Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

Gerry Ouellette

2009-08-22 | SSW
■Gerry Ouellette / Seasons Change■

  正体不明の Gerry Ouellette が 1978 年に発表した MOR アルバムを取り上げていました。 このアルバムの特徴は、無個性と言っても過言ではないほどの得体知れずのところにあります。 Gerry Ouellette の出身やレーベルの活動拠点が不明なのは仕方ないのですが、サウンドからそれを類推することが難しいのです。 ところが、そういったクレジットが無いにも関わらず、アルバムが制作された環境については詳細が記載されているのも不思議な点です。
  その記載を見てさらに途方に暮れてしまうのですが、レコーディングはウィスコンシンで、マスタリングはアリゾナ州フェニックス、ジャケットの撮影はミネソタで行われていました。 品番すら無い自主制作アルバムのために、「アメリカ横断ウルトラクイズ」みたいなことをしているのには驚かざるを得ません。 Gerry Ouellette が余程の金持ちだったのかスポンサーがいたのかはわかりませんが、このアルバムの持つ不思議な浮遊感は、そのような所在の危うさが影を落としているように思えるのです。

  このアルバムの特徴は徹底したマイルドさにあるのですが、この手のサウンドがよく見られるクリスチャン・ミュージックではありません。 また、カントリー・テイストがほとんど感じない点も特徴的です。 声域が広く、安らぎを感じさせる Gerry Ouellette のボーカルと曲調がまさにピッタリで、MOR 王道路線にしては、最後まで苦にならずに聴き通すことができるのです。

  オープニングの「Seasons Change」はイントロで響くソフトロック調のチェンバロとメロウな主旋律が交錯する点が深く印象に残るバラード。 シンプルで素朴な「Saturday Morning」につづく「What I’d Like To Do For You」も A 面では際立つスウィートなミディアム。 「Ragmuffin Blues」、「I Do, Do You?」と 60 年代前半のオールディーズ風の曲が並び違和感を覚えそうになりますが、ムーディーな「Do You Still Miss Me?」で A 面はしっかりと締められます。

  B 面は女性ボーカルとのユニゾン「The One I Love」で爽快にスタート。 この曲はフルートも絡むクールな楽曲ですが、リズムセクションにもう少しグルーヴ感が欲しいところです。 陽気なアップ「Oh Annie」を挟んで、アルバムを代表するバラード「Sometimes」へ。 さざ波のようなストリングスを背景にしたギターのアルペジオが夕暮れの景色を想起させる癒し系の楽曲です。 余韻を味わうこともできずに、アコーディオンの音色からアップの「Rainy Day」が始まり、オルガンがフィーチャーされたビターな「Sweet Chariot」へと続きます。 ラストの「I Remember」は予定調和が重視されている構成どおりのミディアム。 Gerry Ouellette の王道路線とも言える堂々とした佇まいです。 彼のボーカルは中低域が安定しており、伸びもあることから、こうした安定感あふれる MOR サウンドにはもってこいだということなのでしょう。

  こうしたアルバムを聴きながら思うのは、Gerry Ouellett は何を目指していたのか、ということです。 ライブハウスで地道に評判を勝ち得ていくというタイプのサウンドではないし、かといって一発ヒットするようなシングル曲を書いているわけではありません。 そもそも、そんな余計な詮索を必要とされる重要アルバムでもないので、考えないほうが得策ということなのでしょう。

■Gerry Ouellette / Seasons Change■

Side 1
Seasons Change
Saturday Morning
What I’d Like To Do For You
Ragmuffin Blues
I Do, Do You?
Do You Still Miss Me?

Side 2
The One I Love
Oh Annie
Sometimes
Rainy Day
Sweet Chariot
I Remember

Recorded at CMS recordings, Superior, Wisconsin
Mastered at Wakefield, Inc, Phoenix, Arizona
All Songs except ‘Sweet Chariot’ by Gerry Ouellette

Guitar : Gerry Ouellette
Keyboards : Steve Kuether
Bass : Kyle Infarzato
Drums : Frank Rauzi
Harmonica : Kim Olson
Trumpet : Mike Gallaway
Flute : Paul Peterson
Clarinet : Ron Wilmat
Accordion : Steve Kuether
Electric guitar : Jack Casper
Lead Vocals : Gerry Ouellette, Debbie Nesgoda
Back up vocals : Debbie Nesgoda, Laurie Trach, Steve Kuether, Frank Rauzi
Production : Gerry Ouellette, Steve Kuether

Morning Glory


Shake Russell with Dana Cooper

2009-08-16 | SSW
■Shake Russell with Dana Cooper / Songs On The Radio■

  今年の夏は天候不順のうえに、大きな地震もあったりしておかしな夏です。 僕も疲労の蓄積から肩の激痛に襲われ、それが回復したら口内炎がひりひり、という感じでどうも調子が出ません。 
  そんな折、WOWOW で録画した「波の数だけ抱きしめて」を久しぶりに見て、一気に気分がタイムスリップしてしまいました。 この映画は同時代の気分を感じることができる人にとっては、特別な映画に違いありません。 僕もその一人なのですが、我慢できずに二夜連続で見てしまいました。 湘南のミニ FM を舞台にした映画なのですが、自分も吉祥寺で一時ミニ FM の DJ のマネッコをやったことがあるので、感情移入度は誰よりも高いかもしれません。

  その映画とは全く関係ありませんが、DJ つながりということで「Songs On The Radio」というタイトルの素敵なアルバムを取り出してみました。 テキサス州ヒューストンのマイナー・レーベルから 1978 年に発売された Shake Russell with Dana Cooper のアルバムです。 2 人ともテキサスで活動を続けている現役ミュージシャンですが、Shake Russell にとってはこのアルバムがファースト・レコーディングのようです。 一方の Dana Cooper はこれ以前にエレクトラから既にソロ作品をリリースしています。

  アルバムの内容は、ほぼ一発録音という感じの荒削りなものなのですが、アコースティック・ギターの響きやエモーショナルなボーカルからは臨場感がしっかりと伝わってきて、それがこのアルバムの最大の特徴であり魅力となっています。 ビールでも飲みながら夏の夕暮れの浜辺で聴いたりすると最高なのでしょう。 
  どの曲も捨てがたい出来なのですが、特にお勧めなのが、「You’ve Got A Lover」以降の A 面の流れです。 ここから「Songs On The Radio」までは、KLOLラジオ用にライブ録音されたもので、拍手がないことからスタジオライブという類のものなのでしょう。 ですから、曲間には会話や曲紹介などが挿入されており、1978 年の時代の空気をしっかりと包み込んでいるのです。 バンジョーがテケテケ鳴る陽気な「You Wouldn’t Know Me」が終わると、雰囲気が微妙に変化し、スタジオライブが始まります。 「You’ve Got A Lover」は、しっとりしたミディアムなバラードなのですが、ハーモニーの付け方が素晴らしく、このアルバムの聴き所のひとつとなっています。 つづく「When Are You Comin’ Home?」はスワンピーなナンバー。 ごつごつしたギターの音色とハーモニカで体温が上がる気分です。 そして、「Song On The Radio」となりますが、ここでも Shake Russell と Dana Cooper の駆け合いが素晴らしく、ギターのカッティングとともに圧倒的なライブ感で迫ってきます。 2 人が歌う♪Sing sweet and low , songs on the radio ♪というリフレインが素晴らしく、思わず口ずさんでしまいたくなりました。 逆に拍手が無いのが残念なくらいです。
  
  Shake Russell と Dana Cooper は、ともに立派なホームページを開設しており、このアルバムも CD としてリイシューされていたことを知りました。 また、ライブ盤ですが、この 2 人がリユニオン的に共演したアルバムも存在していました。 そのアルバムでは、本作より「You’ve Got A Lover」と B 面で唯一のミディアム「Deep In The West」の 2 曲が再演されていましたが、残念ながら「Songs On The Radio」は含まれていませんでした。 

  ネットや携帯が登場するまでは、ラジオは貴重な情報源でした。 ラジオのことを題材にした曲も昔は沢山あったのですが、今はあまり聴かないように思います。 ラジオが魅力的で影響力を持っていた時代はすでに終わっているのでしょう。 それは寂しい話ですし、時折、そんな時代に戻りたくなるのです。

■Shake Russell with Dana Cooper / Songs On The Radio■

Side 1
You Wouldn’t Know Me
You’ve Got A Lover
When Are You Comin’ Home?
Song On The Radio

Side 2
Deep In The West
Hard To Find A Smile
Troubles
Pretty As A Picture

All songs written by Shake Russell
Except ‘Song On The Radio’ by Dana Cooper ,’When Are You Comin’ Home?’ by Shake Russell and Dana Cooper, ‘Pretty As A Picture’ by Michael Mashkes and Shake Russell

Shake Russell : vocals, guitar, bass
Dana Cooper : vocals, guitar, harmonica
John Vandiver : vocals, guitar, dobro, banjo
Michael Mashkes : guitars, bass, ukulele, vocal
Jim Alderman : vocals, piano
Peter Gorish : vocals, guitar, drums
Buddy Duncan : tenor sax, flute
Billy Bucher : drums
Riley Osbourn : piano
Roger Smith : piano

Cherry Records CA4793




Dean Stevens

2009-08-01 | Folk
■Dean Stevens / Love Comes To The Simple Heart■

  マサチューセッツ出身のフォークシンガー Dean Stevens が 1985 年に発表したセカンド・アルバムを取り出してみました。 Dean Stevens は現在まで 5 枚のアルバムを発表している現役ミュージシャン。 1981 年のファーストアルバムだけが未 CD 化作品で、このセカンド以降の作品はすべて CD 化されているようです。

  Dean Stevens の容貌は髭もじゃで、もしかするとユダヤ系なのかもしれませんが、このアルバムは、Songs In English and Spanish という副題が付けられているとおり、スペイン語で歌われている曲が 3 曲含まれています。 ただ、全編にわたって Dean Stevens のギター 1 本による弾き語りなので、歌われている言語はあまり気になりません。 ましてや、スペイン語の曲が急にラテン調になっているということもありません。 むしろ、スペイン語の楽曲の方が巻き舌に発音が個性的に響き、アクセントとなっています。とくに、「El Pregon De Las Flores」が素晴らしい出来です。

  さて、このアルバムの個人的なハイライトは 2 曲あります。 その一つ目は、A 面ラストの「Passing Through」。 この曲は以前、ブログで取り上げた John Gailmor のアルバムタイトルにもなっている名曲です。 Dick Blakeslee の手によるこの曲は、Pete Seeger のバージョンが最も有名のようです。 僕は Pete Seeger のバージョンは聴いていないのですが、Dean Stevens の公式サイトに Pete による推薦コメントが載っていることから、Dean Stevens のミュージック・スタイルが Pete Seeger に強く影響を受けたということが窺えます。
  もう 1 曲は、「San Diego Serenade」です。 タイトルでお分かりのように、これは Tom Waits のセカンドに収録されている名曲中の名曲。 この曲を Dean Stevens は原曲をかなり崩しながらも要所を締めるようなラフな語り口でまとめあげています。 ノスタルジックな味わいは薄れますが、Dean Stevens の個性が発揮されていると言えるでしょう。

  この 2 曲以外では、タイトル曲の「Love Comes To The Simple Heart」が美しいバラードとして秀逸な仕上がりです。 この曲は冒頭の「The Dollmaker’s Secret」と並んで Chuck Hall という人物の曲です。 Chuck Hall はアリゾナに同名のギタリストがいますが、同一人物ではないようです。 どのような経歴だったのかはわからずじまいでした。

  いくつかの曲を取り上げて紹介しましたが、このアルバムは真夏ではなく、秋の夜長に静かに聴きたくなるようなアコースティックな弾き語り作品となっています。 最近すっかり聴いていませんが、ふと Noah Zacharin の Green Album を思い出しました。 どことなく佇まいが似ているのは、緯度が高いせいかもしれません。

■Dean Stevens / Love Comes To The Simple Heart■

Side 1
The Dollmaker’s Secret
Dark Eyed Molly
Just Like The Dawn
God Bless The Grass
Gracia A La Vida
Passing Through

Side 2
El Pregon De Las Flores
San Diego Serenade
Love Comes To The Simple Heart
Field Of Grass
Mi Tripon

Produced by Dean Stevens

Dean Stevens : guitar and voice
Recorded at Audio Matrix, Cambridge,MA

Volcano Records 2002