Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

Ellis And Lynch

2011-12-24 | Christian Music
■Ellis And Lynch / Life Is You■

  今年最後に取り上げるアルバムです。 震災以降、めっきりアップする回数も減ってしまいましたが、これからも月に 1 回か 2 回程度のペースでゆっくりとやっていきたいと思っています。

  Ellis And Lynch は Ron Ellis と Rob Ellis そして Collene Lynch と Mike Lynch という二組の夫婦によって結成されたグループ。 こちらのサイトによると、5 枚のアルバムを発表しているようです。 そのなかでも愛らしいジャケットが素晴らしい「Life Is You」は 1976 年に発表された 3 枚目の作品。 全体的にアコースティックな音作りを基本としながら、リラックスして余裕のあるクリスチャン・ミュージックが堪能できるアルバムとなっています。 曲のタイトルを見ても、すぐにクリスチャン・ミュージックだと判るものばかりです。

  アルバムはソフトロック的なハーモニーが美しい「Life Is You」でスタート。 背後で薄く弾かれるピアノが気品を高めています。 教会の合唱隊向けのような「Blessing On The King」は SSW 的な味わいはないものの軽やかなフルートが彩りを添えています。 つづく「Hymn To The Father」は暗闇から光を求めて歩み出すような力強さを感じる曲です。  「Praise Song」はシンプルなワルツですが、ここでもフルートやストリングスなどのアレンジセンスが光ります。 イントロのトロピカルなパーカッションにびっくりする「Come Lord Jesus」はハワイアンっぽさが意外ですが、ハーモニーの美しさに集中すればさほど気になるものではありません。

  B 面に入ると木漏れ日フォークのような小曲「Choices」から一気に癒され、つづく「Listen To The Word」でも良質なフォークロックが継承されます。 美しいフルートが聴こえてくると、「A Song For Mary (Meditation)」のはじまり。 唯一のインスト・ナンバーはピアノとフルートによるヒーリングの世界です。 心が開かれたあとにつづく「Father Of Peace」はスロウなワルツ。 クリスチャン・ミュージックの教科書みたいなメロディーと普遍性にあふれています。 「The Light Has Come」はマイケル・フランクス的なサウンドに絶妙なハーモニーが添えられるあたりが聴きどころ。 ラストの「May The Roads Rise Up」はマンドリンの音色がクリスマス気分にさせってくれる素晴らしい曲。 ゆったりとしたバラードからは、すべての人々の幸せを願っているかのように聴こえます。

  やはりこのアルバムは B 面でしょう。 A 面は「Life Is You」が出色ですが、その他の曲がいまひとつ。 それに比べて、B 面は個々の楽曲の出来栄え、曲順ともに素晴らしい仕上がりです。 Ellis And Lynch のアルバムはこの「Life Is You」しか聴いたことがありませんが、他の作品への期待感は高まるばかりです。

  今年は本当に悲しくてつらい出来事が起こりました。 音楽を聴く気分にもなれないほどの人も多かったと思います。 そんななかで、今年最後に取り上げたのが、人類の平和、神への祈り、家族への愛を歌ったアルバムでした。

  「Life Is You」

  まさに人生とはきみのこと。 レコード収集に関して何の文句も言わない嫁さんとまだサンタクロースのことを信じている娘にこの言葉を捧げます。

■Ellis And Lynch / Life Is You■

Side-1
Life Is You
Blessing On The King
Hymn To The Father
Praise Song
Come Lord Jesus

Side-2
Choices
Listen To The Word
A Song For Mary (Meditation)
Father Of Peace
The Light Has Come
May The Roads Rise Up

Written, arranged and produced by Ellis and Lynch
Recorded and mixed at Kaye-Smith Studios, Seattle, Washington

Ron Ellis : guitar, bass, mandolin, lead vocal
Rob Ellis : piano, fender Rhodes piano, finger cymbals
Gregg Keplinger : drums, cow bell, tambourine, vibra-slap, maracas,congas
Collene Lynch : 6-string guitar, lead vocal, harmony, triangle
Mike Lynch : guitar, 12-string guitar, bells, harmony, soprano recorder, arp string ensemble
Mary Lowney : flute, wood block
Dave Lemargee : 5-string banjo
Buzz Richmond : cabasa, claves

Ra-o Records R14-1976

The Way

2011-05-29 | Christian Music
■The Way / Can It Be ?■

  5 月なのに梅雨入りということで、憂鬱な季節の訪れが例年に比べて非常に早くやってきました。 日本全体を覆う不透明感と夏の電力不足を目前にして暗い気分にはなりたくないのですが、この梅雨入りの早さが悪い方向に影響が出ないように願うばかりです。
  そこで、西海岸の爽快なクリスチャン・ミュージックを取り出してみました。 The Way という 5 人組が 1975 年に発表した彼らのセカンドにあたります。 同時代の作品と比較しても洗練されたアレンジとグルーヴ感あふれる演奏が彼らの魅力となっており、CCM 臭さもほとんど感じないことから、AOR ファンを中心に幅広い層に受け入れられる内容に仕上がっています。 さっそく、全 8 曲を聴いてみることにしましょう。

  オープニングの「A Cowboy’s Dream」はいきなりウェストコースト・サウンドの教則本みたいな楽曲。 爽やかなメロディーとコーラス、駆け抜けるようなペダル・スティールそしてギターソロには、この土地の乾いた空気と青空無しでは生まれてこないものでしょう。 欠点の見出せない仕上がりでした。 やや落ち着いたミディアムの「Days Of Noah」は親しみやすいメロディーとそれを増幅する間奏のギターソロが魅力的。 テンポを落とすエンディングからメドレー的に「I’ve Been Sealed」が始まるあたりのアレンジも見事です。 この曲も息のぴったり合ったハーモニーが魅力で、ややカントリー色が出ているもの全く問題ありません。 アグレッシブなドラム、そして鋭角的なギターに導かれてアップテンポの「Do You Feel The Change」へ。 パーカッションがラテンっぽさを出していますが、メインのコーラスの美しさは滑空感あふれるもので、そこへ粘っこいツイン・ギターソロが挿入されるあたりは完ぺきに近い展開。 このギターソロは日本人にはたまらないインパクトがあり、この曲をアルバムの代表曲に推す人が多いのも十分に納得できます。

  充実度の高い A 面に比べると B 面はやや劣勢です。 「Living On The Bottle」は Stevie Wonder の「迷信」を連想させるリズムセクション、そしてキーボードの音色に彼らの嗜好が反映されています。 つづく「Sittin’ In The Pew」はバンジョーやペダルの音色からしてカントリー色の濃いミディアム。 切れのいいギターソロで持ち直しますが平凡な出来でした。 「Beared Young Man」はストリングスの展開など重々しい雰囲気のスロウで、美しいハーモニーが聴きどころですが、彼らの持ち味である爽快感に欠ける仕上がりです。 ラストの「Can It Be ?」はややトロピカルな雰囲気を漂わせた浮遊感あふれるメロウなナンバー。 この微妙な翳りは Seals And Crofts を連想させるものでした。

  こうして、アルバムを振り返ってみましたが、B 面でやや勢いを失うものの、トータルのクオリティはかなり高いものでした。 大胆な表現をすれば、The Eagles の「On The Border」(1974年)が好きな人には躊躇なくお薦めできると思います。 これほどポピュラーな作品なのにもかかわらず、世の中に浸透しなかったのは、やはり CCM というジャンルにカテゴライズされてしまったことが要因なのかもしれません。 The Way はこのアルバムを発表して惜しくも解散してしまうのです。

■The Way / Can It Be ?■

Side-1
A Cowboy’s Dream
Days Of Noah
I’ve Been Sealed
Do You Feel The Change

Side-2
Living On The Bottle
Sittin’ In The Pew
Beared Young Man
Can It Be ?

Produced by Al Perkins
Engineer : Bill Taylor
Recorded at Mama Jo’s Studio, North Holywood, California

The Way
John Wickham : lead guitar, bass, acoustic guitar, background vocals
Gary Arthur : bass, acoustic guitar, synthesizer, background vocals
Alex MacDougall : drums, congas & timbals, percussion
Dana Angle : lead & slide guitar, banjo, acoustic guitar & vocals
Bruce Herring : acoustic guitar, bass, vocals

Michael escalante : keyboards
Dave Diggs : piano on ‘‘A Cowboy’s Dream’
Al Perkins : pedal steel on ‘A Cowboy’s Dream’

Maranatha Music HS-777/16

John Fischer

2011-02-26 | Christian Music
■John Fischer / Naphtali■

  春一番が吹いた昨日から一転し、真冬に戻ったような寒気に包まれた土曜日に、ゆっくり聴くには最適なアルバム。 1960 年代後半から 12 枚ものアルバムを発表しているクリスチャン・ミュージックの巨匠的存在 John Fischer の作品を取り上げるのは意外にもこれが初めてでした。 以前から冬に紹介しようと思っていたのですが、上手に整理できていないレコードラックの中に埋もれてしまっていたものを今日、偶然にも再発見。 さもなければ、もう 1 年お蔵入りするところでした。
  クリスチャン・ミュージックの名門レーベル Light から 1976 年に発表されたこの「Naphtali」は、John Fischer の創作意欲が最も高まっており、脂の乗っている時期の作品です。 まず眼を見張るのが豪華なセッション・ミュージシャンです。 Jay Graydon に Dean Parks ときたら AOR の定番コンビのような存在ですが、そうしたミュージシャンの懐深い演奏と、品位の高いアレンジメント、そして何よりもクリスチャン・ミュージックが本来的に兼ね備えている親しみやすいメロディーとが見事にブレンドされているところが、このアルバムの魅力でしょう。 とくに Clark Gassman によるクラシカルな雰囲気のストリングス・アレンジが個人的にはお気に入りです。
 
  「ナフタリ」とは旧約聖書の創世記に登場する人物の名前。  ジャケット裏面に“Naphtali is like a doe set free, he gives beautiful words” (Genesis 49;21)と記載があることからこの鹿のジャケットのイラストが描かれたのでしょう。 Pam Mark Hall による「Mary & Joseph」を除いては、すべて John Fischer のオリジナル。 同名のコンセプトの書籍も発売されています。

  アルバムは、壮大なドラマの始まりを予感させる「Naphtali」は読み聞かせのような朗読から始まり、抒情詩的な展開を見せます。 Hal Braine のどたどたするドラムに乗せて次第に盛り上がっていく様は、Barry Manilow がカバーしても何の不思議もない感じです。 Joe Sample のエレピに導かれた「We Are His Workmanship」はドリーミーな気分のワルツ。 以降は「Don’t Veil The Door」はカントリー風味の良質なフォークロック「Don’t Veil The Door」、ウェストコースト風な味付けの「Work Out The Life」と順調に進行。 つづく「Naphtali Arise」は、「Naphtali」の続編のような趣。 あのメロディーがストリングスの強い支配のもとで繰り返されます。 

   B面は、バロック調のストリングスが印象的な「Angel’s Song」、Pam Mark Hall のボーカルがアクセントとなる清楚なバラード「Mary & Joseph」、素朴なフォークロック「Song For The Good Times」とつづきます。 そして迎えるのが個人的な一押し曲「Live In The Power」です。 ソフトでマイルドなメロディーを爽やかなコーラスが彩りを添えつつ、中盤までの物憂げな佇まいから光明を見出したかのように広がりをみせる展開は見事です。 ラストの「Arise My Beloved」はギターとストリングスに囲まれた質素な作品。 アルバムのエンディングを余韻あるものに仕上げていました。

  John Fischer の公式サイトによると、彼のオリジナル・アルバムは 1999 年を最後に発表されていません。 しかもその作品以外は全く CD 化されていないようです。 Light の作品だけでも再発されないものでしょうか。 Bruce Hibbard のファーストが CD 化できたのですから。

■John Fischer / Naphtali■

Side-1
Naphtali
We Are His Workmanship
Don’t Veil The Door
Work Out The Life
Naphtali Arise

Side-2
Angel’s Song
Mary & Joseph
Song For The Good Times
Live In The Power
Arise My Beloved

Producer : Dan Collins
Arrangements : Clark Gassman
Engineer : Jerry Barnes

All songs composed by John Fischer except ‘Mary & Joseph’ which was written and sung by Pam Mark Hall

Keyboards : John Fischer, Clark Gassman, Joe Sample
Guitars : John Fischer, Jay Graydon, Dean Parks
Steel guitar : Al Perkins
Bass : Reine Press
Drums : Hal Braine, Ron Tutt
Percussion : Joe Piccaro
Vocal arrangement : Dan Collins, Walt Harrah

Light Records LS-5693

Larry Reineck

2011-01-30 | Christian Music
■Larry Reineck / Mission■

   郷愁を誘うセピア色のジャケットに包まれたレコードは、イリノイ州 Rockford のマイナーレーベルからリリースされた Larry Reineck の作品。 タイトルから想像できるように、クリスチャン・ミュージックのカテゴリーに該当するアルバムです。 聴く前は、勝手なイメージで Stan Moeller の名盤「Thin Ties」のような質素な SSW 的なサウンドを予想していたのですが、それは残念ながら当たっていませんでした。
  1983 年に発表されたこのレコードは、ピアノ・ギターそしてリードボーカルを務める Larry Reineck が清楚で可憐な少女合唱隊をコーラスに従えて、時に主役になり時には脇役に回ったりしながら、延々と神への祈りを歌い続けるものでした。 こうした音楽に対しては、通俗的な批評や評価は意味のないものです。 どれだけ心を開いて身を委ねることができるか、ということだけがリスナーに問われているような気がします。 とはいえ、縁があってめぐり合った作品ですので、簡単に内容をおさらいしてみましょう。

  アルバムは、A 面 3 曲、B 面 1 曲の全 4 曲ですが、B 面は 7 つのパートから構成されており、個々の楽曲として捉えてもおかしくはありません。 どの楽曲もリズムが排除され、ミディアムで同じテンポで淡々と進行していきます。 トラディショナルと言われても納得してしまうような楽曲はすべてLarry Reineck の手によるもの。 控えめなギター、ピアノをバックにした Larry Reineck のマイルドで慈悲深いボーカルが、緩やかな川の流れのように横たわります。 A-1 の「St. Francis’ Prayer」のギターのメロディは、日本のフォークの中でも良く耳にするフレーズ。 Gentle music by a gentle man という副題に何の異論も出ない美しい仕上がりです。 エコーがかかったピアノに導かれる「Through Mary’s Eyes」では、歌い上げる Larry Reineck の迫力あるハイトーンと、奥まったところから出てこないコーラスとの対比が印象的。 つづく「Christ Is」もスケール感の大きなバラード。 Larry Reineck の熱唱が堪能できます。

  B 面の「Mass 1」の 7 つのパートのうち、特に素晴らしいのはラストの「Lamb Of God」です。 混声の合唱団による美しいコーラスで始まる展開ですが、徐々にパーカッションが入り、次第に初登場となるエレクトリック・ピアノに主役の座を譲ります。 そのエレピの音色は、フェンダーローズのような豊饒なものではありませんが、その心地よさは印象的です 唯一、フェードアウトで幕を閉じるあたりも意図的なものを感じます。
  
  コーラスの一部は St. Patrick 教会でライブ録音されたというこのアルバム。 万人にお薦めできるという作品ではありません。 宗教色の強さを敬遠してしまう人も多いでしょう。 ただ、表現は不適切かもしれませんが、ただ能天気に神を祝福するという類の CCM(Contemporary Christian Music)も存在するなか、この作品で聴くことのできる冷たく凛とした空気感は、信仰に関わりなく聴き手の身を清めてくれるような気がします。 人の心を最も動かすのは、生身の人の声(=震え)だということを改めて感じることができました。

■Larry Reineck / Mission■

Side 1
St. Francis’ Prayer
Through Mary’s Eyes
Christ Is

Side 2
Mass 1
(Gloria, Alleluia, Holy Holy, Memorial Acclamation, Concluding Acclamation, Lord’s Prayer, Lamb Of God)

Produced by Scott House

Lead singer : Larry Reineck
Flutes : larry Reineck, Sharon Reineck, Theresea Hauser
Piano : Larry reineck
Guitar : Larry Reineck
Background : Carol Lower, Joe Shelden, Kim Shelden, Kris Estes, Brenda reineck, Mary Mickey, Goerge Lang, Jeanine Harms, Jeanine Castonguary, Mary Postelwaite
Cello : Larry Reineck
Electirc piano : Mike Dahl
Harpsichord : Larry Reineck

Scott House LR2024

Robert Koeningsberg

2011-01-08 | Christian Music
■Robert Koeningsberg / First Things First■

  2011 年最初に取り上げるアルバムは、クリスチャン・ミュージック。 アルバムタイトルが、「First Things First」ということで年頭第一弾にはぴったりということで選んだレコードは、Jesus The Healer Records というクリスチャン・レーベルから 1977 年に発表された Robert Koeningsberg の作品。 ジャケットからは地味な作品を想像してしまいますが、カリフォルニアでのレコーディングと 1977 年という時代背景を強く反映しており、同時代の SSW/AOR 作品と肩を並べてもまったく遜色のないレベルの作品となっています。 とくに、ピアノやフェンダーの音色が淡く響くバラードは心に深く染み入ってきます。

  そのバラードとして出色なのが、「It’s Your Move」です。 Fender rhodes の甘い音色にとろけつつ、ソウルフル&エモーショナルなボーカルが堪能できて、何度でも繰り返し聴きたくなる 1 曲に仕上がっています。 他にもノスタルジックな雰囲気のバラード「Any Old Stick」、シンプルでありながらも力強いピアノの弾き語り「Like No Other Can」、ピアノの残響に緊張と充足感が交錯する「Walking By Faith」などにバラードシンガーとしての彼の真骨頂を感じます。
  いっぽう、Robert Koeningsberg の魅力はバラードだけに留まりません。 西海岸ならではのポップさやキャッチーなメロディが随所に散りばめられており、このアルバムの魅力をより高めています。 たとえば、オープニングを飾る「Gladness」は人生の喜びを高らかに歌い上げるスケール感あふれる楽曲ですし、典型的なウェストコーストサウンドに砂埃をかけたような「Check It Out」はどこかで聴いたことのあるようなサビのメロディーがご機嫌です。 他にも、カントリー臭い陽気な「A Good Deal More」、レイドバック感あふれる「The Blessings Song」などの楽曲がアルバムの奥行きを広げています。
  ライブレコーディングによる祈りに満ちたトークから一転し、ポップな曲調に変化していく「Full Circle」も聴きごたえのあるナンバー。 ラストの 2 曲「I’m Coming Home」と「He Is Here, He Is Worthy」では、予定調和が本質ともいえるCCMのお手本のような流れとなっており、まるでスタンダード曲のようなメロディと穏やなメッセージが緩やかに絡まりあっています。 かなりの充実した気分でアルバムを聴き終えることができるのも、この2曲の貢献が大きいと言えるでしょう。

  Robert Koeningsberg の唯一の作品と思われるこのアルバムは、冬のサンタモニカの桟橋あたりで夕日を眺めながら聴いてみたいメロウでマイルドな作品です。 セピア色のジャケットのせいなのか、このアルバムを聴くたびに妙に感傷的な気分になるのはなぜでしょうか。 それはおそらく、CCM というジャンルが持つ普遍的な優しさだけではく、Robert 本人や参加ミュージシャンの思いや息づかいがレコードの溝を通して伝わってくるからでしょう。 コンピューターに支配された現在の音楽では表現できないアコースティックな温もりに満ち溢れたこのアルバムを名盤と呼ぶことに何らためらいはありません。

■Robert Koeningsberg / First Things First■

Side-1
Gladness
It’s Your Move
A Good Deal More
Check It Out
Any Old Stick
Don’t Blame God

Side-2
Full Circle
Like No Other Can
The Blessings Song
Walking By Faith
I’m Coming Home
He Is Here, He Is Worthy

Produced by Robert Koeningsberg with John Ayers
All compostions by Robery Koeningsberg

Robert Koeningsberg : guitars, drums, percussion, piano and rhodes, backing vocals
John Ayers : guitars, bass, percussion, backing vocals
Dave Marsh : bass
Mark Jerome : drums, percussion, backing vocals
Jim Sarracino : percussion
Terry Pruett : percussion, backing vocals
Ben Carr : percussion, blues harp, backing vocals
Steve Steffy : pedal steel
Kim Gibson : backing vocals

Jesus The Healer Records JHS7003

Dan Perry

2010-12-13 | Christian Music
■Dan Perry / With Every Breath I Take■

  ポリスの大ヒット曲「見つめていたい」のオリジナルタイトルは「Every Breath You Take」でしたが、こちらは「With Every Breath I Take」です。 そんなことはどうでもいいのですが、今日取り上げた作品は CCM アーティストである Dan Perry が 1980 年前後に発表したアルバムです。 彼に関する詳しいプロフィールは全くもって不明ですが、このレコードを手にするに至ったきっかけについて触れておきましょう。
  以前、ここで Dave Lafary という CCM アーティストをご紹介したことがありますが、彼のセカンド・アルバムと Dan Perry のこのアルバムは同じ Sounds Fantastic Records という超マイナー・レーベルから発売されていたのです。 このレーベルが複数のミュージシャンの作品をリリースしているとは予想していなかったので、発見した時には驚きました。 その独特のレーベル名、そしてデザインからすぐにピンときたのです。
  その Sounds Fantastic はイリノイ州の Decatur という町を拠点とするレーベル。 ネットで調べても誰も言及していないので、豆粒ほどのローカルな存在だったのでしょう。 しかし、そこにはクリスチャン・ミュージックというひとつの芯は通っていました。

  アルバムのサウンドは MOR に近いマイルドなテイストで、ホーンセクションも頻繁に登場し、かなりポピュラーな音づくりが施されています。 A-1 の「With Every Breath I Take」を聴くだけで、Dave Lafary のセカンドとの傾向の違いは明らかになりました。 この曲は軽やかで A&M のソフトロックのようなアレンジです。 それはそれで悪くない出来なのですが、個人的には CCM の醍醐味は、仰々しく盛り上がるバラードにあると思っています。そうした観点から好みの楽曲を挙げていくことにしましょう。
まず A 面では、ピアノを基調とした「He’s The Hand On My Shoulder」の素晴らしさが秀でています。 本当は生のストリングスを起用したかったと思われるシンセの音も繊細で、落ち着きのある曲調に彩りを加えていました。 つづく「If My People」は、もっと歌の力を前面に出した厳かな曲調。 オペラのテノールに歌わせたほうが良さそうな感じです。 ♪That’s why I love Jesus♪という決まり文句が誰にでも聞き取れる「You Gave Me Love」は音数の少ないシンプルなバラード。 素直な気持ちを忘れていないすべての人の心にも染み入ってくるメロディーが魅力です。 
  B 面に入りましょう。 典型的な CCM バラード「I’m Gonna See Jesus」はタイトルから想像できる仰々しさが癖になりそうです。 つづく「Praise The Lord」も同様の曲調。これもドラマティックに盛り上がるバラードで CCM ファンには堪えられない仕上がりです。 しかし、この世界で同名異曲はどのくらい存在しているのか、余計な心配をしたくなりますね。 ラストの「Comfort Ye My People」もピアノ系のバラードですが、やや冗長な感じなので、もっと短くまとめたほうがラストに相応しかったと思います。

  どうしてこんな甘ったるい音楽が好きなのか理解できない、という人も多いと思います。 しかし、1980 年前後の CCM の多くが普遍的なメロディーと純粋な歌詞によって構成されるハイレベルな予定調和を目指しているところに僕は惹かれるのです。 そして、そこに含まれる純度の高い癒しの瞬間を発見することが、リスナーの喜びでありこの世界から離れられない理由なのでしょう。 Dan Perry の音楽にも 100% ではありませんが、その欠片がいくつか散りばめられていました。

■Dan Perry / With Every Breath I Take■

Side-1
With Every Breath I Take
He’s The Hand On My Shoulder
If My People
Fresh Surrender
You Gave Me Love

Side-2
I Need You
I’m Gonna See Jesus
Praise The Lord
Disappointment
Comfort Ye My People

Produced by Stephen Beck
Recorded and mixed ay Sounds Fantastic Studio, Decatur, Illinois
Engineer : Stephen Beck

Vocals : Susan Boroian-Moringer, Tom Christensen, Tom Laney, Lynn Mahin, Dan Perry
Guitars : dan Perry, Mark Scardello, Bob wilcott
Keyboards : Mark Gungor, Judy Laney, Steve McClarey, Dan Perry
Bass : Bob Wilcott, Lora Suter
Drums : Dennis Edwards, Tom Laney
Flute: wally Barnett
Recorder : Tom Laney
Trumpets : Brian Germano, Dave Hill, Bill Jean
Trombone : Cary Sheley, Jon Vanhala
Saxophones : Ralph Ball, Ron Clayton, Tim Hall, Tom Rundquist
Arrangers : Stephen Beck, Dan Perry

Sounds Fantastic Records NR11946


Nancy Grandquist

2010-10-11 | Christian Music
■Nancy Grandquist / Somebody Special■

  今も現役でパワフルなゴスペル・シンガーとして活躍している Nancy Grandquist が 1978 年にリリースしたファースト・アルバムを取り出してみました。 秋の夜長にはしっとりとした SSW もいいですが、彼女のような歌唱力のあるバラード・シンガーに浸ってみるのも悪くありません。 このレコードには、1970 年代後半のクリスチャン系音楽の典型的なスタイルを踏襲しつつも、艶やかなストリングス・アレンジにやさしく包まれたゴージャスなサウンドが収められています。 さっそくレビューしてみることにしましょう。

  アルバムは冒頭の「Can You Give A Little Of Yourself」からミディアム・スロウで始まります。 華美にならないように抑制されたアレンジの元でストングスやホーンが加わり、Nancy のボーカルを好サポートしている印象です。 つづく「You’ve Got To Tell It Everywhere」はキャッチーでポップなメロディが耳に残り、こちらを1曲目にしたほうがリスナーにとっては入りやすかったのではと余計なことを考えてしまいます。 スウィート・ソウルのような味わいの「Touch Me, Lord」はシルクのような肌触りですが、もう少し短めにまとめてほしかった気も。 流れを引き継いだ「When I Found True Love」はさらに奥行きをかんじさせるバラード。 包み込むようなストリングスも最高です。 A 面ラストの「It’s Gonna Be Worth It All」は意外にもフィリーソウルとディスコ・サウンドの中間みたいなサウンド。 時代を感じさせる楽曲でした。

  B 面の「Never Too Busy」もディスコっぽさが残る B 級サウンド。 途中の転調など青臭い展開に苦笑してしまいます。 つづく「Everytime That You Need Him (He’ll be There)」は一転して彼女の持ち味であるバラードに戻ります。 スロウすぎると感じるほどの「タメ」が彼女のボーカルの特徴でもありますが、ここではメロウなサックスの音色と相まって、アダルトでムーディーなアレンジはまさに媚薬のようです。 同じスロウをキープした「Nobody Knows」もそのまま昏睡してしまいそうなバラード。 Nancy Grandquist の真骨頂とも言える楽曲が続きます。 ややアップなフィーリー・ソウル調 「I’ll Be Thankful For All The Good Things」を挟んで、再びディープなバラードの世界へ。
「Let The Blessings Flow」は音数の少ないシンプルな演奏をバックにしたストイックなバラード。 情緒も演奏も華美になりすぎず、凛とした美しさを感じさせるところはアルバムのなかでも随一の出来栄えでしょう。 ストリングスがつながってラストの「Praise The Lord From Whom All Blessings Flow」へと流れていきます。 ここではバックコーラス全員による祈りとも言えるハーモニーを聴かせますが、けして歌い上げることはなく、あくまでも清楚で品のある世界観を保っていました。 このあたりは白人によるクリスチャン・ミュージックの典型的なスタイルとも言えるでしょう。
  
  こうしてアルバムを聴き終えて感じるのは Nancy Grandquist の優れた歌唱力です。 あれほどスロウなバラードを冗長にならずに歌いこなすのは相当なものだと感心させられます。 しかし 1970 年代の後半には、このような女性 CCM が多く存在したので、彼女の才能が頭角を表したり、アルバムからヒット曲が生まれたりということはありませんでした。 ちょうど、前年の 1977 年に Debbie Boone が「You Light Up My Life(恋するデビー)」を全米ナンバーワンに送り込んでいます。 当時は気がつきませんでしたが、この曲も CCM ど真ん中の楽曲なので、CCM が一部のリスナーのためだけのものではなかったこと表しています。 
  話は戻り、Nancy Grandquist のその後について触れておきましょう。 彼女は 1996 年に「I’ve Gotta Testify」というアルバムを発表。 現在も教会や施設で活発に音楽活動を続けています。 検索すると動画も出てきました。

■Nancy Grandquist / Somebody Special■

Side 1
Can You Give A Little Of Yourself
You’ve Got To Tell It Everywhere *
Touch Me, Lord
When I Found True Love
It’s Gonna Be Worth It All *

Side 2
Never Too Busy
Everytime That You Need Him (He’ll be There)
Nobody Knows
I’ll Be Thankful For All The Good Things *
Let The Blessings Flow
Praise The Lord From Whom All Blessings Flow

Produced by Dony McGuire
Rhythm and vocal tracks arrangements by Dony McGuirte
Strings and horn arrangements by Buddy Skipper

All songs written by Nancy Grandquist except * by Nancy Grandquist and Dony McGuire

Recorded as Sound Stage Studio, Nashbille, Tennessee & Mama Jo’s, North Hollywood, California

B.James Lowery : guitar
Fred Newell : guitar
Mike Leech : bass
Jeff Carton : bass
Dony McGuire : keyboards
Shane Keister : keyboards
Fred Satterfield : drums
Farrell Morris : percussion
Don Shefield : trumpet
Roger Bissel : trombone
Dennis Solee : woodwinds

Background vocals : Judy Breland, Jon McGuire, Dony McGuire, Greg Gordon, Joannie Christenson

Newpax Records NP 33064

Dave Lafary

2010-08-22 | Christian Music
■Dave Lafary / Glimpses Of A Rainbow■

  4 月に取り上げたことのある Dave Lafary のセカンドアルバム。 1981 年に発表されたこのセカンドは自主制作の趣が強く、Sounds Fantastic Records という謎めいたレーベルに移っています。 参加ミュージシャンのクレジットもないことから、弾き語りに毛が生えた程度の編成ではないかと予想しましたが、ピアノ、ストリングス、サックス、女性コーラスなど多彩なサポートがあり、品質劣化の予想はあっさりと覆されました。 むしろ、何の制約もなく自由にアルバムを作り上げたという雰囲気が伝わってきて、好感度はこちらのほうが高いと感じます。 前作はオリジナルを中心にしつつ、「You’ve Got A Friend」のカバーを収録するなど、マーケットを意識していた気がします。

  温かみのあるアコギにリードされたミディアム「A New Beginning」でアルバムは始まります。 息の合ったハーモニーと間奏部のサックスソロが聴きどころですが、CCM ならではの予定調和世界のはじまりを感じさせる曲です。 清楚なピアノに導かれた「Father’s Love」は、慈悲の心を歌った美しいバラード。 ストリングスがそよ風のように合流する中盤からコーラスに厚みも増してきて、完成度の高さを感じます。同じような主題の「Your Love」は一転してホーンセクションが活躍するアップ・ナンバー。 エコーのかかったボーカル処理が気になりますが、ソフトロックのようなサウンドに仕上がっています。 女性コーラスが秋風のように感じる「Heavenly Love Song」は、カラッとした雰囲気のカントリー風。 つづく「I Just Thought You Should Know」は、メロウな AOR のようなバラード。 淡麗なピアノ、巻層雲のように薄く入るストリングスもさることながら、間奏部のフリューゲルホーンらしき音色にはメランコリックな気分が増幅させられます。 夏の終わりの淋しさに似た気分といったら大げさですけど。

  ピアノによるマイルドなイントロから始まる「Smilin’ Again」で B 面は幕開け。 この曲は 30 秒ほどして一気にテンポアップし、ソフトロック的な曲調に変化します。 つづく「Father And Son」と「I Really Want To Know You」は典型的な CCM のバラード。 こういった曲を聴くと、リスナーに心の安らぎを与えることが CCM の使命のひとつであることを切に感じます。 ラストの「Lullaby」と「Irish Blessing」はメドレーとなっており、レーベル面にはひとつの曲として扱われています。 アコギの弾き語りが優しく響く「Lullaby」は、ストリングスのアレンジに包まれたゆりかごのよう。 メロディーが変化したと思ったら、そこはもう「Irish Blessing」です。 1 分に満たないこの曲は、アルバム全体に対する追伸みたいな存在に思えますが、タイトルからして、Dave Lafary はアイルランド系移民の息子なのかもしれません。 しかし、サウンドからはその傾向は全く感じないので、全く無関係という可能性も十分あると思います。

  さて、こうして Dave Lafary のアルバムを通して聴いてみましたが、冒頭にも書いたように自主制作にしてはかなりのクオリティを保っており、曲の良さもあって CCM 系 SSW 作品としては見逃したくない作品だと思います。 とはいえ、CD 化されて多くの人に再評価されるべきアルバムとまでは言い切れません。 そうした微妙な立ち位置の作品が多いことが、多くの CCM ファンを悩ませ、知らず知らずと深い森へといざなってしまうのでしょう。

■Dave Lafary / Glimpses Of A Rainbow■

Side-1
A New Beginning
Father’s Love
Your Love
Heavenly Love Song
I Just Thought You Should Know

Side-2
Smilin’ Again
Father And Son
I Really Want To Know You
Lullaby
Irish Blessing

Produced by Dave Lafary and Craig Lindvahl

Sounds Fantastic Records NR 12817

Sharon and Tom Mindock & His Own

2010-05-08 | Christian Music
■Sharon and Tom Mindock & His Own / Working Together■

  前回とりあげた Dave Lafaryと同じレーベル Pinebrook Recording から発売されたレコードをご紹介します。 Sharon and Tom Mindock & His Own という長い名前のグループですが、 Sharon とTom Mindock 夫妻を中心に鍵盤とリズムセクションの 3 人を加えた 5 人編成のグループです。 彼らが何枚のレコードを残したかなどの詳細は不明ですが、この「Working Together」は 1982 年の作品。 AOR 全盛に近い時代ならではの良質な音楽が繰り広げられれています。 何度となく触れていますが、この時代のクリスチャン・ミュージックの最大の魅力は、ストリングスやコーラスのまろやかなアレンジに支えられた完全に近い予定調和です。 そして、それはこのアルバムでもほぼ完ぺきな形で収められています。 さっそく各曲をレビューしてみましょう。

  オープニングを飾る「Working Together」 はアコースティックでメロウな逸品。 彼らのサウンドのエッセンスが凝縮されており、そよ風のようなフルートも絡んできてソフトロック的な風味も加味された名曲に仕上がっています。  「His Own」と「Jesus Is The One」も同じ流れのスムースで流れるようなメロディの楽曲。  クリスチャンミュージックならではの淡い世界が堪能できます。 つづく「Make A Joyful Noise」はここまでの3曲とはやや異なりマイルド感が薄い仕上がりです。

  B 面の「What A Difference」は、Sharon が主導権を握るフォークロック調の曲。 覚えやすいメロディの繰り返しはシングルカット向きですが、このレーベルにはシングル盤は存在しないと思われます。  つづく「Heavenly Blues」はタイトル通りの R&B ナンバーですが、彼らのボーカルには R&B は似合わないというのが率直な印象です。  私はお寺、というタイトルに驚く「I Am A Temple」は本来の彼らの世界観に戻ってきたメロウなバラード。  透き通るような Sharon のボーカルと美しいコーラスに包まれ、心が洗われる気がします。  「Children」 はさらにテンポをスロウダウンしたバラードで、よりアコースティックなアレンジが耳に残ります。 ラストの「Be Thankful」はタイトルからして激しい曲であろうはずがありません。  数あるバラードやミディアムのなかから、この曲がラストに選ばれたのは、祈り、感謝そして希望といったメッセージがより強く込められているからではないかと思います。 清楚なコーラスのなかに、エモーショナルなギターソロが挿入されるあたりも聴きどころとなっており、アルバムの余韻を深めることに成功しています。

  こうしてアルバムを振り返ると、そのサウンド・クオリティーの高さ、安心して聴き通すことのできる演奏とアレンジのセンス、そして何よりもボーカルの魅力を強く感じました。 クリスチャン・ミュージックのアルバムを何枚か紹介してきましたが、このアルバムは SSW 好きの方には今ひとつかもしれませんが、ソフトロックやハーモニーが好みの方にはたまらない作品でしょう。 たやすく名盤という言葉は使いたくありませんが、このジャンルのなかではまちがいなく名盤と言える作品だと思います。

  連休から続いている青空を背景にした新緑の美しさに心奪われるのと同じ効用をもたらしてくれる、まさにそんなレコードです。

■Sharon and Tom Mindock & His Own / Working Together■

Side 1
Working Together
His Own
Jesus Is The One
Make A Joyful Noise

Side 2
Oh What A Difference
Heavenly Blues
I Am A Temple
Children
Be Thankful

Produced and Arranged by Steve Millikan
All songs by Sharon and Tom Mindock

Sharon Mindock : lead vocal, percussion, synthesizer
Tom Mindock : lead vocal, vocal, 12 string guitar, electric bass
Kathy Hardy : flute, rhodes piano, background vocal
Jim VanWinkle : electric bass, lead guitar

Pinebrook Recording Studio PB-1763

Dave Lafary

2010-04-29 | Christian Music
■Dave Lafary / I Love You, Lord■

   マイルドな歌声が春の陽気にぴったりな Dave Lafary のアルバムを取り出してみました。 この作品は、インディアナ州を拠点とするクリスチャン・ミュージック・レーベルPinebrook Recording から 1979 年に発表されたものです。  Dave Lafary については何も情報がないので早速検索してみたところ、Wikipedia に掲載されていたので有名なミュージシャンかと思いきや、その人は同名のアメリカンフットボール選手でした。 このブログで取りあげた Jon Keyworth や元巨人軍の柳田のように、スポーツ選手がレコードを発表する事例は稀にありますが、今回はそうではないでしょう。

   このアルバムは Dave Lafary のおそらくファーストアルバム。 オーソドックスなアレンジと優しいストリングスといった 1980 年前後の典型的な CCM サウンドが展開されています。 それを退屈に感じてしまうか、心地よく思えるかが、このジャンルと向き合えるかどうかの分かれ目です。 おそらく若い人には退屈以外の何物でもないでしょうが、中年を迎えた僕のような人間にとっては、こうした音楽も悪くないのです。
   収録楽曲のなかで目を引くのは、Carole Kingの「You’ve Got A Friend」です。 この曲の歌詞はたしかに永遠の友情をテーマにしたものですが、こうしたマイナーな CCM アルバムに収録されているとは意外でした。 それだけなら話題にするほどではないのですが、Dave Lafary はこの名曲に対して勝手に編曲と加筆を施しているのです。 それはあの「おふくろさん」事件と類似した現象で、Dave Lafary が冒頭と終わりにオリジナルのメロディーと歌詞を追加するという事態。 その歌詞には Jesus や Lord が含まれ、「You’ve Got A Friend」を CCM で再梱包したみたいな作品となっていました。 ただ、違和感や嫌悪感を感じさせることはないので、その自然なくるみ方に感心させられてしまいます。 そういった所も含めて、このアルバムの最大の聴きどころと言えるでしょう。

   アルバムのほとんどが自作の楽曲ですが、それらの中にも素晴らしいクオリティの作品が多く含まれています。 オープニングの「I Love You, Lord」は甘いエレピと流麗なストリングスに紡がれた名バラード。 素直に幸福感を表現した「I’m So Happy」も優しい歌声に癒されます。 B 面の「He Is」もストリングスに包まれた美しいバラード。 これぞCCMの極めつけというタイトルの「I Want To Be Like Jesus」もその流れを汲む歌いあげ系のバラード。 「Great, Great Joy」そしてラストの「Jesus Love Me / I Wish You Jesus」と B 面は文句のつけどころが無い予定調和なサウンドが展開されています。  この流れを演出した Roger Byrd のストリングスアレンジのセンスはたいしたものだと感服しました。 今後、彼の名前をクレジットで見つけたときは要チェックですね。

  さて、今日からゴールデン・ウィークです。 昨晩は新橋のロックバーをはしごしてしまって快晴の休日を無駄に過ごしてしまいました。 毎年のことですが、連休中は遠出の予定もないので、夜はゆっくりとレコードを聴こうと思っています。

■Dave Lafary / I Love You, Lord■

Side-1
I Love You, Lord
Daniel
Ah-la-la-la
I’m So Happy
You’ve Got A Friend

Side-2
Brand New Song
He Is
I Want To Be Like Jesus
Great, Great Joy
Jesus Love Me / I Wish You Jesus

Produced and arranged by Roger Byrd
Recording and mixing by Bob Whyley

Dave Lafary : all vocals except ‘Ah-la-la-la’, guitar
Rex Thomas : guitar
Rodney Powers : piano, keyboards
Brian Hendrickson : bass guitar
Roger Byrd : percussion

Pinebrook Recording Studio PB1440

Dave Anderson

2009-10-22 | Christian Music
■Dave Anderson / Sings Through It All■

  1971 年に発表されたクリスチャン・ミュージック作品。 Dave Anderson がこのジャンルの優れたソングライターの作品を選んで作り上げたボーカル・アルバムです。 クリスチャン・ミュージックの多くは 1975 年を過ぎた頃から、流行の先端であった AOR 風のサウンドを積極的に取り入れ、1977 年から 1982 年頃にはメジャーな AOR 作品と比肩するような名盤も存在します。 しかし、この作品はまだ 1971 年ということで、サウンドも予定調和なアレンジでまったりとしており、優等生の絵日記を読むような内容となっています。 そこにコーヒーとクリームが上手く混ざり合うように、マイルドな Dave Anderson のボーカルが注がれているという印象を受けます。

  この作品では、Dave Anderson の手による曲は1曲もありません。 その代わりに、Andrae Crouch やChuck Girard、Tommy Coomes といった CCM 界の名手による楽曲が並び、当時の CCM ベストカバー的な内容となっています。 残念なことに作曲者の名前がフルネームで表示されていないので、作曲者名を正確に把握できるのは半分くらいですが。

  アルバムの聴きどころは、タイトル曲でもあり Andrae Crouch の手による「Through It All」でしょう。 人生賛歌のように歌い上げる様はある意味このジャンルの王道とも言えます。 ミディアムな曲が続くなか、A 面ラストの「How Great Thou Art」はさらにスロウなバラード。 Paul Potts のようなオペラ歌手に歌ってもらいたいような楽曲です。 B 面では、Meir という人物の曲「His Name Is Wonderful」が流麗でメロウな出来。 つづく作曲者不詳の「Father And I Adore You」では淡々と神への感謝と畏敬の念が歌われます。 どの曲にも共通して言えるのは、ストリングス・アレンジの美しさですが、とくに「Sweet, Sweet Sprit」では、Nick DeCaro かのような繊細な弦の震えが胸を打ちます。 ラストの「Welcome Back」は Chuck Girard が所属していた伝説的な CCM グループ「Love Song」のレパートリーでした。

  さて、再三話題となったアレンジの主は Tom Keene という人物。 AOR ファンの間では、Keane というグループのメンバーだった Tom Keane を連想する人もいるかもしれません。 かく言う僕も、もしかして同一人物かも…と思いましたが、時代考証的には違うのではないかと思います。 仮にそうだとしたら、全編のアレンジと指揮を担当するという早熟なミュージシャンだったということになるのですが。

  最後に主人公の Dave Anderson について触れてきましょう。 彼はこのブログで、Dave and Barb Anderson として紹介したことのあるミュージシャンです。 そのアルバムもこのレコードと同じ Fellowship Records からのリリースでした。 この2つのアルバムの間には丁度 10 年の年月が流れていますが、品番は 223 と 238 ということで 15 しか離れていません。 かなりの寡作なレーベルですが、他にどんなアルバムが残されているのかはまだ調べきれていないのです。

■Dave Anderson / Sings Through It All■

Side 1
Through It All
Alleluja
The Way, The Truth, And The Life
No One Ever Cared For Me Like Jesus
How Great Thou Art

Side 2
Two Hands
His Name Is Wonderful
Father And I Adore You
Sweet, Sweet Sprit
Welcome Back

Arranged and conducted by Tom Keene

Tom Keene : keyboard , guitar
Fred Petry : drums, percussion
Paul Stilwell : bass
Darryl Gardner : trumpet, French horn
Val Johnson : trombone

Violin : Bobby Brace, Murray Korda, Walt Wiemeyer, Becky Sabin
Viola : Mark Kabak
Cello : Nat Gershman

Fellowship Records H-223

Mark Moore

2009-05-31 | Christian Music
■Mark Moore / Livin’ In The Love■

  Mark Moore は、カナダ出身のクリスチャン系ミュージシャン。 発表年度は不明ですが、このアルバムについて記述した海外サイトの情報では 1984 年という説があります。後に触れるとおり、1970 年代後半のカバー曲が数曲含まれていることから、信憑性は高いと言っていいでしょう。

  このアルバムは、ほぼ Mark Moore 単独の弾き語りアルバムとなっています。 わずかにコーラスでゲスト参加があるものの、全曲でリズムセクションが排除され、一貫したサウンド作りが行われています。 そうした場合のクリスチャン系のシンガーソングライターは、概して繊細で内向的になったり宗教色が強まったりすることが多いのですが、Mark Moore の場合はその逆となっているところが意外に感じます。 ギターのサウンドも開放的で、ボーカルも MOR 的なゆとりのあり、全体としてドリーミーながらもポジティブな印象を受ける作品です。 彼のボーカルスタイルは SSW のミュージシャンと言うよりは、売れ線のハードロック・バンドがアコースティック・バージョンを披露したときに近いものを感じました。

  アルバムは半数が自身の作品ですが、4 曲ほどカバーが収録されています。 最も有名な曲は、Loggins and Messina の「House At Pooh Corner(プー横丁の家)」です。この曲は Loggins and Messina が 1971 年に発表したデビューアルバムからのスマッシュ・ヒットとして有名な曲。 ここでは Mark Moore がミディアムに優しく歌い上げていますが、曲を知っているうえに原曲に忠実なアレンジのせいか、Mark Moore の個性よりも原曲の良さのほうが勝っているという印象です。 
  他の 3 曲は、AOR よりの CCM シンガーのカバーです。 「A Broken Heart」は、Dallas Holm、「Do You Know Him」はBob Ayala、そして「Praise Song」は Pete Carlson です。 いずれも 70 年代後半にオリジナルが発表されているナンバーですが、Mark Moore 厳選の楽曲ということなのでしょう。 たしかに、オリジナル「Praise Song」は女性コーラスも加わり、ラストに相応しい仕上がりです。 「Do You Know Him」はコテコテの CCM であまり特筆すべき点はないものの、「A Broken Heart」も素晴らしい楽曲。 Dallas Holm に関しては全く未聴なのですが、この曲のようにメロウなテイストなミュージシャンだとしたら聴いてみたくなります。

  ここまでカバー曲だけに言及してきましたが、オリジナルはどうかというと、冒頭の「Livin’ In The Love」に尽きるでしょう。 サビの爽快さと軽やかさが売り物の楽曲ですが、軽くカッティングしつづけるギターの演奏がライト&スムースで曲の良さを引き立てています。 この後に「プー横丁」と続くので、和み度は一気に高まります。 つづく「Timothy」もオリジナルの中では捨てがたいバラードでした。 他にも有名な賛美歌「いくつしみ深き」(What A Friend)が収録されているなど、リラックスした時間を過ごすには持って来いのアルバムと言えるでしょう。 ただ、難点は同じようなテンポと予定調和な展開が続くために、気を許すと睡魔に襲われてしまうという点でしょう。 
  Mark Moore には、もう 1 枚アルバムが存在するようですが、その後の活動などはまったく不明です。 柔和な笑顔が印象的な Mark Moore は消息不明のまま、誰にも探されないのかもしれません。



■Mark Moore / Livin’ In The Love■

Side-1
Livin’ In The Love
House At Pooh Corner
Timothy
A Broken Heart
Jesus Love Me / What A Friend

Side-2
Ready Or Not
For You
Do You Know Him
Windows
Praise Song

Produced by Howard J.Baer
Recorded at Masters Workshop, Reydale , Ontario

Guitar and vocals : Mark Moore
Extra vocals : John Dell, Mark Moore, Howard Baer

Pilgrim Records PMC 7032


James Ward

2009-05-03 | Christian Music
■James Ward / Himself■

   知られざるピアノ・マン James Ward が 1974 年に発表したデビュー・アルバム。 公式ページによると現在まで 11 枚ものアルバムを残しているようですが、彼がビジネスとしての音楽シーンの表舞台に立ったことは一度もありません。 このアルバムが公式ページのディスコグラフィーから除外されてしまっているのは、入手する手段が無いからだと思われますが、彼の音楽の原点はこのレコードにしっかりと刻み込まれています。
  表舞台という表現を使いましたが、James Ward は一貫してクリスチャン・ミュージックのフィールドで活動をしてきた人物。 従って、1974 年から 35 年もの間、ヒットとは無縁の世界を淡々と歩んできたに違いありません。

  しかし、このファースト・アルバムは、全編に渡って James Ward のピアノの弾き語りで占められており、Randy Newman に代表されるピアノ系 SSW が好きな方には、興味を惹かれるような作品に仕上がっています。曲名を見れば、クリスチャン系だということは一目瞭然ですが、サウンドはゴスペルのバック演奏みたいな気分なので特に身構えることなく James Ward の演奏と息使いに対峙することができるのです。 ここで聴けるピアノの音は、時には Tom Waits の初期の頃のような錆びれたアップライト感のする音色だったり、時には Dr. John 風のざらっとした肌触りだったりして、様々な表情を見せます。 そのバラエティさがこのアルバムの魅力と言えるでしょう。 しかし、欲を言えば、ハードなタッチの曲調が多く、メランコリックなミディアムやマイルドなバラードが少ないことがこのアルバムの最大の難点です。

  そんななか、ピアノ弾き語りの良さが顕著に現れているのは、A 面では一人ゴスペルといった趣の「Morning Sun」、アルバム唯一の名バラード「O Father」、リリカルなピアノの響きとキャッチーなメロディーの「Consider The Lilies」、Tom Waits 風の「I Will Follow You」でしょう。 偶然にも冒頭の 4 曲なのですが、アルバム全てがこの調子で順調に進んでくれれば良かったのに、という印象です。

  B 面は、個々の曲の出来があまり芳しくなく、ラストの「Psalm 90」が渋い余韻を残す程度となっています。 こうしてアルバムを振り返ってみると、勢いにまかせて一気に制作してしまった感は否めません。 James Ward は演奏のテクニックがあるだけに、一発録音で OK みたいなノリで進めていたような気がします。 そこが繊細さに欠ける雰囲気に繋がっているのでしょう。

  1970 年代のピアノ系 SSW にありがちな話ですが、James Ward は幼い頃からピアノの英才教育を受けていたのでしょう。 冒頭にも書きましたが、彼は現在も現役で活動しており、最も新しいアルバム「Life And Health And Peace」は 2000 年にリリースされていました。 商業的な成功を収めたとは思えない James Ward が 35 年にわたって活動し続けることができたのには、ピアノの演奏家としての腕に拠るところが大きかったのではないかと思っています。

 

■James Ward / Himself■

Side-1
Morning Sun
O Father
Consider The Lilies
I Will Follow You
Creation
Isaiah 53
He Shall Be Satisfied

Side-2
Speak To Me
I Wish That I Could Ask
Love Trilogy
Star In The East
Psalm 90

Produced by Bob MacKenzie
Cover Photo : Bill Grine
Studio : Lee Hazen Recording Studio, Nashville, Tennessee
Engineer : Lee Hazel

All Songs written by James Ward

Dharma Music DAR 1005-LP

The Hilts

2009-04-29 | Christian Music
■The Hilts / All Is Well■

  前回に続いて、爽やかな新緑の風を運ぶようなアルバムを選んでみました。
  The Hilts は Bob Hilts と Susan Hilts からなる夫婦グループ。 カリフォルニア出身らしいのですが、それ以外の詳しいキャリアは不明です。 アルバムの発表年度もわかりませんが、このアルバムが彼らのセカンド・アルバムだそうです。 
  サウンドは予想していたよりもソフトロック的なアレンジが多く、フォーク色は強くありません。 Bob Hilts の得意とするトランペットによるインストも各面にインタリュード的に挿入されており、イージーリスニングのような味わいすら感じます。

  アルバムには、The Hilts のオリジナル曲は収録されていません。 従って、ほとんどの曲がカバーなのですが、それらは CCM 界でオリジナル作品を残しているソングライターの作品ばかりです。 そのライターを軸に話を進めていきましょう。
  まずは、Linda Rich から。 アルバム 1 曲目の「Meditation」と「Medley : Come Unto Me」が彼女のカバーです。 Linda Rich は 1969 年と 1970 年にソロアルバムを発表した女性クリスチャン・シンガー。 彼女のレコードは聴いたことがないのですが、とくに「Meditation」の出来栄えが素晴らしいので、オリジナルも聴きたいところです。 どうやら、近年になって彼女の作品が CD 化されたようなので、機会があれば手にしようと思っています。

  つづいて、Andrew Culverwell です。 彼はイギリス出身の CCM ミュージシャンですが、このアルバムで「You’ve Got To Walk」、「Trust In Me」、「Planning Long Ago」の 3 曲もカバーされています。 Andrew は、クリスチャン版の Cliff Richard みたいなミュージシャンで、サウンド的には予定調和の MOR 路線が多かったようです。 彼は 1971 年のデビュー以来 10 枚近い作品を残していますが、残念ながら 1 枚も聴いたことがありません。 しかし、ここでカバーされている「Trust In Me」の突き抜けるような爽快感や、スロウなワルツ「Planning Long Ago」のマイルドさなど、楽曲の水準が高いことが一度聴いただけでわかります。 Heidi, Kristi, Michael という Hilts ファミリーの 3 人の子どもが参加した「You’ve Got To Walk」もソフトな仕上がりです。

  他にもカバー曲が 3 曲ほどありますが、なかでもアルバムタイトル曲の「All Is Well」は前向きな意志を感じる素晴らしい楽曲です。 この曲は、1970 年代にソロアルバムを発表している Dan Whittemore によるものでした。 
  こうしてアルバムをレビューして見ましたが、「Meditation」、「Trust In Me」、「All Is Well」といった群を抜いた名曲の配置が素晴らしく、そこに Bob Hilts のトランペット曲を的確に挿入することで、作品を飽きさせずバラエティ豊かなものに仕上げているという印象を持ちました。 これは、アレンジとプロデュースを務める Joseph Linn の手腕によるものでしょう。 それだけでなく、Joseph Linn の貢献は選曲にも反映されているのではないかと思っています。  クリスチャン・ミュージックというある意味特殊なジャンルとはいえ、ほとんど無名の Linda Rich やイギリスで活動していた Andrew Culverwell の楽曲を Hilts 夫妻だけの判断でピックアップしたとは想像しにくいのです。 
  そのあたりは当事者しかわからないことですが、結果的にこの素晴らしい楽曲の選択と、The Hilts の素晴らしいコーラスワークが合体することで、この春風のような心地よさが実現したのです。 大げさに言うなれば、それこそが音楽の奇跡なのでしょう。

 

■The Hilts / All Is Well■

Side-1
Meditation
You’ve Got To Walk
There’s Something About That Name ~ O How I Love Jesus
Trust In Me
Planning Long Ago
Shepherd Of Love

Side-2
No Power Shortage
All Is Well
Sweet Bye And Bye
Medley : Come Unto Me
Ol’ Time Religion

Arranged and Produced by Joseph Linn
Recorded at Mastertrack, Hayward, Ca.

No.5881

Dave And Barb Anderson

2009-04-26 | Christian Music
■Dave And Barb Anderson / Sing Praises■

  自宅でゆっくりと音楽を聴きながら、ついつい眠りに落ちてしまうような経験は誰にも一度や二度ならずあるはずです。 僕の場合は、ふと目が覚めたときは後悔の念よりも、心地よさの余韻が上回ることが多いため、その音楽の印象や評価などが二の次になってしまうことが多いです。 それはさておき、音楽には眠たくなるほど退屈なものもあれば、眠たくなるほど気持ちのいいものも存在します。 今日、取り上げた Dave And Barb Anderson のアルバムは、まさに後者の部類に入る至福の作品なのです。

  1981 年にミネソタのクリスチャン・レーベル Fellowship Records から発表されたこのアルバムは、数多い CCM (Contemporary Christian Music) 作品のなかでも、甘さと癒しという観点だけで評すると最高級のものです。 マイルドな Dave Anderson の男声ボーカル、清楚で気品あふれる Barb Anderson の女声ボーカルを、流麗でエモーショナルなストリングスが包み込むサウンドに接する気分は、ベランダに干していた羽毛布団をベッドに戻したまま転寝してしまったときに近いものを感じます。 大げさな表現かもしれませんが、僕はこのレコードを何もしないで最後まで聴き続けることができないような気がしています。 いまも、パソコンに向かってこの原稿を書きながら聴いていますが、ソファに座ったまま、じっと聴いていたら必ず心地よい睡魔に襲われていたでしょう。 実際に、初めてこのレコードを聴いたときは、A 面ラストあたりで闇に落ちてしまいました。

  このアルバムを何度か聴くにつれて、その心地良さを決定付けている要素が次第に判ってきました。 まず感じるのはギターそしてドラムス&パーカッションの排除です。 エレキ・ギターは完全に封印され、アコギも「I Am Covered Over (Medley)」と「Holy, Holy」でわずかに存在がわかる程度 なので、一般的なクリスチャン・フォークのもつような繊細な味わいは一切感じられません。 ドラムスの代わりにリズムを刻むのは、曲によって参加しているベースだけですがそれも数曲ですので、このアルバムのサウンド作りには、優秀なアレンジャーとコンダクターの存在が不可欠だったと思われます。 
  そのアレンジャーは、Gary Nyquist なる人物。 クレジットでは単に Arranger としか明記されていませんが、このアルバムのサウンドの要でもあるストリングス・アレンジは彼の手によるものと思われます。 ストリングス・アレンジが好きな人は、クレジットに Nick DeCaro や Jimmy Haskell の名前があるだけで、そのアルバムに触手が伸びてしまう人も少なくないと思います。 Gary Nyquist に、彼らに匹敵する才能やセンスがあると断言はできませんが、少なくともここで聴くことのできるアレンジは、僕の心を洗浄する効果を兼ね備えていました。 それは、ストリングスならず、クラリネットやフルート、ピアノといった情緒豊かな楽器が挿入される場面でも同様です。
  個人的にお気に入りなのは「Sing A New Song Of Praise」や「Our God Reigns」、「Holy, Holy」といった曲ですが、どの曲も粒ぞろいですので、ミュージカルのサントラ盤のバラードだけを切り取ったかのような作品集に仕上がっているとも言えます。 作曲者のクレジットを見ても、誰一人として知った名前はありませんが、そのあたりがアメリカの CCM の奥深いところでもあり、嗜好者にとっては宝探しの的になってしまうのでしょう。 

  Dave And Barb Anderson の「Sing Praises」は、聴き手によっては陳腐な MOR や凡庸なボーカル・アルバムに聴こえてしまう可能性が高いのですが、僕にとっては至福のリラクゼーション・アルバムなのです。

 

■Dave And Barb Anderson / Sing Praises■

Side-1
Sing A New Song Of Praise
There’s No Greater Name
Behold What Manner Of Love
Soon The Day Will Come~He Is Lord
In Thy Presence Lord
Our God Reigns
I Am Covered Over (Medley)
~Jesus, Name Above All Names
~Jesus, Thou Art Holy
~Beautiful Savior

Side-2
Praise Him (Medley)
~I Just Want To Offer You Praise
~I Love You Lord
Holy, Holy
Wind, Wind
(Joy Medley)
~Break Forth Into Joy,
~Oh, My Soul,
~This Is The Day
~Therefore The Redeemed
Oh, How He Loves You And Me
Come Bless The Lord
Open Our Eyes~Glorify Thy Name

Produced by Steve Gamble, Edfy Productions
Arranged by Gary Nyquist
Recorded at Sound 80, Mpls.,Mn

Followership Records F-238