Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

Jimmie Haskell

2007-05-27 | Soft Rock
■Jimmie Haskell / California ‘99■

 自分にとって、ストリングス・アレンジの名手といえば、アメリカは Nick DeCaro 、イギリスでは Paul Buckmaster になります。 そのくらいこの 2人の存在感は際立っていました。 もちろん、手法や個性は全く異なりますが、この 2人がクレジットに名を連ねていれば、そのレコードの購入確率は一気に上昇したものです。
 そんな Nick DeCaro にも劣らない名手といえば、この Jimmie Haskell でしょう。 彼が参加したアルバムは、おそらく Nick DeCaro の倍ちかくではないかと思います。

 さて、そんな裏方の Jimmie Haskell が自身のアルバムを残していたのが、今日とりあげるこの作品。 1999 年のカリフォルニアを想像した架空のコンセプトアルバムとでも言える異色のアルバムです。 1971 年に ABC/Dunhill からリリースされました。

 アルバムはこれから始まる物語の幕開けを感じさせるタイトル通りの序曲「Overture」でスタート。 電子的にコラージュしたナレーションが聞こえたら「Appopopoulishberg」です。 その前衛的な感覚はドイツの Faustみたいですが、曲は中盤からはアコーディオンなどや弦楽器を主体としたポルカ調のダンスミュージックへと変容していきます。 そしてまたナレーションということで、このアルバムは各曲の間に必ずナレーションがあって、これが物語を進めてくうえでの必要な情報が語られるという構成であることがわかります。 3 曲目は The Band の名曲のカバー「The Night They Drove Old Dixie Down」です。 Jimmy Witherspoon のリードボーカルに、Clydie King などの重厚な女性コーラスが重なってくるアレンジですが、なかなか風格のある出来に仕上がっています。 続いては The Millennium の名曲「To Claudia on Thursday」。 Mamas & Papas の Denny Doherty がボーカルをとるこの曲もオリジナルに忠実なアレンジとなっています。 それはともかく、1971 年に The Band と The Millennium の代表曲のカバーが並んで収録されているという珍事がこのアルバムでは実際に起こっており、ここが前半の最大の聴き所であることは間違いありません。

 初めて B面を聴いたときのショックは今でも忘れられません。 何しろ、The Millennium のアルバムの冒頭を飾るあの「Prelude」がほぼ忠実に再現されているのです。 何かの間違いかと思うほど、あのハープシコードの音色やまったりしたリズムセクションの感じなど The Millenniumとそっくりに聴こえます。 それは、もしかしてサンプリングなのかと思うほどです。
 つづく「Jessica Stone」と「California Fairy Tale」は、なんと Joe Walsh がボーカルをとっています。  やや甲高いネコ声が特徴の Joe Walsh を起用した理由は不明ですが、彼だけが 2曲歌わせてもらっていることになりますね。 アルバムは、例によってナレーションに挟まれながら個々の曲が微妙に終末感を匂わせながら進んでいきます。 そしてラストは、The Who の Tommy に収録されていた「Underture」のカバーです。 Jimmie Haskell と The Who の接点は意外ではありますが、彼が Tommy のようなコンセプト・アルバムに興味を抱いていたことは想像できますね。

 Jimmie Haskell の描いた 1999 年のカリフォルニアはどんな世界だったのでしょうか。 見開きでレコード 6枚分にも広がる特殊ジャケットには、年表らしきものが書かれています。 1997 年には、Washington D.C がカリフォルニアの「Black Capital」となり、カリフォルニア州にある San Clemente がカリフォルニアの「New White Capital」となるという記載を見ると、差別表現ではないかと心配になってしまいます。 
 いずれにしても、聴き取れないナレーションや理解できなかったストーリーの謎がもう少しで解明されるかもしれません。 というのも、この珍盤が、ついに世界初 CD 化されることになっているのです。 これはかなりの快挙ですね。 しかも、この 6枚分に広がるジャケットも再現しているということですので、かなりの力の入れようです。 個人的には、音楽の説明よりもストーリーの解説を期待したいのですが難しいかなあ。

 

■Jimmie Haskell / California ‘99■

Side-1
Overture
Appopopoulishberg
The Night They Drove Old Dixie Down  (J.R. Robertson)
To Claudia on Thursday (Joey Stec & Michael Fennelly)

Side-2
Prelude (D Rhodes & R.Edgar)
Jessica Stone  (Bill Szymczyk & John Wondering)
California Fairy Tale (Jimmie Haskell , Bill Szymczyk & Joe Walsh)
Barbara
Underture (Peter Townshend)

Conducted by Arranged by and One-half of all songs by Jimmie Haskell
Produced and Engineered by Bill Szymczyk at the Record Plant

Guest Singer in order of Appearance
Jimmy Witherspoon , Joe Walsh , Denny Doherty , Bid Wanda and the Wombats , Merry Clayton , Clydie King

Keyboards : Larry Knechtel , Paul Harris , Lincoln Mayorga
Guitar : Louie Shelton , Neil Le Vang , Howard Roberts , Al Vescovo , Luis Sevadjia , Mike deasy , Dennis Budimir
Bass ; Lyle Ritz , Bryan Garofalo
Percussion ; Jim Keltner , Earl Palmer , Russ Kunkel , Bill Szymczyk , Emil Richards Gene Estes
Vocals : Carol Lombard , Sally Stevens , Susie McCune , Jerry Whitman , Tom Kenny , Mitch Gordon , gene Morford , Andra Willis , Venetta Fields , Maxine Willard , Merry Clayton , Clydie King

ABC / Dunhill ABCX 728

Fresh Air

2007-05-20 | US Rock
■Fresh Air / Fresh Air■

 前回に続いて Columbia の未 CD 化アルバムを取り上げました。 1973 年に発表された Fresh Air の唯一の作品です。 そもそも Fresh Air については詳細を語るサイトが全くといって存在しておらず、メンバーの名前すら正確なところはわかりません。 というのも、クレジットには楽器主体の記載はあるものの、メンバーとゲスト・ミュージシャンの区別がなされていないのです。 そこで、まずはジャケットに載っているメンバー 5 人を推測してみました。 ベースの Wolfgang Muser とギターの Colyn Kyffin は当確として、作曲者としてのクレジットもある Doug Rommerien そして Pat Flynn もほぼ確実です。 最後の 1 名はおそらく、ドラムスとキーボードでクレジットされている Don Randi でしょう。 
 さて、そんな Fresh Air ですが、ひと言で言うと典型的なウェストコースト風ロックです。 若干、カントリー色が入る場面もありますが、どちらかというと東海岸に強い Columbia が Warner / Reprise もしくは Asylum あたりを意識して送り出した新人はないかと推測しています。 サウンド的にも前回ご紹介した Overland Stage よりは明らかに商業的な成功を狙っていたと思えるし、優れた名曲もあることから、個人的にはかなり好きなアルバムです。

 冒頭を飾るのは Lovin’ Spoonful がオリジナルの「Henry Thomas」です。 2 分にも満たないこの曲は食前酒のような位置付けでしょうか。 つづく「Continental Highway」はハートウォーミングで和みのミディアム。 コーラスもCSN&Yを意識しているかのようです。 カントリー系の「Sometimes In The Evening」につづく「Love Her Madly」は、ボーカルがよりソフトなメンバーに交代。 残念ながら誰が歌っているかはわかりませんが、Brownsmith にも通じる木漏れ日サウンドです。 そして、アルバムのハイライトともいえる名曲「Too Many Mornings」です。 このアルバムを初めて聴いたときから、この曲には心震えます。 小細工のないメロディーとアレンジなのですが、日本のニューミュージックのようにも聴こえて、僕ははまってしまったのです。 A 面は、軽いアッパーな「Life Goes On」で終了。 このパタパタしたドラムスは、名人 Hal Braine のもの。

 美しいコーラスで聴く者を魅了する「Anna Bella Cinderella」でB 面はスタート。 朴訥とした「Old Ladies」でひとやすみした後は、「Where’s Gone Our Love」でさらにリラックス。 Fresh Air の最大の特長である清涼剤的なコーラスと夢心地なペダルスティールが聴き手にマイナスイオンを運んでくれるかのようなこの曲は、まさに彼らの真骨頂です。 「Neon Cross」もマイルドなミディアムナンバーですが、聴き取れる歌詞からクリスチャン系の楽曲のようです。 つづく「Ain’t Nobody Over ‘Till Their Done」はラストにふさわしいメロウな曲。 アルバムは一貫して、今日の天気のようにジェントルで乾いた風に包まれているので、ハンモックで読書しているうちに昼寝してしまう時と同じような気分を感じ取ることが出来ます。 
 このような曲を誰が書いているのか、当然のように興味があるのですが、半分くらいの曲を、G.Prace という人物が書いています。 名曲「Too Many Mornings」、「Anna Bella Cinderella」、「Where’s Gone Our Love」もすべて彼のペンです。 職業ライターなのでしょうか、とても気になります。 他には、Pat Flynn が「Sometimes In The Evening」や「Neon Cross」を書いています。 メンバーと思われる 5 人のなかで、彼だけ公式パージを発見したのですが、残念ながら Bio には Fresh Air のことは書かれていませんでした。 メンバーではなかったのかもしれませんね。

 巨匠 Norman Seeff による写真に写るのは、優しげなウェストコースト風の男たち。 こんなに素敵なアルバムを残したにもかかわらず、爽やかな空気だけを残して、メンバーはそれぞれの道へと別れていったのでしょう。

 

■Fresh Air / Fresh Air■

Side-1
Henry Thomas
Continental Highway
Sometimes In The Evening
Love Her Madly
Too Many Mornings
Life Goes On

Side-2
Anna Bella Cinderella
Old Ladies
Where’s Gone Our Love
Neon Cross
Ain’t Nobody Over ‘Till Their Done

Produced by Sonny Knight
Arranged by Fresh Air
String Arrangements by Al Capps

Drums : Don Heffington , Hal Braine , Don Randi
Keyboards : Glen D.Hardin , Don Randi
Steel Guitar : Colin Kyffin , Red Rohdes
Electric Guitar : Pat Flynn , Colin Kyffin
Acoustic Guitar : Doug Rommerien ,Colin Kyffin , Pat Flynn
Percussion : Don Heffington , Johnny Raines , Vic Feldman , Gene Estes , Gary Coleman
Dobro : Colin Kyffin
Bass : Wolfgang Muser

Columbia KC 32282

Overland Stage

2007-05-19 | Christian Music
■Overland Stage / Overland Stage■

 大手の Columbia から 1972 年に発表されたものの、まったく話題にされないまま、35 年も経過してしまったアルバム。 その責任の所在はこのアルバム自身の出来にあるといっては元も子もないので、今回取り上げてみました。
 Overland Stage はノースダコタ州ファーゴ出身の 6人組。 「ファーゴ」といえば、1996 年製作の同名の映画を思い出します。 この映画は、コーエン兄弟が監督した作品の代表作のひとつ。 実際に起こった話に基づいているとか、それ自体ウソであるとかいろんな論評が飛び交っている作品でもあります。

 そんな彼らがレコーディングにやってきたのはお隣ミネソタでもなく、シカゴでもなく西海岸でした。 アルバムは、「To The Park」(シカゴ録音)以外全部が San Francisco の Columbia Studio なのですが、メンバーは荒涼とした故郷の空気感とはずいぶん異なったものを感じたのではないでしょうか。
 アルバムの裏面には「Six Jesus freaks playing rock and roll」で始まる簡単なバンド紹介が記されています。 従って、分類はクリスチャン・ミュージックとしましたが、サウンド的にはスワンプ色の薄い SSW 系フォーク・ロックとなっています。 スワンプ色が薄い理由はギターのあっさり感じとボーカルやコーラスの清涼感によるものでしょう。 また、コンガやフルートが効果的に使用され、時折ユニークなリズムが使用されるなど、一風変わった感触があります。 
乾いたコーラスと叫ぶようなフルートが砂漠をイメージさせる「Cherokee」や、アコースティックなグルーヴ感とフルートがマッチした「It’s Just Life」のような曲が彼らの得意のスタイルだと思いますが、「She Will Leave Me」のようなバラードでは、クリスチャン系ならではの癒しテイストが込められています。

 最もシングル向きと思うのは、メロウな繰り返しが気持ちいい「Don’t You Believe」でしょうか。 とはいえ、ヒットする可能性を微塵も感じないところは、セールスの結果を知っているからだけではありません。 どこをどう切り取っても、売れるファクターが見当たらないのです。 こうした田舎のバンドを、どのような意図をもってメジャー・レーベルが契約し、西海岸にまで連れてレコーディングしたのでしょうか。 その謎を解くべく、プロデューサーの Bob Destocki で検索してみました。 ところが、この人物もあまり多くの作品を手がけていないことがわかりました。 最も有名なところが、人気が下火になっていた(というよりも 1980 年代にアルバムがあったのか、という感じですが) Grand Funk Railroad の 1981 年のライブアルバムという程度です。 少なくとも売れっ子プロデューサーではないことは確信しました。

 そのようなマイナーな風が荒涼とした大地を吹き抜けていくこのアルバム。 もしかして、もう二度と聴かないのかも、と思いながらもレコード棚に戻してしまうのです。

 

■Overland Stage / Overland Stage■

Side-1
Salvation
Cherokee
She Will Leave Me
I’m Beginning To Feel It
Brother Moses

Side-2
To The Park
After You Leave Me
Don’t You Believe
It’s Just Life
Indian

Produced by Bob Destocki

Julian Elofson : congas , vocals
Dave Hanson : drums , vocals
Jim Flint : organ , piano
Steve Babbs : bass
Don Miller : lead guitar
Rick Johnsgard : guitar , flute , vocals

Columbia KE31319

Bruce Miller

2007-05-13 | SSW
■Bruce Miller / Rude Awakening■

 LA の敏腕スタジオ・ミュージシャンのサポートを得ながらも、カナダの A&M オンリーで発売された Bruce Miller のファーストアルバム。 A&M がアルバムの売れ行きを見てからアメリカ発売を判断しようとしたのかは知りませんが、結果はカナダのみの発売となり、いまだに CD 化されていません。
 このアルバムは、純粋な SSW ファンには発売された 1975 年から良く語られてきた作品ですが、近年は David Foster 人脈として語られる機会のほうが多いようです。 このアルバムが David Foster がプロデュースし全面的に参加したアルバムとしては、最初期のものであり、未 CD 化レコードでカナダ限定というレア感から、David Foster 系のコレクターに注目されたようです。 
 
 アルバム全体のイメージは、どの曲を聴いても David Foster や Tom Scott の存在感が際立っているという印象です。 例えば、オープニングを飾る「Summer Of Our Love」は Livingston Taylor のような雰囲気リラックスナンバーなのですが、Tom Scott とすぐに分かる鋭角なサックスの音色とメロウな女性のバックコーラスが対照的に演出されています。 また、「Way Up On The Mountain」はスロウで地味な曲調で裏ジャケットのようなセピア色の世界を感じさせる一方で、きらびやかな David Foster のピアノが唯一自在にパレットで絵を描いているかのようです。 要は、楽器の音色と演奏タッチの自己主張が強いわけですね。 A 面ラストの「Gimme One Day」は前半のハイライトとも言えるバラード。 ここでも David Foster の存在感が目立ち、男臭くないがちなサウンドにデオドラントを浴びせているかのようです。

 B 面はタイトル曲の「Rude Awakening」から。 この曲は、Gaye De Lorme のギターが渋いのですが、Eric Clapton あたりにカバーしてもらえれば良かったのにという気になります。 三拍子のしみじみしたワルツ「Rebecca」につづく「Hobo On Home」は、Bruce Miller が Fiddle でクレジットされていますがほとんど聴こえません。むしろ Rusty Young の Pedal Steel Guitar の独壇場です。 「Fairy Tales On The Highway」は異なる場所で録音されたらしく、この曲だけ、David Foster や Jim Keltne rなどの LA 系メンバーが参加していません。 「Garden Of Leisure」もちょっと陰りのあるミディアム。 ラストのインスト部分で聴ける Lee Sklar のベースラインはたまりません。 Lee Sklar はアルバムのラスト曲で存在感を示すことが多いように思いますが、これは偶然でしょうか? Steve Eaton の「Hey Mr.Dreamer」のラストでの目立ち方を思い出させます。

 このようにアルバムを通して聴くと、Bruce Miller がカナダの SSW であるということをあまり感じさせないように思います。 例えば Ian Tamblyn の音楽にはどこを切ってもカナダの匂いを感じるのとは趣が異なる気がするのです。 それは、レコーディングの場所やセッション・マンの演奏にも拠るものだとは思いますが、これこそが David Foster の方向性もしくは手腕なのだと思います。 その良し悪しは人それぞれでしょうが、後に売れっ子になっていくプロデューサーの初期作品という切り口で語ることが可能なアルバムではあることは確かです。

 さて、このアルバム以降の Bruce Miller ですが、1982 年に Capital Records から「Magic Night」というアルバムを発表しています。 実は本当に彼のセカンドなのかどうかは、確実な証拠はネットを探してもありませんでした。 かなりのB 級 AOR 風のレコードから聴けるボーカルも同一人物かどうかの判断が難しいところです。 しかし、こちらもカナダオンリーの作品であることから同じ Bruce Miller と推測するのが妥当ではないかと思っています。 

 


■Bruce Miller / Rude Awakening■

Side-1
Summer Of Our Love
Sweet Dreams Tonight
Way Up On The Mountain
Roly Poly
Gimme One Day

Side-2
Rude Awakening
Rebecca
Hobo On Home
Fairy Tales On The Highway
Garden Of Leisure

Arrangements by Bruce Miller , David Foster & Gaye De Lorme
Background vocals arranged by David Foster
Produced by Gaye De Lorme & David Foster

All songs written by Bruce Miller
Except ‘Fairy Tales On The Highway’ which was written by Gaye De Lorme
And ‘Roly Poly’ which was written by Fred Rose

Bruce Miller : lead vocals , acoustic guitar , fiddle , back ground vocals
Gaye De Lorme : electric guitar , slide guitar , classical & 12-string guitars
David Foster : keyboards , back ground vocals
Lee Sklar : bass
Jim Keltner : drums
Tom Scott : tenor sax , clarinet
Airto : percussion
Rusty Young : pedal steel guitar
Harry Krawchuck : bass
Moe Price : drums
Keith Olsen : back ground vocals
Cathy , Nette & Carmen : background vocals

A&M SP 9018

Fat Chance

2007-05-06 | SSW
■Fat Chance / Fat Chance■

 アナログ・レコードの中に時々、ビニールの厚さが薄くて、ペラペラに近い触感を持つものがあります。 自主制作のようなレコードであれば理由が分からなくもないのですが、時々メジャーレーベルのアルバムにもそんなディスクがあったりします。
 今日、取り上げた Fat Chance もそんな 1枚。 1972 年に RCA からリリースされたものです。 当時の RCA は、このような薄型のディスクを積極的に採用していましたが、調べてみたところ、RCA はこの薄型ディスクを、新技術として開発・採用し、それを 「dynaflex」 として商標登録していたのです。 そこまで力を入れて薄くする必要があったのでしょうか? 音質が向上しているとは思えません。 どうやら RCA が「dynaflex」に力を入れた背景には、オイルショックによる塩化ビニールの高騰があったと考えるのが妥当でしょう。

 さて、肝心の Fat Chance に話を戻します。 このバンドは Steve EatonBill LaBounty が在籍していたことで知られています。 この 2人は、1970 年代後半から 80 年代初期にかけて名盤を残していることから、それらを好きな人から見れば、夢のスーパーバンドとも言えるでしょう。 しかしながら、サウンド的にはメンバーにホーンが二人いることからも分かるように、当時流行していたブラス・ロック的な内容となっており、シンガーソングライターのファンにお薦めできる内容ではありません。 Steve Eaton や Bill LaBounty の熱心なファンの方ならば彼らのルーツを知るという意味において一度は聴いておきたいアルバム、と言える程度です。 RCA にありがちな未 CD 化作品でもあります。

 いつもであれば曲ごとのコメントをするところですが、ブラスロックやファンク、ブギ調の曲が多いので、今日は省略します。 その代わりに、Steve Eaton と Bill LaBounty の書いた曲をそれぞれ 1曲取り上げてみました。 
 まずは、Steve Eaton のナンバーで、A 面ラストを飾る「Hello Misery」。 この曲は、ホーンが入らないこともあって、後のふたりのサウンドに最も近い曲といえるかもしれません。 ゆったりしたワルツに女性コーラスが優しく重なります。 
 Bill LaBounty の曲で 1曲を選べといわれたら、「It’s A Crime」。 正確には、ベースの Dale Borge との共作ですが、この曲は Bill LaBounty の持つ渋い持ち味がにじみ出る曲に仕上がっています。 彼には失礼ですが、僕が AOR 時代の彼の作品(CURB Record の3枚です)に共通して感じるのは、さえない中年男の悲哀なのですが。

 このアルバムを 5年ぶりくらいに聴いたのですが、半分くらいはホーン色の強いもので、残り半分くらいは SSW 色が残っているように勝手に記憶していました。 ところが、こうして久しぶりに聴くと、かなり印象が違っていることに気がつきます。 ピックアップした 2曲以外で、しんみりするのはラストの「Beauty」なのですが、これは Eaton も LaBounty も作曲には関わっていません。 このアルバムは、彼らのようなソングライターが 2人いたのにも関わらず、時代とのマッチングやバンドのメンバー編成などに強く支配されてしまったために、中途半端な作品になってしまったのでしょう。 必然的にバンドはこのアルバムのみで解散し、Steve Eaton は 1974 年に Capital から名盤「Hey Mr. Dreamer」を発表。 いっぽうの、Bill LaBounty は 1975 年に 21st Century から「Promised Love」を発表することとなります。
 Bill LaBounty のルーツがここにあるというのは分からなくもないのですが、「Hey Mr. Dreamer」と Fat Chance の接点は見出しづらいですね。

 

■Fat Chance / Fat Chance■

Side-1
One More Time  (LaBounty-Eaton)
We Are The People (LaBounty-Eaton- Saxton)
Funny Hats (LaBounty)
Oh Lavinia (Bennett)
That’s Not Love (LaBounty)
Hello Misery (Eaton)

Side-2
Country Morning (Eaton)
Pirate (LaBounty)
Love Sick Rag (Eaton)
Lovin’ Kid (LaBounty)
It’s A Crime (LaBounty - Borge)
Beauty (M.Deasy - K.Deasy)

Fat Chance are
Bill LaBounty : vocals , keyboards
Steve Eaton : vocals , guitar , harp
Fred Sherman : trumpet , flugel horn
Gordon Hirsch : drums
Vale Borge : vocals , bass
Phil Garonzik : woodwinds

Produced by Jay Senter

Thank you : Mike Deasy , Max Bennet , David Kemper , Larry Knechtel , Kathie Deasy , Clydie King , Gwen Johnson , Vanetta Fields , Carol Carmichael , Rita Jean Bodine , Gary Coleman , Red Rhodes , Dennis Katz , Len Chapman , John Palazzotto , Ron Watkins , Lawson Hill and Our Friends in Idaho

RCA LSP-4626

Bill Horwitz

2007-05-04 | SSW
■Bill Horwitz / Lies,Lies,Lies■

 ESP-DISK'Bernard Stollman が 1963 年に創設したジャズのインディーズ・レーベル。 Pharoah Sanders, Ornette Coleman, Sun Raといった前衛的なアーティストのレコードを世に送り出したことで、通のジャズファンには有名なレーベルのようです。 レーベルとしての全盛期はやはり 1960 年代だったようで、ジャズ以外のアーティストとしては、鬼才 Tom Rapp の率いた Pearls Before Swine がいたようです。 僕自身は、Tom Rapp のソロは 2 枚ほど持っているのですが、Pearls Before Swine は Reprise 時代も含めて聴いたことがありません。 かなりサイケで浮遊感のありそうな感じですね。
 さて、そんな ESP-DISK’がいつまで存続していたかは不明ですが、今日ご紹介する Bill Horwitz のアルバムは、1975 年にリリースされたものです。 おそらくは、彼の唯一の作品で、僕の持っている唯一の ESP-DISK’でもあります。

 アルバムは 1975 年にしては時代遅れの感は否めないフォーク・サウンドなのですが、随所に質の高い曲が散りばめられており、隠れた秀作と言える内容に仕上がっています。 しかし、このアルバムを語るのには、異色の 2 曲から語っておく必要があります。 それは、A 面と B 面のそれぞれ 4 曲目にあります。 まずは、A 面の「Henry K」について。 「Henry K」とは誰のことを指しているのかというと、第二次世界大戦後のアメリカを代表する政治家であり元国務長官の Henry Kissinger のことです。 わざわざ曲名の下に小さい文字で彼が 1973 年にノーベル平和賞を受賞したというコメントが書かれているので、誰でも分かるようにはなっています。 キッシンジャーはベトナム戦争の終焉に貢献したという理由でノーベル平和賞を受賞したようですが、この曲はそのことを痛烈に批判しており、歌詞では彼のことを Henry Kiss-of-Death とまで歌っているのには驚きです。 さすが、インディーズ・レーベルならではの表現といったところでしょうか。 ちなみに、サウンドだけを言うと、かなりなごめるフォーキーです。
 もう 1 曲は B 面の「Breakin’ Up Is Hard To Do」です。 この曲は年配の方なら誰でも知っている Neil Sedaka の代表曲ですが、このアルバムに突然 60’s ポップスのカバーを選曲する意図がよくわかりません。 カバー自体はオーソドックスで冒険のないアレンジになっており、他の曲との整合性も崩れてはいないものの、特に商業的なエゴが見え隠れするわけでもないので、ここはオリジナルのみで勝負しても良かったのではと思います。

 そんな対照的なテーマの 2 曲は、実はサウンド的には主役ではありません。 優れた曲だけを簡単に紹介しておきましょう。 Randy Newman や Nilson に近い作風の「New America Guilt Trip」は A 面のベストトラック。 続く、「Father (Workingman’s Daughter)」も郷愁感がにじみ出るワルツです。 同じくワルツの「Sing Me」はのどかなで鼻歌を歌いたくなるようなサビの部分になごみます。 
 B 面も質が高いです。 「If I Had A Friend Like Rosemary Woods」はアコギの弾き語りにフレンチホルンが重なってくるアルバム随一の名曲。 誰かがカバーしていても良さそうな素敵なメロディーです。 「Broken Records」は曇がちな心境を綴っているかのように響く内省的な曲。 ラストの「Sadness」は、本人のギターとボーカルのオーバーダブがしっくりはまったジェントルな曲で、ラストに相応しい内容です。

 こうしてアルバムを通して聴くと、なかなか捨てがたい魅力を持っていることを再認識しました。 どうもデフォルメされたジャケット写真があまりいい印象でないことから、ちょっと敬遠しがちだったので、評価を改めようと思います。 さきほど発見したのですが、ジャケットのイラストのヒゲの部分には、どうやら筆記体の文字が隠されていました。いくつかの名前みたいなアルファベットが読み取れるのですが、全体像はよくわかりません。 そんなことも含め、このレコードは、レーベル・年代・内容ともに妙な違和感をにじませながら、孤立しているように思えます。

 

■Bill Horwitz / Lies,Lies,Lies■

Side-1
Consumption
New America Guilt Trip
Father (Workingman’s Daughter)
Henry K
Sing Me
My Father

Side-2
If I Had A Friend Like Rosemary Woods
Tocks Island
Broken Records
Breakin’ Up Is Hard To Do
Landyman
Sadness

Songs written and arranged by Bill Horwitz
Except ‘Father’ written by Karen and Jerry Mitnick
‘Breakin’ Up Is Hard To Do’ written by Neil Sedaka and Howard Greenfield

Bill Horwitz : piano, acoustic guitar ,electric guitar
Tony Markellis : bass , fretless bass
Rick Leab : drums
Gene Hicks : violins , violas
Jerry Mitnick : back-up vocal
Eddy Martin : trumpet
Terry Negel : trombone
Bev Grant : acoustic guitars
Mario Giacalone : acoustic guitars
John Payne : flutes
Steve Hecker : two French horns

ESP-DISK’ ESP3020

Marshall Rosenberg

2007-05-03 | SSW
■Marshall Rosenberg / From Now On…■

 絵本や童話を素材にしたアルバムがたまに存在しますが、今日ご紹介するのもそれに近い作品だと思います。 個人的にすぐに思い出すのが、Carole King の「Really Rosie」(邦題:おしゃまなロージー)なのですが、これは Maurice Sendak という絵本作家の脚本によるテレビコミックのサントラ盤みたいな位置づけでしたね。

 で、この Marshall Rosenberg のアルバムはどうかというと、童話とか絵本とかが題材になっているわけではないのですが、曲間に必ず Al Chappelle のナレーションが挿入されることから、何らかのストーリーが走っていると考えるのが妥当だと思います。 残念ながら、ブックレットや歌詞カードが封入されていないので、それ以上のことはわかりませんが。 確かなことは、このアルバムが 1976 年にミズーリ州のセントルイスで制作されたということくらいです。

 そんなわけで、アルバムは Al Chappelle の前振りで始まります。 彼の声は、かなりハスキーで且つ粘りのあるものなので、針を落とすなり腰が抜けそうになります。 そのナレーションに挟まれた各曲も非常に短く、3 分に満たないものばかりなので片面があっという間に終わってしまいます。「Life’s Sweet Flow」は、まるで西部開拓の時代かのようなノスタルジックな曲です。 続く「You Don’t Count」もギターの弾き語りのシンプルな曲。 ややアップな「Please Don’t Mix The Two」に続いて、ジョン・ウェインに捧げられたバラード「Ode To John Wayne」です。 しんみりした素朴な味わいを聴いていると、ディズニーランドのウェスタンリバー鉄道に乗っている時みたいな気分になってきます。 続く 「Who Do I Want To Do Right Now?」は明らかにボーカルの声が違うので、Steve Mote がリードをとっていると思われます。 「The Sick Of Dependency But Not Yet Autonomous Blues」は元に戻ってフォーキーなサウンド。

 B 面も例によってナレーションでスタート。 B 面のナレーションはすべて「From Now On…」で始まります。 アルバムのなかでも際立って美しい小曲「Gift Of Empathy」に気持ちが和みます。 続く「I May Think Differently In The Mornin’ Light」はバンジョーが響くカントリー。 愉快な学芸会みたいな気分です。 「Song For Gloria」や「Got Me A Life Time Pass」はギター1本のシンプルな曲。 続く「The Capitalistic, Nobody Gives A Dawn About the Other Guy Blues」はフォーキーなアコギのカッティングとトーキング・スタイルが格好いいのですが、フェードアウトはいただけません。 ラストのナレーションは力が入ります。 Al Chappelle がまるで演説のように、人種の枠など関係ないと力説しています。 それを受けたラストの「We’ve Got Magic To Give Each Other」は、John Lennon の「Give Peace A Chance」のように盛り上げるのかと思いきや、意外と軽いミディアム・カントリーであっという間にフェードアウトしてしまいます。 ここまで余韻を残させないアルバムも珍しいですね。

 アルバムの裏面には、Produced and available from Community Psychological Consultants という表記があります。 このアルバムのコンセプトや背景が分からないまま、心理学とかコンサルティングとか言われてもさらに混乱するばかりですが、唯一の手がかりとなるのは、ジャケット裏面に書かれた本人のメッセージです。 それによると、彼は貧富の格差の拡大を懸念し、科学技術の進歩(電動歯ブラシやカラーテレビなど)を批判し、彼なりに人間らしい生き方を追求する姿勢を持っていることが分かります。 
 と、ここまで書いてきて彼のことがようやく判明。 彼は現在、大学教授になっており、Nonviolent Communications など数々の著書を発表していました。 さらには同名の NGO も主催しているようです。 このページの写真とアルバムのジャケット写真を見比べれば、同一人物だと誰もが納得するはずです。

 

■Marshall Rosenberg / From Now On…■

Side-1
Life’s Sweet Flow
You Don’t Count
Please Don’t Mix The Two
Ode To John Wayne
Who Do I Want To Do Right Now?
The Sick Of Dependency But Not Yet Autonomous Blues

Side-2
Gift Of Empathy
I May Think Differently In The Mornin’ Light
Song For Gloria
Got Me A Life Time Pass
The Capitalistic, Nobody Gives A Dawn About the Other Guy Blues
We’ve Got Magic To Give Each Other

Narrated by Al Chappelle
Music Written & Sung by Marshall Rosenberg
Music Produced & Arranged by Steve Mote

Marshall Rosenberg : lead vocals , guitar
Steve Mote : vocals , guitar , banjo , jews harp , jaw
Bob Abrams : banjo , fiddle , jug , guitar , harmonica
Michael Cole : drums
Ed Roberts : bass

MK 67-474

Paul Odette

2007-05-02 | SSW
■Paul Odette / Paul Odette■

 1977 年に発表された Paul Odette の唯一と思われるアルバムです。 Paul Odette に関しては、おそらくカナダのシンガーソングライターであるということ以外の詳細は分かりません。 優しい表情を浮かべるジャケットからはメロウで落ち着きのあるサウンドが想像できるのですが、このアルバム、まさにその通りの内容なのです。

 「All Hands On Board」は、なごみ系のワルツ。 この曲で Paul Odette の全貌がかなり予測できてしまいます。 「Rosalin」という女性へのラブソングに続く「Maritime Bold」はちょっとカリプソっぽいアレンジにジェントルなボーカルが重なる緩めの曲。 そもそも、Paul Odette のボーカルはMOR路線のシンガーにありがちなまろやかさが特徴なので、繊細な表現が得意とか情緒的に盛り上がるというタイプではありません。 これも実は三拍子という「Someone Will Love You Sometime」なんかを聴いていると、そもそもはカントリーの人なのかなと感じてしまいます。 「Thunder Dead Ahead」みたいなアップな曲を聴いていると、Paul Odette がそもそもカントリー系のミュージシャンだということが分かってきます。 ギターの弾き語りの「Midwinter’s Dream」は、リコーダーのソロが流れる中間部の流れが良く出来ています。 この曲だけをとってみれば、Michael Johnson 風に聴こえなくもありません。

 レコードを裏返します。 「Anywhere You Go」は彼にしてはアップなナンバー。 薄くかぶさるシンセのさりげなさにセンスを感じます。 続く「Song Of The Algonkian」は、物語調の曲。 ネットで調べて知ったのですが、オンタリオなど五大湖周辺はアルゴンキアン族という北米先住民が住んでいた地域のようです。 その「アルゴンキアン族の歌」ということで、かなり厳粛な内容に違いありません。 「Nothing You Could Say」は、アコギの弾き語りですが、Paul Odette の曲のなかでは、僕はこうした素朴な曲調が好きです。 「The Band Just Gets Louder Each Night」もしっとりとしたワルツで、どことなくトラッドの香りすら漂います。 ラストの「It’s Not In The Wind」も得意のワルツ。 これで 4 曲目でしょうか。 Paul Odette の十八番ともいえる曲調に慣れてくると、妙に体にフィットしてきます。 このラストの 3 曲はそうした不思議な引き込まれ感覚をかもし出しています。 卓越したセンスや、秀逸なメロディーがあるわけでもないのに、妙に納得してしまう。 そんなアルバムと言えるでしょう。

 しかし、この Paul Odette に関しては、ほとんどネットにひっかかりません。 自主制作盤というほどのマイナー感もないのに、ここまで存在が希薄なアルバムも珍しいですね。 実はこのアルバムは、先日、渋谷のディスクユニオンで 1,000 円くらいで買ったのですが、見かけたとしたらそのくらいの値段なのでしょう。 もう少し、自分の下に置いておきたいと思わせる、当たりでもないがハズレでもないアルバムです。

 

■Paul Odette / Paul Odette■

Side-1
All Hands On Board
Rosalin
Maritime Bold
Someone Will Love You Sometime
Thunder Dead Ahead
Midwinter’s Dream

Side-2
Anywhere You Go
Song Of The Algonkian
Nothing You Could Say
The Band Just Gets Louder Each Night
It’s Not In The Wind

Produced by David Stone and Paul Odette
All Songs written by Paul Odette

Paul Odette : vocals , 6&12 string guitar
David Stone : keyboards
Patrick Gene Chappelle : bass
Carson Morgan : drums and percussion
Nigel Russel : guitar and banjo
Nancy Secksteder : recorder

Parklane Records PR002