Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

Margaret Christl

2008-01-24 | Folk
■Margaret Christl / Jockey To The Fair■

  前回に続いてトラディショナル・フォークの作品をピックアップしました。 カナダの女性シンガー Margaret Christl が 1977 年に発表したアルバムです。 このレコードを買った時には彼女の音楽性を全く知りませんでしたので、Joni Mitchell のような SSW 的なサウンドを期待したものです。 そのため、このレコードを最初に聴いたときには落胆したものです。 アルバム全編にわたって楽器はほとんど登場せず、Margaret Christl によるトラディショナルの独唱が延々と繰り広がられるからです。 以前から、British Trad や 1980 年代には The Pogues などを聴いていたとはいえ、ここまでポピュラー音楽と乖離したサウンドは日常生活の延長線で聴くにはやや抵抗感がありました。 しかし、Roxanne & Dan Keding のアルバムを紹介した後の流れにはしっくりはまると思い取り出した次第です。

  アルバムは、2 曲を除いてはトラッドとなっており、それぞれ Canadian / Irish / Scottish / English と明示されています。 しかも、Collected by … や Source といった具合に、出展のコメントが丁寧に述べられています。 こうした情報はリスナーにとって有意義なものだったのでしょうか。
  トラッドではない 2 曲は、Tommy Makem による「Four Green Fields」とEwan MacColl の「Come Me Little Son」です。 後者は、ほとんどトラッドと聴き分けができないようなサウンドですが、前者の「Four Green Fields」はアルバムで唯一のフォーキーなテイストを感じます。 Tommy Makem は 1960 年代に活躍したアイルランドのフォーク・グループ Clancy Brothers のメンバー。 1969 年に脱退してからは、ソロ活動も行ったようでうす。 さすがにこの時代のフォークには詳しくないので、ソロ作品などは聴いたことがありません。 ですが、この「Four Green Fields」は 1967 年に書かれた Tommy Makem を代表する楽曲のようです。 
  
  ジャケットに描かれているのは移動式遊園地のメリーゴーラウンドでしょうか。 誰も馬に乗っていない閑散とした風景が妙に印象に残ります。 そこで「Jockey To The Fair」の Fair の意味を調べてみたところ、英国での使われ方として、<町から町への巡回式見せ物、移動興業>と出てきましたので、想像通りです。

  さて、ここのところちょっとトラッド系が続いたので、次回は SSW らしい作品に戻ろうかと思っています。 ですが、仕事や長めの出張が入ってしまいましたので、10 日ほどアップできないかもしれません。 レコードを聴く時間が欲しい厳冬です。



■Margaret Christl / Jockey To The Fair■

Side-1
Jockey To The Fair
The Furze Field
The Cuckoo Nest
The Bonny Banks Of Airdrie-o
Four Green Fields
Watercresses

Side-2
My Singing Bird
Come Me Little Son
Love Let Me In
High Germany
The Morning Dew
Night Visiting Song
MacCrimmon’s Lament

Grit Laskin ; guitar , dulcimer , concertina , button accordion & harmony vocals
Alistair Brown ; harmony vocals
Stewart Cameron ; concertina , harmony vocals
Other Voices on ‘Watercresses’ were Jenny Thomas , Michael Wright , Judith Laskin , Dave Essig

Recorded Oct , 1977 Sound Kettele Ltd., Kearney Ontario

Produced by Dave Essig

Woodshed Records WS 009

Roxanne & Dan Keding

2008-01-19 | Folk
■Roxanne & Dan Keding / From Far & Near■

  Roxanne & Dan Keding はウィスコンシン州をベースに、トラディショナルなフォークソングを丁寧に歌った心温まるデュオ。 この頃ふたりは音楽のみならず人生でもパートナーでしたが、彼らの奏でる無垢で素朴な味わいのある音楽には手織物のような肌触りがあります。
  1980 年にリリースされたこのアルバムは、1 曲を除いてトラッドばかりを集めた作品となっており、サウンドもアコースティックでシンプル極まりないもの。 Roxanne が澄んだ高音のボーカルを、Dan が渋いアルトを交互に繰り広げるというパターンが多く、時には二人の声がたわむれる蝶のように重なり合うこともあります。 そこに感じ取るのは楽曲に対して忠実であろうとする姿勢と、歌を伝承するという使命感みたいなものです。 そんなに肩肘張ったものではないかもしれませんが、テクノロジーやエンターテイメントからはかけ離れた音楽には違いありません。

  気になる曲といえば、「Willie Of Winsbury」です。 この曲のみフルートが入ってくることもあり、美しいメロディーとともに耳に残ります。 Roxanne のボーカルとフルートが交錯するあたりはアルバムでも屈指の場面でしょう。 ところでメロディーにどこか聴き覚えがあると思ったら、Fairport Convention の「Farewell Farewell」と同じなのです。 Fairport Convention のほうが改作しているようですが、手元に「Leige And Lief」が無いのでクレジットでの確認はできません。 こちらのブログが参考になりました。

  このアルバムには、Child Ballad と書かれた曲が 2 曲収録されており、1曲は先の「Willie Of Winsbury」で #100 という番号が、もう 1 曲は「Robinhood」で #120 という番号が振られています。  この Child Ballad とは何なのか。 さきほどまでは「童謡」に違いないと勝手に思い込んでいました。 「子どものバラード」と思い込んだ解釈です。 しかし、これは全くトンチンカンだったのです。 Child Ballad の Child は子どもではなくFrancis James Child という学者の名前だったのです。
   Wikipedia にもあるように、19 世紀の学者フランシス・ジェームズ・チャイルド(Francis James Child)は、イギリスとアメリカのフォークソングを収集調査して分類を行い付番したものを 5 巻の出版物にまとめました。 それが、チャイルド・バラッドなのです。 今まで何度か目にしたことのある言葉でしたが、意味までは深く考えませんでした。

  Roxanne & Dan Keding は、このアルバムの翌年 1981 年に同じ Traveller Records から「In Came That Rooster」を発表しています。 こちらの方は持っていませんので機会があったら手にしたいと思います。 その後、ふたりはコンビを解消してしまったようで、Dan Keding はソロとして数枚の作品を発表。 公式サイトからは元気そうな姿が伝わってきます。 一方の Roxanne Keding も、Roxanne Neat として地元の小さなクラブやライブハウスで地道に活動している模様です。



■Roxanne & Dan Keding / From Far & Near■

Side-1
Prickilie Bush
Lord Franklin
Lady Franklin’s Lament
Botler
The Little Drummer
Willie Of Winsbury
Bonnie Black Bess

Side-2
Oats & Beans
Robinhood
Gypsy Davy
Haste To The weddeing
Play Us A Waltz
Rivers Of Wisconsin

Produced by Mary Donn & Roxanne & Dan Kedding
Arranged by Roxanne & Dan Keding

All Songs are traditional except for ‘Play Us A Waltz’ by Charlie Maguire and ‘Rivers Of Wisconsin’ words by Dan Keding

Roxanne Keding : six string guitar , autoharp , dulcimer , bones , vocals
Dan Keding : six & twelve string guitar , vocals

John Knudson : alto flute on ‘Willy Of Winsbury’
Phil & Sue Whitford : background vocals on ‘Play Us A Waltz’

Recorded at Audio Ltd. Cross Plains, Wisconsin
Mastering by Bob Berglund at Sound 80 , Minneapolis , Minn.

Traveler Records

John Corbin

2008-01-13 | SSW
■John Corbin / Fragments■

  ジャケットから中身を想像するのはレコード収集の楽しみの重要な要素だと思いますが、このジャケットには何の魅力も感じませんでした。 ヘタすると、B 級以下のロックンロールが飛び出してもおかしくありません。 今日、あらためてレコードを聴いていますが、John Corbin が持たなくてもいいエレキギターを抱えている意味がさっぱりわかりません。 というのも、John Corbin はボーカルとピアノをメインとするミュージシャンだからです。 アルバムを通じてエレキギターのカッティングやソロはいっさい聴こえてこないのです。

  では、どんな内容なのかというとこれがひと言で表現できないサウンドです。 ダルシマーが響いたり、ARP シンセの音がしたり、一気にフォーキーになったり、陽気なカントリーになったりと支離滅裂とも言える編成なのです。 John Corbin がこのアルバムで何を表現したかったのかは、リスナーには理解不能なのです。 タイトルどおり「破片」の集まりといってはそれまでなのですが。
  アルバムは 1981 年にミズーリ州の Mack’s Creek という片田舎でレコーディングされました。 ローカルなレーベルのリリースなので、ニューヨークやロスでこのレコードを手にした人はいなかったのと思われます。 音楽業界はすでにメガヒットの時代に突入し、AOR だ DISCO だという流れだったからです。

  アルバムは一種のコンセプト・アルバムのように目まぐるしく変化します。 アルバムは冒頭の「Fragments (part one)」は、シンセによる SE やピアノ、ボーカルパートへと変容する序曲のような存在。 風のエフェクトから始まる「Cold Frosty Morning」は、ダルシマーとフィドルを主体としたインストです。 こんな展開はふつう予想できません。 再度、荒涼とした風が吹くと、アイリッシュ・トラッドのような「Sea Dawn Maiden」へ。 Judy Dockery のリコーダーの余韻が耳に残っているうちに始まる「Sourwood Mountain」は、またダルシマーといった具合にアルバムは展開していきます。 A 面ラストの「The Refugee」は、John Corbin の弾き語りによる「聴かせる」楽曲。 アルバムのなかでは最も SSW 的な楽曲なのですが、常に小鳥や虫の声の SE を入れているところが変わっています。

  B 面に入るとしっかりと歌を聴かせる楽曲が並びます。 「German Band Waltz」は弾き語りのワルツから徐々にコーラスや管楽器が増えてくるアレンジ。 Tom Waits の名曲「In The Neighborhood」に近いセンスです。 つづく「The Ash Grove」は英国的な匂いがするトラッドですが名曲です。  「I Couldn’t Be Happy」は、John Corbin が仰々しく歌いあげ、コーラスも厚みを増してくるのですが、ドラで終わるのがいまひとつ。 ポエトリー・リーディングのような小曲「Interiors」は後半部分で叙情的なピアノ・ソロがつづきアルバムのハイライトへと向かう予感を感じさせます。 が、「The Fiddler」は電話の SE から始まる凡庸なカントリー。 一気にここで興醒めするのですが、ここの流れをどのように解釈すればいいのか、僕はいまだに答えが見つかりません。 フィドルやコーラスによる陽気で愉快な楽曲なのですが、だとすればその前の 4 曲の重々しさは何だったのでしょうか。 頭が混乱しているうちにラストの「Fragments (part two)」なのですが、1970 年代にありがちなラジオのチューニングをしているエフェクトからようやく選曲され始まります。 しかし、トロンボーンのソロとともにあっけなくフェードアウトしてしまい、リスナーをさらに困惑させたまま、アルバムは幕を閉じます。
  
  このアルバムを聴いて思い出すアーティストが二組います。 ひとつは、このブログでも取り上げた Jeff Eubank です。 彼とは同じミズーリ州のミュージシャンということもあるのかもしれませんが、ARP シンセサイザーの入れ方や、アルバム全体の不安定さが良く似ていると感じます。 制作も 2 年しか違わないので、この頃のミズーリ州特有の何かがあるのでしょうか。 もうひとつは、1980 年代後半に活動した Camper Van Beethoven というバンドです。 彼らは解散したものの再結成しているらしいのですが、サウンドコラージュやあらゆるジャンルを飲み込んでしまう消化力に通じるものがあります。 しかし、この John Corbin は何を企んでいたのでしょうか。  あとアルバムが1枚あれば彼の本性が見えてくるはずなのですが…


  
■John Corbin / Fragments■

Side-1
Fragments (part one)
Cold Frosty Morning
Sea Dawn Maiden
Sourwood Mountain
The Refugee

Side-2
German Band Waltz
The Ash Grove
I Couldn’t Be Happy
Interiors
The Fiddler
Fragments (part two)

Produced by John Corbin
Production cordinator : Judy Dockrey
Executive Producer : B.J. Camahan

Recorded at Audio Loft Studios , Mack’s Creek, MO

John Corbin : vocals , kawai grand piano , Prinz hammer dulcimer , pianolin , tamborine , 6-strings golden era , tympani , ARP omni synthesizer
David Milligan : piano , electric bass
Brad Edwards : percussion
Tammy Kittrell : vocals, mandolin , mountain dulcimer
Judy Dockery : vocals , ARP omni synthesizer , alto recorder , soprano recorder , cymbal
Steve Carter : 6-strings golden era , triangle , manolin
David Wayne : T-40 bass , pedal , gyro , multi-effects , vocals
Kelly R.Jones : violin
Dan Crockett : trombones
Dwight Swadley : trumpet
April Armstrong : vocals
Susie Nicholas : vocals
Richard McDole : vocals
Alan Freeman : vocals

BOC-LPS-2016

Mark Jorg

2008-01-05 | Folk
■Mark Jorg / Come Home My Son■

  今から 10 年ほど前のベストセラーに「マディソン郡の橋」という小説があります。 後にクリント・イーストウッドによって映画化され、こちらも大ヒットとなったので、ご覧になった方も多いでしょう。 といいつつ、自分は小説をハードカバーで買ったものの集中して読むことが出来ずに途中棄権。 映画の方も見ていませんので、知ったかぶりすらできません。 ですが、今日取り上げるアルバムのジャケットを見るたびに、「マディソン郡の橋」のことを連想してしまいます。 ネットで調べたところ、このような橋を「カバード・ブリッジ」と呼ぶそうで、風雪の厳しいアメリカの北西部やニューイングランドによく見られるそうです。 

 「マディソン郡の橋」の舞台は今日から大統領選挙の始まったアイオワ州。 民主党はオバマ候補がヒラリー候補に勝ったとのニュースです。 一方、今日取り上げている Mark Jorg のアルバムはオレゴン州でレコーディングされたものです。 後述しますが、ジャケットのカバード・ブリッジもオレゴン州で撮影されました。 アルバムのレコーディング年は明記されていませんが、1970 年に地元の高校で学んでいることが書かれていることから、1970 年代中盤以降の作品だと思います。 このジャケットからどんな音が飛び出してくるか実に興味深いところですが、1960 年代風にフォーキーといった風情です。 ほとんどが彼自身のギターの弾き語りで、歌い方も Phil Ochs に似ているのです。 歌い方というよりも発声方法と言った方が近いかもしれません。 アルバムの楽曲も孤独な男臭さ、辛らつな批評といったテイストを感じる曲が多く、James Taylor や Carole King が切り開いた SSW 時代を迎える前のサウンドに思えてなりません。 
  そんなアルバムからいくつかの曲をピックアップしてみました。 オープニングの「Master’s Walk」はギターとフルートの絡むミディアム。 ギター以外の楽器が聴けるのはこの曲だけということもあって緩やかな和み系となっています。 タイトル曲「Come Home My Son」は、Chris Jorg のハーモニーが聴ける優しい楽曲。 Chris Jorg とは兄弟でしょうか、もしかすると父親のような気がします。 最もメロディアスな 「Man And Wife」は B 面のなかで光る楽曲。 女性コーラスとのハモリが新鮮に響くラスト「Lonely Road」は、不安定なフェードアウトが微妙な後味を残します。 

  ジャケットで Mark Jorg が渡ろうとしているカバード・ブリッジは、オレゴン州に実在したものらしく、裏面に Mark Jorg on the road at the Abiqua River , Two miles south of Mount Angel Abbey とクレジットされています。 そこで早速 Google Map で、「Mount Angel Abbey」と検索したところ、それらしき場所が出てきました。 オレゴン州はカリフォルニア州の北に位置しているので太平洋に面しているのですが、「Mount Angel Abbey」はポートランドから南に下りた小さな街でした。 僕は昔から地図を眺めていると好奇心が掻き立てられるタイプです。 なので、もし自分にお金と時間と冒険心があれば、アメリカを旅して、このカバード・ブリッジが存在した場所を探してみたいと思います。 そこまで思い入れの強い作品ではないのですが、ロードムービーのような世界に入り込んでみたくなってきました。 この橋が現存している可能性はかなり薄いと思いますが、もし未だに存在していたら Mark Jorg と同じこの構図でポーズをきめてみたいものです。



■Mark Jorg / Come Home My Son■

Side-1
Master’s Walk
Ecology
Child
This Lonely Man
Come Home My Son

Side-2
Listen
Man And Wife
What Have You Done
Blind Man
Lonely Road

Original Music and Lyrics Sung by Mark Jorg

Second Guitar and Vocal Harmony : Chris Jorg
Flute : Joseph Panessa
Soprano Harmony on ‘Lonely Road’ : LaDonna Fry

Mt. Angel Abbey Records

Billy B.

2008-01-04 | SSW
■Billy B. / Sings About Trees■

  正月の新聞やテレビでは毎年のように環境や資源の問題が報道されます。 ペットボトルの回収は家庭にまで浸透し、省エネや廃棄物削減などの環境活動は CSR に組み込まれ、企業の主要な役割になっています。 「アメリカが京都議定書にサインしない」という報道は多くの人が知っていて、それを「超大国の驕りだ」と反発することは簡単ですが、その真意や背後にあるものを見通す力を誰もが持ち合わせているかといえば、けしてそうではないことも事実。 個人の意向と国家の意志が相反することが世の常であることは歴史的にも明らかなので、そうした事例の一つとして片付けてしまうという手もあったりして。

  さて、2008 年の最初にピックアップした Billy B. こと Billy Brennan は、30 年以上前から子どもたちに歌とダンスの楽しさを伝えてきたミュージシャンです。 全米各地でのパフォーマンスやテレビ番組への出演を通じて、200 万人以上の子どもたちに親しまれてきたということが彼の公式サイトに掲載されています。 日本の田中星児をよりマイナーにしたような存在なのでしょう。 いまは佐藤弘道の時代ですけど。
  このアルバムは 1978 年の発表で、彼のオリジナルアルバムのなかでは、初期の作品だと思われます。 公式サイトのディスコグラフィーには CD 化されたこのアルバムも紹介されていますが、残念ながらリリース年についての記載はありませんでした。 「木について歌う」というストレートなタイトルからは Billy B. が木の成長を通じて自然環境や四季の美しさをテーマにしたことが分かります。 このアルバムには「Book Of Lyrics and Dance Instruction」と題された 28 ページものブックレットが封入されており、これがかなりの手作り感があって感心させられます。 このブックレットをめくり歌詞をたどりながらレコードを聴くのは幸せなひとときと言えるでしょう。 
  肝心のサウンドはどうかと言うと、子供向けのアルバムにありがちな幼稚なテイストや過剰な SE などが無く、大人も十分に楽しめる内容です。  「What Is A Tree?」は、Billy B. のアコギをバックにした陽気なフォーキー。 「I Am A Sprout」や「Song Of The Young Tree」と続けてほのぼのした SSW サウンドが楽しめます。 「My Roots」に至っては、スワンプ系 SSW のアルバムに入っていても違和感が無いようなブルース。  「This Bark On Me」と「Making Seeds」はソフトロック的なエッセンスを感じる佳作です。 特に後者はアシッドな浮遊感もあり、アルバムを代表する作品となっています。

  B 面の「Yummy, Yummy」では、「Song Of The Young Tree」のリプライズで♪Sunshine Energy♪というテーマが繰り返されます。  「Blow Away Baby」は風雪に耐える様を表現していることもあり、珍しく重たい気分の曲。  「The Nut Story」、「Wake Up!」は軽やかなフォーキー。 大きくなあれ!という「Grow, Trees Grow」を挟んで、「Making That Sugar」は英国ニッチポップの香りのする楽曲。 XTC にも通じる匂いでお薦めです。 大きく育った木も葉を落とす様が歌われる「It’s Autumn」がアルバムのラスト。 子ども向けの作品とは思えないほど、さりげなくフェードアウトすると北風の音でエンディングとなります。 
  このアルバムの特筆すべき点は、個々の楽曲の質も高く、チャイルディッシュに偏っていないこともあり、コンセプトを抜きにして SSW アルバムとして成立しているところです。 大人と子どもが同時に楽しめるという音楽を Billy B. は目指していたのでしょうか。 まだ、エデュテイメントという造語が無かった時代に、Billy B. の音楽とダンスを通じた教育活動はアメリカの国民にどのように受け入れられたのでしょう。 セサミストリートのような巨大ビジネスとはほど遠いパーソナルな普及活動のようにしか見えない Billy B. のキャリアが 30 年以上に渡って指示されているのは彼の志の高さによるものだと思います。 アメリカでもごく一部の人しか知らないミュージシャンに違いないのですが、こうして彼の活動と作品に触れると、アメリカという国の懐の深さを感じます。
 
 Billy B. はゴア副大統領をはじめとするアメリカでの温暖化対策運動をどのような思いで見ているのでしょうか。 僕は Billy B. のような草の根運動の気高さの前には、知名度のある人物の活動はどうもウソ臭く思えてしまいます。 それは僕が偏屈だからかもしれません。 
 そういえば、チャリティーの対象は違いますが、ひと頃盛り上がった「ホワイトリング」の活動がありました。 あの動きに賛同した多くの日本のミュージシャンはその意志を持続できているのでしょうか。



  これがブックレット

■Billy B. / Sings About Trees■

Side-1
What Is A Tree?
I Am A Sprout
Song Of The Young Tree
My Roots
This Barks On Me
Making Seeds

Side-2
Yummy, Yummy
Blow Away Baby
The Nut Story
Wake Up!
Grow, Trees Grow
Making That Sugar
It’s Autumn

All songs written by Bill Brennan

Billy B. : acoustic guitar , vocals
John Seydewotz : percussion , arrangements , execution , ma…ma…marimba
Jeff Hill : bass , arp omni , glockenspiel , harmonies , crying
Dave Kenney : twelve string saviour , saw , harmonies
Henry Nigro : electric guitar , bass , arp omni , gold teeth
Gary Whittemore : drums , percussion , amiable responsiveness
Rebeka Armstrong : harmonies , awakening those behind the glass
The Mighty Kid Chorus : Susan Mackay , Pamela Albinson , Brendan Collins
Allunday Willamore : years of support

Richard Appleman : double bass
Alan Whittemore : bass , vocal
Erick Montgomery : traps

(P)&(C) 1978 Do Dreams Music
Skrat Records