Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

Mike Williamson

2008-02-24 | AOR
■Mike Williamson / Friends Forever■

  このアルバムのクレジットを転記しながら思ったのは、曲のタイトルの長さです。 よく見るとワンワードのタイトルは 1 曲もありません。 それどころか、主語述語から目的語までしっかり揃っている曲ばかりです。 この様子から、かなり甘くメロウなアルバムではないかと想像できますが、まさにその通りの内容なのです。
  たとえば、Dennis Yost の人気盤「Going Through The Motions」のようにマイルドでミディアムな曲ばかりを集めた作品に極めて近いものを感じます。 Dennis Yost のようにハスキーではない分、クセが無いとも言えますし、逆に個性が薄いと感じる人も多いかもしれません。 最近取り上げたアルバムでは、Dan Williams の「Midnight Symphony」に似たテイストですね。

 このアルバムは 1979 年、ウィスコンシン州でレコーディングされたもの。 プライベート・レーベルからのリリースですが、演奏やアレンジに稚拙さを感じることはなく、むしろストリングスやホーンの展開にセンスを感じる場面があったりします。

  アルバムは Barry Manilow が歌っていそうな「You’re My Friend」で始まります。 この MOR 的なマイルドさは、もちろん冒険や刺激とは縁遠い世界です。 つづく「Take A Little Time To Love」はミディアムにテンポアップ。 CCM 系の AOR によく見られるクールさといなたさが同居するナンバー。 「I Can Fell The Music」は流行のディスコ色が前面に出すぎて失敗。 CD ならばスキップです。 一転してバラードの「I Guess It’s Love I’m Feelin’」を迎えますが、メロディーがいまひとつ盛り上がりません。 A 面ラストの「Love Just Doesn’t Go Away」もバラードですが、情緒豊なバイオリン・ソロなども入り、ノスタルジックな佳作となっています。
  B 面に移ります。 「I Can’t Forget About You」はグルーヴ感のあるアップ・ナンバー。 サビの繰り返しからギターソロに入るあたりが個人的にはお気に入り。 今どきのクラブ DJ が掘り出しそうなサウンドです。 メロウなミディアム「You’ll Be There Tomorrow」、軽いボサノバ調で艶っぽいアレンジの「It’s The Night For Love」 と進み、「The Long, Long Road」へ。 この曲はドライブ・ミュージックに最適なナンバー。 パーカッションとホーンが疾走感に涼風を送ってきます。 この曲など 4 曲に参加しているドラマーは Steve Smith という名前なのですが、この大物 Steve Smith (元ジャーニー)かもしれません。 というのも、この曲のドラムはかなりのテクニシャンなのです。 一転してバラードの「They’ll Never Take Away The Good Times」、ミディアムから一気にアップに展開する「Friends Forever」は終わり方がやや拍子抜けでした。

  いつものように Mike Williamson について検索してみました。 すると、彼はウィスコンシン州からイリノイ州に拠点を移し、今も現役で音楽活動をしていました。 公式ページの表情とレコードを見比べればすぐに分かります。 数枚あるオリジナル CD には、「Weekend In England」や「Take My Hand」などの Randy Edelman の名曲が収録されており、にんまりしてしまいました。 また、この「Friends Forever」から 4 曲が MP3 ファイルでアップロードされています。 興味がある方はこちらをクリックしてください。 本人のセレクトなのでしょうが、選曲はいまひとつです。



■Mike Williamson / Friends Forever■

Side-1
You’re My Friend
Take A Little Time To Love
I Can Fell The Music
I Guess It’s Love I’m Feelin’
Love Just Doesn’t Go Away

Side-2
I Can’t Forget About You
You’ll Be There Tomorrow
It’s The Night For Love
The Long, Long Road
They’ll Never Take Away The Good Times
Friends Forever

Produced by Mike Williamson & Bob & Joy Dummer
Engineered & Mixed by Andy Watermann , Shade Tree Studios, Lake Geneva , Wisc.

Tom Stein : acoustic & electric guitar
John Burns : guitar,percussion
Dennis Carroll : bass
Jum Conley : drums
Steve Smith : drums,percussion
Julian De Luna : tenor sax ,alto sax, electric piano , flute , flugel horn, ,melodica, percussion
Dorothy Turner : background vocals

Background vocal arrangement by Dorothy Turner
Brass Arrangement by Caty Sheley
Strings Arrangement, brass & Strings conducted by Julian De Luna

BAF-9997

Jim Miller

2008-02-22 | Christian Music
■Jim Miller / Entertainer■

  前回の Rick Johnson も平凡な名前でしたが、今日の Jim Miller も負けてはいません。 ハリウッド映画に登場する典型的な銀行員みたいな名前です。 しかも、このアルバムのジャケットに加え、タイトルが「Entertainer」となれば、数百円でも食指が伸びないアルバムです。 1983 年の作品というのも微妙な気持ちになります。

  そんな Jim Miller ですが、ジャンル的にはクリスチャン・ミュージックに入るミュージシャンです。 ジャケットからは想像できませんが、アルバム 1 曲目の「Son Of the Father」が特に CCM 色の強い曲となっています。 この曲は気品あふれるバラードなのですが、「Written for God」とクレジットされています。 この表現にはかなりの勇気がいると思いますが、それだけの自信を感じさせる名曲です。
  
  アルバムはほとんどが自作なのですが、目を引くのが Harry Chapin の代表曲「Taxi」のカバーです。 僕は実は Harry Chapin についてはあまり詳しくないのですが、この曲は 1972 年の彼のデビューヒット。 日本では Harry Chapin は極端に人気がありませんが、1970 年代にアメリカで過ごし、実際にライブを見たことのある人から聞いた話では、考えられないほどの人気だったようです。 ライブの収益をチャリティーするなどの行為は最近ではよく目にしますが、Harry Chapin こそがその元祖的な存在とも言えるようです。
  その「Taxi」に続くのが「The Final Story (Tribute To Harry Chapin)」で、ここで Jim は Harry Chapin を賛美しています。 1981 年に自動車事故で亡くなってしまった Harry の貢献について歌った曲ですが、残念ながら歌詞がわかりません。

  アルバムは、この冒頭 3 曲で語るべきことの 90% を締めているので、他に目立った曲を触れておきましょう。 
  A 面ラストの「Closer Every Day」は、CCM の香りする美しい小曲。 B 面の「Strange Way」はゆったりしたワルツですが、曲の良さとストリングスの心地よさが相まって、アルバムを代表するバラード。 「I’m Just A Barroom Singer」は、Kirk Orr という人物の曲。 有名な曲なのかと思って検索しても出てきませんでした。 しかし、アコギのさりげない弾き語りの曲なのですが、メロディーや雰囲気や可愛らしさ等、このアルバム1番のお気に入りなのです。 Kirk Orr についても正体はわかりませんでした。 ラストの「Did You Ever?」は、憂いのあるミディアム。 心にわだかまりがあるようかのような切ないボーカルが、ストリングスアレンジとともに寄せてきます。

  このようにアルバムには数曲のステ曲(この言葉は好きではありませんが)があるものの、心やすらぐようなメロディーを持つ曲が多く、全体としての出来は悪くありません。 80 年代にありがちな耳障りなシンセの音がなく、生のストリングスを多用していることもアルバムのクオリティに貢献しています。 くどいですが、アーティスト名、タイトル名、ジャケットでことごとく損をしてしまっているのが勿体ないアルバムです。



■Jim Miller / Entertainer■

Side-1
Son Of the Father
Taxi
The Final Story (Tribute To Harry Chapin)
Sing
Closer Every Day

Side-2
Strange Way
Misty Mountain Morning
Feelin’ The Rock
I’m Just A Barroom Singer
Did You Ever?

Produced by Jeff Isaacs and Jim Miller
Engineered and Mixed by Jeff Isaacs

All songs by Rick Johnson
Except ‘Taxi’ by Harry Chapin , ‘I’m Just A Barroom Singer’ by Kirk Orr

Jim Miller : lead and background vocals , acoustic guitar
Kathy Knittel : violin
Angela Sidler : violin
David Odekirk : violin
David Fletcher : violoncello
John Gottschalk : keyboards
Bruce Baugher : drums
Jeff Isaacs : bass guitar
Al Stee : electric guitars
Dave Plaehn : harmonica

Grand Junction Records GJR-05

Rick Johnson

2008-02-18 | SSW
■Rick Jonhson / Gold-Fever Blind■

  MGM-2001 という品番のレコードですが、もちろんこの MGM は大手の映画会社 MGM(Metro-Goldwin-Mayer)ではありません。 このレコードでの MGM とは今日の主人公 Rick Johnson の自主レーベル Mountain Ghost Music のことなのです。
  Rick Johnson という平凡な名前、凡庸なジャケット・デザイン、そして繊細さを感じさせない Rick Johnson のたたずまいもあり、このレコードがお気に入りの1 枚になる可能性は薄いと思っていましたが、その予想はいい意味で裏切られました。 骨太でソリッドなロック、クルマで砂漠のハイウェイを駆け抜ける時の BGM のような音楽が出てくるかと思えば、意外にも清涼感のあるメロウなサウンドが全編を貫いていたのです。

 レコードに針を落とすと、カントリーがかった「Until It’s Told」で Rick Johnson の優しい歌声を知ることになります。 このヒゲ面でこの声!と思うほど爽やかなボーカルに聴き手の誰もが驚くことでしょう。 つづく「Tomorrow」は私的なたたずまいのするミディアムですが、洗練されたアレンジが光ります。 「My Honey Wine」はウェスト・コースト風 AOR のようでキャッチーなサビが親しみやすい楽曲。 シングルカット向きです。 アルバムタイトル曲「Gold-Fever Blind」はメロウなワルツ。 Rick Johnson の繊細なハイトーン・ボイスが堪能できます。 A 面は疾走感のある「Buckle Of Gold」、女性ボーカルの Maureen May との掛け合いが魅力の「It Breaks My Heart」と続きます。

  B 面は 1980 年代風のシンセの音が耳につく「Walk Away A Winner」でスタート。 この曲はアルバム中で最も商業的な響きがして個人的には残念です。 つづく「If I Was In Love With You」はタイトルどおりのセンチな楽曲。 その流れを汲んだ「I Need You」はストレートなラブソング。 「Thank You For The Courage」はメッセージ色の強い大作ですが、サウンド的には平凡な出来。 しかしつづく「Before The Spring」はストリングスの音色が美しいバラードとなりアルバムの聴きどころになっています。 ラストの「Where Would I Be Without The Queen?」はロンドンからアメリカに移住した気持ちを歌った曲。 先行きへの心細さと期待感が同居しているさまを上手く表現しています。 もしかして、Rick Johnson 自身の体験のことなのでしょうか? Rick Johnson の音楽から英国的な要素はあまり感じなかったのですが。

  このアルバムが発表されたのは 1984 年のこと。 サウンドは 1970年代の良質な SSW アルバムに通じるものがあるのですが、アレンジセンスの所々に 80 年代ならではのエッセンスがまぶされているのも事実です。 曲数が 12 曲と多いこともあり、もう少し絞り込んで凝縮したほうが、より良いアルバムに仕上がったのだろうと思います。

  とはいえ、冒頭でも少し書いたように、このアルバムの心地よさは捨てがたいものがあります。 シアトルのお隣にあるタコマから届けられただけあって、緯度の高さを実感できる内容となっています。 
  Rick Johnson の残したアルバムは残念ながらこの 1 枚のようですが、共同プロデューサーであった David Lange は現在もなお David Lange Studio を経営しているようです。 公式ページには 25 年の歴史があるとの記載がありましたが、きっと「Gold-Fever Blind」はこのスタジオで録音された最初期の作品なのでしょう。



■Rick Jonhson / Gold-Fever Blind■

Side-1
Until It’s Told
Tomorrow
My Honey Wine
Gold-Fever Blind
Buckle Of Gold
It Breaks My Heart

Side-2
Walk Away A Winner
If I Was In Love With You
I Need You
Thank You For The Courage
Before The Spring
Where Would I Be Without The Queen?

Produced and Arranged by Rick Johnson and David Lange
Recorded and Mixed at David Lange Studios , Tacoma, Wahington

All songs by Rick Johnson

Rick Johnson : vocals , background vocals , acoustic & electric guitars
David Lange : keyboards , strings arrangement on ‘Before The Spring’& lead magician
Tag Henning : bass
Tony LeDonne : drums
Marlin Martindale : electric guitar on ‘Until It’s Told’ and ‘My Honey Wine’
Chris Middaugh : pedal steel on ‘Buckle Of Gold’ and ‘If I Was In Love With You’
Chris Jeffrey : electric guitar on ‘My Honey Wine’
Maureen May : female vocals on ‘It Breaks My Heart’ and ‘Before The Spring’
Tim Brye : sax on ‘Tomorrow’

Mountain Ghost Music MGM-2001

Michael J.Olsen and Dan Hart

2008-02-16 | SSW
■Michael J.Olsen and Dan Hart / Living Room■

  『デビッド・クロスビーとグラハム・ナッシュはこのレコードのどこにも参加していません』

 ジャケットの裏面にはそんなウィットに富んだクレジットが書かれており、思わずにやっとしてしまうアルバム。 Michael J.Olsen and Dan Hart が 1977 年に発表したこのアルバムは、マイルドでメロウな味わいの SSW アルバムの知られざる逸品です。 ミネソタでレコーディングされ、カリフォルニアでマスタリングされているというのも興味深いところ。 自主制作に近いアルバムなのにこだわっていますね。
  アルバムの全 10 曲を仲良く 5 曲ずつ作曲し、曲を書いた方がリード・ボーカルを務めていますが、2 人の作風も声も似ていることから、誰かのソロ・アルバムを聴いているような気分になります。 サウンドの特徴としては、全曲ドラムレスであること、2 人の絶妙なハーモニー、ピアノやサックスの音色ですら景色を変えてしまうほどシンプルなアレンジ、といった点が上げられます。 さっそくアルバムを聴いてみましょう。

  A 面はボサノバ・タッチの「Holly And Sly」で幕を開けます。 Dan Hart の持ち味が遺憾なく発揮された名曲で、こもった感じのフルートとハーモニーが絡む様は絶妙です。 つづく「Dakota Woman」は Michael J.Olsen の曲。 シンプルで音数の少ないなか、きらめくようなピアノがアクセントになっています。 「Thoren」は、翳りと憂いのあるメロディー。 ベースとピアノがモノトーンの光景を感じさせます。 嘆くようなサックスで始まる「On The Coast」は朴訥としたスロウな楽曲。二人のコーラスが厳粛に響いてきます。 「Painted Canyons」は、ついに登場したアップ・ナンバー。 ジャジーでリリカルなピアノと多くの友人にサポートされたクセのあるサビが印象に残ります。

  レコードを裏返すと、Echo Harp の郷愁あふれる音色に導かれて「Padre Island」がゆるやかに始まります。 全体に曇り空のような気分になったところに、地味な「Indian」と続きます。 「Dog On The Beach」は、二人のユニークなハーモニーと軽やかなフルートが耳に残り、B 面のアクセントになっています。 音数の少ない「The Taking」は、スロウなバラードですが、Dan Hart の切ないボーカルが胸に染みる奥深い楽曲に仕上がっています。 ジャケットの裏に写っている友人たち全員によるコーラスが暖かい「Sold On The Prairie」はラストにぴったりなアップ。 こうした淡いアルバムはアップで終わるに限るのですが、まさにそれを意識したかのような曲順に満足です。 サウンドは、ソフトロック的なアレンジで繰り返されるサビの心地よさはたまりません。 アルバムラストに訪れた桃源郷と言えるでしょう。

 こうしてアルバムを曲順に追ってきましたが、強烈なインパクトのある楽曲はないものの、繰り返し聴くたびに味わいの深まっていくタイプの曲が多いことを再確認しました。 アルバムから醸し出される暖かな温もりは、Michael J.Olsen and Dan Hart や彼らの仲間たちの人柄から来るものなのでしょう。 エンボス加工のレコード・ジャケットが気のせいか暖かく感じられるのは、部屋の暖房のせいだけではないはずです。 



■Michael J.Olsen and Dan Hart / Living Room■

Side-1
Holly And Sly
Dakota Woman
Thoren
On The Coast
Painted Canyons

Side-2
Padre Island
Indian
Dog On The Beach
The Taking
Sold On The Prairie

Michael J.Olsen : lead vocals , acoustic guitars , harmony
Dan Hart : lead vocals , acoustic guitars , harmony
Doug Geston: bass
Charles Bodine: conga , triangle
Duwayne Rude : flute , saxophone , echo harp
Bob Eveslage : piano
Randy Evert : random riffs , harmony
Randy Chrissis : harmony , cabasa
Jarle Kvale : harmony , flugel horn

David Crosby and Graham Nash appear nowhere on this album.

Produced by Michael J.Olsen and Dan Hart
Recorded by Don Geiken & Associates , Moorhead , Minnesota
Mastered by Jeff Peters , LRS , Burbank , California

Mark Records MC5210


Buckwheat

2008-02-09 | US Rock
■Buckwheat / Pure Buckwheat Honey■

  Buckwheat という名のグループは 1970 年代に London Records から 4 枚のアルバムを残したグループがいるようですが、今日取り上げたのはおそらく同名の別グループです。
  1969 年に Buddah 傘下のマイナーレーベル「Super K」からリリースされたこのアルバムが The Beatles フォロワーのニッチでサイケなポップなのに対し、London Records のほうはスワンプ系のようなのです。 後者は未聴なので断定できませんが。

  興味深いのがこの「Super K」レーベルです。このレーベルはバブルガムやソフトロックの名門 Buddah のプロデューサー、Jeffrey Katz と Jerry Kasenetz の 2 人が設立した子会社レーベル。 ふたりの名前の頭文字 K をとって、「Super K」とネーミングしたのでしょう。 1969 年のみの活動ということで成功を収めたとは言えないレーベルで、アルバムもわずか 5 枚しか残されていません。 その中の 4 枚目がこの「Pure Buckwheat Honey」です。

  アルバムを代表するポップ・ソング「Yes」でアルバムは始まりますが、この曲のメロディーやアレンジにはどの時代に投入してもヒットしそうな普遍性を感じます。 つづく「Radio」はボードヴィル調。 Nilsson あたりに通じるサウンドです。 凝ったコーラスやアレンジが絶品な「Mr. Simms Collector Man」もオールドタイミーな絶品。 「The Albert Hotel」はバンジョーの香りのするカントリーロック。 しかしそれはThe Byrdsとは異なりあくまでもイギリス的な匂いのするところが気になるところ。 「Sunshine Holiday」はミデイァムからサイケなコーラスに入るあたりが摩訶不思議なサウンド。 このグループの底力と奥深さを感じざるを得ません。 A 面ラストはたまにはシンプルに行こうよ、というメンバーの気分が伝わってきそうな「Goodbye Mr. Applegate」です。 この Applegate は Apple Records のこと? と飛躍した詮索をしたりしています。

  B 面に入ると初期 Sparks のような「The Poor Widow & Her Gypsy Band」です。 ボーカルが Ron Mael に似ているのです。  ニッチな小曲「Don’t You Think It Would Be Better」につづく「Purple Ribbons」は美しい正統派バラード。 John Corigliano のアレンジが素晴らしく言葉になりません。 John Corigliano のことを調べてみたら、彼の父親は New York Philharmonic のコンサートマスターを 23 年も務めたほどの優れた音楽家で、彼自身もクラシック界では名の通ったミュージシャンのようです。 しかし、このようなニッチなレコードに参加するとはどういう人脈なのでしょうか。  再度 Sparks に似た「Wonderful Day」、ほのぼのした陽だまりサウンド「Howlin’ At the Moon」とアルバムは続き、ラストの「Pure Buckwheat Honey」へ。  この曲も後期のThe Beatles のような豊なアイディアとコーラスが堪能でき、アルバムが徐々に幕を落としていく予感をにじませることに成功しています。

  このアルバムは買ってからしばらく放置していて聴かなかったのですが、まさかここまで素晴らしい名盤だとは思いもしませんでした。 何と言っても楽曲の良さと、John Corigliano の抜群のアレンジには参りました。  Super K の他のレコードは聴いたことがありませんが、このアルバムを超える作品はないでしょう。 早く再評価され、CD 化されることを願うばかりです。
  さて、最後にアルバムを読みほどくヒントをいくつか。 John Corigliano のことは述べましたが、プロデューサーの Robert Margouleff についても触れておきましょう。 彼は、Stevie Wonder の「Innervisions」といった 1970 年代前半の名作に Malcom Cesil とともにプロデュースで参加しています。 この 2 人は Moog Synthesizer の名手としてユニットとしてのアルバムも残しています。 次に「Super K」に関してですが、ドイツのレーベルからベスト的な CD が発売されています。 しかし、この CD には、残念ながら Buckwheat の音源は含まれていません。

  メンバーのフルネームすら分からない謎のグループですが、Buckwheat の残した唯一のアルバムは 1969 年に産み落とされた数多くの名盤にけして見劣りしない傑作です。



■Buckwheat / Pure Buckwheat Honey■

Side-1
Yes
Radio
Mr. Simms Collector Man
The Albert Hotel
Sunshine Holiday
Goodbye Mr. Applegate

Side-2
The Poor Widow & Her Gypsy Band
Don’t You Think It Would Be Better
Purple Ribbons
Wonderful Day
Howlin’ At the Moon
Pure Buckwheat Honey

Produced by Robert Margouleff
Orchestra Arranged and Conducted by John Corigliano
Recorded at Broadway Recordings Studios , New York

Buckwheat : Tim , John , Charlie , Dan

Super K Records SKS 6004

Benny Hester

2008-02-03 | SSW
■Benny Hester / Benny…■

 クリスチャン・ミュージックの世界で今も現役で活動している Benny Hester が1972 年に発表したファーストアルバムを取り上げてみました。 外面からは、Benny としか分からないので、このアルバムが Benny Hester というミュージシャンのものだということは買った後に判明しました。 このアルバム、ジャケットからはアシッド・フォークの匂いがしますが、サウンドはどちらかというとドリーミーなポップテイストの入ったフォークといったところです。 アルバムの曲名や内容からは、さほど宗教色は濃くないように感じますので、ジャンルは SSW にしています。 1978 年のセカンドは Sparrow からのリリースですので、ここからは明確にクリスチャン系に染まっているのでしょう。

 アルバムは Bubba Poythress の粘っこいギターソロから始まる「Give Your Love Forever」で幕を開けます。 Benny Hester のネコ声のハイトーンのせいでしょうか、1972 年という時代性だからでしょうか、John Lennon に影響されたサウンドといえます。 つづく「No The End Is Not Near」は、キャッチーなメロディーで覚えやすい曲。 シングルカット向きですが、彼のサウンドとしては代表的な楽曲ではなかったのでしょう。 「Love Never Dies」は、牧歌的なテイストのあるこじんまりしたワルツ。 地味な小曲「The Bridges」につづく「We All Know He’s Comin’」は、オープニングのコーラスからしてクリスチャン系のテイストを感じさせるアルバム唯一のドラマティックな大作。  コーラスに加え、Bubba のギターソロも入り、メリハリの利いたメロディーもあって盛り上がりを見せる曲です。 実はこの曲が 4 分を超える唯一の曲でした。

  B 面の「The Painter」は、ソフトロック風でメロディーの際立った曲。 シングルカット向きだと思ったら、実際にカットされていました。  つづく、「Malcombe」は、クラリネットやストリングスが異国情緒をかもし出す異色な曲。  「What’s Happened To My Friends」は、フルートなどが絡むアップテンポ。 短いながらもカッコよく引き締まっています。  地味なバラード「Please Let This Be So」はあまり印象に残りません。 ラストの「Genevieve」は締めくくりにふさわしく、彼の音楽性が凝縮された楽曲。  上手く表現できませんが、初期の Al Stewart のような幽玄性を感じます。

 こうしてアルバムは 27 分という異様な短さであっという間に終わってしまうのですが、内容としては充実したものだと思います。 このようなレコードが Las Vegas から生み出されたことが不思議でなりません。 そういえば、この Vegas Music International というレーベルも、僕はこのレコードでしか目にしたことがありません。 
 また、このアルバムで不思議なのは豪華なセッション・ミュージシャンの参加です。 このようなマイナーなアルバムに Joe OsbornJerry ScheffJames Burton といった名手が参加しているのです。 ほぼ数日でレコーディングしたのでしょうが、この多忙なメンバーをヴェガスまで連れて行くほど力を入れていたとは想像できないのです。 しかも、James Burton よりも無名の Bubba Poythress の方を重宝し、クレジットでもフィーチャーしているのです。 ここも謎な点ですが、僕はこの Bubba Poythress は偽名で、実は有名なギタリストが契約などの問題で偽名参加しているのではないかと推測しています。 それが誰かの見当がつかないのが弱いところですが。

 さて、Benny Hester は現在もなお活動しています。 Wikipedia によると昨年 16 年ぶりに「Reason To Be」という新作を発表したばかりですが、こうしたミュージシャンが息の長い活動をしているのは嬉しいことです。 

 しかし、今日は久しぶりの大雪でした。 子どもとソリ遊びをしてしまいました。



■Benny Hester / Benny…■

Side-1
Give Your Love Forever
No The End Is Not Near
Love Never Dies
The Bridges
We All Know He’s Comin’

Side-2
The Painter
Malcombe
What’s Happened To My Friends
Please Let This Be So
Genevieve

Produced by Brent Maher

Arranger : Ron Tutt / rhythm tracks , Larry Muhoberac / orchestra
All songs composed by Benny Hester with the exception ‘Malcombe’ co-writer Jim Stanton

Bubba Poythress : all electric guitar
Benny Hester : acoustic guitar
Ron Tutt : drums and percussion instruments
Larry Muhoberac : piano and other keyboard instruments
Glen Hardin : piano
Joe Osborn : bass
Jerry Scheff : bass
James Burton : guitar
Quitman Dennis : flute
Jim Horn : assorted reed instruments

Vegas Music International VMI72001