若者の心情を歌ったものです。 Pat Troiani のポップ指向とは正反対の内容ですが、とくに両者を結びつけて考える必要はないので、気にすることではなさそうです。

 

■Pat Troiani / Somewhere In Paradise■

Side-1
Tomorrow
Someone
So Much Better
Every Minute Of The Day
Somewhere In Paradise

Side-2
A Good Feeling
Right In The Face
Can’t Seem To Get You To Love Me
Outside Prison Blues
Yuma

Produced by Pat Troiani
All selection written by Pat Troiani
Engineered by Jim McGee
Recorded and mixed at Helffrich Recording Labs, Allentown Pa.

Pat Troiani : acoustic guitars, electric guitar, lead and harmony vocals, congas, percussion, marimbas
Stech : bass, electric guitars, pedal steel guitar, mandolin, dobro, lap slide, percussion
Tom perkins : piano, saxophones, harpsichord, synthesizer
Jim Mucha : electric guitars
Dan Sabatine : violins
Chris Nodler : harmony vocals, lead duet
John Warwick : drums
Danny Keim : drums on ‘A Good Feeling’
Igor Stadnyck : accordion on ’Someone’
Dave Charles : piano on ‘Outside Prison Blues’
Jim McGee : marimbas on ‘Yuma’

Wounded Knee Music SIP 1125


Jane Voss

2009-03-15 | Folk
■Jane Voss / An Album Of Songs■

  春の足音が近づいてきた午後には、こんな牧歌的なアルバムがよく似合います。
  1976 年に発表された Jane Voss のデビューアルバムは、アコースティックな肌触りに満ちた素朴な作品。 ほぼ全曲が彼女の弾き語りですが、彼女のボーカルは田舎娘のような朴訥さ、大らかさが特徴で、70 年代のメジャーな女性 SSW とは大きくかけ離れています。 もし、この歌声が苦手だとすれば、アルバム全曲を聴きとおすのは辛いかもしれません。

  アルバムは淡々と進行する全 12 曲収録。 うち彼女のオリジナルは 3 曲で、他の曲は Carter Family や Woody Guthrie のカバーです。 ごく一部の曲にフィドルやダルシマーが挿入される程度なので、延々と続く牧草地帯を走る車窓を眺めているかのように、変わらない風景が続いていくという印象です。 とくに、A 面はワルツ中心の単調さが気になり、個々の楽曲に対するコメントはないのですが、ラストの「Keep In Mind (That I Love You)」は、Scott Alarik が彼のファースト・アルバム「Stories」でカバーしている曲でした。 この曲については、2006 年10月にアップしたScott Alarikの記事でもコメントしたとおり、親しみやすいメロディーの曲です。 ちなみに、この曲はオリジナルの 1 曲で Jane Voss が 1972 年に作曲したものです。

  B面では、気になるオリジナル曲に出会いました。 ネットで検索していて発見したのですが、「Standing Behind A Man」が日本人によってカバーされていたのです。 その邦題は『男の陰に女あり』という妙訳なのですが、カバーしたのはミュージシャンというよりは音楽評論家として知られる中川五郎です。 彼は 28 年ぶりとなるソロ・アルバム「ぼくが死んでこの世を去る日」を 2004 年に発表したのですが、そこに『男の陰に女あり』が収録されていました。 もちろん(と言っては失礼ですが…)、僕はこのアルバムを持っていませんし、聴いたこともありませんが、「Standing Behind A Man」のカバーはどんなバージョンに仕上がっているのでしょうか。 特に対訳の名手でもある彼なので、その詞には興味があります。 と思って、調べてみたら、とあるブログに歌詞が引用されているのを発見。 この歌詞をみながら、オリジナルを聴くという贅沢な時間を過ごしてしまいました。 原曲は情緒あふれるフィドルを擁した素朴なワルツで、アルバムのなかでも抜群の存在感を示す出来となっています。

  せっかくなので、残り 1 曲のオリジナル「The Bus Stop Song」についても触れておきましょう。 こちらは弾き語りのワルツですが、タイトルからも伺えるとおり、路地裏の埃臭さを感じさせるクセのある仕上がりです。

  Jane Voss の公式サイトによると、彼女は 25 年以来のパートナーとなる Hoyle Osborne とともに音楽活動を続けています。 Janeがギター、Hoyle がラグタイム・ピアノという役割で 1989 年以降 6 枚のアルバムを発表。 この「An Album Of Songs」を含めた全作品が、CD でオンライン販売されています。 2004 年の最新作の「Beyond the Boundaries」には、あの Van Dyke Parks がこんなコメントを寄せていました。
“I had a grand time listening to your CDs in the car. All of it, a perfect antidote to road rage. Your work has great heart soul and incite.“

 

■Jane Voss / An Album Of Songs■

Side-1
Goodbye To My Stepstone
Clinch Mountain Home
Jim Blake’s Message
Bear Creek Blues
A Long Road To Travel alone
Keep In Mind (That I Love You)

Side-2
The Lover’s Return
The House Of The Rising Sun
Standing Behind A Man
The Bus Stop Song
Too Late
Going Home

Recorded at Mike Cogan at Bay Studios, California

Jane Voss
Harry Liedstrand : fiddle
Jeanie McLerie : autoharp, voice
Kate Brislin : voices
Valerie Mindel : voice
Holly Tannen : dulcimer
Gene Tortora : dobro,
Stuart Brotman : bass

Bay Records 207

Suni McGrath

2009-03-12 | Christian Music
■Suni McGrath / Childgrove■

  珍しく仕事が早く終わって、少しばかり自分の時間ができた夜に、聴きたくなるようなアルバムです。 部屋の灯りを少し落として、熱いコーヒーを入れておけば、準備万端。あとは、レコードの溝を針がゆっくりとトレースするのを眺めるだけです。 しばらくすると、ここに刻まれた繊細なギターの音色が、癒しとかリラックスといった領域を超えて、スピリチャルな響きに聴こえてくるはずです。

  今日取り上げたのは、クリスチャン・ミュージックにおける 12 弦ギターの名手 Suni McGrath が Adelphi に残した 3 枚のアルバムのうち、ラストとなる作品です。 Suni McGrath のことを知ったのは、比較的最近のことなので、彼のアルバムはこの作品しか聴いたことがありませんが、最近まで知らなかったことを後悔してしまうほど、素晴らしい内容です。 とはいえ、アコースティック・ギターのインストゥルメンタルなので、苦手な人には退屈に感じられるかもしれません。 

  このアルバムは Suni McGrath 名義ですが、もう一人のギタリスト Jack Denlinger の貢献度が非常に高いのが特徴です。 左に Jack、右に Suni が映っているジャケットに、その関係性が良く表れており、二人の共作名義でも発表されていたとしても違和感はありません。 B 面を占める大作「The Lions Of Judah」では、Jack Denlinger がリードをとり、Suni McGrath はセカンド・ギターにまわるといった主役交代が起きているほどです。 さっそくアルバムを振り返ってみることにしましょう。
  アルバムはブリティッシュ・トラッドの「The Star Of Country Down / Childgrove」で幕開け。 Suni のリード、Jack のセカンドによるオーソドックスな演奏が楽しめますが、逆に個性はあまり感じられません。 つづく 2 曲はオリジナル。 「Love Abides」はバロック音楽のような古典的な香りのする気品ある楽曲なのに対し、「Zoe」はリズム感の強調されたポップな仕上がりです。 Gary Davis なる人物の曲「Lo, I’ll Be With You Always」は、ギターの教則本の課題曲のようなメロディとコード進行ですが、リラックスしたムードは満点です。 オリジナルの「The Harvest」は変拍子の難解な楽曲。 つづく「(Jesus Said) I Am The Resurrection」は、このブログでも取り上げたことのある Ray Repp の作品。 訳すと「私は生まれ変わりである」というタイトルが強烈ですが、緩急のある奥深いギターサウンドが堪能できる楽曲となっています。
  B 面はさきほど軽く触れたとおり、22 分の「The Lions Of Judah」1 曲が収録されています。 この曲は、Suni と Jack の夢幻の邂逅とでもいうべきサウンドで、アルバム最大の聴き所と言えるでしょう。 二人のギターの演奏は、見事に息のあったものというわけではなく、たどたどしい一発録りのような危うさをはらんでいますが、そこがかえって魅力となっています。  中盤と後半で 2 箇所ほど Ellen Matthews なる女性のつぶやきにも似たボーカルが挿入され、冗長にならないような工夫が施されているのも評価できるところです。 このような長尺のギター・サウンドは、今ふうに言えば、「チルアウト」なのでしょうが、まさに、その類の音楽の元祖ともいえるアルバムと言えるかもしれません。

  Suni McGrath は、1972 年にこのアルバムを発表した後、長い沈黙に入りました。 その間、何をしていたのかは不明ですが、彼が沈黙から目覚めたのは 2004 年のことです。 32 年のブランクの割にはコンピレーション盤に 1 曲参加しただけというさりげない復活でしたが、翌 2005 年には 7 inch 盤を 1 枚発表しているようです。 この 7 inch 盤というフォーマットに彼の意志を感じたのは僕だけでしょうか。 近い将来、彼の新作が CD ではなく、アナログ盤オンリーで届けられる日が来ることを期待してしまうのです。

 

■Suni McGrath / Childgrove■

Side-1
The Star Of Country Down / Childgrove
Love Abides
Zoe
Lo, I’ll Be With You Always
The Harvest
(Jesus Said) I Am The Resurrection

Side-2
The Lions Of Judah

Produced by Gene Rosenthal for Black Dog Productions
Recorded in March, 1972 at Adelphi Studios

Suni McGrath plays solo six and twelve-string guitar on all pieces, with exceptions of ‘The Star Of Country Down / Childgrove’, where he is joined by Jack Denlinger on
2nd guitar, and ‘The Lions Of Judah’ , on which Jack plays lead, Suni plays 2nd guitar and Ellen Matthews contributes the vocals.

Adelphi Records AD1022


Glenn Jenks

2009-03-04 | SSW
■Glenn Jenks / Antidote■

  ボストン出身のラグタイム・ピアノ奏者 Glenn Jenks のデビューアルバムをとりあげてみました。 彼の公式サイトのバイオグラフィーでは、1979 年にファースト・レコーディングを行ったことは書かれていますが、それがこのアルバムであることは明記されていません。 自主制作に近い作品であり、未 CD 化ということもあって、敢えて載せなかったのでしょう。 もしくは、内容がシンガーソングライター的な作品であり、現在の彼の芸風にそぐわないという理由だったかもしれません。 いすれにしても、彼の経歴から完全に消却してしまうには、惜しい作品だと思います。

  さっそく、アルバムをレビューして見ましょう。 オープニングの「Disco Antidote」は凡庸で能天気なポップソング。 タイトル曲ということで期待がたかかったのですが、初めて聴いたときにがっかりしたことを思い出します。 つづく「Optical Illusion」も特徴のないカントリー調。 実は、買った直後は、ここまでで針を上げてしまったことがあり、その先まで進むのに数年を要してしまいました。 ところが、ここからが彼の本領発揮だったのです。 とくに「Cry Away My Design」は A 面のハイライト。 厚みのあるコーラスとメリハリの利いた演奏が楽しめるミディアムですが、円熟味すら感じさせる仕上がりです。 つづく「The Black Preacher」は彼の真骨頂ともいえるラグタイム・ピアノのソロ。 流麗で心地よい演奏が楽しめます。 そして、「I Don’t Know Why (you’re Tuggin’ At The Strings Of My Heart)」では、Glenn Jenks のボーカルは Dr.John のような妖気を漂わせ、そこに合わせてホルンやクラリネットが紛れ込むことで、オールドタイムさを演出しています。

  B 面は、さらに大人びたサウンドが展開されます。 ピアノとストリングスだけの弾き語り「Nantucket Lady」は、悲壮感すら漂う渋いバラード。  つづく「Best Part Of A Deal」はスケール感のあるミディアムで、センスあふれるアレンジも魅力的です。  この名曲が終わると、意外にもギターのインスト「Hot Chestnuts」が登場します。  ギターは、クレジットにもあるので、Glenn Jenks の演奏なのでしょう。  だとしたら、このテクニックとセンスからして、Glenn Jenks は才能あふれるマルチ・プレイヤーだということになります。 おそらく幼少の頃から教育を受けてきたのでしょう。  「Somehow」は、リラックスしたフォーク調の楽曲。  エコーの効いたハープのソロから、田舎の夕暮れのような侘しさがじわっと伝わってきます。  アルバムは予想通り、アップテンポで雑多な感じの「In My Time」で幕を閉じます。  参加ミュージシャンが全員登場し、陽気にハモるといったシーンは、この時代のローカル・アルバムにありがちな気はしますが、そういった予定調和も憎めないところです。

  Glenn Jenks の公式サイトを見ると、メディアや評論家からの賛辞が寄せられています。 何かブログのネタでもないかと探していたところ、そのなかに、Scott Alarik, The Boston Globe と記載されているコメントを発見し、驚きました。  Scott Alarik という名前でピンと来る人は極めて稀だと思いますが、このブログの Swallowtail Records 特集で紹介した SSW と同一人物でしょう。 この特徴的な名前がそう沢山いるとは思えません。  みんなしぶとく生き抜いているんだなあと、変なところで感心してしまいました。

  

■Glenn Jenks / Antidote■

Side-1
Disco Antidote
Optical Illusion
Cry Away My Design
The Black Preacher
I Don’t Know Why (you’re Tuggin’ At The Strings Of My Heart)

Side-2
Nantucket Lady
Best Part Of A Deal
Hot Chestnuts
Somehow
In My Time

Arranged and produced by Glenn Jenks
Recorded at Intermedia Sound, Boston , Mass.

Glenn Jenks : guitar, keyboards, vocals
Bob Stuart : guitar, vocals
Nick Apollonio : guitar, banjo, fiddle, vocals
Chief Kubicek : drums
Klondike Koehler : bass
Dave Robinson : electric guitar, harp. Clarinet
Uncle Al Scheeren : trombone

Bonnie Banks BB 101