Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

Roger Shriver

2010-02-27 | SSW
■Roger Shriver / Roger Shriver■

  最近は自主制作に近い作品ばかりでしたが、今日は久しぶりにメジャーレーベルのレコードを取り出してみました。 レコードコレクターズの最新号(シンガーソングライター特集でした)にも掲載された Roger Shriver が 1972 年に発表した唯一のアルバムです。

  コロラド州デンバー出身の Roger Shriver がニューヨークでレコーディングしたこの作品は、どこを切っても洗練されたアレンジと演奏が展開され、都会派の SSW 作品として忘れてはならない一枚。 Roger Shriver はニューヨークに来るまで 23 もの都市を放浪しており、このアルバムをレコーディングした当時は音楽を学ぶ 24 歳の学生でした。 レコード・デビューという大きなチャンスをものにした Roger Shriverですが、まさかこの作品が最初で最後とは思ってもいなかったでしょう。

  このアルバムの魅力のひとつは、スカイ・レーベルの実力派セッションマンによるクールなサポートです。  Bob Mann、Grady Tate、Joe Farrell といったジャズ・ミュージシャンによる堅実で渋い演奏からは、当時の荒涼としたニューヨークの空気感が伝わってきます。 とくに素晴らしいのは Marvin Stamm のフリューゲル・ホーンが淋しげに挿入された「Life Is Like A River」と「The Other Side Of A Woman」です。 ともにスロウでメランコリックな仕上がりですが、AOR の時代には程遠い 1972 年とは思えないモダンなアレンジメントには脱帽。 個人的な好みに合致しすぎているので、人に教えたくないような名曲です。 

  この 2 曲がアルバムの個人的なハイライトですが、他の曲についても触れておきましょう。 アルバムのオープニングを飾る「Nobody Special」は間奏でビブラフォンが効果的に使われたリラックスしたムードの楽曲。 ビッグバンドをバックにした「Temptation」は、ブロードウェイの華やかなネオンがよく似合います。 
  アーバンなテイストが薄く、リラックスしたムードの楽曲としては「New York City Sidewalk Gratings」、「Silver Stones」や「The Carpenter, The Partner and The Gardener」などが挙げられます。 アルバム中最も暗いムードの「Love Is A Beautiful Color」はクラシカルな雰囲気すら感じさせます。

  こうしてアルバムを振り返ると Roger Shriver の作品が本作だけだったことが残念でなりません。 レーベル創設者のゲイリー・マクファーランドが 1971 年に急逝し、アルバム発売時点でスカイ・レーベルの存続が怪しくなっていたことを考えると、むしろ 1 枚でもこの世に出してくれたことを感謝したほうがいいのかもしれません。 事実、このアルバムがスカイ・レーベルの最後のリリースとなっているのです。
  Roger Shriver がこのまま順調に音楽活動を続けていたら、Frank Weber や Henry Gaffney のようなアーバンな SSW に成長し、本作をしのぐ名盤を作り出したにちがいありません。 
  いったい彼はどこへ消えてしまったのでしょうか。

■Roger Shriver / Roger Shriver■

Side 1
Nobody Special
Life Is Like A River
Temptation
New York City Sidewalk Gratings
A Man Of Good Intentions

Side 2
Silver Stones
The Other Side Of A Woman
The Carpenter, The Partner and The Gardener
Beautiful Dream
Love Is A Beautiful Color
Don’t You Ever Leave Me

Produced by Norman Schwartz
Recorded by National Recording Studios, Marc 1972
Arranged and Conducted by David Krivoshei
All Music and Lyrics by Roger Shriver

Guitars : Sam Brown, Bob Mann
Bass : Richard davis
Drums : Grady Tate
Keyboards : David Krivoshei
Flugelhorn : Marvin Stamm
Tenor Sax : Joe Farre;;
Dobro : Eric Weissburg
Vocal Additions : Roger Shriver , Gali Atari
Conducter : Emile Charlap

A Skye Recording Co.Lyd
Buddah records BDS 5125

Charles Brauer

2010-02-20 | SSW
■Charles Brauer / Out In The Open■

  例年になく東京は日照が少なく底冷えする日が続いています。 報道によると 2 月に入って 18 日間で 9 回も雪が舞ったようです。 ところが、今日の土曜日はようやく快晴で気温も 10 度に届く予報。 梅も咲いているので春が待ち遠しくなってきます。

  そこで取り出したのは「Out In The Open」という春の息吹を感じる作品。 アコースティック・ギターの弾き語りを主体とした温かみあふれるアルバムです。 1972 年にCharles Brauer がウィスコンシン州でレコーディングしたこの作品は、ゲストも最小限に留められたシンプルで素朴な味わいが特徴です。 そのうえ、Charles Brauer の声はJames Taylor に通じる優しさを持ち合わせており、この手の SSW 作品としてはオリンピック選手にたとえるならば、標準記録を超えていると言えるでしょう。 

  アルバムは、バンジョーが騒々しくかきならされる「Watermelon Song」以外はすべてCharles Brauer のオリジナル。 美しいギターの音色に身を委ねて安心して聴くことができる粒ぞろいの楽曲が並んでいます。 1 曲目の「Soup Song」のイントロの和みからして名盤の予感。 セカンド・ギターとのコンビネーションも素晴らしく、この曲で一気にアルバムに引き込まれていきます。 つづく「For Now」はクリスチャンミュージックのような清楚な佇まいとハーモニーが印象的。 柔らかなギターの音色が心を癒す「Happy Song」も最高のリラックス・サウンド。 ややテンポアップした「Up In My Tree House」、ハーモニカの入ったフォーキー「Old Man Shorty」と徐々にアルバムは田舎くさくなっていきます。

  B 面は A 面の前半のような落ち着きを取り戻します。 ミディアムで美しいバラード「Together」はアルバムのベストトラックでしょう。 つづく「You’re Much Too Pretty」はベースが入った唯一の曲。 徐々にそのベースが隠し味的に効いてきます。 「Back Porch Song」は犬の鳴き声から始まる、田舎気分の陽気な楽曲。 ハーモニカの音色や、変拍子によるアクセントなど工夫が感じられます。 「Here I Come」もシンプルなメロディーですが、ギターは凝ったアレンジが施されおり、その対比が聴きどころとなっています。 ラストの「The Wren」はかなり地味なミディアム。 鳥の鳴き声などのエフェクトを入れながらフェードアウトしていきました。

  こうして 2 回続けてアルバムを聴きましたが、カントリー風味の強い数曲を除けば、同時代の SSW 作品に引けを取らない出来栄えであることを実感しました。 ヒューマンタッチなボーカルと繊細なギターが見事に溶け込んだサウンドは、名盤と呼ばれる資格が十分に備わっています。 
  このように Charles Brauer の「Out In The Open」は春の日差しが窓越しに感じられる部屋の片隅で、紅茶を飲みながら過ごすひとときには、打ってつけのレコードです。 今朝、新聞を取りに行くと、ヒヨドリが梅の花をつつき、メジロが低木の間を飛び交っていました。 春は着実に近づいているようです。

■Charles Brauer / Out In The Open■

Side 1
Soup Song
For Now
Happy Song
Up In My Tree House
Old Man Shorty
Watermelon Song

Side 2
Together
You’re Much Too Pretty
Back Porch Song
Here I Come
The Wren

Produced by Charles Brauer
Recorded at American Music Corporation, Sauk City, Wis.

All songs written and arrenged by Char;es Brauer
‘Watermelon Song’ which is smoky mountain traditional

Charles Brauer : vocals, guitar, harmonica, banjo
Peter Newton : second guitar, bass
Junior Moose and Paul LaMott : barking

Shagbark Records KS-5005


Ric Masten

2010-02-11 | SSW
■Ric Masten / Time Like These■

  数多くの作品を残している Ric Masten が 1977 年に発表したライブ盤。 正式なタイトルは、「Time Like These with Ric Masten」という作品です。 彼のディスコグラフィーが紹介されたサイトを発見しましたが、ほとんどの作品がライブアルバムという珍しいミュージシャンであることが判りました。 彼は、A Stand-up Poet, A Teller of Tales と称される人物であり、音楽家というカテゴリーにあてはまらない活動を行っていたようです。 僕には朗読している詩の内容は聞き取れませんが、ときおり爆笑がおこる様子からはシニカルな風刺や批判が盛り込まれているように感じます。 単純なお笑いではないですね。

  Ric Masten はその朗読を、Poem や Rap と表現してアルバムのクレジットに明記しています。 あらかじめ完成された作品の朗読が Poem、即興性の高いおしゃべりを Rap として区別しているのではないかと思いますが、定かではありません。 こうした Poem と Rap によって、アルバムを通して聴くのは辛いものがあります。 さだまさしのライブを日本語のわからない外国人が聴いて笑えるわけがありません。 
  そのなかで純粋に楽曲として聴けるのは、 A 面では「Down In The Kitchen」、「My Youngest Daughter」くらいです。
  B 面は Poem/Rap が少ないのでそれなりに向き合える内容になっています。 とくに「In A Telephone Booth」、「Clarity」、「Happening Again」と続く3 曲はオーソドックスなギターの弾き語りとなっています。 ライブ録音なのに拍手がフェードアウトせずに、カットアウトされる粗雑さは残念ですが。 Poem を挟んで始まる「Lonliness」はしんみりしたバラードで、切なさが染み込む仕上がりです。 ラストの「Stand Up In The Boat And Sing A Song Cause We’re Going Over The Falls」は、タイトル通りの陽気なミディアムでした。

  このアルバムには珍しく販売価格がジャケットに印刷されています。 その値段は5.25 ドル。 4 枚以上まとめて買うと、5 枚目からは 1 枚につき4.00 ドルというボリューム・ディスカウントもついてくるというアイディアも面白いですが、正直言って効果があったのかは微妙でしょうね。 

  アメリカの吟遊詩人とも言える Ric Masten の作品はこれしか持っていませんが、他の作品まで手を出すことにはならないと思います。  モノクロームの海辺が美しいジャケットだったことが購入動機でしたが、日本人には不向きの作品でした。 彼の魅力はネイティブ・アメリカンにしか伝わらないのでしょう。

■Ric Masten / Time Like These■

Side 1
Down In The Kitchen
Fred And Grace
Marvin
My Youngest Daughter / In My Own Funny Way
Captain Happy

Side 2
In A Telephone Booth
Clarity
Happening Again
Dancers And Whales / Lonliness
Stand Up In The Boat And Sing A Song Cause We’re Going Over The Falls

Production Supervisor : Ralph J.Hall
Recording Engineer : Howard Larman

Recorded live at the Unitarian Universalist Society , in Sepulveda, California
Distributed by Unitarian Universalist Records