Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

Robb Kunkel

2006-08-22 | SSW
■Robb Kunkel / Abyss■

 1970 年代の初頭に、コロラド州デンバーを拠点として活動した Tumbleweed Records を集中的に取り上げていますが、それも今日が最終回。 今日取り上げるこの Robb Kunkel について、ネットで検索したらいろいろなことが分かりました。 
 まず、この Tumbleweed は数十枚程度の作品を残していると思いましたが、実はアルバムは 9 枚しか残していないことが判明しました。 しかも、この Rob Kunkel が最後の 1 枚となっています。 また、Robb Kunkel は、Tumbleweed のA&R の代表者だったとのこと。 会社の経営状況もある程度はわかっていたであろう Robb Kunkel がどんな思いでこのアルバムを制作していたのでしょうか? 摩訶不思議なサウンドと不気味なジャケットからは、起死回生のヒットを狙っていたとは思えません。 
 アメリカでは若い DJ を中心に、このアルバムの再評価が進んでおり、Robb Kunkel に関する掲示板への書き込みなども多く見られました。 時折、Robb 本人が書き込んでいたりするのには、戸惑いを覚えましたが。 

 さて、このアルバム。 サイケな SSW アルバムと評されることが多いですが、改めて聴きなおすと、予想できない曲展開の連続には改めて驚かされました。 波が岩に砕ける音から始まる「You Were The Morning」はギターのカッティング時点で聞き手のイマジネーションを刺激し、癒し系のボーカルが入るころには、Robb Kunkel の術中にはまってしまったことに気付きます。 波の SE をはさんで、浮遊感に包まれバイオリン・ソロが幻影を誘うかのような「Whispermuse」へと続きます。 サビが意外と雄々しい声なのも不思議で dadada で終わるエンディングも予想外。 曲の存在そのものが意外なカントリーチューン「Country Blues」をはさんで、ピアノの音色が空気を一転させる「O Light」へ。 この曲は厳かな印象のあるクラシカルな作品。 音が途切れないままアルバムタイトル曲の「Abyss」へと。 この曲は同時代のフォークロックでとくに斬新な切り口はありません。
 B 面に移ると、Robb Kunkel ワールドはまさに全開モードです。 ソフトロック的な「Monterrey」は、急にエキセントリックな展開になったり戻ったりとメリハリが強い曲。 そんななか、後半に聴こえるバカテクのギターは、おそらく Robb 自身によるものでしょう。 ラストはグルーヴ感満載に展開し、次の曲が始まったのかと錯覚してしまいます。そんななかにも聴こえる Robb のギター、その音色は、David T.Walker に通じる甘いものです。 ピアノの弾き語りとしっとりしたアレンジで景色を変える「Ten Summers」も、そのまま進むかと思うと、テンポアップしてサックス・ソロへ。 B 面はここまで、先の読めない展開ばかりで、さすがに困惑してしまいます。 そんなところに、ハードなギターのリフで始まる「Airhammer Eddie」が続くので、すでに白旗。 そんな曲も工事現場のドリル音で一気に終了してしまいます。 ピアノ、女性ボーカル、フルートと叙情構成三要素から始まる「Playa De Bagdad」もたまらない名曲。 クラシカルなテイストは、イタリアンプログレの世界観に通じるものがあると思います。 ラストの「Turn Of The Century」は、ゆったりしたピアノやジャジーな展開などが繰り返される曲です。 こうした展開の B 面は、A 面以上に Robb Kunkel の真骨頂で、彼がレーベルの A&R の代表者だったとなると、そこからリリースするミュージシャンもクセモノにならざるを得なかったのだと納得します。 そんなことを考えると、Danny Holien は無個性な SSW で、Pete MaCabe ですらノーマルに聴こえてしまいます。 レーベルの破綻もあって、全くプロモーションされなかったと推測されるこのアルバムは、1973 年に産み落とされた稀有な名盤ということに異論を挟む人はいないでしょう。

 冒頭のほうで、Robb Kunkel や Tumbleweed Records に関する情報をご紹介しましたが、その情報源となったのが、このサイトです。 2004 年に、Robb Kunkel 自身のインタビューも交えて、9 枚の作品解説も掲載されており、かなり興奮してしまいました。 自身のアルバムに対してのコメントの最後には、こんな言葉がありました。 『このアルバムは 500 枚プレスされたが、もしかするとそれ以上だったかもしれない。 会社は、そのリリースと同時につぶれてしまった...』

 最後になりますが、僕の持っているレコードはご覧のとおり FM 局のシールがべったり貼られてしまったものです。 だいぶ前にネット通販で買ったレコードなのですが、その元となる「WRMC」についても調べてみました。 すると出てきたのがバーモント州にある Middlebury College というカレッジ局だったことが判明。 ここのレコード棚にしばらくは保管されていたものを、いつの日か誰かが持ち出し、中古盤に売りさばいたものが、きっと何人かの手を渡って、深海(Abyss)を越えて自分のところにたどり着いたのでしょう。 



■Robb Kunkel / Abyss■

Side-1
You Were The Morning
Whispermuse
Country Blues
O Light
Abyss

Side-2
Monterrey
Ten Summers
Airhammer Eddie
Playa De Bagdad
Turn Of The Century

All Words and Music by Robb Kunkel
Except ‘You Were The Morning’ by T.Stockwell

Robb Kunkel : vocals , electric and acoustic guitars , piano , tamboura
Danny Hilien : electric guitar , backup vocals
Gregory Hammel : drums , percussion
Willy Seltzer : vocals
Stephen Swenson : fender bass
Howard Roberts : guitar and piano
Ray Brown : strings bass
Victor Feldman : percussion , congas
Diana Lee : vocals
Ed Michel : airhammer
Jimmie Bond : string bass

Produced by Ed Michel
Engineered by Baker Bigsby

Srings , woodwinds and all arrangements by Robb Kunkel , Gregory Hammel
Conducted by Jimmie Bond

Tumbleweed Records TWS 111