Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

Bruce Bungum

2008-07-27 | SSW
■Bruce Bungum / Music’s Got The Best Of Me■

  ミネソタ州 Minneapolis から南に 100km ほど下ったところにある Mantorville という田舎町から届けられたローカルアルバムをとりあげてみました。 1986 年の作品ですから世の中にはすでに CD が出回り始めている時代の産物です。 80 年代中期の作品ということで、このアルバムはいい意味での AOR 感と田舎臭さいロック感が微妙にブレンドされています。 そこに楽曲の良さやイヤミのない演奏が加わってくることで、なかなか聴き応えのあるアルバムに仕上がっていると思います。
  
  おそらくは Bruce Bungum のデビュー作であろうこのアルバムを通して聴いてみましたが、その感想を述べてみたいと思います。 まずは A 面から。 1 曲目の「Terror」は、翳りのある大人のロック。 この曲だけでは、手の内を明かさないという気分ですが、この手のサウンドには珍しいフルート・ソロが新鮮に響きます。 つづく「Running Away」と「You Can Do It」はそれぞれアップとミディアムですが、平凡な出来に留まっています。 正直、この 3 曲で先に進むのを辞めたくなってもやむを得ないという流れです。 しかし、次の「Come On Over」で一気に展開は変わります。 この曲はまさにキラーチューン。 イントロのサックスソロや流麗でメロウな展開、AOR 的な要素を含んだサウンドを代表する 1 曲となっています。 つづく「His Music’s Got The Best Of Me」は「Come On Over」の流れを汲んだバラード。 アルバムタイトル曲ということもあって Bruce Bungum のボーカルはアルバム随一のエモーションを感じます。

  B 面に移ります。 「Just For you」特筆すべき点のない凡庸なロックで減点対象ですが、それ以降の流れはスムースでメロウなものになります。 「I’ll Be Yours」はセシリオ&カポノが好みそうな AOR 風サウンドで、コンピレーションや Playlist に似合う楽曲です。 つづく「A Love That Will Never End」ゆるやかな 3拍子のバラード。 中間部で舞うフルートが瑞々しく感じられます。 スロウなナンバーが続き「Nobody Said Its Gonna Be Easy」も歌い上げ系のバラード。 REO Speedwagon の楽曲といってもおかしくないメジャー感あふれるシンプルなメロディーは、どこかで聴いたことのありそうな気にさせます。 そしてラストの「Smiles, Kisses And Hugs」です。 この曲はラストに相応しいセンチメンタルなもので、タイトルから連想できる通りの甘いラブ・ソング。 直接の関係はまったくありませんが、ちょうど「花より男子」の主題歌で aiko の「Kiss Hug」という曲が流行っているようです。 もちろん僕は未聴ですが、きっと良く似たシチュエーションの曲なのでしょう。

  さて、こうしてアルバムを聴いて見ましたが、歌詞カードはなく、裏ジャケのクレジットもあまり詳しくありません。 そこで、いつものように Bruce Bungum で検索していたところ、公式ページを発見しました。 しかし、そこにはディスコグラフィー的なメニューがなく、このアルバムに関する記載も見つかりませんでした。 記載がないというよりも作りかけのページでトップページだけが完成しているという印象です。 あきらめずに、もう少し検索してみると Facebook に彼の名前を発見しました。 Facebook はアメリカで Myspace をしのぐ勢いで流行している SNS です。  Bruce Bungum が普段取り上げているミュージシャンより 10 年以上若い世代だということを、そんなところから実感しました。 きっとまだ 40 代後半くらいなのでしょう。



■Bruce Bungum / Music’s Got The Best Of Me■

Side-1
Terror
Running Away
You Can Do It
Come On Over
His Music’s Got The Best Of Me

Side-2
Just For you
I’ll Be Yours
A Love That Will Never End
Nobody Said Its Gonna Be Easy
Smiles, Kisses And Hugs

Produced by Vic Bungum and Bruce Bungum
All Songs Written by Bruce Bungum

Bruce Bungum : piano, synthesizer, rhythm guitar
Sev Behnen : piano, synthesizer
Mark Walsh : bass, flute, sax
Mike Hanson : sax
Jon Wayne : lead guitar, rhythm guitar
Bryce Hinck : drums
Dave Erwin : drums

Sargeant Town Records


Rick Neufeld

2008-07-20 | SSW
■Rick Neufeld / Hiway Child■

  誘惑の品番 1001 を擁したアルバムを久しぶりに取り上げます。 前回の Rick Rawlings に続いてカナダ出身のシンガーソングライターとなる Rick Neufeld が 1971 年に発表したファースト・アルバムです。 彼のアルバムはこの 1 枚しか持っていませんが、1975 年に「Prairie Dog」、1978 年に「Manitoba Songs」というアルバムを発表しています。
  タイトルの「Hiway Child」ですが、Highway としていないところが粗雑な印象を感じてしまいます。 Night を Nite と表現するのに近いような簡略語だと思いますが、特に SSW のようなジャンルには似合わないと思うからです。 とはいえ、Rick Neufeld も英語が話せない僕に言われたくないはずですので、さっそくアルバムの中身に話を進めていきましょう。

  Rick Neufeld はマニトバ州ウィニペグの出身。 カナダ出身の SSW というとギターの弾き語りをメインにしたシンプルで枯れた味わいをイメージしがちですが、この Rick Neufeld のデビューアルバムからは、そんなカナダ産固有の雰囲気は一切感じられません。 リズムもメロディーもミディアムな楽曲が多く、バラエティに富んだという表現は使えません。 たった今アルバムを聴き終えながら書いていますが、マイナー調の曲がひとつもないことに気がつきました。 憂いのあるバラードもないことから、何度も繰り返して聴きたくなるようなアルバムではありません。
  だいぶ辛口の評価をしていますが、個々の楽曲のクオリティが低いわけではなく、アルバム全体としての起伏・メリハリそして世界観が欠如しているという気がするのです。 ですから、「I Came To Play」や「Long Way Home」のような個々の佳作に対する評価は変わりません。 前者は雄大な楽曲はストリングスとコーラスが曲に厚みを持たせているミディアムで、A 面 3 曲目まで続いた平凡な流れを変えています。 B 面の「Long Way Home」は郷愁あふれるワルツ。 アルバムのなかでも最もエモーショナルな楽曲と言えるでしょう。 唯一といえる異色な楽曲は A 面ラストの「The Parable」です。 この曲のみポエトリー・リーディング風な楽曲で、分かりやすくいうと Bob Dylan の影響下にありそうな曲調となっています。 他の楽曲では「If You’ve Been Wondering」はアップテンポのカントリーながら完成度の高いという印象。 彼がアルバム制作以前に The Bells に提供してスマッシュ・ヒットしたという「Moody Manitoba Morning」はそれほど印象に残りませんでした。

 クレジットされているメンバーのなかで目にしたことのある人物をピックアップしてみます。 スティールギターの Al Brisco、いまやラグタイムピアノの名手となった John Arpin、Bruce Cockburn のアルバムでみかける Jack Zaza 、Gordon Lightfoot 周辺人脈の Red Shea といった面々です。 たまたま Red Shea で検索していたところ、彼が 5 月に膵臓癌で亡くなったというニュースを発見しました。 このアルバムからすでに 37 年もの年月が流れているという事実を改めて思いながら、厳しい評価を付けすぎたことを少しばかり悔やんでしまいそうです。



■Rick Neufeld / Hiway Child■

Side-1
Hiway Child
Country Princess
Moody Manitoba Morning
I Came To Play
The Parable

Side-2
If You’ve Been Wondering
Medicine Man
Long Way Home
Don’t Go Away
The Song Singer

All Songs written by Rick Neufeld
Recorded at RCA Studios , Toronto, march 1971
Strings arrangements : John Arpin
Executive Producer : Bob Hahn
Produced by Gary Buck

The Singer : Rick Neufeld

The Players:
Rick Neufeld, Keith MacKay, Al Brisco, Terry Bush, David Brown, Ollie Strong, Bill Bridges, Gary Buck, Red Shea, John Arpin, Rick Haynes, Bruce Farquhar, Jack Zaza, Richard Newell

The Voices:
Laurie Bower, Stephanie Taylor, Bill Misener, Laurie Hood

Astra AS-1001

Chris Rawlings

2008-07-13 | SSW
■Chris Rawlings / Pearl River Turnaround■

  社内で人事異動があったりして、なかなかブログを書く時間がとれません。 ここしばらくは娘が寝静まった週末だけとなりそうです。 
  今日取り上げるのは、カナダの現役 SSW である Chris Rawlings が 1972 年に発表したデビュー作。 ユニコーンが描かれた線の細いイラストとエンボス加工のジャケットが印象的です。 参加しているミュージシャンで見覚えのある人物はいないのですが、ただ一人 Anna McGarrigle の名前を見つけることができました。 彼女が Kate & Anna McGarrigle としてデビューしたのが 1975 年ですから、レコーディング・クレジットとしてはかなり初期のものになります。 Kate McGarrigle が何故いないのかが気になり、ネットで調べたところ詳細が分かってきましたが、それについては後ほど触れることにします。

  Chris Rawlings のサウンドは特に強烈な個性を感じるものではありません。 取り立てて歌がうまいわけではなく、声はマイルドさと微妙な震えが特徴ではあるものの、圧倒的な存在感が伝わってくるわけでもありません。 ただどの曲にも共通しているのがナチュラルな手作り感です。 楽器はアコースティックな編成ばかりで、曲によっては 1960 年代風のフォークもあります。 そこで、個人的に気に入っている曲をピックアップすることにしました。 
  まずは「Bridge Of The Night」です。 この曲からはヒューマニズムや自然との調和といった 1970 年代の SSW シーンならではのメッセージを強く感じます。 こじんまりした楽曲や私的な印象の曲が多いなか、この曲の存在感は重要です。 B 面にのみ参加してういるパーカッショニスト Tony Poupa McGouche の演奏が効いている「Song Of the Creation」や「Iris Of Flowers」はカナダ産ならではの静寂感が表れています。 アルバム最大の聴きものといえるのが「Schmaltz」です。 この曲には Anna McGarrigle を含む Mountain City Four が全面参加しているのです。 曲調はゆったりしたワルツですが、ウッドベース、ピアノを背景にしたオールドタイミーなアレンジも素晴らしく、さらにはクラリネットのソロも秀逸です。 この曲と「Bridge Of The Night」が双璧でしょう。

  さて、Anna McGarrigle の参加についてですが、Kate & Anna McGarrigle の略歴について非常に詳しく書かれているサイトがあり、そこで時代考証をすることができました。 1963 年に Kate McGarrigle と Anna McGarrigle は Peter Weldon と Jack Nissensen と 4 人で Mountain City Four を結成。 その後 1968 年に解散し、Kate は単身でニューヨークに渡りソロ活動を始めています。 Kate はそこで知り合った Loudon Wainwright Ⅲと結婚し、そこで生まれたのが Rufas Wainwright というのは有名な話ですね。 
  Chris Rawlings のこのアルバムが発表されたのは 1972 年ですから、ちょうどKate はニューヨーク、Anna はモントリオールという具合に姉妹が離れて活動していた時期だったわけです。 とっくに解散していた Mountain City Four の名前がクレジットされている理由は分かりませんが、Peter Weldon とJack Nissensen も参加したことから、この名前が使われたのかもしれません。 いずれにしても、いつも二人で活動していると思っていた Kate & Anna McGarrigle の知られざる過去がここに記録されたことになります。
  そういえば、15 年くらい前に初めて友人とニューヨークに行ったときに、Kate & Anna McGarrigle のライブを観たことがあります。 時差ボケと僕たちのテーブルにだけ白熱灯の熱が強烈に伝わってきたこともあって、二人して寝てしまったという情けない話なので詳細を語る資格はありませんが...
  なんだか、主役のChris Rawlings だということを忘れてしまった感がありますね。 彼は今も現役で活動している様子で、公式ページも存在しています。 最新作の「Rocks And Water」のために設けられたサイトのようですが、Children’s Music with an Earth Science Theme と表現されていることからエデュケーショナルな作品のようです。 



■Chris Rawlings / Pearl River Turnaround■

Side-1
Pearl River Turnaround
Brook Song
Bridge Of The Night
Pshaw
Lady Nancy

Side-2
Lions & The Jackal
Song Of the Creation
Iris Of Flowers
Schmaltz
Sally Cooking Fat

All songs written by Chris Rawlings except ‘Song Of Creations’ co-written by P.Lauzon

Jim Hochanadel : winds, electric bass, harp, guitar
Gilles Losier : fiddle, keyboard, acoustic bass
Rejean Emond : percussion
Tony Poupa McGouche : percussion
Skeeter : percussion
Ron Dann : pedal steel
Bill Garrett : lead guitar,
Wayne ross : lead guitar
Scott Lang : electric bass
Mountain City Four : vocal accoppaniment
(Anna McGarrigle , Peter Weldon, Jack Nissensen)
Chris Rawlings : vocal, rhythm guitar
Milton Park Citizen’s Committee Kazoo Band :
(Sean Gagnier, as Lion and Vince Griffin)
Gail Rawlings : cover

Cooking Fat Music

Tim Davis

2008-07-06 | SSW
■Tim Davis / Another Turn Of The Wheel■

  暴風雨の中、舟の舵をきろうとする男の雄々しい姿が印象的なジャケット。 朴訥とした男の SSW 作品かと想像してしまいますが、意外にも洗練されたアダルトなロックミュージックが詰め込まれた良質なサウンドが展開されています。 バック陣の演奏力も高く、バンドとしてのまとまりと余裕を強く感じることが出来るために、安心して聴くことのできるレコードと言えるでしょう。 

  1978 年にペンシルバニアでレコーディングされたこのレコードは、Tim Davis と彼の仲間によって制作されました。 気の合う仲間と打ち解けながらレコーディングされたと思われるこのアルバムは 1970 年代のアメリカン・ロックの最良のエッセンスを体感させてくれます。 心の琴線に触れるメロディ、ツボを押さえ且つタメを理解した演奏、清涼感あふれるコーラスワークといった表現が常に思い浮ぶアルバムですが、楽曲コメントに入る前に Tim Davis に関して少々触れておきます。 実は、彼と同姓のミュージシャンで 1970 年代前半に「Pipe Dream」、「Take Me As I Am」という2枚のアルバムを残している人物がいます。 それは元 Steve Miller Band のドラマーだった Tim Davis なのですが、ジャケットの写真からも今日取り上げている Tim Davis とは別人です。 ネットで検索してみましたが、どちらの消息もつかむことができませんでした。 残念なことに、「Another Turn Of The Wheel」は Tim Davis 唯一のアルバムなのです。

 アルバムはイギリスのパブロックに近い「Another Turn Of The Wheel」でスタートします。 個人的には Clive Gregson を思い出します。 心地よいリズムセクションと軽快なコーラスが最高です。 つづく「Cloudy Day」はウェストコースト風の清々しい楽曲。 Silver の名盤「Silver」に近いサウンドです。 ゆったりした入りをする「O Captain」はギターがメインの雄々しいミディアム・バラード。 この曲ではリズム・セクションはお休みです。 ビートルズの「夢の恋人」に似た曲調が特徴的な「Later Daze」、人柄を感じさせるミディアム「You Knocked The Wind」とクオリティの高さを維持したままA面はあっという間に過ぎていきます。

  レコードを裏返すと爽快なフォークロック「Riding Drunk」でリスタート。 この曲は、まさに Jackson Browne が歌っているかのような錯覚を覚えるアルバムの代表曲です。 つづく「Gotta Get Back」は 4 ビートの利いたジャジーなナンバー。 ちょっと大人びたアレンジも手堅く歌いこなすあたり、Tim Davis の器用さが表れています。 哀愁を帯びたワルツ「Famous」、カントリー色の強い「Prisoner Of Patuxent」とつづきアルバムはラストの「Northern Lights」へ。 タイトルからも名曲の予感がするのですが、この曲も美しいメロディーと構成力を持っており、ラストに相応しい名曲となっています。 どんなアルバムもラストがこのように終わればいいのにとすら思ってしまう「余韻」を強く残してくれる楽曲です。

  まさに隠れた名盤と呼ぶにふさわしいこのレコードがローカルレーベルから産み落とされるというのがアメリカのミュージックシーンの懐の大きさなのでしょう。 1978 年という時代は音楽産業が肥大化していく真っ只中です。 だからこそ、このような良質な音楽がメジャーレーベルではなく、ほぼ自主制作に近い形で世に送り出されたのかもしれません。 僕のレコード巡りの旅はいつまで続くのかわかりませんが、このレコードを聴きながら、ふと半年前に読み終えたポール・オースターの小説「ムーンパレス」のことをふと思い出しました。 まさに小説のように偶然と出会いが人生を変えていくのですね。



■Tim Davis / Another Turn Of The Wheel■

Side-1
Another Turn Of The Wheel
Cloudy Day
O Captain
Later Daze
You Knocked The Wind

Side-2
Riding Drunk
Gotta Get Back
Famous
Prisoner Of Patuxent
Northern Lights

Produced by Tim Davis
Engineered by Joe McSorely
Recorded in October and November of 1978 at the Veritable Recording Co. Ardmore , PA

Tim Davis : vocals
Andy Eaton : vocals
Scott Hardie-Birney : acoustic guitar , harmonica
Jim Russel :drums
Steve Hobson : electric guitar , mandolin
Baird Brittingham : vocals , acoustic guitar ,banjo
Jerry Kirk : bass guitar
Dave Berry : piano , bass guitar , strings arrangements
Phil O’Reilly : pedal steel
Hank Carter : alto and tenor saxophone

Sprit Records 1154