Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

Tom Intondi

2007-04-30 | SSW
■Tom Intondi / House Of Water■

 大型連休に入って、昨日はいきなりの雷雨で驚きましたが、今日は一日いい晴天に恵まれました。 ニュースでは潮干狩りの映像なんかを流したりしています。
 もうすぐ 5月、海にでも出かけたくなるような季節に、こんなジャケットのアルバムを取り出して見ました。 ニューヨークのグリニッジビレッジを中心としたシンガーソングライター人脈に位置するTom Intondi が 1983 年に発表したセカンド・アルバムです。
 しかし、何度見てもダサい。 コンセプトもいまひとつ理解できないうえに、Tom Intondi の下着みたいな Tシャツ姿と意味不明の笑顔には、困惑するばかりです。 このジャケットでは衝動買いできません。

 このアルバムは Side-1 のことを、Side yang、Side-2 のことを Side yin と表記していますが、これは幼児語でしょうなのでしょうか? よく分かりません。
 さっそく、Side yang に針を落としてみましょう。 「Shoulder To The Wheel 」はゆったりしたミディアムバラード、ピアノのサポートが地味ながらも効いている曲です。 Tom Intondi に関しては存在を知った頃からフォーキーなサウンドを思い描いていたので、初めて聴いたときには意外だったことを覚えています。 続く「Who Comes Marchin'?」は、さらにハードな曲で、アルバムの評価にとってはマイナスポイント。「Twisting In The Wind」は一転して、ウッドベースとギターを基調とした素朴なナンバーに。 Tom Terreri の奏でるチェロも微妙に絡んできて、切ない心象風景を描き出しているかのようです。 いい曲です。 「High Times」は、また嗜好が変わって、モダンなニューヨークのナイト・ライフを表現したかのようなジャジーなナンバー。 ほとんどクラブでのライブ演奏かと思ってしまうほど、雰囲気を出すことには成功しています。

 Side yin はかなり粒ぞろいの曲が集まっていて、個人的には Side yang よりも好きです。「Dance With Me」は、メロウで憂いのあるメロディーと裏腹の♪Dance with me♪というメッセージに弱気な男の哀愁を感じとることができます。 タイトル曲の「House Of Water」は小気味よいコーラスと切れ味のあるサウンドがマッチした曲。 クオリティはかなり高いですね。 続く「You Call Me Home」はフォークロック調の曲ですが、カントリー色がまったくつかないのは、マンドリンやフィドルが登場しないだけではないと思います。 Tom Intondi の音楽性はあくまでも都市と暮らし、生活と人々という路地裏のコーヒースダンドから眺めた視線があるように感じるからです。 「Take Me To The Water」はさりげなさが際立つクールな曲。 ラストの「Then God Will Dance」も「House Of Water」に通じるサウンド。 終始一貫して、肩肘の張らないリラックス感と、気持ちのいいアレンジと演奏が Tom Intondi の魅力であることを再認識しました。 このアルバムが CD になることなど、ほぼありえないと思いますが、春先の心地よい午後には、こんなサウンドがお似合いですね。

 Tom Intondi は、このブログで以前取り上げたことのある Barbara Meislin のアルバムにコーラスで参加していますが、そのアルバムには、この「House Of Water」にも参加している Martha P. Hogan も参加していました。 時代も1年しか違わないので、比較的近い人脈のなかで生まれたアルバムなのかもしれません。 Tom Intondi はデビュー前の Suzanne Vega とも親交があったと言われますが、そんな彼の音源が収録されている CD を見つけることができました。 Fast Folk : A Community of Singers and Songwriters というコンピレーション盤です。 そこに収録されている音源は「High Times」でした。 この曲が彼自薦の代表作なのでしょうか。 ちょっとバイアスがかかってしまうなあと、余計な心配をしてしまいます。

 最後に宣伝を少し。 実は、ここ数年の良質な CD を紹介する別サイトを立ち上げています。 名前は「Till The Sun Turns Black」というのですが、こちらは全部 CD で入手できる作品というのがコンセプトですので、お気軽にお立ち寄りください。 

 

■Tom Intondi / House Of Water■

Side-1
Shoulder To The Wheel
Who Comes Marchin'?
Twisting In The Wind
High Times

Side-2
Dance With Me
House Of Water
You Call Me Home
Take Me To The Water
Then God Will Dance

All Songs written by Tom Intondi and Frank Rossi

Tom Intondi: Vocals, Acoustic Guitar
Frank Christian: Electric Guitar, Acoustic Guitar
Mark Dann: Bass Guitar, Electric Guitar, Twelve String Acoustic Guitar
Dan Hickey: Drums
Bernie Shanahan: Keyboards, Harmony Vocals
Bill Bachmann: Electric Guitar, Harmony Vocals
Jeff Hardy: Upright Bass
Chuck Hancock: Saxophone
Tom Terreri: Cello
Martha P. Hogan: Harmony Vocals
Helen Arrott: Eschatological Bombast
George Gerdes: Eschatological Bombast
David Massengill: Eschatological Bombast

City Dancer Records ti2001

Rick Piche

2007-04-29 | SSW
■Rick Piché / Statue■

 1986 年に発表された Rick Piché のセカンドアルバムを取り上げます。 Rick Piché は 1980 年代にカナダのオンタリオを拠点に活動したシンガーソングライター。 このアルバムは彼のセカンドで、1981 年にファーストを、1990 年にサードアルバムを発表しているようです。 僕が持っているのはこの 1 枚だけですが、できればファーストアルバムは聴いてみたいと思っています。

 全編が彼のオリジナルとなっているこのアルバムは、クレジットに Emulator とか DX7 のプログラミングという記載がるように、「打ち込みサウンド」が定着しつつある時代に生まれた作品です。 そういうこともあって、隠れた名盤とか必聴のアルバムでは全くないのですが、日本ではほとんど取り上げられたことのないミュージシャンということもあって、ピックアップしてみた次第です。

 オープニングを飾る「Invocation」は、ギターとシンセ、パーカッションによるスケール感のあるサウンド。 アイルランドのシンガーソングライター Luka Bloom(もちろん彼は現役ですが)の同年頃の作品に近いイメージです。 アルバムタイトル曲「Statue」はミディアムで親しみやすい名曲。さりげないバックのサポートもあって、大人の味わいです。 ちょっと耳障りなアレンジと音色がいかにも80 年代という感じの「Lonely Man」は凡庸な出来。 続く「Jealous One」は AOR テイストの感じられるギターが目立ったライト&スムースな曲。「Little Man」は女性コーラスも加わった円熟味のあるバラード。 歌詞を見ると CCM 的なものを感じますが、リラックスした音作りに好感が持てる曲に仕上がっています。

 「Vanity」は、ファンキーなアレンジとチープなシンセの音でかなり興醒めですが、ぎりぎり許容できる範囲。 続く曲は「Smithereens」です。 同名のバンドがいたことを覚えていますね。 The Popper’s MTV 世代であればお馴染みのバンドです。 彼らはまだ現役で「Meet the Smithereens」という The Beatles の全曲カバーアルバムを発表したばかりですね。
 まったく関係のない話になってしまいましたの話を戻します。「Love Just A Little Bit More」は、「Statue」や「Little Man」と並ぶ美しいメロディーを持つ曲でお薦めです。続く「Compromise」は、ちょっとコメントしづらいアップテンポの曲。 ラスト前だから許せるけど、彼の持ち味が消えてしまっているアップ・ナンバーです。 ラストの「Child」は、Rick Piché のギターが美しいバラードで聴き応えがあります。

 さて、いつものように Rick Piché の公式ページを探してみましたが、ありませんでした。 その代わりに検索されてきたのが、「Classroom Guitar .org」というサイトです。 これは Rick Piché が運営している音楽学校なのでしょうか。 それともギター教則本の出版社なのでしょうか。 いずれにしても、すっかり太ってしまった Rick Piché の近影を見ることができますし、彼が地道に音楽家として活動していることが判明しました。 二人の息子さんもバンドを組んでいて、娘さんもミュージシャンという音楽一家で幸せに暮らしている様子ですね。

 

■Rick Piché / Statue■

Side-1
Invocation
Statue
Lonely Man
Jealous One
Little Man

Side-2
Vanity
Smithereens
Love Just A Little Bit More
Compromise
Child

All Songs written and composed by Rick Piche
Executive Producer : Frank McKellar
Produced by Earl McCluskie and Rick Piche

Rick Piche : lead vocals , acoustic guitar
Kenny Trevenna : drums , percussion
Paul Steenhuis : bass
Derek Black : keyboards , Emulator programming
Randy Hicks : electric guitar
Richard Stouffer : tabla drums
Ken Hadley : saxophone
Peter Kryshtalovich : keyboards , DX7 programming
Rick Baskerville : keyboards
Paul Koly : Piano on ‘Little Man’
Margaret Piche / Ruth Ovens / Ken McLennan / Fiano McKinnon / Sandy Vasicek : background vocals
London Gospel Temple Kids Choir : background vocal on ‘Child’
Earl McCluskie : French horn on ‘Child’

Signature Records ST 0026

Jo Mapes

2007-04-23 | Folk
■Jo Mapes / And You Were On My Mind■

 1950 年代から活動していた女性フォークシンガーの Jo Mapes のアルバムを取り上げてみました。 このアルバムにはプロデューサーやミュージシャンのクレジットが無いばかりか、リリース年に関する情報もまったくありません。 そこで、ネットで調べてみたところ、いろいろなことが判明。 このアルバムは 1964 年にリリースされたものということで、なんと自分の生まれた年のものだったのです。 さらには、聞いたこともない FM というレーベルに関しても、完全なディスコグラフィーを記載しているサイトを発見。 インターネットの恩恵を感じながらも、同レーベルがわずか 19 枚のアルバムしか残さなかったことを知りました。 しかも、この Jo Mapes のアルバムは、品番が 317 ということでレーベルにとっても最晩年の作品だったようです。 詳しくは、このサイトを見ていただきたいのですが、FM レーベルは 1962 年に創設されたものの、1964 年には倒産。 カタログのうち、数枚はディストリビューションを行っていた Vee Jay によって再発されたものの、その他のレコードはカットアウト盤として1ドル未満で叩き売られてしまったようです。 僕の持っているレコードは、一度は誰かの手に渡ったものなのか、倉庫や流通業者が叩き売ったものなのかは知る由もありませんが、幸いにもカットアウトではありません。

 さて、前段が長くなってしまいましたが、アルバムはラウンジ系のジャズをバックにした女性フォーキーといった趣のサウンドとなっています。 ジャケットの写真からは当時で 30 代後半以降と思える Jo Mapes ですが、歌声は清楚な印象と大人の円熟味とがいい具合にブレンドされているという印象です。 曲は「Come On In」、「Me And My Friend」、「The Miles Go Fast」の 3 曲が Jo Mapes のオリジナルで、その他はカバーですが、作曲者名は知らない人ばかり。 さすがに 1964 年時点での他人のカバーなので、それは仕方ないところです。
 そんななか、気になる曲はタイトル曲でもある「You Were On My Mind」です。 この曲は Ian & Sylvia の代表曲でもあり、オリジナルは彼らが 1964 年に発表したアルバム「Northern Journey」に収録されているものです。 多くの人にカバーされているこの曲は、We Five や Chrispian St. Peters のカバーが有名とのことです。 さすがに、60 年代フォークには精通していないので、Ian & Sylvia のオリジナルがどのようなものか知りませんので比較は出来ませんが、Jo Mapes のバージョンは、かなりゆったりした仕上がりです。

 このアルバムはフォークとカテゴライズしていますが、アコースティックギターのカッティングやアルペジオはほとんど無く、ウッドベースをメインに、ピアノやジャジーなギターが時折サポートするという極めてシンプルな演奏になっています。 「He Calls Me Baby」や「Me And My Friend」、「Too Late Now」などはその典型ともいえるメロウなバラードで、地味すぎる印象もありますが、それは上品さの代償とも言えます。
 フォークよりの曲も取り上げておきましょう。 まずは最もキャッチーな曲「San Francisco Bay」から。 2 分に満たないこの曲は、は軽快な 60 年代フォークにありがちなアップチューン。 アルバムのオープニングなので、この調子でアルバムが続くのかと思ってしまいます。 A 面ラストの「Come On In」は後に Association の「Birthday」の 1 曲目を飾る曲のオリジナル。 Jo Mapes のリラックスしたバージョンは、まさに原曲の輝きを有しています。
 こうして、Jo Mapes のアルバムを取り上げてみましたが、このアルバム以降のオリジナル・アルバムが存在するのかどうかも確認できませんでした。 ちょっと謎めいたシンガーですが、今も健在ならば 80 歳くらいなのでしょうか。

 

■Jo Mapes / And You Were On My Mind■

Side-1
San Francisco Bay
He Calls Me Baby
No One To Talk My Troubles To
Time Are Getting Hard
My Ship
Come On In

Side-2
You Were On My Mind
Turn Around
Me And My Friend
Too Late Now
The Miles Go Fast

FM 317

Rob Carlson & Jon Gailmor

2007-04-21 | SSW
■Rob Carlson & Jon Gailmor / Peaceable Kingdom■

 前回ご紹介した Jon Gailmor が Rob Carlson との共同名義で発表した唯一のアルバムです。 1974 年にポリドールからリリースされたこの作品は、Alan Schwartzberg や 名手 Eric Weisberg 、そしてジャズ界から Don Grolnick が参加するなど、腕利きのミュージシャンのサポートを受けた良質な SSW アルバムとなっています。
 とはいえ、Jon Gailmor のソロ作品の方がお気に入りだったこともあって、長い間聴くことを封印しており、もしかして 10 年くらいぶりにレコードに針を落としてみました。

 A 面はタイトル曲から始まります。 その「Peaceable Kingdom」は、2 人の息の合ったアカペラ風のコーラスから始まり、ドキッとしますが、すぐにメロウで緩やかなフォークの世界へと移行。 「平和好きな王様」というタイトルにぴったりな楽曲です。 Alan Schwartzberg のタイトなドラミングに導かれた「(Broken Down) Showboat」は勇壮なロックチューン。 この頃の Alan Schwartzberg と Bob Mann は後期のマウンテンのメンバーだったようですね。 タイトルの長い「How can You Tell You Got It (If You Don’t Ever Give It Away)」は子供向けの音楽のような愉快な響き。 「Annie」は雄大なバラードですが、ギターソロのセンスなどが 80 年代の日本のニューミュージックに通じるところがあります。 「Gardener Illinois」は、UK のニッチポップみたいな味わいです。

 B 面に入ると、Jon Gailmor のソロ・アルバム「Passing Through」でも再録された「Slow Down Superstar」と「Thank The Island」に期待が膨らみます。 「Slow Down Superstar」は意外にもホーンセクションが入ってくるようなやや過剰なアレンジです。 2 人のコーラスはぴったり息があっているだけに、気になってしまいますが、何度となく聴くうちにこのバージョンも悪くありません。 やはり元の楽曲の良さが際立っているおかげで、アルバムのハイライト楽曲といって良いでしょう。 つづく「Ridin’ To Nantuckett」は、5 月のそよ風のようなバラードで、1970 年代の典型的な SSW サウンドが楽しめます。 続く「Tupelo」は、ややハードでブラスロック的なアレンジもあっていまひとつですが、「Thank The Island」は、コーラスのせいもあって、Jon Gailmor のソロ・バージョンよりも明瞭な印象を受けました。 ラストの「Sweet High Choir」は、ホーンセクションを交えて壮大に盛り上がっていく様と、静かなハーモニーとの起伏が目立つ展開ですが、終盤は敢えてリスナーに余韻を残すかのようにフェードアウトしていきます。

 このアルバムを残して、2 人のユニットは解消。 その後、Jon Gailmor は精力的とは言えないまでもマイペースでソロ作品をリリースしていますが、Rob Carlson の方は、目立ったレコーディング活動はしていないようです。 このアルバムでは、ほとんどの楽曲を書き下ろしていることから、その後の 2 人の歩んだ道のりは意外に映ります。

 さて、話は変わりますが、音楽を専門に扱ったもうひとつのブログを立ち上げました。コンセプトは 2000 年以降の良質な音楽を扱う、というものなのですが、この規格に該当しないアルバムも出てくるかとは思います。 もし、お時間がありましたら、お立ち寄りください。

 

■Rob Carlson & Jon Gailmor / Peaceable Kingdom■

Side-1
Peaceable Kingdom
(Broken Down) Showboat
How can You Tell You Got It (If You Don’t Ever Give It Away)
Annie
Gardener Illinois

Side-2
Slow Down Superman
Ridin’ To Nantuckett
Tupelo
Thank The Island
Sweet High Choir

Produced and Arranged by Sandy Linzer & Bob Mann
Musicians
Drums & Percussion : Alan Schwartzberg
Guitar : Rob Carlson , Jon Gailmor and Bobb Mann
Bass : Kirk Hamilton
Keyboards : Randall Bramlett & Rob Carlson

Additional Musicians
Percussions : George Devins
Harmonica & guitar : Charlie Brown
Keyboards : Don Grolnick
Mandolin : Eric Weisberg
Tuba : Tony Price
Horns & Strings Arranged by Bob Mann

All Vocals by Rob Carlson & Jon Gailmor

Polydor PD 6023

Jon Gailmor

2007-04-15 | SSW
■Jon Gailmor / Passing Through■

 アメリカ、ニューイングランドのバーモント州を拠点として、良質なフォークやブルーグラスを生み出していた Green Mountain Records のアルバムを取り上げてみました。
 振り返ってみれば、このブログで 100 枚以上のレコードを紹介してきましたが、このレーベルは初めてとなります。 その主人公、Jon Gailmor のファーストソロは特に思い入れの強い 1枚です。 その理由は、内容の素晴らしさもありますが、僕が最初に手にした Green Mountain Records のアルバムだったからです。 情けないジャケットには不安を覚えましたが裏面の写真(=雪原に奥さんと 2匹の大型犬を連れた Jon Gailmor の姿)に妙に気分が高揚したことを覚えています。
 アルバムは半数が彼のオリジナルで、残りはトラッドやカバーという構成です。 
 何度となく繰り返し聴いた「Slow Down Superstar」は、グルーヴ感のある弾き語りに、Jon Gailmor のボーカルが縦横無尽に舞う様はフォーキー・グルーヴの頂点とも言える出来です。 タイトル曲の「Passing Through」は、R.Blakesly なる人物の曲ですが、これまた最高。 メッセージ色の強い内容ですが、ここまでの 2曲だけで名盤といえます。 「Port Of Newbury」は地味ながらもしっとりとした心地よさのある曲。「Fiddler’s Green」はトラッドですが、Jon Gailmor の歌唱のみの小曲。 ボーカルの多重録音が見事です。 フランスのトラッドらしい「The Little Husband」は、1978 年 2月 18 日に行われたライブ録音です。 ウィットに富んだ歌詞のようで、観客の笑い声が時折混じります。 「Connemara Rhyme」はフルートによるサポートが可憐なイメージを与えるバラード。 辞書で調べたら「コネマラ」とはアイルランドにある風光明媚な地方の名称のことでした。 「Blues My Naughty Sweetie Gives To Me」はオールドスタイルのフォーキー。 Kazoo のソロが聴けます。

 B 面に入ります。 「Thank The Island」は Rob Carlson との共作ですが、詳細は後述することにします。 地味なフォーキー「Lazy One」に続く「Samson And Delilah」はギターレスのボーカルトラック。 バックの女性コーラスは、The Delilettes としてクレジットされている 3人でしょう。 やや雰囲気は違いますが、この曲には Laura Nyro と Labelle に通じるものを感じます。 イギリスのフォークシンガー Ralph McTell の代表曲「Streets Of London」のカバーもオリジナルに忠実なもので、かなり秀逸です。 ジャケットデザインの元となったと思われる「Turtle Scoop」は軽快でピッチ自在な Jon Gailmor のボーカル力が十分に堪能できます。 ラストは意外にもシャンソンの大御所ジャック・ブレルのカバーとなる「If We Only Have Love」。 この曲は Barry Manilow をはじめ、多くのシンガーにカバーされている名曲で、曲調の盛り上がりからしてアルバムラストにしか配置できないようなナンバーです。

 このアルバムが発売されたのは 1978 年。 実は Jon Gailmor はこのアルバム以前に、Rob Carlson との共作アルバム「Peaceable Kingdom」を1974年に発表しています。 このアルバムは、2 曲を除いて、Rob Carlson の単独作品となっていて、その不公平感から僕はレコードを持っていながら、なかなか聴く気分になりませんでした。 ところが、今回内容を比較したところ、その 2 曲というのが、「Slow Down Superman」であり、「Thank The Island」だったのです。 ということもあって、次回はそのアルバムを取り上げようかと思っています。
 最後にマニアックな話題を。 このレコードを僕は 2枚持っているのですが、実は微妙にジャケットやレーベル面の異なっているのです。 特に目立つのはジャケットの右上に Green Mountain Records のロゴが印刷されているものとそうでないものがあります。 この 2つは、ジャケットの色合いや、レーベル面のクレジットなど微妙に違うのですが、MFG by ACAZAR Inc. というレコードの製造工場のクレジットの有無に関係しているようでした。 こんなマイナーレーベルの作品は大抵プレス枚数が少ないことから、このようなことは無いと思っていました。 レコードの世界には常に発見がありますね。

 



■Jon Gailmor / Passing Through■

Side-1
Slow Down Superstar
Passing Through
Port Of Newbury
Fiddler’s Green
The Little Husband
Connemara Rhyme
Blues My Naughty Sweetie Gives To Me

Side-2
Thank The Island
Lazy One
Samson And Delilah
Streets Of London
Turtle Scoop
If We Only Have Love

Produced by Jon Gailmor
Recorded at Green Mountain records , Northfield , Vermont

Don Gonoscenti : flute , dulcimer
Ed Epstein : cello
Jon Gailmor : lead and background vocals , Acoustic guitars , kazoos
John Rogers : washtub bass , spoons
Steve Young : piano

The Delilettes : Hanna Richardson , Goco Kallis , Linda Roberts

Green Mountain Records GMS 1066

Bill and Taffy

2007-04-07 | SSW
■Bill and Taffy / Pass It On■

 桜が満開になってから東京はやや寒い日が続いていますが、これから 5月まではとてもいい季節ですね。 そんな春のほんわかした気分にうってつけのアルバムをセレクトしてみました。 海辺で仲良く手をつないで幸せそうな、Bill とTaffy の Danoff 夫妻が 1973 年に発表したファーストアルバムです。 メジャーのRCAからのリリースですが、未だに CD 化される気配はありません。
 そんな Bill and Taffy は Fat City というバンドが解散し、主要メンバーだった 2人が結成したユニット。 彼らの名前を有名にしているのは John Denver の「Take Me Home , Country Road」(邦題:故郷へ帰りたい)を共作したという事実です。 この曲の作家としては Taffy Danoff ではなく Taffy Nivert という名前で登録されているので、当時はまだ結婚前だったということなのでしょう。

 アルバムはほぼ一貫して Bill と Taffy がハモり続ける感じで、その関係は、Gram Parsons の「GP」や「Grievous Angel」での Gram Parsons と Emmylou Harris の関係に通じるものがあります。 曲調はカントリー色の入ったポップがメインですが、ジャケットのように暖かな陽光や爽やかな風を感じる季節感ぴったりなサウンドです。 Larry Carton , Hal Braine , Jim Gordon やJoe Osborn などの著名なミュージシャンによるサポートもメジャーレーベルならではのもの。
 
 さて、アルバムをおさらいしてみましょう。 オープニングに相応しい伸びやかなナンバー「Flyin’ Home To Nashville」に続く「Do You Believe」はシングルカットできそうなキャッチーな出来です。 誤解を招きそうですが、キャプテン&テニールが歌ってもおかしくないです。 続く「Our Father」は、Taffy Danoff がソロをとるバラードですが以降の 2曲はリズムセクションが入っていないこともあり、やや散漫で退屈な出来と言わざるを得ません。
 B 面に移ると、ミディアムでレイジーな「She Won’t Let Me Fly Away」や軽快なロック「Roll Over」などで盛り返してきます。 フィドルやマンドリンを交えたカントリー「Some Sweet Day」では、Larry Carltonがバンジョーでクレジットされるという珍事が発生。 シェイクスピアの詩にメロディーを付けた「O Mistress Mine」は、質素な小曲ですがアルバムのお口直しみたいな存在でしょうか。 続く「Friends With You」は Bill and Taffy の音楽を 1曲で語るには最も適した曲。 適度なポップ感とメロウネスそして憂いなどが見事に融合しながらも盛り上がっていく様は、1970 年代前半にしか生まれないものです。 ちなみに、この曲には Al Jarreau が、ボーカル・フルートというクレジットで参加していますが、中間部でそれらしき歌声を聴かせています。 ラストの「Pass It On」も前曲の流れを受けついだ雄大で感動的なナンバー。 60 年代フォークの歌姫、Carolyn Hester がバックコーラスで参加しています。

 Bill and Taffy としてのアルバムは 1975 年に「Aces」がありますが、こちらは未聴です。 その後は、この「Aces」をきっかけに出会った Jon Carrollと Margot Chapman を加えた 4人編成のグループ「Starland Vocal Band」を結成し、1976 年から 1980 年にかけて、5 枚のオリジナルアルバムを発表しています。 このことは Bill Danoff の公式ページで知ったのですが、そこに掲載されている年老いた Bill Danoff の表情を見ると、34 年の歳月の重みを感じざるを得ませんでした。

 

■Bill and Taffy / Pass It On■

Side-1
Flyin’ Home To Nashville
Do You Believe
Our Father
Didn’t I Try
There’s Man In China

Side-2
She Won’t Let Me Fly Away
Roll Over
Some Sweet Day
O Mistress Mine
Friends With You
Pass It On

Produced by Dave Blume & Bill and Taffy Danoff
Arranged by Dave Blume

All Songs written by Bill Danoff
Except ‘Flyin’ Home To Nashville’ , ‘Friends With You’ and ‘Pass It On’ written by Bill and Taffy Danoff , ‘O Mistress Mine’ words and music by Bill Danoff and William Shakespeare

Keyboards : Larry Muhoberac
Bass : Joe Osborn , Jamie Faunt
Drums : Hal Blaine , Jim Gordon
Guitar : Bill Danoff , Bob Rose , Larry Carlton
Korean Flute : Raymond Cho
Koto : Kayoko Wakita
Tsi-idoati : Elisabeth Waldo
Background Vocal :Carolyn Hester
Fiddle and Mandolin : Nyron Berline
Banjo : Larry Carlton
Vocal Flutes : Al Jarreau

RCA APL1-0214

Michal Hasek With Sundog

2007-04-01 | SSW
■Michal Hasek with Sundog / The Radio Play■

 Michal Hasek のセカンドアルバムは、1978 年に Michal Hasek with Sundog という名義で発表されました。 レーベルは前作に続いて彼のプライベートレーベルと思われる Naja からのリリースとなります。
 このセカンドは、ファーストに比べて Michal Hasek の R&B 指向が色濃く出た作品となっています。 若干、サウンドは異なるものの、カナダのミュージシャンで南部志向ということでは、Joey Gregorash を連想させます。

 アルバムも、ほとんどの曲で Michal Hasek のギターソロが披露されるなど、王道のロックからスワンピーな曲で占められており、アコースティックな弾き語りやメロディー重視のアレンジなどは聴くことができません。 前作はオリジナル以外の曲であっても、シンガーソングライター系のミュージシャンによるものでしたが、このアルバムでは R&B~ソウル系へと変化しています。 Percy Mayfield の「Send Me Somebody To Love」、Taj Mahal の「She Caught The K.T.」、そしてWillie Dixon の「Built For Comfort」のいずれもオリジナルは聴いたことはありませんが、4 年間の Michal Hasek の変容はここからも伺い知ることができます。
 そんなアルバムなので、個人的には深くのめり込める内容ではありません。 平凡なロックやオーソドックスなサウンドに、これといって評価できる点は少ないと言わざるを得ません。 通して聴いてみると、A 面のほうが B 面に比べて、起伏に富んでいて悪くないと思います。 特に後半はスライドギターが活躍し、前述の「Send Me Somebody To Love」へ至るまでの流れは悪くありません。 B 面はしんみりしたバラード「She’s A Friend」と地味な「The Radio Play」に前作の面影を感じ取ることができます。

 さて、このアルバムにも Tony Kosinec の名前がクレジットされています。 バックコーラスと、アシスタント・エンジニアということなのですが、彼の気配は全く感じ取ることができません。 クレジット買いの失敗の代表格ともいえるくらいです。 Tony Kosinec の参加は、単にトロント人脈ということで、かなりクローズドな繋がりからくるものなのでしょう。
 そんな Michal Hasek の近況を調べようとネットで検索しましたが、公式ページは見つけることができませんでした。 その代わりに、Michal Hasek Real Estate Ltd. という不動産会社のサイトを発見しました。 まさか同一人物ではないと思いつつ、同じカナダのトロントを拠点にしていることから、もしかすると華麗なる転身を果たしたのかもしれませんね。

 

■Michal Hasek with Sundog / The Radio Play■

Side-1
Little Man
Night Fear
Starling
Sunshine Come
Rainbow
Send Me Somebody To Love

Side-2
Riverboat Queen
She Caught The K.T.
She’s A Friend
Built For Comfort
Home Is Where The Heart Is
The Radio Play

Produced by Hasek

Guitars : Michal Hasek , Mitchell Lewis
Bass : Rodney St Amand
Piano : Brian Browne , Carol Hanson
Drums : Don Lowe
Harmonica : Michal Hasek
Percussion : Bill Reed
Banjo : D.Rea
Flute : Carol Hanson
Sacophone : Rick Morrison
Vocals : Michal Hasek , Carol Hanson , Ron Nigrini , Tony Kosinec

Naja 2