Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

Michael Behnan

2008-06-29 | SSW
■Michael Behnan / Night Shift Life■

  ジャケットを自ら描くSSWといえば、Joni Mitchell をすぐに連想しますが、この Michael Behnan も彼自身によるものです。 独特のタッチのジャケットと裏腹に陽気なメンバーが写る裏ジャケットのアンバランスさが気になるアルバムは、1979 年の作品。 2 枚のレコードを発表して早世した Michael Behnan のファーストアルバムです。 彼はもともと音楽よりは絵描きとしての活動がメインだったようですが、わずかに残されたレコードには彼の才能の片鱗が封印されています。

  アルバムはブルースやロック、カントリー系など多様な楽曲が収録されているのですが、A 面ラストの「Stuck Inside This Bottle」の素晴らしさが秀でています。 1 曲だけでそのアルバムの評価が上がってしまうことが稀にありますが、まさにそんなケースと言えます。 ミディアムなバラードなのですが、たとえば Ernie Graham のソロアルバムの持つ「いなたさ」に非常に近い雰囲気を持っているのです。 さりげなくメロトロンがクレジットされているのも興味深いところ。 まさに知られざる名曲といえるでしょう。
  次点候補では、リラックスしたムードの「Georgia On A Horn」、トラッド感あふれるワルツ「Night Shift Life」、Marianne Girard とのデュエット曲「Where Did My Street Go?」が上げられます。 いずれにしてもスローテンポの曲に Michael Behnan の持ち味が出やすいと言えるでしょう。 
  他の曲はシンプルで飾りの無いブルース「Gracie」、「Mouse’s Blues」、骨太のロック「Taxi Song」、「Hero From The War」、そして軽快なロック「Right Where It Hurts」といった曲が並び、シンガーソングライター的な味わいを薄めています。 さらには、カナダ産のレコードに期待しがちなクリーンな空気感も備わっていないために、アルバム全体の評価としては平凡な採点が下っても仕方ないかもしれません。
  しかし、僕にとっては「Stuck Inside This Bottle」です。 このレコードを聴くことは、即ちこの曲を聴くことを意味するのです。

  さて、Michael Behnan ですが、このアルバムの後に自身のレーベル Mad Dog Records からセカンド「Sweet Cosima」をリリースするも、1982 年に 35 歳の若さで癌のために亡くなっています。 同じ画家で人生のパートナーだった Lynda Lapeer も 2007 年に他界していました。 僕はそのことを、2 人の子息によるメモリアル・サイトで知ったのですが、このサイトのトップページのデザインは素晴らしいですね。 無表情に絵を描く Lynda Lapeer と人なつこそうに電話をする Michael Behnan の対比が 1 枚の写真に収められており、時間を忘れて見入ってしまいました。 
  まだ入手していない「Sweet Cosima」のジャケットはどうやら Lynda Lapeer の作品のようです。 サイトを検索しているうちに、そうした事実が急に紐解かれ始めました。  早く聴いてみたいという思いは高まる一方ですが、その作品をレコーディングしている頃は、Michael Behnan がすでに癌に冒されていたのかもしれないと思うと複雑な気持ちになります。



■Michael Behnan / Night Shift Life■

Side-1
Gracie
Georgia On A Horn
Right Where It Hurts
Mouse’s Blues
Stuck Inside This Bottle

Side-2
Night Shift Life
Taxi Song
Busted Guitar , Broken Heart
Hero From The War
Where Did My Street Go?

Produced by Doug Bowes
Recorded at Inception Sound Studios, Downsview, Ontario
All Songs by Michael Behnan except ‘Georgia On A Horn’ by John Jackson
Front Cover Lino Print by Michael Behnan

George Betrok : organ, piano, Fender Rhodes, mellotron, background vocals
Don Bowes : clarinet,
Doug Bowes: acoustic and electric guitars, Fender Rhodes, background vocals
Shelley Coopersmith : fiddle
Tony Desmarteaux : background vocals
Marianne Girard : background vocals
Jack Grunsky : background vocals
Marie-Lynn Hammond : background vocals
J.P. Hovercraft : bass, background vocals
Al Kates: pedal steel
Marilyn Lerner : background vocals
Jim Leslie : background vocals
Alan Soberman : background vocals
Buz Thompson : harmonica

Mad Dog Records MDR-1001

Don Dunaway

2008-06-21 | SSW
■Don Dunaway / The Milltop Tee-Shirt Album■

  今日は夏至。 どんよりした曇天から日差しが射したときの蒸し暑さで、今年も夏が来たことを実感しました。 自宅にいるときは T シャツと短パンです。 強引な書き出しから結び付けて、今日取り出したアルバムは「The Milltop Tee-Shirt Album」という変わったタイトルのレコード。 フロリダから届けられた自主制作盤です。 

  Don Dunaway は Don Oja-Dunaway 名義で今も活動を続けるフォーク・ミュージシャン。 彼の公式ページが Myspace 上に公開されていますが、今もなおフロリダを拠点としている様子です。 このアルバムには、通常の LP 盤のほかに 2 曲入りのEP盤が入っており、その 2 枚でひとつの作品を構成しています。 全く予備知識が無いままに、レコードに針を落とすと、ホーンセクションが活躍する陽気で軽快なアメリカン・ロック「Eleven To One」が流れてきたので、嗜好性が違いすぎると思い、しばらく寝かしてしまいました。 しかし、そのような曲はこの曲だけで、他の曲は弾き語り中心のアーシーなフォークサウンドが堪能できるアルバムだったのです。

  個々の楽曲のなかには、冗長で飽きが来るものもあり、完成度が際立って高いという評価はできませんが、渋めの引き語りには味わい深いものがあります。 A面では、「Micah」や「Enoch Ludford」が該当します。 とくに後者はギターのイントロから名曲の予感漂う曲でアルバムの中ではメロディアスな作風です。 B面では、「Mother, Audrey, And Jesus」と「Keaton Miller’s Farewell」でしょう。 後者は Blue River の頃の Eric Andersen を髣髴とさせるバラードです。 ブルース色の強い「Dance With Me, Julie Anne」、ソプラノ・サックスが新鮮な「Sumter County」、淡々とした「I Got It」なども悪くはないのですが、曲が単調な上に繰り返しが多く、間延びしたように感じてしまうのが難点です。

  EP盤に入ると完全に Don Dunaway だけによるサウンドとなっているせいか、プライベート感がさらに深まります。 「Kennesaw Line」、「Thomas Martin」ともにフロリダ産とは思えないような肌触りを感じます。 清涼感は無いのですが、熟成した琥珀色とでも表現したくなるサウンドです。 こうして全曲を聴いてみると、ドラムスの入った曲は冒頭にも書いた「Eleven To One」だけなので、稀に存在する猫だましのようなアルバムです。 裏ジャケットには 6 人ものサポートメンバーが写っていることもあって、このような内容だとは想像しがたいアルバムです。

  1957 年にギターを始めたという彼がこのアルバムを発表した正確な年度はわかりませんが、おそらく 1970 年代後半ではないかと思います。このレコードには年度表記はともかく、レーベル名や品番すら存在しないのです。 セピア色のジャケットに包まれた自主制作ムード満点のアルバム。 プレス枚数が少なかったせいでしょうか。 彼を紹介するサイトのディスコグラフィーにもこのアルバムは掲載されていません。



EP盤


  
■Don Dunaway / The Milltop Tee-Shirt Album■

Side-1
Eleven To One
Ruby And The Champion
Dance With Me, Julie Anne
Micah
Enoch Ludford

Side-2
Mother, Audrey, And Jesus
I Got It
Sumter County
Keaton Miller’s Farewell

EP
Kennesaw Line
Thomas Martin

Produced by Phil Driscoll
Recorded and Mixed at driscoll studio sound , Jacksonville beach , florida

Guitars and vocals : Dan Dunaway, Charlie Robertson
Electric guitars : Jimmy Nee, Mike Hart
Bass : Kenny Brown, John Clark
Drums : Phillip Robinson
Horn and String arrangement : Phil Driscoll
Harmonies : Richard Bailey

Soprano sax : Dick Kraft
Percussion : John Clark
Omni : the Phantom
Flute : Dick Kraft

No Label

Burton & Cunico

2008-06-18 | SSW
■Burton & Cunico / Strive, Seek, Find■

  前回、Sandalwood を取り上げたときに Burton & Cunico を引き合いに出した関係から、流れで取り上げてみました。 レーベルは何かと思い入れのある Family Production です。 このレーベルは映画会社の Paramount の傘下のレーベルだったのですが、1973 年頃に経営に行き詰まり、Paramount 本体に吸収されてしまったようです。 このレーベルには、FPS 品番と PAS 品番のレコードがあるのですが、それについては後述しましょう。

  さて、この Burton & Cunico は、Ray Burton と Gino Cunico が 1971 年にリリースしたデュオ名義としては唯一のアルバム。 多くのブログで紹介されていますので、曲順にさらっとコメントしてみます。 オープニングの「Gypsy Lady」は二人のハモりが爽快なアップナンバー。 彼らの魅力が1曲目から凝縮されています。 気品あるミディアム・バラード「How In Love Am I ?」、中期ビートルズ的な「Astral Plane Ride」と「You’re Gonna Know」はサイケでドリーミーなテイストがたまりません。 タイトル曲の「Strive, Seek, Find」は平凡なロックですが、この曲の後半のインスト部分は B 面 1 曲目にリプライズのような形で引き継がれます。 これはちょっとしたアイディアですね。 
  B 面はその「Strive, Seek, Find」につづいて、アルバムを代表する美しいバラード「Grandfathers」です。 つづく「Run For Your Life」はいまひとつのアップナンバーなのですが、「(I Live In A) World Of Fantasy」は見事なバラード。 Sneeky Pete のペダルが空に舞い上がるかのようです。 B 面は交互に良し悪しという感じで「Fantasy Park」は凡庸なロック。 彼らの個性は埋没してしまっています。 ラストの「Dream For A Love」は希望を感じさせるミディアムな佳作です。

 こうしてアルバムを通して聴くと個々の楽曲のクオリティを再確認しました。 クレジットでは Ray Burton による曲のほうが多いようですが、彼は Helen Reddy のヒット曲「I Am Woman」などソングライターとしても活躍しています。 公式ページもありましたので、興味のある方は覗いてみてください。 もう一人の Gino Cunico はその後に 2 枚のソロをリリースし、とくに Arista からリリースされた 1976 年の同名アルバムはプリ AOR ファンから絶大な支持を得ています。

  では、最後に Family Production の品番について触れておきましょう。 FPS品番は 2700 からスタートするのですが、その FPS2700 は Billy Joel のファーストアルバムです。 後に Billy が Columbia から再デビューした際に、原盤ごと Columbia に買い取られて再発されたというエピソードがあります。  2702 はユニークなジャケットで有名な Mama Lion 、2703 はこれまたファンの多いSpooner Oldham 、2705 は Peter Anders といった具合です。 2708 はすでに紹介した Sleepy Hollow がいますが、この FPS 品番は 2713 までしか確認できていません。
  一方の PAS 品番は、Paramount 本体にも使用されており、6000 番台には、Karen Dalton(6008)、John Herald(6043)、Milkwood(6046) といった名盤が名を連ねています。 今日紹介した Burton & Cunico は PAS 6013 ということで初期の作品となりますが、このアルバムが FPS 品番で発売されなかった理由まではわかりませんでした。



■Burton & Cunico / Strive, Seek, Find■

Side-1
Gypsy Lady
How In Love Am I ?
Astral Plane Ride
You’re Gonna Know
Strive, Seek, Find

Side-2
Strive, Seek, Find
Grandfathers
Run For Your Life
(I Live In A) World Of Fantasy
Fantasy Park
Dream For A Love

Produced and directed by Artie Ripp
Co-production and Sound by Bob Hughes
Recorded at record Plant West

Vocals and acoustic guitars on all tracks : Ray Burton & Gino Cunico
Drums on all tracks : Rhys Clark

bass, electric guitar: Don Evans
steel Guitar : Sneeky Pete
organ, electric guitar : Ray Burton
piano : Steve Feldman , Bob Hughes
celeste : Bob Hughes
Congas : Steve Feldman

Family Production PAS 6013

Sandalwood

2008-06-10 | Soft Rock
■Sandalwood / Sandalwood■

  今日は、名門 Bell からリリースされているにも関わらず、あまり取り上げられたことのない Sandalwood のアルバムをピックアップしました。 僕としては、このアルバムを Burton & Cunico のアルバムと比較したくなります。 ともに 1970 年代前半の男性デュオでハーモニーを活かしたサウンド作りをしているだけでなく、ジャケットの雰囲気がどことなく似ているからです。 山あいの峡谷の岩に腰をかける Sandalwood に対して、海を望む丘で背を向けるのが Burton & Cunico ということで、この 2 枚のアルバムを勝手に兄弟アルバムと位置付けており、レコードラックでも近いところに置くようにしています。 とはいえ、微妙にサウンドに違いがあるのも当然で、シンガーソングライター色が強いのが Burton & Cunico なのに対し、ソフトロック色が強く甘めなのがこの Sandalwood です。
  
  その Sandlwood は、Byron Walls と Brian Tabach によるデュオ。 残したアルバムはこの 1 枚だけで、おそらくレコードのためだけに結成されたパーマネントなグループです。 2 人のなかで主導権を握ったのが、Byron Walls で彼はこのアルバム以外にもさまざまな音楽活動が記録されています。 一方の Brian Tabach に関しては、このアルバム以外の情報はありません。 参加ミュージシャンや歌詞などのクレジットはどこにも無く、このアルバムを深く知るためのヒントはほとんど見つからないのが現状です。

  Sandalwood のサウンドの特徴はフルートやストリングスを活かしたアレンジと穏やかなメロディーです。 そのほとんどは Byron Walls のペンによるもの。 特に甘い曲をピックしてみましょう。 アルバムのオープニングを飾る「A Very Fine Lady」はメロウでソフトな仕上がり。 まるで柔軟剤を入れて洗濯したタオルのような肌触りは、エレピ・フルート・ストリングスといった優しい音色に包まれています。 つづく「The World Is Mine」も甘い調べ。 2 人のユニゾンしたハーモニーが微妙に震えるので、余計に染み込んできます。 シングルカットされた「Lovin’ Naturally」はハープシコードと口笛が効果的に使われたメロウな楽曲。 ビルボードチャートに 12 週間ランクインしたとのことですが、最高位は何位だったのでしょうか。 ラストの「Consider It Done」は、次のアルバムを期待させるような明るく前向きな楽曲です。  Byron Walls の曲は、このようにミディアムで安定したものが多いのですが、2 曲ほどジャズの影響の強い異色のものがあります。 ジャジーなフォービート「The World Is A Tuxedo」はまだ許容できるのですが、5 拍子の「Off My Mind」はかなり違和感が残ります。 この曲は Paul Desmond の名曲「テイク・ファイヴ」からの影響をまともに受けているのが誰にでもわかります。 5 拍子ということで似てしまうのは仕方ないですが、わずか2分のこの曲をインタリュード的に挿入しなければならない必然性は見えてきません。 
   相棒の Brian Tabach は 2 曲しか書いていませんが、悪い出来ではありません。 「Certain People At Certain Times」 は大らかで陽気な曲調で、新緑のなかを散歩しているかのような気分です。 「Put Me On You」もミディアムでフレンドリーなサウンドとなっており、単なる脇役ではない存在感を示しています。
  しかし、Sandalwood の活動は短期間で終了。 Byron Walls は The Limelighters の再結成コンサートに参加した後に 1970 年代後半には Warner Brothers のスタッフ・ライターを務めたりしています。  その後、十数年をどのように生活していたのかは分かりませんが、彼は今もなお現役のようで、ロス・アンジェルスを中心に小さなホールでライブ活動を行っているようです。  2000 年にリリースしたアルバムはジャズボーカルのアルバムでした。  彼はもともとジャズ指向が強かったのでしょう。  そのルーツは Sandalwood にもわずか 2 曲ですが、残されていたことになりますね。



■Sandalwood / Sandalwood■

Side-1
A Very Fine Lady
The World Is Mine
Having Each Other Around
Congratulations You Lose
Put Me On You
Lovin’ Naturally

Side-2
Mary Lee
Off My Mind
Certain People At Certain Times
The World Is A Tuxedo
Consider It Done

Produced by Snuff Garrett
Arranged by Al Capps

Bell Records 1134

Pat Buckna

2008-06-08 | SSW
■Pat Buckna / Roll Me A Dream…■

  音楽の世界を離れ、ビジネスの分野で成功するミュージシャンは数多くいますが、今日ご紹介する Pat Buckna もその一人。 カナダ出身の彼は 1982 年にこのファーストアルバムを発表し、その後数枚のアルバムをリリースしたのですが、1990 年に Mayhill Consulting という会社をバンクーバーに設立し、現在はもっぱらコンサルティング業を営んでいるようです。 会社の公式ページをみましたが、それなりの実績を上げているようでした。 
  Pat Buckna はもともと脱サラのミュージシャン。 このアルバムを制作する 8 年前の 1975 年に勤めていた化学肥料プラントでの仕事を辞め、家も売り払って家族と共にアルバータ州に移り住んでいます。 そこで出会った多くの友人やミュージシャンと作り上げたのがこのアルバム。 そこには人生をいったんリセットし、自らの夢を追った男のロマンのようなものが感じられるのです。

   Pat Buckna のサウンドをひと言で言うならば、枯れた男の哀愁という感じです。 その味わいは Richard Thompson のソロアルバムに通じるものがありますが、それは声質だけでなく楽器の編成や曲調からも感じ取れます。 とくに「That Long Distance Feeling」、「Shakin’ The Hand (Of The Energy Man)」や「Liberty (Slippin’ Away)」などのバンド色の強い曲は、アメリカというよりはイギリスのトラッド系フォークロックの匂いがします。  いっぽう、「Pale Lights」や「The Dancing Lesson」といった弾き語り系の曲は渋みがさらに増しており、アルバムの聴き所となっています。 
   アルバムタイトル曲の「Roll Me A Dream (Old Cowboy Song)」はタイトル曲にして唯一の他人の楽曲。 Paul Hepher というカルガリ出身の SSW による曲ですが、彼がレコードをリリースしているかどうかは不明です。  その他の曲はすべて Pat Buckna 自身によるものなのですが、アルバム全体を聴き通してみると、全体のなかのアクセントになる曲が欠けているように思います。  シングルカットできそうなキャッチーさが無いうえに、地味で重々しい曲調「Bugaboos」がオープニングとなっているせいもあって、なかなか積極的に評価されにくい内容となっているかもしれません。 しかし、このアルバムは何度も聴くにしたがって、より味わいが深まっていくタイプなのでしょう。 カナディアン・ロッキーの大自然に育まれた懐深いアルバムと言えるかもしれません。

  さて、冒頭にも触れたように、Pat Buckna は音楽活動から身を引き、バンクーバーで起業することになるのですが、その二度目の転機を決断した理由は定かではありません。 もちろん、音楽では成功しなかったということが背景にあるとは思いますが、このアルバムからは、Pat Buckna が数年後に起業してビジネス界で成功するという奇異な運命をたどっていく前兆は全く感じられません。



■Pat Buckna / Roll Me A Dream…■

Side-1
Bugaboos
That Long Distance Feeling
Back Home In Alberta
Pale Lights
B.C. Jaded

Side-2
Shakin’ The Hand (Of The Energy Man)
Along For The Ride
The Dancing Lesson
Roll Me A Dream (Old Cowboy Song)
Liberty (Slippin’ Away)

All Selections by Pat Buckna except ‘Roll Me A Dream’ by Paul Hephier

Pat Buckna : vocals , acoustic guitar
John Alexander : bass
Gary Bird : telecaster , harmony vocals
Ron Casat : keyboards
Sue Clayton : harmony vocals
Richard Harrow : harmony vocals
Ken Hamm : national slide guitar , washburn acoustic guitar
Jack Hiles : drums
Dave Liske : harmonica, banjo
Zeke Mazurek : violin
Gene Seymour : congas
Dwight Thompson : bass
Nathan Tinkham : telecaster , harmony vocals , acoustic & lead guitar

Jamadam Records DWM-3332

Sour Mash

2008-06-03 | US Rock
■Sour Mash / Sour Mash■

  20 代の頃はバーボンにはまっていました。 スコッチのような中年臭さがなく、アメリカンな宣伝もあって、Early Times や Jim Beam などをよく飲んだものです。 いろいろな銘柄を飲んでいるうちに、Four Roses と Ezra Brooks の味が確実に違うことが分かってきて、当時 2,000円くらいした「世界の銘酒辞典」を購入し、産地にまでこだわったりしたものです。 そんなバーボンのラベルに必ずといっていいほど書かれている言葉が Sour Mash です。 これはサワーマッシュ製法というバーボンの製造方法を示したもので、複雑な風味と香りを増すといわれているものです。
 
 今日は、そんな Sour Mash を名前にしたネブラスカ出身のローカルバンドを取り上げてみました。 ジャケットからはバーボンを意識したものは感じられませんが、アルバムの個々の楽曲はまさに至福の味わいと贅沢な時間を感じさせる内容です。 このようなアルバムにめぐり合うとアメリカのローカルバンドのクオリティの高さを痛感します。 個々のメンバーの腕はもちろん、全曲カバーとなっている楽曲を上手に調理するアレンジとセンスには驚かざるを得ません。 
 このバンドをひと言でいうなれば、Gram Parsons フォロワーのカントリー・ロックです。 1978 年の作品なので、70 年代前半に比べてかなり洗練されているため、2008 年のアルバムといっても通じてしまうでしょう。 もちろん、そこにはジャンルの特性があるわけですが。
 Sour Mash の特徴のひとつにリードボーカルの Reynold Peterson と女性の Pan Harris のツインボーカルが上げられます。 Gram Parsons と Emmylou Harris の関係と一致するのですが、そのうえに名盤「Grievous Angel」にも収録されている「Love Hurts」を収録しているのです。 Gram Parsons ファンはこれだけで触手が伸びることでしょう。 Sour Mash のもうひとつの特徴にパブロック的なエッセンスを感じることです。 Brinsley Schwarz ほど「いなたさ」にあふれているわけではありませんが、スタンダード「Mack The Knife」を選曲しているあたり、Nick Lowe のファンなのかもしれません。アルバムを聴きながら意外に感じてしまったのが「I Always Love You」です。 Whitney Houston で有名なラブ・バラードですが、そもそもオリジナルは Dolly Parton なんですね。 彼女はスタイルとルックスで日本では誤解されがちですが、これは Dolly Parton が作詞作曲しているれっきとしたオリジナルです。 

 このようにアルバムを代表する 3 曲をピックアップしてみましたが、これらの曲だけでも Sour Mash の魅力が伝わってくるのではないでしょうか。 残念なことに彼らのアルバムはこの 1 枚だけだったようです。 メンバーの消息で判明したのが、Reynold Peterson だけで、彼は地元ネブラスカでアルバムにゲストボーカルで参加している Jim Pipher とともに Lightning Bugs というバンドを組んでいました。 2 人とも元気そうです。

 このレコードを聴きながらバーボンを飲むのは心地よいひと時に違いありません。 そんなことを考えながら、Sour Mash の楽曲のひとつひとつにふさわしいバーボンの銘柄を当てはめてみたら面白いかも!と一瞬思いましたが、すぐに止めました。 危ないところでした。



■Sour Mash / Sour Mash■

Side-1
Come A Little Bit Closer
That’s All It Took
I’ll Be Your San Antone Rose
I Will Always Love You
Chattanoogie Shoeshine Boy

Side-2
Mack The Knife
Love Hurts
Chattanooga Choo Choo
Barnyard Boogie
Blue Jade

Produced by James A.Ludwig
Engineered by Jim Wheeler

Recorded , mixed and mastered at Sound Recorders , Omaha , Nebr.

Pam Harris : vocals
Reynold Peterson : vocals
Randy Barger : guitars , vocals
Dell Darling : drums
Dick Carlson : bass
Steve Turbot : piano
Charles Lettes : steel guitar
Jim Pipher : harmony vocals on ‘Chattanooga Choo Choo’

Candy Apple Records  SM2