Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

Larry Reineck

2011-01-30 | Christian Music
■Larry Reineck / Mission■

   郷愁を誘うセピア色のジャケットに包まれたレコードは、イリノイ州 Rockford のマイナーレーベルからリリースされた Larry Reineck の作品。 タイトルから想像できるように、クリスチャン・ミュージックのカテゴリーに該当するアルバムです。 聴く前は、勝手なイメージで Stan Moeller の名盤「Thin Ties」のような質素な SSW 的なサウンドを予想していたのですが、それは残念ながら当たっていませんでした。
  1983 年に発表されたこのレコードは、ピアノ・ギターそしてリードボーカルを務める Larry Reineck が清楚で可憐な少女合唱隊をコーラスに従えて、時に主役になり時には脇役に回ったりしながら、延々と神への祈りを歌い続けるものでした。 こうした音楽に対しては、通俗的な批評や評価は意味のないものです。 どれだけ心を開いて身を委ねることができるか、ということだけがリスナーに問われているような気がします。 とはいえ、縁があってめぐり合った作品ですので、簡単に内容をおさらいしてみましょう。

  アルバムは、A 面 3 曲、B 面 1 曲の全 4 曲ですが、B 面は 7 つのパートから構成されており、個々の楽曲として捉えてもおかしくはありません。 どの楽曲もリズムが排除され、ミディアムで同じテンポで淡々と進行していきます。 トラディショナルと言われても納得してしまうような楽曲はすべてLarry Reineck の手によるもの。 控えめなギター、ピアノをバックにした Larry Reineck のマイルドで慈悲深いボーカルが、緩やかな川の流れのように横たわります。 A-1 の「St. Francis’ Prayer」のギターのメロディは、日本のフォークの中でも良く耳にするフレーズ。 Gentle music by a gentle man という副題に何の異論も出ない美しい仕上がりです。 エコーがかかったピアノに導かれる「Through Mary’s Eyes」では、歌い上げる Larry Reineck の迫力あるハイトーンと、奥まったところから出てこないコーラスとの対比が印象的。 つづく「Christ Is」もスケール感の大きなバラード。 Larry Reineck の熱唱が堪能できます。

  B 面の「Mass 1」の 7 つのパートのうち、特に素晴らしいのはラストの「Lamb Of God」です。 混声の合唱団による美しいコーラスで始まる展開ですが、徐々にパーカッションが入り、次第に初登場となるエレクトリック・ピアノに主役の座を譲ります。 そのエレピの音色は、フェンダーローズのような豊饒なものではありませんが、その心地よさは印象的です 唯一、フェードアウトで幕を閉じるあたりも意図的なものを感じます。
  
  コーラスの一部は St. Patrick 教会でライブ録音されたというこのアルバム。 万人にお薦めできるという作品ではありません。 宗教色の強さを敬遠してしまう人も多いでしょう。 ただ、表現は不適切かもしれませんが、ただ能天気に神を祝福するという類の CCM(Contemporary Christian Music)も存在するなか、この作品で聴くことのできる冷たく凛とした空気感は、信仰に関わりなく聴き手の身を清めてくれるような気がします。 人の心を最も動かすのは、生身の人の声(=震え)だということを改めて感じることができました。

■Larry Reineck / Mission■

Side 1
St. Francis’ Prayer
Through Mary’s Eyes
Christ Is

Side 2
Mass 1
(Gloria, Alleluia, Holy Holy, Memorial Acclamation, Concluding Acclamation, Lord’s Prayer, Lamb Of God)

Produced by Scott House

Lead singer : Larry Reineck
Flutes : larry Reineck, Sharon Reineck, Theresea Hauser
Piano : Larry reineck
Guitar : Larry Reineck
Background : Carol Lower, Joe Shelden, Kim Shelden, Kris Estes, Brenda reineck, Mary Mickey, Goerge Lang, Jeanine Harms, Jeanine Castonguary, Mary Postelwaite
Cello : Larry Reineck
Electirc piano : Mike Dahl
Harpsichord : Larry Reineck

Scott House LR2024

James Durst

2011-01-23 | SSW
■James Durst / Songsmith■

  Songsmith とは「作曲家」という意味。 ほとんど見かけない表現なので、古語に近いものかもしれません。 以前、The Songsmith という 3 人編成のグループを取り上げたことがありますが、この言葉を目撃したのは、それ以来の 2 回目です。

  アルバムは A 面がライブ録音、B 面がスタジオ録音という構成。 ともに、イリノイ州でのレコーディングです。 品番が PX01ということで、Phoenix Songs というマイナー・レーベルの最初のリリースとなったレコードと推測しています。 幼少のころ The Kingston Trio や Brothers Four で音楽に目覚め、その後 Pete Seeger、Tom Paxton、Phil Ochs そして Bob Dylan の影響を受けたという James Durst ですが、その傾向は A 面に強く反映されています。

  ライブ録音の A 面は James Durst のギターの弾き語りを軸に、曲によってはブズーギ、ハープシコード、マンドリンなどが彩りを演出しています。 ライブ録音であることを忘れてしまうかのような静寂のなかで淡々と進行するさまは、Phil Ochs のライブ盤と同じ雰囲気です。 曲が終わって、一斉に拍手が入るのですが、歓声は少しも入らないので、肩のこるような硬さが終始つきまといます。 1978 年に Northwestern University のホールでレコーディングされたものですが、この時代性と場所を考えると、不思議な雰囲気です。

  スタジオ録音の B 面に入ると、楽器の種類も増え、フォークよりも SSW 的な居心地に変化していきます。 子供の声の SE から始まる「Next To You」は後半部に挿入される薄いシンセとリリカルなピアノの絡みが印象的なミディアム。 AOR とまでは行かないまでも心地よい浮遊感が魅力となっています。 つづく「To Jesus」は Gram Parsons 直系なカントリー。 Anne Schwartz という女性が Emmylou Harris と同じような息の合ったコーラスを聴かせます。 「Do It For You」はスロウなワルツでリラックスムード満点の楽曲。 感情を抑制したボーカルと演奏、そして心の乱れを投影しているかのようなフルート・ソロが素晴らしい出来です。 個人的なアルバムのベスト・トラックです。 ホーンセクションの導入部からいきなりスワンプに展開する「Credo」は A 面と同じミュージシャンとは思えないほどカラフルなアレンジ。 1974 年に作曲したということなので、James Durst の音楽指向の変移はどうなっていたのか混乱してしまいます。 ラストの「Welcome Home」も 1974 年の曲ですが、こちらはオーソドックスなバラード。 ボーカルの伸びと哀愁あふれるサックスの音色が心に染み入るエンディングを演出しています。

  1978 年にリリースされたこのアルバムは James Durst のファースト・ソロ・アルバムだと思われますが、彼の公式サイトにはこのアルバムに関する記載がまったくありませんでした。 すでに入手困難なものを載せない方針だったのでしょうか、その理由は判りませんが、1970 年代の SSW 作品が好きな方であれば、モノクロの雰囲気あるジャケットも含めて、気に入っていただける内容だと思います。

■James Durst / Songsmith■

Side 1
Cyprus
La Chanson De Massage
Nureyev’s Feet
These Gifts
Wish I Were Here

Side 2
Next To You
To Jesus
Do It For You
Credo
Welcome Home

Produced by James Durst
All songs written by James Durst
Side 1 engineered by Gary Gand and recorded live in concert July 15, 1978
Side 2 engineered by John Miller

James Durst : vocal, guitar
Robert Ganz : bouzouki, second guitar, mandolin
Dan Tinen : harpsicord, wind chimes, piano
Jim Tullio : acoustic bass
Larry Key : flute
Michael Gerry : electric bass
Jim Hines : percussion
Joan Burnstein : strings synthesizer
John Miller : strings arrangement
T.C. Furlong : pedal steel
Luther Didrickson : trumpet
Stan Ryberg : trombone, bass trumpet, horn arrangement
Anne Schawartz : background vocal
Vicky Hubly : background vocal
Judy Storey : background vocal
Josie deChristopher : background vocal

Phoenix Songs PX01


Robert Koeningsberg

2011-01-08 | Christian Music
■Robert Koeningsberg / First Things First■

  2011 年最初に取り上げるアルバムは、クリスチャン・ミュージック。 アルバムタイトルが、「First Things First」ということで年頭第一弾にはぴったりということで選んだレコードは、Jesus The Healer Records というクリスチャン・レーベルから 1977 年に発表された Robert Koeningsberg の作品。 ジャケットからは地味な作品を想像してしまいますが、カリフォルニアでのレコーディングと 1977 年という時代背景を強く反映しており、同時代の SSW/AOR 作品と肩を並べてもまったく遜色のないレベルの作品となっています。 とくに、ピアノやフェンダーの音色が淡く響くバラードは心に深く染み入ってきます。

  そのバラードとして出色なのが、「It’s Your Move」です。 Fender rhodes の甘い音色にとろけつつ、ソウルフル&エモーショナルなボーカルが堪能できて、何度でも繰り返し聴きたくなる 1 曲に仕上がっています。 他にもノスタルジックな雰囲気のバラード「Any Old Stick」、シンプルでありながらも力強いピアノの弾き語り「Like No Other Can」、ピアノの残響に緊張と充足感が交錯する「Walking By Faith」などにバラードシンガーとしての彼の真骨頂を感じます。
  いっぽう、Robert Koeningsberg の魅力はバラードだけに留まりません。 西海岸ならではのポップさやキャッチーなメロディが随所に散りばめられており、このアルバムの魅力をより高めています。 たとえば、オープニングを飾る「Gladness」は人生の喜びを高らかに歌い上げるスケール感あふれる楽曲ですし、典型的なウェストコーストサウンドに砂埃をかけたような「Check It Out」はどこかで聴いたことのあるようなサビのメロディーがご機嫌です。 他にも、カントリー臭い陽気な「A Good Deal More」、レイドバック感あふれる「The Blessings Song」などの楽曲がアルバムの奥行きを広げています。
  ライブレコーディングによる祈りに満ちたトークから一転し、ポップな曲調に変化していく「Full Circle」も聴きごたえのあるナンバー。 ラストの 2 曲「I’m Coming Home」と「He Is Here, He Is Worthy」では、予定調和が本質ともいえるCCMのお手本のような流れとなっており、まるでスタンダード曲のようなメロディと穏やなメッセージが緩やかに絡まりあっています。 かなりの充実した気分でアルバムを聴き終えることができるのも、この2曲の貢献が大きいと言えるでしょう。

  Robert Koeningsberg の唯一の作品と思われるこのアルバムは、冬のサンタモニカの桟橋あたりで夕日を眺めながら聴いてみたいメロウでマイルドな作品です。 セピア色のジャケットのせいなのか、このアルバムを聴くたびに妙に感傷的な気分になるのはなぜでしょうか。 それはおそらく、CCM というジャンルが持つ普遍的な優しさだけではく、Robert 本人や参加ミュージシャンの思いや息づかいがレコードの溝を通して伝わってくるからでしょう。 コンピューターに支配された現在の音楽では表現できないアコースティックな温もりに満ち溢れたこのアルバムを名盤と呼ぶことに何らためらいはありません。

■Robert Koeningsberg / First Things First■

Side-1
Gladness
It’s Your Move
A Good Deal More
Check It Out
Any Old Stick
Don’t Blame God

Side-2
Full Circle
Like No Other Can
The Blessings Song
Walking By Faith
I’m Coming Home
He Is Here, He Is Worthy

Produced by Robert Koeningsberg with John Ayers
All compostions by Robery Koeningsberg

Robert Koeningsberg : guitars, drums, percussion, piano and rhodes, backing vocals
John Ayers : guitars, bass, percussion, backing vocals
Dave Marsh : bass
Mark Jerome : drums, percussion, backing vocals
Jim Sarracino : percussion
Terry Pruett : percussion, backing vocals
Ben Carr : percussion, blues harp, backing vocals
Steve Steffy : pedal steel
Kim Gibson : backing vocals

Jesus The Healer Records JHS7003