Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

Steve Beckham

2010-06-26 | SSW
■Steve Beckham / Beginnings■

  アジサイの美しい季節になりました。 雨の滴に濡れたあとの瑞々しさは格別です。 子供の頃はアジサイの枝にびっしりとかたまっているカタツムリをよく見かけたものですが、最近はまったく見なくなりました。 道端でカタツムリを誤って踏みつぶしてしまった時の後味の悪さは、思い出すだけで気分が悪くなります。

  そんなカタツムリを愛おしそうに見つめるのが Steve Beckhamです。 1978 年にカリフォルニア州でレコーディングされた作品。 エンボス加工のジャケットから感じる手触りと同じように、シンプルで素朴な演奏にサポートされたマイルドなアルバムなっています。 Steve Beckham はクリスチャンミュージックに該当するミュージシャンのようですが、ここで聴ける楽曲はこてこての CCM という印象ではありません。 タイトルも CCM 色が濃いわけではなく、Jesus や Lord という歌詞もほとんど聴かれないので、ボーカルが強調された SSW 作品として捉えたほうが正しいかもしれません。
   
   アルバムが似合うのは夜でしょう。 壁の向こうで弾いているかのようなピアノ、不安げに響くバイオリン、街灯が路面を照らすかのようなクラリネットといったエッセンスは、太陽の出ている時間にはお勧めできません。 冒頭の「King Of The Canyon」や「Gone」はアルバム中では珍しく浮遊感とスケールのある明るい楽曲なので、そのイメージを期待すると裏切られることになります。 このアルバムの基幹を成しているのは、むしろ気品の高いピアノの音色が耳に残る「Todd」、命の元である水の有難みを歌った「Water」、少しジャジーなアレンジが渋い「Charlies Epitagh」といった楽曲です。 とくに「Charlies Epitagh」の口笛によるメロディーを聴くと、ニューヨークの都会派SSWを思い出してしまいます。
  楽器の音色でアクセントをつけているのは、ギターとクラリネットの音色が印象的なミディアム「When God Comes Back」、ひんやりしたシンセサイザーの音色から始まる「Icarus」、バイオリンとコーラスが孤独と不安感を助長しているかのような「Beginnings」の 3 曲でしょう。 これらの楽曲がなかったら単調で沈みがちな流れに歯止めを効かせることはできなかったでしょう。
  一度聴いたら忘れないのはTwinkle Twinkle Little Star のサビの部分をうまく引用したバラード「Little Boy Blue」、そして輪唱のようなアカペラで短く終わりを決める「Summer Boy」といった楽曲です。 とくに♪Twinkle Twinkle Little Star♪ のサビの部分をうまく引用したバラード。 勝手に思い込むほうが悪いのですが、ラストの「Summer Boy」はもっと感傷的な楽曲を期待していただけに、やや拍子抜けしてしまいました。

  こうして蒸し暑い夜にこのアルバムを聴いてみましたが、不思議なのは西海岸の気配をまったく感じないことです。 カリフォルニア州ニューポート・ビーチでレコーディングされたこのアルバムは、意図的だと思いますが、海と砂、波しぶき、降り注ぐ日差し、といった一般的なイメージからはまったく謝絶された音づくりがなされていました。 これはもちろん、Steve Beckham の目指したものであるに違いありませんが、彼はよほど俗世間に関心が無かったのでしょうか。 カタツムリを見つめる彼の心身状態はいかなるものだったのか気になってしまうのです。

■Steve Beckham / Beginnings■

Side 1
King Of The Canyon
Gone
Little Boy Blue
When God Comes Back
Sometimes In Your Eyes
Beginnings

Side 2
Icarus
Todd
Water
Charlies Epitagh
Good Friday
Summer Boy

All songs compoesed by J.S. Beckham

Lead vocals : Steve Beckham
Background vocals : Kristi Lartsen, Claire Hirota
Guitar : Steve Beckham
Piano : Steve Beckham, Rick Dellefield
Other Keyboards : Rick Dellefield
Violin : Mike Harrison
Bass : Jim Perez
Percussion : Bobby Guidotti
Clarinet : Steve Beckham

Bridge Productions JSB 51853

Dev Singh

2010-06-21 | SSW
■Dev Singh / Listen■

  1960 年代後半のサイケデリックな雰囲気のジャケットで登場したのは、Dev Singh のアルバム。 デヴ・シンと発音するのでしょうか、明らかに英米系ではないこの名前ですが、彼はおそらくインドもしくは中東の血筋をひくアメリカ人ではないかと思います。 そのあたりの詳細はさておき、驚くべきことにこのアルバムは 1983 年以降の作品でした。 ライナーには具体的なレコーディング時期は明記されていませんが、’Woke Up This Morning’という曲が 1983 年に作曲されたというクレジットがあり、それが唯一の時代考証となっているのです。
  
  さて、そんな奇妙な雰囲気に包まれたエキゾチックなアルバムですが、内容はライブの一発録音を編集したもので、アコースティックな臨場感にあふれるものとなっています。シカゴのスタジオに気心の知れたセッションマンを集めてレコーディングされと思われるこのアルバムは時にはフォーク調に、時にはブルースにと表情を変えつつもDev Singhの音楽性を十分に発揮した作品と言えるでしょう。 

まず、オープニングの「Listen」はやや硬めの曲調で身構えますが、つづく「You’re The Center Of My Life」は典型的な R&B 基調となり、徐々にリラックス・ムードに。 「A Reason For Staying」は落ち着いた SSW 風の佇まいとなりアルバムは落ち着きを見せます。 そして迎える「Goin’ To The Country」は A 面のハイライト。 何となくBruce Cochburn のような曲を予想していたのですが、かなり的中していました。 ギターのアンサンブルは繊細で華麗とまでは言えないものの、なかなか聴かせてくれます。 ピアノの音色が奥深く染み込む「Nighttime Rider」はタイトル通りのアダルトな AOR ムードのミディアムに仕上がっていました。

  B 面の「City Blues」は名前の通りのハードなブルース。 荒っぽいハーモニカのソロが印象的ですが、個人的な好みからは外れてしまいます。 つづく「Woke Up This Morning」は参加メンバーのTricia Alexanderの作曲。 この曲 はDev Singh のアカペラによるボーカルが堪能でき、とくに彼の声域の広さを実感することができます。 つづく「Love The One You’re With」は Stephen Stills の名曲カバー。 アイズレーやミーターズなど多くの著名ミュージシャンにカバーされた曲のようですが、今までそれほど意識したことがありませんでした。 一転してスロウ「The Last Date」は、ビターな弾き語り。 ラストの「What I Want」とともに、アルバムに深みと余韻を与える大人びたエンディングとなっており、Dev Singh の懐の深さを実感させるものとなっています。

  さて、いつものように Dev Singh で検索すると彼の公式ページがヒットしました。 それによるとこの「Listen」はやはり 1983 年の作品ですが、なんと 6 枚目のアルバムだということが判明。 さらに驚いたのがデビュー作は 1965 年ということです。 Rampir Records というレーベルは彼のプライベート・レーベルのようですが、この他の作品にも接する機会があれば聴いてみたいと思えるような作品でした。

■Dev Singh / Listen■

Side 1
Listen
You’re The Center Of My Life
A Reason For Staying
Goin’ To The Country
Nighttime Rider

Side 2
City Blues
Woke Up This Morning
Love The One You’re With
The Last Date
What I Want

Produced by Doug Lofstrom and Dev Singh
Recorded live and edited by Mike Rasfeld, Acme Studios, Chicago
All songs by Dev Singh except ‘Woke Up This Morning’ by Tricia Alexander , ‘Love The One You’re With’ by Stephen Stills

Dev Singh : guitar, dulcimer, vocals
Tricia Alexander : harmonica, percussion
Alpha Stewart Jr. : congas
Doug Lofstrom : electric bass, piano
Steve Yates : electric guitar
Terrence Carson : 2nd vocal on ‘Listen’

Rampir Records R-104

J.W. Everitt

2010-06-16 | SSW
■J.W. Everitt / Listen■

  貝がらに耳を近づけると波の音が聞こえる... なんて話がありましたね。 もちろん綺麗な嘘に決まっていますが、そういうロマンチックな話を頭ごなしに否定してしまうのも大人げないかなと思ったりします。 このジャケットに映し出されている巻貝の写真と、大きく「LISTEN」と書かれたデザインを見ると、貝がらを手に取るとついつい耳に近づけてしまう衝動は世界共通なのだと思いました。

  大胆にも「聴け」というタイトルのアルバムは、J.W.Everitt が 1975 年に発表したファースト・アルバム。 ギターのテクニシャンであり、SSW でもある彼はフォークからブルース、そしてジャズに至るまでの幅広い音楽を吸収し消化したミュージシャンで、Leo Kottke あたりと比較されることが多いようです。 彼の公式サイトによると Leo Kottke とは共演したこともありました。

  アメリカでは倒産してしまった Tower Records の発祥地でもあるカリフォルニア州のサクラメントでレコーディングされたこのアルバムは、内陸性の空気感を伴ったシンプルで飾り気のない仕上がりです。 そもそも全 7 曲、時間にして 40 分という短さもさりげなさを演出しています。

  アルバムは、最も素朴なギターサウンドの「Listen」から始まります。 ほぼ、インストだったように記憶してしまうほどボーカルの印象が薄い楽曲です。 あまり聴いたことがありませんが、Leo Kottke に近いサウンドです。 つづく「Doctor Luther」はやや印象が異なり、あす。 ここでは、J.W.Everitt のギターは控えめな存在になり、ブルース調のコード進行をバックにピアノやハーモニカがソロを奏でる展開へ。 その流れは「Lay The Body Down」にも引き継がれます。 ここではブルース色は消えますが、まったりした曲調はそのままという感じです。

  B 面は少しポップになった印象の「Hiway Song」から始まりますが、3 分にも満たない短さであっけなく幕を閉じ、「I Need You Now」へと続きます。 5 分を超えるこの曲はアルバムのハイライトとも言える出来で控えめな演奏のなかをリリカルにピアノのソロが舞う中盤では、言葉にできない心象の移ろいを感じます。 この曲だけではありませんが、ピアノの Steve Peterson の好サポートはこのアルバムの最大の魅力となっています。 つづく「For Me」は J.W.Everitt のつま弾くギターの音色を堪能できるインストゥルメンタル。 ここでも Leo Kottke に近いものを感じます。 ラストの「People」はまたもピアノに導かれたバラード。 Steven Peterson のピアノはやや遠めにあるような奥行き感を感じさせ、その分ボーカルが近くに聴こえるように感じます。 音で演出した遠近感とでもいうのでしょうか、ここがこのアルバムの最大の魅力でもあり、癖になってしまうポイントでしょう。 寡作な彼はもう 1 枚しかアルバムを発表していないようですが、まだ現役で活躍しているようです。 それは素晴らしいことですね。

  さて、次回はまた「LISTEN」というタイトルのアルバムを選ぶことにしました。 何が出てくるかはお楽しみに。

■J.W. Everitt / Listen■

Side 1
Listen
Doctor Luther
Lay The Body Down

Side 2
Hiway Song
I Need You Now
For Me
People

Produced and arranged by by J.W. Everitt
All selection writen by J.W. Everitt
Recorded and mixed : Heavenly Recording Studio, Sacramento, CA

J.W. Everitt : acoustic guitars and vocals
Jim Abegg : upright bass
Steve Peterson : piano
Mick Martin : harmonica

Thunderhead Records


Jon Wilcox

2010-06-08 | Folk
■Jon Wilcox / Close To Home■

  Jon Wilcox は、Folk-Legacy から 1973 年のアルバムでデビューしたミュージシャン。 この「Close To Home」は 1978 年に発表されたセカンド・アルバムです。 春の温かな日差しのなか、Jon Wilcox と愛犬とが映りこんだ緑基調のジャケットを見れば、リスナーの期待は否応なしに高まるでしょう。

  さっそくそんなアルバムに針を落としてみましょう。 オープニングから意表をつく楽器が登場します。 それは、日本語では口琴(こうきん)と呼ぶらしい Jew’s Harp の音色です。  口琴はゴムを弾くように演奏するもので、その音色は終始ビヨ~ンと鳴り続けるややもすると耳障りなものです。 そんな楽器を敢えて使った「Old Bill Jones」は、Jon Wilcox のルーツ指向の強さを感じるオープニングでした。 アコギとバンジョーが主役のオーソドックスな「Close To Home」に続いては、ジェントルな SSW テイストあふれる「Old Dog」へ。 繊細なアコギの音色もマッチしたA面のお薦め曲です。 Dusty Owens 作曲の「Once More」もルーラルでいなたいナンバー。 曲のほとんどがハーモニーを伴って歌われます。 つづく「Recessional Hymn」もカントリー系のワルツなので、西海岸のアルバムなのにウッドストック周辺のアルバムを聴いているかのような気分になってきます。  A 面ラストはトラッドの「Sir Patrick Spens」です。 アイリッシュ・トラッドなのでしょうか、アカペラの独唱で 4 分弱というのはやや長すぎという印象です。

  オリジナルが 3 曲含まれていた A 面とは打って変わって、B 面にはオリジナル楽曲は 1 曲もありません。 まずは、軽快なフィドルをバックにした「I’m Gonna Live In The Highwoods」、Hank Williamsの「Lonesome Whistle」とカントリー色の強い曲が並びます。 つづくトラッドの「Jock O’hazeldean」はしみじみとしたボーカルナンバーで、アルバムもここで落ち着きを見せてきます。 「Hot Dog Stand」では再びバンジョーがテケテケ響き渡り、カントリーへと舞い戻ります。 フィドルに導かれて西部劇を観ているかのような「The Mem’ry Of Your Smile」がつづき、ラストの「Mississippi, Youre On My Mind」へと移っていきます。 この曲は Jesse Winchester の 3 枚目「Learn To Love It」に収録されているナンバー。 長かった一日の終わりを川辺で過ごすようなイメージのバラードはラストにふさわしい選曲です。 この曲は疑う余地のない B 面のハイライトでしょう。

  さて、このようにアルバムを振り返ってみましたが、カントリー色が濃すぎる点が個人的な好みからは外れてしまうという印象は拭えません。 騒々しさや能天気なテンションの高さはないのが救いですが、やはりオリジナル楽曲を軸に据えて、もう少し自身の個性を前面に出してほしかったと思います。

 Jon Wilcox は今も現役で活動しているようで、公式ページには多くの CD が掲載されていました。 ビジネス的には成功しなかった彼がこれほどのアルバムを発表できた理由は謎ですが、地道なライブ活動と豊富なレパートリーが強みだったのでしょう。 好きなことを続けることがいちばん幸せな人生だということを、彼は実感しているに違いありません。

■Jon Wilcox / Close To Home■

Side 1
Old Bill Jones
Close To Home
Old Dog
Once More
Recessional Hymn
Sir Patrick Spens

Side 2
I’m Gonna Live In The Highwoods
Lonesome Whistle
Jock O’hazeldean
Hot Dog Stand
The Mem’ry Of Your Smile
Mississippi, Youre On My Mind

Produced by Hurley Davis for No Budget Productions
Recorded by Peter Feldman (May 1977 - Jan1978)

Lead vocals : Jon Wilcox
Harmony vocals : Kate Brislin, David West, Tony Marcus, Jon Wilcox
Guitars : Eric Thompson, Jon Wiolcox, A.J.soares, Doug Wilcox, David West, Jimmy Borsdorf
Fiddles : Susan Rothfield, Jimmy Borsdorf, Tony Marcus
Mandolins : Peter Feldmann, Jon wilcox
Jew’s Harp & Harmonica : Rick Epping
Bass : Stan Tysell
Concertina : Wendy Grossman
Banjo : Peter Feldmann
Cello : Alita Wilcox Rhodes

Briar Records SBR-4210