Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

Tami Osborne

2007-12-30 | SSW
■Tami Osborne / Chasin’ Rainbows■

  今年も残すところあと1日となりました。 明日は更新する予定がないので、今日が 2007 年最後の投稿となります。 明日から本格的な寒波が到来するとのことですが、ひんやりした空気感と深い針葉樹林から漂い出るマイナスイオンを実感できる Tami Osborne のアルバムを取り上げることにしました。
 1978 年に発表されたこのアルバムは、Eaglear という自主制作と思われるレーベルからリリースされました。 このレーベルの他の作品は目にしたことはありません。

  この Tami Osborne の特徴は、彼女のクリアなハイトーン・ボイスにあります。 その声は穢れを知らない少女のような、あるいは俗世界から隔離されて育まれたかのような独特の響きを有しています。 似ている声質としては、Ann Mortifee を思い出しますが、彼女の場合は声楽を習っていたような優等生的なエッセンスを感じるのに対して、Tami Osborne の場合は自然に備わっている資質のように感じます。 そのうえ、音数が極端に少なく、エレクトリックがほとんど排除されているサウンドも相まって、コロラド周辺の SSW のなかでも孤高の存在感を示していいます。 美しいジャケットもあり、リスナーを崇高な気持ちにさせてしまう名盤といえるでしょう。

  Tami Osborne を代表する名曲「Dawn Arises」でアルバムはスタートします。 Tami のボーカルがセルフユニゾンとなって響くさまは神聖でスピリチュアルな雰囲気すら漂います。 A 面は淡々とした水墨画のようなイメージの曲が多く、「Upside Down」や「Sir Lancelot」、「Friends」といった曲には白黒以外の色彩は見えてきません。 そんななか「Promises」は唯一ボサノバタッチのスムースなサウンドに Tami Osborne のクリアなボーカルが映えるナンバー。 アルバムのなかでも個性的に光ります。  「The Island」は、「Dawn Arises」に通じるユニゾンとオーバーダビングのコーラスが美しく、フェードアウト寸前になってリズムセクションが導入されるあたりがソフトロック的な仕上がりとなっていてこれもお薦めです。

  B 面は、ラストの「I Came Along」を除く5 曲が Rainbow Suite と題されたメドレー構成となっています。 この Rainbow Suite は A 面には聴けなかった、リズムセクションの出番があり、より起伏のある展開となっています。 「Can’t Stop Believin’」は、Rainbow Suite のテーマ曲ともいえる軽快な曲。 アルバムのなかでも最も通俗的な仕上がりです。 シンプルな弾き語り調の「Chasin’ Rainbows」を挟んで、「Sunset In The West」は、ウェストコースト風のサウンドを聴かせる彼女としては明るい曲。  再び静寂の森に戻ったかのような「Be My Song」そして「Alone」の寂しげなリフレインが不意に絶たれると同時に「Reprise」へ。 この曲は「Can’t Stop Believin’」のサビのReprise ですでに懐かしさすら覚えます。 この Rainbow Suite はどんなに虹を追いかけても結局は見つけることはできずに元のところに戻ってしまうことをサウンドで表現しており、輪廻とかメビウスの輪のような無常観をテーマにしているのではないでしょうか。 ラストの「I Came Along」は両親に捧げた尊敬と感謝の歌。  Tami Osborne の清楚な歌声が可憐に響くバラードでアルバムは幕を閉じます。

  まだ夜 10 時だというのに、静けさとともに寒さが増してきたように思います。 きっと、このアルバムは部屋の体感温度を2度ほど下げる効果があるのでしょう。 いまさらですが、夏に取り上げた方が良かったかもしれないと思いながらも、終わりゆく 2007 年最後の聴いたレコードをラックに戻すことにしましょう。




■Tami Osborne / Chasin’ Rainbows■

Side-1
Dawn Arises
Upside Down
Promises
Sir Lancelot
The Island
Friends

Side-2
Can’t Stop Believin’
Chasin’ Rainbows
Sunset In The West
Be My Song
Alone
Reprise
I Came Along

Produced by Rolland Osborne and Dwight Oyer
Recorded and mixed at Eaglear Studio

All words and music by Tami Osborne
All instruments and back up vocals arranged by Dwight Oyer except ‘Sir Lancelot’

Tami Osborne : vocals , twelve string and six string guitars
Dwight Oyer : six string guitar , bass , piano , arp synthesizer , mandolin , trumpet , extra percussion and male back up vocal
Michael Berry : drums and gong
Billy Rowland : piano and steel guitar

Eaglear EP-001

Dan Williams

2007-12-26 | AOR
■Dan Williams / Midnight Symphony■

 このアルバムを AOR とするのは異論もありそうですが、そもそもネットで全く論じられていないことから、勝手に決めてしまいました。 ジャケットから来るイメージが、B 級の AOR の匂いですよね。 
 このアルバムは、Dan Williams が 1976 年に発表したソロアルバム。 Dan Williams に関しては詳しい経歴がわからないのですが、おそらく彼のファースト・アルバムではないかと想像しています。 レコーディングは音楽の都 Nashville ということもあって、多くのミュージシャンが参加していますが、気になっていたカントリー色は全くありません。むしろ、メロウでマイルドな SSW 指向の AOR としては完成度の高いアルバムなのです。 クリスマスは終わってしまいましたが、聴いているだけで誰もが心優しくなれるような気分にさせてくれる魔法のような音楽とも言えます。 

 アルバムは A 面に名曲が並んでおり、ついつい片面を繰り返して聴きたくなるほどです。 オープニングの「I’ll Get To You」は、Dan Williams の良い面がすべて出た楽曲。 やや線が細い Dan のボーカルに、メリハリのあるメロディーが交錯し、軽快なアレンジがシロップのような甘さを引き立てるといった感じです。 「Good Ole Rock And Roll」は、ポップさではアルバム随一の楽曲。 スタンダードになってもおかしくない名曲中の名曲。 これに似たテイストの楽曲があったと思うのですが、すぐに思いつかずに無念です。 つづく「Are You Afraid Of Loving Me」は、一転してアコギをバックにした落ち着いたバラード。 ここまでの3曲の流れは完璧です。 「I’d Rather Be」も流れを踏襲したバラード。 エンディングなどで聴けるアコギの流麗なソロが最高です。 ピアノのイントロで始まる「Kneel Down」は、ややソウルフルなミディアム・ナンバー。  Dan Williams の裏声、表現豊なピアノ、ゴスペル的なコーラス、ホーンセクションが織り成す贅沢な楽曲に仕上がっています。 こうして書いてみると、ハズレ曲の一切ない完璧な A 面ですね。 こうしたソフト&メロウな音楽はまさに 1970 年代ならでは、です。

 B 面に入ると言葉が少なくなってしまいそうな予感です。 冒頭の「It Ain’t the Time」は、最もファンキーなナンバー。 正直言って、かなり残念です。 アルバムの減点ポイントになってしまいますが、1976 年という時代背景を考えると仕方ないとも思います。 アコースティックなミディアム「Midnight」、親しみやすいメロディーが光る「Memories To Lean On」、サビが明確で盛り上がりを見せるバラード「Don’t Want To Dream Alone」など、楽曲の出来はさほど悪くないのですが、黄金のA面に比べると小粒な印象は拭えません。 ラストの「Midnight Symphony」は期待通り繊細でロマンティックなバラード。 彼女と過ごしたある年の夏のことを歌った曲のようで、歌詞の一部が裏ジャケットに刻まれています。 アルバムは夏をイメージしたものと思いますが、僕はこのアルバムは夏よりも冬の方が断然似合うと思います。 それは、各々の楽曲が持っている温かみや親しみは、手編みのセーターのような温もりに似ているからです。

  無名の Dan Williams ですが、同名のミュージシャンが 2003 年に「Dan Williams」というタイトルのアルバムを出していることが判明しましたが、試聴サイトで音を聴いたところ、ボーカルが全く違いました。 残念ながら別人ですね。

 今日の主役である Dan Williams はこんなに素敵なアルバムを残してどこに消えていったのでしょうか。  ジャケットに描かれた浜辺のシェビーバンの後姿を見つめると、センチメンタルな気分が増すばかりです。



■Dan Williams / Midnight Symphony■

Side-1
I’ll Get To You
Good Ole Rock And Roll
Are You Afraid Of Loving Me
I’d Rather Be
Kneel Down

Side-2
It Ain’t the Time
Midnight
Memories To Lean On
Don’t Want To Dream Alone
Midnight Symphony

Producer : Ronnie Reynolds
Co-producer : Peggy Beard

Guitar : Steve Gibson , Michael Spriggs
Bass : Mike Leach , Jack Williams
Piano : Tony Migliore , Jerry Whitehurst , Shane Keister
Percussion : Farrel Morris , Kenny Malone
Drums : Larrie London
Violin : Carl Gorodetxky , Lennie Haight , Sheldon Kurland , Steve Smith , Sthephen Woolf
Viola : Marvin Chantry , Gary Vanosdale
Cello : Byron T. Bach , Roy Christensen
Trumpet : David Converse , George Cunningham
Tenor Saxophone : Billy Puett
Baritone Saxophone : Denis Solee
Trombone : Dennis Good
Voices : 21st Century Singers , Nashville Sounds , diane Tidwell , Polly Cutter , Julia Tillman , Maxine Willard Waters
Strings Arrangements : Bill Walker , Jack Williams
Horn Arrangements : George Cunningham
Vocal Arrangements : Janie Brannon

Zodiac Records ZLP-5008


Erick Nelson

2007-12-23 | Christian Music
■Erick Nelson / Flow River Flow■

 クリスマスイブを含む連休ということもあって、心優しく暖かな気持ちに慣れるアルバムを取り上げようと思い、このアルバムを選びました。 意識したわけではないのですが、そうなるとやはりクリスチャン系の SSW に手が伸びてしまい、その結果選ばれたのは Erick Nelson です。 
Erick Nelson は、1975 年に同じ Maranatha というレーベルから「Good News」というグループの一員としてアルバムを残しています。 この「Good News」でも Erick Nelson ほとんどの作曲を手がけるなどソングライターとして頭角を表していたのですが、グループのサウンド指向がより華やかなポップなものだったために、本作で味わえるような温かみは残念ながらあまり感じることができません。 「Good News」ではリードボーカルを務めていないなどのストレスがあったことでしょう。 そうした制約から放たれた彼は 1976 年 3 月に一気にアルバムを仕上げ、このソロアルバムは同年に発表されました。 レーベルは同じにも関わらず「Good News」のメンバーが誰一人参加していないこともこのアルバムの重要な着目点でしょう。

 前置きが長くなりましたが、各曲を紹介してみましょう。 A 面はアルバムタイトル曲の「Flow River Flow」でスタート。 この曲は、心の高鳴る様がサウンドの広がりによって表現された見事なバラードです。 難病を患った実在の若者を題材にしたことがクレジットに書かれていますが、そうした背景も自然に聴き手に染み込んでくるようです。 まさに名曲といえるでしょう。 ちなみに、この曲はSteve Berg と Don Stalker の共作です。 つづく「Soldiers Of the Cross」は、Good News 的なポップソングですが、David Foster の気の利いたアレンジによって洗練された仕上がりになっています。 インタリュード的な小曲「Prelude」をはさんで、名曲「The Gift」が始まります。 この曲は歌いだしのメロディーから心を虜にする魅力があり、素晴らしいアレンジも相まって至福の仕上がりとなっています。 クリスチャン系の楽曲で「The Gift」ですから、それなりの出来でないと許されないですよね。  つづく「Sunlight」も心が洗われるようなバラードです。 チェンバロとドラムスが耳に残ります。

 B 面は、「Movin’ On」と「Prodigal’s Return」に尽きるでしょう。 前者の「Movin’ On」は、「The Gift」と並ぶこのアルバムのハイライト楽曲。 亡くした友人に捧げたとのクレジットがありますが、この世の煩わしさから解き放たれたかのような不思議な爽快感が全編に漂っています。「Prodigal’s Return」はアルバムのラストならではの落ち着きのあるバラード。 短編小説の最後の 1 ページのような余韻を残します。
 他の曲も簡単に触れておきましょう。「Something Happened To You」は、ポップなアレンジとコーラスが Good News 的な曲。 「Beside You」や「One Last Night」もけして見劣りのする内容ではありませんが、卓越した出来の曲に囲まれて相対的に気の毒かなというくらいです。

  このレビューを書きながら、アルバムを2回通して聴いてしまいましたが、「Good News」に比べると格段上の内容になっていることを再認識しました。 実は、「Good News」を取り上げてから Erick Nelson にしようと思っていたのですが、こうして正解でした。 
 このアルバムが名盤となった理由はいくつか考えられますが、その一つは先に書きましたが、Erick Nelson の「Good News」への不満や反発が一気にモチベーションとなってこのアルバムに注がれたことがあると思います。 しかし、それに加えて若き日の David Foster による洗練されたアレンジと、それをサポートするレベルの高いバック陣という要素を見逃してはならないと思います。 
 
  昨晩は、こうして生まれた良質のレコードを聴きながら、静かな夜を過ごしていました。 この冷たい雨も明け方には雪になるのかなと思って寝たのですが、残念ながら初雪にはなりませんでした。 東京では雪のクリスマスなんて滅多にないですからね。



■Erick Nelson / Flow River Flow■

Side-1
Flow River Flow
Soldiers Of the Cross
Prelude
The Gift
Sunlight

Side-2
Something Happened To You
Movin’ On
Beside You
One Last Night
Prodigal’s Return

Produced by Lenny Roberts
Arranged by David Foster

Keyboards : Erick Nelson , David Foster , Michael Omartian
Drums : John Raines , John Mehler
Guitars : Thom Rotella , Ben Benay , Erick Nelson , Al Perkins
Bass : Henry Davis , Scott Edwards , Lenny Roberts
Vocal : first verse of ‘Soldiers Of the Cross’ Michele Takaoka

Singers : Erick Nelson , Steve Berg , Don Stalker , Michele Takaoka , Rodger Brasier , Crackers , Ginger Blake , Maxine Willard , Julia Tillman , Stormie Omartian , Marty McCall , Myma Matthews

Maranatha! Music HS-028

The Flying Mountain

2007-12-16 | Folk
■The Flying Mountain / Mountain’s Dream■

 前回とりあげた Jim Woodyard に続けてバンクーバー出身のミュージシャンをピックアップしてみました。 The Flying Mountain は 1970 年代後半に、後にソロを数枚リリースする Dan Rubin を中心に結成されたフォーク・グループ。 世界地図を見るとわかるようにバンクーバー周辺の海域にはいくつもの島が点在しており、彼らのルーツはそれらの島嶼にあるようです。 クレジットを見れば分かるようにメンバー一人ひとりが多彩な楽器を担当していることもあり、サウンドはバラエティに富み曲によってかなりの起伏があります。 しかし、アルバム全体から見て、違和感を感じさせることはなく絶妙にまとまっていることもあり、クオリティの高いフォークグループとして評価されているようです。

この「Mountain’s Dream」は 1979 年に発表された彼らのセカンドアルバム。 このアルバム発売後に Dan Rubin は脱退しています。 さっそく A 面から聴いていきましょう。
  タイトルからインストの予感のする「Bouzouki Jam」は、メンバー 4 人の共作扱いです。 ブズーギをはじめ、ダルシマー、マンドリンといったアコースティックな楽器が主体となる楽曲ですが、トルコ音楽のような曲調からアレグロにテンポアップしていきます。 まさに、ジャムといった展開でメンバーの卓越した演奏とアンサンブルが堪能できます。 「Sailin’」は日系人と思われる Satoru Suttles の曲。 彼の名は「サトル・サットルズ」と発音するのでしょうか。 だとしたら、かなりユニークですね。 ゆったりした河の流れのような曲調です。  Suttle によるインタリュード的なインスト「Mountain Stream」からメドレーのようにつづく「Dreamer」 は Neville と Rubin の共作。 The Flying Mountain の典型的なサウンドといえるこの曲は、ヴァイオリンやペダル・スティールといった楽器とメンバー全員によるコーラスの清々しさが耳に残ります。 Dan Rubin による「One Fast Trip Through A Waking Dream」は、ジャジーなテイストの異色な曲。 Dan Rubin の SSW 指向を感じさせる1曲です。

  B 面に移ります。 「Little Bird」は Dan Rubin の曲。 この曲はメロディーの親しみやすさやポップ感からして、アルバムの代表曲といってよいでしょう。 つづくアルバムタイトル曲「Mountain’s Dream」は Neville の曲。 The Flying Mountain のアンサンブルの到達点ともいえるサウンドを見せるこの曲もハイライトですね。  土着的な世界観を見せる Suttles の「Birch Island」は佐渡とか太鼓とか秋田のナマハゲのようなイメージです。 ラストの「Step Right Up」は唯一の Mongovius の作品。 デキシーランド風のジャムから、牧歌的なワルツへと移行する二部構成の曲ですが、このワルツ部分は例えようもない穏やかな空間を演出してくれます。  強めの酒を煽って、このまま眠ってしまいたいと思いたくなるようなエンディング、といえば伝わるでしょうか。

 このアルバムで脱退した Dan Rubin の代わりに、Ferguson の弟 Drew Neville を迎えた The Flying Mountain ですが、ヨーロッパツアーを終えたものの、その後 Satoru が脱退し、3 枚目のアルバムを残すことはできなかったようです。 

 それにしても大胆な名前のグループだと思います。 「空とぶ山」のセカンドアルバム「山の夢」と言ってしまったら何の趣きもないのですが、当時のネイティブなカナディアンやアメリカンには、どのように響いていたのでしょうか。



■The Flying Mountain / Mountain’s Dream■

Side-1
Bouzouki Jam
Sailin’
Mountain Stream
Dreamer
One Fast Trip Through A Waking Dream

Side-2
Little Bird
Mountain’s Dream
Birch Island
Step Right Up

Produced by The Flying Mountain

Mountain’s Dream was recorded at Goldrush Studios in Vancouver during December 1978 and January 1979

Rawn Mongovius : vocals , bass , flute , percussion , pedal steel
Dan Rubin : vocals , violin , pianolin , mandolin and bouzouki
Ferguson Neville : vocals , dulcimer , harmonica , trombone , congas , percussion
Satoru Suttles : vocals , guitar , piano , saxophone , percussion

Golden Age GAS 104

Jim Woodyard

2007-12-10 | SSW
■Jim Woodyard / Basement Suite■

 中古の輸入盤を買うと、ジャケットのクレジットにボールペンでマークがついたりしていることがあります。 それは自分のお気に入りの曲に出会った喜びの表れなのでしょう。 そんなマークも人それぞれで、小さな★くらいならば気にならないのですが、話題のミシュランみたに★★★とあったりすると、過剰に感じてしまいますね。 さて、今日取り上げるこのレコードにはそんな★マークが、たったひとつだけありました。

 今日の主人公 Jim Woodyard はカナダのバンクーバー出身の SSW です。 このデビューアルバムは、1977 年に発表されたもので、レコーディングはナッシュビルとバンクーバーの 2 ヶ所で行われています。 セピア色のジャケットや 1977 年という年代からも想像できるように、このアルバムは古き良きアメリカンな雰囲気と西海岸特有のアダルトなサウンドが適度に混在している内容となっています。
 サウンドの傾向としては、カントリー調、同時代のポップサウンド、心温まる SSW 系のサウンドとの 3 つに大別できます。

 「She Loves Me Like A Baby」、「Hello April」、「Pennsylvania Flower」、「Organic Annie」といったカントリー系の曲には、ドブロやスティールギター、バンジョーといったお決まりの楽器が入ってきますが、どの曲がお薦めかと言われれば、Hans Staymer がハーモニカで参加している「Pennsylvania Flower」です。
  ポップサウンドの代表格は「Movin’ On」です。 この曲は Denise McCann とのデュエット。 ポップ・フィールドの彼女とのデュエットだけに最もコンテンポラリーな仕上がりです。 他にもアップな「Circle Of Friends」や、無骨な印象の「Lioness In Sheeps Clothing」などが 70 年代のいなたいポップという感じです。
  残るは、SSW 的な楽曲ですが、耳に残るのは「In Her Arms To Stay」です。 この曲は一瞬ニルソンの「Everybody’s Talkin’(うわさの男)」のカバーかと思えるほどニルソンに似ています。コード進行はほぼ同じ、メロディーもアレンジも似通っていて、意識していないといえばウソになると思いますね。  バラード系もいい曲があり、B 面の「Time For Me To Go」は落ち着いた印象。もう少しメロディーが立っていたら最高なのにという惜しい曲ですが、その分歌詞が良かったりするのでしょう。 ラストの「Sail Away」しっとり系。  男らしさと寂しさが同居するようなサウンドと ♪Sail Away♪ のリフレインにより、遠い山並みに日が暮れるようにアルバムの幕が閉じられていきます。

 さて、こうなると残る 1 曲が★マークになりますがどの曲なのでしょうか。 いきなり回答しましょう。その曲はアルバム 1 曲目の「Heaven Only Knows」です。 この曲は、ひんやりとした森の空気感やミントの香りのする美しいナンバー。 他の曲と空気感や湿気がまったく異なって聴こえるのですが、この曲がA面1曲目にあることを考えると★をつけた最初の持ち主のこのアルバムへの期待はさぞ期待は高かったことでしょう。 僕もちょうどカナダやミネソタの良質なアルバムを連想したものです。 しかし、このアルバムはそこまで一貫性のあるものではありませんでした。 予想以上にバラエティに富んでおり、カントリー色も強く、バンクーバーというよりはもっと南の西海岸にいそうな感じがします。
 とはいえ、「Time For Me To Go」や「Sail Away」などの良質な曲も点在し、安定したサウンド、とくにストリングス・アレンジにセンスの良さを見出すこともでき、なかなか捨てがたいアルバムになっていると思います。
 ★を付けたこのレコードの最初の持ち主は、どんな理由でこのレコードを買い求め、どのような理由で手放したのでしょうか。 そして、誰の手を経て僕が手にしたのでしょう。 そんなことばかり考えていると、あっという間に来年になってしまいそうです。



■Jim Woodyard / Basement Suite■

Side-1
Heaven Only Knows
Circle Of Friends
She Loves Me Like A Baby
Hello April
Movin’ On
In Her Arms To Stay

Side-2
Lioness In Sheeps Clothing
Time For Me To Go
Pennsylvania Flower
Organic Annie
Sail Away

Produced by Terry Frewer
Co-Produced : Jim Woodyard

All songs written by Jim Woodyard except ‘Organic Annie’ which was written by Marc Strange

Strings Arranged by Terry Frewer

Jim Woodyard : vocals , strings guitar , background vocals
Terry Frewer : electric guitar , organ , background vocals
Steve Pugsley : bass
Kat Hendrikse : drums , percussion
Tim Williams : acoustic guitar , harmonica
Stu Mitchell : drums
Tom Hazlett : bass
Bob Dalrymple : steel guitar
Bobby Seymour : steel guitar
Denise McCann : vocals
Paul Woodyard : electric piano
Doug Robertson : bass
Brady Gustafson : drums . percussion
Brett Wade : background vocals
Al Wold : piano
Hans Stymer : harmonica

Dyna-West Records DWLP-77102

Bob Williston

2007-12-02 | Christian Music
■Bob Williston / Gypsy Fortune■

 いよいよ 12 月です。 今年ももう終わりが近づいてきました。 我が家も暖房を試運転するなど、冬への準備が始まっています。 毎年、冬になると「暖炉に温まりながら聴きたい」とか「毛布にくるまれたような」という表現を使いたくなるのですが、ここ東京は暖冬傾向でそんな気分にさせてくれる日は滅多にありません。
 さて、今日取り出したレコードも、「暖炉系」の心温まる一枚です。 ジャケットからは陽気なカントリーを想像してしまいますが、以外にもエレピをメインとした温もりと質感のあるサウンドが全体を包み込んでいるのです。 アルバムの印象としては、マイルドな AOR/SSW ファンには知られている Dobie Gray の「Welcome Home」に通じるものがあります。

 レコードを買った後で知ったのですが、Bob Williston はクリスチャンミュージックの分野で活動してきた人物で、公式ページによるとカナダのバンクーバーで今も現役で活動を続けているようです。 しかし、残念ながらこのアルバムに関する記載は一切ありませんでした。 レコードにも発売年度が書かれておらず、いつの作品なのか全くわかりません。 おそらくは 1980 年前後だと思いますが。 さっそくレコードを聴きなおしましょう。

  最初にこのレコードを聴いたときには、「Gypsy Fortune」のような音が出てくるとは思わなかったので、興醒めしてしまった覚えがあります。 しかし、覚えやすいメロディーとセンスの良いアレンジから徐々に引き込まれていきました。 ジャケットの裏にはギターのネックがイラストになっていますが、アコースティック・ギターはアルバムには一切使用されていません。 ちょっと騙しが入っていますね。  つづく「Blue Boy」は、中盤まで静かな展開ですが、一気にボーカルが歌い上げてきます。 抑揚が効きすぎている気がします。 「Sky-High Flying Dove」は、ポップな展開ですが、やや凡庸。 しかしアルバムは次の「Dare To Dance」で息を吹き返します。 この MOR の権化のようなサウンドには、頭であれこれ考えるより、身を委ねてしまったほうがいい…そんな曲です。 若い頃はこのような曲をいい曲だなんて思わなかったはずですが、季節感と心地よさ、肌ざわりみたいなものが自然に入ってきます。 僕の年齢のせいかもしれませんが。 余韻を残す「Serenade」がゆったりした時間を刻んで A 面が終わります。

 続いて B 面の「Newspaper Daddy」へ。 この曲は新聞ばかり読んでいてなかなか話をしてくれない父親に対する愛情を表現した歌で、心優しいメロディーが耳に残ります。 つづく「The Dawn」は、Dale Jacob のフェンダーが心地よいバラード。  どこかのスタンダード・ナンバーを聴いているかのような非の打ち所のない曲です。  このようにクオリティの高い曲が続きますが、次の「How Richer Can We Be」も同様です。 この曲はメロディーやボーカルのスケール感が際立ち、心を浄化されていくのが実感できるような曲。 後半、転調してからのサビでのボーカルは、このアルバムの中でも最も気持ちが込められている場面です。 まさにハイライトです。 つづく「Touch Me Friendly」は親しい友達から囁かれているような曲なので、一転してボーカルも抑制気味です。 ラストの「Peace In The City」 は、平和が訪れた喜びをかみしめるかのようなナンバーで、まさにラストにふさわしい仕上がりです。
 このようにアルバムをレビューしてみましたが、多くのクリスチャン系アルバムのように、曲名に Jesus とか、Lord という言葉は見当たりません。 歌詞についても同様です。 しかし、歌われていることは平和や愛といった普遍性のあるテーマのようで、やはり分類としてはクリスチャン・ミュージックと言えるでしょう。

 冒頭のほうで、このアルバムのことを「暖炉系」と書きましたが、実は「クリスマス系」なのかもしれません。 Bob Williston のスピリチュアルなメッセージ、心温まるサウンドを聴くと、ミルクティーでも飲みながらゆっくりくつろぎたくなります。 ありきたりのクリスマス・ソングではちょっと過剰だなと思えるような場面でひっそりと流れていて欲しい...そんなマイルドなアルバムです。



■Bob Williston / Gypsy Fortune■

Side-1
Gypsy Fortune
Blue Boy
Sky-High Flying Dove
Dare To Dance
Serenade

Side-2
Newspaper Daddy
The Dawn
How Richer Can We Be
Touch Me Friendly
Peace In The City

Produced by Dale Jacobs
Musical Arrangements : Dale Jacobs

All Lyrics and Music by Bob Williston
Except ‘Blue Boy’ and ‘The dawn’ Lyrics by Stefan Neilson , Music by Bob Williston

Bob Williston : Vocals
Brian Harrison : Electric Bass
Doug Cuthbert : Drums & Percussion
Larry Kennis : Violin
Dale Jacobs : Fender Rhodes , acoustic piano , Roland RS-2000 synthesizer , Roland RS-201 String Ensemble , Orchestra Bells

AEON