Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

Jacob's Reunion

2010-09-26 | SSW
■Jacob’s Reunion / Jacob’s Reunion■

  『ゲール語圏と東欧諸国のクラシカルな伝統、さらにジャズとスウィング、北米のダンスと作曲方法に影響を受けたオリジナルな音楽を創造する…』
ここまで明確且つ詳細に自らの音楽の方向性を明示するのも珍しいことですが、これが Jacob’s Reunion の掲げた理念です。 裏ジャケットに掲載されたこのメッセージは、彼らの音楽への姿勢の真摯さと自信の両方の表れなのでしょう。 

  セピア色の草原にそびえる巨木をジャケットにしたこのアルバムは、バーモント州で結成された 5 人組 Jacob’ s Reunion が 1975 年に発表した唯一の作品。 ニューイングランド地方に深く根付いたアコースティックでシンプルなフォーキーとトラディショナル指向が融合した気品あふれるアルバムです。
  アルバムのほぼ全曲をリーダーと思われる John Coster が手がけています。 例外となる 2 曲「Give The Fiddler A Dram」と「Will The Circle Be Unbroken」もトラディショナルを彼のアレンジで創造し直したものなので、音楽監督的な役割は一貫して John Coster が担っていたものと思われます。 アイルランドのダンス音楽の典型的なスタイルである「Reel」の様式を取り入れたインストも 3 曲あり、これらがアルバムのアクセントとなっていることも、John Coster の意図するものだったのでしょう。

  しかし、アルバムのなかで特に心に染みるのは、やはりボーカル主体のバラードです。 A 面では、「Morning Song」や「Solid Night」がそれに該当しますが、いずれも Sandy Sayers の美声に惚れぼれするミディアムです。 とくに「Solid Night」は、ピアノとパーカッションのアンサンブルが印象的で、知性的な構成力を感じさせる楽曲に仕上がっています。ここで聴かれる実験的なアレンジは、Jacob’s Reunion の最大の特徴であり唯一無比の個性でしょう。 
  その独特の構成力はトラッドの「Will The Circle Be Unbroken」にも発揮されています。 その曲調から誰もが穏やかにエンディングを迎えると予想するのですが、意外にもラストはフリージャズのようなピアノ・ソロと呪術的なコーラスが重なりながら終わりを迎えます。 このようなアレンジは、プログレッシブ・ロックに近いイメージもあり、Jacob’s Reunion の懐の深さを感じざるを得ません。

  一方で、シンプルで素朴さが前面に出ている曲もあります。 「Mexico」は Sandy、Barbara そして John のコーラスが緩やかに交錯するワルツ。 アルバムのなかでも最も親しみやすい印象です。 「If I Could See You Cleary」も同様に Sandy と Barbara のハーモニーが美しいバラード。 ピアノとベースを中心とした音数の少ない空間にマンドリンのソロが効果的に挿入され、珠玉の名曲に仕上がっています。 ジャズとスウィングの影響の濃い「You Crazy Fool」は、小さなサーカス団の余興を聴いているような気分です。

  このように振り返ってみると、改めてアルバムの完成度の高さと際立った個性を痛感しました。 本国でも希少評価の高い作品のようですが、たしかにアマチュアに毛が生えたレベルではこういった作品は生み出されないでしょう。 幼少からの音楽教育がベースにあり、伝統への敬意と創造への欲求が沸点を迎えたからこそ、このような充実した音楽が誕生したのでしょう。 彼らのその後の活動は不明ですが、音楽活動を続けていることが確認できたのは John Coster だけでした。 彼の最新作は 2002 年に「The World Has Changed」という作品で、日本からも通販サイトで入手可能のようです。

■Jacob’s Reunion / Jacob’s Reunion■

Side 1
Give The Fiddler A Dram
Ontario
Towne Crier Reel
Hesitation Blues
Bagpipes
Morning Song
Solid Night

Side 2
E Minor Reel
If I Could See You Cleary
Fat Man’s Reel
You Crazy Fool
Mexico
Will The Circle Be Unbroken

Arranged and produced by Jacob’s Reunion

Barbara Hyde : piano, vocals
Sandy Sayers : vocals
Richard Block : bass guitar, string bass, tympani, vocals
John Coster : guitar, harmonica, vocals
Yosef Oxenhandler : violin, mandolin, percussion, vocals

Bob Routch : french horn on ‘You Crazy Fool’
Recorded at Chelsea House Café and Folklore Center, Brattleboro, Vt.

Chelsea House records CHR-2001

Klender And Winchester

2010-09-19 | SSW
■Klender And Winchester / Klender And Winchester■

  ようやく秋の訪れを実感できるようになってきました。 秋は SSW を聴くには最もふさわしい季節だと思います。 特にセンチメンタルなサウンドはこの季節にぴったりです。
  そこで取り出したのは、メリーランド州出身のデュオ Klender And Winchester が 1975 年に発表したおそらくファースト・アルバム。 味気ないジャケットからは想像もつかないほど抒情的で聴き応えのある作品となっています。

  個々の楽曲は Richard Klender と Ted Winchester がほぼ半分ずつ書き下ろし、共作が3曲という構成となっています。 全 10 曲のなかから選りすぐりの楽曲から紹介していくことにしましょう。
  悩んだ末にベストの 1 曲にあげたのは、A-3 の「Love Song」です。 素朴なメロディーにさわやかなハーモニーが駆け抜ける様はこの手のサウンドの頂点ともいえる完成度をみせており、扇情的なストリングスとマンドリンが交錯する後半のインスト部分などは映画のエンドロールを見ているかのような気分にさせられます。 永遠の生命を与えるべき名曲と言えるでしょう。 この曲と最後まで迷ったのが、ラストの「Sing Me」です。 ♪Sing me, I’m s song♪ から始まるサビが幾度となく繰り返され、いったん終わったと思ったら子供たちの声で再度表れるというニクい演出も鮮やかです。 曲調はソフトロックのようなタッチで、歌詞は Bruce Johnston の「I Write A Song」のようです。 この 2 曲とも、Ted Winchester の作曲ということで、彼のソングライティングの才能に感心するとともに、彼と僕の相性の良さを感じました。
  つづいては、やはり Ted のペンによる「Ron’s Song」を挙げておきましょう。この曲は Ron という友達の結婚式のために作られたという美しいワルツ。 このような曲に駄作があるはずがありません。 

  Richard Klender の曲は、Ted に比べてアップテンポだったり、カントリー色が強い傾向にあります。 とはいえ、オープニングを飾る「Welcome To My Life」のような感傷的な小曲は素晴らしいですし、唯一のインスト「Ballet For Donna」では、クラシカルなギター・テクニックとストリングスのアレンジを絡ませて、ヒーリング的な味わいの濃い空間を作り出しています。 ほとんどの楽曲で聴ける息の合ったハーモニーこそが、Klender And Winchester の最大の魅力でもあることを考えると、このふたりが対等に渡り合ってこそ、この名盤が生み出されたと言えるでしょう。

  ちなみに、彼らには「This is my life … This is my soul」というタイトルのアルバムがもう 1 枚存在します。 夕日にたたずむ二人のシルエットが美しいジャケットで、何としても入手したいと思っている作品なのですが、どちらがファーストアルバムなのかが定かでありません。 品番が 1443 なので順当に考えれば、「This is my life … This is my soul」のほうがセカンドアルバムなのですが、ネットでは 1974 年作品と言う表記もあったりして本当のことが判らないのです。 そんな謎を解明したい気持ちもありますが、それよりも彼らの音楽をすべて聴きたいという気持ちが優っています。

■Klender And Winchester / Klender And Winchester■

Side 1
Welcome To My Life
We Ain’t In It For The Money
Love Song
9 To 5
Arizona
Ron’s Song

Side 2
Little Bit Of Rhythm
Down By The Sea
Gene
Ballet For Donna
Sing Me

Produced and arranged by Klender and Winchester
Recorded at Sheffield recording Lyd, Timonium, Maryland

Richard Klender : vocals, acoustic and electric guitar, 12 string, electric piano, bass, percussion
Ted Winchester : vocals, acoustic and electric lead guitar, 12 string bass, bamjo, mandolin, trombone
Charles Deck : organ, steinway and honky tonk piano
Tom Simpson : drums
Tony Sweet : drums
John Glik : fiddle
Mary Rigle : classical guitar

K/W Productions 1442

Frank Kinsel

2010-09-11 | SSW
■Frank Kinsel / At Home■

  残暑のなか、Frank Kinsel の唯一のアルバムを取り出してみました。 1970 年前後の作品と思われますが、いまだに CD 化されたことがないレコードです。 Epic のような大手レーベルからのリリースですが、まだまだメジャーのなかにもCD化されないアルバムは数多く眠っているようです。
  この Frank Kinsel の場合は、同時代にもほとんど聴かれることのなかったと思われ、彼の経歴や詳細を語るサイトは見つかりませんでした。 Paul Humphrey や Wolfgang Melzといったセッションマンや一時 The Byrds に在籍した Kevin Kelly が参加 していることが手掛かりですが、そこから紐解いても意味は無さそうです。
  
  ジャケットからして思慮深そうな青年の私小説的なフォークというイメージを受けますが、曲によって雰囲気が変化することもあって、捉えどころのない SSW アルバムという印象です。 アシッド・フォークと表現する人もいるようですが、そもそも同時代にはそんなジャンル表現はなかったので、あまり適切ではないような気もします。 レコードを聴いて感じるのは、Frank Kinsel の音楽の軸はフォークではなくリズム&ブルースではないかということです。 歌詞も社会風刺や批判が主になっているようで、どちらかというと黒人音楽に近いエッセンスを感じ取ることができます。 たとえば、ロスアンジェルスを人口過多の都市として皮肉った「Overpopulated City」などはその傾向が顕著に表れていました。 この曲だけが 5 分を超える大作なのにもFrank Kinsel の意志を感じます。 歌詞カードがないので正確なことはわかりませんが、「Gamer」、「Sparrow」や「Long Tail Sally’s Sister」も同じ傾向にある曲のように感じますが、歌詞がわからないので本当のことはわかりません。 ラストの「Anger Epilogue」などは他人からクレームが入って曲を中断させられるかのような曲で、41 秒のなかに強い創作意欲を感じさせる仕上がりとなっています。 「怒りのエピローグ」というタイトルもインパクトがありますね。

  個人的なお気に入りはブルーズ指向の薄い楽曲で、たとえば、孤独感あふれるギターの弾き語りが沈痛な気にさせる「Revelations 100」、カントリー風味の強い「Have A Good Day」、
、Grant Johnson のピアノがリリカルで美しい「1964」などです。 なかでも「1964」はアルバムの中でのベストトラックに推したいほどのお気に入り。 Anne Goodman によるチェロの伴奏も素晴らしいことを添えておきましょう。

  さて、このような渋い作品であることから、Frank Kinsel の「At Home」はなかなか評価されないまま 40 年以上の月日が流れようとしています。 アメリカのフォークや SSW を語る上で、不可欠な作品であるわけもなく、CD 化される必要があるかどうかも判りません。 ただ、メジャーレーベルの作品のなかで、こうして置き去りにされてしまうレコードがあるのは、少し淋しい気がすることも事実です。 それは、誰も思い出すことができない小学生時代のクラスメートみたいな存在だからです。

■Frank Kinsel / At Home■

Side 1
You Know Why
Gamer
Revelations 100
Have A Good Day
Like A Child
‘1964’
Sparrow

Side 2
Overpopulated City
Good Life Folk Bossa #1
You Know Why (part 2)
White Port And Lemon Juice
Sunni
Long Tail Sally’s Sister
Hey, Who’s Been Talking To You
Anger Epilogue

Priduced by Vibrations Productions
Engineer : Bob Breault
All songs written by Frank Kinsel except ‘White Port And Lemon Juice’ written by D.Woods, W.Graham and R.Bryant

Jimmy Smith : 12 and 6 string guitars
Grant Johnson : piano
Bill wolfe : 6 stirng guitar
Wolfgang Melz : bass
Kevin Kelley : drums
Paul Humphrey : drums
Anne Goodman : cello
Red Rhodes : steel guitar
Nick Ceroli : drums
Frank Kinsel : 12 snd 6 string guitars, vocals

Epic Records BN 26492