Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

Leo Kretzner

2010-10-24 | Folk
■Leo Kretzner / Bold Orion■

  初めて夜空にオリオン座を見つけた時に、今年も冬が来たと実感します。 今年はまだ見られていませんが、おそらく深夜の2時過ぎくらいには東の空に確認できるのではないでしょうか。 二年に一度くらいは、深夜に帰宅した際に目撃しています。
  さて今日取り出したのは、Leo Kretzner が 1982 年に発表したアルバム。 メイン州の Heartwood Records からリリースされたものです。 Heartwood Records の他の作品は見かけたことがなく、品番も 501ということなのでこの「Bold Orion」が最初の作品だと思っています。 

  Leo Kretzner はダルシマー奏者にして自ら作詞作曲も手がけるマルチなミュージシャン。 このアルバムでも、SSW 的な楽曲やフォーキーなサウンドからアカペラのハーモニー、そしてダルシマー・ソロによるインストに至るまで彼の音楽性の幅広さを感じさせる内容となっています。 ダルシマーのソロも悪くないのですが、個人的にはやはりボーカルの入った楽曲に票を入れてしまいます。

  ほとんどの楽曲はオリジナルですが、Allman Brothers の「Little Martha」や、Holland-Dozier-Holland の「It’s The Same Old Song」などのカバーも収められており、Leo Kretzner が古典的なダルシマー・ミュージックとポップミュージックの間を繋ぐようなポジションを意識していたように思えます。 Allman Brothers はあまり得意ではないのですが、「Little Martha」のカバーはギター 2 本ではなく、ダルシマーとギターで演奏され、繊細なタッチとメロディーが秀逸な仕上がりとなっていました。 The Four Tops のカバーも、ほんわかした演奏とアレンジで和み感あふれるまま、アルバムのラストに配置されています。 また、クレジットの記載は省略しましたが、「The Quantum Leap Medley」のなかに、Ventures の「Walk Don’t Run」が含まれていることも添えておきましょう。

  オリジナルでは、オープニングの「Bold Orion On The Rise」の疾走感と雄々しさが耳に残りますが、この男らしさはアルバムのなかでは異色でした。 むしろ、優しさを前面に出した「Sailing」、「If Kisses Were Apples」そして「It’s Hard To Give When You’re Being Taken」といった楽曲に惹かれます。 いずれも、ボーカルのハーモニーが美しく、ニューイングランド地方の深い森と吹き抜ける風を連想させるサウンドとなっています。
 
  Leo Kretznerは、このアルバムの前に「Dulcimer Fair」(1977)、「Pigtown Fling」(1979)という2枚のインスト作品があり、「Bold Orion」の後には「Not So Still Life」を 1990 年に発表していました。 彼の公式サイトには、今も元気そうな姿も映っています。 そこで、Tradition Meets Inovation というキャッチコピーを知りましたが、「Bold Orion」を聴いた後には、すんなりと納得できました。

■Leo Kretzner / Bold Orion■

Side 1
Bold Orion On The Rise
Little Martha
The Jaded Side Of Town
Sailing
If Kisses Were Apples
The Quantum Leap Medley
Coming Home To You Tonight

Side 2
Dark Is The Color
The Minor Medley
Way Down The Road
It’s Hard To Give When You’re Being Taken
The Rockey Road To Ridgefield
It’s The Same Old Song

Produced by Leo Kretzner
Recorded and mixed , June-November, 1982 at RBY Recording Studio; Southbury CT

Leo Kretzner : dulcimer, guitar, vocals
Jay Ungar : fiddle
Sally Rogers : vocal harmony
Kenny MacKerracher : bass
Tony Prior : pedal steel guitar
Maureen DelGrosso : piano, vocal harmony
Anita Kretzmann : vocal harmony
John Lloyd : drums
Rich DelGrosso : concertina, slide mandolin, dobro, vocal harmony
Doug Berch : hammered dulcimer
Barbara Truex : hammered dulcimer
Howie Bursen : guitar, vocal harmony, banjo

Heartwood Records HW501


Tom Eslick

2010-10-17 | SSW
■Tom Eslick / Deer Hollow Run■

  1970 年代、バーモント州を拠点にアコースティックで良心的なアルバムをリリースした Green Mountain Records のアルバムを久しぶりに取り出しました。 このレーベルの作品はコンプリートしたいのですが、カントリーやブルーグラス色の強い作品が多いようで、Tom Eslick のような SSW 系の作品は少数派なのではないかと思っています。
  個人的には Green Mountain Records との出会いは、Jon Gailmor の「Passing Through」だということは以前も書いたのですが、今日紹介する Tom Eslick もレーベルを代表するミュージシャンの一人です。

  この「Deer Hollow Run」は 1974 年の作品にしてTom Eslick のセカンド・アルバム。 僕が保有している Green Mountain 作品のなかでは最も古いレコードで、それは品番の若さにも表れています。 モノクロのジャケットから内容は容易に想像がつくのですが、それは多くのリスナーの予想通りとなる素朴で温かみのあるサウンドとなっています。

  Tom Eslick の最大の魅力はその声にあります。 ニューイングランドの SSW には彼の様な優しい声のミュージシャンが多く、そこには人種、土地柄、生活習慣から価値観といったものの繋がりを感じるのです。 この季節にぴったりな Bob Stromberg も彼のような優しい歌声なので急に聴きたくなってきました。

  さて、このアルバムにはドラムスは参加しておらず、ほとんどの曲がアコースティック・ギターとバンジョー、そしてベースという構成で作られています。 どの楽曲も一定のレベルを保っており、アルバムの統一感は見事に成立しています。 ただ、逆に言うと必殺の名曲という感じの際立った1曲がないのも事実なので、聴き方によってはあっという間に時間が流れ過ぎていく危険性もあります。 そのあたりで好き嫌いが分かれるかもしれませんが、そもそもこの手のサウンドに興味が無い人がこのアルバムに触手を伸ばすことも考えにくいので、意味のない話になってしまうでしょう。
  個人的におすすめなのはミディアムな傾向でバンジョーの存在が目立たない楽曲です。 たとえば、A 面ではコーラスが美しいミディアム・バラード「The Only Truth」、サビもメロディが見事なミディアム「The One You Love」などです。 「Another Round Please Jesse」はPat Alger の曲で似たような曲があるような気がしますが、そんな気持ちも含めて秋風のような郷愁を誘う楽曲に仕上がっています。 B 面では、ギターのアンサンブルが美しい「Sing A Song Of Love Today」や、Tom Eslick ほぼ単独の弾き語りとなっている「Come To Me Sue」が聴きどころです。 同様のテイストとしては「Just Before Sleep」も挙げられます。 ラストは「Green Mountain Morinings」や「Early Morning Eastbound Train」といった曲でさわやかに幕を閉じていくのですが、このあたりは Green Mountain Records ならではのタイトルの曲という印象を持ちます。

  さて、このアルバムは 1974 年の作品ですが、さきほどレコードの盤面をみたところ、1982 年という表記がありました。 おそらく僕の持っているものは、1982 年の再プレスものなのでしょう。 ということは、Green Mountain ものとしては珍しく売れたレコードなのかもしれません。 その程度がどのくらいかは想像ができませんが。

■Tom Eslick / Deer Hollow Run■

Side 1
The Only Truth
Two Men
The One You Love
Another Round Please Jesse
Dear Hollow Run

Side 2
Sing A Song Of Love Today
Just Before Sleep
City Girl In The Country
Come To Me Sue
Green Mountain Mornings
Early Morning Eastbound Train

Produced by Green Mountain Records
Music Arranged by Tom Eslick, Bob Recupero,and George Erwin
All Songs written by Tom Eslick

Tom eslick : acoustic guitar and 12-string guitar
George erwin : bass
Bob Frost : 5-string banjo
Gordon Stone : 5-string banjo
Doug Knapp : harmonica, vocals

Green Mountain Records GMS 1045

Nancy Grandquist

2010-10-11 | Christian Music
■Nancy Grandquist / Somebody Special■

  今も現役でパワフルなゴスペル・シンガーとして活躍している Nancy Grandquist が 1978 年にリリースしたファースト・アルバムを取り出してみました。 秋の夜長にはしっとりとした SSW もいいですが、彼女のような歌唱力のあるバラード・シンガーに浸ってみるのも悪くありません。 このレコードには、1970 年代後半のクリスチャン系音楽の典型的なスタイルを踏襲しつつも、艶やかなストリングス・アレンジにやさしく包まれたゴージャスなサウンドが収められています。 さっそくレビューしてみることにしましょう。

  アルバムは冒頭の「Can You Give A Little Of Yourself」からミディアム・スロウで始まります。 華美にならないように抑制されたアレンジの元でストングスやホーンが加わり、Nancy のボーカルを好サポートしている印象です。 つづく「You’ve Got To Tell It Everywhere」はキャッチーでポップなメロディが耳に残り、こちらを1曲目にしたほうがリスナーにとっては入りやすかったのではと余計なことを考えてしまいます。 スウィート・ソウルのような味わいの「Touch Me, Lord」はシルクのような肌触りですが、もう少し短めにまとめてほしかった気も。 流れを引き継いだ「When I Found True Love」はさらに奥行きをかんじさせるバラード。 包み込むようなストリングスも最高です。 A 面ラストの「It’s Gonna Be Worth It All」は意外にもフィリーソウルとディスコ・サウンドの中間みたいなサウンド。 時代を感じさせる楽曲でした。

  B 面の「Never Too Busy」もディスコっぽさが残る B 級サウンド。 途中の転調など青臭い展開に苦笑してしまいます。 つづく「Everytime That You Need Him (He’ll be There)」は一転して彼女の持ち味であるバラードに戻ります。 スロウすぎると感じるほどの「タメ」が彼女のボーカルの特徴でもありますが、ここではメロウなサックスの音色と相まって、アダルトでムーディーなアレンジはまさに媚薬のようです。 同じスロウをキープした「Nobody Knows」もそのまま昏睡してしまいそうなバラード。 Nancy Grandquist の真骨頂とも言える楽曲が続きます。 ややアップなフィーリー・ソウル調 「I’ll Be Thankful For All The Good Things」を挟んで、再びディープなバラードの世界へ。
「Let The Blessings Flow」は音数の少ないシンプルな演奏をバックにしたストイックなバラード。 情緒も演奏も華美になりすぎず、凛とした美しさを感じさせるところはアルバムのなかでも随一の出来栄えでしょう。 ストリングスがつながってラストの「Praise The Lord From Whom All Blessings Flow」へと流れていきます。 ここではバックコーラス全員による祈りとも言えるハーモニーを聴かせますが、けして歌い上げることはなく、あくまでも清楚で品のある世界観を保っていました。 このあたりは白人によるクリスチャン・ミュージックの典型的なスタイルとも言えるでしょう。
  
  こうしてアルバムを聴き終えて感じるのは Nancy Grandquist の優れた歌唱力です。 あれほどスロウなバラードを冗長にならずに歌いこなすのは相当なものだと感心させられます。 しかし 1970 年代の後半には、このような女性 CCM が多く存在したので、彼女の才能が頭角を表したり、アルバムからヒット曲が生まれたりということはありませんでした。 ちょうど、前年の 1977 年に Debbie Boone が「You Light Up My Life(恋するデビー)」を全米ナンバーワンに送り込んでいます。 当時は気がつきませんでしたが、この曲も CCM ど真ん中の楽曲なので、CCM が一部のリスナーのためだけのものではなかったこと表しています。 
  話は戻り、Nancy Grandquist のその後について触れておきましょう。 彼女は 1996 年に「I’ve Gotta Testify」というアルバムを発表。 現在も教会や施設で活発に音楽活動を続けています。 検索すると動画も出てきました。

■Nancy Grandquist / Somebody Special■

Side 1
Can You Give A Little Of Yourself
You’ve Got To Tell It Everywhere *
Touch Me, Lord
When I Found True Love
It’s Gonna Be Worth It All *

Side 2
Never Too Busy
Everytime That You Need Him (He’ll be There)
Nobody Knows
I’ll Be Thankful For All The Good Things *
Let The Blessings Flow
Praise The Lord From Whom All Blessings Flow

Produced by Dony McGuire
Rhythm and vocal tracks arrangements by Dony McGuirte
Strings and horn arrangements by Buddy Skipper

All songs written by Nancy Grandquist except * by Nancy Grandquist and Dony McGuire

Recorded as Sound Stage Studio, Nashbille, Tennessee & Mama Jo’s, North Hollywood, California

B.James Lowery : guitar
Fred Newell : guitar
Mike Leech : bass
Jeff Carton : bass
Dony McGuire : keyboards
Shane Keister : keyboards
Fred Satterfield : drums
Farrell Morris : percussion
Don Shefield : trumpet
Roger Bissel : trombone
Dennis Solee : woodwinds

Background vocals : Judy Breland, Jon McGuire, Dony McGuire, Greg Gordon, Joannie Christenson

Newpax Records NP 33064