Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

Dan Donahue

2006-10-30 | SSW
■Dan Donahue / Long Distance Runner■

 10 月最後のレコードは、カナダのウィニペグ産の SSW、Dan Donahue のファーストアルバムです。 1978 年に発表されたこの作品は、1978 年と云うある意味最良の時代のエッセンスに満ちた名盤と言えるでしょう。
 裏ジャケットの本人の写真から想像できるとおり、彼の声はハイトーンでプレインな感じ。 神経質そうな印象すらありますが、繊細で時折ファルセットに裏返るあたりは、僕の好きなタイプなのです。
 
 アルバムは全 10曲。 1 曲を除いて Dan Donahue 自身のオリジナルとなっています。 「Welcome Home Sister」は、明るいカントリータッチのナンバー。 心地よいリズムセクションやこもり気味のハーモニカなどが印象に残りますが、彼の声質にはあまり似合わないという気もします。 一転して、ミディアムなバラード「Ma」は佳作です。 途中で入る儚い女性コーラスや、抑え目のバック陣など、湿度の低そうな空気感すら感じることができます。 つづく「Good Times」は、プレAOR的でアコースティック・グルーヴ感あふれる曲です。 A 面はこの 2曲がいいですね。 つづく「Twin Otter Shuffle」は、唯一のインストですが、当時人気のあったアコースティック・ギター・フュージョンの Earl Klugh のアルバムはきっとこんな音だったのだろうと思ってしまいました。 オオカミの遠吠えから始まる「Wild Canada」は、夜のイメージに包まれた静かな曲。 唐突気味にフェードアウトしたあとは、朝の鳥のさえずりが聴こえてきます。

 充実の B面に進みましょう。 タイトル曲の「Long Distance Runner」は、「Welcome Home Sister」と同系列のサウンド。 エフェクトをかけたエレキ・ギターの音色が曲を華やかに染めています。 つづく「Just An Old Romantic」は、ノスタルジックなアレンジが包まれたジャジーなナンバー。 Dan Donahue の高い声に時折ファルセットが入ってきて素晴らしい出来です。 間奏の場面では、気取った口笛のソロなどが入るなど、予定調和な展開なのですが、そんな所もにんまりとさせられてしまいます。 唯一のトラッド「Skewbald」は単調なアップチューンで特に聴きどころはありません。 そして迎える「Madrid」は、アルバムを代表する名曲。 ピアノの弾き語り中心の曲なのですが、ひねくれポップ的な間奏など、風変わりな展開を違和感なく進めていくアレンジは見事です。 僕は、アルバムを取り出して、この曲に針を落としてしまうことも度々あったりします。 ラストのしっとりした小曲「Always A Mission」はリコーダーの音色も心温まるしっとり系のワルツとなっています。 久しぶりにアルバムを聴きましたが、ラストの 2曲がこんな並びだと、アルバム全体の評価が甘めになってしまいますね。

 Dan Donahue は、この作品の後に同じ Freckles Music からセカンドアルバム「Motion」をリリース。 僕は残念ながら持っていないので、早く聴いてみたいです。

 1978 年にこっそりとリリースされた Dan Donahue のファースト。 このアルバムは、同じカナダの Ian Tamblyn のアルバムが好きな方には、きっとカナダ産特有のカラッとした空気感と肌触りを気に入ってもらえると思うのですが。

 

■Dan Donahue / Long Distance Runner■

Side-1
Welcome Home Sister
Ma
Good Times
Twin Otter Shuffle
Wild Canada

Side-2
Long Distance Runner
Just An Old Romantic
Skewbald
Madrid
Always A Mission

All Songs Written by Dan Donahue
Except ‘Skewbald’ traditional
Produced by The Big Freckle

Acoustic guitar : Bob Putves
Electric Guitar : Dennis Petrowski , Chris Anderson , Dennis Fataci
Bass : Richard Maslove , Chrisn Anderson
Trumpet : Chuck Stensgard
Tenor Sax : Dave Pacez
Back up Vocals : Michael Heath and Caroline McCleod
Vocals , acoustic guitar , electric guitar , Synthesizers , piano , irish whistles , harmonica, banjo, bass :Dan Donahue
All Percussion : Randy Joyce

Recorded at Kolossal Studios , Winnipeg , Manitoba , Canada , 1977
Mastered at Roade Studios , Winnipeg , Manitoba , Canada , 1977
Mastered at Jamf Studios , Toronto , Canada , 1978

Freckles Music WRC 343

McCabe and Dunne

2006-10-29 | Folk
■McCabe and Dunne / The Ten Penny Bit■

 途中でアンプが不調になったりしたため、ほぼ 1ヶ月に渡って Swallowtail Records の特集を行いましたが、今日はその番外編的なアルバムを取り上げたいと思います。

 というのも、この McCabe and Dunne のアルバムも Swallowtail Records からのリリースとなっているのです。 前回ご紹介したディスコグラフィーに載っていないじゃないかと思われる人もいると思います。 そうなのです。 このレーベル表記については、僕も最初は戸惑いましたが、ニューヨーク州イサカを拠点としたあの Swallowtail Records とは全く同名の別レーベルだと判断しています。 クレジットには、イリノイ州にある Swallow Productions と明記されており、レーベル面にのみ Swallowtail Records と記載されているこのレコードは、1976 年に発表されたもの。 品番が単に 10001 という点からも、ほぼ自主制作に近いレコードで、おそらくイリノイ州 Oaklawn の Swallowtail Record からの唯一の作品ではないかと思います。

 そんなアルバムは、4 曲以外は、全部 traditional で占められています。 そんな traditional はバンジョーとギターを中心にしたインストも多く、アメリカの音楽というよりは、スコットランドやアイルランドのトラッドを聴いているかのようです。 曲名にも Belfast という地名があったり、Reel というダンス音楽用語があったりすることからもそのサウンドを伺い知ることができます。
 いっぽう作者がはっきりしている 4曲は、「Lavender Man」、「Song For the Swallow」、「Patriot Game」、「Springhill Mining Disaster」です。 「Lavender Man」は、Dunne と Rocket なる人物の共作。 花の香りのしてきそうな穏やかなワルツです。 Mccabe と Dunne の唯一の共作である「Song For the Swallow」は、バンジョーがメインの小曲ですが、特に目立った出来のものではありません。 Dominic Behan による「Patriot Game」はスタンダード的な名曲。 キングストン・トリオやダブリナーズの演奏で有名のようですが、僕自身がこの曲を初めて知ったのは、1984 年頃のこと。 ネオアコがムーブメントだった約 20年前、The Bluebells の名盤「Sisters」にこの曲が収録されていたのです。 その頃はすっかりオリジナルかと思っていました。 爽やかな青春ネオアコに似合わない反戦歌だったことから、アルバムのなかでのアクセントとなっていた印象があります。 ラストの「Springhill Mining Disaster」は、Ewan MaCall の曲。 この歌も Martin Carthy や The Brothers Four などに歌われていた曲のようです。 スプリングヒル炭鉱の悲劇、という内容どおり重々しい曲調の曲で、このアルバムのなかで唯一ピアノをバックにしたものとなっています。

 名前や選曲そしてサウンドからの想像ですが、おそらく Tony McCabe も David Dunne もアイルランドからの移民の家系だったのでしょう。 この二人のその後の音楽活動については全く不明のままです。

 そんな折に、Swallowtail Records で検索してみると、ミネソタ州ミネアポリスに同名のレーベルが存在していることを発見しました。 その公式サイトでは、アーティストリストが掲載されていますが、そんななかに、John Roberts & Tony Barrand の名前を発見。 あのイサカの Swallowtail Records から発売になった 2枚のアルバムのカセットが紹介されていました。 ということは、あのSwallowtail Records が拠点をミネアポリスに移して、未だに活動しているということなのでしょうか? とても気になりますね。 メールアドレスも公開されているので、尋ねてみようかなあ。

 
 
■McCabe and Dunne / The Ten Penny Bit■

Side-1
Ten Penny Bit
Wild Rover
Peggy Gordon
The Little Beggar Man
Lavender Man
The Swallow’s Tail / High Reels
Song For the Swallow

Side-2
Black Velvet Band
Patriot Game
I’m A Rover
The Wonder / Belfast Hornpipes
Springhill Mining Disaster

Tony McCabe : tenor banjo , acoustic guitar , five-string banjo , mandolin ,vocals
David Dunne : bass , piano ,acoustic guitar ,vocals

All Titles arranged by T. McCabe and D. Dunne
Produced by J.August

Recorded august 1976 , pumpkin studios , oaklawn , ill

Swallowtail Records 10001

Scott Alarik

2006-10-24 | SSW
■Scott Alarik / With The New Prairie Ramblers■

 Swallowtail Records 特集の最終回です。 ステレオの不調によりレコードを聴くことができなくなり、投稿に間が開いてしまいました。 
 前回に引き続き、アルバムの主人公は Scott Alarik です。 品番は ST-12、発表年は 1983 年ですが、僕はこの作品を Swallowtail Record の最終リリースだと考えています。 その理由は、単純に ST-13 以降の作品が見つからないからというものなのですが、すでに 10 年近く探していて見つからないのですから、あながちいい加減な推測ではないと思っています。 また、前回に続いて Scott Alarik の作品となっているあたりも、前作「Stories」が他レーベル作品の再発だということを差し引いても、不自然なような気がします。 思い込みですかね。

 さて、そんなアルバムの内容ですが、前作よりもさらに単調で淡い世界が繰り広げられています。 ミディアムな曲調で、サビには男臭いけど優しいハーモニーが重なってくるという曲のオンパレードで、聴いているほうはかなり退屈してしまいます。 ちょっとしたアクセントがあればいいのにと思ってしまいます。 A 面では、(どこにあるのかは知りませんが)ヘネピン地方の秋を歌った「Hennepin County」や、ゆったりしたまさにプレイリー(大草原)というイメージの「Even The Hardest Old Sailors」などがいい感じ。 「The Curse Of Shawnee Gold」では、Peter Ostruoshko と Bob Douglas による珍しいツイン・マンドリン・ソロが楽しめます。
 B 面に入っても曲調には大きな変化はなく、ミネソタの大男たちの優しい歌声と演奏が果てしなく繰り広げられます。 きっとライブは素敵なのでしょうが、もっとアッパーな二拍子やワルツが無いと、少し厳しいかなあと思います。

 さて、そんなことで、ほぼ時代順で自分の持ってる Swallowtail Records のレコードを取り上げてきましたが、約束どおりに調べた完全版(?)ディスコグラフィーも掲載しました。 自分は 12 枚中で 6 枚を持っていることになるのですが、1 枚目と4 枚目の John Roberts & Tony Barrand に関しては、すでに CD で入手することができるようです。 想像するに、かなりトラッドなフォーキーではないかと思います。 Correctones String Band や Cranberry Lake は、ジャグバンドっぽいサウンドではないでしょうか? 残された Bill Steele は分かりませんが、タイトルが子どもっぽいですね。 
 こうして並べてみて、どのアルバムが一番好きかと問われたら、やはり最初に出会った Swallowtail Records 作品だという思い入れも含めて、Bill Destler になります。
 もう、10 月も後半。 僕は、週末は八ヶ岳の紅葉を楽しんできました。 ニューヨーク州イサカの街はすっかり葉が落ちてしまっているのでしょうか。

 もしも将来、イサカを訪れることがあったなら、このささやかなレーベルのことを街の人に尋ねてみたいと思います。 1970 年代に 10年以上も存続した素敵なレーベルのことを。 きっと、多くの人が「いったい何のことかい?」という顔をすると思います。 でも、もし、「あー、そのことなら向かいの喫茶店のマスターに聞いてごらん」 みたいなことになったとしたら、僕は不思議な高揚を感じながら、その古い店のドアを開けることでしょう。

 

■Scott Alarik / With The New Prairie Ramblers■

Side-1
Silk And Lace
Hennepin County
Home To Me
Even The Hardest Old Sailors
The Curse Of Shawnee Gold
Make Your Needs Known

Side-2
Maryanne
Anna Lee
Aboard The Sea Porpoise
Star Of the Country Down
All Thy Names Are One

All Songs written by Scott Alarik
Except ‘Maryanne’ and ‘Star Of the Country Down’ traditional
‘Home To Me’ by Tom Paxton , ‘All Thy Names Are One’ by Bob Zentz

Scott Alarik : lead guitar and vocals
Peter Ostruoshko : harmony vocals , fiddle , mandolin , twin mandolin , twin fiddle
Tim Hennessy : harmony vocals , second guitar
John Foster : harmony vocals , double bass , cello
Bob Douglas : mandolin

Produced by Peter Ostruoshko and Scott Alarik
Executive Producer : Phil Sharpio
Recorded at Studio M ; KSJN Minnesota Public Radio St., Minnesota

Swallowtail Records ST-12

■Swallowtail Records Discography■

ST-1 Spencer The Rover Is Alive and Well / John Roberts & Tony Barrand
ST-2 Bill Vanaber / Bill Vanaber
ST-3 September Sky / Bill Destler
ST-4 Across The Western Ocean / John Roberts & Tony Barrand
ST-5 Before Man Learned To Fly / John Bailey
ST-6 Blackeyed Suzie / Correctones String Band
ST-7 Chocolate Chip Cookies / Bill Steele
ST-8 Old-Time Jugband Music / Cranberry Lake
ST-9 Goin’ Home / Papa John Kolstad
ST-10 Lowdown Symph/ Cranberry Lake
ST-11 Stories / Scott Alarik
ST-12 With The New Prairie Ramblers / Scott Alarik


Scott Alarik

2006-10-10 | SSW
■Scott Alarik / Stories■

 Swallowtail Records は、ニューヨーク州イサカに拠点を置いていることは以前も触れてきましたが、今日取り上げる Scott Alarik は異色な存在です。 というのも彼はミネソタ州をベースに活動してきた SSW で、このアルバムもミネソタ録音です。 Swallowtail Records の歴代のアルバムをプロデュースしてきた、Phil Sharpiro の名前もここではクレジットされていません。 オーナーとも思えた Phil の名前が無いとは一体どうしたことでしょうか。 そこには不思議な経緯が隠されていました。 実は、このアルバムは 1979 年にミネソタの Track on the Island Records から既にリリースされたアルバムと同じレコードなのです。 僕は Track on the Island 盤は持ってないので、ジャケット・デザインが異なるかは分かりませんが、どうしてこのような再発が行われたのか、とても気になるところです。

 今日の主役、Scott Alarik は、少し鼻にかかった渋めのボーカル・スタイルで、繊細さや感傷的な要素は持ち合わせていません。 男らしさの漂うビターなボーカルという感触で、正直言うと、自分はあまり好きなタイプではないのです。 アルバムの曲も、特に A面は、淡々としすぎて少々つらかったりします。 しかし、B面のほうは、「Road Be Kind」や「If It Wasn’s For Mary」といった陽気で明るめの曲で始まることもあって、なかなかの出来です。 ビートルズのカバー「Help」は、フォーク界のミュージシャンがカバーすると大体こうなるという感じのものではありますが、間奏のフィドルも含めて、悪い出来ではありません。 ラストの Jane Voss 作曲の「Keep In Mind」もサビが分かりやすく、親しみやすい曲です。 この曲のように力が入ってないといい塩梅ですね。
 A 面は少々きつい展開ですが、ラストの「Carolyna Moon」はゲスト・コーラスの Maureen McElderry が参加していることもあり、美しい曲に仕上がっています。

 このアルバムに発売年のクレジットはありませんが、1981 年か 82年頃に発売されたものだと思います。 ミネソタからニューヨーク・イサカへと放浪してきた謎の経緯を持つこのレコードですが、少しだけヒントとなるものを発見しました。 前回取り上げた Papa John Kolstad のアルバムにも記載されていたのですが、Scott Alarik は、「Buck’n Wing Musicians Coop」 のメンバーであるとのこと。 この団体が何を目的として結成され、活動しているのか分かりませんが、Papa John Kolstad と親交もしくは面識があったことは想像できます。 そのようなつながりのなかで、この「Stories」 は Swallowtail から発売されることとなったのでしょう。 

 品番は、ST-11ということで、レーベルでようやく 11番目のリリース。 1 年でアルバム 1枚ペースという恐ろしくマイペースな Swallowtail Records の特集も次回がラストになります。 僕がネットで調べた完全版(?)ディスコグラフィーも掲載予定ですので、お楽しみに。

 

■Scott Alarik / Stories■

Side-1
Minnesota’s Got To Me
Edith Day
Crazy Annie’s Basket
Erlking
Carolyna Moon

Side-2
Road Be Kind
If It Wasn’s For Mary
Help
Sully’s Pail
The Miner’s Son
Keep In Mind

All Songs written by Scott Alarik
Except ‘Erlking’ by Steve Gillette , ‘Help’ by Lennon-McCartney ,
‘Sully’s Pail7 by Dick Giddons , ‘Keep In Mind’ by Jane Voss

Scott Alarik : guitar and vocals
Peter Ostruoshko : fiddle , mandolin , guitar , banjo and background vocals
John Anderson : string bass and background vocals
Maureen McElderry : background vocals

Produced by Peter Ostruoshko
Engineered by Steve Weiss and Marge Wagner
Recorded at Creation Audio Studio ; Bloomington , Minnesota

Swallowtail Records ST-11


Papa John Kolstad

2006-10-09 | Folk
■Papa John Kolstad / Goin' Home■

 引き続き、Swallowtail Records の特集に戻りまして、レーベル9番目の作品を紹介します。 1970 年初頭から活動していた Papa John Kolstad が 1980年に発表した「Goin’Home」です。 ジャケットの手触りやセピア色のジャケットは、いかにも Swallowtail という印象です。 そういえば、このレーベルのジャケットで 2色刷りのものばかり。 こうした点も Swallowtail のアイデンティティを伝える要素になっていると思います。

 さて、アルバムの内容はひと言で言うならば、「珠玉のアコースティック・スィング・アルバム」となるでしょう。 Papa John Kolstad とフィドルの名手 Randy Sabien の 2人による息のあったパフォーマンスは見事としか言い様がありません。 ほぼ半数がトラディショナルで、Papa John Kosltad 自身の曲はひとつもないのですが、アルバム全編に渡って整合感があるのは、楽曲に対する理解と演奏の成熟さのなせる技なのでしょう。
 Papa John もさることながら、フィドルの Randy Sabien のテクニックとセンスには驚かされます。 ただ者ではないと思ったら、ジャケットの裏面には、彼が 22歳の時に、バークリー音楽大学の弦楽器部門を主席となったというプロフィールが記載されていました。

 さて、アルバムには Ry Cooder ファンにはお馴染みの曲が 2曲あります。 A面 2曲目の「Diddy Wa Diddy」と「Irene Goodnight」です。 「Diddy Wa Diddy」は、Ry Cooder の「Paradise and Lunch」のラストに収録の「Ditty Wah Ditty」と同じ曲です。 作曲者は Blind Arthur Blake なる人物。 あの Bo Diddley のお得意ナンバーとしても知られていますが、Captain Beefheart のデビュー曲も実はこの曲だったという逸話もあったりします。
 もう 1曲の「Irene Goodnight」は、Ry Cooder の「Chicken Skin Music」 と同様にアルバムのラストに収録されています。 通常は、「Goodnight Irene」と表記されるこの曲は説明の必要のない Leadbelly の名曲。 20 年くらい前に見た Ry Cooder の来日コンサートでもアンコールの最後に演奏されていました。 Papa John Kolstad のバージョンは、フィドルが参加しないギターのみの弾き語りですが、かなりリラックスした一発録りというものです。
 「Fishin’ Blues」と「Old Time Religion」は、Doc Watson に影響されたと本人が明記していますが、ここにもカントリー・フォーク・トラッド、といった音楽を実直に再現しつづける姿勢を感じることができます。 このアルバムが発売されたのは、1980年。 世の中は、産業ロック(当時、渋谷陽一がこう呼んで一律に批判していましたね)全盛の時代。 商業的な成功など、まるで気にしていなかったであろう Swallowtail Records ならではのリリースだと思います。

 Papa John Kolstad はこのアルバムの前に少なくとも 2枚のアルバムを残しています。 1971 年の「Mill City Blues」、1975 年の「Beans Taste Fine」ですが、いずれも未聴。 おそらく、このアルバムのもつ味わいとは大きな違いはないのでしょう。 アルバムの盟友、Randy Sabien も Flying Fish からソロ・アルバムをリリースするなど、元気に活動しているようです。

 

■Papa John Kolstad / Goin' Home■

Side-1
Keep Your Hands Off Her
Diddy Wa Diddy
Corn Likker
Sorry Mama To My Heart
Goin’ Home
Gooseberry Pie

Side-2
Talkin Wolverine 14
Fishin’ Blues
This Ain’t No Place For Me
Looky Looky Yonder
Old Time Religion
Kinfolks In Carolina
Irene Goodnight

Papa John Kolstad : 6 and 12 strings and vocals
Randy Sabien : fiddle

Producer : Phil Shapiro
Recording Engineer : Ken Coleman

Swallowtail Records ST-9


The Pogues

2006-10-07 | Live Report
■Shibuya Ax / The Pogues■

 まるで台風が来たかのような風雨のなか、行ってきました The Pogues のライブ。 昨年、フジロックに来ていたようなのですが、自分にとっては初めてのライブ。 予想していたよりも、かなり良いライブでした。

 驚いたのがお客さんの多さ。 渋谷 AX の追加公演ということですが、AX を 2日間ソールドアウトできる動員力には驚きです。 ライブ会場には、The Pogues の Tシャツを着た 20代の男女も多く、これはフジロック効果なのでしょう。 同じように目立ったのが外国人。 おそらくアイルランド人やイギリス人なのでしょう。 来日アーティストに外国人が多いのはつきものですが、今日はその数の多さには驚きました。 若い日本人も含めて、The Pogues を聴くにはすでに酔っていなくてはいけないという雰囲気で、ドリンクコーナーも長蛇の列。 

 さて、ライブの方は 3曲くらい演奏しては、Shane MacGowan が引っ込み、1曲休んで再登場。というのを繰り返すパターンでした。 Shane が長時間もたないということもあるかもしれませんが、むしろ他のメンバーにボーカルを譲っているということがその理由でしょう。
 前半で嬉しかったのは、「A Pair Of Brown Eyes」です。 Peter Case もファースト・ソロでカバーしたという名曲をライブで聴けて大満足。 中盤での「Dirty Old Town」も合唱が起きているかのような盛り上がり。 思えば、この曲のクリップをピーター・バラカンの The Popper’s TV で見たのが、僕と The Pogues との出会いでした。 歯の抜けた、というよりは歯が溶解したかのような Shane MacGowan の顔と素朴なサウンドに衝撃を受けたものです。 この曲を含むセカンドアルバム「Rum, Sodomy and the Lash」が彼らの最高傑作だと思いますね。 このアルバムは、1985 年の 8月発売ですので、もう 21年も前のことなのですね。 時の経つのは早いなあ。
 アンコールは何と 2回も。 1 回目のアンコールでは聴きたかった「Sally Maclenane」を含む 2曲。 「Sally Maclenane」の盛り上がりは最高でしたね。 何といっても歌詞が「Buy me beer and whisky, cause I am going far away」ですからね。 「酒もってこい!」の演歌と同類です。
 そして、無いと思っていた 2回目のアンコールでは、なんと「Fairly Tale Of New York」が。 清楚なワンピースを着た女性がステージに立った時点で、観客全員が何を演奏するのか分かっていました。 後半のワルツのインストに入ると、紙吹雪が舞い、ロマンチックな装い。 そして、Shane と女性がおぼつかないワルツを踊り出します。 そのタドタドしい感じが映画のワンシーンを観ているかのようで素晴らしかったです。
 ラストは盛り上がり必至ということで、「Fiesta」で終了。 僕らが陣取った2階席から見た 1階のフロアはダイブやモッシュなどが大変なことになっていました。

 さて、今回の来日メンバーですが、ボーカル・ギター・ベース・ホイッスル・バンジョー・マンドリン・アコーディオン・ドラムスという 8名編成。 ほぼ、オリジナルメンバーなのでしょうか? 間違いなくステージにいたと思うのは、Shane MacGowan (vocal)、Darryl Hunt (bass)、Andrew Ranken (drums)、Spider Tracy (whitsle) です。 Terry Woods もいたのでしょうか? 正確な来日メンバーをご存知のかたは、コメントくださるとうれしいです。

 ライブ後に軽く一杯。 この 1980年代の中盤にリリースされた Van Morrison と The Chieftains の「Irish Heartbeat」、The Waterboys の「Fisherman’s Blues」などの話をして、電車のある時間に帰路につきました。

■Shibuya Ax / The Pogues■

2006年10月6日
渋谷 Ax

19:20頃開演 21:10頃閉演

John Bailey

2006-10-03 | SSW
■John Bailey / Before Man Learned To Fly■

 流れにまかせて、Swallowtail Records 特集になってしまいましたが、この際だから僕の持っているアルバムの若い順にご紹介して行こうと思います。 で、これはST-5 という品番なので、5 番目の作品。 経歴不詳の John Bailey が 1975 年に発表したソロ・アルバムとなります。
 ジャケットに描かれた人々のイラストの雰囲気が、Genesis の「A Trick Of The Tail」に似ているのですが、このデザインと文字のレイアウト、さらにはざらっとした手触りの紙質も気に入っています。 同じレーベルの Bill Destler とは大違いですね。

 さて、それはさておき、この John Bailey の特徴は Richard Thompson や Loudon Wainright Ⅲ に似た声質とボーカル・スタイルです。 ちょっと鼻にかかった声だと、こんな感じに肩の力が抜けるのかなと思ってしまうほど、リラックスしたボーカルです。 
 アルバムは、ベースとドラム、パーカッションの 4人編成の曲と、ギターの弾き語りの曲が、ほぼ交互に連なっています。 バンドスタイルの曲では、オープニングの「Sixteen Banks In Boston」が出色。 1 曲目ということもあるのですが、John Bailey の本質はブルースにあると思ってしまうほどのテイストです。 どこかの誰かさんの「アンプラグド」みたいな雰囲気です。 他にも、ルーズフィットなスワンプ「Two Colors」、陽気な田舎風ファンク「When Do You Know That You’re Down」、シンプルなロック「I Can See」、アップテンポなブルースにJohn Ronginski の奏でるvibe ソロが、やけにクールな「Four Hundred Miles Of Blues」などで息のあった演奏を堪能することができます。 バンドスタイルの曲のなかで唯一のバラード「If Now We’re Only Forever」は、曲の完成度が高いですね。 気持ちを押さえながらも微妙に感情移入するボーカルは心に染みてきます。
 一方、ギター 1本での弾き語りも多くあるのですが、孤独感や空虚感が漂う曲に、この時代ならでは趣を感じ取ることができます。 なかでも、「Sing Me This Song」は、何だかいたたまれない様な切なさに満ちた曲。 朴訥としたボーカルが切なさを助長しているかのようです。 ラストの「To A Passerby」は、Andrew Gaus という他人の曲。 自身のアルバムのラストに持ってくるにはそれなりの理由があるのでしょうが、なるほどこの曲もプライベート感あふれるラブ・ソングでした。 過ぎ去っていく友人に対して、もう少し一緒に時を過ごしたかったとつぶやくこの歌はまさに私小説の世界ですね。 このアルバムを静かな秋の夜にじっくりと聴いていて、改めて気づかされました。 音の隙間って大切だなあと。
 
 さて、いつものように John Bailey の足跡をたどろうとして、ネット検索を試みたのですが、同姓の人物が多く、これがこのアルバムの John Bailey に間違いないというものを見つけることはできませんでした。 プロフィールも写真もないまま、このレコードだけが唯一の手がかりなのですが、あまり深く追跡することは野暮なように思えてきました。 
 というのも、長い年月で物事を考えると、このレコードにとって僕は単なる「Passerby」に過ぎないのですから。

 

■John Bailey / Before Man Learned To Fly■

Side-1
Sixteen Banks In Boston
Two Colors
Sing Me This Song
Lonely Sinner
Song For Dave
When Do You Know That You’re Down

Side-2
I Can See
Sailing Ships
If Now We’re Only Forever
Four Hundred Miles Of Blues
To A Passerby

The Songs are by John Bailey
Except ‘Sailing Ships’ by Greg Abess and Al Gabral
And ‘To A Passerby’ by Andrew Gaus

Al Gabral : drums
Bill Teitsworth : electric bass
John Ronginski : vibes and percussion

Production by Phil Shapiro
Engineering by Ken Coleman
Cover drawing and design by Jack Sherman

Swallowtail Records ST-5


Bill Vanaver

2006-10-01 | Folk
■Bill Vanaver / Bill Vanaver■

 ニューヨーク州イサカを拠点に、良質なアルバムを多く残した Swallowtail Records のアルバムを前回に続いて紹介しようと思います。 品番から分かるとおり、前回取り上げた Bill Destler の 1枚前にあたるこのレコードは、1972 年に発表された Bill Vanaver のファーストソロです。 ジャケットに本人が描いた自画像は、まるで George Harrison のようですね。
 そんなこのアルバムですが、収録曲は大きく 3つに大別することができます。 一つめのカテゴリーは、「世界のフォークソング集」とでも題しましょうか。 ブルガリアのダンス・チューン「Kopanista」、ギリシャのフォークシンガー Giannis Markopoulos なる人物の曲「1940」、当時はソ連領だったグルジアのダンスチューン「Lezghinka」が、このカテゴリーに該当します。 
 二つ目は、「人に教わった曲集」です。 本人が丁寧にライナーノーツを残しているので、そんな経緯がわかるのですが、Rosalie Sorrels に教わったという「The Hounted Hunter or : The Walker In The Snow」、Tom Gilfellon (この人はどんな人か知りませんが)に教わった「Mad Tom Of Bedlam」、Ramblin’ Jack Elliott に習ったという「If I Were A Carpenter」が該当します。
 最後のカテゴリーは「カバー集」ということで、Woody Guthrie の「Italian Red Wine」や、Tim Hardin の代表作「If I Were A Carpenter」などが、ここに当てはまります。

 最初のカテゴリーは、フォークソング、もしくは世界のルーツミュージックの研究的な意味合いが強いのですが、ここは Bill Vanaver の音楽に向き合う姿勢が普通のシンガーとは異なることを表しているようです。 もしかして、大学の研究テーマだったりしたのでしょうか。 二つ目と三つ目のカテゴリーは、当時の歴々のミュージシャンからの影響や親交が伝わってきます。 なかでも、「If I Were A Carpenter」はオリジナルが 3分にも満たないのに対し、ここでのバージョンは 6分を超えるものとなっています。 中盤でのギターソロが長いのですが、本人のライナーによると「トルコ調のギターブレイク」とのこと。 いずれにしても、このようなカバーはほぼ同時代のものとしては画期的です。
 「South Bound Train」は、Bill Vanaver 最初に聴いたフォークシンガーだという Big Bill Broonzy の曲。 唯一ハーモニカのサポートの入る曲ですが、Bill Vanaver が見たのは Big Bull Broonzy の生前最後のライブだったとのこと。 

 さて、このアルバム以降の Bill Vanaver の軌跡を追ってみました。 彼は 1972 年に Livia Drapkin という女性と、The Vanaver Caravan を結成。 これはルーツミュージックに根ざした音楽やダンスをパフォーマンスするコミュニティのようですが、今もなお活動を続けているようです。 その公式ページからは、古き良き音楽文化を伝承するべく活動している様子を伺い知ることができました。 また、1977 年に行われたインタビューと Bill Vanaver の写真が掲載されているサイトも発見。 Mt. Airy で行われたというこちらのインタビューも興味のある方はのぞいて見て下さい。

 

■Bill Vanaver / Bill Vanaver■

Side-1
Jordan Is A Hard Road To Travel
Kopanista
The Hounted Hunter or : The Walker In The Snow
1940 (Markopoulos)
I Gave Myself To The Highway (Phillips/ Vanaver)
Mad Tom Of Bedlam

Side-2
Lezghinka
Italian Red Wine (W.Guthrie)
South Bound Train
If I Were A Carpenter (T.Hardin)

Phil Shapiro: mouth harp on ‘Jordan Is A Hard Road To Travel
Walter Feld man: percusiion on ‘Kopanista’ and ‘Lezghinka’
Ted Rotante : mouth harp on ‘South Bound Train’

Producer : Phil Shapiro
Recording Engineer : Ken Frause
Cover and Liner Notes : Bill Vanaver

Swallowtail Records ST-2