Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

Joseph Nicoletti

2007-07-27 | AOR
■Joseph Nicoletti / Joseph■

 カリフォルニアというと陽気で明るい雰囲気から、能天気なハードロックとか爽やかな AOR をイメージしがちですが、人知れずマニアックな SSW が出没しているようです。 このブログでも以前に Jon TabakinEric Relph といった奇才のアルバムを紹介してきましたが、今日取り上げる Joseph Nicoletti も同じカテゴリーに位置付けられるミュージシャンです。 とはいえ、彼ら 2 人に比類するほどのレベルかというとそれも微妙ということで、このアルバムを紹介しているサイトは Google で検索しても全く見つかりませんでした。
 
 このアルバムが不幸なのは、1 曲目「Streetwise」の駄目さ加減が際立っていることです。 どうすればここまで格好悪くアレンジできるのかと思うほどの、いなたいロックナンバーですが、それを助長しているのが古臭い ARP っぽいシンセの音です。 つづく「Lifetime Fantasy Dancer」もタイトルからしてセンスが感じられないバラード。 いまひとつしっくりこないのは、Joseph Nicoletti のボーカルに粘り気があり、さらっとしたテイストが全くないからです。 最も近い声質とか歌い方は、つのだ☆ひろ、といってもいいくらいですから。 これが、Ned Doheny のようなボーカルだったら、全く違った風景が広がって見えることでしょう。 さて、こんな酷評を続けていたらアルバムはどんなひどいものになってしまうのかと心配になってしまいますね。 しかし、徐々に慣れてくると曲の出来も良く感じられてくるのが不思議なところです。 「Part-Time Believer」は、Bill Champlin あたりに歌わせたいアダルトなアップ。 ピアノの音に導かれて始まる「Lullaby」はA面を代表するバラード。 Joseph のボーカルも力みが抜けて、おおらかさを感じることができます。 子どもたちは未来だという「Children Are The Future」は、一気にメロウな AOR というムード。 おそらく、クラブ DJ がこのアルバムを聴いたら、この曲をチョイスするだろうなというクオリティです。 最初の 2 曲は何だったんだ!というA面ですね。

 B 面に入ると、尻上がりに調子が上がってくるこのアルバムの特徴が如実に表れてきます。 「Night-Time Stars」は、サンバのリズムをベースにしたグルーヴ感あふれるミディアム。 サックスのソロや二人のパーカッション、弾けるベースなどインスト・パートの充実も光ります。 つづく「On The Wings Of Love」も、メロウなミディアム。 どこに出しても恥ずかしくないクオリティの爽やかなナンバーです。  「Music Man’s Lady」も同じ流れを汲んだミディアム。 この B 面の流れのスムースなところが、このアルバムのハイライトでもあり、最大の魅力となっています。 しかし、「音楽家の彼女」と言われても、どんな歌詞なのでしょうか。 ラストの「Gypsy」は、リズムがちょっとラテンな感じでリゾート感覚あふれるサウンドとなっています。 B 面は 4 曲しかなく、トータルで 15 分に満たないのですが、この B 面のサウンドが Joseph Nicoletti の真の姿なのです。 それだけに、1 曲目の「Streetwise」は残念です。 このアルバムを聴くには、A 面の 4 曲目「Lullaby」あたりから針を落とせば十分という気すらします。 それでは、20 分ちょっとで終わってしまいますけど。

 最後にこのアルバムのクレジットをおさらいしておきましょう。 Joseph Nicoletti は、Eric Relph で有名というよりは MTV のセレブ・ドラマで有名なラグーナ・ビーチ出身とのことです。 この作品以外にレコードをみたことのない Starborne Records の創業者は Ed Taub という人物ですが、彼のこともよくわかりません。ただ、クレジットには、この両名がタッグを組んで Joseph Nicoletti という稀有な才能を世に送り出すと誇らしげに書かれています。 どれだけの人がこのレコードを手にしたかは知る由もありませんが、1977 年に発表されたこのアルバムは、ごく微量ながらも不思議なオーラを放っているように感じてなりません。


 
■Joseph Nicoletti / Joseph■

Side-1
Streetwise
Lifetime Fantasy Dancer
Part-Time Believer
Lullaby
Children Are The Future

Side-2
Night-Time Stars
On The Wings Of Love
Music Man’s Lady
Gypsy

Songwriter – Singer : Joseph Nicoletti
Arranger : Joseph Nicoletti
Producer : Joseph Nicoletti

Keyboards : Charles Otwell , Robert Cammack , Dev Donnelly
Lead Guitar : Greg Arregiuin Jawxillion
Bass Guitar : Ken Walters , Charles Ewing , Don Velazquez
Rhythm Guitar : Joseph Nicoletti
Drums : Tony Morales , Greg Edalatpour , John Ferro

Percussion : Alex Gutierrez , Paul Kriebick
Horns : Michael Morera
Lead Vocals : Joseph Nicoletti
Back-up Vocals : Colleen Harvey , Jiseph Nicoletti

Starborne Records S-2001

Wings

2007-07-23 | Soft Rock
■Wings / Wings■

  Wings といっても、Paul McCartney の Wings ではないことは一目瞭然。 こちらの Wings のほうが、Paul のよりも古いために元祖といってもいいのですが、知名度が全く劣るために、Dunhill Wings とでも呼びましょうか。 こちらの、Wings は名門 Dunhill から 1968 年にリリースされました。 Dunhill といえば、「Let’s Love For Today」の The Grass Roots 、「The Eve Of Destruction」のBarry McGuire 、そして、Mamas & Papas などで有名な ABC 傘下のレーベル。 レコードコレクターのなかでは、ダンヒル系という用語で語られる一派ですね。 そんなダンヒル系のなかでは、こじんまりと納まっている感じのWings ですが、アルバムは、ヴァラエティに富んでいて、CD 化されてもおかしくない内容になっています。

  無伴奏のコーラスではっとさせるイントロの「See Someone Hangin’」でアルバムは幕を開けます。  意識的にラフでルーズな感覚を出そうとしてるのですが、やはりお行儀の良さを消すことの出来ないカントリーという印象です。 続く、「That’s Not Real」は典型的なソフトロックのワルツ。 このジャンルでワルツというとThe City の「Snow Queen」が代表格かと思いますが、かなりそれに通じる出来です。 「General Bringdown」は、マージービートに近い感覚を感じるサウンド。 えぐいギターソロも入ったりして、カッコイイです。 フォークを意識したボーカルとソフトなアレンジの組み合わせが面白い 「First Time Is The Last」をはさんで、A面ラストの「What Do I Know」へ。 ちょっと地味なミディアムですね。

 B 面に移ります。 トップの「Pretty Little Girl」は、サイケな雰囲気とほんわかした感じがドノバン風です。 (といっても、ドノバンを聴き込んでいるわけではありませんが…) つづく「Takin’ It Easy」は、リラックスした牧歌的な曲調。 昼寝でもしてしまいそうです。 「Shrinking Violet」は、ボードヴィル調のピアノに Pam Robins という女性のリードボーカルが重なるファニーな曲。 ソフトロックのど真ん中という感じの「Different Kind Of Woman」のメロウな感じから一転して、アップな「Changes (Keep Coming About)」は始まります。 この曲は、シングル向きのキャッチーな曲で 2 分 22 秒という短さのなかに、変拍子・口笛・複雑なコーラスなどの要素が盛り込まれているレベルの高い作品です。 ラストの「Give Me Your Love」は、彼らにしてはハードな作風で、ギターソロが中途半端に余韻を残して、曲が終わってしまう感じです。

 このアルバムについては、メンバー・クレジットが無いためにいろいろネットで探してみたところ、ソフトロックの Spanky and Our Gang の主要メンバーであった、Oz Bach が 1967 年に結成したグループだということが分かりました。 Spanky and Our Gang に関する詳細なページに、Oz Bach のコーナーがあり、そこに Wings のコーナーもありました。 このアルバムに関する詳細なクレジットも見ることができますので、時間のあるかたは訪れてみてください。

 しかし、僕の持っているレコードには歌詞カードらしきものもなく、詳細なクレジットを知ることができなかったのですが、インターネットは便利ですね。 中古レコードには、ジャケットと盤以外の付属物が完備されているとは限りません。 そんなときに、Wings Dunhill で検索したら発見することができたこの情報。  どう活かすかは自分次第ですが、Oz Back が Spanky とWings の間に、Tarantula というグループを結成し、やはり 1 枚で解散していることを初めて知りました。 いつも同じ角度と表情で写真に写る Oz Bach は、飽きっぽい性格なのでしょうか。 かなりの変わり者のようですね。



■Wings / Wings■

Side-1
See Someone Hangin’
That’s Not Real
General Bringdown
First Time Is The Last
What Do I Know

Side-2
Pretty Little Girl
Takin’ It Easy
Shrinking Violet
Different Kind Of Woman
Changes (Keep Coming About)
Give Me Your Love

Produced by Steve Barri
Strings arranged and conducted by Jimmie Haskell

Dunhill Records DS-50046

Daybreak

2007-07-17 | Christian Music
■Daybreak / After The Rain■

  前回に続いて、雨を題材にしたアルバムを。 雨が上がったらということで、クリスチャン系のグループ Daybreak の「After The Rain」をピックアップしてみました。 アルバムを買うときには、どちらがタイトルで、どちらがアーティスト名なのか、分からないまま勢いで買ってしまった覚えがありますが、間違いなく Daybreak がアーティスト名です。
  このアルバムは 1976 年にナッシュビルで録音され、発表された作品ですが、ジャンル的にはクリスチャン・ミュージックの部類にカテゴライズされるものです。 さっそく、針を落としてみましょう。

  梅雨が明けたら夏の日差しということで、アルバム冒頭を飾る「Summer Sun」は、爽やかなアカペラ・コーラスナンバー。 続いているかのようにリズムセクションが聴こえてくると、それはすでに 2 曲目の「Who’s Fool Are You?」です。 「誰の虜なの?」という意味でしょうか。 パワー・ポップ的なナンバーに続いては、しっとり系バラードの「And I Love You」へ。 コーラスに、♪Jesus♪と聴こえてくるように、この曲は決して身近な人への愛を歌ったものではなさそうです。 つづく「He May Be Coming Soon」は、陽気なミディアム・ナンバー。  ここでの He も彼氏ではありません。 メンバー以外が書いた唯一の曲となる「Movin’ On」は、コーラスとベース、パーカッションのみのシンプルな楽曲。 それにしてはアルバム最長の5分超となっているのは、同じフレーズを繰り返しながら徐々に盛り上げていくという典型的なスタイルだからです。

  アルバムタイトル曲「After The Rain」には悲しい過去がありました。 それは、Daybreak のドラマーとして 2 年間いっしょにプレイしてきた Ray Sauder が 1975 年にニュージャージーで溺死してしまったという出来事です。 そして、その死の直前に彼が書き下ろしていたのが、この曲だったのです。 ということで、この曲はアルバムのタイトルにもなり、Ray Sauder がこの世に残した唯一の楽曲なのです。 そうした事実からは想像もできないように明るく陽気なナンバーなのですが、たしかに自分の運命を予感して曲作りをする人などいないですね。 この明るさが、悲しいエピソードと対比されて、アルバムのなかでも最も輝きを放つナンバーになっています。
  つづく「Free In You」はピアノに導かれるミディアム・バラード。 リード・ボーカルの伸びやかなハイトーンが印象的です。  「Send Me Your Rain」は、久しぶりに分厚いコーラスワークが堪能できるほんわか系のミディアムで、彼らの真骨頂が発揮されています。 つづく「Lord Forgive Me」は意識的にルーズでスワンピーなアレンジにしていますが、コーラスがきれいなのでその色に染まりきれていません。  ノーマルなカントリー「Back On The Road」に続いては、冒頭の「Summer Sun」の Reprise となりアルバムはエンディングを迎えます。   Reprise というよりは、曲の後半部分という感じに聴こえます。

 このようにアルバムを通じて言えるのは、ソングライティングは中々のものがあり、クリスチャン系のサウンドのいい部分が表れたアルバムだということです。 信仰心あふれる若者たちが、夢や希望を音楽にのせて表現する。 そんなレコードがアメリカの各地で録音され発表されたのが 1970 年代から 80 年代前半です。 政治的な背景や、経済的な問題などは時代それぞれに抱えていたはずですが、この時代のアメリカの音楽には、二度と見ることができない新緑のような眩しさを感じることがあります。



■Daybreak / After The Rain■

Side-1
Summer Sun
Who’s Fool Are You?
And I Love You
He May Be Coming Soon
Movin’ On

Side-2
After The Rain
Free In You
Send Me Your Rain
Lord Forgive Me
Back On The Road
Summer Sun (Reprise)

Produced by Randy and Monty Matthews

Marlin Nafziger : bass , vocals
Daryl Shirk : lead vocals
Jim Nafziger : lead guitar , harmonica , vocals
Fred Miller : drums
Vernon Stoltzfus : lead vocals , piano

Mike Johnson : bass . lead guitar , piano
Bobby Daniels : drums , percussion

Holy Kiss Records HK-01

Bonnie Dobson

2007-07-16 | Folk
■Bonnie Dobson / Good Morning Rain■

  7 月に上陸した台風としては過去最大規模という台風 4 号が、日本列島を縦断しました。 この台風が通り過たら一気に梅雨明けになるのかなと思えば、そうでもなさそうです。
  今日は一日中、家に閉じ込められてしまったので、雨にまつわるアルバムを取り出してみました。 1960 年代初頭から活動しているカナダ出身のフォーク・ミュージシャン Bonnie Dobson が 1969 年に RCA からリリースした名盤です。  彼女は活動歴の古さからみれば、Joni Mitchell の大先輩とも言えるのですが、なかなか確固たる評価がされてないところが気になります。 それは、1970 年代以降に音楽活動が停滞してしまったことが大きいのでしょう。 しかし近年になって彼女のアルバムの CD 化が始まり、この「Good Morning Rain」も今年になって初めて CD 化されました。

 さて、アルバム全 11 曲のうち、オリジナルの作品は、「Sweet Man」、「You Don’t Know」そして「Good Morning Rain」の 3 曲のみとなっており、これらはA面に収録されています。 これらのなかでは、やはりアルバムタイトル曲の「Good Morning Rain」の出来が群を抜いています。清潔感のある彼女のハイトーン・ボーカルとギターのアルペジオが重なり、心地よく展開していくこの曲は、ちょうど、今日の天気のように雨が上がって、窓を開けるとひんやりした空気を感じる瞬間のような気分です。
 つづいて目立つのは、英国フォーク界の大御所 Ralph McTell のカバーで、これも 3 曲あります。  それは「Clown」、「Streets Of London」、「Factory Girl」ですが、なかでも彼が 1969 年に発表した代表曲「Streets Of London」は数多くのミュージシャンにカバーされているスタンダードといえる名曲です。 McTell によるオリジナルも 1969 年の発表ですので、Bonnie Dobson のカバーは、もしかすると最初のカバーかもしれません。 少なくとも Mary Hopkins のカバー(1970年)より古いことは確実です。  「Clown」と「Factory Girl」は、McTell の 3 枚目のアルバム「My Side Of Your Window」に収録されているようですが、聴いたことはありません。 前者は地味な小曲でしたが、後者は牧歌的な美しいワルツ。 ストリングスの流麗なアレンジがいやみにならずに効いています。

  他の作品のなかで目立った 3 曲を紹介しましょう。 アルバムのオープニングを飾る「Light Of Love」は品のある Bonnie Dobson の歌声が伸びやかに響く名曲です。  B 面冒頭の 「White Song」はアップで可愛らしいナンバー。 おそらくは人気曲だと思いますが、♪I’m in love with you♪というサビにはちょっと恥ずかしさを感じます。 ソフトロックに位置付けても何の違和感がありません。 作者として Mitchell-Prokop というクレジットがされています。 ラストの「A Taste Of Honey」は、The Beatles もカバーした「蜜の味」。 The Beatles のバージョンも個人的に好きでなかったのですが、ここで聴けるバージョンはかなりスロウなもので、ややもったいぶったように聴こえてしまいます。

  ソバカス娘みたいに写っているこのジャケットからは、1970 年代のシンガーソングライター全盛期の作品かのように思えてしまいますが、このアルバムは 1969 年に発表されています。 60 年代独特のこもった感じといなたさとかを全く感じないサウンドになっていることを考えると、時代がすこし早すぎたのかもしれないとさえ思います。
  いつものように Bonnie Dobson についてネットで調べてみましたが、残念ながら彼女の公式ページは発見できませんでした。 その代わりと言っては何ですが、彼女の完璧なディスコグラフィーが掲載されたサイトを見つけました。 かなり参考になるサイトですので、一度は訪れてみてください。 



■Bonnie Dobson / Good Morning Rain■

Side-1
Light Of Love
Sweet Man
You Don’t Know
Clown
Good Morning Rain
Milk And Honey

Side-2
White Song
Do What You Gotta Do
Factory Girl
Streets Of London
A Taste Of Honey

Produced by Nimbus 9
Producer : Jack Richardosn
Arranged and Conducted by Ben McPeek

Recorded in RCA’s Nashville Sound Studio , Nashville , Tennessee

RCA Victor LSP-4277

Cheri Adams

2007-07-14 | SSW
■Cheri Adams / Sweet & Sour Songs■

  「花魁道中」(おいらんどうちゅう)と書かれたハッピを着た女性。  この四文字熟語の意味などは全く知る由もないという笑顔です。 しかも写真の場面は、どこかの飲食店の厨房みたいな感じ。 女性は無邪気にヤキソバのようなものを炒めています。 この観光気分満載のジャケットと全くマッチしない「Sweet & Sour Songs」というタイトル。 メジャー・レーベルからはおよそ出てくるはずもないノン・コンセプトのアルバムは、1977 年にシアトルを拠点とする Watermelon Records からリリースされました。 主人公は Cheri Adams という無名のシンガーソングライターです。 年齢は 20 代前半といったところでしょうか。

 アルバムは Cheri Adams の若さばかりが目立つロック・チューン「Rock Me」でスタート。 ベースがファンクっぽいラインを奏でるので、安直なポップに聴こえないところが救いでしょうか。 地味めのミディアム・ナンバー「Give」につづく「Oh I Could Have Sworn I Saw You There」もほぼ無伴奏に近いバラード。  この2曲で「Rock Me」で見せたロッカーぶりはすでに影を潜めてしまいます。  小鳥のさえずりから始まる「Jungle Bird」は、アルバムのハイライト。 軽くジャジーなアレンジに、Martin Lund の奏でるメロウなリードのソロ、そして後半はパーカッシブに展開していく様はかなりのセンスを感じます。 抑制された情熱というイメージです。 つづく「I Just May」も、パーカッションと効果音のみの前半から、都会的なロックへと展開していきます。 演奏に安定感があるので、聴いていて心地いいですね。

 盤を裏返します。 冒頭の「Mixed Up Man」は、コンテンポラリーなロックですが、凡庸な出来。 つづく「Don’t Seem Fair」は、アコギ、パーカッションなどのシンプルな構成ですが、これも印象の残らない曲。 やや停滞気味な気分で訪れる「Lovelight」はピアノの弾き語りから徐々に音数の増えていくバラード。 Cheri Adams の初心なエモーションが込められたこの曲が B 面の最大の聴きどころでしょう。  ブルース寄りのアレンジの「When Charlie Plays」につづいてはラストとなる「Love Is The Only Medication (That Can Soothe My Soul)」です。 この曲もあえて特筆すべきところはなく、あっけなくフェードアウトしてしまいます。 
  このようにアルバムを通して評価すると、大したことのないアルバムということになるでしょう。 わざわざ追い求めるほどの作品ではありません。 しかし、自分なりに 1970 年代後半のシアトル系のプライベート・アルバムとして括ってみたくなる時が来たときには、彼女の無邪気な笑顔と青味がかったジャケットを思い出してしまうことでしょう。

  さて、そんな Cheri Adams についてインターネットで追跡してみました。 すると、すぐに出てきたのが、シアトルの不動産会社のページでした。 そのページに、Associate Broker として顔写真入りで紹介されていたのが、まさに今日の主人公 Cheri Adams だったのです。 最初発見したときにはかなり驚きましたが、手元のジャケットの写真と何度も見比べましたが、間違いなく本人であることを確信しました。 笑った顔の独特の口元がまったく変わっていなかったからです。  きっと彼女は、いつもどこでも笑顔を絶やさない、そんな快活な女性なのでしょう。 ビジネスの世界では見事に成功した理由は、きっとそんな彼女自身の魅力に違いありません。



■Cheri Adams / Sweet & Sour Songs■

Side-1
Rock Me
Give
Oh I Could Have Sworn I Saw You There
Jungle Bird
I Just May

Side-2
Mixed Up Man
Don’t Seem Fair
Lovelight
When Charlie Plays
Love Is The Only Medication (That Can Soothe My Soul)

Produced by Cheri Adams and Steve Adamek
All Songs composed by Cheri Adams
Recorded and Mixed at Seattle West Recording Corp.

Cheri Adams : keyboards , mandolin , piano , acoustic guitar , vocals , background vocals
Steve Adamek : drums
Mike Cox : bass
Charlie Morgan : electric guitar , background vocals
Martin Lund : clarinet , reeds , woodwinds
Luis Peralta : percussion
Chris Leighton : drums
Dan Dean : bass
Dick Powell : mouth harp
Mike Dumas : drums
Ron Soderstrom : trumpet

Watermelon records  SWRC LP 7815


Jano Brindisi

2007-07-09 | SSW
■Jano Brindisi / Jano Brindisi■

  このアルバムを迷い無く買った理由はただひとつ。 レーベル名と品番です。 Songwriters Records というあまりにもストレートな名称と、そのレーベルから最初の作品であることを予感させる SR-1001 という品番を見てしまったら、よほど高額ではない限り、手が伸びてしまいます。
  Jano Brindisi という変わった名前と、暗めのジャケットからは想像できませんが、このアルバムは発売された 1980 年という時代をそれなりにビビッドに反映してしまった曲が数曲あり、そこがマイナスに作用しています。 とはいえ、さすがは Songwriters Records というレーベルからのリリースということで、全体を通じて曲の弱さはあるものの、シンプルなサウンドが楽しめるレコードとなっています。

  アルバムは圧倒的に B 面のほうが充実しており、極端に言えば、B 面だけでもいいかなというくらいです。 そこで、B 面に重点を置いて、曲の紹介をしてみます。 
  冒頭の 3 曲は田舎臭さが伴うものの、いい感じのフォーク・ロックが並びます。 個性にはかなり欠けますが、奇をてらったりしない安心感があります。 ここからラストまでの 3 曲がかなり素晴らしいですね。 声質は違うものの、孤独感と侘しさは、以前ブログで紹介した Susan Pillsbury の世界観に近いものを感じます。 それゆえに、このアルバムは B 面だけでいいように思ってしまうのです。 その三部作(と名付けますが)の 1曲目、「Someday」はアコースティック・ギターの弾き語りと、Nicole Welch によるチェロのみの素朴な楽曲。 Jano Brindisi のボーカルも繊細で表現力にあふれており、部屋の空気をやや冷やすような感じがします。 つづく、「Letter Home」も、弾き語りとペダル・スティールのみのシンプルな編成。 かなりの哀愁感が漂います。 ラストの「Tigers And Lions」はより孤独感が強まった印象を受けますが、淡々と語られるようなボーカルに身を委ねているうちに、静かに幕を閉じます。 

 ところが、A 面はこんな具合にはいきません。 印象に残るのは、「Loves Old Sweet Song」くらいです。 これは唯一の非オリジナル曲ですが、シンプルで地味なギターの弾き語りでジャケット写真のような陰りに満ちています。 他には、凡庸なフォーク・ロックの「Talking About You」などで場をつなぐ感じですが、ひどいのはラストの2曲です。 「Bouncer」は軽いパンクっぽさがアルバムの全体像をぼかし、「Happy Hour」に至っては、シンセがピコピコ鳴ってアルバムを破壊するかのような内容です。 このシンセの音は、Devo とか Tom Tom Club を思い出してしまいます。

  そんな Jano Brindisi ですが、公式ページをみつけることができました。 それによると彼女はまだ現役で活動しているようで、「Certain Things」というセカンドと、2003 年に発表された「Indian Time」は CD 通販などで買うことができます。  彼女のファーストとなるこのアルバムは CD にはなっていないようですが、代表曲「Someday」のみ試聴できるようになっていましたので、気になる方は覗いてみてください。



■Jano Brindisi / Jano Brindisi■

Side-1
Talking About You
Loves Old Sweet Song
Meteor Shower
Twice As Hard
In A Dream Of Tucson
Bouncer
Happy Hour

Side-2
Defensive Friends
Just Lucky
Right Now
Someday
Letter Home
Tigers And Lions

All songs , words and music by Jano Brindisi
Except ‘Loves Old Sweet Song’ Public Domain

Produced by Jano Brindisi and Alan Goldwater
Engineered by Alan Goldwater

Jano Brindisi : vocals , eclectic guitars (acoustic and electric)
Ned Doherty : bass
Stephen Mason : Arp Synthesizer , Hammond C-3 organ
Jim Norris : drums
Gary Roda : electric guitar , pedal steel
Nicole Welch : cello

Songwriters Records SR-1001

Gary Kuper

2007-07-07 | SSW
■Gary Kuper / Shoot For The Moon■

  ウッドストック関係の名盤はかなり CD 化が進んでおり、Borderline や、Ken Lauber そしてJohn Herald もここ 10 年くらいで相次いで CD 化されました。 そんなか取り残されたアルバムは数少ないのですが、今日とりあげる Gary Kuper はそんな 1 枚です。
  エンボス加工に近い肌触りの二つ折りジャケットに触れるだけで、1970 年代初頭の良質なサウンドが聴こえてくるようです。 ジャケットの内側に写るモノクロの Gary Kuper のアップ、数匹の野良犬、壊れた自転車、遠い山並みなどのデザイン・センスも抜群です。 

  アルバムのオープニングを飾る「Better Get Up On The Mountain」は秀逸なナンバー。 Gary Kuper のワイルドで男らしいボーカルと、華やかな女性コーラスの対比が印象的です。 歌いだしからエンディングまでしっかり組み立てられたアレンジも見事。 つづく「Everybody’s Love Song」もスケール感のあるミディアムなバラード。  アップでダウン・トゥ・アースなスワンプ「Home Remedies」に続いて土臭いバラード「So Many Changes」へ。 そしてまたアップな「Out Of The Garden」とアルバムは緩急交互に展開していきます。

  B 面はアルバムタイトル曲「Shoot For The Moon」でスタート。 この曲はアルバムのなかで唯一のピアノ弾き語りとなるバラード。  微妙に奥まった感じのあるピアノの響きと Gary Kuper の心優しいボーカルが胸に染み渡る名曲です。 アルバムのハイライトとも言えるでしょう。 このようなピアノ系の曲も書けるのであれば、この手の曲をもっと多く残してもらいたかったですね。
  ここからの 4 曲は良く見ると、すべてに人物の名前が含まれています。 しかも全員が男性ということで、こういうことも珍しいですね。  最初の「Jacob」はチープなオルガンの音が耳に残るものの平凡な印象はぬぐえません。  ギターの響きが泥臭い「Bobby Say Yes」は久しぶりに女性コーラスのサポートが入るスロウ・ナンバー。 Gary Kuper の荒削りながらも説得力のあるボーカルが堪能できます。 つづく「Johnson’s Pastures」も男らしいバラード。 ラストの「Where’s Jimmy」は淡白なアップナンバーなので、いまひとつ深い余韻が残らずにもったいない感じです。

 このアルバムを久しぶりに聴きとおしましたが、Gary Kuper の人間力こそが、このアルバムの魅力の原点だと思いました。 このアルバムがウッドストック系の名盤として位置付けられるのも納得です。
 しかし、この Gary Kuper が残したアルバムはこの 1 枚だけでした。 アルバムが売れなかったとはいえ、彼があっさりと音楽シーンから身を引いてしまった理由は何なのか。 いつものように、そんなことをついつい考えてしまいます。
 Gary Kuper のように謎めいて、何も痕跡を残さずに消えてしまったミュージシャンは数多いのですが、人脈のるつぼともいえるウッドストック(しかもベアズヴィル録音です)周辺のミュージシャンでそういう人は他にはいないのではないでしょうか。
  いったい、Gary Kuper はどこへ消えていったのでしょう。 残念ながら彼を追跡しているようなサイトも見つかりませんでした。 いま手元にあるこのレコードだけが、彼の存在証明なのです。



■Gary Kuper / Shoot For The Moon■

Side-1
Better Get Up On The Mountain
Everybody’s Love Song
Home Remedies
So Many Changes
Out Of The Garden

Side-2
Shoot For The Moon
Jacob
Bobby Say Yes
Johnson’s Pastures
Where’s Jimmy

Produced by Peter K.Siegel For Burmese Records ,Inc.
All Songs Written by Gary Kuper
Recoding engineer : Mark Harman , The Bearsville Sound Studio , Woodstock , New York

Gary Kuper : vocals , acoustic guitar , piano on ‘Shoot For The Moon’
Michael Winfield : electric bass
Dahaud Elias Shaar : drums , kazoo
John Platania : electric and acoustic guitars
Jeff Labes : piano on ‘Home Remedies’ , ‘Out Of The Garden’ , ‘Bobby Say Yes’ , ‘Johnson’s Pastures’ , ‘Where’s Jimmy’ and organ on ‘So Many Changes’
Alan Hand : piano on ‘Better Get Up On The Mountain’ ,’Everybody’s Love Song’ , ‘So Many Changes’ and organ on ’Out Of The Garden’ , ‘Jacob’
Linda November , Maeretha Stewart , Marilyn Jackson : background voices

Polydor 24-4058

Sammy Johns

2007-07-02 | SSW
■Sammy Johns / Sammy Johns■

  1975 年にとある一発ヒットが出現しました。 その曲は「Chevy Van」といいます。 この曲は全米で 300 万枚を超える売上を記録し、1975 年 5月 3日には、ビルボード・チャートで最高 5 位にまで上昇しています。 しかも、年間チャートでは 57 位にランクインしたということで、この曲は多くのアメリカ人の記憶のなかに今も残っていることでしょう。

 その一発屋の持ち主が、今日ご紹介する Sammy Johns。 このアルバムは、彼のファースト・アルバムで、1973 年に発表されているので、「Chevy Van」が大ヒットする少なくとも 1年半以上前にリリースされていたことになります。 アルバム発売当時は全く売れずに、「Chevy Van」のヒットから、このアルバムを手にした人が多かったのだと思われます。

 そんなこのアルバムは、Jim Gordon 、Chuck Rainey 、James Burton などの豪華なバック・ミュージシャンもさることながら、Steve Eaton の名盤「Hey Mr. Dreamer」などをプロデュースした Jay Senter とキーボードの名手 Larry Knechtel の共同プロデュースということが目を引きます。 こうしたメンバーや時代背景からそのサウンドは容易に想像できるものですが、それが帰ってアダになって、個性の弱さに結びついているとも言える作品となっています。

 個人的に好みの曲をピックアップしてみます。 アルバム冒頭の「Early Morning Love」は、アコギとパーカッションのみでストリングスが味付けをするアレンジですが、Sammy Johns のマイルドなボーカルにぴったりな曲。 Steve Eaton の「Hey Mr. Dreamer」の姉妹曲とも言えるようなサウンドです。 代表曲の「Chevy Van」はさすがに大ヒット曲と思わせるようなキャッチーさは無いものの、何度も聴くたびに味わいの増してくるタイプの曲です。 個人的にはエレピがさりげなく入ってくる後半のメロウなアレンジが魅力です。 Steve Eaton の名曲「Rag Doll」は、曲自体が持つ繊細さそのまま活かしていますが、原曲の良さを改めて実感しました。
 アルバム中で最も親しみやすい「Friends Of Mine」で始まるB面もあなどれません。 Larry Knechtel のピアノと Mike Melvoin のエレピの競演が光る「Holy Mother , Aging Father」は爽やかでジェントルなミディアム。 続く、「Let The Sun Shine」はペダル・スティールが心優しい男の心情を表しているかのようなスケール感あふれるサウンド。 この曲は、Mylon Leferve のカバーです。

  そんな Sammy Johns ですが、このアルバムに収録されている以外の数多くのシングル盤をリリースしているようです。 その 1枚に「Hey Mr. Dreamer」があることを知りました。 おそらくは、Jay Senter の強硬なプッシュがあったこととは思いますが、このシングルが「Chevy Van」の後のリリースかどうかの確認はできませんでした。 Sammy Johns は、このアルバムを発表した後に、まぐれとも言える一発ヒット「Chevy Van」を残しますが、その後は泣かず飛ばずのようです。 1977 年にワーナーから「Sings The Van」というセカンド・アルバムを発表していますが、あまりにもジャケットのイラストがひどいので買っていません。 収録曲に「Hey Mr. Dreamer」が入っていたら買ってしまうかもしれませんが、むしろ CD 化されている 2000 年の作品「Honky Tonk Moon」か、ベスト盤を買ったほうがお徳かもしれません。



■Sammy Johns / Sammy Johns■

Side-1
Early Morning Love
Chevy Van
Jenny
Rag Doll
Hang Mt Head And Moan

Side-2
Friends Of Mine
America
Holy Mother , Aging Father
Let The Sun Shine
Way Out Jesus

Produced by Jay Senter and Larry Knechtel
Arranged by Larry Knechtel
Strings Arranged by Pete Carpenter
Horn Arranged by Jim Horn

All Songs written by Sammy John
Except ‘Jenny’ by Sherman Hayes , ‘Rag Doll’ by Steve Eaton , ‘Let The Sun Shine’ by Mylon Leferve

Drums and Percussion : Jim Gordon
Bass : Chuck Rainey , Larry Knechtel
Guitars : James Burton , Art Munson , Dean Parks , Larry Knechtel
Acoustic Guitars : Sammy Johns
Pedal Steel : Buddy Emmons
Background Vocals : The Blackberries , Mylon Leferve , Herb Pedersen
Horns : Chuck Findley , Jim Horn , John Kelson
Keyboards : Larry Knechtel , Mike Melvoin

General Recordings  GA 5003